「赫包一つ持ってかれちゃったよ。あの人強かったなぁ」
奴を見ると確かに先程とは違う今まで見たことの無い、赫子が生えていた。
「赫包がひとつじゃ無かったってことかよ......」
もしかしたら他にも持っているかも知れない。現時点で二つあったのだ。もしかしたら、まだあるかもしれない。厄介な奴だ。
そう思いつつ相手の出方を見る。未だに赫子を揺らしながら雪ノ下上等の飛ばされた方を見ている。その視線がふっ、とこちらを向いた。俺達はクインケやQバレットをしっかりと掴み固く構える。
「さっきの見てたけど八幡はまだまだだねぇ。上司が殺されても、次は戦おうって宣言しても、そこまで強くなってくれなかったよねぇ。正直、期待はずれだなぁ。強くなきゃ奪われるだけなのに甘すぎるよね。今日は途中経過を見るつもりだったけどもう終わりにしよっかな?今ので強くなる訳でも無さそうだしっ」
そう言って赫子の一本が俺に向かってくる。俺はクインケで受け止めたが、少し後ろに下げられる。威力が強すぎる。すると悲鳴が聞こえる。
「うわぁぁぁ!」
俺が下げられた隙に葉山が弾き飛ばされた。地面に叩きつけられてはいたが生きてはいるようだ。必死に立ち上がろうとしている。
「なかなかやるねぇ。内臓飛び出しコースだったはずなのに。八幡もこのくらい出来ないと」
奴は笑いながら葉山に近付いていく。葉山が殺されてしまう。俺は駆け出して奴を切り付けようとするが、一本の赫子で俺は止められ、葉山は貫かれる。
「ガハァッ!」
葉山が口から血を吐いたかと思うと暫く手足を動かしていたが、動かなくなってしまった。一瞬だった。俺はまた、何も出来なかった。普段から捜査を共にしてきて、先程も共に戦った仲間が死んでしまった。俺なんかよりも才能があって、出世して期待されていたはずだ。アイツは強い。
......いや、強い奴が負けるなんて、今まででもあった。アイツの言う通り俺は甘すぎたのだ。あの人は強いから大丈夫だとそう思っていたのだ。それでも俺は狂ったように鍛えた訳でもなかった。当然捜査のスピードは上げたし練習量も筋トレの回数も増やした。それでもきっと勝手に限界を決めてきていた。必要以上に強くなろうとは思っていなかったが必要な分も強くなかった。俺は弱いのだ。
「ねぇ八幡、今のでやる気出た?」
葉山から赫子を抜きながら問うてくる。その顔は微笑んでいて不気味だ。
「なんで、返事しないの。じゃあこれで最後ね。これでやる気出さなかったら普通に殺すから」
奴から表情が消え奴は雪ノ下上等の飛ばされたビルへと飛んだ。あそこにはあの二人ががいるはずだ。あのジャンプの高さではギミックでも届かない。だが、俺が生きて戦ってるうちは守れると言ったのだ。そんなことも守れそうにない、何も起こらないとは分かりつつも俺はクインケを奴に投げつけた。
当然、クインケは弾かれる。他の局員捜査官のQバレットも意に介さず、そのまま割れた窓へと入っていく。
かと思いきや、奴は何者かの攻撃で窓から落とされる。切りつけられたようだ。雪ノ下上等がまだ動けたのだろうか?
その窓の前に立っていたのは長い綺麗な黒髪の女性だった。雪ノ下だ。
「比企谷君!これも使えるわよね?」
そう言って彼女は日本刀のようなクインケをこちらに投げてくる。そいつには見覚えがあった。それを拾うとあの頃の記憶が蘇る。それは平塚上等から貰った訓練用のクインケ、キタエだった。あの人から毎日毎日鍛えられた日々が蘇る。オブシのメンテナンス中にも使う事があったが、久しぶりだ。暫く仕舞いっぱなしだった。
そして俺は先程弾き飛ばされたオブシも手に取る。二刀流という奴だ。真戸上等にオブシの扱いを教わっている時に同時に教わっていたのだ。亜門さんからも何度か教わっている。こうして戦うのは両手をより鍛えるためだったが、ある程度は戦いで行けるはずだ。あちらも赫子が何本かある以上、こちらも手数を増やしたい。平塚上等、真戸上等、亜門さんから教わった事をここで発揮するしかない。奴は、トツカサイカはここで本気にならなければ普通に殺すと言った。本気を出しても殺す気かも知れない。どちらにせの死ぬのなら俺は足掻いてやる。そこらの虫けらなんかよりもしつこく。そして、死ぬまでならアイツを守ってやろう。もし、生きてたら小町も守れるように。そうして、俺は覚悟を固めトツカサイカの前に立った。あの窓までは行かせるつもりは無い。俺は二つのクインケを構える。
「トツカサイカ!俺は戦う、そして仇を討つ!」
つい、熱くなってしまった。これが俺の決心だ。
「おお、いい目だね。しかも二刀流かぁ。期待通りになるかな?」
そうして俺達はぶつかりあった。明らかな力量差や実力差だ、周りのQバレットの援護も大した効果は無いし、他のクインケを持った捜査官もどう援護したら良いのか分からないのか戸惑っている。ただ、その様子も俺の視界には入らなくなってくる。その代わり平塚上等と真戸上等の声が聴こえる。あの鍛えられた日々のアドバイスが聴こえてくる。それを戦いに活かして戦っている。今だけは実力差がほとんどないかも知れない。そのうち慣れてくると、トツカサイカの圧倒的な力の中にも綻びが見えてきた。クインケと赫子がぶつかる音が心地よい。でも、その音を俺が止めるのだ。
「ここだっ!」
そうして俺はオブシのギミックでトツカサイカの右肩から足まで切り落とす。
「うがァァァァ!」
右半身の大部分を失ったトツカサイカは倒れ込む。そこにトドメを指す為キタエを突き出した。これで仇が討てる......
その時、羽赫が飛んでくる。俺は弾きつつ回避する。周りの捜査官はトツカサイカが倒れた事で油断していたのか、被弾した者も多い。誰だと思って、羽赫の飛んでくる方向を見る。
「この色はっ......」
赤いルビーのような羽赫だ。アイツが戻ってきた。そして、トツカサイカに近寄ると奴を支える。
「僕は大丈夫だよ」
トツカサイカがそう言う。
強がりなのかと思ったが、トツカサイカの体の欠けた部分が赫子の様なもので置き変わって補完されていく。
「だって僕、半赫者だからね」
奴の失った箇所以外、顔なども赫子に覆われていく。全て覆われた訳では無さそうだが、覆われるのが収まるとこちらを向いた。
「八幡には僕に勝ったご褒美をあげないと」
そう言うと奴が目の前から消え、後ろから声がする。
「これで上司とお揃いだね」
瞬間、左腕の先に激痛が走る。俺の左手は平塚上等と同じように無くなっていた。
「アァァァァ!」
痛い、頭がおかしくなりそうだ。この痛みを表現する言葉も出てきそうにない。平塚上等から切られた時の話を聞いた事はあるが、その時の予想の何倍も痛かった。
「気に入ってくれた?流石に疲れたから、すぐには会えないけどまた会おうね、八幡」
そして、トツカサイカは羽赫の喰種と共に去っていった。俺の左手を抱えて。
すると、後ろから足音がする。誰かが近寄ってくるようだ。
「比企谷君!早く止血しないと!」
雪ノ下だ。すぐに包帯を巻いてくれる。
「ありがとよ」
それにしてもいつ応急処置キットを持ってきたのだろう。雪ノ下上等の所に持っていったのはクインケだったし。それで、思い出す。
「雪ノ下上等は無事なのか?」
雪ノ下は複雑そうな顔をする。
「その、分からないの。とても危険な状態だけれどまだ、生きてはいるわ。もうすぐ救急車が来るそうよ。本隊の方もそろそろ終わるそうだし」
「そうか......」
もうすぐ、この戦いも終わるらしい。
そして、気になった事を聞く。
「応急処置キットはどこから?」
「比企谷君が怪我したのを見て近くの医療係からひったくったわ」
マジかコイツ。
「すました顔で言う事じゃないだろ」
「だって心配だったのだもの」
「......そうか、ありがとな」
「ええ、どういたしまして」
なんだか俺は恥ずかしくなってしまい、下に視線を落とす。救急車の音が聴こえてくる。
「では、私は救急隊員の方に怪我人の場所を伝えて来るわ」
と、雪ノ下は離れていった。
戸塚が凄い強くなってしまいました。次で無印の部分は終わると思います。