神さまばっかの世紀末な世界に、俺が望むこと   作:赤サク冷奴

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上田。


華麗なる人は単なるネタキャラなんかじゃない

 

「キミ、人じゃなさそうですけど、もしかしてリンドウ……お父さんを助けてくれたってアラガミですか?」

 

 ……ちょっと、待ってくれ。

 

 衝撃的な質問に、半秒の思考停止を強いられた。二歳児がここまで流暢に話すのだから、無理ないと思いたい。

 

 まあ、この口ぶりと、黒髪金瞳とくれば、思い当たる節は一つだけなんだけど。

 

 俺も屈んで答えた。

 

「……それは私じゃなくて、シオ。お礼なら、そっちにお願い」

「あれ、アラガミ違いでしたか……どこで会えますか?」

「……月にいるから、ちょっと」

「そうだったんですか……流石に渡る手段がありませんね」

 

 どうしたものか、と首を捻るこの子が、視界からサッと消えた。見上げれば、サクヤさんがレンを持ち上げていた。

 

「あら、レンったら、シアンちゃんと何をコショコショ話してたの?」

「ん〜、ひみつ!」

「秘密なら仕方ないわね〜」

 

 ……なるほど。子供への擬態が得意と。

 

 不躾な目で見ていたからか、隙を見て睨まれた。

 バラしたらタダじゃ起きませんよと言わんばかりだ。

 

「シアンちゃん、どうかしましたか?」

「……なんでもない」

 

 ……全くもって前途多難である。

 

 

 

 

 俺とアリサは、サクヤさんの挨拶回りに同行していた。

 

 ここ数ヶ月顔を合わせていないから会っておきたいとのことで、支部長室へと訪れていた。

 

『おお、サクヤ君かい! 今開けるから、入りたまえ』

 

 インターフォンから、ここへ来てから毎日聞いている声が発せられてドアが開いた。

 

 中に入ると、どうやら博士は大量の書類作業に追われているようで、せっせこ筆を動かしていた。

 

「はぁ……2050年の頃は書類もある程度デジタル化されていたというのに……さて、久しぶりだね、サクヤ君。正確には116日と2時間38分34秒ぶりだ」

「うわ、博士、何てものを計測しているんですか」

「科学者の性には逆らえなくてね。しかし、何事も正確であることに越したことはないと思わないかい?」

「お久しぶりです。でも、それだから元支部長に先越されちゃうんじゃないですか?」

 

 サクヤさんが最高に辛辣で、男としての矜恃をくすぐる切り札をきった。

 

 しかし、博士はそれを軽く笑って返した。

 いやそれ笑い話じゃないだろ……と勝手に思っていると、博士はとある事を堂々と、大きな声で言ってのけた。

 

「あれは元々勝負にすらなっていなかったさ。研究部門も二人と私とでは似て非なるものであり、アラガミが発生する前は単なるライバルだったからね。それに……私にはアラガミという永遠の恋人がいるからノープロブレムだよ」

 

 サカキがこちらを見てニヤッと笑った瞬間、俺はアリサの背後にズズっと隠れた。

 ううぅ……背筋が凍るぅ! なんかこうゾワッと、気味の悪い感触が背中にっ!

 

 思わずブルっていると、アリサが屑を見るかのような視線で博士を睨み出した。

 

「博士……ドン引きです」

「じょ、冗談さ。シアン君はその中に含まれていない。気にする事はないよ」

「じゃあ、サリエルやプリティヴィ・マータ、最近出たっていうヴィーナスは良いのですかね?」

「ふ、二人してそれは酷くないかい?」

 

 当たり前だい。いくら居候の身でもセクハラは良くない。

 

 サカキ博士を非難の目で見ていると、ピピピピッという音が机から鳴り始めた。その音を聞いてか、博士がビクリとして腰に提げた懐中時計を見ると、慌てたように立ち上がった。

 

「……あ、ああぁぁ! まずい、非常にまずい。……済まないサクヤ君、今日はスケジュールが押していてね。今日はもう相手をしていられそうにない」

「あら、どちらへ?」

「少し本部の方にね。ウチで開発される新型神機のレポートを提出しておかないと、あの老害……ではなく、ご老人方から疑いの目を向けられてしまうんだ。やれやれ、この手続きは毎度毎度面倒で仕方ない……」

 

 書類をササッと纏めると、鞄を持って「では、失礼するよ」と言ってからさっさと消えていってしまった。

 

 その場にポツンと残された俺たち4人。その中で最初にサクヤが口を開いた。

 

「新型神機? もうそんな物が開発されてるの?」

「はい。まあ、シアンちゃん専用に作られるので、普通の人用のは作られるか分かりませんが、偏食因子や使われているアラガミさえも一新されるそうです」

「それは凄いわね……」

 

 まあ、大半が俺の素材で作られているし、ソーマのように真っ白な神機になるのは間違いない。その他の機能は……なんら変化無いと思う。精々、神機の偏食因子が強力で、大抵のアラガミが捕食することさえ出来ないだろう。

 

 支部長室から出て、次に向かうのはラボラトリ。そこまでのエレベーターの中で、サクヤが俺をじっと見つつアリサへ色々な事を質問していた。

 

「それにシアンちゃん、やたらと好待遇だけれど……シックザールの姓も持っているし、彼女は何者なの?」

「あれ、言ってませんでしたっけ……この子、ヒト型アラガミですよ?」

「……えええっ?」

 

 あ、そうか。肌の色を変えているから分からなかったか。

 

 オラクル細胞で変化させた色素を元の色に戻すと、生きているのか怪しいくらいの白さになった。

 血の色さえ表に出てこないのだから、アラガミってのは本当に訳が分からん……

 

「ん……改めて、よろしく」

「もう、それを早く言って欲しかったわ。人に擬態できる能力を持っていたら見分けなんてつかないでしょう」

「うう、すみません……」

「……ふふ。冗談よ。そんな事で怒ったりしないわ。ヒト型アラガミって聞いて結構驚いたけどね?」

 

 お茶目なサクヤさん可愛い。

 

 ……のは良いんだけど、ちょっとその手に連れているその子の眼圧、すんごく強いから、ちょっとどうにかしてくれませんか?

 

 

 

 

 それからラボラトリにて。

 

『アリサか。どうかしたのか?』

「ええと、実はサクヤさんが来てるんですよ」

『……分かった。今開けよう』

 

 扉が開いて中に入ると、パソコンを操作して少し忙しそうなソーマがいた。

 

「久しぶりだな、サクヤ。三ヶ月くらいか?」

「ええ。でも、極東に長く滞在してるなんて珍しいわね。キュウビは良いの?」

「アイツはリンドウに丸投げしたからな。それより……」

 

 ソーマが俺たちを手招きしているので、その椅子の隣の方まで近寄ると、モニターの一画面を指差した。

 

「これはつい先日。シアンから採取し、培養したオラクル細胞を転用したアラガミ装甲を使った実験なんだが……」

 

 いくつかの神機使いが、アラガミ装甲らしきパネルを攻撃する映像で、その都度甲高い金属音が鳴って跳ね返されている。

 確認するとその壁には全く傷がない。どう言うことだってばよ……

 

「これって、まるで第二のノヴァみたいな……」

「そうだ。現在ここやサテライトで使用されているアラガミ装甲でさえ、神機の攻撃には耐えらないだろう。だが、数多のアラガミを取り込んだシアンのオラクル細胞は、既に第二のノヴァと同等の偏食因子を取り込んでいると言える」

「……ソーマ、もしこれを使えたら……」

「間違いなく、計画は一歩前進するだろうな」

 

 クレイドル計画、一歩前進か。

 俺の細胞にレトロオラクル細胞を混ぜ込んだら、一体どんなのが出来るんだ。

 

 原作と少しずつ違う道に進んでいる事に少し興奮していると、不意にソーマがこちらに振り向いた。

 

「……シアン。済まないが、これから色々お前には世話をかけるかもしれない。それでも付き合ってくれるか?」

「……当然。私の存在意義は人の為にある。コアでもなんでも使うといい」

 

 なんたって、オラクルリソースさえあればそんなもの幾らでも作れる。

 

 それが誰かの為になるなら、俺は────

 

「……わぷっ」

「ったく。言語能力もそうだが、精神が成熟してるが故、か………お前がそんな目をするにはまだ早い」

 

 俺の髪をわしゃわしゃと撫で回しながら、ソーマがやたらと優しげな視線でこちらを見てくる。俺の背丈は女子高生ぐらいだと言うのに何故撫でられる。

 

 というか、「そんな目」ってなんだ。

 

「そうねぇ。私から言わせれば、なんだか昔のソーマによく似てると思うのよ。ぜんぜん捻くれた性格じゃないけどね?」

「ハッ、言っとけ……だが、コイツも中々の捻くれ者だろう」

「一体何を経験したらあんな目になるのかしら……ソーマなら分かる?」

「要は似た者同士ってことだ。そうなると、あながち俺の妹で間違いじゃねぇな。シックザールの血は引いてそうなもんだ」

 

 あまりに高次元の話がソーマとサクヤで繰り広げられて、俺とアリサはポカンとするしかない。

 

 ……って、レンくんはそこで感慨深そうに首肯すな。

 

 お母さんに正体バレても俺は知らんぞ。

 

「……一体、何の話を?」

「いいや。まだ知るような事じゃない。まぁ気にするな」

 

 聞いてみれば、はぐらかされる。

 ううむ。気になるな……

 

 シックザールの血を引いていそうなもんだ……とか言っていたが、血縁? 俺が知っているのは、小山さんなヨハネスさんと、辛うじて名前と経歴ぐらいは知ってる漫画のガーランドさんだ。

 二人ともなかなか深い過去があったりするが、それに俺となんの関係があるというのか。

 

「それで、サクヤは挨拶回りに来てる訳だな? 既にコウタのところの第一部隊には話を伝えておいた。エントランスで待っているはずだ」

「助かるわ。久しぶりにあの子たちを見に行きたかったのよ」

 

 第一部隊……コウタとはよく会ったり話したりするが、あの華麗な男の妹と騎士道精神のネタキャラとは顔を合わせた事がなかった。

 

「それじゃ、また用があったら来るわね」

「ああ。じゃあな」

 

 

 

 

 

 次に向かうはエントランス。

 

 エレベーターを降りると、すぐそこにあるソファに三人が揃っていた。

 

「ふーん、サクヤさんと一緒に、最近噂のシアンって人まで来るんだ」

「ああ、遂に彼女と相見える事となろうとは……ところで隊長、シアン殿はどの様な方なのだろうか」

「んー、なんて言えば良いのかなぁ。無口で無愛想っぽいけど、意外に可愛いところもあるって感じ。まあ実際に会ってみれば分かるんだが……おっ、来た来た!」

 

 大きく手を降ってくるコウタの隣には、やはり見覚えしかない金髪の男と緑髪の少女が座っていた。

 

「久しぶりね。コウタくんもそうだけど、お二人共元気そうで何よりだわ」

「はい! お久しぶりですサクヤさん!」

「おお、お久しゅうございます、サクヤ殿。我ら栄えある第一部隊、ここに参上致した」

 

 普通に頭を下げる緑髪の少女、エリナと、無駄に洗練されているポーズで華麗に挨拶をする、エミール。

 この二人のせいでコウタが毎度毎度大変な思いをしており、任務後にげっそりした様子で支部長室に入ってくることが日常茶飯事だったりする。

 

「ほう……サクヤ殿の隣に居られるその少女こそ、件のシアン殿かな? 僕の名は、エミール・フォン・シュトラスブルク。是非エミールと呼んでくれたまえ」

 

 いつも通り、髪をクルンクルンしながら上から目線でそんなことを聞いてきやがる。

 なんかムカつく。はっ倒してやろうか。

 

 とは思いつつも、個人的にエミールはイベント関連で割と好きなので、交友は深めていきたいと思う。

 

「……ん。私はシアン。シアン・シックザール。よろしく」

「では、シアンと呼ばせてもらおう。これから、我らと共に荒ぶる闇の眷属どもを滅していこうじゃないかッ!」

 

 暑苦しい。それといちいちポーズとるから目が疲れてしまう。

 ジトーっとした目で見つつ、眼前に迫るエミールの顔を押しのける。

 

 これで視界が開けた……のは、良しとしよう。

 

「……えっ?」

 

 しかし、この状況……特に、口を抑えて驚いているエリナがいる以上、安心は出来なくなった。

 

 ……迂闊だった。本当に、最悪の状況だ。

 

「うそ……シック、ザール……? それって、あの……?」

「…………多分、貴女が考えてる事と相違ない。私の兄はソーマ……貴女のお兄さんと、最期まで友達だった人……」

「……っ!?」

 

 エリック・デア・フォーゲルヴァイデ。とある作戦中にオウガテイルからの上田を喰らって、死んでしまった神機使い。そしてその妹が、このエリナ・デア・フォーゲルヴァイデだ。

 

 彼女の境遇は、俺にとってはとても身近なものだ。

 前世に残してきた俺の妹は、目の前のエリナのように、兄を……俺を亡くした。

 

 俺だったら、妹まで(・・)失くしたら、もう立ち直れ無かったはずだ。

 

 だというのに……そのはずなのに目の前の少女は、兄と同じ神機使いになっている。

 神薙ユウや霊代アキが一緒にいてくれたり、慰めてやったりと尽力もあったが、それでも芯の通った素晴らしい人間だろう。だから、心から彼女を尊敬したい。

 

 ……そう、尊敬したいのはやまやまなのだが。

 

「…………」

「…………」

 

 まるで通夜みたいな雰囲気を醸し出していた。

 

 どれもこれも、俺が迂闊にもシックザールをこの場で名乗ってしまったからだ。

 自分の顔を張り倒したくなるくらいの罪悪感を感じてしまう。

 

 何せ、エリックが死んだ作戦には、ソーマと神薙ユウ、霊代アキの4人で挑んでいたらしいのだ。でも、ミッション開始直後の、その隙を突かれてエリックはオウガテイルの真上からの攻撃を受けて、二人もすぐには反応出来ず、そのまま食い殺されてしまった。

 

 これは、シオの記憶ではなくデータベースから調べた情報だ。

 

「私は直接関わってないから、よくは知らない……でも、ソーマは、貴女の兄……エリックの死を悔いているし、今でも思い出す日があるって、時々言ってた。だから…………」

 

 ……だから、俺に次の言葉が出てくるはずがなかった。

 

 直接関わったわけじゃない。ソーマも、間接的に、それとなく言っていただけで、詳しいことは何も教えられていない。

 ただ、ゲームという創作の世界から又聞きしただけで、この世界のことは殆ど知らない、知ったかぶりみたいなもの。

 

 そんな奴から出る言葉が、真に相手に届くことはありえない。

 

 俺は何も言えないまま、結局は俯くしかなかった。

 

 言ってしまったことはもうどうにもならない。

 俺はそっと、その場から離れることにした……

 

 

「……待って」

 

「……え?」

 

 

 右手を、エリナに掴まれていた。

 驚きと共に振り返ると、彼女が真っ直ぐに俺を見ていて、とても何か言いたげな表情をしているのが容易に分かる。

 

 何だろうと、疑問に思っていると、エリナも若干目を彷徨わせて、おずおずと口を開いた。

 

「……ソーマさん……あなたのお兄さんのこと、わたしは、全然悪くなんて思ってないの。ゴッドイーターになって、やっぱり、自分の実力が一番大事だって、気付いて……だからシアンさんまでそんなに気負われたら、わたしの方が申し訳なくなるじゃない」

「……そんな、ことは」

 

 そうだけど……そうじゃないというか……

 うう、なんと言えば……

 

 何かしらの言葉を出そうとして口の形をあれこれと変えてみるが、何も言葉がない。

 しかし、いつまでもそうやっていたら、エリナが、わなわなと顔を真っ赤にして震えだしていた。

 

 あ、マズい……

 

 そう思った頃には既に遅く、衝撃が肩から全身へと響いた。そして、さっきのエミールのように視界一杯をエリナの顔が埋めつくしていた。

 もっと客観的な状況を説明するならば、俺は今、肩を掴まれて間近で睨まれている。

 

 こんな、相手がエリナだけあってわりと恐怖であるこの状況に、身体が強ばって上手く動かない。

 それは、エリナが怖いからか、身勝手にも募っていく罪悪感からか……多分どっちもだろう。

 

 

 

「ああもうっ! 何でこの兄妹は揃いも揃ってこんな無口で、しかも私と会うと悲壮感漂わせるのよ!? わたしはもうそんなに気を遣われる歳じゃないから! ねえっ、シアンさん良い!? わかった!?」

 

 

 

 エリナは、俺の肩を激しくゆさぶって、怒りながらそう言い募っていた。

 

 彼女の性格からして、全く予想外……という訳でも無かったが、こうも激しく、目の前に迫られながらまくし立てられると、言葉が詰まる……

 

 くっ、無口キャラでやって来た弊害で強く出れない……!!

 キャラを月単位で偽ってると男の頃の言動も出来なくなってきたし……今更元気っ子キャラを演じられる気がしない。

 

「いや、あの──」

「つべこべ言わない! それと、あなたのお兄さんにもちゃんと言っておいて! わたしはっ! 極東で働く一人のゴッドイーターだって!」

「あ、う…………はい……………」

 

 14歳少女に言い負かされる精神年齢20歳の現在女子高生って……俺、弱すぎない?

 

 それに気づいたら、あまりのショックでやる気が起きなくなった。

 ずっとここでボーッと立ってられるくらいに、俺は14歳少女にズタボロにされました。はい……

 

「エリナちゃん。あんまりシアンちゃんに強く言っちゃダメよ? この子、見た目に反してあんまりそういうのに慣れてないの」

 

 傷心中の俺に代わり、サクヤさんが俺の生い立ちを慮ってか、とても気の利いた弁明をしてくれた。

 しかも撫でられながら。

 

 あぁ〜、荒んだ心が癒されるぅ〜……

 

「や、やっぱり……? あの……ごめんなさい。わたし、シアンさんに──」

「……き、気にしないで」

 

 もとは俺が発端なのだ。

 だからエリナが謝る必要は無いというのに……未来の若い子は謙虚だ。

 

 それに、さっきみたいに敬語無しで喋ってほしい。アリサは敬語がデフォだから何も問題は無いが、エリナは普段敬語を使わない。

 そもそも俺はエリナから敬意を払われる立場の人間じゃないのだ。歳は言わずとも、俺の方が圧倒的な程に下だし、見た目でそれを言ってもほぼ同年代に近い。あまりに堅い喋り方をされると、肩がこってしまう。

 

「……これから、敬語、無し。貴女と私は、ほぼ同年代。……いい?」

「え、えぇ? えーっと、その……いきなりそう言われても……」

 

 エリナはしどろもどろになるだけで、中々頷いてはくれなさそうだった。

 そうとなれば…………必殺技を使うしかない。

 

 エリナの片手を掴む。

 

 ビックリしているエリナを傍目にさっともう片方の手で包み込むようにして持った。

 

 そこから姿勢を屈めて、からのトドメの上目遣い。

 

「……ダメ?」

「うっ…………」

 

 人間、ギャップには抗えない生き物なのだ。

 

 考えてもみてほしい。身長が158cmという周りに比べ低身長だが、腰マントをたなびかせ、丈の長い皮のブーツに、クレイドルの格好の良いノースリーブ制服を着た、無口無表情の美少女が、突然目を潤ませ、悲しげな表情で懇願して来たら、果たして人類は抗えるのだろうか。

 

 ……その答えは、今に分かる。

 

「う、う〜! ……わ、分かった! これで良いんでしょ! あと、シアン……って、呼び捨てでもいい?」

「……ん。これで貴女と友達。よろしく」

「あ、うん……よろしく?」

 

 急すぎてあまり理解できてないらしいが、これで晴れて友達となった。

 

 俺自身もここまで仲良くしようとは思っていなかったが、何はともあれ、一瞬にして関係改善が成されたのは進歩だ。

 この調子でソーマとも仲良くしてくれれば早い話なんだけどなぁ……

 

「おお、シアンよ。我が妹と盟友となってくれた事に感謝したい。エリナの兄として、妹がずっと一人でいる所を見掛けると心苦しくて──グホァッ!?」

 

 俺とエリナの間に華麗に挟まってきて、俺に向かってお辞儀をしてきたエミールが、カウンターのある下階に吹っ飛ばされて、見事な落下を果たした。

 

 ヒバリちゃんの「ヒッ!?」という驚きにまみれた声が聞こえたような気がした。

 ご愁傷さまです……

 

「エミールうるさいっ! っていうか、誰がアンタの妹よ! それにわたしボッチなんかじゃないから!」

「え、エリナよ……もう少し、兄に対しての加減というものを、だな……」

 

 下に落ちてったエミールの声が掠れてて全く分からないが、そちらもご愁傷さまと言っておこう。

 

「……そういえば俺たち、サクヤさんの為に集まったはずですよね」

「「……あっ」」

 

 それは……なんと言うか……はい。

 すみませんでした…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、僕って今のところ、ただ連れ回されてるだけなんですよね」

「……もっと不憫なのがいた」

 

 もっと存在感空気なレンくんに、合掌……!

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 

 これは、サクヤが来る一日前の出来事。

 

 サカキ博士は、目の前の小さなカプセルと、白く変色し、元気に動き回るラットを眺めながら、感嘆の声を漏らしていた。

 

「これはこれは……本当に完成してしまったのか」

 

 カプセルを開き、ぽとり、と、液体をプレパラートに挟んで、顕微鏡のステージへと載せるとおもむろに覗き込む。

 

「やはりシアン君は、アラガミとしてはシオ君より稀有で異常、ということか……レアケースも過ぎると、偶然では片付けられない必然に思えてしまうよ」

 

 博士が、現在主に行っている研究……それは、ヒト型アラガミと名付けられたアラガミの特殊個体のオラクル細胞の解明。

 

 これが、思いのほか進展していた。

 

「数週間で、偏食因子の抽出、そして改良が出来るとは……リッカ君には、オラクル細胞ではなく、偏食因子自体での制御方式に変えてもらわなければならなくなってしまったよ」

 

 10個以上の小さなカプセルを頑丈な箱に入れると、「おっと、忘れていたよ」と呟いて、実験のレポートと思わしき難解な言葉が並べ立てられた紙に、最後の一文を書き込む。

 

「我ながら安直だが……シアン君に因んで、〝P41偏食因子〟と名付けさせてもらおうか」

 

 満足気な表情で頷くと、足早に研究室を出ていった。

 

 

 

 




独自考察とオリジナル要素はほどほどに(戒め)

シアンちゃんのお婿さん決め

  • 神威ヒロ(なお公式嫁との戦いが待つ)
  • ジュリウス(ラケルとのガチバトル)
  • ソーマ(月の人の口がへの字になる)
  • ロミオ(リヴィとの冷戦)
  • その他(ハルさんとか、ギル?)
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