神さまばっかの世紀末な世界に、俺が望むこと   作:赤サク冷奴

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キャリーさんは未登場の模様


キャリー・オーバーで持ち越されたもの

 

sideヒロ

 

 

「……えっと?」

 

 ハルさんに呑みに誘われたのだが……これは、一体。

 

「俺は具体的に何を……?」

 

 なんか、探索に付き合えと言われたのだが、人間の種類が二人だとか、話が全く見えないのだが。

 

「まず男としてお前に聞いておきたい……女性を見るとき……お前はまず、どこを見る?」

 

「え?」

 

 いや、待って下さいハルさん。何を聞いてるんですか? マジで。

 

 恋愛とか全く分からないし……でも、やっぱり、自分としては……

 

「や、優しさ? とかでしょうか……」

「……質問を変えよう」

 

 変える……!?

 

「お前は女性のどの部位に魅力を感じる?」

 

 部位……!?

 

 つ、つまり、外面的な質問か。

 

「そっちか……」

 

 しかし、部位と言われても……全然。

 

「どこ……」

 

 すると思わず、脳裏に浮かぶブラッドの女性メンバーの二人の姿。

 

 部位……シエル……

 

『君は……ホントにすごいです……』

 

 ふにゅんとした感触が、自分の胸板に押し付けられて……!!

 

 やばい、顔が熱くなってきた!

 

 どうにか、赤い顔を見せないように声を絞り出さないと……

 

「……胸、とかでしょうか……っ」

「……青いな」

 

 そう切り返されて、俺は思わず驚いてしまった。

 

 極東という苛酷な環境を耐え抜いた猛者であり、人生の先輩であるハルオミさんの次の言葉を唾を飲み込んで待っていると、迫真の表情で、真っ直ぐに言われた。

 

 

「──脚、だろ」

 

 

 その瞬間、俺の頭の中に電撃が落ちたような気がした。

 

「最近の俺のムーブメントはな、脚……それも、ニーハイだ」

「……? ニーハイ……?」

 

 聞きなれない単語が頭と口で反芻される。

 

「本来はオーバーニーと呼ぶべきだが、日本語におけるニーハイとは、ひざ上までの丈のソックスの略称だ」

 

「ニーハイの要諦は、ソックスの口ゴムとボトムスとの間に出来る領域、その太もものわずかな輝き……たとえるなら、朝、山の端から顔を出した曙光のような……それが、今、俺の求める女性の美だ」

 

 この人は一体何を言っているんだ……?

 

 いや、ハルさんはいい大人だ。

 きっと、俺に優れた神機使いになる秘訣を暗に伝えようとしているんだ……

 

「……いいだろ?」

 

 ここは退くわけにはいかない……!!

 

「はい……!」

「決まりだな。今度モデルを見つけてくるから、ミッション行こうな。さあ、」

 

 ──聖なる探索の始まりだ……!

 

 

 

 

 何かが心動かされた呑み会から四日。

 

 ノルンのメールを覗いてみると、新着で、それもハルオミさんからだった。

 どうやら、モデルが見つかったらしい。ラウンジで待機していると、ハルオミさんと、そのモデルらしき人物が現れた。

 

「紹介しよう、シアンだ」

「ん……少しぶり、ヒロ」

 

 機嫌が良さそうに手を振ってくるのは、俺がよく知る人物……人物といっていいのかは分からないが、ともかく浅からぬ関係の顔見知りだった。

 

 ……シアン・シックザール。彼女を見たのは、初の実地訓練の時だった。

 

 その頃は、どういう訳かとても幼い姿をしていた。十歳に満たないくらいだったはずのシアンは、次に地下街で会った時には十四、十五くらいの姿に変貌しており、今では俺と同い年くらいの少女にしか見えない。

 

 そして、正体がヒト型のアラガミだとサカキ支部長に言われた際はとても驚いたのはよく覚えているし、平然と極東支部にいた時は焦った。支部長からは箝口を厳命されていたし、メールも送られていたので覚悟していたが……

 

 ここの研究者で神機使いであるというソーマさんと、クレイドルの制服を着て楽しそうに話すシアンを見て拍子抜けしたのは言うまでもない。極端に無表情な彼女が、ソーマさんと仲の良さそうな兄妹みたいにしていた時には、ジュリウス隊長と首を傾げあったものだ。

 

 それに、あのミッション……セクメト一体とハガンコンゴウ二体をエイジス島で討伐するというものでは、俺が戦闘不能に陥り、シアン一人で三体全てを蹴散らしたのだ。

 空へ強力なバレットを放ち粗方体力を削った後、俺にリンクエイドをしてくれた時の表情が、今にも泣き出してしまいそうで、声を荒らげながら呼び掛けていたシーンがあまりに強烈過ぎて、今も脳裏から離れていない。

 

 思えば、彼女を何となく意識し始めたのがそのくらいだったか……

 

 サカキ支部長によれば、ヒト型アラガミは人間に近しい構造を持つ為に感情があり、シアンもまた、過酷な環境下で生き抜いてきて、人とのコミュニケーションに飢えた存在だという。

 あんなに無口だから本当にそうなのかと思うが、彼女も彼女で思うところがあるのかもしれない。

 

 シアンとよく話しているソーマさんは、ゴッドイーターの中でも最もアラガミに近いらしく、シアンはそれを感じ取って特に強い仲間意識を感じている……そう支部長は言っていた。名字が一緒なのは、ソーマさんが引き取ったかららしいが。

 

 それを聞いた時の俺は、とてつもなく微妙な心持ちだった。

 

 そもそも、アラガミは人類の敵なのだから、居なくならないと思っていても一匹残らず駆逐してやるのが俺達の役目。それに、奴等には俺の家族を殺された恨みを抱えていたから、余計に関係は酷かったのだが……あの時のこともあり、今は少し良くなった……はずだ。

 

 そんな、何とも言えない関係のシアンだが、彼女は無口無表情ながらも優しい一面を見せることがかなり多い。

 

「……お前、その服って」

「……ん。可愛いでしょ」

 

 服装は、いつものクレイドルの制服ではない。白いシャツに黒のスカートなのだが、様々な装飾が加えられている。背中の腰の部分に大きな黒のリボンが結ばれ、頭には黒のヘアバンドと、アリサさんのによく似た形の白い帽子。シャツには、袖から襟の部分とか、何から何まで装飾がなされており、また角張った部分がない。黒のスカートにある複雑な透かしや切込みのフリルが、黒のニーハイとの絶対領域に掻き立てられるような絶妙なアクセントとなっている。

 

 白の清廉さも去ることながら、黒の小悪魔チックの様な、ゴスロリ系を感じさせて対比させているようにも見えるその服装は、彼女の為にあるように思えた。

 

 こんな服装をされたら俺でさえつい目がスカート下に向かってしまいそうだ。なんとなく敗北感を禁じ得ない。

 おい、俺。相手は単細胞の群体なんだ。何たらエボシとかいう生物が世界にいたそうだが、それに欲情するようなもの……

 

 ……いや待て。そもそも、俺はさっきから何を考えてるんだ……?

 

「流石に知り合いだったか……だが、まさか本気を出してくるとは俺も思わなかった」

「……私のお気に入り。オーダーメイドだから、着心地も良い。それに素材も丈夫」

 

 心做しか、彼女の無表情が和らいだ……ように見えたが、何か、まるで〝嫌なものを思い出してしまった……〟というように僅かに顔を顰めている。

 

「よし、そういう訳だから、早速任務に向かうとするか」

 

 ハルオミさんのその一声で、アサインされた任務を受注した。

 

 

 

 

 

 

 所変わって、ここは旧市街地のエリア。

 

 珍しく一刀流のシアンが、コンゴウを蹂躙していた。

 

 チラチラとスカートが舞うので、そっちに気が取られてしまいそうだ。

 これがニーハイパワーか……ハッ!? 俺は何を……?

 

 しかしながら、今のところ何もしていないのはまずい。コンゴウの風攻撃を盾でガードすると、俺は即座に駆け出し──

 

「おお……! 見えた、白か」

「いや、何見てるんですか」

 

 思わず隣からの声に足を止めてツッコミを入れてしまった。

 

 この人、事情を知らないとはいえあまりに節操がない。男のロマンには賛成だが、天国のお嫁さんに殺されたりしないだろうか。

 

「ん? 今、天国の嫁にどう思われても知らんぞ? みたいな事思ってたか?」

「……まあ、はい」

 

 まさか、俺の思考を読み取ったのか……? ……いや、単に俺みたいな疑問を持つ人が多いだけなのかもしれない。

 

「あー、それなら大丈夫だ。寧ろパンツの色を教えたら感謝される」

「えっ」

 

 なんだそれは、訳が分からない。恋人が別の女性の下着を見て、その色を教えたら感謝されるって、どういう……?

 

「いやなぁ。ウチのケイトは美少女には目が無くてな。ここぞとばかりに美少女にセクハラしたり、イチャイチャするのが趣味なんだ」

「いや何その趣味!?」

 

 というか、よくそんな人の恋人をしてましたねハルさん……性癖が特殊にも程がありますって。

 

「いや、ケイトは至ってノーマルなんだが、こうな……可愛い物には目がない的なアレだ。まあ、あいつはちゃんと俺の事を好いてくれていたし、別段問題は無かったってことだ」

「あるでしょう、それ」

 

 とか言っている間に、コンゴウが三枚おろしにされていた。モノクロなシアンが素早い動作でコアを捕食している。結局あまり参加出来なかったか……

 

「一分と経たずに終わっちまったなぁ。そんじゃ、もう片方もやるとするか」

「……ええ。わかりました」

 

『中型アラガミが、作戦エリアに侵入! ポイント情報送ります。どうぞ!』

 

 丁度目の前か……よし、いける。

 

「ん……ヒロ、ハル、受け取って」

 

 向かってきたのは、計5発の受け渡しバースト弾。俺に3つ、ハルさんに2つという並びだった。

 

「……ああ、有難く受けとっておくよ」

「おっ、力がみなぎってきた! 流石はシアンちゃんのバレットだ」

「あの、一応真面目にやってくださいよ……」

「……じゃ、私、行ってくるから」

 

 シアンは俺達に任せてあたりの索敵強襲をし始めた。どうやら俺達にも任務貢献の機会を与えてくれたらしい。一人で討伐してしまったので、それを慮ってのことか。

 

 やはり、アラガミなのに人の心があるというのは不思議なものだ。人と同じ脳があるから、という無粋なことは考えない方がいいだろう。

 夢がない……そう、サカキ支部長はよく仰っていた。支部長はロマンチストらしいので、このシアンに何かしらの希望を見出している、ということなのだろうか。

 

「あーあー、行ってしまった……まあ仕方ないか。この昂るリビドーを奴に食らわせてやろうじゃないか」

「では、濃縮アラガミバレットを放ちますよ」

「任せたぜ、相棒」

 

 先制攻撃としてコンゴウの濃縮アラガミバレットを撃つ。コンゴウは動きが鈍いので、近接戦闘で尻尾を斬っていればなんてことは無い。

 

 即座に背後に回り込むと、捕食。神機解放状態を保ちつつ、顔面を担当してもらっているハルオミさんにすかさず変形させて受け渡しバースト弾を撃った。

 

 剣形態に切り替え、ブラッドアーツ『朧月』による四連撃を尻尾の部位へと叩き込めば、コンゴウはのけぞった。その合間にもう一度捕食を行う。

 

「バルアアァァァァッッ!!」

 

 咆哮を上げながら俺に狙いを定めて拳を振り上げた。その拳を見切るように横ステップで回避し、後ろに向かっていったコンゴウに対して『ドライブツイスター』で接近しつつ尻尾を力の限りに斬り上げた。

 

『アラガミ、結合崩壊しました!』

「やるな……このまま丸裸にしてやろうぜ」

 

 俺の真上を飛び抜け、ハルさんが重力に乗ってコンゴウの背中にバスターブレードの大質量を叩き込んだ。そのチャンスを見逃さない俺ではない。

 

「そこだ!」

 

 身動きの取れないらしいコンゴウ、その顔面に回ると、ゼロスタンスの構えから銃身を向けるようにして神機を斜めに傾けた。

 

 『IE・轟爆』と名付けられたそのブラッドアーツは、通常ロングブレードにはない破砕属性の攻撃を可能とする特殊な攻撃方法、インパルスエッジの威力を高めてくれるものだ。ハルさんは察してくれたらしくコンゴウから離れてくれていたのでそれをオラクルポイントの残量すべて使い切るまで放つ。

 

「ヴァァァァア!!」

『アラガミ、活性化します!』

 

 起き上がったコンゴウは胸を叩きながら咆哮する。そして、背中のパイプに空気を溜め込んで攻撃を行った。

 

「うおっと、危ない危ない……少し砲台やるから、引き付けは頼んだ」

「っはい、任されました!」

 

 叩き付け攻撃を宙に浮いて交わし、空中で捕食してバーストを維持。着地と同時にゼロスタンスを行い──神機を後ろに構え、脚に力を込める。

 それを解放すると、ブラッドアーツ特有の赤い光が迸り、コンゴウをすれ違いざまに斬り捨てて無数の傷を追撃で見舞った。

 

 隊長から教えてもらったブラッドアーツ、『神風の太刀・鉄』。そして……

 

「──隙あり、だぜ」

 

 同時に射線上から外れ、ハルさんは狙撃弾を弱点の顔面に三発、全て当ててみせた。

 

「グラゥワァァ!!」

 

 体を丸めようとしている……方向はハルさんか!

 

 刹那の間にそれを悟った。咄嗟に左手を懐にやると、1つの丸い感触があったので、それを掴み取ると、ピンを抜いてコンゴウとハルさんの間に投げた。

 

「目を閉じてください!」

「っ!? おう!」

 

 目を腕で庇うと、僅かな隙間から強い光が漏れ出て、消えると同時に動き出した。

 

 上手いこと使えたらしく、コンゴウはその場に立ち尽くしている。

 

「よしっ、今だ!」

「はいっ!」

 

 コンゴウの尻尾に回り込み、最高の威力を誇る技をもって斬りつけた。

 

「セェェェヤアァ!!」

 

 ブラッドアーツ──『斬鉄』。超高威力の一撃が、弱点であるコンゴウの尻尾を斬り裂いた。

 

「ガルアァァ……」

『アラガミ、活動停止しました! これにて任務完了です。現在別働のシアンさんが遅れるそうなので、帰投までもう暫く掛かる予定です。くれぐれも警戒は怠らないように』

 

 というヒバリさんの通信が聞こえたことで、ミッションが完了したことを指した。

 

 未だ倒れ伏したままのコンゴウに捕食形態をとり、コアを摘出すると、ハルさんが神機を肩に担ぎながらやって来た。

 

「ふぅ……あんまり見れなかったなぁ、ニーハイ」

「頼めば着てくれるんじゃないんですか?」

「……ふぅ、分かってないな、ヒロ。究極のチラリズムというのはふとした瞬間、予期せぬ時に起こる。意図的にニーハイを強要すると、心の底で慢心が出来て聖なる探索とは程遠いものとなってしまう」

 

 そういう、ものなのか……思っていた以上に、聖なる探索というのは奥が深いらしい。

 

「考えが至りませんでした……ご教授、感謝します」

「良いんだよ。学ぶことこそ、この探索をゴールへの近道となる。さあ、聖なる探索がまた一歩進んだところで、帰投準備に──」

 

 

『ヒロさんっ! ハルオミさんっ!!』

 

 

 ……耳をつんざくような、懇願に満ちた声が通信から聞こえてきた。

 

『シアンさんに至急加勢願います! シアンさんに言われて黙っていましたが、彼女は現在、希少種のカリギュラと交戦中です! 第一部隊の応援は、直ぐには来ません……シアンさんの命令を棄却しますので、救援に向かってください! でないと、彼女は……っ!』

「チッ、あん時と同じってか……運命様ってのは、どこまで俺が憎いのかねぇっ!」

「ハルさん!」

 

 通信を聞いて、真っ先に飛び出していったのハルさんだった。

 

(あの時と同じ……そうか、ケイトさん……)

 

 シアンはちょっとやそっとでは死なない。それどころか、アラガミだ。サカキ博士曰く、コアの再生能力も獲得しているらしいし、俺やジュリウスが戦闘不能に陥っても、一人でセクメト三体に勝つような奴だ。

 

 そんな正真正銘の化け物が、希少種とはいえ大型アラガミにやられる訳が無い。

 そうだと確信しながら、ハルさんの後を追うように市街地を駆け回る。

 

 シアンのいる場所は、同じ旧市街地とはいえここからかなり離れている。走っても五分以上は掛かってしまうくらいだ。

 

 だから、全速力で駆け抜けていく。

 

「くっ、間に合うんですか!?」

「そんなもん間に合わせるんだよ! 無茶してでも、あいつを助けてやるのが……」

 

 ハルさんが言いかけた、その時。

 

『し、シアンさんっ! シアンさんっ!!!! バイタルが危険値ですっ! 即刻戦域から離脱を!』

『……どうせ、逃げ切れない。……それに、まだ、やれるっ!!』

『シアンさんっ……!』

 

 ……なんだ? なんなんだ、何が起きてるんだ!

 

 戸惑いをよそに、不安を募らせる悲痛な通信のやり取りが聞こえてきた。

 

 クソっ、まだ距離があるか……どう足掻いてもあと五分は掛かってしまう。

 

「繰り返してたまるか……また、目の前で殺させてたまるかよ!」

「ハルさん……」

「ああ……俺はいつだって一歩遅れる。だからってな、諦める理由にはならねぇ。俺は、今度こそ、間に合わなきゃならねぇ……!」

 

 ……俺だって、諦める訳にはいかない。あいつの事は好意的には見れないが、あいつを慕う多くの人がいるのを、俺はよく知っている。

 

「急ぎましょう!」

「ああ……! 待ってろよ、シアン……!」

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

sideシアン

 

 

 それは、丁度俺がコンゴウと戦い終わったところだった。

 

 俺の聴覚は、遠くから聞こえたとある偏食場を捉えたのだが……

 

「これは……ハンニバル……いや、カリギュラ? でも、微妙に違うような……」

 

 なので、確認のため一度偵察に行くことにした。

 

 ……もしかすれば、これは看過できる問題ではないかもしれない。

 

「……ヒバリ。ここから半径十キロ圏内に大型アラガミはいる?」

『はい? そうですね……あっ、北北東方向に、何やら変わった反応のアラガミが一つありますが……』

「ん……少し調査を兼ねて討伐して来る?」

『一人では何かあった場合に危険です。お二人と合流されてからにしては?』

 

 ううむ……でもこれがカリギュラ種なら逃す手はないのだ。

 

 なので、力強い言葉で言ってみた。

 

「…………このまま逃せば、きっと極東の皆が危ない。アレは、何か嫌な予感がする」

『……分かりました。任務外ですから、無理をしたらダメですからね?』

 

 ヒバリさんの連絡を受け、早速偏食場のある方向へと駆け出した。

 

 俺の脚力とオラクルを活用すれば、かなり離れた場所でも一分と経たずに来れる。

 

 勝手知ったる贖罪の街のマップから離れた市街地にやって来ると、すぐそこまで偏食場が近づいていたようだ。

 

 チラリと顔を覗かせれば、黒い影の姿が。

 ゆっくりと歩くそれの姿はカリギュラ種だった。

 

 しかし、それは俺のよく知る青い奴、赤い奴、タカシとも違う。

 

 ……黒き帝王。初観測以来、全く目撃されていなかった超弩級アラガミ。

 

「──アーテル・カリギュラ」

 

 確か、初出はリザレクション。アリウス・ノーヴァ討伐の為に超弩級アラガミのコアを収集していた時にこのアラガミは現れた。

 しかし第一部隊よりも一足早く、第二のノヴァによってあっさりコアを抜き取られ捕食されてしまい、それっきりで名前すら無かったモブアラガミである。

 

 この世界ではカリギュラ種としてデータベースに載っているが、名前だけで情報は全く無い。

 

 まあ、交戦さえしていないのだから当然だろうが。

 

 それにしても、さっきから感じ取っている偏食場の影響力が尋常ではないし、オラクルの総量も禁忌種どころの騒ぎではないくらいもので、俺では測りきれないほど濃密なエネルギーを持っている。

 

「……やっぱり、人が相手取るべきモノじゃない」

 

 アレは危険だ。下手すれば、極東支部なんて玩具のブロックのように壊してしまう。ソーマやアリサ達ならギリギリ、といった強さなのは間違いない。

 

 片手の神機と、もう一つ、左手の神機を生成すると、静かに背後に忍び寄る。

 

 そして、戦端を開かんとばかりに、尻尾に喰らい付いてやった。

 

「──!?」

 

 カリギュラはこちらに素早く振り返った。そのスピードは通常のカリギュラとは比較にならない程。

 

 言うなれば……カリギュラ神速種。

 

 あのサバイバルミッションのルフス・カリギュラを彷彿とさせる動きのそれは、俺に牙を剥いた。

 

 ──キュイィィィッ!! 

 

「ぐっ……!」

 

 ブレードの横薙ぎを盾で防ぐと、身体にジンと衝撃が浸透してくる。神速の攻撃と膂力が相まって、相当な威力を叩き出しているのだろう。

 

 これは中々に面倒だが、一人でやるしかない。

 こいつの相手をするにはヒロとハルさんではあまりに荷が重過ぎる。

 

「ヒバリッ!」

『は、はいっ!? どうかしましたか!』

「現在、超弩級の禁忌種、アーテル・カリギュラと交戦した! 推定される脅威度はハンニバル神速種以上……私だけで勝てる敵じゃない。それに、あっちの二人では任務難度に満たないと判断した。至急、元第一部隊に連絡して!」

 

 高速で迫るブレードの連撃を躱しつつ、ヒバリへの連絡を入れる。これまで以上の緊急事態で声が荒らげてしまったが、こればっかりは仕方無い。

 

『はい! 今からそちらへソーマさん、アリサさん、コウタさんを向かわせます! どうにか持ち堪えて下さい!』

「んっ! 頼んだ! ──ハッ!」

 

 数回紫色の炎の弾丸を盾でガードしながら突っ込むと、大きく飛び上がり、 神機を縦に一回転させて斬りつける。

 

 その瞬間、ブースターが唸りを上げた。恐らくは、自身を中心とした範囲攻撃……

 

 それを理解した瞬間、両手の神機によるインパルスエッジでの回避を図る。後方で凄まじい暴風が吹き荒れるのを感じながら、再度カリギュラへ向き直す。

 

「──ラァッ!!」

 

 足を踏み締め加速し、カリギュラの顔に同時に両方の神機で横に切り裂く。

 

 ……手応えがある。顔が弱点なのは共通のようだ。

 

 そのまま横に少しステップして右ブレードを両刀の四連撃で斬る。

 

 右ブレードの薙ぎ払いを辛うじて片手の神機でガード。左手からくる痛みを無視して右の神機を銃形態にし、ゲームとは比べ物にならないマシンガンの様な連射速度のアサルト弾を数十発ほど纏めてブースター部分に叩き込む。

 

 流石に怯んだか、少しよろめいて口を拭うような仕草をする。だが傷付いた様子は微塵も見られない。

 

(クソっ、化け物か……)

 

 悪態をつくも、相手は更に攻撃を続けてくる。片手に黒紫の槍を作り出し、飛び掛ってくるのを、両手の神機の盾を展開して押し返した。

 無論そこで相手のバランスが崩れ、腹が露わになる。ハンニバル、カリギュラのコアは腹と首の間にある。

 

 この際、コアを無傷で回収するのは諦めて、無理矢理剥ぎ取って倒すのが先決か……

 

 そう思えば体は動いていた。カリギュラに馬乗りになり、右手の神機を思い切り突き立てる。すると……

 

 

 

 ──キィンッ!

 

 

 

 ……見事なまでに、弾かれていた。

 

 基本、ハンニバルやカリギュラは斬撃が通らない箇所は無い。

 

 ……いや、デタラメな。速くて硬いとか、勝ち目無くないか?

 

 内心で軽く舌打ちすると、馬乗りにしていたカリギュラが左のブレードを展開した。間違いなく攻撃が来る。即座に後ろに跳んでブレードを回避すると、カリギュラがジャンプし体勢を立て直した。

 

 ……正攻法で攻めていくしかないか。

 

 ブレード部分を結合崩壊させることにより、攻撃範囲を大幅に縮められる。

 偏食因子を必要としない俺に、制限時間はあってないようなもの。幾らでも引き伸ばして戦えるのだ。

 

 直ぐに駆け出し、迫り来る二発の巨大な弾丸を躱す。さらに連続して、両手のブレードを展開したまま突進してくるのを、神機の装甲で受け、僅かに出来た隙で左ブレードを執拗に攻撃する。

 

 こちらに振り向き、再度ブレードを展開すると、フックのようなパンチで二連撃してくる。

 

「うぐっ……」

 

 ガードで受けたが、片手の上に向きが逸れてしまったらしい。

 右腕には浅くない傷が出来て、血が滴っている。

 

「ふっ!」

 

 ステップからの捕食。プレデタースタイル、『疾風』の素早い捕食により、傷の回復を促進させる。

 片手での振り払いを神機で滑らせるように往なすと、そのままブレードを斬り、両手で数回の攻撃をしてから、何か嫌な予感がして一旦離れる。

 

 すると、カリギュラは見たことも無い行動を取っていた。

 両脚で器用に立つのはハンニバルでも見掛ける行動だが、両手を合掌し、黒炎と言わんばかりの禍々しい揺らめきを腕やブレードに纏い始めたのだ。

 しかも、ブレードの完全展開状態付きで。

 

(まさか、やっぱりこれら動異種…………いや、こいつは半ば新種みたいなみたいなものだし、新たな行動パターンも混じっているのか)

 

 ──行動変異種。

 

 略して動異種と言うそれは、かつて俺が初陣で戦ったスサノオの様なアラガミのことである。

 

 今はノルンのデータベースに載っているほどその存在が認知されているが、台頭してきたのは今年のこと。

 ゲームに無い行動ばかり起こしてくるので、咄嗟の対策が取れないのが難点だが……

 

「……そう来ると思った」

 

 ブースターから黒炎が放たれると、展開したブレードを突き出して突進する。

 

 だが避けられないほどでは無い。人を超越したアラガミの力で地面を踏みしめて横に跳んだ。すると、その横すぐギリギリを超スピードのカリギュラが通り抜けた。

 あれ、人間に回避出来るスピードじゃない……

 

 内心ヒヤヒヤしながら、カリギュラが通り過ぎて行った方向を見やる。

 

 カリギュラは、既にブースターの光を煌めかせて、黒炎を纏いながらこちらに突進を再開しており……

 

 ……突進を再開している?

 

 現状の認識に、コンマ5秒の時間を要してしまう。しかしそれが仇となった。

 

(くそっ、避けられない!)

 

 今から地面を踏みしめて回避しても、炎を纏った広範囲ブレードの餌食だ。

 

 ならば、もう残すはガードしかない。

 

 ……その時、カリギュラがニヤリと笑ったような気がした。

 

「……は!? あぐぁっ──ッ!!??」

 

 遅れて、激痛が右腕と脇腹を襲っていた。

 

 驚きと共に、自分の視界には、宙に舞っている腕輪を着けた右腕と、見事なまでに両断され、炎で融解してしまった神機が。

 

 地面にボトリと落ちたそれらは、瞬く間に黒炎によって覆われて、取り戻すのは不可能に近いだろう。

 

「ぐぅぅぅ!! くそっ……」

 

 丁度バーストが切れやがった……いつもなら十数秒で再生する右腕も、バースト無しには無理だ。

 

『し、シアンさんっ! シアンさんっ!!!! バイタルが危険値ですっ! 即刻戦域から離脱を!』

「……どうせ、逃げ切れない。……それに、まだ、やれるっ!!」

『シアンさんっ……!』

 

 右腕の激痛に苛まれながら、気休め程度の回復錠を口に含み、飲み込む。そうすれば傷は治り痛みも幾分かはマシにはなる。

 だが、右腕が無いというのは大きなハンデだ。一刀流をしようにも片手が使えなく、単純に考えても二刀流の半分以下の攻撃力だ。

 

『えっ……う、腕輪のビーコンが消失! バイタル確認不能! 確認をお願いします!』

「……だい、じょうぶ。回復錠は使った……」

『そんな状態では無理です! お願いですから、早く逃げて下さいっ!!』

「……どうにか、バーストぐらいしてみせる!」

『聞いて、シアンさん!!』

 

 バーストさえすれば、右腕は再生するのだ。

 

 まだ、俺はいける。これくらい、何度だって経験してるんだ。こんなものじゃない。

 

 ……俺はまだ、限界じゃないだろ。

 

「……毎回カンストする貴重品でも受け取れ」

 

 念の為にと持っておいたスタングレネードのピンを口で引き抜き、悠然と歩いてくるカリギュラの眼前に蹴り上げる。

 

 目を庇い視界を塞ぐと、破裂音が響いた。発光時間はあっという間で、チラリと見るとカリギュラは俺の事をうまく認識出来ていないようだった。

 

 その隙に懐へ入り込むと、捨て身覚悟でとあるプレデタースタイルを展開した。

 その名も〝臨界解放式・天ノ咢〟。以前にも使用したことがあるが、どうも不完全でバーストレベル2くらいしか上昇しなかった。

 しかし、それを技術班からお裾分けしてもらったプレデタースタイルのプログラムを取り込んで解析し、これを獲得しておいたのだ。

 

 バーストレベルが3まで急上昇するこのスタイル最大の欠点は、圧倒的な溜め時間にある。

 あまりにも長い為、ゲームでは専らソロ用として使われたキワモノだが……現在の状況はソロだ。

 

 そして、バーストレベルが高ければ高い程……再生速度は急速化する。

 

「ハァァァァ……!!」

 

 伝説の魔狼、フェンリルを体現したこのスタイル。溜め時間短縮などのスキルがなければまともに運用できないのだが、ここでとあるアイテムが役立つのである。

 

 お察しだろうが、このスタングレネードなのだ。

 

 通常プレイだと一回も使われずにクリアすることが多々あるが、このスタングレネードの効果時間は、ほとんど天ノ咢の溜め時間と同一。

 そして、スタングレネードの効果時間はアラガミによって変化しない。

 

 とどのつまり……捕食が可能という訳である。

 

「バアァァァァ!!」

 

 カリギュラの咆哮と共に捕食が完了した俺の体を、全能感が包み込んでくる。

 

 だがまだ不十分だ。決定的なものが欠けている。それは神機だが、もう一本作り直しても確実に同じ轍を踏む。

 

 リーチ? 攻撃力? それは今、必要では無い。

 俺が求めるのは……即応可能な瞬発力や身軽さだ。

 

 左手の神機も体内に取り込み、新たに作り替える。

 

 ……長刀は長いこと使ってきたが、GEで俺が愛用していたのは何もロングブレードだけではない。ソロの任務の時には、欠かさず持っていった。

 

 刀身は短く、細く。片手で扱える重量で、かつ回避に適し、GEのハイスピードアクションを堪能できるような俊敏な動きを可能とする武器種は一つしか無い。

 

 水晶のごとき白い結晶の神機は一回り小さくなった。長刀は短刀となり、それに応じた動きを取るために大盾は小盾となる。

 

 

 それを二刀で扱った。莫大な手数を誇り、攻撃が移動とまで言われたその武器種──ショートブレードを。

 

 

「……いけるっ」

 

 カリギュラが片手を地面に押し付け、足元に黒炎を発生させてくる。

 

 ステップで回避し、ショートの軽重量を活かしたアドバンスドステップでカリギュラに迫り、数瞬の間に左ブレードを六度斬った。

 

 ……結合崩壊はまだ起こしてくれないらしい。左のブレードが壊れてくれればかなり楽になるが、耐久性もかなりのものになっている。

 

 バーストやリザレクションにもあった『鬼神竜帝』という任務を思い出してしまったが、あれ以上の難度だろう、確実に。

 

 カリギュラが背面にバックステップをすると、ブースターで飛び上がり、左ブレードを展開し、突進するようにブレードを突き出して滑空している。

 

 バースト化により強化された動体視力は、カリギュラの恐るべきスピードを難無く捉え、タイミングよく盾を突き出し──独特の音が響いてジャストガードした。

 

 衝撃さえ来ないジャストガードの性能を改めて実感すると、足に力を込めてカリギュラの方へと突っ込んだ。

 

 ここが好機だ。今やらなければ、長期戦の最中に相手のリードを許してしまう。

 

 ショートの切っ先を向け、この一撃で結合崩壊を狙う。相手の動きに合わせて、方向を調整し……

 

 

 

 

『シアン、なんでつかわないんだ? せっかくの力をムダにするのは、食べきらないのとおなじ、モッタイナイ! だぞ!』

 

 

 

 

 ……その時、頭の中に声が響いた。

 

 

 

 




──次回、「シアン、死す」

この次も、サービスゥ……できる、のかな?

ロミオPの処遇について

  • いつも通り、逝くなぁぁぁ!される。
  • シアンちゃんに救出される。
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