君を探して   作:有機物

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第2話

 

 今日も部室はキャイキャイと騒がしい。その最たる理由は、模試があるからだろう。

 

「ゆきのーん、ここ分かんない。やばいよー、どうしよう……」

 

「由比ヶ浜さん、落ち着いて。まだ時間はあるわ」

 

 由比ヶ浜は相当ヤバいらしく、慌てて問題集を解いている。その隣にいる雪ノ下は、落ち着いて由比ヶ浜に解説をしている。

 

「先輩、ここ分かんないです」

 

 一色は当たり前のように居座り、一緒に勉強している。時折分からない問題があると、俺にみせてくる。

 

「あー、俺も分からん」

 

 問題集の色的に多分数学なので、問題を見なくても分かる。その問題は、俺には解けない。

 

「なんでですかー?先輩去年習ったんじゃないんですか?」

 

 そう言われても困る。だって俺数学マジで無理なんだもん……。

 

「あの…ゆ、雪ノ下先輩って…数学出来ますか?」

 

 一色が躊躇いながら遠慮がちに問う。一応自己紹介はしたとはいえ、まだお互いのことをあまり知らないのだ。仕方ない。

 

「一応得意教科ではあるよ」

 

 一色の警戒心を解くためか、それともただのいい奴なのか、女子の心を一発でキャッチするような笑顔で答える。

 そんな雪翔の顔を見て、一色が大きく目を見開いた。

 

「あ……。あっ、じゃ、じゃあこの問題教えて貰ってもいいですか?」

 

「いいよ」

 

 しばらくぼーっとしていた一色だが、再起動したようだ。

 そんな彼女たちを見ていたが、俺にも大して余裕は無い。一日でもサボったら成績が下がりそうだ。

 

「あ、ありがとうございます。めちゃくちゃ分かりやすかったです!」

 

「それは良かった」

 

 そんな会話が聞こえてきた。どうやら一色の問題は解決したようだ。

 

「そっか、そういうことか!ありがとうね、ゆきのん!」

 

「どういたしまして」

 

 雪ノ下たちの方も上手く解決したようだ。

 

「……ねえゆきのん、結局進路どうしたの?」

 

 由比ヶ浜が探るように聞く。少し遠慮しているのだろう。しかし、そんな心配そうな顔の由比ヶ浜とは対照的に、雪ノ下の顔は晴れ晴れとしていた。

 

「私は国公立理系にしたわ」

 

「えっ!?」

 

 予想外だったので、思わず声を出してしまった。が、雪ノ下はそんな俺の反応に対し、髪を払って自信満々に、けれども穏やかな声音で語った。

 

「せめて…最後くらいは姉さんに勝ちたいから」

 

 「姉さんに勝ちたい」その言葉は俺の心に深く刺さった。ずっと負けてきた相手。いくら挑んでも勝つことが叶わなかった相手。いつかには、もう勝つことを諦めていたかのようにも思えた。だが、それでも、雪ノ下雪乃は最後まで勝負を挑むのだ。たとえどれほど強い相手であろうと、最後の最後まで挑み続ける。そんな心構えに、俺は尊敬の念を抱いた。

 

「そうか…まぁ、雪ノ下だもんなぁ……」

 

 そっとつぶやいた独り言に、雪ノ下が反応した。

 

「どういう意味よ」

 

 背中が凍えるほど冷たい視線を浴びせてくる。しかし、そんな視線にも馴れたもので怖くはなかった。

 

「いや、流石は負けず嫌いな雪ノ下だなって思っただけだ」

 

 そう、本当にそう思っただけだ。まあ、それ以外にも思ったことはいくつかあるが。例えば、具体的にはどこの大学に行くんだろう……とか。

 

「ヒッキーは私立文系だよね」

 

「そうだな。そろそろ具体的に志望校も絞り込んで行かないとなぁ……」

 

 俺としては今の学力で行けそうな大学で、実家からかよえればそれで十分なのだが、それだと満足しない奴がいるんだなぁ、これが。

 

「お兄ちゃん、下宿先なら小町がいくらでも探してあげるよ」

 

「いや、俺家出ねえから」

 

 全く、こいつはいつも俺を家から追い出そうとしてくるので困ったものだ。

 

「ちぇっ、つまんないの」

 

 ちょっとそこ、嫌そうな顔しないの!俺が傷ついちゃうでしょうが。

 

「あ、ユッキーは進路どうするの?」

 

「僕は…国公立理系、かな」

 

「へぇ…頭良さげだもんね。凄いなぁ……」

 

 そういえば陽乃さんは、地元の国立理系なんだよな。そこよりも上の学校って…雪ノ下は日本一の大学でも目指しているのだろうか。それならば千葉から出ることになるのだろうか。

 

「やっぱりみんなバラバラだよね……」

 

 由比ヶ浜が落ち込んだ声音で言う。まあそもそも学力やら諸々が違うのだから仕方がない。

 

「……三浦たちとは一緒じゃないのか?」

 

 ふと疑問に思ったことをそのまま口にする。そういえばこの前のマラソン大会ら辺に、三浦たちが今年も一緒に居られるよう、葉山の進路を頑張って探っていた。その俺たちの頑張りは報われるのだろうか。

 

「うーん、よく分かんない。優美子と姫菜とはワンチャンなれるかも〜って感じで、戸部っちとかは知らないんだよね。それで…隼人くんはあたしたちよりもっと上のとこ行くみたいだし」

 

 まあ、葉山が三浦たちとは全然違うレベルのところに行くのは図っと前から想像していた。それはもちろん三浦だってそうなはずだ。その辺は上手くやっているのだろうか。

 

「でも隼人くんさ、また隼人の進路あんま教えてくれない感じなんだよね。まぁ言いたくないだけかもしんないけど……。でもそれで優美子がちょっとがっかりしてて……」

 

 ああ、やっぱりそうなのか。でも別に葉山たちのグループがどうな郎が俺たちにはもう関係がない。由比ヶ浜は一応気にかけているみたいだが、どうにか出来るようなこともないだろう。葉山はこのまま自然消滅を狙っているようにも思える。

 

「葉山君の進路なら知っているわよ」

 

「え?」「は?」

 

 何気なく放たれたその一言に、つい反応してしまった。

 

「な、なんでお前知ってんの?」

 

「誰、誰から聞いたの?」

 

「え、マジ誰から聞いたんですか?雪乃先輩、教えて下さいよ」

 

 一人聞きたいことが違う奴が居る気がしたが、どうでもいい。いつ雪ノ下は聞いたのだろうか。それも誰から?まさか葉山と雪ノ下がお互い直接そんなことを言い合うような仲だとは思えない。

 

「別に聞いた訳ではないわ。ただ、そういう話になっているから」

 

 雪ノ下はつまらなげにそう応える。そういう話ってなんだよ。1ミリも分かんねぇよ。

 

「ゆきのん、ちゃんと教えてよ!」

 

 由比ヶ浜が雪ノ下の肩を揺すって尋ねるが、それでも雪ノ下は特に表情を変えることはない。

 

「私だって不本意なのよ……」

 

 ただ、悲しげにつぶやかれたその一言は、俺の頭に深く残っていた。

 

 

 

 

 

 疲れた頭を癒やそうと、部室から出て自販機へ向かう途中、葉山に出会ってしまった。お互い居るのは分かっているのに、話掛けはしない。しかし珍しい。こいつはとりあえず知り合いが居たら話し掛けるのかと思っていたのだが……。

 俺が小銭を入れようとしたとき、葉山もまた、小銭を入れようとして、ぶつかって来た。

 

「おい、なんだよ」

 

 俺が先に来ていたので、少し不機嫌さをあらわにしてしまった。

 

「えっ?……あ、比企谷。居たのか。悪い、気付かなかった」

 

 え?気付かなかったの?この距離で?ちょっとショックなんだけど。俺ってそんなに存在感なかったっけ。

 

「お、おう……。そうか」

 

「なあ比企谷。雪ノ下さん、何か言っていたか?」

 

「は?雪ノ下が何か言うのは別にいいだろ。何かなら言ってたぞ」

 

 俺がそう言うと、葉山が深くため息を吐いた。

 

「そういうことじゃなくて…俺のこと、何か言っていたかってことだよ」

 

「ああ、そういえば……」

 

 思い当たる節がある。葉山の進路のことなら言っていた。しかし、それが何なのだろうか。俺たちに言ってほしくないのなら、雪ノ下に口止めするだろうし、わざわざ俺に確認する事ではない。

 

「……お前の進路を知っている、って言ってた。でもそれだけだぞ?具体的にはなんも聞いてなくて」

 

「そうか……。ありがとう」

 

「え、あ、おう……」

 

 出し抜けにお礼を言われ、返答に迷っていると、葉山は軽く手を挙げてそのままスタスタとどこかへ歩いて行ってしまった。

 きっと彼は、俺から離れて遠くへ行くのだろう。俺も、由比ヶ浜も、三浦も知らない場所に。けれども、雪ノ下だけは確かに知っている場所に。

 

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