世界総人口の約八割が何らかの特異体質を持って生まれる超人社会。"個性"を使って悪を成す
これは無個性だった僕、緑谷出久が最高のヒーローになるまでの物語!
というのは昔の話だ。物語の主人公だった緑谷出久は現在。ライバル・爆豪勝己と共にトップヒーローになっている。ヒーロービルボードチャートjp。世間の人気、つまり検挙率、支持率などでヒーローの人気をランクとして表すものだ。二年前の下半期が発表されて以来、その順位は変わらない。
第一No.1ヒーロー デク
個性・ワンフォーオール
本名:緑谷出久
第二No.1ヒーロー ライジング
個性・爆破
本名:爆豪勝己
No.2ヒーロー ショート
個性・半冷半燃
本名:轟焦凍
No.3ヒーロー ホークス
個性・剛翼
No.4ヒーロー インゲニウム
個性・エンジン
本名:飯田天哉
No.5ヒーロー ウラビティ
個性・
本名:麗日お茶子
以下略
と、この様になっている。例年とは全く違うNo.1ヒーローが二名いる今この時。世間では賛否両論の声が聞こえるが緑谷はその結果に納得していた。
「デクくんお疲れ、今日も疲れとるね」
麗日は疲れ果てた緑谷に紅茶、ゴールドティップスインペリアルを差し出す。
「ありがとう麗日さん」
互いに部屋着というアットホームな雰囲気。そう、緑谷と麗日は夫婦という関係を結んだ。とはいえ息子や娘はいない。互いに緊張が勝ってしまい、それ以上先に進めないのだ。
「大変やったんやろ?」
「うん、心が疲れる事件だったよ」
疲れるのは無理もない。今日緑谷が止めたのは無個性の少年の自殺未遂だった。同級生からのいじめに堪えかねてのことらしい。緑谷はNo.1ヒーローになった際、世間に全てを打ち明けた。自分が無個性であったこと。自分の個性は元No.1ヒーロー・オールマイトから貰ったものだと。当然麗日も知っている。オールフォーワンという脅威が過ぎ去った今、隠すことは不要だと思ったからだ。
「それよりも麗日さん、明日って…」
「うん、東京サミットの警備の日やね」
「かっちゃんと轟君も来るって言ってたよ」
言われて麗日は携帯を確認し、飯田と蛙吹も同行することを緑谷に言う。
「そっか。飯田君達も…何も無いといいけどな…」
緑谷は目頭を押さえる。さすがに限界が来ていた。フラつきながら立ち上がろうとすると、緑谷の背後から二本の腕が胴体に絡む。
「ん……」
「うららかさん…」
雄英時代はもっと言葉で励ましあっていた。でも今は違う。二人は夫婦だ。
「ほんまに無理せんといてね?」
「うん…」
疲れが少しとれた気がする。緑谷は身体を反転させ、麗日の細い腰に腕を回す。
「好きやよ、デクくん」
「うん、ありがとう。麗日さん」
暖かな二人の絆。一方でそれを照らす月は、妖しく陰っていた。
翌日、早朝
「おはよう緑谷君、麗日君も一緒か」
「うん!おはよう飯田君!」
どこからともなく全速力で走ってきたロボットのような戦闘服に身を包む飯田は、緑谷と麗日が手を繋いでるのを見て、嬉しそうな顔をする。
「仲良くやっているようだな。良かった」
「え?あ?うん」
二人は赤面しながら頭を掻いた。
「朝からイチャつきやがってキメエんだよ!!」
「かっちゃん!」
「うるせー!!」
「何で!?」
よたよたと怠そうに歩く、触れるもの皆傷つけるような頭髪を持つ爆豪勝己が現場に到着する。そしてその後ろには
「なんだ爆豪、妬いてんのか?」
「ああ?妬いてねーよ!誰にだよ!っつか何でついてきてんだよ!!」
「駅で会ったの忘れたのか?」
「覚えとるわクソが!!」
コントみたいな会話をする二人を見て緑谷達は苦笑する。ふと、上空から突風が押し寄せる。規則的に送られてくる風を感じて、緑谷はその正体を察する。
「ちーす。なんかフロッピーこれないっぽいっすわ」
「ホークス!」
現No.3ヒーロー・ウイングヒーローホークスだ。翼を操る個性を持ち、滞空せんと羽ばたく度に風圧が発生する。
「梅雨ちゃんこれないんだ…」
「地元で絡まれてるっぽいすねー」
飄々とした態度で話すホークス。緑谷達はインターンや死柄木との戦いで何度もお世話になっている。
「おはようございますホークス」
爆豪を除いた一は一礼をする。
「かしこまった態度はいいよ別に。肩書きは君らの方が上なんすから」
ホークスはヘラヘラとした笑顔で言い、東京サミットの開催される建物を見やる。
「さーてと、お仕事の時間ですね」
ヒーローとしての活動経験は圧倒的にホークスが上だ。なので現場の指揮はホークスが担当する。もうすぐで日本の首相と、それに関係する人達が到着する。さらには各国の大使達もやってくるだろう。なんとしても死守しなければならない。
「おい、ヘラ鳥」
爆豪の低音ボイスが響く。普段は荒ぶって大声を出して怒鳴りちらす爆豪が妙に冷静だ。
「あいつ、何やってる?」
言われてホークスを含め、全員が爆豪の指を差した方向を見る。
「!!」
今の一瞬で何を理解したのか、ホークスは翼を広げて飛び出した。
「ホークス?」
「緑谷君!中に人は?」
ホークスはこちらを振り替えることなく叫ぶ。緑谷はサミットのタイムテーブルを頭の中に思い浮かべる。確か──
「大丈夫です!いません!」
「了解、あれは
対応が迅速すぎる。さすがは速すぎる男だ。緑谷は感心する。
「感心してる場合かボケカスが!」
爆豪も個性を使いその男へ近付く。
(ワンフォーオール…フルカウル!45%!)
爆風が発生し、爆豪達は咄嗟に風を防ぐ。オールマイトの力、それがワンフォーオール。そのスピードは最早瞬間移動。だが
「ごめん、もう遅いっすよ」
男は既にホークスが拘束していた。念のためか、男の周囲には翼がヒラヒラと飛んでいる。結果的に良かった。緑谷は安堵する。
「クソがあああああああ!!!」
ホークスに先を越された爆豪が悔しそうに地団駄を踏む。そうして拘束されている男の元に詰め寄り胸ぐらを掴む。
「おいコラ!てめぇ今何しやがった!」
「かっちゃん!」
爆豪の荒っぽい捜査を緑谷が肩を掴んで止める。男は何も言わないままだ。黙秘権を行使するということか。
「反応無しだな」
「む…ならばこの先は警察の仕事だな」
飯田と轟が頷き合い、飯田がスマホを取り出そうとしたその時、
「う…まれ…る…」
「あ?」
微かに呟いた言葉にすぐさま反応した爆豪とホークスが駆け寄る。
「聞こえないな、なんて?」
ホークスは男に耳を近づけ、爆豪も負けじと男の声を聞き取ろうとする。
「脅威が、生まれる。世界の崩壊もすぐそこだ」
「世界のっ…崩壊!?」
緑谷がそう叫んだ瞬間、大気が震撼した。遥か天空に、澄み渡る群青の空に大きな裂け目が発生する。
「なんだぁありゃあ!」
爆豪が空を睨みながら叫ぶ。
「──ッッ爆豪!!」
轟に呼ばれ、ふと体に違和感を感じる。
「丸顔!テメェの個性か!」
浮いているのだ。爆破は使っていない。超常が起きている。見ると緑谷、轟、麗日も浮遊している。
「ちゃうよ!」
「僕も!セブンスは使っていない!」
ワンフォーオールに眠る七代目の個性、浮遊によるものでもない。浮かず地に足をつけている飯田は聞こえないが何かを叫んでいる。
──浮上速度が速い!このままでは追いつかない!
ホークスは翼をはためかせ緑谷達を追う。しかし差は縮むどころか開く一方だ。
裂け目が近くなっていく。そこから放たれる閃光が一同の目を焼いた。
「マズイ!通過する!!」
それが最後だった。一同は目の前で点滅する光を見て、意識を失った。No.1の伝説のここで途絶えるのか。混濁した意識の中、緑谷は密かに涙を流した。
「……い」
───?
「ぉ~~い♪」
───────なんだ…暖かい…
「おい!いつまで寝てんだお前ら♪」
軽快な男の声が緑谷の意識を揺さぶった。体も感覚が戻っている。
「ハッ!!」
霞んでいた視界が少しずつ戻り、声の主を認識出来る。鋭く悪党のような目つき、ツンツンの銀髪、頬に刻まれた深い傷痕、
「あなたは……?」
緑谷は恐る恐るその男に名前を聞く。男は頭をポリポリ掻くと、
「俺は七つの大罪、