一話
俺が誰もいないデスクで作業をしていると、CCGの研究員が尋ねてきた。
「君が、比企谷八幡二等捜査官だね?その腕を取り戻したくは無いかい?」
「は?」
俺は耳を疑った。一度切れた腕が戻るなんて、そんなの喰種で無ければ不可能だろう。悪魔と契約でもするのか?
「近々アカデミーでQs(クインクス)適性テストを行う予定なんだが、特別に君もどうかという話が出ていてね。腕を取り戻すチャンスだ。やってみないかね?」
「待て、Qsだと?そりゃなんだ?」
クインと付いている辺りクインケと関係がありそうだが、適性検査?アカデミー生に受けさせる辺り、経験がものを言う適性では無さそうだ。体質的な問題か?
「Qs、簡単に言えば体内にクインケを埋め込む事で喰種のような能力を手に入れた人間の事だよ」
「それは、喰種と何が違う?」
人造喰種を作ろうってのか?
「喰種とQs、その大きな違いは人間の肉を必要とせず、通常の食事を摂取できるという事だ」
つまり、人を襲う恐れも無いと。
「デメリットは?」
「まだ、人間には試していなくてね。君が承諾するなら君が最初のQsだよ」
なるほど俺は名誉あるモルモット候補って訳か。
「いや、辞めておこう。俺は普通の人間のままで戦う」
「そうか、残念だよ。まあ、まだ時間はある。やってみたくなったら言いにきたまえ」
そう言って名刺を渡された。そして、その人は去っていく。俺は扉が閉まる音を聞いた後、名刺をゴミ箱に投げ入れた。よし、一発成功。
その後、ある程度仕事を片付け、俺は20区へと向かった。
俺は扉を叩く。
「はい、どなたですか」
「比企谷八幡二等捜査官です」
すると、声の主は扉を開けてくれた。
「どうしたんですか?」
声の主、法寺準特等が聞いてくる。
「真戸暁二等捜査官に用があります」
「彼女なら奥にいますが、どのような件で?」
「コイツです」
俺はバックから取り出したものを見せる。
「なるほど、確かに彼女ならどうにか出来そうですね」
そして、俺は真戸暁二等のデスクへとついた。
「比企谷八幡二等捜査官だ。真戸二等捜査官、コイツの改良をお願いしたい」
そして、俺が取り出したのはオブシではなく、平塚上等の使っていた、義手の羽赫だ。平塚上等は名前をつけていなかった。書類も左手って書いたあった筈だ。クインケの欄に左手って異常だろ......ティーチャーとでも呼ぼうかな?俺の教官だったし。だせぇ。
「なぜ私に?」
そう真戸暁二等は聞いてくる。
「真戸上等や亜門さんからクインケの構成に関する事を聞いていたからな。俺も是非頼もうと思ってな」
「そうか、これは義手のようだから採寸もしなくては。ラボへ向かおう」
これはOKという事か。断られるかもしれないという心配は杞憂だったようだ。俺達はラボへと向かった。
「あれ、比企谷君と真戸ちゃん?珍しい組み合わせだね」
地行博士が言う。まあ、当然の感想だ。
「コイツを改良しに来た」
真戸暁二等が簡潔に説明する。
「懐かしいな、平塚さんの義手か、比企谷君が使うんだね」
「ええ、この通り左手が亡くなったので」
「なるほどね、じゃあ採寸からかな?」
そうして俺は腕のサイズを計られる。
「比企谷君、思ったより筋肉あるね」
「捜査官ですから」
俺も捜査官として筋トレは欠かしていない。
やっぱ嘘、たまにめんどくさい。
「比企谷二等、普段使っているクインケは?」
「そっちに置いてある」
俺は持ってきていたオブシを指差す。
「このギミックは父が考えたものだそうだな」
やはり真戸上等から話は聞いていたのか。
「こちらを手に取り付けるのは......無理か」
真面目な顔で凄いこといいやがった。そんな事したら海賊王を目指す事になってしまう。しかもソロで。
「取り敢えずコイツを扱えるよう、義手の操作性を上げよう」
そう言ってノートパソコンを取り出し、何かを打ち込み始めた。俺は採寸が終わり覗き込んでみるが何がなんだが分からない。Rcのエネルギーがうんたらかんたらで出力がどうたらこうたらでぇーと見つめていると、
「比企谷二等、もう戻っていいぞ」
と言われ俺はデスクに戻った。クインケの仕組みは専門外だ。
取り敢えずあれが完成するまで、ずっとデスクワークをしている訳にもいかない。片手でクインケを扱うのにも慣れないとな。そうして俺はオブシではなく、キタエを手に取る。暫く素振りをしていると、考える事もなく、暇になってくる。ふと、雪ノ下はどうしているだろう。と思った。一度気になってくると、どんどん気になっていく。いつの間にか、俺は電話を手にしていた。
「はい、雪ノ下雪乃ですが」
相手はすぐに出る。
「もしもし比企谷だ」
「比企谷君?どうしたの?」
どうしたと言われても特に何か話したい事があった訳では無い。取り敢えず今日の事を話す。
「平塚上等の義手を引き継ぐ事にした」
「そう、貴方はそれで戦うのね。見てみたいわ」
「そうだな、捜査官になったら見せてやる」
「それは、楽しみね。それまでは絶対死なないでね」
「ああ」
今まででも嘘をついてきた、これが嘘になったとしても大したことじゃない。だが、出来るだけ嘘にならないようにするつもりだ。
「ふふっ、聴いたわよ」
そうして電話は切られた。
嘘にしないためにはもっと強くならなくては、そう思い、俺は更に集中して素振りを続けていると、いつの間にか日が落ちていた。
「暗っ、マジかよ」
俺は家に帰る事にした。それにしても、俺の上司はどうなるのだろう。今まではなんだかんだ上司に恵まれていた。また、良い上司に出逢えるのだろうか。そして、今度こそは、殺されてしまう前に共に戦いたい。俺は右手を握りしめた。
八幡には平塚先生のクインケを引き継いで貰いました。