硝子の魔女 作:黒皮の手帳
「いい天気ですね」
「はい、雲一つありません」
「疲れはありませんか?
これから少しだけ忙しくなりますが、ちょっとぐらいなら休んでも……」
「お構い無く」
仮面のような表情に未だ変化の兆しはなく。
彼女を助けてから一ヶ月目が経った。
なけなしの金を使って彼女の生活必需な品物を買い占めた僕は、彼女の同意を受けて正式に下働きとして雇い、また精神的な病を患っている彼女の為にと細心の注意を払いながら日々を送っている。
行商人としての伝を頼って彼女の身元を探ってはいるが、結果は芳しくない。
当初はその美貌からやんごとなき身分の令嬢が裏稼業で拐われ、他国に売り飛ばされた、等と想像を膨らませたものの、それにしてはあまりに情報が出てこないので貧民街出身ではないだろうかとオットーは推測している。
快晴の空。
僕らは日常品と少量の雑貨類を揃えて、王都から地竜の足で半日という少し遠くの村まで訪れた。
僕の仕事に着いてきたいと彼女の方から進言があったのだ。
それまでは顔の腫れと傷の痛々しさから、両面に配慮してなるべく人目に触れないようにと、あくまで住み込みの下女扱いだったことに僕自身、罪悪感を感じていたこともあってそれを快諾。
「……オットーさん。自分は」
フードを被る彼女。
一ヶ月でだいぶマシになったとはいえ包帯の取れない場所は多く、やはり傷跡は残ってしまった。女性として傷跡が残るのは悲しいことだろう。医者は死んでもおかしくなかったのだから命があっただけでも御の字だと言っていたが、自分はそうは思わない。手や足など隠せる場所ならまだしも、彼女の傷跡の場所は――――顔だ。
オットーは頬に走る傷跡を気にしないように努めて、ニッコリと笑いかける。
「頼りにしてますよ」
竜車から降りた黒髪の少女は袖をまくり上げ、荷台から品物を次々と下ろしていく。
(……頼りにしてますよ、か)
オットーという人には一生をかけても返しきれない恩が出来た。
身寄りもなく記憶や一般常識すら欠如した、それでいて大雪の空の下、激しい暴行を加えられた痕を残して気絶する見るからに訳なりな女。
それをまるで、助けることに理由など必要ないとばかりに抱き上げる。
彼がいなければ自分はきっと死んでいただろう。
あの時彼が、一緒に働かないかと手を伸ばしてくれなければ、きっと体を売って金銭を得ていた。
(オットーさんの迷惑にならないようにちゃんと頑張らないと)
ふすんっと鼻を鳴らして木箱から品を取り出していく。