咲-Saki- 天元の雀士   作:古葉鍵

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東場 第二局 二本場

放課後。

今日は竹井先輩と染谷先輩の二人がインターハイ県予選の出場申請のため外出している。

よって今部室にいるのは俺を含めた一年生の5人だ。

竹井先輩から今日の部活動について任されていた俺は、一局終えたばかりで雀卓に座って雑談に興じているのどか、咲、優希、京太郎の4人を眺めながら、これからの指導方針を考えていた。

1週間前に加入したばかりの咲を除き、ここ1ヶ月の俺の指導で皆の実力はかなり底上げされている。

咲という新たな有望株も加わったことだし、新たに見えてきた個々の課題を解決するためにも指導方針の見直しが必要だと判断したためだ。

俺は雑談の話題が一区切りしたタイミングを見計らって用件を切り出した。

 

「はい、ちゅーもーく!」

 

竹井先輩がよくやっているように、ぱんぱんと拍手を打って皆の注目を集める。

雑談が止み、何事だと皆の視線が向けられたのを確認し、俺は口を開いた。

 

「いよいよ県予選が10日後まで迫っている。そこで突然だが、今日から大会までの間、個別カリキュラムを皆に課すことにした」

 

俺が一息にそう言うと、皆は目をぱちくりとさせて聞いている。

 

「この件については部長にも許可は取ってある。質問があればどうぞ」

 

俺が手振りで意見を促すと、早速新人である咲から声があがる。

 

「えっと……それはつまり、単純に麻雀を打つのとは違うことをする、ということ?」

「そうだ。要するにそれぞれの長所を伸ばし、短所を補うための特訓だな」

「特訓……」

 

咲の顔が心なしか青ざめる。

根が単純な咲のことだから、特訓という単語でうさぎ跳びとか1000本ノックとか、古臭い体育会系な連想をしたに違いない。

 

「多分、咲が想像している特訓とは違う内容だぞ」

「あ、そ、そうだよね……麻雀部なのにうさぎ跳びなんてするわけないよね」

 

案の定、俺の推測は的を射ていた。

後半は消え入るような声だった咲の呟きを耳聡く拾った優希が不思議そうな表情を咲へと向ける。

 

「ほぇ、うさぎ跳び? 咲ちゃん、白兎をカツアゲする気か?」

 

なんという発想力。俺は優希の感性に素直に脱帽した。

うさぎ⇒白兎(オレ)、跳び⇒ジャンプ⇒「小銭持ってんだろ? おらその場で跳んでみろや」というテンプレなカツアゲ手段、という三段変換だ。

しかしこういう発想がポンと出てくるあたり、優希の奴普段から脳内で俺のことディスってそうだな。

 

「優希……つまりそれは特訓でうさぎ跳びをしたいという、婉曲な意思表示というわけだな?」

 

俺は一分の隙もない爽やかな笑顔を優希に向け、優しく声をかけた。

 

「ひぃっ。そそそんなことはないじょ。単なる小粋なジョークだじぇ」

 

笑顔とは本来攻撃的なモノである。

身の危険を悟った優希は慌てて弁解し、両手を俺に突き出してぶんぶんと左右に振る。

根性のない奴だ。

案外うさぎ跳びさせるのも精神力を鍛えるためにはいいかもしれなかった。

 

「ったく。――とりあえずそんなわけで、まずは優希からいこうか」

「うさぎ跳びは勘弁だじぇ」

「茶化すなら本当にやらせるぞ」

「ごめんなさいもう言いません」

 

まるでコントのようなやりとりだが、まぁ俺と優希のいつものコミュニケーションである。

 

「さて、優希のカリキュラムだが……これを使ってもらう」

 

俺は先日取り寄せたあるアイテムを鞄から取り出して、優希に手渡した。

優希は手渡されたそれをポカンとした表情でしばし見つめ、まるで玩具を与えられた子供のように、ソレを縦にしたり横にしたり挙句は振ってしゃらしゃらと音を鳴らせたりしていじくっている。

そして何かに気付いたようなハッとした表情に変わると、俺へと顔を向けた。

 

「これはまさか……そろばんか?」

「ああ。お前にはそれを使って計算問題をやってもらう」

「ええぇぇぇー!?」

 

あからさまに嫌そうな顔をする優希。

俺が優希のスキルアップの為にそろばんを使うことを思いついたのは、前世において習い事として経験していたからだ。

最初は簡単な計算ドリルでもやらせようかとも思ったのだが、ただ問題を解いてドリルに書き込むだけの単調作業だと、興味のないことには注意力散漫な優希の集中が持たない可能性がある。

それならば手先を動かすことで脳を刺激し活性化させ、緻密な作業のため集中力が要求されるそろばんなら、飽きずに取り組めて集中力向上及び算術の研鑽にもなるという一石二鳥の狙いだ。

 

「昔小学校で習っただろ? もし忘れたんなら後で教えるよ」

「なんでこんなものを……」

「集中力を鍛えるためと、計算力を高めるためだよ。優希さ、点数移動計算が苦手だろ? 大会の団体戦では互いの点数の把握が重要だから克服しないとな」

 

俺は実にイイ笑顔で優希の肩をポンポン、と叩いてやる。

優希は「うぅ……」と呻き、諦めたようにがっくりと項垂れた。

 

「さて次は……咲かな」

「は、はい!」

 

俺が声をかけると、咲はびくっ! と一瞬身を竦ませ、緊張した面持ちで返事をする。

自分は何を言い渡されるかと内心でびくびくしながら身構えているのだろう。

両手を太ももの上で組み、小さく縮こまっているその様子はまるで小動物のような印象で、俺は少し微笑ましく思ってしまった。

 

「えー、咲にはネット麻雀を打ってもらう」

「ねっと?」

「そうだ。咲の麻雀の強さは、牌以外に様々なものが視えているからだと言える。だから逆に、牌の情報以外は何も視えない状態で戦ってもらう。一種の逆境訓練だよ」

 

咲の姉、照さんがかつて俺と戦ったときのように、強力なギフトホルダー相手では自分の能力を十全に発揮できない状況で戦う場合もあるだろう。

咲はどうもギフトに頼りすぎているというか、能力に依存した打ち方をしている。

(とはいえギフトやセンスを有する雀士の大抵はそうであるのだが)

これでは、能力が使えない状況、もしくは効かない敵を相手にしたときに著しく調子を崩してしまう可能性がある。

そうならないよう、能力に頼れない状況での対局に慣れさせておかねばと考えてのネット麻雀だ。

きっと、ままならない麻雀に四苦八苦するだろう。だが、そうした逆境こそが精神力を高め、人を強くする。

 

「でも……わ、私……パソコンとか持ってなくて……」

 

視線を逸らし、恥ずかしそうに答える咲。

今時、高校生にもなればパソコンを持ってない方が少ないご時勢だ。

咲の家庭の経済事情はわからないが、他人が当たり前に所持している必需品を持ち得ていない、というのはなるほどコンプレックスになるかもしれない。

 

「ほぇええぇ……」

「あら……」

 

驚く優希と意外そうな声をあげるのどか。

携帯ほどではないが、パソコンを持っていない同年代の子が珍しいからだろう。

こらこら、そういう反応は咲が傷つくぞ。

 

「ふむ。――だがこんなこともあろうかと! モバイルパソコン~!」

 

俺は某国民的アニメの猫型ロボットキャラのような口調で鞄からB5サイズのノートPCを取り出す。

そろばんと同じく、これもごく最近取り寄せたものだ。といっても単に通販でポチっただけだが。

 

「「おお~!」」

 

俺の手際の良さに皆が感嘆する。

俺はノートPCを咲に差し出し、咲は恐る恐るといったやや覚束ない手つきの両手でそれを受け取った。

 

「このノートPCを咲に預ける。部活中は当然だが、できれば自宅でも打って欲しい。いつでも対局できるのってのは結構便利だぞ?」

「あ、ありがとう…… でも、こんな高価なもの、私が預かっていいのかな? 私ドジだし、うっかり壊したりしたら……」

 

咲の表情が不安そうに歪む。

確かに最近は低価格化が進み、相当普及してきたとはいえ、高校生の経済力では軽々しく購入できない程度には高価な道具である。

ましてデスクトップ型ならいざ知らず、持ち運び使用前提なノートPCは、落としたりどこかにぶつけたりして壊してしまう危険性が常に付き纏う。咲の危惧はもっともだろう。

 

「大丈夫だ。問題ない。壊すのが心配なら自宅におきっぱでもいいよ。部活中は部室のデスクトップPCを使えばいいしね。それにこれは元々、部に寄付するつもりで購入した物だから、万が一壊しても部の備品扱いにして部費で修理すればいい。使ってなんぼな道具だから、破損の可能性は気にしなくていいよ」

「う…… わかった。それじゃ、ありがたく使わせてもらうね」

 

俺が諭すように説明すると、咲はようやく笑顔を見せてノートPCを大事そうに両手で胸に抱く。

 

「インターネット関係の契約も一式済ませてあるけど……咲の家族でパソコン使ってる人いる?」

「あ、うん。お父さんがパソコン持ってる」

「そうか。じゃあネット接続に関しては問題なさそうだな。遠隔LAN用の周辺機器も揃えてあるから、帰宅したらお父さんにセッティングしてもらうといい」

「遠隔らん……? よ、よくわからないけど、わかった。お父さんに頼めばいいんだね」

「ああ。システムは設定済みだし接続用アプリもインストしてあるから、ハードを繋げば即ネットが使える状態になってる。お父さんにそう言えば解ってもらえると思う」

「え……えっと、機械を繋ぐだけでいいってことだよね?」

 

パソコンを持ってなかっただけあって、咲はあまりPC関係の用語には詳しくないようだ。頭上にハテナマークが乱れ飛んでいる。

 

「そうだね。セッティングについては説明書を読めば難しくないけど、どうしてもわからなかったら俺に電話してくれ。口頭で教えるから」

「うん、わかった」

 

パソコンに関しての疑問を飲み込んで納得する咲。わからなくていいことだと開き直ったのかもしれない。

 

「パソコンの使い方とネット麻雀のプレイの方法に関しては――京太郎、頼めるか?」

 

この後にのどかのカリキュラムについて解説を控えている俺は、京太郎に以後の説明を丸投げする。

現代っ子な男である京太郎なら、パソコンの使い方もネット麻雀の遊び方も過不足なく説明してくれるだろう。

 

「お、やっと俺の出番だな! 任せろ、俺が咲を一人前のネット雀士にしてみせる!」

「あはは…… 京ちゃん、お手柔らかにね」

 

気炎を上げる京太郎に、やや引き気味で苦笑する咲の二人が微笑ましい。

付き合いが長いせいもあるのか、この二人は何気に相性がいい。

京太郎は咲を促して部室のデスクトップPCが置いてある机へと席を変え、有線LANケーブルをデスクトップPCから引っこ抜いてノートPCに繋いでいる。

澱みのない一連の作業風景に、咲のことは京太郎に任せて心配ないなと確信した俺はのどかへと顔を向ける。

 

「さて、それじゃ次はのどかね」

「はい……お願いします」

 

ようやく自分の番が来たと、のどかはきりっと表情を引き締める。

生真面目も過ぎれば弊害を生むが、教える側としてはのどかの常に真摯な態度はとても好ましい。

 

「のどかには少々特殊なカリキュラムをこなしてもらう。それは……(ダブル)対局だ」

「だ……ダブル対局……?」

 

わからない顔をしてオウム返しに聞くのどか。

まぁ端的な言い方をされてもわからんよね普通。

 

「具体的に言うとだ。通常の麻雀を打ちながら、同時にもう1局打ってもらう」

 

囲碁でもプロなどが一人で複数の対局者と同時に対局する、という離れ業をやってのける場合がある。

要はそれの麻雀版なんだが、言うは易しで実行には3つほど問題がある。

一つは、囲碁と違い麻雀は4人打ちのため、自分の手番が回ってくるタイミングが不規則な上、マナー的な見地から言って毎回長考はできないというか、停滞が許される時間は精々5~10秒程度なこと。

二つは、複数の対局には設備と人数がより多く必要とされること。生憎、清澄高校麻雀部には、2台目の全自動雀卓もなければ、同時に対局を行えるだけの部員数もいない。

三つは、麻雀は副露というルールがあるため、必須とまでは言わないものの、ある程度他人の捨て牌をリアルタイムで監視しておく必要がある。その制約上、複数の卓上を同時に監視するのは人間の能力的に無理があるということ。

以上の理由から、麻雀で同時対局を行ったという話は寡聞にして聞いたことがない。

それはのどかも同様だったらしく、その点を指摘してくる。

 

「あの、同時に対局するという行為の意味はわかりましたが、実質的にそれを行うことは不可能なのでは……」

 

俺は素直に頷く。

 

「そうだな、通常は(・・・)不可能だ」

 

聡いのどかは言外の意味を即座に悟ったようで、質問の内容を変えてくる。

 

「つまり、通常ではない方法でなら可能だと?」

「そういうことだ。その方法とは――これだッ! 携帯ゲーム機~!」

 

そのノリはもうええっちゅうねん。

内心でノリツッコミを入れながら、俺は鞄から第三のアイテムを取り出す。

 

「去年末に発売されたばかりの最新型携帯ゲーム機だ。これを使って咲と同じようにネット麻雀を打ってもらう。つまり、リアルとバーチャルでの同時打ちだ」

「な、なるほど……」

 

「ほえー」という間の抜けた擬音が背後に見えそうな、感心と呆れの中間めいた表情で携帯ゲーム機を見つめるのどか。

 

「パソコンとはインターフェイスが違うから、お手本に俺が一度打って見せるから隣で見ててくれ」

「はい」

 

飲み込みの早いのどかなら、携帯ゲーム機の起動から対局終了までの一連のプレイを見せればすぐに要領を覚えるだろう。

俺は先ほどまで咲が座っていた雀卓用の椅子をのどかの隣に移動させてから座る。

肘掛のない椅子なこともあり、携帯ゲーム機の小さな画面が良く見えるよう自然と密着した体勢になる。

別にこの状況を狙ったわけではないのだが、どうやら第三者にはあざとく見えたらしい。

 

「なーんか白兎は指導の名を語ってイチャつこうとしているように見えるじょ……のどちゃんも満更でもなさそうだし、朝の一件といい二人のバカップルぶりに拍車がかかってきてるじぇ」

 

優希が雀卓に突っ伏した体勢のまま顔を俺たちに向け、ジト目でそう指摘する。

俺が言い訳するより早く、優希の台詞を耳聡く聞きつけた京太郎が反応して話に加わってくる。

 

「そういや聞いたぞ白兎ォォォ! 朝のどかとイチャイチャ手を繋ぎながら登校してきたそうじゃねーか! なんてうらやまけしからんリア充なんだ貴様ァァァァ!」

「チッ、耳が早いな京太郎。お前にとっては残念かもしれんがその通りだ。あと先に言っておくが握手はしてやらんぞ」

 

予防線張っとかないと、こいつ(京太郎)のことだから「のどかの手を握ったその手を握らせてくれ!」などと間接キスならぬ間接握手とか、キモおぞましい申し出を言い出しかねないからな……

京太郎が話題に食いついたせいで、慣れない手つきでマウスを操作しながらネット麻雀のアカウント情報を入力中の咲までもが釣れる。

 

「そういえば、私も聞いたよ。原村さんが朝、白兎君と腕を組んでしなだれかかりながら親密そうに歩いてたって噂。「同じ麻雀部員だし二人の仲ってどうなの?」ってクラスメートの女子に聞かれちゃった」

「うへ……どんだけ噂が一人歩きしてんの……」

「そ……そんな噂が広まってるんですか!?」

 

尾ひれのついた噂が余程インパクトあったようで、優希に指摘されて以降恥ずかしそうに顔を俯かせていたのどかも会話に加わってくる。

皆の食いつきが良かったためか、元気を取り戻した優希ががばっと上半身を起こしたかと思うと、びしぃ! と俺とのどかを指差してくる。

久し振りに見たなこのポーズ。

 

「それだけではないじょ。某目撃者談によると、「まるで朝帰りのまま登校してきたと思うほど仲睦まじく見えた」という話もあるくらいだじぇ」

 

なんという誇張全開。たかが手を繋いで登校しただけで不純異性交遊を疑われたらシャレにならんぞ。

流石に学生指導課から呼び出し食らったりするほど大事にはならんと思うが……

優希のニヤニヤと面白がっている表情を見ると、どうも優希の作り話(ブラフ)なんじゃないかという気がする。

 

「まさか白兎お前ほんとにのどかと……」

「白兎君と原村さん、大人になっちゃったんですね……」

 

深刻な眼差しで俺を見つめてくる京太郎と、素直に噂を信じたのか、顔を赤らめつつもどこか羨むような口調で感想を口にする咲。

ゴシップネタで楽しめる程度ならいいが、悪ノリして火に油を注ぐ優希のせいで、そろそろ誤解を解かないと拙い気がする。

そう思った矢先にのどかが爆発した。

 

「ごっ、誤解です! 事実無根です! そんなのは根拠のない無責任な噂に過ぎませんっ!」

 

羞恥極まったのどかが威勢よく椅子から立ち上がったかと思うと、バンッ! と雀卓を両手で叩いて遺憾の意を表明する。

「ひぃっ」と小さく悲鳴をあげてのどかの剣幕にびびる優希。あとついでに咲も。

のどかがこうなることは予想できただろうに、ほんと優希は後先考えないトラブルメーカー(困ったちゃん)だな。俺は内心で嘆息した。

 

「落ち着けよのどか。どう言い繕ったところで誤解を招く行動をしたのは俺たちなんだから、優希に当たるのは筋違いだ」

「それは……その通りですけれど…… でも、白兎さんは口さがない噂を立てられて悔しくないんですかっ?」

 

俺に掣肘されて多少は声のトーンを抑えたのどかだったが、しかしまだ憤懣やるかたないといった様子で言い募る。

 

「そりゃ悔しいさ。けどな、この手の噂ってのは火消しに走れば走るほど、第三者に真実味を抱かせるという逆効果にしかならない。消極的かもしれないが、人の噂も75日ってことで、放置するしかないな」

 

とはいえ75日も経過する前に、後付的に噂が真実になりかねない気も正直するが。

のどかとの関係を急ぐつもりはないが、再会して約一月で今の状態なわけで。

のどかのデレっぷりが加速度的に進行していると言ったら失礼かもしれないが、迎合している俺としても実際このままだと一ヶ月後には正式な恋人関係になってておかしくないし、その更に一ヵ月後には男と女の関係となっている可能性すらある。

まぁ恐らく初恋か、もしくは恋という段階まで実質的に踏み込んだのが初めてなのどかとしては、色々デリケートな心情の琴線を刺激する噂は不本意でもあれば不愉快だろうし、下世話な他人の妄想など嫌悪の対象でしかなかろうことは容易に想像がつく。

その潔癖さが好ましいと思える反面、大人の恋というか、男女の関係を経験している俺は、惚れた腫れたといった話で無邪気に盛り上がる幼さをどこか冷めた視線で見ている部分もある。

これがのどかにとって初めての恋だったとしても、二度目の恋をしないという保証にはならない。

大げさな話かもしれないが、僅か一月二月の交流で永遠の愛を誓うような展開となるハートフル恋愛ゲームとは違い、リアルの男女の仲というものはもっと生臭く、容赦のないものだ。

青く純粋な恋、というものを見下しているわけではないが、どうしても大人の視点で物事を考えてしまう俺は、”付き合った後の事”について生々しく想像してしまうのだ。

いかがわしい意味でじゃない。いや、それがないとは言わないが、突き詰めれば「一生付き合えるかどうか」だろう。

ま、そういう意味ではなんだかんだ言いながら俺も大概ピュアかもしれない。とはいえ女をとっかえひっかえするプレイボーイより100倍ましだが。

要は何が言いたいかっていうと、こういうゴシップ()で苦悩できるのも若さの特権、一種のラブコメだなーってことかな。

 

「白兎さんがそう仰るなら……仕方ありません、我慢します」

「ありがと、のどか」

 

ふぅ、と小さく嘆息して椅子に腰を下ろすのどかに俺は礼を言い、

 

「あと優希もつまらん噂を面白おかしく吹聴しないでくれ。ほどほどなら笑い話だが、程度も過ぎれば不愉快になる。何より、内情を知ってるお前が噂を認めるような発言を余所でした場合、誤解をより深刻に助長しかねん。火消しに協力してくれとまでは言わないが、せめて慎重な対応をして欲しい。頼む」

 

優希の作り話であることも見越して、釘を刺す。

下手に出た俺の態度に、優希は罪悪感を覚えたのか、「わかったじぇ……」と元気なく呟いて椅子の背もたれに体重を預ける。

 

「すまんな。そういうわけだから、咲と京太郎もよろしく頼むよ」

「うん、噂について聞かれたら何も知らないって答えておくね」

「あ、ああ。疑って悪かった」

 

素直に了承と納得の意を示す咲と京太郎。

 

「ありがとさん。とりま、ネット麻雀の続きをどうぞ」

 

自分たちも少々騒ぎすぎたと罪悪感に駆られているのか、どこかバツの悪い顔をしてる咲と京太郎に俺は作業の続きを促すことで気を取り直せと暗に告げる。

二人はきちんとその意を汲んでくれたようで、顔を見合わせアイコンタクトで意志疎通をしてからPCのディスプレイに向き直り、何事もなかったかのように作業を再開した。仲のおよろしいことで。

まぁ多分、二人はお互いにそんな気はないだろうけどね。

 

「それじゃ、こっちも再開しよう」

「はい、よろしくお願いします」

 

咲と京太郎のやりとりに刺激されたというわけではなかろうが、心なしか先ほどよりこちらに身を寄せて密着したのどかが俺へと顔を向けて嬉しそうに微笑み、小さく会釈する。

うーん、切り替えが早いというかなんというか、泣いたカラスがもう笑ったとでも言うべきか。

感情の落差がありすぎて、自業自得とはいえ相対的に優希が不憫な気がしないでもない。

やはり女は友情より男なのか。俗論だがこうも露骨な局面を見ると同意してしまいかねない説得力がある。

まぁ嫌だとかのどかを見損なったとかそういうことは全くなくて、正直のどかの態度が嬉しいけどね。

ふわりと、のどかからクチナシの良い匂いが漂う。

これまで何度か嗅いだことのあるのどかの匂いだが、愛用しているフレグランス(正確にはパフューム)によるものだろう。学生だから慎ましくオーデコロンかもしれないが。

 

「それじゃ俺のアカウントにログインして……と」

 

5インチしかない小さな画面でプレイするのは俺も初めてなため、少々もたつきながらも無事ネットに接続。

そしていきつけの最大手フリーネット麻雀サイトに移動してログインすると、見慣れたM型アヴァターと様々なステータスが画面に表示される。

その途端、のどかが「えっ……」と小さく驚きの声をあげた。

 

「しろっこ……さん?」

 

信じられないという表情で俺へと顔を向けるのどか。

自分で言うのも何だが、俺はネット麻雀界では強豪プレイヤーとして名を馳せた存在であるがゆえに、のどかもしろっこ()の名前を知っていたのかもしれない。

 

「ああ、のどかもネット麻雀やってそうだもんな。俺のプレイヤー名、知っててもおかしくないか」

 

ちなみにレーティング数値は1977で、堂々のプレイヤーランキング1位である。

レーティングの基準を簡単に言うと、1000が最低、1200で激弱、1400前後で普通、1600以上で強豪、1800以上でトップランカーとなる。

参考までに2位にランクインしている「のどっち」というF型アヴァターのプレイヤーのレーティングは1915、俺と約60の差がついている。

数値だけで考えるとそれほど大きい差に思えないかもしれないが、1800を超えるレーティングでは、大概の相手が格下な為、1位でも0~+3程度しか加算されず、2位だと0~-5、最下位だと-20とか理不尽な減算を食らう。

60という差の開きがどれほど大きいかなんとなく想像がつくだろう。

なおランキングはレーティング数値だけでなく、対局数も関係しているが、俺の対局総数は6244回、一度リセット食らった前バージョンでの対局総数を加えると1万回をゆうに超える。

ある意味暇人の証明とも言えるが、俺と同程度かそれ以上に対局数をこなしていて1800以上のレーティングを維持しているのはほんの一握りしかいない。

そのほんの一握りのトップランカーのレーティングを他にも挙げると、先ほども参考に出した2位の「のどっち」が俺と並んで別格級で、そこから3位が大きく引き離されて1841である。

あとは1とか2の数値刻みで順位が下がり、ランキングは同点同位を含め100位の1775まで続く。

まぁそんなわけで俺の成績は群を抜いており、2位の「のどっち」と並んでネット麻雀界の生きた伝説とまで言われている。

一時はトッププロ雀士だとか運営側の用意したプログラムだとか噂されたが、俺は比較的チャットに応じてたし、のどっちも俺と予約対局を度々打つようになってからはオープンチャットで割と発言があるので、最近では噂は沈静化している。

 

「あ……はい。それは無論、しろっこさんの名前は知ってました……けど、私が驚いたのは意味が違うというか、まさか同一人物だとは思わなかったというか……ある意味で「ああ、なるほど」と納得はできましたが……」

 

明快な物言いをするのどかにしては珍しく、奥歯に物が挟まったような台詞である。

俺が訝しげな表情を向けると、のどかは「少し貸していただけますか」と小声で携帯ゲーム機の貸与を願い出てくる。

のどかの意図が不明であったものの、別に断る理由もないので携帯ゲーム機をのどかに手渡した。

 

「私が何に驚いたのかは、私のアヴァターを見ていただければわかります」

 

そう言って、のどかは初操作ながら流暢に携帯ゲーム機を操作して俺のアカウントを一度ログアウトさせると、再度ログイン画面に戻って俺のものとは別のIDパスを打ち込みログインを行おうとする。

その時点でのどかも俺と同じネット麻雀サイトのプレイヤーだということがわかったのだが、直後に画面に表示された見覚えのあるF型アヴァターと名前を見て、俺は思わず「あっ」と声を漏らしてしまった。

 

「のどっち……のどかイコールのどっち、か。これは驚いたな!」

 

思わぬ奇縁に俺は歓声を上げた。

気付いてみればプレイヤー名といい、高度なデジタルの打ち筋といい、のどかと共通する点がいっぱいあった。

 

「はい。まさか私も白兎さんがしろっこさんだったとは、夢にも思いませんでした。でも、白兎さんなら納得です。そうそう、4月の初め頃に対局したとき、「学生ですか?」って私が質問したこと、覚えてます? あのときははぐらかされましたけど、図星だったんですね」

 

くすっと可笑しそうに笑うのどか。声が隠しようもない喜色を帯びている。

 

「まあね。俺としては隠すほどのことでもなかったんだけどさ。あのときに限らず、聞かれたら10代だってオープンに答えているのに誰も信じてくれないものだから、学生だって正直に答えても意味ないかなーってうんざりしててね」

 

事情を正直に告白すると、のどかはまたしてもくすっと笑い、

 

「無理もないです。だって白兎さん、いえしろっこさんは、いつも変なことばっかり言ってふざけてたじゃないですか。自分のこと”おじさん”とか言うし、私も正直、10代どころか30代40代のプロかセミプロ雀士だと想像してたくらいですよ?」

 

これまで抱いていた”しろっこ”像の見解を楽しげな口調で語る。

俺は痛いところを指摘されて渋面になった。

そうだ、 白兎=しろっこ であることがばれるということは、俺の本性というか、加齢臭漂う享楽主義者な素顔もまたのどかに知られてしまったということじゃまいか!

おーまいがっ。

俺はもちろん言い訳した。ぶっちゃけこれまで誰と対局したときよりも必死だった。

 

「いや、あれはね? 折角匿名なんだし、ちょっと遊んでみようかと……いわばRPG、ロールプレイングゲームですよ! 決してあれが俺の素だとか、性格だってわけじゃなくてね、一種の洒落というか、俺流のジョークっすよ!」

 

どうして人間ってやましいことがあると低姿勢になるんだろうね。

俺の誠意溢れるというより、白々しさに満ちた言い訳に、のどかはジト目を俺に向け、

 

「Toukaさんに「大好きよ(はぁと」とか言っていたのはまさか本気だったんですか? というか、ネット麻雀ではいつもあんなこと言ってるんですか?」

 

などと更に痛いところを突いて来る。

俺はじわりと背中に冷や汗が噴出すのを意識しながら、なんとか冷静さを取り戻して言い訳する。

 

「もちろん冗談だよ。俺はインターネットで出会い系行為はこれまで一度もしたことがないし、これからするつもりもない。信じてほしい」

 

のどかの瞳を真摯な眼差しで見つめる俺。

(キリッ)とか擬音が付きそうなくらいクールを装っているが内心では超必死だった。

至近で見つめられ、気恥ずかしさにのどかはぽっ、と表情を赤らめると、ふいっと視線を逸らしてから右手を口に当てて「ぷっ」と可愛らしく吹き出した。

 

「ふふっ、冗談です。白兎さんがそんな人でないことは短いお付き合いとはいえ、良く知ってますから……からかってごめんなさい」

 

珍しくのどかが茶目っ気を見せたことが可笑しくて、俺も思わず「くっ」と小さく笑ってしまった。

 

「のどかは冗談が下手だな。いや、演技が上手すぎると言うべきか、迫真過ぎて心臓に悪いよ」

「もう……私だってたまには人を驚かせたいって思うときがあるんですっ」

「くくくっ、ごめんごめん」

 

本気ではないのだろうが、少し眦を吊り上げて頬を膨らませるのどかを見てると、心が和む。

普段はいっそ冷たいと感じるほど取り澄ました態度言動を常とするのどかだが、本心を曝け出せるほど親しい相手にはきっと今のように他者を和ませる素顔を見せてくれるのだろう。

他の誰かが聞いたら「のどかの名前と掛けて上手いこと言ったつもりか」なんて呆れるかもしれない気障な感想だった。

そんな感じで他人が見たら砂を吐きそうな二人の世界(桃色時空)を展開していると、独り身で無聊を託っていた優希(勇者)が突貫してきやがった。

どうやら放置されるのに飽いたらしい。

 

「二人がさっきから話題にしてるのはネット麻雀の話か?」

 

俺とのどかの会話は距離から言って一言一句漏らさず聞こえていたはずだが、さりげない振り方をしてくるあたり、一応は遠慮しているというか、気を使っているらしい。

まあ、さっきのどかの逆鱗に触れたばかりだしな、及び腰になるのはわからないでもない。

それはともあれ、このときほど他人に空気読めよって思ったことは未だかつてなかったと断言できる。

多分のどかも少なからず同感だったと思うが、親友である優希を無碍にはできず、丁寧に返答する。

 

「ええ。実は白兎さんがネット麻雀の有名プレイヤーである「しろっこ」さんだったことがわかったので、そのあたりのお話を少し」

「ほほう。のどちゃんと並んでネット麻雀界の伝説の片翼が白兎とはな。良いこと聞いたじぇ」

 

ニヤリと唇を歪めてほくそ笑む優希。こいつ、俺の弱みを握ったとか考えてそうだな。

 

「おい優希。リアルで多少話題に出すくらいならともかく、ネット上で余計なこと吹聴するなよ?」

 

そう釘を刺すと、優希は席を立ち、俺を挟んでのどかと逆側まで回り込んでくると、俺の耳にひそひそ声で話しかけてきた。

 

「もちろんだじぇ。でも、おっさん雀士しろっこのウィキページをのどちゃんに教えるのは問題ないじょ?」

「ちょ……!?」

 

的確に俺の弱みを突いた優希の脅迫に、俺はこいつを侮っていたことを悟らざるを得なかった。

ネット上の総合辞書として有名なWiki(ウィキ)だが、その範囲には人間も含まれる。

歴史上の偉人とまでいかずとも、ある程度知名度のある人間であれば誰かしらがページを作成しているものなのだ。

ネット麻雀界というそこまで裾野が広くない世界の有名人程度であっても、その水準を満たしてしまっている。

一度、ネット麻雀時のチャットの話題に出たことがあって、気になって調べてみたのだが……

無関係な第三者の視点で読む分にはなかなか面白おかしく書いてあるというか、独自解釈によるユニークな人物紹介に始まり、果てはネタ発言や創作発言(本人だからこそ明らかな創作だと断定できる)まで幅広く載せてある名言集まで存在している。

初めて読んだときは正直失笑したというか、少々大げさに書いてある麻雀の強さや実績以外はほとんどの記述が俺の人物像に掠りもしてなくて、失望と安心を同時に抱いたのだが、今問題なのは名言集の方だ。

名言というよりは迷言といった方が正しいようなネタ発言が多く記載されているが、セクハラ一歩手前なきわどい台詞とか、悪意で書かれた完全創作と思しき傲慢な勝ち台詞とか、まぁあることないこと色々載ってて、のどかに読ませるには少々……いやかなり都合の悪いものばっかりだ。

何だよ、「俺のカリが有頂天」って。どう考えても某有名ネットゲーマーの名言をディスってるパクリじゃねーか。しかも意味が解る人にとっては超お下劣だし。くだらなすぎる。

無論俺の台詞ではありえない。

仮に、しろっこ云々の関連がなかったとしても、読む者の品性を貶めかねないこの迷言集を純真なのどかには読んで欲しくない。

のどかの性格から言って、しろっこ=白兎であることが解ったとしても、いちいちWikiで検索してまで更なる何かを知ろうとはしないだろうし、これまでも俺を意識はしてたと思うが、わざわざ人物像まで調べたことがあるとは思えないしな。

 

「……優希、何が望みだ?」

「ふっ、今はまだ貸しにしておいてやるじぇ」

 

事態の深刻さに声を低めた俺が聞くと、優希はしてやったりの得意顔で両腕を組み、恩着せがましくそう答えた。

先送りにされてもむしろ迷惑なだけなんだが。

いくらなんでも洒落にならないような無体な要求はしてこないと思うが、優希だからな……

俺は無言で立ち上がると、無警戒な優希のこめかみをぐりぐりとウメボシしてやった。

 

「いだだだだ! 何するじょ!?」

 

痛みで涙目になった優希が身をよじって俺の手から逃れる。

馬鹿め、俺が泣き寝入りするとでも思ったか。

必要とあらば女性が相手だろうと体罰するのに遠慮はないぞ。

慌てて雀卓を挟んだ向こう側へ避難した優希は、警戒と怯えの孕んだ表情をこちらに向けている。

そして当然、そんな俺たちのやりとりを不自然に思ったのどかが、一連の発端である優希に尋ねる。

 

「……優希、白兎さんに何を言ったんです?」

「白兎のセクハラをのどちゃんにばらしていいかって聞いたんだじょ」

「おま、誤解を招くような発言するなよ!」

 

毛を逆立てて警戒する猫のように、俺の一挙手一投足を見逃すまいと視線を固定しながら、優希は意趣返しとばかりに問題発言をさらっと口にする。

 

「……まったく、二人の仲が良いのはわかりましたから、少し落ち着いて下さい」

 

幸いにもセクハラ云々の発言は流してくれたのどかは、深いため息をついて俺と優希を窘める。

のどかの方が俺より大人だった。

俺はのどかに「ごめん」と謝り、再び椅子に着席する。

優希も警戒を解いた様子で、対面の椅子に腰を下ろした。

 

「まー優希の戯言はともかく、のどかがのどっちと同一人物だとすると、少々わからない点がないでもないな」

「……? 何でしょうか?」

「いやさ、のどかには悪いんだけど、正直ネット麻雀の「のどっち」の方が普段部室でのどかと打ってるときより強く感じるというか、デジタルの打ち手としては完成されてた気がするんだよ。もちろんそれほど大きい差じゃないけどね」

 

かなり強引に話題を戻した俺は、ふと気になった点について言及する。

ちなみに台詞の最後の「大きい差じゃないけどね」というのは、ある意味で正しいが、俺の意図から言えば明らかな嘘、フォローとしての付け足しだ。

具体的に言うと、普段部室で打っているのどかのデジタル的選択の正答率が90%だったとし、ネットののどっちの正答率が95%だったとする。

数字全体の印象としては5%の差など誤差とも言える範囲に思えるだろうが、逆の見方……即ち「失敗率」の視点で言うと、10%と5%で、普段ののどかはのどっちの倍の頻度でミスを犯しているということになる。

こう書くと実に大きい差だと感じるだろう。

それを言葉遊びだと思うなかれ。そのたった5%の精度を上げることがどれほど難しく、いかほどの結果の差を生むかは技量の高いデジタル派であればあるほど、顕著に痛感している事だからだ。

もっとも最近ののどかは、俺と打つことで学んだのか、デジタル以外の打ち筋を見せることがある。

それは悪い意味のブレだとか試行錯誤などではなく、明らかに切り替えが適した場面でデジタル以外の選択を行い、好結果に繋げている。

高精度のデジタル解析力、判断力を基礎能力に持つのどかが、デジタル一辺倒に捉われない柔軟性ある打ち筋を実践するとかなりの応用力や決定力を発揮する。

実際、デジタル一辺倒だった過去ののどっちよりも、多少デジタル的な判断思考能力は劣っていても、今ののどかの方が総合的には強いと言えるだろう。

別の言い方をすると、俺のように万能選手というか、マルチな打ち手に変貌しつつあるとも言えるが、元の打ち筋がどうであろうと、雀力を高めて最終的に行き着く先はつまるところ究極の万能性であることは言うまでもない。

最近ではのどかの勝率が明確に竹井先輩を上回ってきていて、その上、頑固なオカルト否定派なせいか、なぜかギフトが効き難いのどかと咲の勝負はかなり接戦を演じるまでになっている。

総合力としては、割と本気な俺と打っては毎度凹まされているせいか、精神力の向上と共にギフトの能力強度が天井知らずに上昇している咲の方が上なのは間違いないが、のどかの総合力も高校生基準だとぶっちゃけギフトホルダー以外は無理ゲーじゃね? ってくらいに高まってきている。

なんか後半がのどか(と咲)のヨイショになってた気がするが、話を戻すと「(デジタルの技術限定では)なんでネット麻雀で打つ方がリアルで打つより強いの?」という矛盾、疑問があるってことね。

別にデジタル派だからデジタルワールドの方がゲーム的な相性補正が付加されて強いとか、逆の意味でオカルトなめんなという都合のいい理由があるとは思えないし。

 

「正直自分ではわかりませんが……もしなんらかの差が生まれているのだとしたら、環境の違いによるものかもしれません。部室での対局に問題や支障があるとは全く思っていませんが、自宅だとより落ち着いて打てますから」

 

のどからしい冷徹な自己分析。

なるほど、確かに環境要因の違いによって生まれる集中力や思考力の差というのは、馬鹿にはできない。

何にせよこれは一考の価値がある。

普段ののどかが真の実力を発揮できていないということは、逆に言えばのどっちレベルまでデジタル的思考判断能力を短期間で引き上げられる余地があるということに他ならない。

俺はのどかから得た回答を元に考えを巡らせる。

自宅と部室における環境の違い、か……

いや、それだけじゃない。現実で打つ麻雀と仮想で打つ麻雀の違いもある。むしろこちらの方が要因としてはありえそうだ。

実際、現実の麻雀ではギフトやセンスの特殊能力がぶつかり合う対局になりうるが、ネット麻雀は特殊能力が絡まない、純然たる雀力と運で勝負が決まる、ある意味現実よりリアリティのある対局になる。

それぞれのギャップを埋めるために、のどかに何を課すべきか……つまるところはそこだ。

整理しよう。

まず、自宅と部室の環境差については本人が言うように、「より落ち着いて打てる」という点が肝だろう。

落ち着いて打てるということは、即ちより集中できるということだ。

ここから導き出される答えとしては、自宅の環境に近づけるとか再現するといった非現実的な解決方法より、集中力を自宅でのネット麻雀時のレベルまで引き上げることを狙った方がいいな。

次に現実と仮想の差だが……細かいギャップは多々あれ、最大のものは「情報量の差」だろう。

ネット麻雀ではほぼ視覚情報のみであるのに対し、現実における麻雀は、触覚、聴覚、(感性的な意味での)嗅覚、場の空気、勘(第六感?)、そしてギフトやセンスによる知覚能力までと、取得情報量は比較して膨大である。

これはつまり、シンプルな情報量しかないネット麻雀の方がスペックが上がっているというより、リアル麻雀における膨大な情報量を処理し切れてない、もしくは思考判断の阻害要因となってスペックを下げてる(・・・・・・・・・)と考えるべきか。

最も簡単な解決方法としては、リアル麻雀における取得情報をシェイプアップすればいいという回答になるんだが、どのような手段をもってそうするかという問題もあるし、何より現実で得られる情報というものは本来、全て有用成り得るものであり、切り捨ててよいものなどない。ネット麻雀のみで強くなりたいというのであればともかく、リアル麻雀でより高みを目指すのであれば、現実の情報量を全て処理活用し、その上でフルスペックの思考判断能力を発揮できるようにならなくてはいけないだろう。

原因と対策を検討した結果、俺はのどかの個別カリキュラムにもう一つ新たに付け加えることを決める。

 

「のどか、すまないがもう一つカリキュラムに追加したい」

「はい」

 

俺が思索に耽っている間、両手をふとももの上に乗せた上品な姿勢で静かに待っていたのどかが即座に返答する。

 

「大会まで毎日1時間、牌をツモって切る動作だけを繰り返す練習をしてみてくれ」

「それにどんな意味が……?」

 

課せられたカリキュラムの意図が解らず、疑問を呈するのどか。

理解できないのは無理もない。俺とて何の判断材料もなくそれを言われれば、「何その不毛な練習」と返しただろう。

 

「ネットにはない雀卓での動作が思考を鈍らせている可能性があると思ってね。だから牌のツモって捨てる動作を無意識で行えるレベルにまで慣れることで、思考を乱されないようにするのが狙いかな」

「はあ……」

 

意図を説かれても今一つ納得できなかったのか、のどかはわかったような、わからないような曖昧な返事を呟く。

言っている意味を理解できなかったわけではなく、なまじ合理的な思考に偏るのどかゆえに、カリキュラムに妥当性や有用性を見出せなかったからだろう。

のどかの性格から言って手を抜く事はないだろうが、精神的に疑念や雑念を抱いたまま漠然とこなされても効果は薄い。

これは念を入れておいた方がいいな。

 

「適当な思いつきに思えるかもしれないけど、メインのカリキュラムはあくまで先ほど言ったW対局だし、ツモ動作練習は集中力を養うという意味でも効果はあるから、騙されたと思ってやってみて」

「わかりました。白兎さんがそこまで仰るなら信じて取り組みます」

「うん、よろしく」

 

ようやく納得の笑顔を見せたのどかに、俺も微笑み返す。

これで1年生3人への個別カリキュラム伝達は終わったな、と気を抜いたところで、泣き言めいた咲の声が聞こえてくる。

 

「ダメ、どうしてぇ…… いつもなら牌がもっと見えてるのに…… 全然見えない」

 

案の定、だいぶ苦戦しているようである。

 

「これって……これって麻雀なの?」

 

ネット麻雀を全否定する咲の台詞に、隣で観戦していた京太郎が「何言ってんのこいつ?」みたいな胡乱げな表情を咲に向けている。

無理もない、ギフトに頼った打ち筋の咲にとってネット麻雀は暗闇で対局させられているようなものだろう。同じ競技とはいえ、カルチャーショックに近いギャップを感じているに違いない。

「うぅ……」と、もはや涙声に近い声で呻く咲の凹みっぷりに、俺は「頑張れ」と心の中でエールを送る。

 

「ところで白兎、俺の個別カリキュラムはないのか?」

 

プレイに関してはもう問題ないと判断したのだろう、咲の対局を観戦していた京太郎がこちらに顔を向けて聞いてくる。

 

「ない。前にも言ったが初心者の京太郎はひたすら対局に時間を費やした方が効果がある」

 

俺が肩を竦めてそう言うと、京太郎は残念そうな表情でため息をついた。

 

「俺はまだ初心者か。いつになったら中級者になれるんだ?」

「何、心配するな。今の時点でもそんじょそこいらの中級レベル相手に引けは取らんさ。成長の度合いならお前が一番だよ、京太郎」

 

事実である。

といっても特段京太郎に凄い才能があるから、というわけではなく、初心者ゆえに成長の余地が最も大きかったからだが。

 

「え、マジ? 俺そんなに強くなってんの?」

 

俺の思わぬ高評価に顔を綻ばせる京太郎。

 

「ああ。この調子であと10日頑張れば、県予選でも結構良い成績残せるんじゃないか?」

「おおお! そうか! よっしゃあ、やる気出てきたぁぁ!」

 

俺が同意すると、京太郎は椅子から勢いよく立ち上がり、両拳を振り上げて気炎を吐く。

その声に、隣の咲が驚いて小さく「きゃっ」と悲鳴を上げる。

そして同時にPCから「ロン」という短いシステム音声が出力される。

「ふぇぇぇ……京ちゃんのバカ」とぶつぶつ文句を言う咲。どうやら驚いた拍子に操作ミスをして想定外の振込みをしてしまったらしい。

「すまん咲」と慌てて謝る京太郎。

カリキュラムの話に一区切りついたと判断した俺は、いつもの部活動を始めるべく皆を促す。

 

「ま、そういうわけだからとりあえず打とうか」

「おう!」

「京太郎には絶対負けないじぇ」

「はい」

 

咲を除く4人で卓を囲み、今日2度目となる半荘の対局が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆★

 

 

 

 

 

 

 

「送信、と……」

 

俺は小さく声に出して携帯を操作し、これからネット麻雀にログインする旨を綴ったメールをのどかに送る。

そして既に起動中のPCを操作してネット麻雀のサイトに接続、IDパスを入力してログインする。

現在の時間は21時を10分ほど過ぎたところだ。

部活を終え、遅くに戻ってきた竹井先輩に今日の活動内容を報告し、明日に控えているちょっとしたイベントというか企みについて打ち合わせた後、のどかを自宅付近まで送り届けてから帰宅した俺は、雀姫が用意してくれた遅い夕食を摂り、日課の筋トレを済ませてから入浴、その後自室にてのどかとのメールのやりとりを終えて今に至る。

ログインして待つ事1分、のどかこと「のどっち」の名前が接続者名簿の末尾に出現する。

のどっちはお気に入りプレイヤーに登録されているので、接続を知らせる「ちゃらん♪」という電子音が同時に鳴った。

俺はのどっちの待機ステータス(待機・対局待ち・オート申請中・対局中・観戦中、の5つの状態がある)が対局待ちに切り替わったのを見計らい、事前の打ち合わせ通りのどっちに対局申請を行う。

恐らく俺以外からも申し込みが殺到しているだろうが、のどっちは最優先で俺の申請を受諾した。

画面が対局準備画面に切り替わる。

その途端、対局待ち状態へと移行した俺の元へも他プレイヤーから対局申請が続々と届く。おかげで対局申請を知らせる電子音がピコピコやかましい。まぁいつものことだが。

 

 

To:しろっこ [そちらの目ぼしい申請者は誰がいる? あ、レート1800以上限定で]

 

From:のどっち [それだと、Touka さんと かじゅ さんの二人だけです。そちらは?]

 

To:しろっこ [こっちはアナゴさんだけかな。少し待てばもっと増えるだろうけど時間を無駄にしたくないし、この3人から選ぼう]

 

From:のどっち [わかりました。では、私はかじゅさんを選びますのでしろっこさんはアナゴさんの要請を受けてください]

 

To:しろっこ [おk]

 

 

マウスを操作してアナゴさんの対局要請ウィンドウをアクティブにし、「受諾」をクリックする。

ほぼ同時にのどかも操作を完了したようで、対局者の入室を知らせる電子音が「ピロロピロロン」と連続して鳴った。

 

 

From:アナゴ [どもー]

 

From:かじゅ [よろしく]

 

To:しろっこ [よろんこ]

 

From:のどっち [よろしくお願いします]

 

From:アナゴ [しろっこさん、のどっちさん、おひさやでー。つっても2週間ぶりくらいやけどな」

 

To:しろっこ [つきあい悪くてすまんねー。おじさん最近、リアルが忙しくてさぁ。ほら、いわゆるリア充ってやつ?]

 

From:のどっち [アナゴさんお久し振りです。ところでしろっこさん、その一人称変えません? 違和感が酷いです]

 

To:しろっこ [アレ、やっぱ不評?]

 

From:のどっち [無理にとは言いませんが……]

 

To:しろっこ [ああいや、のどっちがそう言うなら真面目に喋るよ。おじさんキャラクターもそろそろ飽きられてそうだしw]

 

From:のどっち [ありがとうございます]

 

From:アナゴ [なんやしろっこさんとのどっちさん、今日は様子が変やな?]

 

To:しろっこ [そう?]

 

From:アナゴ [以前に較べるとお互い余所余所しさがあらへんし、その上のどっちさんを呼び捨てにしてはるし]

 

To:しろっこ [さすがアナゴさん、鋭いツッコミだねぇ]

 

From:アナゴ [おーきに。ま、ツッコミは大阪人の専売特許やしな。で、どうなん?]

 

From:のどっち [親しいことは否定しませんが、それ以上のことは別に何もありません]

 

From:かじゅ [すまない。私からも質問いいだろうか?]

 

To:しろっこ [なんざましょ?]

 

From:かじゅ [ずばり聞くが、二人はリアルでも知り合いなのか?]

 

To:しろっこ [なぜそう思う?]

 

From:かじゅ [気を悪くしたなら申し訳ない。興味本位の詮索は慎むべきだとわかってはいるのだが。二人の接続した時間がほぼ同時だったので少し気になって。それとのどっちさんが「違和感が酷い」と発言したときにおや、と思ったんだ。のどっちさんはリアルでしろっこさんと話したことがあるんじゃないかと。でなければ違和感など覚えようがないと思ってね」

 

To:しろっこ [的確すぎる洞察にフイタ]

 

From:アナゴ [そう言うっちゅうことはやっぱリアル知り合いなん?]

 

To:しろっこ [あー、ちょっと待っててね]

 

 

やっべ、リアル知り合いだってことが速攻でバレたし。

別に殊更隠すつもりはなかったが、わざわざ吹聴することでもないし、ネット麻雀でのお互いのスタンスは以前のままで付き合おうってのどかと決めたばかりだったんだけどな。

とりあえず俺だけの判断で対応を決めるわけにもいかないし、少し遅い時間帯だがのどかに電話をかけることにするか。メールで相談だと時間がかかりすぎる。

そう思って携帯に手を伸ばしたところで、携帯が着信メロディを奏でる。

タイミングから言ってのどかだろう。考えることは同じというわけだ。

充電器に挿してあった携帯を手に取り、通話ボタンを押して耳に当てる。

 

「はい、発中です」

「もしもし、白兎さん? のどかです。遅い時間にすみません」

「気にしないで。俺も今のどかに電話しようと考えてたところだからちょうど良かったよ」

「はい。――それで、どうしましょう?」

「んー、まぁ迂闊だったとか軽率だったとか反省や後悔は後ですることにして、俺は隠さなくてもいいかなと思うよ。下手に誤魔化しても余計怪しまれるだけだし、リアル知り合いだってバレたところで大した問題はないでしょ」

「そうですか……私は白兎さんがそれでよろしければ構いません」

「了解。まぁこれで何か問題が起きたら責任は取るよ」

「白兎さん……ありがとうございます。実は少し不安でしたけど、そう言ってもらえて安心しました」

「それならよかった。あ、チャットの方は俺が返事するよ」

「はい、お願いします。……それでは切りますね」

「うん。それじゃ」

 

プツッ、ツーツー……

会話を終え、電源ボタンを押して通話を切った俺は再び携帯を充電器に差し込み、キーボードを素早く叩いてチャットの返事を打つ。

 

 

To:しろっこ [すまそ。ちょいのどっちと電話してた。まあ今更隠すにも無理があるってんで、しょうがないって結論に]

 

From:のどっち [お待たせしてすみません]

 

From:アナゴ [うはー、マジで知り合いやったんかw]

 

From:かじゅ [秘密を暴いてしまったようで申し訳ない。私はこの会話で知り得た事実を他言無用にすることを約束する]

 

To:しろっこ [や、別にバレたからって実害あるわけじゃないし、気にしなくていいよん]

 

From:アナゴ [しっかし二人が知り合いやってホンマびっくりや。以前から知り合いやったん?]

 

To:しろっこ [いあー、知り合ったのは割と最近。最初はお互いがネット麻雀プレイヤーだってことも知らなくてさ、今日たまたまその話題が出て気付いたってとこかな。んで、折角だから二人で打とうぜーってことに」

 

From:かじゅ [なるほど、納得した]

 

From:アナゴ [ローカルな業界とはいえ、伝説的プレイヤーの二人が偶然に知り合ったとか、まるでドラマみたいやなぁ。でも実はしろっこさんがのどっちさんを何らかの手段でナンパしたっちゅうオチちゃうん?]

 

From:のどっち [しろっこさんはそんな人じゃありません]

 

To:しろっこ [疑われるのも解るけどね。俺が第三者だったとしても「そんな偶然都合良すぎじゃね?」って疑うだろうし]

 

From:アナゴ [ま、ウチとしては二人がどういう出会い方をしたかはさほど興味あらへんよ。興味あるのはどういう関係かっちゅうことや。なんや仲良さげやし、まさか恋人同士だったりするん?]

 

To:しろっこ [アナゴさん突っ込むねー。ま、親しい間柄だとは言っておこうかな。それ以上はひみちゅ。気になって夜も眠れなくなるがいいフゥーハハハァァー」

 

From:のどっち [まったく白兎さんは……]

 

 

げふぉ! ごほっ!

 

チャット欄に表示されたのどっちのコメントを見たとき、驚きのあまりにたまたま口にしてた緑茶が気管支に入り、盛大にむせた。

ちょ、のどか、俺の名前ぇぇ!

多分、二人の関係をカミングアウトして気が緩んだところに俺がアホな発言したものだから、普段の会話をしてる気分で半ば無意識に名前を打ってしまったんだろう。

俺も名前をタイピングする度にのどか=のどっちを脳内変換してから打ってるし、気を抜けばそのまま「のどか」って打ってしまいそうな気がするからわかる。

あれだ、リアルの情報というか本名を知ってしまった弊害がいきなり出てしまった。

 

 

To:しろっこ [ちょ! 名前!]

 

From:のどっち [あああああごめんなさいごめんなさい!]

 

From:アナゴ [うはwww 本名暴露ktkrwww のどっちさんナイスなボケっぷりやで]

 

From:かじゅ [ふむ…… 名字というよりは名前かな。しかしそうなると、名前で呼ぶということはやはり相当親しい間柄だと推察できるが……]

 

To:しろっこ [そういう冷静な分析はいらないから! 頼むから今見たことは忘れてくれ!]

 

 

不幸中の幸いと言うべきか、対局後のチャットと違い、対局前は対局室がクローズド状態になっていて観戦者はまだ入ってきてない。

つまりこのチャットを見、俺の名前を知り得たのはアナゴさんとかじゅさんの二人しかいないということになる。

であれば、今後この二人に黙秘さえしてもらえれば事なきを得れる。

 

 

From:アナゴ [ウチは別に黙っててもええで。根掘り葉掘り質問したウチにも責任の一端はあるしなー]

 

From:かじゅ [私も構わない。他人の秘密を触れ回る悪癖は持ち合わせていないから安心して欲しい]

 

To:しろっこ [まじありがとぉぉぉぉ! ジャンピング土下座感謝ですorz]

 

From:のどっち [アナゴさん、かじゅさん、ありがとうございます。しろっこさん、ご迷惑おかけして本当にごめんなさい]

 

To:しろっこ [過ぎたことだし次から気をつけてくれればそれでいいよ。幸い大事には至らなそうだしね]

 

From:のどっち [はい、以後気をつけます……]

 

From:アナゴ [そうや、黙秘の代わりっちゅうわけでもないんやけど、しろっこさん一つだけ教えてくれへん?]

 

To:しろっこ [へい、なんでしょー?]

 

From:アナゴ [年齢。いや、詳しい歳は答えんでもええんやけど、せめて年代を知りたいんや]

 

To:しろっこ [お兄さんはぴっちぴちの十代だお。いや以前否定されたけど正真正銘ガラスの十代です]

 

From:アナゴ [そーゆー化石ネタ振るから信用されへんのやろ……]

 

To:しろっこ [まじすんませんorz]

 

From:のどっち [しろっこさんが10代なのは本当です。私と同い年ですし、信じてください]

 

To:しろっこ [フォローしてくれるのは嬉しいんだけど、天然暴露なのか若さアピールなのか判断に困る発言だよね。多分前者だと思うが]

 

From:アナゴ [せやね、のどっちさんは隠し事に向かんタイプやなぁ。まぁ10代っちゅうのは嘘じゃなさそうやし、年代的にプロやセミプロやないって解ってすっきりしたわ]

 

From:のどっち [ごめんなさい、先ほど失敗したばかりなのにまた軽率な発言を……自己嫌悪です……」

 

From:かじゅ [別にそう気に病む必要はないだろう。年齢が特定できる内容ではないことだし。それよりも、10代ということは二人とも恐らく学生だと思うが、夏の大会には出場するのか? いや、無理に答えてくれる必要はないんだが、実を言うと私も10代の学生で、夏の大会には参加するのでね。少々気になったんだ]

 

To:しろっこ [へぇ、てことはもしかして大会で対局することもあるかもね。というわけで出場選手です]

 

From:のどっち [しろっこさん、大元の原因が私なので指摘しづらいんですが、名前と大会出場者という二つの条件で個人が特定されてしまうのではないかと……]

 

From:かじゅ [のどっちさんの言うとおりだ。ましてしろっこさんの実力なら容易に県予選を勝ち抜けそうだし、特定は難しくないだろうな]

 

To:しろっこ [それはしょうがないさ。仮にアナゴさんやかじゅさんに個人情報バレたところで別にやましいことがあるわけじゃないから問題ないかと]

 

From:のどっち [それもそうですね]

 

From:かじゅ [ところで、のどっちさんは大会に出場しないのか? しつこいようで恐縮だが]

 

From:のどっち [いえ、私も出場します]

 

From:アナゴ [なんや、ここまで情報が出揃うと、しろっこさんとのどっちさんが同じ学校の麻雀部所属っちゅうことが大体想像つくな]

 

To:しろっこ [ぎくり]

 

From:アナゴ [ベタな同意をありが㌧]

 

From:かじゅ [さて、麻雀よりも雑談話の時間が長くなってしまう前に、そろそろ対局を始めないか?]

 

From:アナゴ [せやな。まァウチとしてはしろっこさんとのどっちさんのリアル話をぎょーさん聞けて有益な時間やったわ]

 

To:しろっこ [対局もそうだけど、個人情報の取り扱いもお手柔らかに]

 

From:のどっち [よろしくお願いします]

 

 

俺は「対局準備中」と文字が書かれたアイコンをクリックし、表示された変更確認も「はい」をクリックして対局準備状態を「対局可能」に変更する。

それからほどなくして対局が始まった。

 

 

この日は結局、チャットに時間を使いすぎたために半荘1回だけで俺はのどか共々ログアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ちなみに後日、「おっさん雀士しろっこ」のウィキページを久し振りに見に行ったら、「リア充雀士しろっこ」と肩書きというか名称が変わっており、焦ってWiki内を読み漁ったが本名である「白兎」の単語はどこにも記載されていなくてほっとした。

しかし、その代わりにというわけでもなかろうが、人物紹介のページに堂々と「伝説のネット雀士の片翼、のどっちとは彼氏彼女の関係である」などと暴露情報が載せられており、ご丁寧にリンクの張られたのどっちのウィキページでも同様の内容の文が掲載されていた。

犯人はおそらくアナゴさんだろう。本名の黙秘は約束したが、それ以外の情報は好きに使わせてもらうということかもしれない。愉快犯な彼(彼女?)らしい。

なお、ふと気になって某巨大掲示板のネット麻雀板を見に行ったら、案の定俺が叩かれまくっててワラタ。

それによるとどうやら俺は、麻雀が強いことを利用し可愛くて純粋無垢なのどっち(のリアル女性)を言葉巧みに釣り上げ、まだ10代の彼女を孕ませた上堕胎を迫っている極悪非道な40歳前後のおっさんという人物像になっているらしい。

匿名の悪意って怖いね。

 




アナゴさん再び。Toukaさんチェンジ、かじゅさんイン。
アナゴさん、大阪弁が超書きにくいよ! 多分似非大阪弁になってるかもしれず。
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