神さまばっかの世紀末な世界に、俺が望むこと   作:赤サク冷奴

17 / 36
キャラクターエピソード シアン編

五話前のお話の続きになってるとか。


幕間 荒ぶる神の少女

 

 これは、シアンが黒いカリギュラと遭遇するより前のお話……エイジスにて。

 

 

『っ!? これは……ハガンコンゴウ二体の他にもう一体! 恐らくは、シユウ神族……いえ、姿を視認! セクメトです!』

 

 ヒバリからの連絡に、三人が……特に、シアンが顔を引き攣らせたのは想像に難くないだろう。

 

 ゲームでも乱戦時には非常に邪魔だと有名で、セクメトに至ってはクソと呼ばれる始末。それが、これから始まる戦いの面倒さを表していた。

 

「セクメトとハガンコンゴウか……この二体が揃うと厄介だというのをデータベースで確認した事がある。……一時退却を考えるか?」

 

 ジュリウスからの提言。シアンは少しの思案の後に、神機を構えつつ言った。

 

「……二人は退却して構わない……ヒロには禁忌種は荷が重いし、ジュリウスも、セクメトとの交戦経験は少ないと思う……」

「シアンは、自身一人で禁忌種三体を相手取ることは問題外、とでも言うつもりか?」

「……だったら、誰がやれと? ……ヒロはともかくとして、今回はジュリウスも足手まとい。神機の性能も考えると、尚のこと」

「俺が足手まとい、か……この血の力の強さというのを知っての事か?」

 

 いつも以上に目をスッと細めて、底冷えするような声音でジュリウスに尋ねれば、ジュリウスがそれに反論し、剣呑な雰囲気を辺りに作り出す。

 

 そこには一切の殺気や敵意といった感情は介在していなかったが、ただ突きつけられた事実をどう対処するのか、互いに自分の意見をぶつける様は、割って入ろうとは思えない程に凄みがあった。

 

「……本当に、足手まといなのか?」

 

 しかし、ここでシアンへと疑問を呈したのは、我らが主人公、ヒロ。

 

「……? どういうこと?」

「隊長も、そう多くの禁忌種を討伐した事は無いだろうし、俺も禁忌種なんて殆ど戦ったことはない。でも、攻撃じゃなく、防御に徹すれば囮として有用だろう? シアンは安心して、各個撃破が出来ると思うけどな」

「……む」

 

 ヒロの言う事は実に現実的だ。携行品も十全であり、各々が別の場所で戦えば、エイジスというバトルフィールドを有効活用できる。

 

 シアンは唸った。確かに、防御に徹し、敵を引き付ければセクメト一体など二分も掛ければ確実に仕留められる。

 

 だが、彼女はそれ以上に恐怖があった。

 

 ……他人の死。

 すなわち、ヒロとジュリウスが何らかの要因によって死んでしまうこと。

 

 身の丈に合わない任務……それで死んでしまうことがあってはならない。彼女を心からそう奮い立たせているのは、正義なんて高尚なものでは無い。

 

 極度の、他人の死を見てしまうことへの恐怖だ。

 

 それが親しい、もしくは自分の中でもよく知られた人物ならば殊更に恐怖を感じてしまい、人間の身ならば身体に異常をきたすまでに悪化する。

 

 精神科医がここに居たならば、恐らく〝死体恐怖症(ネクロフォビア)〟と呼ばれたその症状。それを、知らず知らずの内にこちらにまで持ち込んで居ることを、彼女は知らない。

 

 知らないまま、彼女はただ、死なないで欲しいと誰よりも願う。

 

 シアンがズビシッ! と、ヒロを指さすと、いつもより不満そうな半目ジト目で言った。

 

「……無茶、これだけはしないで」

「え、まあ……それは理解してるけど」

「無茶して、何かあったら、泣くから」

「は、はぁ……──えっ?」

 

 ヒロは彼女の言葉を理解したようで、惚けたままの顔で暫しフリーズする。

 

「泣きながら、広範囲爆撃してやる。みんな巻き込んで」

「そ、それはやめて欲しいかなぁ……なんて」

 

 ヒロは苦笑いしているが、シアンの目はマジだ。

 

 サラリと巻き込まれたジュリウスはと言うと……周りへと警戒を巡らせていた。注意を怠らないのは、流石隊長と言ったところではあるが、先程までの話はバッチリと聞いている。

 

 人はそれを現実逃避と言う。

 

『アラガミ、作戦区域に侵入します!』

「来たか……ヒロの作戦で行くのか? シアン」

 

 尋ねられた方は、不服そうな顔でプクッと頬を膨らませた。シアンちゃん、とっても不満のご様子。

 

 だが、眼前にセクメトとハガンコンゴウらが姿を見せると、スッと表情を変えた。体の向きを敵に向けながら、決してヒロとジュリウスに振り向かずに、言い渡した。

 

「……生きることから逃げないで。これが、極東に生きる者の義務。私も出来る限り手助けするから、絶対に死なないで」

 

 シアンの所属するクレイドルの一種のスローガンであり、何かを差しておいてでも無視してはならない最上の命令──『生きることから逃げるな』。

 

 何かを感じ取ったのか。二人ともに深く頷く。

 

「……作戦、開始」

 

 セクメトがエイジスへと降りて来たところを狙って、シアンの〝シュトルム〟で突進して食らいつく。

 

 と、同時にそれぞれのハガンコンゴウにヒロとジュリウスが相手取った。連携は機能しているようである。

 

 それをシアンは眼を眇めて確認した後、セクメトを後方へと誘い込む。距離を離したことにより、滑空の行動を誘発させ、二人との距離を作り出した。

 

 セクメトが振り返って、姿勢を屈めて少し溜めの動作を行ってから、放物線を描く火球を放った。シアンが即座にステップでの回避を図り、懐に入り込む。そこから、流れるような捌きで拳を三度切り裂いた。

 

 一瞬にして間合いに入られたセクメトは、拳による爆破を繰り出しながら後方にバックステップ。更に間髪なく溜めの動作から火球を連射し、最後に大火球を射出した。火球を、その隙間を縫うようにただ軽い足取りと姿勢を僅かに逸らすのみで躱し切ると、最後の火球を大きくジャンプして躱し、二段ジャンプを斜め下になるよう調整して跳躍した。

 

 圧倒的な速度で迫るシアンから逃れる術はなく、両手の神機はセクメトの頭部を貫いた。

 

 引き抜かれると、頭部の一部が青い断面を見せており、明らかに結合崩壊を起こしていた。シアンは内心ガッツポーズをしつつ、飛び退く。

 

『アラガミ結合崩壊! 活性化します!』

 

 活性化により、セクメトの攻撃性能は格段に増加する。しかし、同時に下半身に氷属性が効きやすくなることをシアンは知っていたのだ。

 

 体内に取り込まれたコンゴウ堕天のアラガミバレットを分解し、解析。左神機をアサルトに変形させて、体内オラクルを消費して放った。

 

 三連の竜巻の弾丸は正確にセクメトの脚を撃ち抜き……更に追い打ちとばかりに第二弾が射出された。

 

 セクメトが頭に手をやりながらよろめく。相変わらず無表情なままで、それでいて無慈悲な攻撃の応酬にセクメトは些か困惑しているように見えるような気がしなくもない……

 

 

 

 一方その頃。ヒロはハガンコンゴウの隙の無さに歯噛みしていた。従来のコンゴウにはあるはずの弱点部位である尻尾がなくなっており、ロングブレードではかなり厳しい戦いを強いられていた。

 

「くそっ……攻撃範囲が大きくて間合いに入り込むのが難しいな」

 

 背中や腕部へのインパルスエッジが有効であることが分かってきたためか、〝IE壱式・連爆〟での攻撃を軸にしつつ、隙あらば攻撃しようとしている。しかしながら、ローリングや自身周辺に雷撃を発生させてくる攻撃に苦戦していたのだ。

 

 両腕を大きく上に開くと、雷撃を三発生成し、放ってくるのをガードで受け止める。相手の攻撃力は相当のもので、ヒロは盾で受けたにも関わらずダメージが蓄積してしまっていた。

 本来であれば、自分の意見通りに攻撃はせずに防御に徹せばいい。だがヒロは……ヒロ自身が発した、シアンに任せきりにしてしまうというこの作戦を情けなく思ったのだ。

 

 自分はお守りをされる為に、この戦場に突っ立っている訳では無いのだと。

 

(出来るだけ、あいつに頼らないようにしないと……)

 

 ステップで踏み込んで、斜めに顔面を斬り上げた。しかし、ハガンコンゴウは怯みもせずに、腕を上げて雷を身体に纏わせる。

 

「これは────ぐわぁっ!?」

 

 回避する余裕は無く、範囲雷撃によってヒロは身体を焼かれながら大きく吹っ飛んだ。

 

 更に、不運が重なる。オラクル細胞が作り出す特殊な電気には、通常の電気ではビクともしないオラクル細胞の動作阻害を引き起こす強力な電子が含まれているという。

 

 ……つまるところ、ヒロはスタン状態になっていた。

 

「あた、まがっ……」

『ヒロさん! バイタルが低迷しています、確認を!』

「ヒロッ! 気をしっかり持て!」

 

 ジュリウスの叱咤が飛ぶが、まともに立っていられず、思考が安定しない。かなりのダメージを食らったこともあり、かなり重篤な状態に陥った彼に……奴は飛来してきた。

 

「──離れてっ、ヒロ!!」

 

「ウォォォン!!」

 

 セクメトの、腕に炎を纏っての滑空。スタン状態のヒロにそれを避ける手段は無く、ヒロの身体に、深く傷が刻み込まれた。

 

「あぐぁ……!」

『ッ!? ヒロさんが戦闘不能……! 至急、救援を!!』

「何だと!? クッ、退け!」

 

 ジュリウスの顔が、床に這いつくばったヒロの姿を見て恐怖と焦りに包まれた。

 

「っ──!? ヒロ、ヒロッ! 今、助けに行くから!」

 

 それと同時に、セクメトのターゲットが変わってしまうというミスを起こしてしまったシアンの形相が酷く歪む。それは、恐怖と悲哀という感情が色濃く出ているような、泣きそうな顔だった。

 

 この世界のゴッドイーター達において、味方が戦闘不能に陥るという事は、イコール『死』であるというジンクスがある。

 

 戦闘不能とは、瀕死になった結果体内の偏食因子の機能が急激に落ち込み、アラガミ化を招きかねなく、一撃でもアラガミの攻撃を喰らえば確実に息の根を止められてしまう状態を指す。

 腕輪での生体オラクル供給により、活性化させて瀕死の状態から回復させるリンクエイドという救命システムがあるが、実際にリンクエイドを行った事のあるゴッドイーターは全体の5%に満たない言われ、その者達はどれも一級の衛生兵として知られたり、英雄視されるほどの人材だ。

 

 故に、戦闘不能状態にあるヒロが、セクメトとハガンコンゴウに狙われたこの状況で助かる見込みは皆無に等しい。ジュリウスはやっとの事でハガンコンゴウを振り切り、ヒロへと走るが、ヒロが相手取っていたハガンコンゴウが、今まさに攻撃を開始しようと予備動作を行っていた。

 

(クッ、ここまでかっ……!!)

 

 ジュリウスはそれでも、自分を慕ってくれている部下を見殺しにできなかった。「うおぉぉ!!」という叫びと共に、せめてでもハガンコンゴウの雷撃を身代わりになろうと走る。

 

(これでは、間に合わ──)

 

 ……だが、それを絶対に許さない荒ぶる神の少女は、既に動き出していた。

 

「ヒロっ、ひろっ……!」

 

 余程、ヒロの瀕死という状態を目にしてしまった事が、彼女に植え付けられたトラウマに反応して、堪えたのだろう。ハガンコンゴウの雷撃をジャストガードし、戦闘不能のヒロを死地より救い出したシアンは涙を湛えていて、名前を何度も呼ぶ。

 

「ごめんなさい……っ! 私が、ちゃんとセクメトを引き付けてれば、こんなことには……ごめん、ごめん……!」

 

 そんな、人間味溢れる表情を、ヒロは霞がかった視界で目の当たりにした。

 

 彼女は、アラガミである。ヒトとは物質的に見ても、存在からしても根本から異なっている。

 

 その筈なのに、こうして、自分が半死半生となっている姿を見て、ここまで感情を荒ぶらせるのか。

 

 ふと、ヒロの頭の中に、サカキが少し前に言い残した言葉が過ぎる。

 

『いいかい? ヒト型アラガミとは、謂わば私達と血の繋がりのない兄弟姉妹と同じなんだ。かつて世界では、ヨーロッパに由来するコーカソイド、アフリカ系のネグロイドといった人種の差で隔てられていたそうだよ。つまり、ただ自分達と少し違うだけで……ただ、文明の発達が遅れている野蛮人だからと、人間だと認めることをしなかった。さて、その上で君に問うよ。──シアン君とは、何者だろうね?』

 

 何も答えられなかった。そして、きっと今でも答えることは出来ない。

 

 アラガミとヒトの狭間。そこに生きるシアンという者は、酷くあやふやな存在だ。

 

 しかし、ヒロは一つ、答えへの道標を得た気がした。

 

「……お前、優しいんだな……」

「……ぇ?」

 

 ヒロにとっては、一部の人以外には、いつも無口で表情をおくびにも出そうとしない気味の悪い奴だった。それが、こうまでハッキリと表情に出している。ヒロの、彼女に対する認識は少なからず変わっていた。

 

 腕輪が反応し、体力を分けてリンクエイドされた。ヒロは死の淵から生還して、呼吸が楽になるのを感じて、シアンは両手の神機を変形させて、アラガミを見据える。

 

「……待ってて。私が全部、殺してくるから」

 

 普段見せない笑顔のまま言うと、ヒロの背筋にブルりと寒気を催した。シアンのセリフは、ヤンデレのそれに近い。震えないわけがない……いや、それとも、今極東にいる正妻の絶対零度の如き気配を察知したからかもしれない。真相は彼のみぞ知るところだ。

 

 そして、ついに銃身から勢い良く放たれた。

 

 三回の銃声が鳴ると、少し遅れて、それらはエイジスの外から、三体を狙い撃つようにやって来た。

 

 そこからは、圧倒的な蹂躙だ。計九発の氷、神属性の弾丸が突き刺さると共に、大爆発を引き起こして、様々な部位を結合崩壊させながら、ジュリウスごと吹き飛ばす。

 

 結果、アラガミはコアごと完膚無きまでに破壊し尽くされ、残ったのは死体……と、ビクンビクンと気味悪く身体を震わせる、死にかけのピクニック隊長……

 

「エッ!? ジュリウス隊長!?」

 

 回復錠改を飲んで体力が回復したヒロが駆け寄る。ジュリウスの着ているウィア・レジアは破れたり、汚れており、被害の凄惨さを物語っている。

 

「……あ、あぁ。……大丈夫だゲホォッ!?」

 

 ジュリウスの盛大な吐血! ヒロは口をあんぐりと開けた!

 

「……ん。危機は去った。これにて一件落着」

 

 そんなヒロの横で、汗を拭うような仕草をしつつ晴れやかそうな表情のシアンがいた。どこが一件落着なのだと言いたげなヒロが口を開いた。

 

「い、いやシアンお前、ジュリウス隊長が……」

「……あいつは、良い奴だった。……合掌」

「……シアン。勝手に、殺さないでくれ……」

 

 まるで冥福でも祈るかのように目を瞑り、合掌するシアンを見て、ヒロは静かに、とても静かに激怒した。

 

(ちょっとでもシアンのことを信じかけた俺がバカだったよ!)

 

「ヒロ、回復錠改を、頼む……」

「あ、はい、どうぞ」

 

 ……こうして、ヒロとシアンとの奇妙な関係は始まった。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

「……ヒロ、ようやく来た」

「はいはい、遅くて悪かったな……それで、任務か?」

 

 急遽、シアンに呼び出されたヒロがラウンジへと向かうと、初恋ジュースを片手にのんびりと寛いでいたらしい彼女は、溜息と共に缶をテーブルに置いて、かたわらに置いてあったタブレットをヒロへと手渡した。

 

「……博士の依頼。本来なら突っぱねたいところ……だけど、やむを得ない事情ができた……くっ、これだから糸目キャラは……」

 

『良いのかな? この依頼を達成してくれなければ、自動販売機から全てのコレが消え去ってしまうことになる……それは、君の望むところではないだろう?』

 

 さり気なく、あの怪しいピンクの缶を人質に取ってニヤニヤと笑いを浮かべるサカキ博士を思い出すと、シアンは無性に腹が立ってきたようだ。目が細められ、かなり無表情さが際立っている。ヒロもなんとなく人物が分かってしまったようで、肩を竦めた。

 

「……シアンって、それ好きなのか?」

「……ん? これ?」

 

 まだ残りのあるらしいピンクの缶をぷらぷらしながら前に出した。ヒロが頷けば、シアンが、うむうむと、それはもう深く深く頷いて語り出した。

 

「……病みつきになる味わい。普段は害悪なアレが生み出した最高の嗜好品。ただし、お子ちゃまには分からない味。……ヒロが飲んでも、きっとそんなに美味しくない」

 

 無表情から口の端をニヤリとさせている。とても分かりやすい皮肉だった。

 

(この野郎……少なくとも俺はお前の17倍生きてるんだぞ? 何が〝お子ちゃま〟だよ。こんなもの、飲めるに決まってるだろ)

 

 言外に、お子ちゃまだとバカにされたヒロは、青筋をピキピキっと立てながらシアンを強く睨みつける。そして、何も言わずにズカズカと歩み寄り、テーブルに置かれた初恋ジュースをひったくって、残りをグビっと一気飲みしてしまった。それを見たシアンの顔が真っ青になる。

 

 「冗談だったのに……」と、後悔しながらに呟いたが、時すでに遅し。

 

(なんだ、これ……甘い? いや、苦くて酸っぱい? ……うっぷ)

 

 ヒロの顔が、真っ青と言うのさえ烏滸がましい、死にかけの老人みたいなそれになり……

 

(……あ、まずい……死ぬ……)

 

「……父さん、母さん、レナ……そっちに行くよ……」

 

 両親と、そして妹の名前を呟きながら、バタリと床に倒れ伏した。

 

 ラウンジが奇妙な空気に包まれる。そう、それはまるで、殺人現場に遭遇してしまったかのようなアトモスフィアを醸し出していて……

 

 特に、ギルバートやジュリウス……圧倒的な殺気を放つシエルに気圧されて……

 

「……わ、私のせいじゃ、ないもんっ……!」

 

 ぶくぶく口から泡を立て、白目を剥いて気絶しているヒロを放置して、涙目で訴えながらその場から逃げ出してしまった。

 

 ムツミちゃんが、そっと目を伏せた。まるで、「あれは悲しい事件だった……」みたいに。

 

「……隊長、彼女の討伐の許可を」

「し、シエル、落ち着け。ヒロはまだ生きて──」

「討伐の許可を」

「ま、待──」

「許可を」

「……はい」

 

 ジュリウスが真顔かつ、死んだ顔で頷いた。もう、シエルを止められる者は誰もいない。とても良い笑顔をしながら、しかし目は笑っていない恐ろしい表情のまま、彼女はラウンジを出ていく。

 

「……()ってきます」

 

 その後、支部内の何処からか、女の子の悲鳴が響き渡ってきたという……

 

 

 

 

「……ん。これで、依頼は達成された。……今日は付き合ってくれて、ありがとう」

 

 黎明の亡都にて、ヤクシャ・ラージャと、グボロ・グボロの討伐というサカキ博士からの依頼を達成したシアンとヒロ。二人はゲームで言うスタート地点の高台の崖に腰掛けて、並んで座っていた。

 

「……まあ、礼は受け取っておくよ」

「む……そういう、素直じゃないところ。……ユウを見習って欲しい」

「ユウって……神薙ユウのことか?」

 

 ピクリ、とシアンの視線がヒロへと向いた。

 

「……私自身、会ったことない。でも、シオの記憶を通して、よく知っている」

 

 ヒロには、その二人の人物のことはよく分からない。片や英雄として知られ、片やシアンよりも前に居たというヒト型アラガミ。そもそも、話題に出てくることも無かった。

 

「……彼は、この理不尽な世界で、必死に理不尽に抗おうと努力している、人類最強の神殺しにして、たとえ、アラガミの少女だろうと手を差し伸べる、最高のお人好し。……こんな評価が、妥当」

「最高のお人好し……?」

「……そう。お人好し」

 

 それは、彼女にとってはただ記憶にあるだけだろうが、ヒロには、何だか自分の事のように楽しそうに語る他の誰か(・・・・)と、重なって見えた。

 

「……じゃあ、帰ろう」

 

 

 

 

 

 

 

HINT
 シアンがスキル「必殺」「玄人」を習得しました   

 スキル「荒鉄之器」が習得可能になりました

 

 

 

 

 

 




デレステのPさんがいるなら、『あらかねの器』は分かる筈……分かるよね?

ロミオPの処遇について

  • いつも通り、逝くなぁぁぁ!される。
  • シアンちゃんに救出される。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。