飛んで火に入るインデッハの火葬式   作:つヴぁるnet

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第9話

帝国歴1179年

 

 

 

「今年も無事に終わりを迎えられますね」

 

 

「はい…」

 

 

「ユークリッド、あなたは来年生徒達が卒業するのと同時にここを出るのですね。 とても寂しくなります」

 

 

「自分も、寂しくなります。 しかしこんなよくわからない者を拾っていただき感謝してます。 この三年間本当に楽しくて…」

 

 

「いえ、あなたがここで成した三年間は本当に大きなものでした。 お陰でガルグ=マク修道院は学生にとって良き刺激を沢山残していただきました」

 

 

良き刺激。

 

全て前世から持ち込んだ道楽。

 

例えばポテトチップス。まず最初にホルストとジャンクフードの開発を行い、食堂に楽しみを加えたとこから始まる。 他にもチーズとチョコレートのフォンデュや、夏場はカキ氷、そして和の心うどんは特に大人気だった。 あと醤油は時間が掛かったが、作るための材料と道具は揃っていた上に魔法と言う便利なモノがこの世にはあり、家庭で作れる程度の環境があったから醤油も作れた。 それをガルグ=マク修道院で養殖しているそのお魚でお刺身を食べて、俺は20年ぶりの舌鼓に興奮した。 お魚好きのフレンもご満悦だった。

 

もちろん食だけではなく、ビンゴ大会や大縄跳び大会、ドッチボールにサバゲーっぽい何かなど、スポーティーな楽しみを前世の記憶から引っ張り出してガルグ=マク修道院を賑わせる。 大人も楽しめたので、手加減しないカトリーヌとシャミア姉さんが強かった。 それでも俺は子供の頃を思い出せて本当に楽しかった。

 

そして数年を過ごし、ここで学んだ。

 

 

 

「あと武闘会。 これには驚きました。 拳部門では3年連続の無敗記録を築き上げたあなたの実績はガルグ=マク修道院にて初めて。 今考えるとお世話係に収まらない強者でしたね」

 

 

「でもそれ以外はからっきしですよ? それなら弓と斧の武器を扱える様になり、騎竜も覚え始めた将来有望のツィリルくんの方が優勢で、将来性は大きいです。 俺なんて超えてしまう」

 

 

「そうですか。 でもそれはユークリッドの指導の賜物です。 他にも戦いだけでは無く、読み書きも覚えるようになり、前に初めてツィリルからお手紙を貰いました。 とても嬉しかったんですよ。 ここに来た当時よりも活動的になり、あなたの施しを一番強く受けた子として育ちました。 これからもあの子はガルグ=マク修道院を支えてくれるでしょう」

 

 

「教えれるものは教えました。 だから頼りにして下さい、彼の事を」

 

 

 

真冬に顔を出す月夜の下、暖炉の前に備え付けられたテーブルと二人分の椅子。 レアさん直々に淹れてくれたジンジャーティーを頂き、スッとした気分で窓越しに夜空を見上げる。 そしてポテチを一口齧り、食べるときに吐く息は薄っすらと白い。

 

 

 

「ユークリッド、あなたは私の恩人です。 あなたはガルグ=マク修道院を支え、可愛い生徒達の成長を助けました。 ガルグ=マク修道院は私の身体のようなモノですから、あなたの活躍はとても大きな祝福です。 ありがとうございます」

 

 

「こちらこそ、どういたしまして」

 

 

「だからあなたがまた困ったとき、彷徨ったとき、ここに来なさい。 私があなたを助けますから」

 

 

「……ありがとうございます。 その時はそうさせていただきます」

 

 

 

冷めないうちにジンジャーティーをいただき、俺とレアさんは暖炉の中の焚き木を眺める。 パチパチと焼ける音だけが部屋を包み込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日後、帝国歴1180年となりフォドラは新年を迎えた。

 

俺は残り数ヶ月も同じようにガルグ=マク修道院でお世話係を務め、士官学校の卒業生を見送り、新たなる芽がこの士官学校に集まる前に最後の仕事を果たす。 そして全てを終えると仕事仲間や街の友達、先輩などに挨拶を済ませ、旅の支度を終わらせた。

 

 

 

「また来てくださいね」

 

「ありがとうございます、レアさん」

 

「どうかあなたに女神ソティスのご加護を」

 

 

 

レアさんと別れを告げ。

 

 

 

「ま! 寂しくなんてありませんことよ? あなたとは紛れも無い友達。 だからまたきやがれですわ」

 

「ま! その口癖は俺が居なくなったら辞めることですわよ! 良いですね? …なーんてな。 またいずれ会おうな、フレン」

 

「はい! ですわ!」

 

 

 

フレンと別れを告げ。

 

 

 

「フレンにこのような口調を教えた君には大変遺憾気持ちになるが、それでも君は良く働いてくれた。 礼を言う。 何か困ったら尋ねるといい」

 

「ありがとうございますセテスさん。 あなたとの座学もお茶会も、講義も仕事も、どれもとても楽しかったです」

 

「ああ、私もだ。 どうか健やかでいてくれ」

 

 

 

セテスさんと別れを告げ。

 

 

 

「その…今まで、ありがとうございます」

 

「ツィリル、あとは頼んだぞ。 レアさんの事をこれからもツィリルが助けてやってくれ」

 

「言われなくてもそうする。 だから、任せて、先輩」

 

 

 

ツィリルと別れを告げ。

 

 

 

「シャミア姉さん、また来ますよ」

 

「私も良く遠征に出るから不意に会えるさ」

 

「じゃあ外で会えたらその時に」

 

 

 

シャミアと別れを告げ。

 

 

 

「良い年してんだからあまり脳筋すんなよ」

 

「この剣はレア様のためだ! 止めらんねぇよ!」

 

「まぁ、死ななければいいさ」

 

 

 

カトリーヌと別れを告げ。

 

 

 

「次会うまでにもう少しマシになれよ」

 

「うるせぇ!! さっさと行きやがれこのガキ!」

 

「はいはい、さよなら、さよなら」

 

 

 

マイクランと別れを告げ。

 

 

 

「またなぁ!」

「元気でねぇ!!」

「ありがとう!!」

 

 

 

沢山の人と別れを告げ。

 

 

3年近く過ごしたガルグ=マク修道院を出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、何ビクビクしてんだ?」

 

「やめなよカスパル、何やってもさっきから同じ反応だ。 変に刺激させて暴れられると困るから手出しは無用。 ふぁ〜あ、そんじゃ僕は着くまで寝るね…」

 

「おいおい、また眠るのかよ?」

 

「べ、ベルは無用なので手付かずでお願いしますぅぅ!!お願いしますですぅー!!」

 

「そ、そんなに怯えんなよ…」

 

「ひぃぃい!」

 

「何もしてないって…」

 

 

 

「騒がしいわね…」

 

「くくくっ…この程度で鬱陶しく気を巡らせてますと後々疲れますよ主人」

 

「わかってるわよ」

 

「物事、不動、心の姿勢、その心得、大事です!」

 

「ええ、そうとも。 その通りです姫様」

 

「わたし、学校入学する、皆と平頭、だからお姫様扱い、痛み入ります」

 

「そこは痛み入ります、では無いですよ」

 

「フォドラの、言葉、難しいです…」

 

 

 

「さーて、これからわたしの目にかかる貴族様はいるかしら?」

 

「ふむ、至る所から貴族が集われる。 しかし中には貴族にして置けぬ者も存在するからな」

 

「はいはい、そこはゆっくりと一年間見定めていきますよーだ」

 

「ちなみに自己紹介しておこう! 我が名は! フェルディナント!フォン!エェェーギルッ!!」

 

「聞いてないですよ。 それに隅っこの子が怯えてますよ」

 

「む、これは大変失礼した」

 

 

 

これから入学する金の卵は、後にフォドラを揺るがす存在となる事を知らない。

 

今は学生として、学びを受ける者として、皆均等な存在として、ガルグ=マク大修道院の門を叩く。

 

それぞれが目指したいモノのために…

 

 

 

「……?」

 

 

 

青年はすれ違った馬車に振り向く。

 

なにかとても、悲しい何かを感じた。

 

しかし、何故か心が温まるような気がした。

 

不意に湧き上がる感覚に落ち着かない。

 

しかしフォドラの春風がまだ寒く感じたからだろう。

 

そう自己完結すると青年は歩みを進める。

 

 

出会うべき者に会うため…

 

 

 

 

 

「ベルナデッタ…」__

 

 

__「………ユーク様…っ…」

 

 

 

 

 

馬車を覆う一枚の薄布越しに、二人はすれ違っていることも知らず、そしてまた離れてしまう…

 

 

 

フォドラの暁風は、時に残酷なのだから…

 

 

 

 

つづく






《レア様(さん)》
初対面にも関わらず、ユークリッドの何かを見抜いた大司教様の意向によりガルグ=マク大修道院のお世話係として働き場所を提供。 お陰で士官学校にはユークリッドの施し物に溢れ、多大な影響が齎さた。 その中でポテチはレア様もお気に入りになったらしい。
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