はたまた所変わって俺たち四人が来ているのは、アナグラの外にある外部居住区だ。
第一部隊はどうしたかって? ちゃちゃっと話を終わらせましたよ。コウタ曰く、突然過ぎて何を言おうか分からない、という案件が発生していたらしい。
サクヤは自身はみんなの調子を見にきただけだから、アレで良かったらしいが……
いや、本当にあれで良かったのか。エミールは吹き飛ばされたままだったし。
色々疑わしい部分があるなぁ、なんて外部居住区に行き交う人々を眺めつつ考えていると、不意に前のサクヤが足を止めたので、ピタッと俺も歩みを止めた。
横には、暗めな木材で造られた立派な店があった。昔ながらの豪華そうな老舗という感じだが、ここが目的地だろうか。
「ここよ。私お気に入りのお店なの」
「あー! あの服って、たしかオーダーメイドだったんでしたっけ」
「あら、よく覚えてたわね。この服屋さんの主人さんと仲が良くて、作ってもらったのよ。まあ、オーダーメイドだからちょっと時間はかかるけど、良い物を仕立ててくれるから、どうかと思って」
「確かにいいですね……どんな服にしましょう」
「うーん、シアンちゃんのクレイドルの制服は格好良い感じだから、シオちゃんみたいに可愛いのがいいわねぇ」
分かってはいたが、やはり俺の意見もなしに勝手に決まっていくような……
サクヤに手を引かれながら店に入ると、茶髪の甘いルックスの男……従業員と思わしき男性がカウンターにいた。
「あら、今日はツバサくんなの?」
「あっ、お久しぶりですサクヤさん! ええ、父はいま奥に引っ込んでいて……」
「トウイチロウさんはいま仕立ての最中?」
「……ええと、その事なんですが……」
遠慮がちに話す、そのツバサとやらによれば、この店のオーダーメイドの主な仕事を請け負う父のトウイチロウは、最近上質な糸の布材が出回らずに不足しているから、自分の作るオーダーメイドはこれでは作れないと嘆き、家に引きこもってるらしい。
なので、代わりのオーダーメイドを息子のツバサが引き受けている、という趣旨の内容だった。
「なので、普通の絹やアリアドネの糸で作られた布であれば、僕が作るオーダーメイドは可能なのですが……何分、僕では未熟で力不足なので、ご期待に添えるかどうか……」
「私としても、トウイチロウさんにお願いしたいのだけれど……あ、別にツバサくんの腕が悪いって訳じゃないのよ?」
「分かりますよ。父の感性は並じゃないですし……あれはもう、一種のオタクの領域ですよ」
なんだその父親は。
いや、
「それで、上質な糸の布ってありますかね……出来るなら買い取って、父を正気に戻さなければなりませんので」
「うーん、困ったわねぇ……回収素材はあんまり残ってないのよ。アリサちゃんは?」
「多分無いと思います……そういった回収素材の殆どはサテライトの方で有効活用してしまっていますし」
……糸か。
あらゆる糸の組成は繊維を食った時に、オラクル細胞の学習能力? で理解したし、服を作る時もその組成をイメージしている。
「……糸、あるけど」
「ほ、本当ですか!?」
「……ちょっと、取りに戻る」
「あ、シアンちゃん!?」
足早で店から出た俺を二人が追いかけてくるが、構わず路地裏の方に入る。
人目につかない事を確認してから、手元に意識を集中させる……
脳内に浮かび上がる完成形をしっかりとイメージし、一つ一つ織り合わせていき、高品質の糸を再現する。
せっかくなので、今回はアリアドネの糸繭をオラクル細胞で作り上げようと思う。
高級な糸なので、俺も一時は捕食に躊躇したが……甘い味でとても美味しかったんだよなぁ。
「あら……それは、オラクル細胞で再現している、って事でいいの?」
「ん……分子レベルにまで縮小したオラクル同士の結合を変化させて強度、延び、感触といった性質を、学習した情報と擦り合わせながら付与する作業」
と、難しく言ってはいるが、一つの基本構造さえ完成すれば、後は複製の作業なのでとても簡単。
オラクル細胞が指示通り勝手に形質などを複製して布が作られていくだけなのだ。チョロいもんである。
「ん。出来上がり……」
出来上がったそれを丁寧に折り畳んで、素早く店に持ち込む……
「えーっと、シアンちゃん……それをまさか買い取らせる気じゃ……」
「……それはどう考えても犯罪。偽物を売り付けはしない。……でもこれでオーダーメイドはさせる」
「え、あ、うん……」
流石に低コストで作り出してしまった以上、どんなに高品質っぽさそうでもこれは店主さんへのプレゼントとなる。
アリサもわかってくれたようで何よりだ。
「持ってきた」
「早っ!?」
驚くツバサくんに、洗濯物のように沢山重なったオラクル細胞の布を進呈する。
目の前に出された布をぽかんと見ると、数秒経ってから彼の目付きが変わった。
手に取って触り心地を確かめ、暫くうんうんと唸り、出した結論は……
「高品質ですし、これ一枚で5万fcは下らないと思います……それが六枚もありますので、最低で30万fc……ええ、是非とも買い取らせてくだ──」
「金は要らない。あげる」
「────はい?」
ぽかんと首を傾げてきたので、そのまま手に持たせてやる。
まだ理解出来ていないようで、こっちを見てから布を見て、またこっちを見てくるがそろそろ鬱陶しい。
「ん……それ、渡してきて」
「……ええと、金が要らない?」
さっさと受けとれや、コラァ! という負の感情たっぷりのジト目で見てやると、ヒッと声を漏らして仰け反られた。
「……要らない。だから、早く渡す」
「あ、はい……?」
首を傾げてはいるが、ようやっと動いてくれた。
いきなりの事で申し訳ないが、それ金になるような価値じゃないし、早く店主さんにオーダーメイドの服を仕立てて欲しいのです。
「と、父さーん? 凄い質のいい布が入ったんだけ──」
「お、お前……まさかやべぇルートから手に入れたのか!?」
アラガミの聴覚で奥の様子を聞いたが……やべぇルートとはなんだ、やべぇルートとは。
このご時世にヤのつく職業とか、マのつく組織が蔓延っている訳でも無いだろうに……ちゃんと純オラクル産のアリアドネの糸繭ですからご安心を。
「くっそぉ我が息子よ、そんなもん手に入れてこないで良かったんだぞ!? つーか、それ幾らで買ったよ!? もうすぐあのラノベの新巻出るから、懐寂しくなったら唯一の娯楽無くなるんだけど! いや金稼ぎのためにそれでオーダーメイドもやるんだけどね!?」
このご時世にラノベ売ってるのかよこの世界。
何それスゲー読んでみたい。
「こらお父さん、あんまりツバサに当たっちゃダメよ? 怪しいルートからだったらちょっと怖いけど……」
「いや母さん、別に怪しいルートじゃないんだよ……怪しくはね」
発言に妙に含みを持たせているあたり、さっきのジト目がとても効いてしまったらしい。
美少女のジト目はそんなにも恐ろしいのだろうか……ハルさんにやったら間違いなく笑顔になられそうだが。
そんなこんなで数分待っていると、店主らしき、眼鏡を掛けた大柄な男性が、普段着のままやってきた。
「……あ、お久しぶりっすね、サクヤさん。確か、半年ぶりくらい?」
「お久しぶりです、トウイチロウさん。以前はレンの服でお世話になりました」
「いやぁ、素材がいいと精が出るって感じっすよ。それで、今日はあんな大層な布まで持ち込むとは……何をオーダーメイドされるんで?」
「あ、今回はこの子のを作ってもらいたくて」
「……ほう」
カウンターから身を乗り出して、隣の俺の顔を覗き込み、ふむふむと思案顔になってカウンターに無造作に置いてあった白紙に素早く何かを書き込み始めた。
「……サクヤさん」
「はい?」
「そうっすねえ、俺は貴女に会えたことを感謝しないとならなくなりそうって感じです」
「……ええと?」
図面を書き起こしつつ、しみじみと話の繋がりが見えない言動が飛び出た。
「もはや、俺たちの認識の埒外にある、第四の壁すら超越した至高の美の権化、と言ったところっすね。彼女は」
「「……??」」
サクヤさんにつられ、アリサまで首を傾げていた。
いや、俺もこの人が一体何を言ってるのか全くもって分からんが。
「サクヤさんと後ろのロシアの方もわりとその傾向が強いけど……この子がやっぱ最強っすねぇ、やっぱり」
「「???」」
「……回りくどい。要点は?」
思わず痺れを切らしてしまった……
長い間のキャラ付けの影響なのか、自分の中の沸点が低くなっている。前世の大人しめな俺の性格はどこへ行ってしまったのか。
あくまで、クールで無口無表情の美少女なのだ。一々イライラする要素はなくていい。
いいか、be coolだぞ、シアン……
「そりゃ簡単っすよ。どっからどう見たって、君、エロゲのヒロインにしか────」
……処すッ!
「見え──がぼぁっ!?」
「えっ、トウイチロウさん!?」
俺はいつの間にか、カウンターを片足の踏み場にして、店主に勢いよく正拳突きを放っていた。
あまりに、無意識の動作だった。……流石に手加減はしていたが。
振り抜いた拳をゆっくりと引き戻しながら、密かに思う。
……俺、もしかしたら暴力系ヒロインかもしれない。
それから十数分経ち、俺たちは店を出て外部居住区を歩いていた。
俺の事をエロゲのヒロインとのたまったので殴り飛ばしたオタク店主が、寧ろご褒美です! みたいな艶々した顔だったから、これはもう駄目だと諦め、冷めた目のままオーダーメイドの注文についての確認をさっさと済ませたのが主な原因だ。
条件として、ニーソに似合う服というのを付け加えてから、サクヤやアリサの女性陣の意見も取り入れ、デザインが大方まとまったところで、奥から店主の奥様……? らしき美人の可愛らしいお姉さんがやって来た。
おかしい、絶対おかしい。オタクの嫁さんがこんな人って、絶対におかしい。
「それじゃあ早速、採寸しましょ?」
「え、ちょっ……」
別室で服を剥がれ、ほぼ全裸にされて、あんなことやこんなことをされた。
……正確には、胸と腹とお尻をメジャーを測られただけだが、その数値は衝撃的すぎて、今にも破り捨てそうになったのを理性で抑えつけたことは記憶に新しい。
あの紙に書かれた、B88/W54/H85という数字……見ているだけで恐ろしい。まるでエロゲヒロインのスリーサイズだ。なんてこったい……あの人の言う通りじゃねぇか。
このまま女性形アラガミを食らい続けると、アリサどころか、シエル以上のスイカが誕生してしまう。
自分の身体を自分の意思で変えられれば話は早いが、この身体はそう都合よく変えられるものでは無いらしい。頑張ってオラクルを変化させる術を身につけなければなるまいと、深く心に誓った。
「さて、次はここよ!」
「ここって、確か……」
「ねぇアリサちゃん。そもそも、私たちがここに居る目的って何だったかしらね?」
「……あっ!?」
なんだ、その、( ゜д゜)ハッ! みたいな表情は。
しかし、服を買う以外に目的……ううむ、何か重要な事を忘れているような気もしなくないが、何だったか……
頭を捻りつつ店に入る。
ふと店名が視界に映ったのだが、どうやらここは、前世でも安心と信頼の品質と価格で重宝した、あのファッションセンターし◯むらだった。
しま◯らといい、いつぞやの乾パンでお世話になった三◯製菓といい、このGEの世界は俺の知る現実に即している部分が多々見受けられる。
そういう裏設定でもあったりするのか、この世界。
「し◯むらはね、外部居住区でも最大の既製品のお店なの。アリサちゃんとは一緒に来たわね」
「品揃えが過去から現在の流行、老若男女まで選り取りみどり過ぎて、何処から見ていいか全然わからなかったイメージしかないんですけど……」
それもそのはず。この店、かなり大きいのである。
フロア一つ一つは狭いが、3階から地下3階の計六層あり、なんと言ってもブースの多さに圧倒される。しま◯ら特有のバリエーションの富んだ品揃えが、多数の階にわたって陳列されていて、カオスなまでの範囲をカバーしていた。
「あっ、見て下さい! 2010年代のファッションですよ!」
「あ、私もその時代が一番好きなのよねぇ」
二人が話題を盛り上げているブースを見てみると、確かにこんなの流行った感じがするファッションが展示されていた。
なんだっけ、あの肩を出す服って……あいつも良く着ていたから印象には残ってるんだけど……何だったか。
「シアンちゃん、何の捻りもないけれど、これとかどうかしら?」
「……?」
サクヤさんが持ってきたのは、レースの入った薄緑のワンピース。サイズもピッタリそうに見えるが、これを着ろということなのか。
「……試着室は?」
「えーっと、この先の方よ」
サクヤさんに先導されて、向かった先にあった試着室に入り、ささっと試着してみる。
幸いにも、クレイドルの制服は脱ぎやすく、ワンピースもファスナーを閉めるだけなので一分と経たずに着替え終わった。
ご丁寧にも、腰部に紐……? ベルト……?? のような物が備え付けてあり、腰の方で締まるので俺みたいな低身長巨乳にはうってつけだろう。
「……意外と、アリかも?」
鏡の前でクルクル。……うん、ただの美少女だな。
なので、試着室のカーテンを開けると、サクヤさんの隣に次の服を持って待機しているアリサが……
「あら、いいんじゃないかしら?」
「ええ! とってもお似合いですよ、シアンちゃん!」
それは良かったとして……あの、アリサさん、そんな微笑んでどうしたんですかね?
「さて、シアンちゃん、これも着てみて下さい」
手渡されたのは、水色のカラーリングのセーラー服の一式。作中に出てくるエリート高校の表記は無いため、一般的な制服なのだろうか。
……いや、これよく見れば、ゴッドイーターバーストの予約特典で手に入る、シオのセーラー服のとほぼ同一のデザインだわ。
例のごとくサッと着てカーテンを開けた。
「わぁ、年頃の女の子には似合うわね! クレイドルの制服もいいけど、やっぱりセーラー服は素晴らしいと思わない?」
「少しだけゆったり感があって良いと思います。でも、それってなんででしょうか……小さいと言うほどでもありませんし、きっちりとはまっている筈なのに、どこか緩い感じなんですよね」
「う〜ん……目付きとか雰囲気が関わってくるからじゃない? シアンちゃん、あんまり感情を出さないし、カッコいい服も似合ってたもの」
カッコいい服が似合うと言われて嬉しいのだが、残念なことに感情ならバリバリ出てます。何せガワがこれでも中身がアレなのだ。
しかしまあ、〝シアン〟というフィルターは無事に機能しているということになる。
と言っても、数ヶ月もアラガミしかいない外界で暮らしてきた一般人が、こんなサツバツとしたこの世界で生き抜いたせいでこんな無口無表情になってしまっただけなのだ。
それに、本性を隠すのにも使えるし……
「やっぱりセーラー服は外せないわね。これも残しておいて──じゃあ、次!」
すると、アリサがシュパッと背中に隠していたらしい別の服を取り出した。
…………。
「……これ、いつまでやる……?」
「私たちの気が済むまでですよ。ほら、約束したじゃないですか」
約束……あ、そう言えば、メールでそんな事打ったような覚えが……
「じゃあ、はい。大人しく次行きましょ?」
「……あの、拒否権って……」
「「…………」」
す、すみません……あの、だから、そのニッコリとした無言の圧力はやめてください……
◯ ✖️ △ ◆
──フィンランド、フェンリル本部。
純白の荘厳な城のごとき様相を呈す、フェンリル最大にして最高の司令部であるそこに、一つのヘリコプターが着陸していた。
ヘリから、ジュラルミンケースを片手に抱えた和風の装いをした男──極東支部長であるペイラー・榊は、ヘリの風を鬱陶しそうにしながら降りてくる。
そして、それを待っていたらしい白衣を着た壮年の男性は、ヘリのモーター音など意に介さずに声を張り上げた。
「早かったじゃないか」
その声は、皮肉げと言うより喜色のある高めのもので、サカキは笑みを一層深めてから手を振って挨拶を返す。
「いやぁ、出迎えとは有難いよ。しかしまさか、君が協力してくれるとは思ってもみなかったさ──アキヒコ博士」
「はぁ……私は出来るだけ関わりたくなかったのだがね。友人の頼みに仕方なく来てやったのだ。それにしても、また大層な物を抱えたな、ペイラー」
「いやはや、二回も機会があるとは……私はどうやら数奇な運命に囚われてしまったらしい」
「お前の言う一回目……あの時の本部の学会は大騒ぎだったものだ。秘匿していた特異点があのような形で民衆に知られてしまった以上、隠し通す他我々に道は残されていない」
「いや、それはどうかな」
サカキは徐ろにジュラルミンケースを叩くと、アキヒコは興味深そうにそれに目を向ける。
「それが例の〝P41偏食因子〟か。私の欠陥だらけのP16とは比べ物にならない安全性を誇ると……レポートを見させてもらった時、正直私はお前の正気を疑ったね」
「研究者が正気である訳がないとも。では早速、君の研究室に伺おうかな」
いつの間にか、2人の姿は既にヘリポートには無かった。
シアンちゃんのお婿さん決め
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神威ヒロ(なお公式嫁との戦いが待つ)
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ジュリウス(ラケルとのガチバトル)
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ソーマ(月の人の口がへの字になる)
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ロミオ(リヴィとの冷戦)
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その他(ハルさんとか、ギル?)