Mystic Game   作:十六夜雪七

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第Ⅰ話 記憶 Part B

2018/10/28 3:17

 

首都高速道路 中央環状線 外回り

 

「それにしても珍しいよな、有栖がこんな時間に私に連絡をよこすなんてさ」

 

有栖と呼ばれた女性の走らせる車の助手席に座った女性が少し嬉しそうでありながら不思議そうに問いかける

 

少し開けた窓から入る風が二人の髪を凪いでは抜けていく

 

「そうね……自分でも不思議だわ、強いて言うなら少し都合が良かったのかもしれないわね

 

貴女の事が……ね、理沙」

 

自嘲するのように少し微笑みながら、助手席の女性に一瞬視線を預ける

 

「都合が良かった…ね、でも嬉しいぜ、有栖がそうやって私の事を頼ってくれるなんてな」

 

理紗と呼ばれた女性は有栖と良く似たブロンドに染めた髪を風に靡かせながら、少し微笑んで有栖を見つめる

 

「それで、何があったんだ?」

 

理紗が続ける、自分が呼ばれた事の意味を有栖に問いかける

 

「そう……ね、理紗にはいつか話そうと思っていたの……私の、昔の話よ……そう……私はね…」

 

有栖は話す覚悟を決め、ゆっくりと言葉を紡いでいく……

そして少し間をおくと、少し目を細めて続けた

 

「人を、殺しているの…」

その刹那時間が止まる、一瞬だけ息を呑んだだけの本当に僅かな時間

アクセルに合わせて規則正しく響くエンジンの音だけが本来よりも大きく響くように感じる

 

「人を殺している……って、なんで、何があったんだよ!?」

 

その静寂を振り切るように…信じられないといった顔で理紗は有栖に縋りつく

 

「事故だったのよ…」

 

そんな彼女に一言、有栖は静かに言葉を紡ぐ

 

「もう5年は前の話よ……あるゲームに搭載された新システムのセレモニーが非公式に開催されたの

 

簡単に説明するなら空想を実在させるシステムね

 

そして、私はそのセレモニーを盛り上げる為のエキシビションマッチに招待されていたの

 

でも、その時よ…そのシステムエラーによる暴走が起きたのは…

突如ゲームそのものが制御不能に陥って、私の手綱は外され会場を破壊していった

 

火災も起きたし、建物は最終的に倒壊したわ…

 

幸いにも、観戦席にいた人たちは全員逃げる事が出来た……でも一人だけ…」

 

最初は淡々と話していたが、徐々に言葉に暗い影が落ちる

束の間の静寂、その間に葛西JCTを抜けて湾岸線へ抜けていく

 

 

 

3速、4速、トップギアの5速…

 

恐怖を振り切るかのように有栖の車は速度を上げて、まるで悲鳴のような甲高いエキゾーストノートが響く

 

オレンジと白の街灯のコントラストが互い違いに彼女達を照らす

 

「一人だけ…一体なんだって……」

 

理紗が静寂を刺すように口を開く。だが、その後に言葉を続けて出すことができなかった

 

それをどことなく感じて有栖は続ける

 

「助けられなかったのよ…システムが暴走したと思ったら、そこからは一瞬だった…

 

私と一緒にあのセレモニーを盛り上げるはずだったのに…」

 

不意に有栖の瞳からは一筋の涙が流れる

 

「あの時…暴走したシステムはあの人を含めて、私以外の全てを破壊しようとしていた…

 

最後は映像に質量をもたせる装置そのものを自ら破壊したことによって終わったのだけれど……それでも……」

 

何かを続けようとして、有栖は口を噤んだ

 

「でも…だってそれは!」

 

聞くことしか出来ない事への歯痒さからか

追従する言葉に微かな苛立ちが滲む

 

 

「ううん、これは私の業だから…背負うべきものなのよ……それに、理紗はこの事は知らなかったでしょう?

その事故が表沙汰になっていないのは…

非公式なセレモニーだった事に加えて、それ自体が無かったことにされているから……」

 

何度も言葉が途切れながらも、有栖は言葉を、紡いでいく

 

「だから……今私が話した事はね……

 

全部、無かったことなのよ………あの人の生も、私の苦しみも、全部…無かったことなの…」

 

ステアリングを握る手が震えている…それを見た理紗は力強くその手を握り返す、緊張なのか、極度のストレスからくるものなのか有栖の指先はとても冷たく

 

だからこそ、理紗の体温が暖かく有栖を包んだ

 

「無かったことになんて、させないさ

私は全部聞いたから、覚えているからさ」

 

無理やりにでも笑って理紗は有栖に言葉を返す

しかし、有栖にとってその言葉は非常に心地良く温かいものだった

 

スッとアクセルが抜ける、まるで気持ちが感情についてこれなくなったかのように連動してストンと速度が落ちる

 

「ごめんなさい、つい感情的になってしまったわ……もう、いつまでも付き合わせたら申し訳ないし、送っていくわね」

 

落ち着きを取り戻した有栖は、そういうと大井JCTから踵を返して理紗の家へと車を走らせる

 

「気にしなくてもいいぜ、付き合うって言ったのは私の方なんだからな

 

それに、そうやって有栖の今まで秘めていた想いを話してくれたのは…なんというか…凄く、嬉しかったよ…信用してくれてるんだなって、なんとなく、そう感じて…」

 

少しバツが悪そうに恥ずかしいセリフを言う理沙

 

「…全く、理紗はすぐにそうやってこっちが恥ずかしくなる事を言うんだから」

 

今までの憑き物が少し取れたように柔和な笑みを浮かべ、冗談めかして言葉を返す有栖

 

軽い雑談を交わして、二人は理沙の家の前についた

 

「送ってくれてありがとな、有栖。話せて楽しかったぜ」

 

車を降りた理沙は屈託のない笑顔を有栖に向けた

 

「こちらこそ、話聞いてくれたの嬉しかったわ……

本当はね、その時の夢をみて…凄く怖かったの

だから、一人でいたくなくて…」

 

少し顔を曇らせる有栖

 

「そういう時はいつでも連絡してくて構わないぜ、流石に仕事の時は取れないけどな

今日みたいな時間だったら全然大丈夫だからさ

それじゃあな、気をつけて帰れよ」

 

理沙はそう言うと自分の部屋に入っていく

さっぱりとしたその感じは有栖にとって非常に気を楽にしてくれた

 

 

「えぇ、本当に…ありがとう、理沙……」

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