神さまばっかの世紀末な世界に、俺が望むこと   作:赤サク冷奴

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蛇足の息抜き短編(1万7000文字)

時間軸は聖域編終了後だけど、色々混ざってるお祭り企画みたいなもの。頭を空っぽにしてお読み下さい。

※作中で出てくる〝死体斬り〟の表現は敢えてのもので、死体蹴りの誤字ではないです。ご迷惑をお掛けしました……



息抜き短編? 極東’s Halloween‼

 極東……かつての日本には、こんな文化があった。

 

 交差点とか、人気のある街を化け物の格好をした人々が練り歩くという、もはや何をやってるかすら怪しい祝祭が。

 

 

 

 

 ……その名を、ハロウィンと言った。

 

「あれ、えーっと、トリック・オア・トリートメントでしたっけ?」

「ベタな間違い方をするな……一体何を直す気だ」

 

 せっせとエントランスフロアの飾り付けをするソーマとアリサの会話を聞き流しつつ、()は事の発端が起こる先刻までの記憶を思い出していた。

 

『ん。極東が文化、ハロウィン。……まさか、知らないの?』

『外部居住区に住んでた俺は身近だったよ。なんかこう、アラガミだとか、なんか怖いやつの格好で色んな知り合いの家を駆け回ってお菓子を貰うっていうの。……あ、その反応だとやっぱりアリサもソーマも知らないな?』

『そんな文化があるとはどこかで聞いたような気がしますが……秋頃はアラガミも活発ですし、仕事ずくめだったので意識してなかったと思います』

『あぁ。まあ、今年はブラッドのお蔭で負担は軽くなったがな』

『それと、何故かどこかで見た事のあるような神機使ってるキグルミさんが猛威振るってるからなぁ。何故かいつも俺の任務についてくるから凄く怖いけど……』

 

 そんな感じで、人手も足りて余裕のある状況だったので、サカキ支部長のところに押しかけに行ってみると……

 

『ほぉ、ハロウィンかい。これは懐かしい……かつての極東の首都、東京ではさぞ賑わったそうだよ。参加したことは一度も無かったけどね?』

『ハロウィン、みんなでやれば中々楽しそうだと思いますよね。どうですかね、パーティーみたいにしてこのアナグラで開催するのって』

『ふむふむ……無論、それは許可しよう』

『おっ、本当ですか!』

『ただし、開催にあたって、私から一つ条件を出そう。それは────』

 

 

 

「──っていうか、なんで私がマータの仮装なんです!? 納得いきません!」

「そんな事を言うなら俺はスサノオだ。大して変わらん」

「変わりますって!」

 

 アリサが、傍目から見ても露出過多の青白いドレスに身を包んでいた。いつもは赤いのでとても新鮮なのだが、肝心のプリティヴィ・マータの顔面のお面を顔からズラして着けており、意地でも顔には着けようとしない。

 

 そしてソーマはとても禍々しい。いつもは小さくてよく分からないが、意外と怖いスサノオの顔面の被り物を被り、黒や金、紫で彩られた王者の如き仮装をしている。こちらはちゃんと着けているので割と乗り気なご様子。

 

 とまあ、二人の状態から察せられるように、サカキ博士はとんでもないことをしてくれやがったのだ。

 その内容はというと……

 

『実はアラガミの素材で作った着ぐるみやそれを模した服装を、リッカ君と一緒に製作している最中でね。折角だから、くじ引きで選んだアラガミの衣装を着てもらいたい、という訳さ!』

 

 強制的にエントランスに主要なメンバーを集め、サカキ博士の独断で誰がどのアラガミの服を着るのか決まったらしい。

 

 とうとうハロウィンパーティーも明日に控えており、飾り付けがてら試着も兼ねているのだ。

 

 そこに、重たそうな大きい箱を抱えたコウタがやって来た。

 コウタの服装はザ・和装だ。ヤクシャの仮装らしく、烏帽子のようなものを被り、ヤクシャの特徴的な下半身の色で出来た馬乗り袴らしきものを穿いている。

 

 要するに、コウタは和装イケメンに進化した訳だ。

 

「ソーマー、シアーン、追加の装飾作り終わったぞー!」

「案外遅かったな。どうした?」

「エミールとエリナの奴がまた揉めててさ、折角作った装飾が自分勝手にアレンジされてたんだよ……それで作り直したって訳。……はぁ、疲れた」

「……ん、コウタもお疲れ様」

 

 と思えば、手をダラーンと下げながら、トボトボとどこかへ向かって行ってしまった。

 お気の毒に……

 

「あ、シアンちゃん、そこ持っててくれますか?」

「ん……」

 

 現在、私たちエントランス組は、電光掲示板にオレンジの色紙で作った、パーティーとかでよく使う……鎖?みたいのをくっ付けている。

 

 こんなイベントは中学以来なものだから、とても久しぶりで大人気ないが内心ワクワクしてしまう。

 それになんと言っても、GEのキャラの仮装が見られるのである。これに興奮しない事が果たしてあるだろうか? ……いや、ない!

 

「よしっ……ここはこんな感じで良いですかね」

「後は聖域組がアレを持ってきたら、ソイツも飾り付けるがな」

 

 聖域組……それは、ヒロとジュリウス、ロミオが聖域にてとある物を持ち帰るためのグループだ。

 そろそろ帰ってきて良い頃合なのだが……

 

 エントランスの正面エレベーター……出撃ゲートを見ていると、その時ガチャンと扉が開かれた。

 

「あ、おーい! シアン! コレ見てくれよ!」

「……?」

 

 ちょうど帰ってきた聖域組のロミオが背中に背負った籠を指さしたので、脚立から飛び降りて中を覗いてみる。

 

「む……ジャック・オー・ランタン……いい感じ」

「だろだろ! 爺ちゃん達に教わって、自分でくり抜いて穴開けたんだ。中々上手く出来たと思わない?」

 

 ロミオの籠の中に入っているそれらは、笑っていたり泣いていたり、怒っていたりと表情がついている。

 

「まさか、野菜を使った飾り付けがこの世に存在するとは思わなかった。世界はやはり不思議に満ちているな……」

「いや、逆にジュリウスは世間に疎過ぎると思うけど」

「……そうだろうか?」

「ん……カレーの木は忘れられない」

「その事で弄るのは、もうやめてくれると有難い…………」

 

 そのイベントに立ち会った時、思わずブブッと失笑してしまうくらい。作中の名シーンだが、現実で見ると本当におかしくてたまらなかったなぁ、あれは。

 

「……ところで、それ、ジュリウスも……?」

 

 苦笑いするジュリウスの背中にも、籠がある。

 

「微力ながら、俺も手伝わせてもらった。ご祖父様によれば、できる限り人々が虞を抱く不気味さが好ましいと仰られた為、本格的かつ原典に忠実とされる北米地域でのハロウィンを参考に製作した。どうだろうか」

「ふむ……」

 

 籠の中を覗き、カボチャを一つ手に取る。

 ロミオのように感情の起伏は感じられないものの、とてもハロウィンらしい不気味さを醸し出している。

 これぞ正しく、ジャック・オー・ランタンだ。

 

「……合格」

「まさか、発案者のお墨付きを貰えるとは……苦労した甲斐があったというものだ」

 

 ジュリウスが実に良い笑顔を浮かべてらっしゃる。

 が、なんだかその表情がムカつくので一発殴りたいところだ。

 

 ……んで、ヒロさん? なんでこっちをジーッと見てくるんですかね?

 

「ん? ああ、成程。どうやら隊長は、シアンに自分のも見てほしいそうだ」

「……いや、ロミオ、ジュリウスって流れで来て、俺の作ったのを見ないってのは無いと思うんだ」

「確かに……じゃあ、拝見」

 

 ヒロの籠の中からカボチャをひとつ取り出してみる。しかし顔が見えなかったのでクルクル回して顔面を目の前に持って来て…………

 

「………………サ◯ズ?」

「えっ、◯ンズ?」

「サン◯……? なんだそれ。なんかの名前?」

 

 今から60年前のとあるゲームに出てくる、色んなとこで主人公の前に出てきたり、骸骨からビームとか連発する、ステータス最弱の癖に最強のヤバいガイコツさん。

 ヒロの作ったジャック・オー・ランタンは、そのサ◯ズというキャラクターに酷似していた。

 

 しかし、それをヒロが知っているはずも無い。あのゲーム好きなコウタがプレイしているゲームだって、モ◯ハンとかHor◯zonとかの狩りゲーだし。

 となると、このサ◯ズカボチャはヒロ自身の感性によって作られたということであり、それは実に驚嘆すべき才能だろう。

 

「……ん。この個性的なカボチャは、人々を恐怖で慄かせるに値する。よって合格」

「よしっ!」

 

 ヒロが小さくガッツポーズ。

 えっと……そんなに嬉しいのか、私にカボチャを認められるのって。

 

「……まあ、いい。早速、飾り付けをする。幾つか拝借させて」

「おーけー! 一人十五個入ってっから、沢山持って行っていいぜ!」

「……じゃあ、三人から一個ずつ」

 

 それぞれ三つをタワーみたいに置いて持つと、下の階に降りる。

 

 上のエントランスは私含めた三人が担当しているが、下の階のカウンター部分はまた別の人がやっているので、様子見のついでに飾ってもらおう。

 

「リンドウ、ユウ。追加」

「んお? ……なんじゃそりゃ、聖域の野菜か?」

 

 ハンニバル侵食種の仮装のリンドウが初めて見るらしいカボチャを小突いたりして、物珍しそうに手に取っている。

 

「これは……僕が作った禁忌種勢揃いセットに並びそうな不気味さだ……」

「いや、あれはアレでみんなのトラウマを引き起こしそうだしなぁ。アレとは比べもんにならねぇだろうよ……」

 

 ユウにカボチャタワーを渡してから、周りを見て進捗を確認する。

 

 フェンリルシンボルもハロウィン仕様にアレンジされ、カウンターの上にはやたらリアルに作られた蜘蛛や魔女の帽子を被ったキグルミのぬいぐるみなどの飾りで一杯になっている。

 とても順調そうで何よりだ。

 

「いやぁ、ここの所仕事でまともに遊べなかったから、物凄く楽しみだ。このイベントを考案してくれて本当にありがとうな、シアン」

「……礼には及ばない。私がやりたかっただけだから」

「そう言うなって! お前もソーマに似て無愛想だなぁ!」

「……おい、聞こえてるぞ」

「あ、ごめんごめん!」

 

 ソーマにあまり悪びれも無さそうな謝罪をすると、私の髪をわしゃわしゃと撫で始めた。

 

 ……いや、あのさぁ、もう女子大生の体つきなんだよ? いい加減撫でるのをいい加減やめても良いんじゃないユウくん? 

 上の階からアリサ睨んで来てるから。ほら早くやめなさい。

 

 念じてもこの鈍感には意味が無いらしい。取り敢えずべしっと手を払い除けた。

 

 ふふん。私にかかればユウの手など簡単に払い除けられるわ!

 

 謎の優越感に浸っていると、ピタリとユウの動きが止まった。

 

「……!? し、シアン……お前、まさか……」

「……?」

 

 何か驚愕しているご様子の極東最強さん。ジーッと見ていると、やがて膝からくずおれ、四つん這いになっておられた。

 

「……シアンが、反抗期になった!」

「「「「「!?」」」」」

 

 上階で楽しそうに話すアリサやジュリウス達が話をやめて階段に集結し、リンドウがやれやれだぜ、みたいに肩を竦めている。

 

 ……え、何このカオス。

 

「うえっ!? シアンちゃん反抗期になったの!?」

 

 と、ラウンジからいつの間にか来ていた霊代アキちゃんが。

 

「おい、シアンが反抗期ってマジか?」

 

 と、ラウンジからギルが顔を覗かせる。

 

「まさか、我らが麗しき花が棘を付け始め──グホァッ!」

「エミール黙ってて! それで、シアンが反抗期ってホント!?」

 

 と、いつもの凸凹コンビが。

 

「おおー、シアン、ついにハンコウキきたかー? そーなのかー。シオは月にいたからそんなのなかったぞ!」

「お前が反抗期になられたら手が付けられんからやめてくれ……」

 

 と、私の姉とソーマが。

 

「シアンが反抗期……!? 頼むから血の力は暴走させないでくれよ……ロミオを頼ることになっても知らないからな」

「お、おいヒロ! 『対話』は便利アイテムじゃないんだぞ!」

「いざとなれば、料理を振舞ってやろう。カレーなら落ち着いてくれるか……?」

 

 と、ヒロとロミオ、ジュリウスが脳死した会話を。

 

「ほう……反抗期か。懐かしいな。だけど、多分それは反抗期じゃないんじゃないか……? 普段の理知さを鑑みるに、単に少し拒否反応を起こしただけだと思うが」

「ええ。シアンが反抗期なんて信じられませんね……となると、やはり神薙さんが、シアンの癪に障る行動を取ったからでは?」

「うーん。人の心って複雑だもんねー……あ、それかシアンちゃんが、今まで溜め込んだストレスをドッカーン! って解放してるのかも!」

 

 とても冷静な分析ありがとう……な、リヴィとシエル。そしてわりと賢い回答をするナナ。

 

「反抗期、か……女性の内面の新しいムーブメントたりえるか?」

「兄さん……それってつまりロリコン宣言ですか? 流石に僕も引きますよ」

「ふっ、甘いな弟よ。見た目が美少女なら何も問題は無いだろ?」

「うわぁ……」

 

 と、ちょっと頭の悪いことを言っているハルさんと、完全に汚物を見るような目をするテルオミさん。

 

「へぇ、シアンさんが反抗期か……あんなに素直なシアンさんが……想像できねぇ」

「クククッ、そりゃタイチお前、あの鈍感さトップレベルのユウさんが女性関係の問題を起こさなねぇ訳がねぇだろ」

「ヒューガ、タイチ、お前らな……あの子、俺と出会った時はまだ生まれて数ヶ月も経ってなかったんだ。反抗期なんて誰もが通らなきゃならない道に決まってるだろ」

 

 と、なんか違うような発言をするソウゴ隊長率いる第八部隊の方々。

 

「おぉっ、それは実に華麗だねぇ!」

 

 とか意味不明なことを言うオウガテイルの仮装をしたエリック……エリック?

 

 他にも、防衛班とそれに混じるカノンなどもおり、すっかりエントランスは人垣によって囲まれていた。

 

 ……え、何? どういう反応すればいいの? 四つん這いのユウを足蹴にでもすればいいわけ?

 

 そんなことをしたら般若の顔で近付いてくるアリサが目に浮かびそうなので、取り敢えず、このカオスな空間をどうにかしようと、私はあの手この手で事情を説明したのだった────

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 太陽がぐるりと一回転して、今日……10月31日。

 あ、正しくは地球が回っているのだが、それはさておき。

 

「「「「「ハッピーハロウィン!!」」」」」

「ん。ハッピーハロウィン」

 

 ラウンジでは、ハロウィンパーティーを催されていた。

 

 黒やオレンジや紫色で埋め尽くされ、ラウンジのガラスには日光が入ってこないように黒のカーテンがかかっている。

 

 見回してみると、いつものビリヤード台に黒い布が掛けられて、その上に禁忌種アラガミがてんこ盛りの恐ろしい飾り付けがあった。

 あれは……多分ユウが言っていた奴だろう。生首みたいになっていて実に怖い。

 

 その仮装はみんな実に様々で、とても面白い。

 

 例を挙げると、シエルだ。

 彼女はキュウビの仮装をしているが、これが良く似合いすぎている。頭には狐耳、キュウビのお面、金色に白と紫が散りばめられた着物、腰からはモフモフの尻尾が生えていて、狐っ娘になりきっていた。しかも謎技術によって、ピクピクと生きているかのように耳と尻尾が動くので、可愛いったらありゃしない。

 

 事実、ヒロがシエルをチラチラと見て顔を赤くしている。そしたら、視線が合ったからか、二人がバッと目を逸らした。

 なんだよこいつら、イチャつきやがって……私は独身だというのに生意気だ。爆発しろ!

 

「え、えっと、ユウ……その仮装、とても似合ってます……」

「……あ、ああっ! アリサだって、その…………可愛いと思う」

「……!? ほ、本当ですか!」

 

 まーたイチャついてるよ……

 

 何なの? 当てつけなの? 早くくっ付けって急かした独り身の私への当てつけなの?

 

「おっ、リヴィじゃん。それクロムガウェイン?」

「ああ……なんだか、フェルドマン局長が着たら似合いそうな双腕がぶら下がっているだろう?」

「うーん、俺的にはリヴィも十分似合ってると思うけどなぁ。可愛いし」

「……かわ、いい……だと……? ……私が?」

「えっ…………俺、何か間違えた……?」

 

 あっちにも鈍感系主人公が…………

 

 もうやだこのハロウィンパーティー……そこかしこにリア充がいるよ……

 

 溜息を漏らして肩をすくめると、背後から何かがぶつかって首に手を回して抱き着かれた。

 そして、ぷらーんと私の首にぶら下がってきた。

 

 となると、これは一人しかいないな……

 

「……シオ、どうしたの」

「んーと、シアン、ヒマそうだったからな! シオが遊びにきてやった!」

「……といっても、これから色々始まるけど」

「それと、オソロイだから、一緒のほうがたのしいぞ!」

 

 お揃い、というのは服装の話だ。

 

 お気に入りのドレスver.ハロウィンと名付けられたこの衣装は、名の通りリッカが作ったシオ専用のお気に入りのドレスのハロウィン仕様だ。白から変わって黒が基調となり、緑の部分はオレンジや紫色に、後ろの羽根はコウモリのような翼にかわっている。極めつけに魔女のようなとんがり帽子を頭に着ける。

 

 まあ、魔女の帽子はわりと邪魔なので、私もシオも外してしまっているが。

 

「……そういうもの?」

「むー、シアンはビミョーなところで感性がちがう……女の子のタシナミ、だぞ!」

「……そっか」

 

 と言われても、私はヒト型アラガミになって一年も経っていない。

 

 目まぐるしく移ろいゆく時季になんて目もくれず、マルドゥーク倒して終末捕食を相殺して螺旋の樹を作り上げ、キュウビを倒して螺旋の樹がぶっこわれ、ラスボス倒して聖域でD◯SH村をやっているが、それでもまだ一年は経っていないのだ。

 

「……相変わらず仲が良いな。お前ら」

「おおっ、ソーマ、スサノオに見えるぞ! イタダキマスしていいか!?」

「お前はアホか……」

 

 ソーマのスサノオ姿は、前回と違って腕の部分にスサノオの神機の飾りがある。

 

 全体像を見てみると、その様相はまるでバ◯タン星人。律儀に神機はパクパク出来るように作られているらしい。

 

「……ソーマ、腕を曲げながら上にして、神機をパクパク動かして」

「あ? ……こうか?」

 

 スサノオの被り物が星人とは比較にならないほど怖いが、間違いない、こいつはバル◯ン星人だ。

 これを作ったサカキ博士のセンスは遅れているのかなんなのか……

 

「……ああ、分かった……シアン、毎回思うんだが、お前の思考は旧時代的過ぎるぞ」

「ん。博士にも言える」

「一世紀も前のなんざまともに知ってる奴の方が少ねぇのに……」

 

 奥でわちゃわちゃと楽しそうにやってるアマテラスの仮装をしたアキと、ヤクシャの仮装のコウタを羨ましげに見てると、キーンという音がスピーカーから鳴った。

 

 視線を横にずらすと、サカキ博士がマイクを持って立っていた。

 一体何を話すつもりなのか……

 

「あー、あー。全員聞こえているね? 今からそれぞれに、これから始まるゲームの為にお菓子を渡そう……と思っていたんだが、問題が発生してね」

「問題……ですか?」

 

 全員の疑問を代弁したヒロの呟きに、サカキはふむ、と一つ頷いた。

 

「取り寄せたお菓子なんだが、つい先程、その積荷を運んでいたヘリが高高度で墜落してね。パイロットは脱出して無事だったけれども、旧市街地にお菓子が散乱してしまったんだ。今しがた、その任務を発行した。……事態は急を要する。服は着替えずに即時向かってもらいたい」

「えっ、服は着替えずに? 僕はこのヴァジュラで行くんですか?」

「ああ。そもそも、仮装は全てオラクル細胞で作られていて、そこらのアラガミの攻撃をものともしない耐久性を誇る。一応戦闘用でもあるから、そのまま行ってくれ。回収しきれるだけ回収すれば、それだけ色々できるのさ。よろしく頼んだよ!」

 

 ええぇ……というユウの困惑に、全員がそれに同意するかのように物憂げな表情をしている。

 

「さぁ、僕の騎士道精神をもって闇の眷属に奪われし菓子を回収に────うん? どうしたみんな、任務を受けないのか?」

 

 ……あ、エミールはなんか凄いやる気だ。

 

 サカキめ、騎士道騎士道煩いやつにボルグ・カムランの仮装なんか着させるからそんな事になるんだ。

 

「いやなエミール……俺とかマシだけど……」

「私とか、ちょっとヒラヒラして戦いにくいんだよね……なんか色々見えちゃいそうだし」

「って、私着ぐるみなんだけど! ちょっと重いんだけどコレ!」

 

 シエルもアリサも大惨事になること間違いなし。

 エリナとかの着ぐるみ勢は重いからか、凄いげっそりした様子だ。表情は分からないが。

 

「さぁ、行くぞ!」

 

 だから、そのハイテンションを抑えてくれエミール。

 みんなついてけてないから!

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 ──ミッション、モリガンの晩秋祭

 

 フィールド、贖罪の街

 

 出現アラガミ、荷電性ボルグ・カムラン、サリエル、カバラ・カバラ、テスカトリポカ、ハガンコンゴウ、ヤクシャ、セクメト、ヤクシャ・ラージャ、ラセツコンゴウ、オウガテイル、ザイゴート、ドレッドパイク

 

 アラガミからしてアホみたいに面倒なミッションだが、今回の目的はあくまでもお菓子の回収。アラガミの討伐はお菓子の完全回収後にする予定らしい。

 

「……こちらシアン、ポイントDにて多数の菓子を発見。しかし、テスカトリポカ一体居て邪魔」

『はいはーい! じゃあ私が誘引で引きつけまーす!』

『こちらソーマ、カバラ・カバラと接敵した。ここら一帯に感応波の影響で活性化が起きるぞ』

『おおっ、うまそうだな! たべていいか?』

『こちらアリサ。ポイントPに菓子があります! 入り切りそうにないので誰か来てください!』

『こちらエリナ! なんかポイントKでマスクドオーガ?さんがオウガテイルに群れられてます!』

『うわぁぁぁっ! く、来るなぁっ! あっ、エリナッ、早くお兄ちゃんを助けてぇ!』

 

 通信がうるせぇ……私だけ通信機切ってやろうか。

 

「シアンちゃん来たよー!」

「ん、待ってた」

 

 コンゴウから作られたと思われる祭りの法被の仮装のナナと合流すると、その場で血の力を使ってもらう。

 

「おーにさんこーちら! てーのなーるほうへ!」

 

 ナナがテスカトリポカを別のポイントに連れていってくれてるうちに、オラクル細胞の頑丈な袋にお菓子をしまっていく。

 

 高高度から落下したのにここまで無傷なお菓子の耐久性にはビックリだ。

 

『カムラン多いなあー、めんどくさいよぉコウター!』

『とか言いながらもう四体狩ってるアキさんマジパねぇっす……』

『リンドウさーん! ラージャとヤクシャの群れ倒し終えたので来てください!』

『おっ、ユノ手作りのお菓子って書いてありますよ、ユウさん』

『やったなヒロ! ユノさんの菓子なら値千金じゃないか!』

『お前ら三人な……頼むから自重してくれよ? まだ作戦開始から2分しか経ってないって知ってるか?』

 

 化け物共め……だが、ここにも化け物がいることをお忘れなきよう。

 

『シアンさん! シアンさんの周囲に複数の大型アラガミが……!』

「ん。もう気付いている」

 

 さっきから、偏食場がやたらと煩い。

 数は、音の総数からおよそ五体。強さはそれなり。

 

 回収したお菓子を少し離れたところへ置いてから戻ると、自分へと急速に接近する敵を感知した。

 

「……お出ましか」

「クアアアアアン!!」

 

 いきなり現れたクソメトが初手から滑空攻撃をしてきたので、右手の白い神機を、ただ上段に振り下ろす。

 

 ……そうすれば、あら不思議。セクメトが半分に開けましたとさ。

 

 そして背後から偏食場が近くなったので、前方に回転しつつ跳ぶと、左手の神機を捕食形態にして、空中に真っ逆さまでアラガミ──ヤクシャラージャを食らう。

 

『華麗だ、華麗過ぎるっ!』

『……カレー?』

『ああ、ウチの妹がこんなにも華麗さが増しているとは……』

『人の、カレーさ。……まさか、人にはカレーの要素が存在するとでも?』

『ん? 君はジュリウスくんかい? そうだとも、人は得てして華麗さを兼ね備えるのさ』

『カレーさ……そうか! 俺に足りなかったのは、これだったのか……』

『分かってくれたかい? これで君も一層華麗になれるさ!』

『マスク・ド・オーガ……貴方とは気が合いそうだ』

『ならば、我が第二の盟友とな──『オーガさん! 上!』──えっ、ぐわぁぁァァァァ────!!』

 

 ──ブチッ。

 

 私は速攻無線を切った。

 こんなもんやってられるか、ボケが。

 

 怒りのままに、既に死んだヤクシャ・ラージャのコアを貪って吸収すると、私の身体がバースト状態に移行するのを感じた。

 あぁ……イラつく。アラガミに女の子の日なんてないのにイライラするなぁ。

 

 ラージャを左右の神機で死体斬りして、ストレス発散しつつオラクルを貯蔵していると、偏食場が更に近づいてきた。

 

 残りは三体。ラセツコンゴウ二体とハガンコンゴウ。

 

 一番最初にやってきたハガンコンゴウを、ラージャのアラガミバレットで牽制して、小刻みなステップで惑わせて雷球を躱し、弱点の顔面に神機を突き刺し、捕食形態にして顔ごと食いちぎる。

 さらに、その抉りとった所にもう片方の神機の捕食形態で肉を食み、コアを奪取して終わり。

 

 と、気を抜いたところにラセツコンゴウの衝撃波が二発飛んでくる。神機で軽くジャストガードして呑気に歩いてくる二体に向かって、銃形態、アサルトがゲームとは比べ物にならない速さの属性連射弾を撒き散らす。

 当然、そんなものを受けたラセツ二体は怯み、尻もちを着いた。そこへすかさず二刀のロングブレードによる水平切り。連結している神機部を本体から切り落とし、それでまたも怯んだ好きに尻尾を切り刻む。

 

「「エアアオオオォォォゥ!!」」

「……これでとどめ」

 

 一体ずつ背中をザクっと切り裂き、神機でコアをもぎ取る。

 

 ……ふぅ。こんなもんか。

 

 死体斬りも欠かさずやってオラクルを搾取していると、ナナが奥から手を振ってきている。

 

「あ、おーい、シアンちゃーん! テスカトリポカ倒してきたよー!」

「……ん。感謝する。ありがとう」

「えへへ、お礼には及ばないよ〜」

 

 何気にあの短時間でテスカトリポカを倒してきたというのだから、ナナも十分に化け物格に到達していると言ってもいいかもしれない。

 

 さて、もう何分か経ったが、どうなっているだろう。

 仕方なく無線をつけると、様々な声が聞こえてくる。

 

『こ、こちらカノンです! ポイントLからSまで全てのお菓子を回収し終えました!』

『こちらリヴィ、ポイントJK、及びTからXまでに菓子を視認できず。回収は完了したものと考える』

 

 粗方回収できた……という認識でいいのだろうか。

 

『こちら防衛班! YからH3まででお菓子は発見出来なかった!』

『こちら、第八部隊。その他のポイントは墜落地点から遠いからか菓子は無かった。探索範囲を中央に絞ろうと思う』

 

 他の報告を聞く限り、もう大丈夫そうかもしれない。

 

 菓子の袋を片手にぶら下げると、無線のボタンを押す。

 

「こちらシアン、ポイントDの菓子の山を回収した。恐らくはもう菓子は残っていないと見ていい……?」

『こちらユウだ。一通り見回ってみたけど、もう菓子は無いと思っていいと思う。各自、ポイントDで帰投準備をしよう』

「……らじゃー」

 

 ……という訳でミッション、モリガンの晩秋祭……終了。

 

 時間、5分23秒

 主な負傷者、マスク・ド・オウガのみ

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 その後、ハロウィンパーティーは無事に開催された。

 

 ムツミちゃんが、ジャック・オー・ランタンを作る際にくり抜いた中身を使って、パンプキンパイや和風なかぼちゃの煮物を作っていたり、どれだけ仮装したアラガミになりきれるか選手権、途中から参加してきたユノによるゲリラコンサート、外部居住区の子供たちにトリックオアトリートされに行く、聖域で菓子の奪い合いガチバトル……

 

 ぬくぬくとハロウィンという休日を謳歌しながら、ハルさんと三組の恋路を爆発──ではなく、陰ながら応援するのも、ハロウィンデート(無自覚)をしているヒロに、「私のこと、捨てたの……?」と言ってシエルとの修羅場を作り出すのもまた楽しかった。

 

 晩ご飯は、聖域で採れた秋野菜のカレー。ご飯がカボチャの色で、今日も上田された負傷兵の上田さんも、「華麗だっ、華麗過ぎるっ!」と水をがぶ飲みしながら舌鼓を打ってっているほどの美味しさらしい。

 いや実際、とても美味しかった。辛いものが好きな私にとっては特に。

 

 そして、そんなパーティーも終わりを告げ始め、現在23時。

 

「えー、この度は、ハロウィンパーティーを企画してくれたシアン、計画立て、実行班のロミオとその他多数協力者の皆様に、代表して俺……第一部隊隊長が謝辞を述べさせて頂きます。ありがとうございました!」

 

 コウタが頭を下げると共に、ラウンジに集まった全神機使いが盛大な拍手を送った。

 

「そんな訳で、ハロウィンパーティー閉廷! 解散っ!」

 

 いや、閉廷はちゃうやろ。

 

 

 

 

 しかし、どんなイベントにも必ずある、とあるものが私を待ち受けていた。

 

「おいお前ら! 二次会やるぞ、二次会!」

 

 二次会。特にリンドウが絡むとそれはもうえげつないことになる。

 

 真夜中のラウンジに集まる人々。フェンリルの法において、成人は18、酒は18、タバコは20歳から。

 なので、わりと色々な人がいる。

 

「ユウ〜! もっと撫でて〜!」

「いやアリサっ、ち、近いっ! 近いから!」

「えー! ユウひどい! じゃあ、ギューってして!」

「落ち着け、落ち着くんだ神薙ユウ……こんな時は素数を数えろってシアンが言ってたじゃないか──」

「ねーえー! はやくー!」

「わわ、わかったから! ほら、これでいいか?」

「えへへ〜、ユウ大好き!」

「──ハッ!? い、いけない、煩悩に負けるっ……!」

 

 成人したばかりのバカップル……ではなく、付き合ってすらいないこの二人組の処遇はどうしてくれようか。

 

 アリサがお酒で幼児退行でも起こしているのか。輝かしい笑顔でユウにベッタリと甘えている。

 幸いにもGE2の公式カップルはどちらも18歳では無いので問題無いが、コイツらが居るだけで、苦いのが苦手な私でさえブラックコーヒーが飲めそうだ。

 

「聞いてくれよアキ、俺もう第一部隊の隊長やって一年くらい経つのに、わりと無碍な扱いされてんだけど……どうしてなんだろうなぁ」

「んー、コウタの欠点……あっ、あれでしょ! ネーミングセンス!」

「それは関係ねぇだろ!?」

 

 コウタとアキは常識的な飲みニケーションをしている。

 愚痴を聞きあって楽しくやってこその飲み会だ。まあ、そんな日本の飲み会の現実は非情だが、あそこのイチャイチャしてるカップルは許さない。

 

 あれは飲みニケーションではない、ただの砂糖製造機だ。

 

 こう言う会で取り仕切るはずのリンドウさんはここぞとばかりに酒を飲みまくって既に泥酔してらっしゃるが……二次会は始まって一時間ほどなので、どれくらいの量飲んだかが目に見える。

 

 ソーマは一人、奥の席ボッチ酒をしているらしい。

 

 ……かぁ〜! やってらんねぇ!

 

 アラガミになってお酒は飲んだことないが、どうせアルコールなんて捕食されるんだろう。

 

 それなら、大量に届いた配給のビール全部飲んでやらぁ!

 

 

──────────────────────

sideソーマ

 

 

 ウチの何考えてるかよく分からん妹が、ハロウィンパーティーを開催するとか言って、サカキのおっさんまで動員したやべぇ規模のを計画しだした。

 

 わりと最近、極東支部の屋上でロミオがイベントをやったはずだが、気が早い。

 加えてシオも賛同し始めたので、これはもう手が付けられないと諦めて、普通に楽しむことにした。

 

 ……しかし当日、楽しむことにしたのに、早速任務が来るとは思わなかった。

 

 それも珍しい回収系の任務だ。大型アラガミの大群が向かってきているとのことで、死者が出ることも覚悟したが、幸い負傷者が一人のみだった。

 原因は間違いなくあの元隊長と副隊長、ブラッドの隊長そしてシアンだろう。

 

 シオもシアンとのオラクル細胞の学習を共有を行っている為か、ショートブレードの二刀流で戦場を駆け回っていた。

 極東にこれ以上バケモンみたいな戦力が集まると、本部の奴等が動き出してきそうだ……

 

「ソーマ」

「……シアンか」

 

 片手に缶ビールを持っているのを見るに、酒でも飲んだのか。

 あいつは静かに俺の隣の席に座って、急に喋りだした。

 

「私さ。もう半年以上もここにいるんだよね」

「そうだな。お蔭さまで退屈しなかったな、ここん所は」

「でしょ? 私、おっちょこちょいだし、なんか天然っぽいとか言われてるし」

「天然なのには違いないな」

「そうかなぁ。でも、昔の感性もわりと無くなってるし、わりと困ってるのも事実だから反論出来ないか……」

 

 表面では平静を保っているが、内心では驚いた。

 

 あのシアンが、喜怒哀楽をここまでハッキリと表して、喋り方も最低限にまで端折るはずが、口がよく回っている。

 

 アラガミの特性的に、酔いはしないはずだが……人体に限りなく近いヒト型アラガミ故か。

 肝機能についても、協力してその部分のオラクル細胞を採取した方がいいかもしれない。

 

 ……いや、それはまた後で考えるとして、だ。

 

「ねー、ソーマ。アラガミってさ、子供作れるのかな」

「……………は?」

 

 いきなりこいつは何を言いやがる……

 

 アラガミに生殖機能は基本存在しない。

 その例外はヒト型アラガミのみだが、ヒト型アラガミはあくまで生殖に必要な器官を持ち合わせているだけで、本来の役割を果たしているか怪しい。だが、オラクル細胞の生殖細胞が見つかれば、それは大論文になるだろう。

 

「女の子の日とか、まだ来たことないし。TSなのにそれが無いってダメだと思わない?」

「……知らん」

 

 そもそも、TSとかいう謎の単語が出てきてやがる……一体何の略語だ。

 

「でも私さぁ、意外とソーマのこと好きなんだよね」

「ああ、そうか……………………いやおい、待て、今なんつった」

 

 聞き間違いじゃなけりゃ、話の流れからして想像がつくが……

 

「もちろん、LIKEじゃなくてLOVEでね。ソーマかっこいいし、あんまり兄妹って実感ないし」

 

 聞き間違いとかいう一縷の希望に縋ってはみたが、コイツは悉く俺の予想を越えていく……

 

 どうしてだ……いや、俺も兄妹というより、頼れる相棒とは思っていたが、それこそ恋愛感情を向けられるようなことは何もしていないぞ……?

 

「だから、少し腕貸して?」

「理由の説明になってないぞ……」

 

 やはり、酔っている。こうやって酔った勢いで告白されるのも困りものだが、これがあといつまで続くのか……

 

 仕方なく、ほれと腕を差し出してやる。

 特に面白味もない単なる腕だが、何をするというのか──

 

「こうするの」

「──んなっ!?」

 

 こ、こいつ……!? 腕を胸の部分で挟みやがった!

 

 恋愛には無関心だが、俺とて男だ。生理的な反応から逃れる術は無い。

 ……いや、シアンだから尚更というのもあるが……って、そうじゃねぇだろ……!

 

 クソっ、クレイドルの隊服を着てるから全然分からなかったが、意外にありやがる……くっ、面倒な!

 

 神機使いとしての膂力を全開にして抜こうとしてみたが、まるでビクともしねぇ。しかも抱き枕みたいにして、これが本当に抜けない……

 

 …………。

 

 

 …………………。

 

 

 ………………………………もういいか、諦めよう。

 

 

 この感触を感じているだけで複雑な気持ちにはなるが、これ以上何かをやっても徒労に終わるだろう。

 

「もう好きにしろ……」

「じゃあ、好きにさせてもらう」

 

 はっ!? しまった、今のは失言だったか……!?

 

 しかし、それに気付いた時には既に遅かった。俺の腕から離れると、上半身に手を回されていて、身動きが取れない。

 前面から直接的に触れてしまう柔らかい感触に、悪態を口にしながら意識しないようにする。

 

 ……その結果、俺の顔面に近付くそれに認識が遅れてしまった。

 

 

「んぐっ!?」

「ん……」

 

 

 ──俺の初めてのキスは、酒の味がした。

 

 

 人生で、まともに愛し愛された経験の無い俺にこの刺激は強過ぎたのだ。

 思考力が奪われ、俗に言う、頭の中が真っ白になる、という状況に陥っていた。

 

 …………お、お、落ち着け! 考える事を止めるな!

 

 今も、二つの大きなアメジスト色の瞳が、俺を真っ直ぐ見てくる。頬はさらに赤く火照っており、正直見ているだけでも、男としての理性っつうのがやられそうになる……

 

 この、口に触れられているそれを退けないと、かなり拙いのだ──

 

「ねえソーマ、口を開けて?」

「ぅぁ……?」

 

 何かの魔法でも掛けられたかのように、俺の知らぬ間に、口が勝手に開いてしまった。

 

 マズい……! そう感覚が告げた瞬間、俺の口の中にそれは強引に捩じ込まれる。

 

 口内をうごめくそれは、俺の口という口全てを舐め回すように這っていく。

 未知の感覚に、されるがままだ。

 

 く、くっそぉ、何か手は……手は無いのか……!?

 

 こうしている間にも、俺の理性は失われていく。酸素もまともに供給出来ていないのもあり、感覚に酔いしれ、既に頭は段々と考える事を放棄し始めているらしい……

 

 取り敢えず、この口をどうにかして会話を成立させねぇと……!

 

 焦る俺に、シアンは余裕の笑みを浮かべると、俺から口を離した。

 酸素が急激に肺に送られると、心做しか思考も明瞭となっている。

 

「っはぁ、はぁ……シアン、もう一度よく、考え直せ……」

「なにを?」

 

 シアンの事は嫌いでは無くて、割かし好きな方ではあるってのは自分がよく分かってる。

 分かってるが……その、だな。

 

「お前……俺たちは仮にも兄妹として振舞っているんだ。そこんとこ、倫理観的にマズいだろうが」

「……? 別に構わないと思うけど。古来より極東には、お兄ちゃんで血が繋がっていようが、愛があれば関係ないという価値観が広く浸透していたんだよね。だから倫理的に問題は無いよ、お兄ちゃん?」

 

 なんだそのクソみてぇな価値観は……!? だとしたら、極東の日本人は頭のトチ狂った奴等の集団になっているだろうが!

 

「じゃあ、これならどうだっ! 俺とお前は、戸籍上じゃ父娘の関係だ。流石に兄や妹にまで手を出す鬼畜な日本人と言えど、父と娘じゃ訳が──」

「? 問題無いけど。古来より極東には、近親愛という価値観があって、これは、たとえ兄と妹だろうが、父と娘だろうが、母と息子だろうが、父と息子だろうが愛さえあれば関係ナッシング。つまり、日本人の業は深いという訳です」

「極東は無敵かっ!」

 

 クソっ、何なんだよ極東はっ! 20年もここで暮らしてるが、倫理観もへったくれもねぇじゃねぇか!

 カオスか!? いや、そもそも、ウチの妹にこの極東の価値観を教えたクソったれは誰だ!?

 

「そういう訳なので、続き、やろ?」

「何がそういう訳だ……」

 

 すっかり脱力しちまった体に、シアンが再度抱き着いてくる。

 

「……ソーマ、私じゃダメなの?」

 

 顔は見えない。耳元で、ただ不安そうに小さく声が囁かれる。

 

 俺と一緒に居るとき、シアンは全くそんな素振りをしていなかった。たまに無口な喋り方じゃなくなる時もあったが……何処に好きになる要素があったのか。

 

「……お前は、それでいいのか?」

「……うん」

 

 ……俺は、こういう事の経験なんてねぇ。愛するという感情なんか持ち合わせているかも分からない。

 だがシアンのことは、こうして意識して自分と語り合ってみれば、自ずと分かってくるような気がしてならんな……

 

『いいんじゃないかな? ソーマのやりたいようにやればいい。僕はそれを見守るだけ。まあ、僕としてもシアンは仲間だし、彼女と一緒なら、不安もない』

 

 ……フッ。お前までそう太鼓判を押すか。

 

『まあね。だから後はソーマの好きなように。僕はもう、休むからね────』

 

 再び、俺の中のアラガミは眠りに入ったらしい。

 

 ……久しぶりに会話したそいつにまで背中を押されちまったら、後はやることは決まっている。

 

 俺に顔を見せずに、俺の肩に頭を乗せているシアンを引き離してやる。

 

 顔を俯けさせたままのこいつに、分からせてやんなねぇとな……

 

「……シアン」

「うっ…………」

 

 こんな事をするのは柄じゃあないが……こうする他あるまい。

 

 片手でシアンの顎を持ち、俺の方へと引き寄せさせる。

 

 逸らされていた視線が交差した……その一瞬を狙って、俺の方から顔を近づけてやり……

 

「んんっ!?」

 

 その口に、10秒くらいの、長いようで短いキスをした。

 

 その間に、目まぐるしく変化する表情。

 狼狽えたように彷徨わせる視線や、驚きに満ちたその顔を真っ赤に染め上げる様子というのは、見ていて中々にそそるものがあるな……

 

「え……?」

「お前への答えは、これで十分だろう」

 

 我ながら、あのエリックみたいにキザったらしい言い回しだ……だが、妙に板につくのは何故だろうな。

 

 さて、シアンの反応は如何なもんだろうか……? そう見ていると、また顔を俯けた。

 どうしたのか、全く分からない。訝しげに顔を覗くと……

 

 

「……………ふふっ」

 

 

 髪で隠れていた表情が、よく分かる。

 

 

「……ふふふふっ!」

 

 

 そして、同時に俺は悟り、後悔した。

 

 

「くふふふふっ!! …………もう、絶対離さないからね」

 

 

 

 

 

 

 

 ああ……これは失言だったな、と。

 

「強制活性化……」

 

 シアンの体がバースト状態になって、俺の体を軽々と持ち上げ、肩で担ぎあげられる。そして、目にも止まらぬスピードでラウンジを出て、エレベーターに入ると天板を取って、ベテラン区画のシアンの部屋へと連れ込まれる。

 

 ベッドへ二人で崩れ落ちて、シアンが俺の上で馬乗りになる。

 

 ……幾ら何でも気が早すぎるが、最初にお前に主導権を取られたとなっちゃ一生モンの黒歴史だ。それは回避させてもらおう。

 

 懐のポケットから注射器を取り出して、腕にぶっ刺して注入する。

 ……強制解放剤、とか言われている奴だ。体力も奪われるので、ついでに回復錠改を噛み砕く。

 

 強制的にバースト状態になり、力が湧き出してくる……後はこっちのもんだ。

 

「あ……!? きゃっ──!」

 

 ひっくり返して、俺が上から見下ろす形となると、シアンが急に体を縮こめて、これから食べられる草食獣みたいにプルプルとし始めやがった。さっきまでの威勢は完全に消え失せたのか……まあ、こっちの方が俺も好きだがな。

 

「ハッ、ざまあねぇな。悪りぃが、先に俺から行かせてもらうぞ」

 

 シアンの服のボタンを取りながら、俺とシアンは身体を重ねた────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

「あああああああぁぁぁぁぁ────っ!? 馬鹿っ、私の馬鹿っ! 何勝手に自分でも気づいてすらいなかった恋心暴露してんの!? 馬鹿なの? 死ぬの? アホなの!? なんでヤるとこまでヤってんの!? もう無口クールぶってられないんだけど!?」

 

 とか言うアラガミの少女がいたり、

 

「……やっちまった」

 

 と、酒の勢いでやってしまい、自責の念に駆られる神機使いがいたとかいなかったとか……

 

 

 

 

 

 




「華麗だ!」
「カレーです」

これはもう書かなきゃと思ったエリックとジュリウスの掛け合い。
お祭り企画だからね、仕方ないね。

恋愛要素未定だけど、あった方がいいかなぁ

  • 恋愛要素アリ(=精神的BLとなる)
  • (恋愛要素は)ないです
  • その他(√ラケル……なんつって)
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