サソリ祭りから一週間。
元気にアラガミとパーリナイしながら素材集めに邁進しつつ、毎日サカキのおっさんに身体検査(なお意味深では無い)をされたり、なんかヤバそうな液体をお注射されたりしていたら、急遽整備班の人からお呼出が掛かった。
場所はサカキ博士の研究室とのことなので、フェンリル謹製のフードを目深に被ってエレベーターに乗り込む。
「ロミオ先輩、これからどうします?」
「うーん、どーすっかなぁ。ラウンジでゆったりでもするかも。今日は特に任務が無いんだよ」
「最近任務が少ないですよね。サカキ支部長が言うには、凄い新人が来たって聞いたんですけど……」
「えっ、マジマジ!? 何それ!」
「なんでも、極東のエースの一人、ソーマ・シックザールさんの妹で、シアンさんっていう人なんだそうですけど……」
「うわー、気になるなぁ。俺も一度会ったことあるけど、ソーマさんってキリッとしててカッコいいんだよなぁ。その妹ってなると、物凄い美少女な気がする!」
…………はい?
エレベーターで鉢合わせた、ロミオくんとヒロくんがそんな事を語り合っていた。
ソーマ・シックザールの妹? その設定って、マジで適用されちゃったの?
疑問が深まるばかり。直ぐにサカキ博士を問い詰めなければ……と思いながら顔を上げると、目が合った。
「あれ、君見ない顔だね。新入り?」
「……まあ」
「でも待てよ……どっかで見たような顔だなあ……」
ロミオさんそれ以上思い出さなくていいから!
隣のヒロ君はというと、俺の顔を見て渋い顔をしている。
あの時に一瞬だけ顔を会わせたし、サカキ博士が直々に連絡しておいてくれているのだが……どうにも不満そうな表情だ。
人の天敵であるアラガミがこの場にいるという事自体がおかしいし、少し前まで切り結んだ仲だったので仕方無いだろう。
「お、着いた着いた」
軽快な停止音が鳴ると、ロミオだけがエレベーターから降りていく。
どうやらヒロが向かうのはこの階層では無いらしい。
「んじゃな〜!」
手を振りながらエレベーターを降りていくと、エレベーターは再度動き始める。
……二人きりになって気まずい。実に気まずい。
こちらをチラリと見て、何やら肩を落としているヒロくん。
GEの主人公らに過去なんて存在していないのが基本なので、現実を生きるこのヒロくんにどんな凄絶な過去があったのかなんて俺には分からない。
親をアラガミに食われていて復讐がしたいのか、はたまたお金がないのか。どちらにせよ、俺をあまり快く思っていないのだろう。
なので、俺は二歩前に出てから、エレベーターのとあるボタンをポチッと押した。
──ギュゥン……
「!? て、停電か……?」
機器が止まる重低音と共に、エレベーターの光が消え、僅かにオレンジの豆電球的なライトがぼんやりと灯る。
この様子だとヒロくんは知らなかった様だが、このエレベーターにはストップスイッチが用意されている。
よく、海外ドラマで見るアレだ。義父の影響でNC◯Sを見て以来、「あれ日本にも作られないかな〜」とか思ってたのだが、はるか未来の極東では標準装備されているらしい。
「……ストップスイッチ、知らない?」
「っ!?」
俺が喋ると、ヒロくんがビクゥッと体を跳ねさせた。
いやあの、そんな怯えなくて良くないですか……?
やっぱり第一部隊の人達とは感性が違うんだなぁ、と残念がって肩を落としていれば、鋭い眼光が横から俺を射抜こうとしている。
「……お前は、俺達の敵なのか?」
エレベーターを停止しての第一声。
それは、至極単純な質問だった。
ここで敵だと答える馬鹿は居ないだろうが……そうだな。
「……常に人類の味方でありたい……そう思ってる」
だって俺元人間だし。そりゃあ人間の味方に付くに決まってるだろう。
だからといって、人類が俺の敵だと認識するかもしれないから、俺は願望を口にしているっていう訳だ。
アラガミと人間は相容れない存在。故に、そう言う他ないのだ。
そんな解っていたであろう事柄に、ガクリと肩を落としたくなっていれば、ヒロくんは顔を俯け、ポツリと言った。
「……俺は、アラガミが嫌いだ」
そうぶっきらぼうに吐き捨てると、何となく察せた様な気がした。
「……大事な人を、アラガミに殺された……?」
「……俺の両親と妹だよ。俺が家に居ない間に、全員喰われた……。その後、俺達ブラッドを作った人……ラケル先生に拾われて、マグノリア=コンパスっていう児童養護施設に入った。だから今、ここにいる」
……あんた、ラケルさんとこの出身なのかいな。
主人公の設定なんてあるのかすら不明だったが、現実化するとマグノリア=コンパスの出身になるとは思いもしなかったよ。
と言うことは、ギル以外はラケルさん出身のブラッド隊員か。
……ラケルさんがやってたことを考えれば、何というか、凄まじいな。
「君の事は、ハッキリ言ってよく分からない。アラガミに人の感情があるなんて信じられなかったし、サカキ博士の講義を聞いて俺とジュリウス隊長は口を開けたままになってたくらいだから。でも……」
直後、殺気とも言えるような鋭い視線で続けた。
「もし敵対する行動を取ったら、即座に斬り捨てるつもりだから」
もし神機を持っていたなら、間違いなく俺にそれを向けているだろうと言ってもいい程の気迫に、アラガミながら思わずギョっとしてしまう。
あまり読んでいなかったが、記憶してる限り漫画版の主人公はもっとのほほんとした好青年だった筈……現実で出てきたオリジナル要素と言ったところだろうか?
まあなんにせよ、扱いには十分留意する必要がありそうだ。
「……ヒト型アラガミは人を喰らう事は無い。少なくとも、それは前例が証明している。それに、アラガミが私の食べ物だから」
そう言えば、ヒロくんはとても難しい顔をしていた。
神が人となるか、人が神となるか……ゲーム内でサカキ博士がそんな事を言っていた。
正しく俺は、神が人となった生物だ。言語を喋り思考と感情を持ち、ヒトの容姿をしている。
──俺は、人間に入るのだろうか。
何度も思ってきた疑問。
ヒト型アラガミという存在が普及したら、人はそれを認めるのか。
分からない。分からないが、少なくともこの極東支部にいる第一部隊の人達や、その他一部の人達だけは信用出来る。
ブラッド……ピクニック隊長のバックにいるラケルに俺の存在が知られているという可能性を考慮すれば、俺がここに居る方が安全な筈だ。
ラケルに出会ってしまったら……第三部どころか最早一巻の終わりと言っていい。
終末捕食のキーとなる特異点。隊長と歌姫さんことユノ、そして俺という三つ巴……考えるだけで恐ろしい。
世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだよなあ……
自分の行く先を憂いまくりながら、ストップボタンを解除してエレベーターを動かす。
「……そう言えば、私の名前はシアン。……一応、覚えておいて」
「それは……名付け親は?」
「……ソーマ。ずっと独りだった私を拾ってくれた、恩人」
そう言うと、ヒロが納得したらしい。
ソーマがシオと仲が良かったことでもサカキ博士から話されたのだろうか。
「それと、もう一つ…………カミサマになろうとするヒトと、ヒトになろうとするカミサマ。その意味を、じっくりと考えてみて。……きっと、答えは無いけど、世界が直面しているその問いに、自分なりの考えを見出して」
チーン、といういつもの音が響くと、ラボラトリに到着したので歩みを進めた。
さて、整備班のお呼び出しはどんなご用件なのだろうかと、めっちゃ気になるので足早に廊下を進んでいく。
エレベーターで面倒くさい爆弾を投下して、置き去りにしてきたヒロくんには是非とも俺の存在についてじっくり考えてもらいたい。
自分自身でもあやふやな、このシアンというヒト型アラガミを。
「さて、ラボラトリラボラトリ……」
軽くスキップしながら廊下を歩くと目の前にはいつもの扉が。
そして、いつものようにインターフォンモドキを鳴らすと、声が聞こえて──
『シアンちゃん……だよね? 鍵は開いてるから入ってきても構わないよ!』
この耳を震わせる可憐なヴォイス……しかも、安田さんじゃなくて小見川さんだな!?
嗚呼、遂に相見えようとは……我らがメインヒロインよ。
そう思うと、立ち止まってはいられない。俺は光の速さで扉を開けると、その御身を拝謁させてもらう。
上はノースリーブのタンクトップのみで、下は左肩の部分が外れている作業着のオーバーオール。ゴーグルを頭の上で外したまま。
整備直後だったからか、少しくすんだ銀髪に、頬には少しオイルがついている。
だが、それがイイ。
「やっほー、初めまして。私は楠リッカ。一応、神機の整備班の班長してたり、研究開発部門を受け持ってる整備士だよ」
彼女こそ、楠リッカ……シエルを差し置いてみんなのメインヒロインへとのし上がった、最強の整備士。
「……シアン。召喚に応じ馳せ参じました」
「あはは! そんな堅苦しくなくていいよ! 確か、あの堅物ソーマくんの妹さんなんだっけ。初耳だったから、サカキ博士から聞いた時はビックリしたんだ」
頬を掻きながら可愛らしく笑っている姿が尊い。バックアップメンバーが追加されてからは絶対連れてっていた。現実で冷やしカレードリンクを自作するくらい好きだった。
とにかく、大好きです。
「今、シアンちゃんの神機を製作しているのは私なんだけど、他に例を見ないオーダーメイドで、かつ極東で作られる初の新型神機の研究開発だから色々と奮発したくてさ。アーティフィシャルCNSに必要なアラガミのコアも特別強力なのにしたいんだけど、何か丁度いい物持ってる?」
なるほど……アラガミのコアか。
でも、サカキ博士曰く、神機の適合率がオーバーフローしてマイナスになるのは、神機が捕食対象になってしまっているかららしい。
つまり、俺が捕食しないもの。
……まあ、こういう展開になるのは予測がついていた。
「アラガミのコアなら、ここにある」
そう言って自分の心臓のある部分を二回ほど叩くと、アラガミ細胞の爪を立てて思い切り抉る。
「……え?」
激しい痛みと、おびただしい量の血が流れ出すが気にする事はない。
これくらい、とうに慣れたようなものだ。
奥まで手を突っ込み、やがて結晶質の球体に触れた。
そしてそれを……引っこ抜くっ!!
「あ……やば……」
「し、シアンちゃんッッ!!」
そういや、普通に意識失うんだっけなぁ……
意識が落ちていく中で俺が見たのは、俺の瞳と同じ紫色のコアと、泣き顔で俺の顔に触れるリッカさんだった────
◯ ✖️ △ ◆
sideリッカ
私は訳が分からなかった。目の前で、人が死んだ。それも、自分の心臓を抉り取って。
その場に倒れたシアンちゃんをそっと抱き上げる。胸には大きな穴が空き、見ていられるものじゃない。
でも、どうして……? なんで心臓を抉っちゃったの?
そうして、心臓を握っているシアンちゃんの右手を見た時、気付いた。
握っているのは、心臓の様な生々しい器官じゃなかったのだ。血に濡れてはいるが、綺麗な宝石の様な球体で、紫色をしている。
紫色じゃ無かったけど、私は見覚えしか無かった。神機パーツの開発もしてるから、知らない訳が無い。
これは、アラガミのコアそのもの。
そうだとすれば、つまり彼女はアラガミ……ヒト型アラガミ!?
「そんな……なんでそんな、自分を殺してしまうことを……」
そう思ってから、一つの推測が頭を過ぎった。
この極東には『不死のアラガミ』と呼ばれる存在がいる。
その名をハンニバルと言い、抗体で対策をしなければ延々とコアを再生し蘇る厄介なアラガミ……もし、その性質を取り入れる事が出来たならば。
アラガミの性質を取り入れるアラガミというのは存在する。最近は赤い雨の影響かめっきり見なくなっているけれど。
私は、彼女の左手を握り締めながら、復活するのを待つ。彼女が……シアンちゃんが、ハンニバルの特性を持ったヒト型アラガミであること願いながら。
「生き返って……シアンちゃん!」
「……もう生き返った」
「!?」
声が聞こえて来て、ビックリして目を開けると、シアンちゃんはこちらを優しそうな目で見つめていた。
流れ出た血がシアンちゃんに集まっていき、吸収されていく。私の身体中を濡らしていた血すら綺麗に。
呆然としていると、シアンちゃんが、自分の持っているコアに気付いた。しばらく鑑賞するように眺めてから、
「……あともう一個やらないと」
そう言って、心臓部分にまた爪を突き立てて……ってダメでしょ!?
「──待って待って! 私のいる前でやらないで! さっき凄く怖かったんだから! そもそも、私シアンちゃんがヒト型アラガミなんて聞かされてないよ!」
「……ほんと?」
「そうだよ! だって、そもそも博士からは新人のゴッドイーターとしか知らされてなかったし!」
多分、秘密保守のためだとは思うけど……いや、もしかして博士はこうなるのを予想して……?
でも、それにしてはタチが悪いよ……私そんなに信頼ないっけ?
「今から、支部長室に押しかけてくる」
「博士は説明が足りなさ過ぎるよ……」
まあ、シアンちゃんがなんで自分のコアを引き抜いたのか何となく分かっていた。どんな神機にも適合する……ヒト型アラガミの研究中に思いついた仮説だったけど、オーバーフローするまでに強力なアラガミというのは、それこそ格上である禁忌種と同等の力があるということ。
シアンちゃんはそこまでに進化したアラガミ……
そして、専用の神機を二本。本来、神機は二本で使う事を想定されていない。こちらも仮説だけど、もう少し技術の進歩が進めばコアが一つだけでも使える双剣が作れる筈だけど、要求はそのまんま神機が二本だった。
神機を二本使える人は、今のところ存在していない。例外としてユウくんがいるけど、あれは侵食されかかってたし……
だから、耳を疑ったけど、博士は頑なに新人のゴッドイーターと言ってたし、一応それを信じていたから、さっきみたいなショッキングな光景を見る羽目に……
「やっぱり、博士は絶対に締める!」
部屋を出る前に、アラガミパワー?で心臓部分の服を再生させたシアンちゃんと共にエレベーターに乗り込むと、そこにコウタくんがいた。
何でか、ギョッとした目で見てきて、え、え? と頻りに私達を見ている。どうしたのかな……
ともかく、私には為さねばならないことがあるから、今はコウタくんに構っている余裕は無いんだ。ごめんね!
チーンという音が鳴ると、私たちは走り出す。支部長室まで距離は短いので、真っ先に素早いシアンちゃんがインターホンを連打しまくっていた。
……うん、さすがに、やり過ぎじゃないかな?
ちょっとシアンちゃんの執念に引いていたら、博士がインターフォンに出た。
あんなに鳴らしていたのに少し間があったのは、出ることを躊躇していたからだろうね……
『……ど、どうしたんだいシアン君。君はリッカ君と一緒に神機のことで……』
「……今すぐに開けないと、扉を蹴破る」
『分かった、分かった! 落ち着きたまえ! 今開けるとも!』
慌てたような声が聞こえてきた。扉を蹴破られたらプライバシーもへったくれも無くなっちゃうし、直るまでは開放的な部屋で事務作業。
それは、居た堪れないよね……誰が訪ねて来たのかはすぐ分かるだろうけど。
私が扉を開けて入っていくと、その前にシアンちゃんが大股でズカズカと入っていって、ガタッ! と片足を支部長室の長机に乗っけて、上半身を前へと傾けて、机に乗った足の膝に腕を置いて、60年くらい前にいたヤクザっていう職業の人と同じ体勢で博士を睨み付けている。
そしたら、なんだか博士が気まずそうに目を逸らした。
これはもう確信犯だね。
後、シアンちゃんが足を乗っけた部分が凹んじゃってるや……でもまあ、暫くはそのままにしちゃおう。博士の戒めになると思うし。
「……博士。今すぐにリッカに謝れ」
「あ〜、いや〜。ね? ほんのちょっとの遊び心だったというか……」
博士がそう言った途端、シアンちゃんが足を乗せている机がミシミシと音を立てて亀裂が入っていくのがよく見えた。
いや、うん。そこまでしなくていいよ……?
「謝れ。さもなくばこの場で卍固めを断行する」
まんじ固め……? なにそれ。
私だけ理解出来てないっぽくて、博士はなんだか顔を青ざめさせて苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
「くっ、やはり予測不能ということか……リッカ君、シアン君、誠にすまなかった……!」
「……うむ。潔くて宜しい」
頷きを一つ返すと、片足を下げて腕を組み、一応だけど支部長にする態度じゃない上から目線で許した。
そういえば、一つ思ったんだけど。
シアンちゃん、自分があのクレイドルのミニスカート穿いてるのに気付いてた?
もしかしたらというか、いや、絶対さっき博士が目を逸らしたのって、それが理由なんじゃないかな……
おまけ
「そう言えばなんだけど、シアン君は身体の色を変えることは出来ないかい?」
「……やってみた事ないけど……多分、出来るかも? ──えい!」
「これは……綺麗な肌色だね。そう、これから暫くは、この状態を維持してもらいたい」
「……何故?」
「ゴッドイーターとして、そろそろ本格的な仕事が始まる。だから、人間の姿になってもらいたかったんだ。と言っても、事情を説明してある人の前なら問題無いよ。アリサ君やコウタ君、ヒロ君、ジュリウス君、ソーマ君といった具合にね」
「……ん。分かった」
「あ、それと明日から講義が始まるから、ちゃんとお勉強の用意もしておいてね〜」
「……へ?」
えっ、それオラクル関連なら凄く勉強したいんですけど。
シアンちゃんのお婿さん決め
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神威ヒロ(なお公式嫁との戦いが待つ)
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ジュリウス(ラケルとのガチバトル)
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ソーマ(月の人の口がへの字になる)
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ロミオ(リヴィとの冷戦)
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その他(ハルさんとか、ギル?)