それでも、比企谷八幡と一色いろはは眠り続ける 作:鱸のポワレ
秋の訪れを感じさせるような涼しげな風が優しく、小さく、そして寂しそうに吹いている。
周りを見渡すと俺は1人、ソファーに座りテレビを見ていた。
こんな歳になってもぼっちとはな……。
俺はじっとテレビを見る。
10分、30分、1時間。
長い。1人だと時間が長く感じてしまう。
あいつ、早く帰ってこないかな……。
ここで自覚する。俺は誰かを待っている、ということを。
そいつは……誰だ?
学校ならまだしも、家で待つ人といったらおそらく小町だろう。というか小町以外いないまである。
そうだ小町に違いない。小町、小町……だ。
本当に小町……なのか?
頭の中である人物が思い浮かぶ。残念ながら小町ではない。そいつは俺の後輩で、俺の初恋の人で、今は俺の妻だ。
そいつは……
「あ、せんぱーい。また1人でテレビ見てたんですか?」
そいつの名前は……一色いろは。
☆
「夢か……」
すげぇ夢見てたな。一色と結婚しちゃってたよ。
これあれだよ、こんな夢見たことが一色の耳にでも入ったら『はっ!もしかして口説いてるんですか気持ち悪くて無理です一生夢だけ見ててくださいごめんなさい』とか言われちゃうよ。八幡恥ずかしくて現実に居られなくなっちゃうよ。
まぁ、そしたら夢の中で一色と暮らせばいいだけだがな。なんてな。
ふざけてないでとりあえず状況を整理しよう。
俺は今、机に突っ伏している。おそらくだが相当な時間寝ていただろう。その証拠に昼飯を食べた後ぐらいから記憶がない。珍しく教室で食べようと思ったのが失敗だったな。結局ぼっちの俺は寝たふりをしてそのまま寝ちまったってとこだろう。
ここは学校の教室、なんだろうが他の奴の声が全くしない。授業は終わって放課後になってるのか?
とにかく1度起き上がらないとな。と、思い起き上がろうとした矢先、ガラガラと誰かがドアを開けた音がした。そして、足音がこちらに近づいてくる。
やべぇ完全に起きるタイミング逃した。
誰だよ教室に入ってきた奴。
「せんぱーい。可愛い可愛い後輩の一色いろはが迎えにきましたよ〜。ってあれ?寝てる?せんぱーい」
お前かよ。可愛い可愛い後輩とか自分で言っちゃうのね。
「おーいせんぱーい。うーむ、完全に寝てる」
完全に寝てるのではなく、完全に起きるタイミングを逃してしまったのである。ほんとどうしよ、これ。
「もう!風邪ひいちゃいますよ。えい!」
何かが俺の体にかぶせられた。
なんかいい匂いするんですけど。もしかして一色の制服?風邪とか心配してくれる子だったっけ。なんかときめいちゃうんだけど。
「ふむふむ、まだ寒そうだな。だったら、……えい」
今度は柔らかい何かが抱きついてきた。いやいやいや、これって本体ですよね一色さん。
いい匂い柔らかいエロいエロいエロい。
「えへへ〜。せ〜んぱいっ」
なんか声が可愛いんですけど。
ていうかそろそろまずくないか。流石に密着しすぎだし。
もしかして俺が起きてることに気がついてるのか。それで密着して反応を楽しんでいる。
一色いろは、なんて恐ろしい娘なんだ。
「先輩大好き〜。えへへ〜」
やばい好きになっちゃう。
いや、待て。落ち着け比企谷八幡よ。俺には戸塚と小町がいるじゃないか。
まあ、あいつらは男の娘と妹なんだが……ってあれ?じゃあいろはすの勝ちなんじゃね?可愛くて男じゃなくて妹でもないって。いろはす最強じゃね。
っべー。マジわかっちまったわ。っべー。
「全然起きないな。だったら……」
ちょっ、急に動かれたらいろはすの色んなところが、いいのかこれ?いいんだよな。ありがとうございます。
「あったあった先輩の携帯っと」
今この子『先輩の携帯』とか言わなかった?聞き間違いだよな?
「誰だこの女。しょーうきょっと。ついでにこの人とこの人の連絡先も……」
前言撤回だわ。誰だよいろはす最強とか言ってた奴。最低だよこの子。俺にもプライバシーとかあるのに。しかも連絡先何人か消してるよね。もともと全然いないのに。
「あ!私以外の人の連絡先全部消しちゃった。テヘペロッ!」
『テヘペロッ!』じゃねえよ。家族のすら消されてるじゃねえかよ。まぁ小町にまた教えて貰うからいいけど。
「それにしても先輩はいつまで私を待たせるつもりなんですかね全く。このへたれー。……私の気持ちに気づいてくださいよ」
そういえば最近、千葉ロッテ頑張ってるよね。今年阪神から来たベテランの鳥山が精神的支柱になってくれてるし、トレードで途中加入した澤町も頑張っている。最近、元中日でメジャーリーガーのチェーンも獲った。他にもFAで移籍してきたペガサスまなぶとか復活した唐山とか。後は若くして4番を任せられている安村君にも頑張ってほしいところだが。
つまりあれだ、一色は千葉ロッテ優勝を待っていて、優勝して欲しいって気持ちを俺に気づいてほしいということだ。
千葉県民の願いはみんな同じ。ロッテ万歳。ロッテ頑張れ。
「私はこんなに先輩が好きなのになー。たまにだけどわかりやすくアピールしてるのになー。ていうか千葉ロッテってなんですか。バスケのチーム?」
いろはす今の独り言に対するツッコミどころ多すぎない?
まず、千葉ロッテ知らないんですか。あなたはそれでも千葉県民ですか?バスケは千葉ジェッツだから。
それとどうやって俺の心読んだの?もう俺が起きてるのを知ってるかどうかとかの次元じゃなくなってるんですけど。いろはすエスパー?っべー。
最後に……一色って俺のこと好きなの?
全然アピールとかわからんし。俺が気づいてないだけなのか。なに俺、鈍感系主人公?
「先輩はどうしたら私を好きになるんですかね。答えてくださいよー。おーい」
俺の肩に何かが乗る。多分顔だよねこれ。髪の毛とか当たってるんだけど。ていうか『えい!』のところからずっと密着してるよね。
なんでこんなにいい匂いするのこいつ。いろはすって無臭じゃないの。甘い匂いのせいで変な気持ちになっちゃいそうなんですけど。
「ずっとこの時間が続けばいいのに」
あれかな?ずっと寝てろってことかな。永遠に。
まぁ、そういう意味じゃないってことぐらいは自称鈍感系主人公の俺にもわかる。
ここは1つ俺が男らしくビシッと決めるか。
「んん〜。い……しき」
必殺!お前のことを想いすぎて夢にも出てきてつい寝言に出ちゃいましたよ、び、ビーム?
なんかよくわからんくなった。
「は?」
いろはすも怒ってらっしゃる。いや、なんで?寝言言っただけなんだけど。やっぱり俺が起きてるのバレてるこれ?
「なんですか口説いてるんですか夢の中でだけじゃなくて現実でも妻になってほしいってことですかわかりましたありがとうございますそしてよろしくお願いします」
なんで俺告白もしてないのに断られてる……ってん?断られてなくない?よろしくお願いされちゃってるんだけど。
今起きればもしかしてリア充になれるんじゃ……いや別にリア充に憧れてるとかじゃないが。断じてないが。
「先輩。えへへへへ〜」
うん。やっぱリア充最高。
今すぐ起きてはじめよう楽しい楽しいリア充ライフ。
しかし、ここで俺は違和感に気づいてしまった。
う、動かない。体が全く動かない……だと!
まるであしたのジョーだよこれ。燃え尽きちゃってるよ、真っ白な灰に。
あ、あれだからねっ!緊張で動かないとかじゃないからねっ!
「ってヤバ!もうこんな時間!はぁ〜早く起きてくださいよせんぱーい。せっかく一緒にサイゼ行こうと思ってたのにー」
マジでなんなのこの後輩、サイゼとか俺のツボを掴みまくりなんだが。
ちなみに俺のツボは強欲である。以上。
「まあ、いっか」
まあ、いいんだ。そんなあっさり諦めちゃうなんて八幡ちょっとショック。
「先輩とくっついてられるし」
サイゼなんてまあ、いっか。
すぐに心変わりする先輩であった、まる
「なんだか私も眠くなってきたなー。最近は生徒会の仕事も忙しいかったし。むー、先輩のせいですからね」
それ絶対俺のせいじゃないよね。
社会ぐらい理不尽なこと言っちゃってるよこの子。
ここで突然整いました。社会に適応できなかった10年後の俺とかけましていろはすと解く。その心は、どちらも無職(無色)である。はちっちです。
これ何気にすごいと思うのは俺だけだろうか。
「…………」
さっきまで1人でペラペラと喋ってたのに急に無言になるのやめてほしい。俺の謎かけのせいみたいになっちゃうから。まぁ、一色には聞こえてないはずだから気のせいだろうが。
「…………」
一色が喋ってないと静かなこの教室。元々机に突っ伏しているため視界が真っ暗だし一色の体温が心地いい。また眠くなってきた……な。
☆
私は道を歩いている。暑くもなく寒くもなく比較的歩きやすくて、つい先月までは大変だった買い物も今ではだいぶ楽になった。
私はなぜか早歩きだ。暑くなくなったからじゃない。いつもでもない。今だけ。
なぜ?……かは私もわからない。
ただ家に早く帰りたくて、待っている人に早く会いたくて。
あの人、どうせ1人でやることもなくぼーっとしながらテレビでも見てるんだろうな。
あの人って誰だろう?
その人は多分男だ。
お父さん?
ではないと思う。
その人は頼りになって。
葉山先輩?
でもない。
その人と一緒だと落ち着いていられて。
戸部先輩?
なわけない。
その人は捻くれてて、目が腐ってて、私の本当の初恋の人で、心の底から一緒に居たいと思える人で。
気がついたら家に着いていた。
この表札にはまだ慣れていない。『一色』ではないことに寂しさも少し感じる。
でも、そんなことはどうでもいい。早くあの人に会いたい。
先輩!先輩!……比企谷八幡先輩!
☆
……夢?
目が覚める。記憶が少し曖昧だ。確か先輩をサイゼに誘おうとしてたような?
目の前に黒板、沢山の机とイス、時計、黒板消し。
教室、それも私のクラスじゃない。
「おーい一色まだ寝てるのか?」
先輩の声がする。まだ夢から覚めてないのかな?
「しょうがねえなこいつは」
先輩のらしき少し大きな手が私の頭をポンポンと撫で始める。
気持ちいいなー。えへへ。
「俺もいつの間に寝ちまってたし、どうすりゃいいんだこれ。先に帰るわけにもいかんしな」
なんかだんだん思い出してきた。確か私が先輩をサイゼに誘おうと先輩のクラスの教室まで行ったら先輩が寝ていたから、いろいろ言ってたら私もそのまま寝ちゃったんだ。
え?てことはこれ夢じゃない?本当にリアルで先輩が私の頭を撫でてくれてる?
「とりあえず待つか。今日はずっと待ってもらってたしな」
幸い私は先輩の机に突っ伏していて顔は見られていない。寝起きでこんなにニヤニヤした顔を先輩に見せられるはずがない。
「にしても好き勝手言いやがって。あんなこと言われたらこのままの関係じゃいられないだろバカ後輩」
好き放題ってなんだろう。
ま、まさか寝言で変なこと口走ってたんじゃ……。
「こほん!あー、一色なんだ、その、だな。お、俺はお前が好きだ、もし良かったらでいいんだが、そ、その、付き合ってくれないか。わ、わりぃ、気持ち悪いよな。もちろん断ってくれていいぞ。ああ、やっぱなかったことにしよう」
急に告白!?
もしかして私が起きてるのバレてる?なにこれ全然意味がわからない。
あと、後半のぐだぐだなに?
「こんなもんか。あとは勇気だな。最悪小町と戸塚に励ましてもらおう……」
ふむふむ。なるほど、告白の練習だったのか。
先輩もこういうことするんだ。
ていうか『こんなもんか』じゃないでしょ最後なかったことにしてるのに。
「なぁ、一色?つ、月が綺麗だな。ふむ、こっちの方がいいかもしれん。あいつ洒落たこととパスタ大好きだし」
ていうかさっきから一色って人に告白してるけどそれって私?もしかしてこれから告白されちゃうのかな?
「あとはそうだな……いろはすうぇーいー。俺たちノリ合ってるし付き合っちゃうー?うぇーいー」
うわ、なにそれ。いやマジでなにそれ。
「おぉ。我ながら天才だな。これだ、いやむしろこれしかないまである。戸部風告白。っべー」
いやそれで戸部先輩に告白されたらはっ倒してる。マジで。結構マジで。
「冗談はさておき、本当になんて言えばいいんだこれ。ぼっちマイスターの俺には難易度高すぎだろ。ロッテが優勝するぐらい難易度高い。いや今年は優勝するけどね!」
確かに今年のロッテは去年までとは一味違う。
今年阪神から来たベテランの鳥山選手が精神的支柱になってくれている。イケメンだし。トレードで加入した澤町選手も頑張っている。元中日でメジャーリーガーのチェーンって選手も来てくれるし、他にもFAで移籍してきたペガサスまなぶ選手とか唐山選手とか。後は若くして4番を任せられている安村選手にも頑張ってほしい。
って、そんなことはどうでもいい。そんなことよりも告白のほうだ。私としては普通に言ってくれればいい。むしろベストかもしれない。
『好きだ。俺と付き合ってほしい』とかそんなんで。
「まあ、あれだな。そん時になったら考えればいいか。それよりも今のことだ。もう6時半か……そろそろ起きねえかな」
ろ、6時半!?
ということは2時間近く寝てたってことになる。
やってしまった……。
とはいえ今更起きれない。タイミング逃したてちゃってるし。先輩とくっついていられるし。もうちょっとだけこのままでいたいし。
「ていうかなんでこんなにくっついてんの。どんだけ寒かったのこの教室」
先輩はやっぱり捻デレだ。
寒いわけないのに。本当の理由もわかってるくせに。
「いい匂いするし、俺の理性がもたん。ちょっと離れよう」
「んん〜、せんぱーい。むにゃむにゃ」
「ちょっ!一色さん?すごい力なんだけど!本当に寝てるの?」
寝言で先輩と呟いてさりげなくアピール。からの絶対に放しませんよと言わんばかりに先輩の腕を掴む。
……もうちょっとだけ、もうちょっとだけくっついていたいから。
「えへへー、せんぱーい。むにゃむにゃ」
「し、しょうがない。もうちょっとだけこのままでいるか。一色も生徒会やら部活やらで疲れてるだろうしな。うん、そうしよう。別にあれだ、少しだけこいつの寝言可愛いなとか思った訳ではない。大切なことだからもう一度言おう。別に可愛いとか思った訳ではない。……って誰に言い訳してんだ俺」
なるほど先輩は可愛いと思ってくれたと。
意外と寝言作戦はいいかもしれない。
ていうか可愛いって思ってくれたのかー。えへへ。
「んー、せん、ぱーい。試合始まっちゃいますよ。せんぱーい。むにゃむにゃ」
「ずいぶん長い寝言だな」
やばい、さすがにちょっとやりすぎた。
「にしても『むにゃむにゃ』ってあざと可愛いな。寝言でもあざと可愛いのかこいつ」
また可愛いって言ってくれた。言ってくれた……けど、あざと可愛いって褒め言葉なんだろうか。ギリギリ、アウト?
「てかどんな夢見てんだよ。俺出てきすぎじゃね?」
そりゃあもちろん、私の生活のメインは先輩だから。
「せんぱーい、えへへー。ロッテ、頑張ってますよー。むにゃむにゃ」
「マジでわからん。いろはすの夢の方向性が全くわからん。材木座のラノベの話と同じぐらいわからん」
うわ、厨二と同じにされた。私の未来の物語は、先輩と私がイチャイチャするってだけで、すごく単純でわかりやすいのに。
「日本一ですよ〜。やりました、ね。むにゃむにゃ」
「なにが日本一なんだよ。ロッテか?ロッテなんだな?さすが千葉の誇りだな。そして一色も千葉の素晴らしさをやっと理解したみたいだな」
あ、なんかうざ。
ていうかさっきから『むにゃむにゃ』継続してるのになにも感想がない。先輩が可愛いって言ったから恥ずかしくてもやり続けてるのに。
とりあえずロッテから話を逸らさないと。
「せん、ぱい、そんな強く抱きしめたら、きゃっ」
「本当にどんな夢見てるの?ねえ?どうしたらロッテの優勝からいきなり抱きしめる話に変わってる訳?……あと『むにゃむにゃ』言わなくなったのかよ。ちょっと楽しみだったんだが」
ほほう!やっぱり『むにゃむにゃ』は効果抜群だったのか。八幡の残りのHPは8万、なんて。……お後がよろしいようで。
「とかなんとか言ってる間にもう7時前か。さすがに帰りてぇ。いや、でも……」
やばいやばい。ここで帰られたら先輩とご飯食べに行けない。なんとかしなきゃ。
「ん、行かないで、八幡。むにゃむにゃ」
「はち……!し、しょうがないな。もう少しだけな、……いろは」
死ねる。今なら悔いなく死ねる。
まあでも?可愛くて大切な先輩のいろはちゃんが死んじゃったら、先輩は悲しむだろうしも生きててあげましょう。
あーこれ、先輩に言ったら『はいはい。あざといあざとい』って適当に返されるやつだ。今度言ってみよう。
「とりあえず小町にはメール送っとかなきゃな。ご飯作ってたらまずいし、遅くなったら心配するだろうし」
私とご飯を食べる気満々な先輩。可愛い。
ん?ていうかご飯なんか誘ったっけ?
確かに先輩とサイゼに行こうと思ってこの教室には来たけど、その時にはもう先輩は寝ちゃってたはずだ。
「てか、一色以外の連絡先全部消されてたんだった……」
そうだ!その後寝ていた先輩に『せっかくサイゼ行こうと思ってたのにー』って言ったんだ。それに連絡先を消したのも先輩が寝てる間にやってたはずだし。今思えば告白も……。
「って先輩はいつから起きてたんですか!」
「うおっ!びっくりした!なんだよ急に。てか起きてたの?」
「そんなことはどうでもいいんですよ。それよりも私がこの教室に来た後、先輩はいつ起きたんですか」
「『せんぱーい。可愛い可愛い後輩の一色いろはが向かいにきましたよ〜。』ってところから、みたいな?」
ということは、つまりは、全部、聞かれてた?
先輩に抱きついた時も、先輩を好きって言った時も、『えへへー』とか気持ち悪い声出した時もずっと起きてたってこと?
あ、終わった。私の人生終了。
「ちょっと待て、ひょっとしてお前もずっと起きてたの?」
「はぁ。……『おーい一色まだ寝てるのか?』ってところから起きてましたよ」
「あ、終わった俺の人生」
「は?先輩はまだいいじゃないですか!私なんか『……私の気持ちに気づいてくださいよ』とか『先輩大好き〜。えへへ〜』とか色々聞かれたんですよ!」
「お前はいいだろ。『えへへ〜』とか可愛いだけだし」
「え、は、ちょ」
か、可愛いって!面と向かって言われるとやっぱり恥ずかしい。えへへ。
「俺なんかあれだぞ、戸部風告白聞かれたんだぞ。俺の数ある黒歴史たちの中でも、ぶっちぎりでトップの恥ずかしさだ。おめでとう一色。……はぁ、死にたい」
「……すでに目は死んでますけどね」
「うっせ」
「まあでも、もうよくないですか?……というか人生どうでもよくなったというか」
「おいおい」
いや、本当に恥ずかしい。明日から奉仕部なんて行けない。もう先輩の顔とか見れない。
「まあ、なんだ、お互いに秘密を知れて、これまでよりも親しくなれて、それでまた、いや、これまでよりももっと2人で話せたらそれでいいんじゃね?……うん。やっぱ無理だわ。うまくまとめようと思ったけど無理。早く布団の中で叫びたい。死にたい」
「はぁ。じゃあこうしましょう」
「ん?」
先輩が涙目でこっちを見てくる。
うわぁ、キモ……って言いたいとこだけど超可愛い。泣き幡最高。
「えへへ」
「おい。なんか言えって。急にニヤニヤすんな。心の中で馬鹿にされてると思うだろ。ただでさえ今死にたいのに」
「馬鹿になんてしてませんよ。ただ先輩が可愛いなーと思いまして」
「え?急にどうしたの?新手のいじめ方?」
「違いますよ。ただ、少し素直になろうと思いまして。好きですよ先輩」
「なっ!?おま、急に」
今度は驚いた顔をしている。
その顔も可愛いですよとか言ったほうがいいかな?素直になるって言っちゃったし。
「もう投げやりですよ」
「あっそ」
「それでさっきのですけど」
「ああ、『こうしましょう』ってやつな」
「はい。先輩、今から私に告白してください」
「は?どゆこと」
「私たちが付き合っちゃえば、さっきまでのことも別に問題なくなるじゃないですか。カップルがいちゃついてたってことで」
「いや、俺の恥ずかしさは全くなくならないどころか告白によって増すばかりなんですけど」
「それに……」
私は今でさえ近い先輩との距離をさらに縮める。
「今日みたいにこれからも、先輩といちゃいちゃしたいですしね」
「いや、だがな……」
「先輩!私だって自分で言ってることが無茶苦茶だってわかってますよ。でも、こういうのはノリと勢いですから。戸部先輩みたいにいっちゃいましょう」
「じ、じゃあ、一色」
「先輩!いろは、でしょ?」
緊張で先輩の手が震えている。たぶん私の手も震えているだろう。だから、先輩の手を優しく握る。お互いに震えているからこそ、お互いに足りないところがあるからこそ、支え合って生きていきたいから。
「い、いろは」
「はい」
やっと私は先輩と結ばれる。やっと。
「いろはすうぇーいー。俺たちノリ合うし付き合っちゃうー?うぇーいー」
「は?」
やっぱり、私の青春ラブコメはまちがっている。
☆
なんだかんだあったものの、気がつくと8時を過ぎいたことに加え、先輩のお腹が鳴ったことが決定的となり、とりあえず2人でサイゼに行くことになった。
「やっぱサイゼ最高だな」
先輩はサイゼに着くと嬉しそうに呟いた。
な、なんか悔しい。サイゼに負けた気がする。まさかサイゼに嫉妬する日が来るとは。
「なんで今日一嬉しそうな顔してるんですか」
「なんだかんだあった時は、こういうところに来るとマイホーム感があって落ち着くからな。てかなんで俺の隣に座ろうとしてるの?普通正面じゃない?」
ご丁寧にツッコミを入れる先輩を無視して隣に座る。
「いやいやいや。無視しすんなよ。本当に中3の頃のこと思い出しちゃうから。八幡泣いちゃうよ」
「いや、泣くのは流石にキモいですよ」
「まじな顔ダメ、絶対!」
「ていうか先輩だってこんなに可愛い後輩が隣に座ってくれて嬉しいくせに。それに私の隣が先輩のマイホームだし1番落ち着くでしょ?」
「いつも通りあざといな。ちょっとホッとしたわ」
「むー、なんですかそれー」
こういうところであざといとか言っちゃうところが先輩らしいといえばらしい。クールぶってないでもうちょっと違う反応してほしいけど。
「それより何頼むんだ?早くしろよ腹減ったし」
「もともとは先輩が寝てたのが悪いんじゃないですかー」
「何言ってんの?その後『えへへー』とか言って俺に抱きつきながら寝たのどこの誰だよ」
「せ、先輩……声、でかいです」
「わ、悪い」
いつのまにか学生やらサラリーマンやら周りの視線が私たちの方へと集まっている。それもニヤニヤしながら。
「で、何頼むか決めたか?」
「そうですねー、新メニューのきのこのパスタもいいですが、やっぱりここは定番のミラノ風ドリアに……いやでも、うーん」
「じゃあどっちも頼んで半分ずつ食べるか?」
「え、いいんですか?先輩そういうの嫌いだと思ってましたけど」
確かにそうだが、と前置きをしつつ先輩はドヤ顔で語り始めた。
「サイゼに来たらどのメニューも魅力的なのはわかるからな。それに俺も昔は、2時間ぐらい悩んだ挙げ句、呼んでもいないのに少し切れ気味に注文を聞いてきた店員にびびって、ドリンクバーを焦って頼んじまって一杯だけオレンジジュースを飲んだ後すぐに帰ったことがあるからな」
「うわ、何やってんですか先輩」
話は長いし先輩はダサいしなんだこのエピソード。サイゼで2時間もメニュー悩んじゃうあたりは可愛いけど。
「まあ、だから早く頼もう?な?」
「びびってるんですね」
「うるせえ」
「まあ、じゃあそれでお願いします」
「りょーかい。あとピザも頼んでいいか?いつもは1人で食べるにしては量が多かったから、食べたことはないが気にはなっていたんだ」
「いいですね。私もピザ食べたいです」
先輩が呼びだしベルを押して店員を呼び注文をしていく。さすがに慣れてるなーと思いつつ先輩の顔をじっと眺める。
やっぱりこんな風に頼りになる時の先輩はカッコいい。
もっと先輩といちゃいちゃしたいなー。
でも今の私たちの関係ってなんだろうか。一応、本当に一応、あのくそみたいな告白を先輩からしてもらってるし、それにお互いが両想いなのはわかってる。
これは付き合ってると言えるのだろうか。なんか微妙だ。まるで友達以上恋人未満的な。
そんなことを考えているうちに先輩は注文を終え、店員さんも厨房へと戻って行った。
「先輩」
「ん?どした?」
「ふと気になったんですけど、今の私たちの関係ってなんですかね?」
「そりゃあ、つ、つつ、つつ」
「付き合ってる、と?」
「まあ、そうだな」
「でも私、告白されてませんよ?」
「いや、しただろ」
「あ?」
もしかしてこの人はあれが告白だとでも思っているのだろうか。アホなんだろうか。
「いや、悪かったよ。で、でもここじゃあ、な?」
「はぁ〜しょうがないですね。じゃあキスしてくれたら許してあげます」
「ちょっと落ち着け一色。難易度上っちゃってるから」
「じゃあどれにしますか?キスするかキスして告白か私たちは付き合ってないか。3択ですよ」
「目がまじなんだが。本気じゃないよねいろはす?」
「今1番不快な人を思い出しちゃうんで、いろはすはやめてください。戸部」
戸部先輩はまったく悪くないけど戸部先輩が悪い。
「なんで最後に戸部って言ったんだよ。なに新手の倒置法?」
「で?どれにしますか」
「あ、えーと、さ、最初の?」
「じゃあ、どうぞ」
私は先輩の方を向いて目を閉じる。いわゆるキス顔ってやつだ。
「いろは、本当に悪かったよ」
「っーー!?」
突然、先輩は耳元でそう囁き私を抱きしめて頭を撫でた。
先輩の声と体温を感じられて、さらになでなでまでしてもらえるなんてもう満足。
「し、仕方ないですね先輩は。今回は許しーーむぐ!?」
目を開けた瞬間、先輩の唇と私の唇が重なりあった。
と、突然過ぎてなにがなんだか……。
「これでいいか?」
「せ、先輩なにしてるんですか突然!?」
「いやキスしろって言ったのお前だろ」
「その前のやつで終わりかと……」
「あ、いや、悪かった……」
「わ、悪いと思うなら……」
「悪いと思うなら……なんだ?」
「……もう1回キス、してください」
☆
それから数年後
「てことがあってね」
「へー、パパとママの馴れ初めって変わってるね。ていうか2人が馬鹿なだけ?」
「おー、そんなこともあったな」
「テレビ見ながら適当に返事しないでくださいよ」
「そうだよパパ。ママはパパに早く会いたくて早歩きで帰ってきたんだから。まったく毎日毎日いちゃこらいちゃこら、もう結婚してからだいぶ経ってるのに、これだからリア充は……爆ぜろ」
「ちょっ!?お前それどこで覚えたんだ!?」
「どう考えても先輩のせいですよ」
「ていうかお前いい加減先輩って言うなよ」
「先輩だってまだ一色って呼ぶじゃないですか!」
「それは、まあ、なんだ、悪かったよ……いろは」
「わかればいいんですよ……八幡」
「…………」
「…………」
「なあ」
「ええ」
「「やっぱり呼び方戻そう(しましょう)」」
「はぁ〜爆ぜろ爆ぜろ」
ありがとうございました。感想などお待ちしています。