神さまばっかの世紀末な世界に、俺が望むこと   作:赤サク冷奴

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ヒロは遅れてやってくる(盛大なネタバレ)


なんちゃらは遅れてやって来ると言うが……

 

『シアン、なんでつかわないんだ? せっかくの力をムダにするのは、食べきらないのとおなじ、モッタイナイ! だぞ!』

 

 その声が聞こえた途端、スローモーションになる世界。

 カリギュラへと近づこうとする俺。こちらに振り向こうとするカリギュラ。

 

『やっとつながったと思ったら、むむむ……たいみんぐ? がダメだったのか? くーきをよむって、むずかしいなー』

 

 ほとんど時間が止まったように遅くなったこの世界に驚きつつも、先程聞こえてきた声を頭の中で反芻させる。

 

 ……驚いたことに、響いてきた言葉は、かのシオを思わせる独特の喋り方に、声優さんも間違いなく福井さんである。

 ならば、声を掛けてきているのは月に居るであろうシオなんだろう。

 

 しかし、どうやって脳内に語りかけているのだろうか。

 

『それは〝かんのうげんしょう〟! サカキはかせ、言ってた! でも、もともとは、チキュウの意思をうけとるトクイテンがもつチカラだから、これくらいシオにはよゆーよゆーだな!』

 

 ……なんかサラッと、〝感応現象は元々地球の意思を受け取る特異点が持つ力〟とか、重要な事が聞こえた気がするが、そちらは後回しにしよう。

 

 しかし、折角の力を無駄にしているというはどういうことだろうか。

 アラガミを食ったことで手に入れた力は、主にハンニバルの再生能力のみ。その他に力と言ったら、女性型のアラガミを食うと成長することぐらいなものだが。

 

『……もしかして、ムジカクってヤツか? んーと、なんて言うんだ……イタダキマスすると、強くなる? みたいなので、なんかできるヒッサツワザ!』

 

 なんとなく、言葉のフィーリングから解せるような気がする。

 

 イタダキマスは、捕食。強くなるは、バースト。そして、バースト中に使える必殺技……

 

 これだけの情報が揃えば、俺の中に思い浮かぶ単語は一つしかない。

 

『おおー、たぶんそれだぞ! うんと、〝バーストアーツ〟! シオとかシアンみたいな、かしこい仲間がつかえるヒッサツワザだ!』

 

 バーストアーツ。

 

 GE3に登場した、主人公らAGEにしか使えない能力で、前作のブラッドアーツに相当する新アクション。バースト中にしか使えないというだけであり、GEという作品でバーストを切らすことは普通しないので、安定して使える。

 まあ、ほとんどが既存のブラッドアーツが元になったものだが。

 

 それを使えるとか言われているのだが、イマイチ実感が湧かない。いつの間に習得したのだろうか。はたまたGE3のように突然解放されていたからだろうか。

 

『んー? シアンも、生まれたときからつかえるぞ? シオもつかえたっぽいけどよくわかんなくて、トクイテンになってから、やりかたを覚えてつかえるようになったぞ!』

 

 なんだ、その特異点パワー。

 

『かんたんだぞ! はつどーしろー! って思えばつかえる!』

 

 どうやら、シオは典型的な天才のようだ。

 

 しかし、シオの言っていることはあながち間違いでもないだろう。ブラッドアーツは、ブラッド特有の偏食因子がもたらす感応能力が技として昇華したもの。意志の力が神機に伝達され、オラクルの流入量が一時的に爆発的に増大することによって必殺の一撃となるのだ。

 

 バーストアーツも、感応能力がとりわけ高いGE3の偏食因子……ヒト型アラガミのオラクル細胞から作られたP73-c偏食因子を持つ主人公らに発現している。恐らくは、感応能力による極限の意志が関係してくると見てもいい。

 

 などと考察を深めていると、途端に周りの時間が止まったようなスローモーションが段々と早くなってきているように見える。

 

『もうじかんがない……シアンなら、きっと、やればできる! でも、シオからおしえられるのは、このくらい。……どうだ、役にたったか?』

「ん……ありがと。この恩は忘れない」

 

 そう口に出して答えると、シオが前と全く変わりのない嬉しそうな声で笑ってくれた。

 

 ……はぁ。こうも純真無垢だと癒されずにはいられない。すぐ戦闘が始まるから気を抜いていられないのに。

 

『えへへへ……たよられるの、いいな! ……あっ。なーなー、シアン!』

「……?」

 

 もうスローモーションが解除されるのに……なんだ?

 

 疑問に思えば、先程の明るい口調から一変し、

 

 

『……ソーマ、さびしくないか? ひとり、してないか? ……ひとりは、かなしいぞ。だから、シオ、不安だな……』

 

 

 そう、呟くように言う。

 

 そうやって心配するのは、今も自身が置かれている状況が一人ぼっちだからなのだろう。

 たとえ心はいつも一緒でも、会えないという物理的な距離……そういう現実を叩きつけてくるのだ。

 

 だが、シオが恐れるようなことにはなっていない。

 何せ、あれから三年も経っているのだ。第一部隊隊長の神薙ユウに副隊長の霊代アキという、人間味に溢れ、正義と情熱を抱えた稀代の神機使いとの交流を深めた結果、その性格もとても穏やかなものになり、かなり大人びた。

 

 一度だけだが、ソーマは懐かしむように二人のことを語ってくれたことがある。

 

 ──アイツらは、俺のダチでな。このクソッタレな世界で、あそこまで人情味に溢れたヤツらと関わってれば否が応でも、自分でも知らず知らずのうちに仲が良くなる。アレはあいつらの天賦の才能……要するに、人誑しに特化した世界最高のお人好し組だ。どんな奴かは、会った方が早いがな。

 

 ……だったか。

 

 俺の中にあるシオの記憶にも、彼らの人となりが分かるような思い出が残っているし、暇さえあれば、ソーマは極東の神機使い達ともよく任務に出掛けている。

 

 もう、死神と呼ばれていたあの頃とは違うのだ。

 

『……そっか。ソーマはちゃんと、仲良くしてたんだ。……良かったぁ』

 

 ふと、漏れ出たのだろうか。

 深い安堵が伺えるような声音で発せられた言葉は、今のシオの素が表面化しているように思った。

 

 ……三年も一人で月に居たから、相応に精神も成熟したんだろうなぁ。

 

『今まで、ソーマのことずっと不安だったから……教えてくれて、ありがとうな、シアン。……じゃあ、またどこかでな!』

「んっ。また、どこかで!」

 

 別れの挨拶と共にスローモーションから急激に加速していく。

 

 もはや、考える余裕さえない。

 穿つはカリギュラ。真っ直ぐに捉えて、この姿勢から出しうる奥義を瞬時に見出していた。

 

 ……シオは、気合いで放てると言っていた。発動しろと思えば出来ると。

 

 途端、黄色の燐光を放つオラクルが左の刃に収束する。

 

 俺の身体は分かっている。この後どう動けばいいのか、頭で、感覚で理解出来ている。

 ならば不足はない。

 

 身体のオラクルの流入が爆発的に増加し、動きが速くなると、左手の刃をカリギュラの頭へ放つ。

 

 深く食い込む感覚と共に、斜め上に切り裂いて、空に飛び上がった。

 

 ──バイティングエッジ・双刃形態ステップ□空中遷移BA(バーストアーツ)『セラフィックエッジ』

 

 そして、右手の神機に赤いオラクルが纏われると、少し滞空して神機を前に構え、カリギュラのブースターに滑空するように斜め下直線上に貫通する一撃を繰り出す。

 

「せぇぇ──やぁっ!!」

「ギャウッ!?」

 

 紅き光は、掠ることなく弱点のブースターを抉りとるように貫き、結合崩壊させる。

 

 ──ショートブレード・空中△BA『ランページコメット』

 

 そこから、アドバンスドステップで少し距離を取ると、通信が聞こえてきた。

 

『カリギュラ、結合崩壊しました! 活性化します!』

 

 ……スタングレネードの一発でも投げておけば良かったか。

 

 活性化時の攻撃力の上昇と速度の上昇はかなりキツいものがある。常にバーストレベル3を維持するのも一苦労だ。

 

 背後からステップで肉薄すると、左手の神機を、前方へと突進しながら喰らうプレデタースタイル『シュトルム』に変型させ瞬時に加速、尻尾に喰らいついた。

 

 だが、バーストの延長に安心する暇は与えられないらしい。

 カリギュラは体の重心を横に傾け、尻尾による薙ぎ払いを行う。右の装甲でガードするがジャストにはならず、骨にまで響く痛みに、衝撃で軽く吹き飛ばされる。

 

 ……? カリギュラって、尻尾薙ぎ払い攻撃はあったか?

 

 それを考える前に、カリギュラが二連×3回という、無慈悲な回数の爆発弾ブレスを放ってきたのを、ステップで回避しながら、躱しきれなかった分を装甲で防ぐ。

 

 未知の攻撃ばかりが俺を襲ってくる上、ガードした時のダメージが何気に雑魚敵から受けるダメージより大きい。攻撃を受ける度に腕の骨に亀裂が入って治癒していく。

 

 ──キシュイィィン!!

 

 ブレードを展開し、上空へと飛び上がっての滑空攻撃を躱して背後を振り向くと、カリギュラはそのブレードを展開しながら地上のダッシュ斬りで向かってくる。

 

 しかし、俺にも学習能力はあるのだ。躱せないなら、ゲームでは出来ない動きで躱せばいい。

 

 この場合に考えられる方法は一つ……スライディングだ。

 

 作中では専らオープニングやムービーでの動きとしてしか実現していないが、これの実用性はとても高い。

 大型アラガミ相手ならば体の大きさもあり、すり抜けやすい。

 

 カリギュラのブレード攻撃は、基本地面に平行していたり、斜めに振り上げられる。

 よって、その間を通り抜けるように移動すれば、回避せずともダメージを受けないという寸法だ。

 

 そしてその目論見は……無傷の身体という結果を持って成功していた。

 

「……ふぅ、危ない。……つーか、喋ってないとやってられないな。今はキャラを崩すか」

 

 一応、通信のマイクは切っておく。

 

 あまりの緊張感に、そろそろ俺の貧弱な心が壊れそうなのだ。

 一撃でも食らえば致命傷。ガードしてもダメージ。その上に神速。こんな状況でまともに戦えるのは極東の超人どもだ。

 

 左手をアサルトに変型させて、氷の連射弾を撃ちながら迫る。

 

 怯みもしないカリギュラは、正面に迫った俺に向かって口を開けた。

 

 二連の爆発ブレスと思って横に避けようとすると、出てきたのは全く別のもの。

 

「っ!? マズっ──!」

 

 咄嗟に使用したのは、プレデタースタイル『獄爪』。飛び上がるように上へと跳ね、真下のカリギュラを捕食しながら背後へ着地する。

 

 その刹那に見えたのは、まるでモン◯ンのイビ◯ジョーを思わせる薙ぎ払い広範囲ブレスを放っている姿。

 

「ここまで行動が変わるとキツイな……うおっと!?」

 

 隙なく放たれた尻尾薙ぎ払いをジャンプで躱し、お返しとばかりに左の銃身をブラストに変えて、振り向いたカリギュラの顔面に火属性LL爆発のロケット弾で反撃を見舞う。

 

 ──だが、奴はそれをバックステップで躱した。

 

「んんっ!?」

 

 それは偶然なのかは分からない。カリギュラはバックステップするので、タイミングが悪かったと説明が付くが……

 

 カリギュラが、未だ空中にいる俺に対して地上でブレードを展開すると、ブースターを瞬時に爆発させてこちらに斬りかかってきた。

 

「──っ!! インパルスッ!」

 

 右の銃身のオラクルを放ち、反動での回避を試みた。

 刃は顔スレスレにまで範囲を広げて迫るが、ギリギリセーフ……

 

 しかし、カリギュラはブースターを止めていない。

 また攻撃してくるのだろうと予測すると、即興の苦肉の策として、エリアルステップでカリギュラの背中に乗り、右の神機を突き立ててしがみつく。

 

「地上に降りたら離してやっからな!」

「ゴアアァァッ!!」

 

 地上に降りた瞬間、ブースターでの範囲攻撃をされるだろうから、ギリギリまでしがみついておく。

 

 しかし、この間に何もしない訳には行かない。神機を更に深く抉るように突き立てつつ、ブラストのロケット弾を自爆覚悟で数発叩き込む。

 

『アラガミ、結合崩壊! ──って、シアンさん!? えっ、なんでマイクを切っているんですか!?』

「ご、ごめんなさい……って、聞こえてないか」

 

 ヒバリさんの慌てた声に反射的に謝ってしまうのは、極東に慣れてきた証拠か……

 

 そうやってカリギュラに着実にダメージを与えていくと、奴は急降下しだした。地面に着地される前に神機を引き抜くと、その瞬間、黒炎が爆ぜた。

 

 吹き荒れる爆風に、土煙。その中を駆け抜けて、煙の中で辺りを見回そうとしているカリギュラに、不意打ちの連射弾で牽制する。

 しかし相手はそれに負けじと爆発ブレスで攻撃を仕掛けてきたので、これを盾で防ぐと、突如土煙からブレードを構え直進して来た。

 

 ブースト特有の二段ジャンプで、ブレードが空ぶったカリギュラを真下に見据えると、ソーマが愛用する空中プレデタースタイル、『パニッシャー』でバースト時間を稼ぐ。

 その時、ブースターにエネルギーを貯め、それを一気に解放して範囲攻撃を起こして来たのをジャストガードで防ぎ、地面に着地する。しかし、間髪入れずにやってきた二連撃のブレードが俺の頬を掠める。

 

「……とっととくたばれ、黒トカゲめ!」

 

 両手の神機を構えて、行動直後の隙に素早く斬り込んだ──。

 

 

 

 

 

 

 ……そんなような攻防が、もう五分に渡って続いている。

 

 端折ってしまったが、現在、頭部と右ブレード、左ブレードの結合崩壊を終えて着実にダメージを与えているにも関わらず、相手は一向にへばる様子さえ見せない。

 

(バーストは辛うじて維持できても、こんなに硬いと千日手だな)

 

 アラガミには疲労という概念はない。傷付いた細胞が結果的に疲労のような症状になることはあっても、人間のように激しい運動などでは引き起こされない。

 ただし、俺には精神的な疲労があるが。

 

 それと、このカリギュラ。どうやらバレットを避けるという行動があるらしく、メテオを放てばそれをひょいひょいと躱してくるのだ。大ダメージが期待できるので、これで仕留めておきたかったのに面倒が増えてしまった。

 

 だが、幸いにして封神トラップやヴェノムトラップはかなり良い効果をもたらしており、普通のハンニバル神速種並に遅くなっている。

 

 それで今のところ持ち堪えられているが、問題はそこでは無い。

 

 アサルトで牽制しつつ、マイクをオンにする。

 

「……ヒバリ、救援はどうなってる?」

『あっ、シアンさん! ええと、それが……ソーマさんらの乗ったヘリがアラガミの奇襲を受けた為、地上に降りて全速力でこちらを向かっていますが……あと数分は掛かる見込みです!』

「そう……」

 

 数分か……ゴッドイーターの数分って結構長いのになぁ。

 

 マイクをオフにして、活性化状態にあるカリギュラを見据える。

 状態異常が切れてしまったのだろう。連射弾に怯みもしなくなったらしい奴は、徐ろに両手を合掌させた。

 

 両腕や展開されたブレードにまで黒炎が纏われていく様子に、右腕を斬られる光景を幻視して、内心ヒヤリとしてしまう。

 

「──ハッ、上等だ! 一度見た技くらい、躱せるに決まってる……!」

 

 黒炎を振り撒きながら、カリギュラはブースターの噴射で加速した。

 

 突進の最中、右腕が振り抜かれる。ブレードの結合崩壊により、範囲威力共に弱体化した攻撃を左の神機でジャストガード。

 続いて、ブースターによって急回転し、背中側からの攻撃。そちらに振り向くと、眼前に迫る左腕を身体を反らして回避し、右の神機で奴が通り抜ける間に捕食しておく。

 

 ……そして、またも背後に迫る気配に、俺は上空へと飛び上がった。

 

「やっぱりな」

 

 カリギュラは即座に上に対応する能力を持ち合わせていない。まあ、大抵のアラガミはそうなのだが、咄嗟に行動出来て良かった。

 

 活性化した時点で何かしら変化があるだろうと予測していたら、攻撃回数が二回から三回へと増えていた。

 

 ……? いや、これはッ!

 

 後方への咄嗟のエリアルステップを選んだのが功を奏したか。

 先程俺がいた空中に黒炎が吹き荒れ、突き抜けていったのが見えた。

 

(まだ攻撃があるとかマジかよ……)

 

 全くもって面倒な奴め。

 

 気を緩めずに飛んで行った先を見遣ると、ホバリングしてこちらを睥睨している。

 

 このカリギュラにも、頭部破壊によるホールド弾からの上空急降下というコンボアタックをしてくるが……それとはまた様子が違うように見える。

 

 観察して、観察する。目を離さぬように凝視して、地面へと落下していく。

 しかし、相手は何もせずただホバリングをしているだけ。

 

 ……特に何もしないのか?

 

 拍子抜けして、少し気を緩めつつ、着地地点をチラリと確認してからまたカリギュラの方へと向く。

 

 ……そして、自分の浅はかさを思い知った。

 

(は? 姿が消えて────ッ!?)

 

 横殴りの強烈な衝撃。肋骨、背骨、その他の部分が粉々に粉砕されて、喉からせりあがる鉄の匂いが吐き出された。幸い、コアはひび割れた程度に収まったので、先にそちらを修復し始める。

 

 普通の人なら頭を揺さぶられて思考停止に陥っているだろうその衝撃に、ボールのように弾け飛んだ俺は、地面を抉りつつバウンドし、コンクリの壁に身体が埋まっていた。

 

 即座にバーストの再生が働いて、痛みも引いていく。そんな中で、俺はこの異常事態に思考を巡らせた。

 

 姿が掻き消えたのは、俺が目を離したほんの数瞬。まさか、相手が縮地みたいなデタラメな技が使えるはずもない。

 

 だとすれば……カリギュラは満身創痍のクセして本気を出していなかったって事になる。

 

「畜生め……とことんおちょくりやがって」

 

 今の攻撃で、マイクといった通信機器は完全に壊れてしまったらしい。ノイズが聞こえるだけのイヤホンを取り外して、神機を握る。

 

 コンクリから身体を引き抜けば、カリギュラがブースターを使いながら降り立った。

 

 そしてやはり、横に重心を傾けた奴の姿がブレて、意識の埒外へと消え去った。

 

 偏食場がギリギリ頼りになるか、というほどのスピードで背後に迫ってきたカリギュラのブレードを間一髪で見切った。

 

 白い髪が空を舞う。自分の頭が少し遅ければ斬られていたと思うとゾッとするが、それでも近付いてきたカリギュラに対し、地上△攻撃BA、『レイニースティンガー』で反撃した。

 

 ……反撃したはずだったが。

 

(ッ!? 上──!?)

 

 攻撃中の隙が致命的だった。またも奴は消えて、見事に空ぶったその隙に、真下に、黒炎を纏った拳を振り抜かれた。

 どうにか左手が間に合って、神機の盾が展開された。脚まで響く強烈な衝撃に、神機はヒビ割れ、そして完全に砕け散る。

 

(理不尽な……っ!)

 

 振り抜かれた拳はブースターの加速と共に、消える。

 

(右後ろ斜めッ!)

 

 尻尾による範囲攻撃。リンボーのように体を仰け反らせるが、尻尾の先端は俺の腹から胸に掛けてを切り裂く。

 

 痛い……クソっ、痛覚を切ったら、自分の損傷に気付けなくなる。それはマズい。

 そう考えて敢えて痛覚を切らなかったのだが、今回ばかりは、それは悪手だったということを酷く思い知らされる羽目となる。

 

 ……姿が消える。偏食場は後ろで止まっていた。

 

「──がぶァッ!?」

 

 目にも止まらぬ速さで肉薄してきた黒炎の槍は、神機ごと、俺の腹を穿つ。

 

 …………姿が消える。右上空から、爆撃のブレスを一度に六発、一直線に放たれる。

 

「クッ、脚が……」

 

 最初の二発を躱し、続く四発が爆風で回避をままならなくさせて、残りの二発は体表を焼いて右脚を吹き飛ばされる。

 

 ………………姿が消える。前方に現れて、腹を殴られる。

 

「──っぐぉ!!」

 

 姿が消える。真横から振り抜かれるブレードで頭の半分が吹き飛ばされる。

 

「──ッッ!?」

 

 瞬間的に声が出せなくなり、声にならない呻きを上げた。

 

 姿が消える。黒炎の槍が、再生した腹に突き刺さって残る。

 

「ぁぁあああッ!!」

 

 姿が消える。ホールドの弾丸を撃たれるが、それは俺に通用しなかった。腹いせか、全身を黒炎で炙られる。

 

「あ、ああぁああ……!!」

 

 姿が消える。黒炎の槍が、壁際にいた俺の右腕を突き刺し、縫いとめられた。

 

「あぅぁ……」

 

 姿が消える。もう一振の黒炎の槍が、俺の左腕を穿って、刺さる。

 

「ぁ…………」

 

 

 

 

 

 ……ああ。ダメか。

 

 磔にされた俺は、何とも無様なものだった。

 

 身体を走る激痛は凄まじく、今にも意識を失いそうになりながらも、細胞に働きかけて痛覚をシャットアウトした。

 

 ふっと、バーストの力が身体から抜け落ちて、脱力感が襲う。再生されなくなったことを悟ったのか、カリギュラは刹那の間に俺の両脚を切り飛ばした。

 

 気が狂うような凄絶な痛みの連鎖。圧倒的なまでの蹂躙劇で、隔絶した力の差を見せつけられた絶望感。

 

 ……詰んだと、そう感じるのに時間はいらなかった。

 

 自分の身体の一部で出来ているだけの神機とはいえ、それを二本担ぎ、プレデタースタイル、バーストレベル3の急速再生、果てにはバーストアーツまで使った。

 これだけやって勝てないのなら、最早、俺にはどうすることも出来ない。

 

 既にカリギュラは、拳を手刀のようにして腕を引き、貫かんと構えている。

 俺を視界の中心に入れ、止めを刺そうとしているのは明白。

 

 

 

「──シアァァアアアアアンッッ!!」

 

 

 

 ……そんな寸前に響いたのは、頼れる第四部隊隊長の叫び。目をやると、そこにはスナイパーに切り替えて狙撃弾を放つハルさんと、裂帛の気合と共に、鬼気迫る表情でカリギュラを切り裂かんと走るヒロの姿があった。

 

 ……少し、遅かったじゃないか。

 

 こんな陰鬱な表情を見せたくなかったので、取り敢えずニヒルな笑みでも浮かべておいて、一言だけ言っておいた。

 

 ヒロの目が見開かれる。

 なんだよ、そんな驚いたみたいにして。……まあ確かに、ヒロに言った事はなかったなぁ。

 

 

 そして、それと同時にカリギュラの腕が、俺の心臓……コアを完膚なきまでに砕き切って貫いた────。

 

 

 

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

sideヒロ

 

 

 ……磔にされている彼女を見たとき、何故か、妹の姿と彼女が重なった。

 

 俺の両親と妹は、アラガミに喰われた。

 俺の、目の前で。

 

 俺もそいつに喰われかかったが、いつの間にか来ていたゴッドイーターに保護されて九死に一生を得てしまったのだ。

 

 なんで、俺だけが生きているのか。たまたま外に出ていて、襲われるのが遅れただけだったのに。そこで、母さん達と殺されて良かったのに……そう思い続けて、マグノリア・コンパスで5年間もの歳月を過ごした。

 

 所長であるラケル先生から、「貴方にはとても類まれな、神を殺す才能があるようですね」と言われてブラッドに入隊し、これまでとは比べるべくもない濃密な日々を過ごした。

 その過程で、俺は自然と、皆と一緒に居たいと感じるようにまでになっていたのだ。ナナが、ロミオ先輩が、ギルが、シエルが、そしてジュリウス隊長が、冷めきった俺の心を温めて、ゆっくりと溶かしていってくれた。

 

 だから、今の自分がある。だがやはり、いつも根底にあるのは、家族の姿だ。家族はアラガミに喰われてしまったという事実は覆らない。

 だからこそ、シアンという存在は認め難いもので、つい口から出てくるのは嫌味な言葉ばかりだったのだ。

 

『っ──!? ヒロ、ヒロッ! 今、助けに行くから!』

 

『む……そういう、素直じゃないところ。……ユウを見習って欲しい』

 

『……私は無茶していい。ほら、無限に再生する。……理不尽な理由なんかじゃない』

 

『ん……飲み物、あげる。今日は、気が利いた動きだった。……頑張って』

 

『……病みつきになる味わい。普段は害悪なアレが生み出した最高の嗜好品。ただし、お子ちゃまには分からない味。……ヒロが飲んでも、きっとそんなに美味しくない』

 

『……? クロガネ以外、使いたい? ……んー、何が良い……かな』

 

 だけれども、それは今の俺には既に当てはまらないようだった。

 

 だって、こんなにも頭がどうにかなりそうになっている。妹を思い浮かべる程に……それ程までに、心の底では彼女のことを良く思っているのだと。

 

 近場のアラガミでバーストレベル3にしてきて、強制解放剤を使いつつ走ってきた身体はスピードに乗っていた。

 

「うぉおおお──っ!!」

 

 彼女を助ける為に、神機を黒きカリギュラへと突き刺そうと手を伸ばした。目に映るのは、殆ど光を失ってしまった茫洋とした瞳のシアン。

 彼女は、すぐ側に迫る俺に気付いていたらしい。お気に入りだという黒い服は、見るに堪えないボロ切れのようになっていて、右腕に着けていたはずの腕輪は無く、下半身は無くなってとめどなく血が滴っており、満身創痍と言うには余りにも足りない、生きるのさえ地獄のような姿。

 

 視線が不意に交差する。

 すると、シアンは笑った。

 

 それは、とても痛々しい笑みだった。無表情な彼女に、自然な笑みは出来るはずもなかった。下手くそで、無理をしているような彼女の笑みは、どことなく、俺を不安にさせないようにと作ったのだと感じて……

 

 

 ──ご め ん ね

 

 

 ……その言葉だけが、とても明瞭に鼓膜を響かせていて。

 

 瞬間、カリギュラの腕が、シアンの心臓部を穿った。

 

 世界が遅くなったような感覚に陥りながら、心に沸々と激情が湧き上がった。

 

 ……殺してやる。俺の、俺や極東の皆から大事なものを奪う奴は、全て……!

 

 血が騒めく。俺の意志に呼応してか、俺が貫こうと構えていた神機は、赤い光を迸らせる。

 振り向いたカリギュラの頭部に、下から振り上げるように手を替えた。

 

 刀身に妖しい紫をした一条の()が纏わりつく。垂直に振り上げると共に、妖しく輝くその竜は、刃が通る道筋をなぞるように、天へ天へと昇り飛んだ。

 

 ──ロングブレード・△攻撃BA『秘剣・昇り飛竜』

 

 極限の意志が齎した究極の一撃は、カリギュラの頭部に、左眼ごと一条の傷を付けて大きく仰け反らせ、両手を地について身体の姿勢を無理矢理保たせるまでに至った。

 

 奴は、恐らく俺が出した最も強い攻撃を受けても倒れなかった。口を拭うような仕草をすると、ブースターから黒い光を放って、空へと浮かんだ。

 

 来るか……! と構えると、カリギュラはこちらに見向きもせず、黒い爆炎を残して空中へと逃げ去って、もう視認出来ない位置に飛んでいて、ついに逃げられたのだと悟った。

 

 追撃は不可能……それよりも!

 

「シアンッ!」

 

 彼女に突き刺さった黒い炎は消え去り、ばたりと地面に倒れ込んだ。

 

「まだ意識はあるか……!?」

「…………」

 

 眼は閉じられている。いつもなら、戦闘中でも勝手に再生する傷が、全く再生していない。

 嘘だ。そんなはずはない。アラガミなんだろう。これくらい、直ぐに治して起き上がるのに。

 

「なぁ……起きてくれよ。お前は化け物なんだろ……? こんなの、かすり傷にもならないって、いつも言っていただろっ! 目を、開けてくれ……!」

 

 腕一本無くなってもケロッとしていて、俺の方がヒヤヒヤさせられるのに、いざ俺や仲間が瀕死になると過剰なまでに反応して、心配したり説教してくるのに。

 

『……作戦は、終了しました。帰投準備を、お願いします……っ』

 

 視界が滲んで、ぽたり、ぽたりと、彼女の身体に水があたる。

 

 ……ああ、わかっている。俺は泣いてる。大切なものを喪った気持ちが、本能がそうせざるを得なくなったのだ。想像以上の孤独感や悲愴感をトリガーに。

 

 無情にも、胸に大きく穴が穿たれている様子が目に映る。そこには、血に濡れても、瞳の色と同じくアメジストに光る結晶片が、身体の中に埋まっていた。

 

「……また、間に合わなかった」

「……ハルオミさん」

「ッハハ……あの頃から何も変わってねぇのか、俺は」

 

 ……ハルオミさんは、これで目の前で見知った人が死ぬという経験を二回もしている。いや、きっと、任務を共にした仲間が目の前で死んで行ったことは、一度や二度じゃきかない。

 

 それはきっと俺以上に、果てしない後悔が渦巻いているだろうに、俺は……

 

「……情けないところを見せて悪かった。こういう時、年長者の俺がお前を引っ張るべきだってのに」

「いえ、俺は────」

「堪えるなよ、ヒロ。……心が先に壊れちまうぜ」

 

 神機を突き刺して、シアンを抱く俺の肩を両手で掴んだ。

 

「……ここはな、そういう世界だ。いつだって理不尽だ。予期しない事態も起こる。いつもの簡単な任務が、地獄に変わる時もある。……こればっかしは、俺にも受け入れる以外の選択肢は無かった」

 

 ──だから、今は泣いておけばいい。

 

 

 

 

 それから、少し経って、ようやく昂ってきた気持ちが収まると、俺は話を切り出した。

 

「……あの、ハルオミさん。少し、聞いて貰えませんか」

「……何となく、そう来ると思っていたところだ。聞かせてくれよ、シアンのことを」

 

 腕輪が無いのも既に見ていた。俺が化け物呼ばわりした事も、聞こえていたと思う。

 

 この際、包み隠すことは無い。

 

「……シアンは、ヒト型をしたアラガミなんです」

「シアンが、アラガミ、なのか……?」

「……サカキ博士によれば、アラガミが人と同じ進化を辿った結果、だそうで……これは、さっき拾った彼女のコアの一欠片です」

 

 アメジスト色の欠片を手渡すと、少しばかり見詰めた後に、そっと胸に抱え込んだ。

 

「…………良い奴から早く逝っちまうのは、なんでなんだろうな」

 

 ハルオミさんは、一瞬だけ後ろを向いて手を動かした。何をしたのか言うまでもないが、それを口にするのは憚られた。

 

 振り返って、何事も無かったかのように欠片を返してきた。

 

「……それは、持っておいて下さい」

 

 そう言うと、驚いたような表情をして、ありがとな、と自分のポケットに入れた。

 

「……帰ろうぜ。帰るべきところに」

「……はい」

 

 ハルオミさんの言葉に首肯して、涙をグッと堪える。神機を持ち、シアンの身体をもう片方の手で抱いた。

 

 俺は、これからこの想いを胸に抱えながら、生きていく事になるのだろう。

 

 空から下りてくるヘリを見ながら、あの黒きカリギュラへ、俺は復讐を強く誓った。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 ──フェンリル本部・第七研究室

 

「……なんだって!? シアン君が、まさか…………分かった。今すぐに向かおう」

 

 サカキは受話器を置くと、すぐ横で煙草を吸うアキヒコに向き直す。

 

「済まない、アキヒコ博士。もう少し滞在する予定だったが、ウチの方でかなりマズい問題が発生した」

「あのアラガミ動物園のことだ。何が起きても不思議ではなかろう。なに、私はそろそろ、お前の饒舌さにうんざりしていたところだ。さっさと帰ってくれ。研究はこちらで進めておく」

「君みたいなデレはなんて言うのか分からないけど……ともかく、ありがとう」

「ふん、お前の研究など、私の功績にするには塵のようなもの。少し積もる程度では意味が無い」

「はぁ……私が言っているのはそういう所だよ、アキヒコ博士」

 

 内心、「まあ、五十過ぎたおっさんのデレなんて需要は無いとは思うけどね……」とか失礼なことを考えつつも、ジュラルミンケースを持つと、一礼の後に研究室から退出した。

 

 それを、アキヒコは目を眇めつつ見送ると、目の前の書きかけのレポートを見て溜息を吐く。

 

「……こんな研究を私に押し付けるとは。面倒極まりない。そもそも、私の専門はオラクル細胞学の中でも捕食能だぞ? 神機ならまだしも、ヒト型アラガミなど……いや、手はあるか」

 

 徐に、併設されている第七研究室第二ブロックのドアのインターホンを押す。

 

フユヒコ(・・・・)、いるか?」

『……あっ! はい、どうされましたか、父上』

「いや、お前にヒト型アラガミのサンプルをやったペイラーと、共同の研究で少し相談があってな。ヒト型アラガミならば、お前に一日の長があるだろう」

「分かりました。では、お入りください」

 

 出てきたその青年は、眼鏡を付けた優等生、というような雰囲気を醸しているが、何故かチェック柄のマフラーを付けており、それが研究者としての異色さを示している様にも見える。

 

「さて。早速親子の連携といこうじゃないか」

「はい! 犬飼(・・)家の威信を、今こそ老人共にみせてやりましょうっ!」

「フッ、その意気だ」

 

 安全メガネを着けた二人は、研究者らしい不敵な笑みを浮かべて、眼前に陳列するサンプルと実験器具と向き合った。

 

 

 

 

ロミオPの処遇について

  • いつも通り、逝くなぁぁぁ!される。
  • シアンちゃんに救出される。
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