咲-Saki- 天元の雀士   作:古葉鍵

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東場 第一局 十一本場

「さて、早速なんだけれど、白兎君は一局打ってみて私たちの打ち方に気付いたところはあるかしら?」

外の風に当たって気を取り直した優希が何事もなかったかのような顔で部室内に戻ってきてから。竹井先輩が先ほどの対局の感想を俺に求めてきた。

俺は先ほどの対局を思い出しながら考える。

実を言うと最初は皆の打ち筋を観察するために様子見するつもりだったのだが、優希の挑発と部長のけしかけのため勝負を早々に終わらせてしまったので判断材料が少ない。

「うーん……正直、一局打っただけでは何とも。ただ、優希は鳴かれると途端に調子を崩す傾向がありましたね。調子良く打ててるときは爆発力がありますが、意図的に流れを変えられると挽回する手立てに乏しい。そんな感じかな」

「なるほど、短い勝負だったけれど、さすが良く見てるわね白兎君」

「いえ、根拠にそれほど自信があっての指摘ではありませんよ。あくまで今の一局だけで読み取れたものでしかありませんから。それはそうと、過去の牌譜ってあります? あるようでしたら見せていただきたいんですが」

日常的な対局まで全て記録しているとは考えにくいが、上を目指して麻雀に真摯に取り組んでいるのならばある程度は持っているはずだ。もしないのなら指導の為にもこれから記録してゆく習慣を強制しなければならない。話はそれからだ。

しかし、竹井先輩なら抜け目なく牌譜を揃えているだろうという予感があった。

そしてその予感は的中する。

「ええ、勿論あるわ。牌譜はパソコンで管理してるの。指導に必要ならプリントアウトしようか?」

「いえ、ざっと目を通せれば十分なので。ディスプレイで見せてもらえますか」

「了解。パソコンは見て解るようにこれね。どのフォルダに牌譜置いてあるか今教えるから来て」

部室入り口から見て右手の壁際に机があり、その上にデスクトップパソコンが鎮座している。

俺を手招きしてディスプレイが見える位置まで呼び寄せると、竹井先輩は椅子に座りパソコンの電源を入れた。OSが立ち上がり、慣れた操作で牌譜ファイルを呼び出す。

「これね。4人打ちできるようになったのは今年4月からだから、量は少ないけど。ああ、各人の過去平均点数グラフも出しておくわね。ちなみに牌譜作成用のアプリはこちら。部室のパソコンは好きなときに使っていいから」

「ありがとうございます。それでは早速見せてもらいますね」

「うん、よろしくね。時間はかかりそう?」

「見た感じそこまで量はないし、それほど時間もかからないかと。遅くとも今日の部活が終わるまでには結論を纏めておきますよ」

「そう? じゃ、終わったら声をかけて。皆を集めるから」

「はい、わかりました」

実務的な会話に終始しながら、竹井先輩と席を替わる。

俺が牌譜に目を通し始めたところで、背後の雀卓では馴染みの部員たちによる本日2回目の半荘が始まろうとしていた。

1回目の面子から俺と竹井先輩が抜け、のどかと京太郎が加わった面子だ。

俺が二人いればそちらも観戦して今後の指導の参考に出来ただろうが、生憎俺は一人しかいない。背後も気になるがまずは牌譜確認からだ。麻雀のように何事も必要なものから取捨選択して要領よくやらねばならない。

「ツモ! 三色ドラ1、2000に3900だじぇ!」

背後の麻雀では先ほどの敗戦の鬱憤を晴らすかのように、序盤から優希が飛ばしているようだ。

威勢の良い優希の声を聞きながら、俺は先ほどの対局と牌譜から読み取れる情報である想像をしていた。

優希はもしかしたらギフト、ないしはセンスの持ち主かもしれないと。もしそうであれば東場だけやたらと調子が良い理由も解るし、今後の指導で方向性を与えられる。

ここでいうギフト、センスというのは、俺がこちらの世界に転生してから麻雀を打つ内に気がついた、不思議な能力のことだ。オカルト的超能力と言い換えてもいい。

もちろん名称や定義は一から十まで俺の想像や解釈、極端に言えば妄想によるものでしかなく、学問的な根拠に著しく欠ける内容であり、一般的な知識や認識ではない。

前の世界では極論すると、デジタル的な打ち筋が一番安定して強かった。何が言いたいかというと、麻雀を打っていて「異常」だと思えるような打ち手はいなかったし、突き詰めれば運の偏り、個人差でしかないと納得できる程度だった。

だが、こちらの世界に転生してからというもの、俺は自分の不思議な能力に気付くこととなった。自分で言うのも気恥ずかしいが、まさしく超常と言っていいレベルの「力」だ。配牌の流れを操り、対局者の力と手牌を洞察し、幸運を引き寄せる天与の才。

そしてそれは俺だけに備わっている資質ではなく、程度の差はあれ他人も持ち得てる能力だということが、転生後これまでに麻雀を打ってきて解ってきたのだった。

俺が認識し定義した二種類の才能。

一つは、「ギフト」。これは、その人間が先天的に備えている超常的資質のことを指す。その内容は様々だが、特徴を挙げると、「努力で伸ばすことはできるが後天的に身に付けられる類の才能ではない」「道理を曲げた結果を出せる」「霊視するとギフトだとわかる」の3つだ。(最後の霊視云々というのは、俺が所有するギフトで判断できる)

ギフトを所有している人間は非常に少なく、俺以外では今のところ3人しか知らない。ちなみにそのうち一人は俺の妹だったりするが。中学1年になった俺の妹も麻雀部に入るとか言ってたから、ギフト全開したら案外1年生から全国大会優勝とかするんじゃね? なんてことを現実的に考えられるほど、ギフトホルダーは強いってかヤバイ。だって道理通じないんだもん。

何を言っているかわからねーと思うが、俺も何をされたかわからなかった……積み込みだとかガンパイだとか、そんなちゃちなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……を地で行く能力がギフトだ。

二つ目は、「センス」。これは、本人の性格や資質が麻雀になんらかの恩恵をもたらしている能力のことだ。後天的に身に付けることができる能力であり、虚仮の一念岩をも通す、の如く強烈に積み上げられた努力や思念が幸運を引き寄せたり、強いものだと超常的ともいえるほどの効果を発揮する。ゆえにギフトの定義とは共通項があり、麻雀で有利に働く超常的能力という広義ではセンスもギフトも同じ能力と言えるのだが……

俺自身がギフト持ちであり、霊視というギフトを持つがゆえに実感として言えることだが、ギフトとセンスは「似て非なるもの」なんだよな、明らかに。ニュアンス的に言うと、ギフトは掛け算だがセンスは足し算、みたいな。どちらもプラスするものだがその過程と結果は全く違う。

だからといってギフトホルダーにセンスしか持たない者は勝てないか、明確に優劣がつくのか、とは相性もあるしで必ずしも言えないのだが、基礎の雀力が同程度であれば、基本的にギフトホルダーに持たざる者は勝てないほどの差が生まれると言っていい。

まぁ、何でもかんでもデジタル的に比較できるものでもないんだが。麻雀は1対1で打つものじゃないからギフトホルダー以外が結託すれば対抗もしやすいし、その分紛れの余地が大きくなる。それに調子の良し悪しもあるし、またギフトも完全無欠ではなく、何がしかの制限があったりするしね。

とりま、そんなわけで優希はギフトホルダーかセンスユーザーかと思ったわけだが……

興味あるし、ちょっと「視て」みるか。幸い、今は俺のこと誰も注目してないし、ちらっと背後を見るだけなら誰も俺の「目」には気付かないだろう。長く付き合っていればいずればれることだが、そのタイミングくらいは適切に計りたい。

瞼を閉じ、意識を目に集中する。脳内にあるイメージのスイッチを押し、見たい世界のチャンネルを切り替える。「我が瞳は幽世映し出す鏡にして森羅万象見通す浄眼なるかな」

瞼を開ける。視界の全てに薄青の膜がかかっている。おし、問題なくギフトが発動した。

今、俺の瞳の色は蒼くなっているはずだ。これが俺のギフトの一つ、「天理浄眼」。この世ならざる物、霊的な存在を視認できる神秘の瞳だ。別名「鬼の眼」とも呼ばれ、古来よりこの瞳を持つ者は超越的な霊的資質を有するとかなんとか。まぁ除霊術だの魔術といったオカルトは知らんし習う気も関わる気もないからどうでもいいんだが。ちなみに中二っぽい呪文や名前はギフトを発動させやすくするための自己暗示のようなもの。

この眼の一番便利なところは、他人のオーラが一目で見えることだ。オーラとは、個人の体を覆っている不定の靄のようなもので、その色や輝きで感情や意志、果ては体調までと、様々な内面的情報を読み取ることができる。

麻雀で使うとある意味ガンパイ以上に視覚的情報を得られるものだから普段は使わない。だってインチキすぎるもん。だけど相手がギフトホルダーだったりセンスユーザーだったりする場合は使うこともある。超常能力を使うって意味では程度の差はあれ土俵が同じだしね。

また、ギフトやセンスが能力を発動させている場合、それがどういう力なのか”視える”。その能力がどのような法則の下でどのような働きをするのかをほぼ正確に見通し、理解することができるのだ。そして、この天理浄眼を発動させている限り、見破られたギフトやセンスが俺に影響を及ぼすことはできなくなる。まさしく”破邪”の力を秘めた魔眼なのだ。はいはい厨二病厨二病。いや、邪気眼乙と言うべきか?

どれ、優希はっと……

ちら、と顔だけ振り返って優希の横顔を見、数秒程度眺めた後にまたディスプレイに向き直る。

大体は解った。優希の能力はギフトではなく、センスのようだ。まぁギフトホルダーなんてそうそういるわけもないんだが。何万人に一人とか、下手したら何十万人に一人とか、恐らくそういうレベルだ、ギフト持ちの希少性は。

それはともかく、優希のセンスだが、どうやら場を支配する類の能力のようだ。別の言い方をすれば、自分の置かれている状況において望む結果を引き寄せる能力……かな。麻雀だと配牌が良くなるとかそういう効果をもたらすだろう。強力なものになると他者の行動や判断思考にまで影響が及ぶほどになるが、センスでそこまでの効果は望めまい。「場を支配する」、この手の能力は有形無形に汎用性があり強力なのだが、その代わりに大体何がしかの制限があったりする。

優希の牌譜と過去の平均点数グラフを見る。ここから導き出される推論は、「東場では強いが南場では失速する」センス、ということか。いや、この定義は正しくないな。多分、「東場のみで場の支配力を発揮する」センス、が正解か?

いずれにせよ優希の指導方針はこのセンスを伸ばし、活かしてゆく方向で決まりだな。

早速固まった考えに気を良くした俺は、再び牌譜の確認と指導方針の思案に没頭するのであった。

 

 

「はいはい、みんな静粛に!」

竹井先輩がぱんぱん、と拍手を打って皆の注目を集める。どうでもいいがこの光景を見るのは今日2度目だ。

俺の牌譜確認は思っていたより早々に終わり、指導方針も概ね結論が出たのでその旨を竹井先輩に伝えた。竹井先輩と相談してから皆に話すべきかとも考えたのだが、「必要なら後で相談しましょ」ということで、まずは俺だけの考えを発表することとなった。

結局、同じ面子で半荘2回を行ったのどかたち4人は疲れもあってか雑談に興じており、その話題の中心は俺とのどかの馴れ初めのことだったりする。

気になる話題だったので多少注意を向けて聞いていたが、最初は黙秘を貫こうとしていたのどかに業を煮やした優希が俺に話を振ってきたので、作業の邪魔になると気を使ったのどかが不承不承話し出したのだった。

俺としては別に余人に聞かれて困る内容でもないので放置していたのだが、俺が女装していた件のくだりで「えぇー!?」と驚愕の声があがっていた。まぁ無理もないと思う。

「あの写真の美少女が白兎!? マジすか!」とか、「生まれてきた性別明らかに間違えてるじょ」とかね。余計なお世話だ。

そんなこんなで盛り上がっていたところで、俺のターンが来たわけだ。

「それじゃ、白兎君からこれからの皆の指導について発表があります。白兎君、お願いね」

「はい」

皆が静まったのを見計らって竹井先輩が俺に発言を促した。

部員全員の視線が俺に集まるのを感じる。

「えー、とりあえず暫定ですが、皆さんの牌譜を見せていただいた上で、気付いた点を説明しながら話していこうと思います。一人ずついきますので、疑問な点などあれば話の後に質問をどうぞ。よろしいですか?」

ややかしこまって言う俺に、特に異論はないのか皆沈黙で了解の意思表示を示している。

「それではまず部長から。基礎雀力についてはなかなかのレベルです。もちろんまだ向上の余地はありますが、アマチュア基準なら十分高いと言えます。欠点を挙げるとすると、オリるべき局面の見極めが甘く避けられるはずの放銃(振り込んでしまうこと)が散見されるのと、序盤における牌の取捨選択が合理性をいささか欠くところですね。また、役作りに関しては柔軟な切り替えが出来ているところは評価できるのですが、時折、それが行き過ぎて役作りに迷走している場合も見受けられます。以上のことを踏まえて、今後は攻守の見極めと切り替えのメリハリを適切に行えるよう指導していくことを考えています。もちろん基礎雀力についても細かい部分を個人指導しながら伸ばしていくつもりです。以上、部長は何かご質問ありますか?」

「いえ、特にないわ。むしろ、よく少ない牌譜でそこまで見極められるものだと感心しきりよ。これからご指導御鞭撻よろしくお願いします、先生」

ややおどけたように言う竹井先輩。どうやら俺の指摘と指導方針に満足いただけたようだ。雀力と指導者としての力量が比例するとは限らないが、竹井先輩は俺の指導者としての資質も認めてくれたのだと思う。信頼を裏切らないよう頑張らねば。

「はは、こちらこそですよ部長。ところで、1点だけこちらからお聞きしたいところがあるんですが、よろしいですか?」

「あら、何かしら?」

「高い役や良形のテンパイが出来たときなどでたまに悪い待ちを選択しているようですが、理由あってのことです?」

悪い待ちになる代わりに高めを狙えるとかならいざ知らず、牌譜で確認できる範囲ではそうした理由が見当たらないのだ。折角の高めの四門張(○門張…○めんちゃんと読む。テンパイ時、和がり牌が○枚あるということ)ができるのに、それを捨ててわざわざ単騎待ちでテンパイしてたりする。初心者がやるならまだしもわかるが、部長レベルの打ち手が意味もなく行うはずはない。

「ああ、それはね……。もちろん理由があることなのだけれど、それを聞いても理解できないかもしれないわ。それでも?」

竹井先輩にしては珍しく歯切れが悪い物言いだ。俺は頷いた。

「ええ、聞かないことには判断できませんので、できればお願いします」

「わかったわ。私が悪待ちをたまにするのは、勿論それが必要だと思ってのことよ。合理性から言えばおかしい打ち方だと言う事もわかってる。ただ……経験則の話になるんだけど、良い待ちでは和がれないことが多くてね……。悪い待ちの時ほど和了れる感じがするのよ。だからかな」

「ふむ……」

なるほど、理解した。実際にその悪待ちをする場面を見せてもらわないと断言は出来ないが、ギフトやセンスに依るものと仮定すればそういうこともありえるだろう。悪待ちという制限がかかる代わりに高確率で和がれる、そういう能力かもしれない。

それに、合理性に則った待ちだと手が広い分和がりやすいと考えられるが、別の側面から言えば他人に読まれやすいということでもある。その見方で言えば悪待ちは意表をつけるとも言えるので、選択としては悪くないという理論の補強もできる。

その際の和了率を見る限りでも竹井先輩のそれはスタイルとして成功しているので、止めさせたり無理に手を加えるよりは、そのまま伸ばしていった方が良い結果を生むだろう。

「わかりました。それはそのままで結構です。今後もそのスタイルは維持してください」

「そう? 理解してもらえて嬉しいわ」

俺があっさり了承したのが意外だったのか、疑問符をつけたものの、すぐに翻して笑顔で頷いてくれる竹井先輩。

しかしそこで、竹井先輩ではない第三者が食いついてきた。

「そのままでいいんですか!?」

のどかだった。

あー、確かにのどかはデジタル打ち主義だし、理解できない気持ちは解る。俺や竹井先輩を信頼していないわけじゃないんだろうけれど、ギフトやセンスの存在を知り、麻雀理論に取り入れている俺のようにはあっさり認めがたいのだろう。

だけど、なんでもかんでも合理的に行えばいいってものでもないし、何事につけ固執するのは弊害が多い。

「うん。部長はそのスタイルで結果も出してるし、合理性で言えば確かにおかしく思えるかもしれないけど、これはこれでいいと思うよ」

「それは……偶然です。一時的なランダムの偏りを流れとかジンクスだと思い込んで心縛られてるだけだと思います」

余程認めがたいのか、落ち着いた口調だがしかし、一歩も退かないぞという意志がかいま見える。麻雀のこととなると、のどかは頑固になる性質があるようだ。

「世の中にはいろんな考え方の人間がいる。麻雀においても、デジタルな打ち方で運に頼らず長期的な視野で勝率を上げようとする人もいれば、流れがあると信じたりツモ牌に意味を見出す人もいる。はたまた超能力めいた不思議な和がりを連発するような存在までいたりするんだ」

「一理ありますが……超能力だとか、そんなオカルトはありえないと思います」

「じゃあ聞くけど、さっき俺が打ったときに大三元を和がったのはのどかの目にどう映った? 直接見てはいないだろうけど、全国大会で6回もの役満、しかも全て大三元という結果をどう考える?」

「そ、それは……確かに偶然、幸運だと言い切るには出来過ぎた結果だと言わざるを得ませんが……」

「何もオカルトの存在を一から十まで信じろと言うわけじゃない。ただ、人それぞれには最善と思うやり方があるってことさ。そしてそのやり方で結果を出しているのなら、理解はできなくても認め受け入れるべきだと俺は思うよ」

「…………」

強い言葉ではないが、のどかと意見が対立するのは俺としても心が痛む。だけど、好意を寄せた相手だからと手加減したり妥協したりするのはお互いの為にならない。そういうところは俺も大概頑固だなとは思うけど、仮に俺がのどかの恋人だったとしても、麻雀部の指導者と私人としての立場はきっちり分けて行動しないと他の部員の信頼を失うし、ろくな結果にならないだろう。

「私もね、ほんとは理論どおり打ちたいんだけど、のどかほど頭も良くないし”ここ一番”って勝負では悪い待ちにしてしまうの」

空気が剣呑になりかけているのを察した竹井先輩がとりなすように会話に介入してくる。流石のタイミングだ。

「大事な勝負だからこそ、その1回の勝率を上げるための論理的な打ち方をするべきなのでは……」

竹井先輩に視線を移したのどかは、持論を諦めていないのか、竹井先輩にターゲットを変えて説得を試みる。

確かに当事者である竹井先輩をそっちのけにして第三者が良し悪しを討論しても不毛ではある。

「じゃああなたは……たった1回の人生も論理と計算で生きていくの?」

なかなか上手い論理のすり替えだ。そういう切り替えしが出来る竹井先輩も十分以上に頭が良いと思う。

「そっ……それとこれとは話が違いますし……小学校の先生とかお嫁さんとか色々なってはみたいですけど……じゃなくって!」

思わぬ反撃に動揺したのか、年齢にしては幼気だと言わざるを得ない将来の夢をうっかり暴露するのどか。可愛いさすが天使ちゃん可愛い。

「麻雀は1回きりじゃないですよ」

「そうね……でも私にとって……インターハイは今年の夏1回きりなのよ」

「…………」

「それにねぇ、白兎君が言うように悪い待ちにしても結果を出せてる。それがオカルトだとは思わないけど、いつも勝っちゃうのよね」

勝負ありかな。これ以上意見をぶつけあっても建設的な話し合いにはなるまい。

のどかには悪いが、部の指導層二人が同じ考えを支持してるのだから、不満でもここは収めてもらうしかない。

「ま、承服しがたい気持ちも解るし、無理に納得しろとは言わないよ。俺や部長の考えが正しいかどうかは、今後の結果も見て判断して欲しい。のどかの言うとおり悪待ちが明らかなマイナスに繋がったなら、そのときは俺も部長も考えを改めるからさ。な?」

「……はい、白兎さんがそこまで仰るのなら……信じます」

「ありがとう、のどか」

にこっと微笑みかけると、のどかはぼっと火が着いたように頬を紅潮させて俯く。可愛い。

ふと横を見ると竹井先輩がにやにや笑っている。

「あらあら、悪い男ね君は。部内恋愛大いに結構だけど、ちゃんと責任は取るのよ?」

「せっかく話が落ち着いたのに茶化さないで下さいよ」

軽く竹井先輩を睨むと、竹井先輩は肩を竦めて「ごめんなさい」と謝った。どう見ても確信犯です本当にありがとうございました。

「こほん。とりあえず部長については以上で。細かいことはおいおい話し合っていきましょう」

「はーい」

先生と生徒の関係を演出したつもりなのか、可愛らしく間延びした返事をする竹井先輩。

普段のキリッとした印象の竹井先輩がこういう態度を取るとギャップでクるものがあるな……ギャップ萌えってやつ?

あざといさすが竹井先輩あざとい。

なんてアホな所感は置いといて、次は染谷先輩だ。

「えー、では次。染谷先輩」

「ほいじゃあよろしくの」

小さく片手を挙げて応じる染谷先輩。気さくな人である。

「染谷先輩ですが……基礎雀力は部長と同様、アマチュアとしては高いレベルです。攻守のバランスも良いですので、方向性としてはこのまままっすぐ実力を伸ばしていきましょう。次に欠点についてですが、特定のタイミングで妙な打ち方をしているというか、中盤あたりから打ち筋が乱れてますね? 中盤以外でも、早い巡目でリーチされたときや鳴かれた際などもそれが顕著なようですし。察するに対局者の手牌を意識してのことでしょうが、意識しすぎて早々に勝負を諦めたり捨て牌の選択を誤っているケースが目立ちます。常に他者の手の内を読み、放銃を避けるという意味では良い姿勢なんですが、もう少し打ち方に主体性を持った方が良い結果に繋がると思います。とはいえ、放銃を避ける、即ち防御という点では結果も出せていますので、染谷先輩が今までのスタイルを貫きたい、と希望するのでしたらその意志を尊重します。あと、これは欠点というわけじゃないんですが、ただの偶然か手牌が染まりやすい傾向にありますね? オカルト云々の話を蒸し返すつもりじゃないんですが、合理性追求以外の打ち方としてそうした特性を活かすスタイルを取り入れるのもいいかもしれません。打ち筋を手広く習得するのは良い面ばかりとも限りませんが、同じ打ち方しかできないと、洞察力のある相手からは読まれて逆用されかねないという可能性に繋がります。意外性の一手を得ることはそうした際にプラスに働きますよ。概ね以上です。何かご質問は?」

できるだけ簡潔にまとめたつもりだが、大雑把すぎる指摘では説得力もないし理解も得られない。結果としてそれなりの量になるため、一息に話すというよりは、ゆっくり目の口調できちんと話が相手の頭に浸透しているかを判断しながら喋っているつもりだ。

眼鏡っ娘だからってわけじゃないが、染谷先輩は知的な感じだし理解してもらうのに苦労はなさそうだが、問題はあとに控えている優希と京太郎なんだよな。

「よくもまぁ、牌譜だけでそこまでわかるもんじゃ。指摘に異論はないけぇ、指導はよしなにの。ああ、具体的にどうすれば、とか考えてるんけ?」

「そうですね……対応力を高めるために、色々な打ち筋の相手と打つのがベターだと考えています。例えば、プロ級の実力を持った上級者とか、麻雀始めたばかりの初心者とかね。実力の近い、中庸の相手と打つだけでは得られないものが身につくと思いますよ。その場合、問題があるとすれば、そういう相手とどうやって打つか、ですが。まぁ、これからはできるだけ俺と打ってください。完全に実現できるかはわかりませんが、バリエーション豊富になるよう工夫して打ちますので」

「なるほど、世話をかけるの。よろしく頼む」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

俺は頷き、染谷先輩の指導について話を終える。

「それでは次、優希君廊下に立ってなさい」

「真顔でいきなりボケるなだじぇ!?」

うん、いいね。ナイス突っ込みだ。

誤解しないで欲しいんだが、別に優希が相手だからと手を抜くわけでも、不真面目なつもりでもない。ただ、優希相手の場合は少し肩の力を抜いて接した方が理解を得やすいと思うんだ。って誰に言い訳してるんだ俺は。

「すまん冗談だ」

憤慨する優希を「まぁまぁ」と手で宥め、今度こそ真面目な話に移る。

「気を取り直して。まず、優希の雀力についてだが、正直先輩方に較べるといささか見劣りする。打ち方にかなりムラがあるし、振り込みも多い。その分短所を挙げるとそれなりの量になるので、特定の欠点を指摘して改善するというより、基礎雀力をひたすら鍛えるという方針が有効だと思う。簡単に言うと、個人指導を重点的に、かな。良い面としては、東場だと運にも恵まれるのか、南場に較べれば適切な打ち回しもあってかなりの爆発力を発揮する場面が多い。この長所は得がたい資質だと思うので、東場で徹底的に稼げるよう、集中力と思考力を鍛えていくべきだと思う。それでは、そのために有効な手立ては何でしょう、はい優希君答えをどうぞ」

別にからかったり意地悪のつもりで話を振ったわけじゃない。優希の性格だとただ単に聞いてるだけの授業は効果が薄いと見たからだ。ある程度刺激を与えつつ、自分で考えを深めるよう誘導した方が良い。

「えぇ……そんなのいきなり聞かれてもわからないじぇ……」

「せめて考える努力くらいはしてくれ」

「うーん……牌で石積みするとか?」

「…………」

集中力を養うという意味では間違っちゃいないけどな。しかし何と言うか、雀士にあるまじき思考だな、牌で石積みて。麻雀は確かに遊戯だけど、牌を他の用途に使って遊ぶなよと思う。

何とかの考え休むに似たり、とでも言うべきか。何にせよ俺を絶句させられる優希は只者ではない。もちろん悪い意味でだが。

「雀士としてそれはどうなのって感想がないでもないが、集中力を鍛える方法としては悪くない。だけど、それよりもっと良い鍛え方がある。もったいぶってもしょうがないのでずばり言うが、勉強しろ」

「ほへ? 麻雀の勉強ってことか?」

「すまん、言葉が足りなかった。学校での勉強のことだ。数学なんて特に良いな。数理的思考を鍛えるのは基礎雀力を高めるのに繋がるし、眠い授業を我慢して授業に臨むのは集中力を鍛える。もちろん、自宅学習も有効だ。成績も上がって一挙両得だぞ? というわけで頑張れ」

「ええぇぇ……それは正直勘弁して欲しいじょ」

心底嫌だといわんばかりに顔を歪めて憂鬱そうに言う優希。

「まぁ俺は先生じゃないし、どうしても嫌なら強制はしない。けど、そんな甘えた根性では強くなれないし、それどころか、京太郎にも差をつけられて部内最弱、なんてことにもなりかねないよ?」

「うぐ……」

さすがに部内カースト底辺は嫌なのか、優希は苦々しい表情で呻き、黙り込む。

「何も勉強だけやれって言うわけじゃない。基本はあくまで麻雀を打ちつつの個人指導だしな。副次的な鍛え方として、普段の授業や生活において”自分を鍛えるチャンス”と意識して臨めばそれだけでやる気が出て効果も上がるだろうって話さ」

「あい……頑張るじょ」

俺のフォローに少しは気を取り直したのか、意気消沈している様子なのは相変わらずだが返事は前向きだ。何がしかの課題やノルマを言い渡されなかっただけマシだと思っているのかもしれない。

甘いと思うなかれ。勉強が苦手な人間に無理やり課題を押し付けても効果は低いだろうしな。勉強を好きになれとは言わないが、自発的に取り組む意欲を持ってもらわなければ長続きしない。最悪、勉強嫌いが高じて麻雀に対する熱意を損ねかねないし。

辛く苦しい勉強を強制されてまで麻雀やりたくないよ、ってね。そうなってしまったら本末転倒もいいとこだ。

「ああ、そういえば。先の優希との対局で気付いたんだが、鳴かれたりして場を荒らされると途端に調子を崩すのな? 多分、集中しすぎて視野狭窄に陥ってるというか、自分にとって都合の良い”流れ”を脳内で作り上げてるから、そのイメージが崩されたとき対応が拙くなるという感じだと思うが。一言で言うと対応力が低い。その辺の改善も今後の課題かね」

牌譜確認とはまた別の、直接打つことで感じた優希の弱点を思い出し、それも付け加える。

耳に痛い話を続けられたせいか、優希は弱々しく「あーい……」と呟くのみ。こいつ、案外打たれ弱いな。メンタルも鍛えてやらないとセンスを活かせないどころか、強力なギフトホルダーと当たったらそのプレッシャーで勝負の前から投了しかねないぞ。

ある程度実力をつけてきたら、全開の俺と打たせて強者のプレッシャーに慣れさせないとな。

メンタルトレーニングの必要性について、口には出さなかったが今後の指導に混ぜていこうと心に決める。

「さて、次の方にいきます。原村のどかさん」

「は、はい!」

いよいよ自分の番だと期待と気負いがあるのか、真剣な表情で返事をするのどか。その様子が微笑ましくて、ついくすっと笑ってしまう。

「はは、そんな大層な話じゃないから、そう構えないでもう少しリラックスしていいよ」

「あ、はい……す、すみません」

のどかは恥ずかしげにはにかむと、肩の力を抜くためか目を瞑って小さくふぅ、とため息をついた。しつこいようだがそういう仕草の一つ一つが可愛いってか男心をくすぐるんだよな。GJ!

「うちのときと全然態度が違うじょ……」

外野うるさいよ。

「こほん。えーと、のどかの雀力はアマチュアとしてかなりのレベルにある。言い方は悪いが弱いプロとなら十分に渡り合えるほどだ。デジタル打ちとしてのスタイルもほぼ確立されている。なまなかな相手じゃ太刀打ちできないだろう。だが、より高いレベルを求めるならば当然欠点もある。まず、判断ミスがそれなりにあること。部活動における普遍的な一局、ということで気を抜いてたりするからかもしれないが、デジタルを徹底しきれてない。別の言い方をすればデジタル打ちとして完成度が低い。この点については基礎雀力を高めることを考えるより、思考力や頭の回転を良くする目的の鍛え方をした方が効果的だと思う。ここまではいいかな?」

「はい、わかりました。特に異論はありません」

素直に頷くのどか。

俺の台詞の前半、褒めている部分のときは面映そうにしていたのどかだが、後半の欠点の指摘からは真剣な表情で聞き入っていた。うん、真面目な生徒は教え甲斐があるね。

「それでは続き。ここで質問だが、のどかは自分に最も足りない要素が何であるかということを考えたことはある? まぁのどか限定じゃなく、デジタルの打ち手にはままある欠点、傾向なんだけど」

「えっ? ……いえ、深くは考えたことありませんが……」

のどかは「うーん……」と下顎に手を当てて考え込む。

10を数えるほど考え込んだ後、やや俯き加減の顔を上げて答える。

「自信はありませんが……デジタルな打ち方だと手の内を読まれやすい、ですか?」

「うん、それも正解の一つだね。合理性に則った打ち方は誰しもが理解しやすく既知の論理であるがゆえに、手牌の組み立ても読まれやすい。特に高レベルのデジタル派同士の対局だと、お互いが手の内を高精度で読み合うために流局が頻発し、千日手になりやすい。結果としてデジタル派としては皮肉なことに運の要素が勝敗に直結したりする」

「そうですね、確かにその通りです」

これまでの麻雀歴でそうした体験があるのか、のどかはこくりと頷いて同意を示す。

のどかはそこで何かに気付いたかのようにはっとした表情を浮かべ、口を開く。

「正解の一つ、ということは、白兎さんの本来言いたいことはそれではないと?」

「そうだね。俺が言いたかった正解、それは何か……デジタル打ちを徹底すればするほど気付きにくい、考えが及ばないある大事な要素があるんだ。簡単に言うと”対局者のコントロール”だよ」

「対局者の……コントロール?」

腑に落ちない、といった様子で小首を傾げるのどか。まぁあっさり理解できる、気が付く類のことならわざわざ指摘することではないので無理もないが。

「デジタル打ちというのは、他人に対しては受動的なんだよ。極端な言い方をすると場当たり的と言えばいいのかな。勿論デジタルは何手も先の可能性を考慮して打つものだけど、その判断において参考としてるのは、自分のツモ牌と他人の捨て牌だけだ。自分の手牌を合理的に構築する傍ら、他人の捨て牌から情報を読み取って被弾を抑え、役を作る。それを徹底すればするほど、自分が直接的に行える、知りえることのみに思考や手段が埋没し、限定されてしまうんだよ。結果的に”他の対局者を操る”という意識が欠落するケースが多いのさ。具体的にどういうことかというと、他の対局者の思惑、しようとしていることを読み取って、局面が自分に有利になるよう誘導するって手法に考えが及ばなくなる。わかるかい?」

「えっと……論理を理解はできますが、それがどのような弊害や必要性を生むんです?」

「そうだね……例えば、配牌が悪く、自分が和がれそうにないときに点数トップの対局者が高めの親リーチしたとする。この場合、デジタル派の打ち手が考え実行する選択はオリて振り込まないようにする、となるだろう。ここまではいいよね」

「はい」

「でもそのやり方だと、自分は振り込まないかもしれないが、他の対局者が放銃するかもしれないし、リーチから長引けば長引くほどトップがツモ和がりする可能性も高まる。いずれにせよ、自分とトップの差は拡がりこそすれ有利にはならない。そうだよね?」

「そうですね」

「だがここで、安手の一向聴だが鳴ければテンパイできる手牌の対局者が他にいたとして、自分はその手の内を読めてたとしよう。ならばどうする? 簡単だ。どうせ和がれずオリるしかないなら、自分の手牌からその対局者に鳴ける牌を提供してやればいい。その結果、安手でその対局者が親リーチしているトップより先に和がれれば、相対的にトップとの差は縮まるし親も流れて有利になる。極端な話、他対局者のテンパイが安手だと確信があるなら、わざと振り込んでやってもいい。要するにそうした他人の望んでいることを読み取って、自分が有利になるよう行動や選択を誘導する、という手法のことだよ。上級者になればなるほどこの要素が大事になってくる」

「なるほど……よくわかりました。確かに、私は他人の和がりを誘発して自分の有利に運ぶ、なんてことは考えたこともありませんでした。自分が和がり、他人には振り込まない。そのためにはどうすればいいか、ただそれだけを追求して……」

俺の言いたい内容を理解したのどかは、これまでの自分の打ち方を自省するかのように気落ちし、俯き加減に小声で喋る。

「勿論、和がりを誘発するだけじゃない。時には迂遠であっても捨て牌を工夫し、他の対局者に手の内を誤認させて自分の望む牌を捨ててくれるよう誘導するとかね。もっともそこまでいくとデジタルの打ち方とは相容れなくなるけど、先の話にも出たようにデジタル一辺倒だと読まれやすいから、そういう手法も身に付けておいた方がいいってことね」

「はい」

「まあ……相手の思考を読み、誘導するって手法も良いことばかりじゃない。必要以上に重視しすぎると振り回されて逆効果になりかねないし、その手法に慣れてないデジタル派が、その手の熟練者に対して軽率に行うと、”相手の思惑を読んで誘導しようとする自分の思惑を読み取られて逆用されかねない”こともある。ここまで行くともはや心理ゲームだね。もしのどかがそういう腹芸は苦手だと思ったら、あえて他人の思惑には我関せず、デジタルを貫いた方が良い結果を出せるかもしれない。なんだかさっきまでと言ってることが違うようで混乱させるかもしれないが」

「は、はあ……なるほど、奥が深いんですね……」

呆れたような、感心したような表情になるのどか。

「そのあたりは今後の指導で俺がよりよい方向性を見極めていくつもりだから、今回の話は参考までにということでひとつ」

「は、はい。よろしくお願いします」

言って、のどかはわざわざ雀卓の椅子から立ち上がったかと思うと、両手を前で組んで丁寧に頭を下げる。うん、育ちの良さを感じるな。

「うん、こちらこそよろしく。――それじゃ、最後に京太郎」

「おお、ようやく俺の番か! 待ってました!」

これまで存在感が全くなかった京太郎は、ようやく自分の出番だとばかりに嬉しそうにはしゃぐ。だがその期待には応えてあげられないのだよ京太郎君。

「えー、京太郎の指導についてだが。ぶっちゃけどこをどう改善する、ってレベルに達してないので、これといって特別な指導は考えてない。やるべきことはひたすら打つ、それに尽きる。OK?」

「ちょ、おま、一言で終わり!?」

「うん。残念ながら」

ばっさりと切って落とした俺の宣告に、ショボーンと肩を落とす京太郎。

「インターハイ個人戦まではそれなりのレベルになれるようちゃんと指導すっから。元気だせよ、な?」

雀卓の椅子に座っている京太郎の側まで近づいた俺は、うなだれる京太郎の肩をぽんぽん、と叩いて慰める。

「はい、それじゃあ白兎君、お話は以上かしら?」

「あ、はい。今俺が言えることは以上です」

竹井先輩が話の終わったタイミングを見計らって聞いてくる。俺は京太郎の肩に手を置いたまま頷いた。

「うん。お話ご苦労様」

「どういたしまして」

むしろこれからが本番だ。インターハイまであと2ヶ月。その間に目いっぱい皆を鍛えねば。俺と竹井先輩は顔を見合わせ、アイコンタクトで意志を共有する。

ふと風を感じ、窓の外へ視線をやると、オレンジ色に暮れなずむ春の空がどこまでも広がっている。前世の郷里で見た夕焼けの風景を思い出し、ふと切ない郷愁に囚われる。

前世より続く人生の旅路。俺はどこから来て、どこへ行くのか。その答えが、この仲間たちとならいつか見つかるかもしれない。

らしくない哲学的な物思いに、「それも悪くない」と誰にも聞こえない声で呟いたのだった。




ギフトとかセンスとかあんイズムに基づいて決めました。
主人公の厨二病全開な能力(ギフト)が開陳されて物語がいよいよいかがわしくなってきました(笑)。こういう独自設定を是とするか否とするかで続きを読むか打ち切るか読者様の好みが分かれる分岐話だと思っています。
牌譜については、4月以前は二人しか部員がいない=4人打ちができてない=まともな牌譜がない、という解釈でややぼかしながら書いてます。原作だとそれ以前の牌譜も存在してそうな言動(コミックス3巻中盤)もあるんですが、まこの実家(原作だと雀荘、アニメだと麻雀も打てる喫茶店←本SSはアニメ設定準拠)で4人打ちでもしてるのかな?大会個人戦には(部長は)高校1~2年生のときは出場してないみたいだし… 中学生以前の牌譜の可能性もありですがが。

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