TSレッドは配信者   作:モーム

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「おつきみやまとピッピの月」 Part.3

 

 レッドの黄色い悲鳴が洞窟の中に響き渡って、限界オタクを目にしたピカチュウの瞳からハイライトが消える。

 

「な、なんだぁ……!?」

 

「だれよあんた!」

 

 ムサシとコジロウも、大人げなくちょっとイイ感じの棒で遊んでいたところを見られてとても気まずい。

 しかもなぜか目をキラキラと輝かせてこっちを見てくるものだから、強く出ていいのかも分からない。

 

 トレーナーが有名人に出会ったような反応をして、自分も気になってボールから出たそうにしているフシギダネに気づかないまま、レッドが続ける。

 

「ムサシさんとコジロウさんですよね、あの、ロケット団の!」

 

 胸が浮き立つような大興奮に包まれた女の子は、輝くような笑顔で聞いている。

 無邪気すぎてまぶしいくらい。

 

 一方、酸いも甘いも嚙み分けてきた大人組はといえば。

 

「ど、どうするよこれ……」

 

「どうするったって、こんなところに来れるんだからただものじゃないでしょ」

 

 人目に隠れて後ろめたいことをして、後ろめたい仕掛けで人が来れないようにして、後ろめたいことをやっていたから、なにも言い訳できないと早とちりしていた。

 

 小声で相談しながら、ロケット団二人組が肩越しにレッドを見る。

 推しの視線が注がれていることに気づいて「うわぁ」とか「ほんものだ……」と嬉しそうにしている。

 

「あんな子が〈さいみんじゅつ〉を突破できると思うか?」

 

「できちゃったから、アタシたちのことをバッチリ見つけっちゃったんじゃないのよさ」

 

 まさかこの女の子が、観光気分でオツキミ山にきて、しかも(レッドにとっての)有名人を見つけてしまってはしゃいでるだけの少女だなんて、ずっと悪巧みしている2人には気づきようもない。

 この世界なんて、まだ10歳なのにチャンピオン顔負けの強さを持つポケモントレーナーなんて探せばいるくらいだし、いくらか弱い女の子に見えたって油断できないのだし。

 

「だけどよぉ、なにかの間違いじゃないか? だってほら、ちょっとイイ感じの棒(葉っぱつき)をもってる」

 

「あんたみたいな大人がもってるんだから子どもだってもってるもんでしょうよ」

 

「それはそうだけど……」

 

 うーん、とコジロウが腕を組む。

 ムサシが横目でレッドを見る。

 急に推しから流し目で視線を投げられたレッドが「か、かおがいい……」とオタクの鳴き声を発して赤くなる。

 

「……なにかの間違いかもしれないわね……」

 

「でもロケット団どころか俺たちのこと知ってたぜ」

 

「やっぱ怪しいわね……」

 

 カントー地方に巣食う悪の組織ロケット団を知っているならともかく、個人情報まで知っているとなると怪しすぎる。

 けれども肝心のレッド本人は有名人を見つけてはしゃぐ一般人でしかないから、世を忍ぶ悪の組織ロケット団のメンバーとしては判断に困る。

 

「まさかあの子も化石を狙ってきたんじゃ」

 

「ピッピかもしれないわよ」

 

 小声で話しているムサシとコジロウの背後に、なにを話しているか気になったレッドが近寄っていたけれど、ロケット団の2人は気づいていなかった。

 

「化石とピッピ?」

 

 バッチリ聞いていたし、なんだったらすごく興味津々に2人の背中を見つめている。

 

「やっべ」

 

 コジロウはだいたい察した。

 ただの観光に来たトレーナーで、自分たちを知っているのはなんでか知らないが、ロケット団のことをそこまで警戒していない(レッドはムサシとコジロウを知っているから警戒心がないだけ)、それっぽい単語に耳をすませただけのポケモントレーナー。

 

 警戒心がないというか、無邪気なだけの女の子と気づく。

 

「しまった!」

 

 ムサシもだいたい察した。

 なにかしら目的があってこの横穴を調査しに来たポケモントレーナー(レッドはロケット団とムサシとコジロウの存在も知っている)で、しかも(前世でポケモンをプレイしてアニメも見たから)化石のことを知っている。

 

 ロケット団と知っても近づいてくる、実力のあるトレーナーだと気づく。

 

「化石とピッピ……!」

 

 レッドもだいたい察した。

 うろ覚えのポケモンアニメ知識によると、たぶんこの2人はロケット団のボスに「化石とピッピ」を献上してポイントを稼ごうとして、このオツキミやまで悪巧みをしていると察する。

 ロケット団のボスがサカキであることまでは覚えてなかったけど。

 

 勘違いとすれ違いが連鎖しちゃってもうどうしようもない。

 

 レッドはロケット団の2人が悪巧みをしている現場に居合わせることができて大興奮。

 ムサシとコジロウはバレたからにはこの女子をタダで帰すわけにはいかない。

 

 まさか転生した限界オタクが発作を起こしているだけとは考えられるわけもないし。

 

「ど、どうするよこれ、このまま帰すわけにはいかないぞ」

 

「バカね、トレーナー同士が目を合わせたんだからやることはひとつでしょ!」

 

「そうか!」

 

 ムサシとコジロウがポーズをとり、レッドは「いつものやつだ……!」と小声で興奮する。

 

「アンタがどうして〈さいみんじゅつ〉のトラップを破ったか知らないけど!」

 

「ここまで見られたからにはタダで帰すわけにはいかない!」

 

 いつものポーズなのに決め台詞が出てこないことに「いつものやつじゃないの……?!」とレッドが驚く。

 

「おこづかいの半分だけ置いていきなさい!」

 

「帰ってお母さんに泣きつくんだな!」

 

 

 

 

「ムサシ!」
 

「コジロウ!」

 

「我ら無敵のロケット団!」

 

 

ロケット団の ムサシとコジロウが 勝負をしかけてきた!

 

 

▶ ▶❘ ♪ ・ライブ
 
 ⚙ ❐ ▭ ▣ 

 

 ニャースが腹痛で欠席しているため一部省略してお送りいたします。




毎日更新チャレンジ一日目のご褒美にルギア爆誕を見てきます。

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