神さまばっかの世紀末な世界に、俺が望むこと   作:赤サク冷奴

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複数のイベントを同時並行でやる主人公の気分……

 

sideシアン

 

 

「それじゃあ、さっそく神機の素材が揃ったから本格的な製作をしてみるよ。神機パーツも専用のを作るから、期待して待っててね!」

 

 そう言って、俺の女神は行かれてしまった。

 

 サカキ博士をとっちめた俺とリッカちゃんは神機のことについて色々相談し、今後の神機製作の方針を定めたのだ。

 

 神機を作るには、実に莫大なコストが必要で、それを二個も作ろうって言うんだから、俺の手持ちの材料はほぼ全て消え失せてしまうことになった。

 

 アーティフィシャルCNSに必要なのは俺のコアとその他諸々。神機本体の素材の多くは俺由来の素材なのだが、ここでアラガミ祭りで集めた素材の一部が使われたり、神機パーツに至っては2セット作らないとならないので、ここで残りのアラガミ素材を使用。

 

 幸い、研究開発という名目だったのでfc(フェンリルクレジット)の消費は無いらしいが、毎日アラガミと戯れる日々はちょっとめんどくさかった。

 

 おのれ、お前だけは許さんぞクソメ──セクメトめ。

 なんだよ、エイジスでセクメト三体討伐って。馬鹿だろ、嫌がらせだろ。ゲームだったらサスペンションブリッジより凶悪だったぞ。

 セクメトを食べたお蔭で身体が高校一年生から少し上がって二年生くらいに成長したのを考慮してなければ博士を本気でシメていた自信がある。

 

 まあそれはそれとして。

 

 あのゴタゴタの後にサカキ博士から聞いたのだが、俺は正式にシアン・シックザールになっているらしい。

 え? そんな畏れ多いことしていいの? と思っていたが、サカキ博士曰く、「ソーマ君の養子って事になるけど、特に問題は無かったよ」とのこと。

 

 案外すんなり通るものらしいが、ヨハネスとかガーランドェ……?

 

 そして、ついに身分証明も作られたのでターミナルが使用できるようになった。腕輪をガチャリと穴に嵌めて認証し、自分が集めた素材の出し入れも簡単に行える。

 これがあまりにも楽しくて、腕輪をガチャっとやっては外し、また嵌めては外しを繰り返しやってたら、いつの間にか部屋に入ってきていたソーマにポカッと殴られ、「物は大事に扱えっつってんだろバカ!」と、説教された。解せぬ。

 

 所属は一応、独立支援部隊クレイドルの扱いで、階級は准尉。これについては、シアンという人物をできる限り秘匿するための特例措置らしい。

 

 そして、ヒト型アラガミの精確な知能指数や学習能力検証の一環として、オラクル技術を学ぶことになった。

 オラクルというものは、既存の科学の常識を打ち砕くファンタジー物質なので、物理学の法則が通じないものも多いらしく、炭素ベースで作られていない生物であるオラクル細胞は、オラクルアクチュエータ、オラクル生化学、オラクル細胞学などなど、独立した分野になっているらしい。

 

「オラクル細胞は、人間とは異なる遺伝子のような物を持っている。これは情報を集積するもので、オラクル細胞の学習能力の礎とも言えるね。最近では、ここから情報を抽出できるかという研究が行われていたりするけど、まあそれは十数年経ったら出来るようになるかもね?」

「……そもそも、捕食って?」

「捕食とは、オラクル細胞が細胞壁に持つ、外界から物質を取り込む能力だが、これは生物で言うところの消化吸収とは根本的なところから全てが異なっていてね。酸や酵素などは全く用いられていない。ただ、あらゆる物質を、分子レベルだが光速と同じくらいの早さで分解、吸収し、その情報を解析するのさ。だが残念なことにオラクル細胞の細胞膜と細胞壁の間には、我らの知る有機結合や共有結合なんかよりも、より強固な結合があってね。まだオラクル細胞の細胞壁を剥離できた記録は一度もない。オラクル細胞無しに、捕食の性質を加えることは理論上不可能とされているのさ。さらに、オラクル細胞は考えて喰らう細胞であり、自身が喰らう物とそうでないものを瞬時に分ける、いわば食わず嫌いみたいな性質を持っている。これを偏食といい、アラガミそれぞれが持つ偏食の傾向を、そのまま偏食傾向と────」

 

 とまあ、こんな感じに分かりやすく、かつ専門的な解説によって、俺の知識は凄いことになっている。

 

 ……いや、サカキ博士頑張り過ぎだろう。

 

 どこかのタイミングで労わってやらないと、どっかのソーマさんみたいにオーバーワークで色々し仕出かしそうだ。

 

「……何はともあれ、これでゆっくりと神機使いコースに……」

 

 と、一息吐いた時……スカートのポケットから振動を感じた。

 

 携帯から着信か……って事は、まさか。

 

 素早く取り出して通話のアイコンを押すと、やはり聞こえてきたのは彼女の声。

 

『シアンさん、出撃命令です! 直ぐにカウンターへ!』

「……ん。分かった」

 

 何故、俺が駆り出されているんだヒバリちゃん……

 

 取り敢えず了承しておいて、自室からエレベーターでエントランスまで降りる。

 

 そこからカウンターのある階段をひとっ飛びで下りると、そこにいたのは、みんなの主人公神威ヒロくんと、ピクニック隊長のヴィスコンティさん。

 

「あ、シアンさん! では、揃いましたね」

「「えっ……」」

 

 思わず、俺とヒロくんが顔を見合せた。ヒロくんは、「え、マジで? コイツとやんの?」っていうちょっと嫌そうな表情だ。

 そんなに嫌そうな顔されても、つまるところ仕事なのだ。諦めなさい……

 

 対するみんなのピクニック隊長は、単純に疑問といった表情をしている。

 

「俺とヒロ、そしてシアン……この三人で作戦を?」

「ええと、その事なんですが……」

 

 ヒバリちゃん曰く、現在エイジスにコンゴウが複数体現れたとのこと。

 ブラッドのメンバーは別のところで作戦をしていて、第一部隊とかの主要メンバーは出張っているので、「折角だから、シアンちゃんとお二人の交流を深める機会になってくれたら嬉しいね」というサカキ博士の鶴の一声で決まってしまったらしい。

 

 おのれサカキ。なんてことを……と思って、ヒロをガン見したら、とある重要な事を思い出す。

 もしかして、ヒロと仲良くなれば、〝喚起〟の力で俺もブラッドアーツが使えるようになったり……?

 

 正直、ブラッドアーツは早急に確保しておきたいので、これは丁度いいかもしれない。

 

「ん……それで構わない。二人は?」

「俺は特に異論は無い。寧ろ、シアンという人物を知るのには良い機会だと考えている」

「……勿論やるよ。アラガミを狩るのが仕事だから」

 

 ピクニック隊長の声に、さすが浪川さんだと思っていると、突如ピクニック隊長がこちらを向いて脚を揃え、右手を頭の横に、綺麗な敬礼をした。

 

「話は聞いているとは思うが、改めて。俺はジュリウス・ヴィスコンティ。フェンリル極致化技術開発局所属、特殊部隊ブラッドの隊長を務めている。以後、宜しく頼む」

「……同じく、ブラッドの副隊長の神威ヒロだ。……よろしく」

 

 不承不承といった感じで、ヒロくんも敬礼をした。

 

 ならば、こちらも応えるのが礼儀というもの。

 

「……フェンリル極東支部独立支援部隊クレイドル所属、シアン・シックザール准尉。よろしく」

 

 暇な間に、敬礼の訓練を人知れずやっていたので、俺だって敬礼くらいはできる──

 

「……敬礼は、左手じゃなくて右手で行うものだ。相手に対して無礼に当たるので、留意しておくといい」

「……えっ」

 

 頭をずいっと動かして見てみれば、左手でやっている。

 

 

 ……あっ、しくったぁ──────っ!!

 

 

 しかも、練習していただけに自信満々だったのを指摘されて、無性に恥ずかしい……

 

 ……っておいコラ、ヒロお前笑ってんじゃない!

 ほんと、惨めだからやめてくれ……!

 

「……ごめん、さっきのは、忘れて。……それと、二人の事はピクニ──ジュリウスとヒロって、呼ばせて貰う」

「ああ、では俺もシアンと呼ぼう。今回の任務だが、指揮は俺に一任されている。基本、俺の命令に従ってくれ」

「……了解」

 

 出撃の準備はもう出来ているから、さっさと作戦を……と顔を上げると、ヒロがいまだ顔を後ろに背けて、肩をわなわなと震わせている。

 いや、おいヒロくん。まださっきのを引き摺ってる? ちらっと俺の顔を見る度に笑わないでくれよ。

 流石の俺でもキレそうだ。

 

「……取り敢えず、笑ったヒロは後で一発ぶっ飛ばす」

「そ、それは頼むからやめてくれ……多分洒落にならないから」

 

 随分と締まらない雰囲気の中で、任務の受注確認をし終えた俺たち三人は、エイジス島へ向かうリフトへと乗り込んだ。

 

「……エイジスって、確か極東の計画で使われていた場所ですよね?」

「ああ。その通りだ。エイジス計画といって、海上に大勢の人数を収容可能なサテライト拠点の先駆けを創ろうとしていたらしいが……シックザール前支部長の事故死と、様々な問題点の発覚により頓挫したそうだ……まあ、俺たちしか知り得ない情報は、アーク計画の隠れ蓑とする為に建造されたということだ」

 

 ジュリウスの話を聞いて、そういやそうだったと思い出す。

 

 外聞的にも、アーク計画の事はよろしくないのでサカキ博士が隠蔽し、ヨハネスさんは事故死という形で処理されているのだ。

 

 にしても、何でもうアーク計画のことを聞かされてるんだ、この人たち……

 俺が出たから、そこら辺も併せて話さないとならなかったのだろうか。だとしたら、この後の展開が少し怖いな。

 

 やがて、リフトが指定の場所へ到着し、そこから上へと上がるエレベーターへと乗り継いだら、漸くエイジスにやって来れる。

 

 既に二人とも何回かエイジスに訪れているらしく、慣れた手つきで操作盤のボタンを押していた。

 

 ただ正直に言うと、これ、リフト使うより走った方が早い。エレベーターも壁キックの方が早いと思う。

 

 そんな旨の話をすると、二人から胡乱な目で見られた。ゴッドイーターの身体能力なら可能な筈だと思っているんだが……というかシオの記憶の中のユウが出来ていたし、可能でしょうに。

 

 エレベーターで上っている最中に、ジュリウスがこちらに振り返った。何か話をするつもりだろうと思って、俺も体を向ける。

 

「この辺りでもう一度、作戦のブリーフィングをしておこう。この任務の討伐対象は、コンゴウ二体と、その極地適応型三体だ。凡そ、一人で二体を相手取る必要がある上、乱戦が避けられない為、討伐はこれまで通り連携を密にすることが重要となる。急拵えのチー厶ではあるが……シアン、行けるか」

「……問題ない、と言いたいけど、ジュリウスの戦い方に関して把握出来てない。だから少し、手探りでやる」

「そうか。ならばそれぞれが二体、もしくは一体ずつ対応する形を取ろう。敵を引き付け、各個撃破を狙え」

「……了解」

 

 結構な無茶ぶりしてきやがるな、このピクニック隊長……

 

 第一部隊となら、シオの経験もあって連携がしやすいが、ヒロくんとジュリウスとの連携をしろと言うのは無理がある。

 この世界でどうやってジュリウスが戦うのかも分からないんじゃ、仕方ないよね。

 

「ブラッドアーツ、まだ進化が途中なんですが……コンゴウ複数体、いけますかね」

「大した問題ではない。使えるだけで俺達の方に優位性があると言っていいが……極東の神機使いはそれすら迅速に終えるそうだ。フフッ、アラガミ動物園とはよく言ったものだな」

 

 まあ、極東のバケモン(神薙ユウ)抜刀妻(霊代アキ)がいるくらいですし。

 多分あの人ら、ブラッドの偏食因子受け入れられるんじゃないかな。

 

 それに比べて、このへなちょこ主人公ときたら……

 

「……さっきから、俺に文句でもあるの?」

 

 ジーッと見つめていたら、ジトーっと返された。

 なんでこうもムスッとしやすい性格なのか。ユウみたく、明るくて少年っぽい性格の方がいいのだが。

 

 そしたら、ヒト型アラガミくらい受け入れてくれただろうが、家族をアラガミに殺されたら、仲良くなれないのも必然か。

 

「……文句じゃない。ただ、少し……」

「……少し?」

「…………何でもない」

 

 言いかけたことをはぐらかした。まだ、そのことをヒロに言うには早い。

 もっとこう、キッカケになる出来事が無ければ、俺と交友関係になるなんて無理だ。

 

 ……月にいるあの子の為にも、まだまだ頑張らないとな。

 

 決意を胸に秘めつつ、エレベーターの扉が開かれた。

 

「所定地に到着した。これより、任務を開始する」

 

 高台から下りると、コンゴウとコンゴウ堕天が計五体、バラバラにエイジスを占領していた。

 

 オラクルリソースを消費して両手に神機を生成。

 

「……左の二体は私が」

「では、俺は中央の二体をやろう。ヒロは右の堕天種を頼む」

「了解!」

 

 さっと駆け出し、プレデタースタイル『ベンディガー』の推進力で突進しつつアラガミを食らい、クイック捕食の『銀爪』で半円を描きながら上空に飛び上がって上から捕食し、着地。

 

「……ジュリウス、ブラッドアーツ」

「そういう事か。ならば……ハァァアッ!!」

 

 そこへすかさず指示を入れると、血の力『統制』により、バーストレベルが上がった。

 そう、この時を待っていたのだ。

 

 コンゴウの間を掻い潜り、奮闘しているヒロの下へ辿り着くと、両手の神機を銃形態にさせて銃口を向けた。

 

「ヒロ、受け取って」

「!? ……一応、礼は言っておくよ」

 

 射出された光の弾丸がヒロを包むと、彼の神機が光を帯びた。

 バーストレベル3。これで能力が段違いに強化されるだろう。

 

「ジュリウスも」

「ああ、有難く使わせて貰おう」

 

 うーん、スキルがあるか分からない以上受け渡しバースト化があるか分からないし、自分もバーストが上がるエンゲージが待ち遠しい……この時代にあったら良かったのにな。

 

 まあ、無い物ねだりしても仕方ないので、自分がやるターゲットを再度捕捉する。コンゴウ堕天二体のうち、一体がローリングし、もう一体が竜巻を発射させてきた。

 

 コンゴウ堕天の風撃をステップで躱し、回転して攻撃するコンゴウをすれ違いざまに両手の神機を水平に斬り捨てる。運良く尻尾にも攻撃が当たったようで、結合崩壊した。

 

 結合崩壊で怯んでいる隙にもう片方のコンゴウの方へ飛び上がり、攻撃される前に顔面へと神機を突き刺してから勢いよく抉り引き抜いて、アラガミの膂力に任せた滅多斬りを叩き込んでいく。

 

『コンゴウ堕天、沈黙しました!』

 

 片手の神機でコアを捕食してから、怯みから立ち直ったらしいコンゴウ堕天の尻尾へプレデタースタイル『疾風』で素早く捕食を決めてバーストを維持。片手の神機で尻尾へ斬撃を数回。

 

 更に片手の神機をブラストに変形させて火属性の爆発弾を三連発。弱点属性かつ破砕属性を持った弾丸はコンゴウ堕天の顔面と背部のパイプを結合崩壊させる。

 それと同じくして、ヒバリちゃんの声が聞こえた。

 

『コンゴウ二体、同時に沈黙しました!』

「ん……ヒロとジュリウス。よくやる」

 

 二人のバーストレベルは3ではあるが、まだ作戦開始から一分ほどしか経っていない。ジュリウスは言わずもがなだが、ヒロは随分と技量を上げたらしい。

 

 しかしまあ、所詮はコンゴウと言ったところか。こんなに呆気なく終わるのだから、すぐに終わるだろ────

 

『想定外の中型アラガミ二体が作戦区域に接近中! これは……ハガンコンゴウです! 30秒後に侵入すると思われます!』

「くっ、禁忌種の新手か! 厄介だな……」

 

 ええぇ……いや、何でだよ。

 

 というのも、このハガンコンゴウ……中々に面倒なアラガミの一体だ。

 

 事ある事に範囲の広い雷属性攻撃でスタンさせられ、その間にローリングして体力をゴリゴリ削られる。

 あのセクメト程で無いにしろ、複数体で来られるとスタンの嵐に見舞われてボコスカとやられてしまうので、攻撃の予備動作や範囲を見極めて立ち回らないと乙ってしまうし、何よりまだ出て来ていい難易度じゃない。

 まだ新人のヒロが凄く心配だ。

 

 なので……

 

「この30秒で……残りのコンゴウを片付ける」

「言われなくても……!」

 

 二つの迫り来る竜巻に、ヒロはシールドを展開しつつステップでコンゴウへと突貫して行く。

 

 俺と戦ってから、かなり腕を上げている。事情はあれど、流石は主人公と言ったところか。

 

「はぁっ!!」

 

 裂帛の勢いと共に、ブラッドアーツ『斬鉄』らしきエフェクトが発生して、コンゴウ堕天の腕を斬り落とし、大きくよろめかせることに成功していた。

 その好機を逃すのは惜しい。今にも攻撃しそうなもう片方のコンゴウ堕天を相手取るために、片足を大きく踏み込み、音速を超える速さで突っ込む。

 

 そのコンゴウ堕天はこちらを視認したがもう遅い。顔面に捕食で食らいつくと、その状態で引っ張りそのまま顔面ごと引きちぎって、完全に動きが止まってから神機を刺してコアごと捕食。討伐を完了する。

 

「ヒロ、やれるな?」

「任せて下さい……! ハァァァ……!」

 

 赤い光が迸ってから、大きく前方へとステップで踏み出して、下段に神機を構え……

 

「セェェヤァッ!!」

 

 力のままに振り上げてコンゴウの身体を捉えた。

 このブラッドアーツの名は『ドライブツイスター』。派生すると弱点超特攻のトンデモブラッドアーツが開花する。

 俺も一時期使用していたことがあるのですぐ分かった。

 

 コンゴウの身体が綺麗に後方宙返りしてダウンすると、そこへ待ち構えていたジュリウスが、神機を背中へと突き刺して絶命した。

 

「今のうちに体力やスタミナを回復しておけ、次が来るぞ」

 

 素早くコアを摘出したジュリウスが、回復錠を取り出しつつそう言った。

 

 まあ、ハガンコンゴウ二体。分散して戦えば、どうってことは無い……

 

『っ!? これは……ハガンコンゴウ二体の他にもう一体! 恐らくは、シユウ神族……いえ、姿を視認! セクメトです!』

 

 

 

 

 

 

 ……あぁぁ──────────っ!!!

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 まるで、ミッション『原初の荒神』みたいに、狭い範囲での乱戦と状態異常の嵐に見舞われたクソミッションから数日経っていた。

 

 あの、ハガンコンゴウとセクメトというスタン&スタンコンビによって、ヒロが戦闘不能というヤバい状況になったので、しょうがなく禁じられたバレット……『RYU☆SEI』という名のメテオを降らせて一掃した。

 

 お蔭様で残存オラクルは底を尽きてしまい、自然回復を待ってられないのでまたもアラガミ討伐に邁進する日々です……

 

 ──カシュッ!

 

「…………」

 

 現在、俺はラウンジの窓側の席にいた。

 

 そして、とあるピンクの物を決死の覚悟で開けていた。

 

 

 

 ……その名も、『初恋ジュース』。

 

 

 

 ある時には殺人ドリンクとも、挑発フェロモン入りだのとか言われているそれだが、俺は遂にそれを自販機にて購入してしまった……!

 

 しかもこれが高く、1つ600fc。単純計算でモン◯ター三本分。

 

 一体どうなってるんだ……と成分表示を見てみると、そこには、

 

 ──『ヒ・ミ・ツ☆』

 

 とだけ書いてある。

 

 ……それでいいのか成分表。まあ、もう日本の法律なんて適用されないんだろうなぁ。

 

 そう思いつつ、スンスンと匂いを嗅ぐ。

 

「……! これ……」

 

 ……悪くない匂いがする。むしろ、美味しそうな匂いだ。

 

 なんとも言えない匂いを堪能した後は、グイッといこうと思う。

 

 匂いは良くても、味はまた別かもしれないのだ。

 

 今の俺の気分を言い表すならば、戦時中、親に見送られて戦地へ学徒出陣する学生の気分である……!

 

 いざ、尋常に勝負……!!

 

「んぐっ……んぐっ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なんだろう、この感覚は。

 

 

 

 ……なんと言えば良いのだろうか、この気持ちは。

 

 

 

 ……ああ、言葉に出来ない。

 

 

 

 出来ないが、これは正しく──────

 

 

 

 

 

「……美味しい」

 

 

 

 

 

 美味しい。

 

 凄く、美味しい。

 

 今まで飲んできた清涼飲料水の中で、一番美味しい。

 

 なんとも言えない苦味と甘味と酸味と辛味が調和している。最初に酸っぱさが来たと思えば、次に甘みが続々と口を侵食していき、最後には果てしない苦味と辛味が泡沫のように先程までの甘酸っぱさを消し去っていく。

 まるで、この缶の中で一つのストーリーが成立しているかのよう。

 

 

 ……初恋。そういえば前世では、初恋の女性がいた。

 

 お隣に住んでいた、幼なじみの女の子。とてもよく趣味が合って、小学校、中学、高校と一緒に過ごして、高校生の時に俺から告白して、なんやかんやで付き合うことになった。

 

 あの日々はとても楽しかった……元々一緒にいる時の距離が近いこともあって、やりたいことも近かったから大学も一緒のところを受験し、無事に合格していた。

 

 あの時ほど、満ち足りた人生は無かった。

 

 そして、何もかも順風満帆だった……あの日が来るまでは。

 

 

 

 

『……ごめんね…………こんな私を、好きでいてくれて……ありがと』

『俺に、逝くななんて言わせるな……っ! ロミオみたいに、人は生き返らないんだよ……俺を、置いていかないでくれ……!』

 

 

 

 

(クソっ! もう思い出すな考えるな……やめろ、それを頭に浮かべるんじゃない……!!)

 

 

 どうしようも無い怒りと殺意が心を支配しかけて、気が付くと、初恋ジュースの缶は潰れていた。

 

 結構飲んでいたとはいえ、多少零してしまった。サッと生成した布で拭き取り、それを体内に吸収して片付ける。

 

「はぁ……」

 

 いや、初恋ジュースはとても美味しいんだけども、思い出した事が事で、心が暗くなる。こうも憂鬱な気分になったのは久しぶりだ。

 

(親しい人が死ぬのは、もう見たくないな…………)

 

 ため息を吐いていると、隣に誰かが座った気配と、音がした。

 

 だが隣を向く気は起きない。はぁ、と溜息を漏らすと、隣の、カラン、と氷が硝子のコップに当たる音がやたらと明瞭に響いた。

 

「お嬢さん。顔色が悪いようだが……悩み事か?」

「……少し、昔のこと」

「ああ……その様子なら、あまり詮索しない方がいいか。神機使いってのは大抵、そういう深い事情を抱えてるもんだ」

 

 あまりに聞き覚えのある声……おもむろに、俺は少しそちらに視線を向ける。

 

 暗めな緑の髪をした、軽薄そうというか、女好きな三枚目なキャラで定評のある人物。

 

 ……真壁ハルオミ。彼は何かの酒が入ったグラスを傾けつつ、俺に話しかけてきていた。

 

「……お嬢さんは、確か最近噂になってたかな?」

「……クレイドル所属の、シアン・シックザール」

「シアンちゃんか。俺は真壁ハルオミ。第四部隊の隊長だが……俺含めて二人しかいない、ちょいと訳アリの部隊でな。寂しいから、是非とも仲良くしてくれると有難い」

「ん……構わない。こちらこそよろしく」

 

 手を差し出すと、キザっぽい笑みを浮かべつつハルさんが手を握り返してくる。

 

 その様子に、思わず笑みがこぼれる。鬱な俺の隣に腰掛けてくれたのがハルさんでとても助かった。

 この人の前だと自然と気持ちが楽になる気がする。男同士のシンパシーだろうか。

 

「しかし、ソーマくんに妹さんが居るとは聞いてなかったなぁ。今いくつ?」

「……0歳」

「えっ?」

 

 ハルさんが素で聞き返してくるが、本当に俺の実年齢は0歳だ。

 感覚では、まだ半年も経ってない。

 

 まあ、さっきのは軽いジョークということにして、意味深な笑みでも浮かべておこう。

 

「……ふふ、秘密」

「おっと、女性に年齢の質問はタブーだったな。許してくれるか?」

 

 お、これは何でもしてくれる系の質問かな?

 

 そう勝手に考えると、この時期にありそうな、パッと思い付いた条件をハルさんに提示してみる。

 

「……最近、何やら人を探してると聞いた」

「ん? それがどうした……って、まさか?」

 

 コクリ、と頷くと、ハルさんがグラスを勢いよく置いて、俺の片手を両手で包み込むように掴まれた。

 

「実はなんだが、シンガポールやドイツの支部にツテがあったんだが、どうも忙しいらしくて困っていた所だったんだ! このままじゃヒロの奴に示しが付かない……どうか、俺らの聖なる探索に付き合ってくれないか……!」

 

 やはり……っ!!

 

 既にヒロはキャラエピを始めていた! 

 しかもこれが知れた上に、この状況……

 

 GEファンとして……いや男として、それに混ざらない訳が無いっ!

 

 内心興奮気味になりながら、表情は平静を保ち冷静に指示を仰ぐ。

 

「……それで、私はどうすればいいの?」

「俺とヒロと一緒にとあるミッションを受けて欲しい。今からでも全く問題ない……というか、その服装のまま来てくれたら有難い。んじゃ、準備が出来次第、俺にメールを送ってくれ」

 

 そう言って酒を一気に呷ると、ふらりとどこかへと行ってしまった。

 

 時期的に見ても、まず間違いなく一番最初のキャラエピだろうか。この服装には、男子の夢が詰まった固有結界、〝絶対領域〟が存在するのでそうだろうと思う。

 

 ……でも待てよ? ヒロは俺のクレイドルの制服姿をよく見ている。これじゃ変わり映えもない。

 

 となると、新しい服が必要になる。オラクル細胞で作れるが、俺にそんなセンスは無い。つまり、買うか作製しなければならない訳だ。

 

 残っていた初恋ジュースを飲み干して立ち上がると、早速エントランスのターミナルでメールを送る。そのメールの宛先はハルさんではなく、アリサだ。

 

 無難に、件名は『救援、求む』。内容は『ちょっとデートの予定あるから、服を見繕ってほしい。お礼は、そのついでに私を自由に着せ替え人形にできる権利』で良いかな。

 

 しばし待機していると、エレベーターが開いて、アリサが出てきた。心なしか、目がギラついている様に見えるのは気の所為だと思いたい。

 

 ──って、こっち見つけた瞬間にダッシュしてきたんだけど!?

 

「シアンちゃん! あの話は本当ですか!?」

「ま、まあ……」

 

 肩をガシッと掴んで、血走ってなくもない目をこちらに向けてくるのが凄い怖いです……

 こんなアリサ、見たくなかった……っ!

 

「よし、それなら……」

 

 肩を離したと思ったら、ポケットから携帯を取り出して、ポチポチと画面を押すと徐に耳に当てた。電話しているのだろうが、一体誰に……

 

 その疑問は、次の瞬間アリサから紡がれた言葉が、全て解消した。

 

「あ、もしもしサクヤ(・・・)さん? ……はい、アリサです!」

 

 サクヤさん……だと!?

 

 いや、確かにサクヤさんは作中には出てこないが、現時点で二歳の子供を持つ母親という設定がある。

 まさか来させるのか、彼女を?

 

「……えっ、今アナグラに向かってるところなんですか!? 丁度良かったです! 紹介したい子が居るんですよ。……はい! エントランスの方で待っていますね」

 

 え、ちょっ、まっ、はやない? なんでそんな話がトントン拍子で進んでるの?

 

 俺の困惑をよそに、アリサは勝手に話を進めて、電話を切った。

 

「……橘サクヤ?」

「あ、シアンちゃんはシオちゃんの記憶で知ってましたね。言うまでも無いですけど、とても良い人なので安心して大丈夫です」

 

 アリサがそう言うと、俺の頭の中に、雪崩みたいに記憶が流れ出していく。

 

『凄いわねぇ〜! もう“五十音”覚えたの?』

『シオ、ヒラガナ覚えたぞ! さくや、書ける!』

『じゃあ、みんなの名前も書けるようになりましょうね?』

『じゃあ、次はユウだな!』

 

 俺の頭の中の記憶が、まるで自分が本当にそれに立ち会っていたかのように回顧される。

 サクヤさん、かぁ……シオを我が子のように可愛がっていたしなぁ。俺は身長があるけど、所詮は高校生と同じくらい。

 ……可愛がられる予感しかしない。

 

 でも、まさかこのゴッドイーター2の世界で会えるとは……本当にツイているな。

 

 アリサ、ナイスっ! と内心でサムズアップしてから数分。エントランスの出撃ゲート……もとい、メインエレベーターが開いた。

 

 とても小さな子を連れた、姫カット……? とかそんな髪型の美女。その人はアリサに元気よさそうに手を振りつつこちらにやってきた。

 

 服装はいつもの露出度マシマシな横乳服ではなく、上下が白で統一されていて、長めのタイトスカートを着ており、まるで貴婦人といった装いでやって来ていた。

 

「久しぶりねぇ~! ……って、その顔色、もしかしてアリサちゃんったらまた無理してる?」

「うぐっ……ま、まあ適度に二、三時間は休憩してますし」

「駄目よそんな時間じゃ! まだ成人したばかりの18歳でしょう? 任務にも支障が出てくると思うし、無理は禁物よ」

「は、はい……」

 

 珍しくアリサがシュンとしている。

 まあ確かに、アリサにとってサクヤは恩師みたいなものだろう。第一部隊で女性はこの2人だけで、相手は長い年数のベテラン。口で勝てるわけも無かった。

 

「それで……お隣が例の子?」

「はい。この子がシアンちゃん……あー、本名まで言った方が良いのかな……」

 

 いや、どっちでもいいと思うが……まあ、この際自分で自己紹介をしよう。

 

「ん。私はシアン・シックザール。よろしく、サクヤ」

「……ちょっと待って。気のせいじゃなければ、シックザールって聞こえた気がするんだけど……」

「ん……違わない。ソーマの義理の妹。それが私」

「…………なんだか驚きすぎて、逆に客観的になっちゃうわね……もう、博士ったら何をやっているのやら……」

 

 顔に手を当てて仰いでいるサクヤさんに対して、手を繋がれたままのサクヤさんの子供……確か、レンという名前の子が、俺をじっと見つめてきている。

 

 ……一体何を試されているのだろうか。

 

 終わらない睨めっこをしていると、レンくんは手をちょいちょいとやって手招きしている。

 

「……私?」

「……(コクリ)」

 

 そっと近づいて姿勢を低くすると、片手を添えて覆い隠して……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君、人じゃなさそうだけど、もしかしてリンドウ……お父さんを助けてくれたってアラガミかな?」

 

 

 ……予想だにしない質問を、投げかけてきたのだった。

 

 

 

 

シアンちゃんのお婿さん決め

  • 神威ヒロ(なお公式嫁との戦いが待つ)
  • ジュリウス(ラケルとのガチバトル)
  • ソーマ(月の人の口がへの字になる)
  • ロミオ(リヴィとの冷戦)
  • その他(ハルさんとか、ギル?)

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