硝子の魔女   作:黒皮の手帳

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ラブ、ラブ、ユー

夕暮れの街道を一つの竜車が駆け抜ける。

窓からの街並みは瞬く間に景色を変え、興味なさげにカーテンをおろした彼女は柔らかなソファーに内掛け、あどけない笑みを浮かべていた。

 

あのリンガは美味しかった。

兎の形に切っただけ……だがとても心擽るものであった。

 

「――姫さん、今日は偉くご機嫌だが何かあったのかい?」

 

二体の地竜に繋がれたその竜車の手綱を握る御者は甲冑を被り、それより下は軽装という変わった格好をしていて、客席に乗る少女へと気だるげに問い掛けた。

 

「……そうじゃな。良いリンガ師を見つけた」

 

「リンガ師?」

 

「――あの娘の売り出したリンガは妾が今まで味わってきたどの甘味より甘く瑞々しい……そして何より美しかった。

まさにリンガの極致、その頂よ」

 

もはや、彼女の中であの女性をそこらのリンガ売りと横に並べて扱うことすら躊躇われた。彼女なりの敬意というやつだろう。

 

「アル、近日中にあの店のリンガを店主ごと買い占めてまいれ」

 

初めは白い実のリンガを赤く塗っているのかと物珍しさで近づいたが、やはりこの世界は妾にとって都合の良い方に出来ている。

 

次はどんな捌きを魅せてくれるのかと、令嬢――プリシラ・バーリエルは無邪気に微笑んだ。

 

 

―その日の夜―

 

「――へぇ、貴族に絡まれたんですか~それは災難でしたね」

 

干し肉の野菜スープに葡萄酒を夕食として頂いていたオットーと女は今日の出来事を語り合う。

結果的にリンガを三つ無駄にするだけで、余計な時間と気苦労を負った女とは違い、オットーはなんとメイザース辺境伯から油の発注で、その運搬を引き受けたらしい。

 

何でもメイザース領近くで商売をしていたら偶々帰還途中であった辺境伯と出会い、意気投合したばかりか成り行きでそのまま仕事まで頼まれたとのことだ。

 

「そんな目出度い事があったというのに私は……」

 

辛うじて赤字を免れたものの最近の売上で言えば最低値を叩きだし、メイザース辺境伯といえば王選候補者を抱える今の顔だ。注目の的であり宮廷魔導師としてかなりの地位を築いていると噂に聞く。

そんな御方とのパイプを繋いでみせたとなれば、夕飯を任されている者として腕によりをかけた御馳走を用意してしかるべきであろうにとがっくりと肩を落とした。

 

「別に貴方が気にすることでもありませんよ」

「…そうですね。せめて明日の夕食は今日よりマシなものを用意してみせます」

 

そう言うとオットーは「なら、楽しみにしてますね」。嬉しそうにはにかんで私も自然と笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

愛してる……

 

 

 

 

 

 

 

愛してる、愛してる……

 

 

 

 

 

 

 

 

愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる、愛してる…

 

それはそうと、今日は一段とうるさいな。

この声はいつになったら止んでくれるんだろうか?

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