神さまばっかの世紀末な世界に、俺が望むこと   作:赤サク冷奴

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ナデポ……ナデポ級ナデナデいいな。全力で妹になりたいです(え


ソーマのナデナデはナデポ級

 

side──

 

 

 自分がどうなっているのかさえもよく分からないまま、僕はまた小学校に通っていた。

 

 両親の居所を伯父伯母に問い詰めても、困ったように眉を寄せて、「ちょっと遠いところに居るんだ」とだけしか言わなかった。

 

 あの口ぶりからして、僕の知らぬ間に、もうこの世から居なくなったんだ。

 僕に言えないような事情を含んで。

 

 不思議と心にストンと落ちて、涙は流れなかった。

 悲しくはあったけど、ただ、分かりきった事実を再確認しただけみたいに、スッキリとしてしまった。

 

 だからと言っても、こうも自分を取り囲む何もかもが変わってしまっていて、現実味があるかと言われたら首を振っただろう。

 まだ、半ば夢見心地だったんだ。

 

「あ、ようやく帰ってきた! もー、遅いよ!」

 

 家に駆け込んできた幼馴染が、笑顔ながらそう言ってきた。

 

あの子(・・・)とも仲良くしたかったけど、犬夜の方が私は好きだよ〜」

「なに言ってるんだ……あと暑苦しい。はなれてよ」

「んもぉ、犬夜のイ・ケ・ズ♪ そんなこと言っても、カラダは正直なんだからぁ〜」

「……見ないうちに愛惟が変態オヤジになってしまった」

 

 幼馴染……愛惟という名前の彼女は、多少変化こそあれど昔と変わらず、今でもゲームを持ち込んできて一緒にやろうと誘ってくるし、学校でも僕を引っ張ってくれた。

 

「ほら、そこはナイフ! 銃弾バカスカ使ってたらすぐ無くなるんだよ!」

「なんで僕はバ◯オやらされてんの……? モ◯ハンやろうよ……」

「やれやれ……ホラーの楽しみが分かってないねぇー。そこにあるかまい◯ちの夜でも観れば変わるかなぁ」

「の、ノベルゲーやる小学生って……」

「えー、友達には好評だったよ? 『犯人はヤスだ!』って」

「それエニックスだしジャンルが違うでしょうが……ってやばいリッカー!?」

「おっ、頑張れっ♪ 頑張れっ♪」

 

 愛惟だけが、多分、何もかも変わった中で唯一、僕が知っているままだった。

 それが、僕にとっての救いだったから、僕も愛惟を支えたいと思ったんだろう。

 

 月日が経って、小学校高学年の頃。愛惟でも面白いと思ってくれそうなゲームを探していると、()はそれと出会った。

 

『GOD EATER BURST』

 

 BURSTとあったから、モン◯ンで言うGに相当するのだろうと勝手に決めつけて買ったのだが、これが予想以上に面白かった。

 

『……ようこそ、このクソッタレな職場へ……』

 

『俺もテメェくらいに……自分の事なんか何も考えずに生きていられたら、ラクになれるかもな』

 

『一人で、勝手に決めやがって……』

 

 中でも特に心を惹かれたのが、ソーマというキャラクターだった。

 

 彼の孤独や葛藤に、なんとなく共感したのかもしれない。

 

 きっと、愛が与えられなかった自分の未来は、あんな風に刺々しかったに違いなかっただろう。

 

 だからこそ……

 

 自分に愛をくれた一人だった彼女の死は、到底受け入れられなくて、耐えられるものではなかった。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

sideシアン

 

 

『特別指定の禁忌種、アーテル・カリギュラです!』

 

 そう言われる前から、恐ろしいスピードで迫り来る偏食場で正体が解っていたのだが……

 

 正直、今の俺では勝てる気があんまりしない。

 ヒロとエンゲージしても、神速アタックを食らって轟沈する可能性が高いし、あんな速さで攻撃されたらガードさえ出来ない盾は無意味となる。

 

 前回の交戦で結合崩壊された部位は全て修復されているが、顔には垂直の傷がある。俺は付けた覚えはないが、ハルさん曰く、ヒロがえげつないブラッドアーツを使って顔に一撃を食らわせるとカリギュラが逃走したらしいので、恐らくはそれだろう。

 だが、結合崩壊が回復されたのは痛い。

 

 それに、現状の戦力は……

 

「いやいやいや!? カリギュラだよねこのヤバイの!」

「……今の俺で勝てるのか?」

「まさか、相手から出向いてくるなんて」

 

 戦力的に有用になるのは、イタリアで交戦経験があり、極東最強の神機使いであるユウのみ。

 

 ヒロとロミオはまだまだ未熟だ。

 俺よりも神機使い歴は長いだろうが、アラガミへの立ち回り方……それに、実質カリギュラ神速種なのだから、見切れる筈もない。

 

「……ユウ。私も」

「……うん、分かってるよ」

 

 本当なら、俺も戦わせたくないとか、そんな事をユウは考えているのだろう

 でも、譲るつもりは無い。

 

 これは、俺の獲物でもあるのだ。そう簡単に他人に譲ってたまるか。

 

 そんな言外の意を汲んでくれたのか、ユウは肩を竦めてから、顔を少し後ろに振り向かせた。

 

「……ヒロ、ロミオ。君達はヒバリさんの指示に従って、別の帰投ポイントに向かうんだ。コイツの相手は、僕とシアンしか出来ない」

「そんな……!」

 

 ヒロが何か縋り付くような悲壮感を漂わせているが、ここで二人が大怪我を負えば、ストーリーにどんな影響が出るか分からない。

 

 眼圧を強めると、ヒロは強く歯を食いしばり、ロミオの手を取った。

 

「……ユウさん、シアンをお願いします」

「お、おい!? こんなのって……」

 

 ヒロがロミオを引っ張り、この戦場から撤退するのを見送ったら、視線を流れるように前に向ける。

 

『アリサさん、ソーマさん、コウタさんに救援要請を出しました。……シアンさん、この前のような事はダメですよ』

「う……わ、分かった」

『ユウさんも、決して無茶だけはしないように』

「あはは……善処するよ」

『もう、本気で心配しているんですからね! 特にお二人は無理をしがちなんです! 救援がくるまでは、攻勢に出ないように!』

 

 えー……と言いたい所ではあるが、前回一人で挑んでケチョンケチョンにされた事は忘れていない。

 あれだ。ド◯クエ3で勇者だけの一人旅するくらい面倒な縛りプレイをしているようなものだった。

 

「それで、どうしようか? 見た感じ、カリギュラは一歩も動く気配を見せないけど」

 

 ……それはさっきから気になっていたところではある。

 

 〝黒き暴君〟とか呼ばれながら、律儀にこのやり取りを待っているのだ。まるでブラッドレイジの訓練で使われる訓練用ヴァジュラ並に動じない。

 お前は変身シーンで待てる悪役かっての! と突っ込んでみたいが、アラガミに人間の言葉は分からないのでスルーだ。

 

「……戦う。けど、その前に情報交換」

「了解。それじゃあ、ちょっと作戦会議だ」

 

 とか言っている間も、お互いに目線はカリギュラに、神機を構えたまま。

 このまま作戦会議するんだな……

 

「奴の攻撃に、通常種と異なる攻撃はあった?」

「……ブレードに炎を纏ったり、ブースターで水平に加速して高速の攻撃。えげつないのだと、瞬間移動の速さであちこちから連撃を加えてくる技」

「最後のえげつないのは知らなかったけど、他は概ね僕が交戦した時と同じだね」

 

 そう話している間も、奴は動く様子は無い。

 ツクヨミみたく、こちらから動かない限りは攻撃してこない習性でも持っているのか。

 

「そのえげつないのの攻撃って、どうやって切り抜けた?」

「……切り抜けられなかった結果が前のアレ」

「そ、そうだったんだ……いけるかなぁ」

 

 ユウでも、あの攻撃を完全に見切れるとは思っていない。

 

「……でも、弱点なら」

「あ、それってヴェノムと封神でしょ? それなりに遅くなるんだよね」

 

 さ、流石プロ……状態異常の効果は先に確認したのか。

 

「……活性化時には、それで対策を」

「分かった。トラップは幸い潤沢にあるしね。やってみようか。でも、それともう一つ」

 

 指をピシッと一つ立てて、こう言う。

 

「ここは取り敢えず、カリギュラ戦の定石でいこう」

「……? 定石?」

「え? ブースターを斬るんだよ。こう、スパーンって。銃で根元から吹き飛ばすのもあり。飛行手段がなければ、ハンニバルとさして変わらないからね」

 

 ……。

 

「……マジ?」

「うん、意外と簡単に出来るよ。部位破壊から、更に壊せば良いだけだからね。でも、奴はそう容易くいかないんだけど」

 

 少し呆然としてしまったが、要するに、機動力が持ち味であるなら、その元を絶てと仰るようだ。

 

 発想は斬新だが、やれと言われて直ぐに出来るかと言われたら微妙な所ではある。

 エンゲージやバーストアーツで能力を底上げしている俺には、まだ技術というものが足りない。

 

 せめてメテオ級の爆発を直接当てられるなら、丸ごと破壊することは不可能では無いだろうが……

 

 まあ、ブースターさえ無ければ、あの姿の見えない攻撃だって出来ないはずだ。

 ユウの作戦に従おう。

 

「……じゃあ、ブースターの破壊優先で」

「うん。でも、バーストがもう無いから、一気にレベル3まで行かせるよ」

 

 そう言うと、ゆっくり歩き出してから、二手に分かれて走り出した。

 

 ここでようやくカリギュラが動きを見せる。

 と言っても、雄叫びを上げただけだが。

 

 しかし、すぐそこに超人的な脚力を以てユウが迫っている。

 

 カリギュラが迎撃に掛かる為にブレードに黒炎を纏わせたが、もう一方から来ている方、忘れてない?

 

「──ハッ!!」

 

 刀身がショートソードサイズにまで縮んだバイティングエッジを煌めかせ、地面を蹴って加速すると、黒炎の吹き荒れる右ブレードを切り上げる。思ったよりも手応えはなかったが、吹き飛ばせれば十分。

 

 よし、そのまま体勢を崩せば……

 

「そおれっ!」

 

 飛び上がったユウのアヴェンジャーが、カリギュラのブースターと平行に叩き付けられ、傷を付ける。

 

「硬いなぁ……」

 

 そのまま着地すると思いきや、今度は地面と垂直に神機を突き立てるようにしてカリギュラの頭部に突き刺さった。

 

「──グァァッ!」

 

 呻き声と共に、動きが鈍ったみたいだが、こいつは前とは随分と様子が違う。

 体表は前よりも硬くなっているし、そもそも前に俺が全て結合崩壊させた部位は綺麗に回復している。かなり厄介な回復能力を身に着けているようだ。

 

 また逃すことになれば、見つけ出すのは至難の業だろう。

 

 ……いや、それよりも先ずはブースターの破壊だ。ユウの一撃でもあれだけしかダメージが与えられなかった。

 いや、捕食ならワンチャンあるか?

 

 その考えが浮かんだ瞬間には、俺は空中で神機を前に構えて、命令した。喰らえと。 

 

 白い捕食口が生えて、ブースターに喰いかかる。

 

 ──プレデタースタイル『レイヴン』

 

 水平に喰らう単純なエア捕食だが、滞空時間やバースト弾の数、攻撃力、バーストゲージの回復量のバランスがとれていて扱いやすいプレデタースタイルだ。

 

 そして肝心の捕食した感触は……

 

「……チッ、空振りか」

 

 カリギュラがブースターを噴射して横っ飛びに躱していた。

 ブースターの使い方が厭らしい……というより、知性があるならそう使うのが普通かもしれないが、本当に相手にするのが嫌になる。

 

 咄嗟に左手の神機をカリギュラに向け、捕食形態に変えさせると、斜めに高速滑空して後ろ脚に噛みつく。しかし、もぎ取るまでは出来なくて、精々表面を囓ったくらい。

 

 カリギュラは離れる隙さえ許さず、尻尾を持ち上げた。間違いなく薙ぎ払われるだろう。

 

 でも、一人じゃないんだ。

 

「せやっ!」

 

 反対側から回り込み、颯爽と俺の前に駆けつけたユウのアヴェンジャーが、装甲で尻尾を押さえつけながら、パリングアッパーの要領で尻尾に切れ込みを入れさせた。

 それに加勢して、さっきユウが付けた傷にステップで接近し、青白いオラクルを右手の神機に収束させて、上に……!

 

「……はぁっ!!」

 

 そして、今度は同じ軌道をなぞって振り下ろす!

 

 ──ショートブレード・ステップ△攻撃BA『天地返し』

 

 中の肉が見え弱点となったその部分にそうやって切り返せば、カリギュラの尻尾は殆ど根元から断ち切られた。

 

 これで、後方への攻撃はかなり限られた筈……!

 

『アラガミ、結合崩壊! 活性化します!』

 

「──バァァァーーッ!!」

 

 カリギュラの眼は紅く炯々とし、腕からは黒炎を立ち上り始めた。

 

 活性化すると、これまでとは比べ物にならない速さで動くようになる。

 その前に、手を打たないとならない。

 

「ユウ」

「任せて」

 

 示し合わせずもまるで分かっていたように、俺が声を掛けた瞬間、ユウの掌から円盤が投げられた。

 

 カリギュラの真下に転がった円盤から、紫の煙がプシュッと吹き出て、瞬く間にカリギュラを覆いつくす。

 

『アラガミ、ヴェノム化を確認!』

 

 直ぐさまブースターの黒炎を吹き荒らしたようだが、状態異常にさえかかればこちらのもの。

 

 ブレードがキュインと音を立てて展開され、水平に斬りかかってきたが、俺とユウが同時にスライディングしながら銃形態に持ち替えてブレードに銃弾を叩き込む。

 

 接近を許すかとばかりにカリギュラのブースターが光るが、同時に盾を構えて身体を隠し、襲いくる爆風に耐え抜いた。

 その後の一瞬の隙に、ユウが地面を蹴ると高く飛び、神機をブースターを喰らうように下に捕食口を向けさせて、着地すると共にブースターを一呑みにした。

 

 ──プレデタースタイル『パニッシャー』

 

 バリッボリッという硬質な何かが壊されていく音。ブースターが壊れていく音だ。

 

 だが、カリギュラは絶対に何か手を打ってくる……そう確信した俺はカリギュラの頭部の前に姿を見せると、左手のインパルスエッジで急加速してから、両手の神機の刃を顔面に沿わせた。

 眼球も狙ったつもりが、逸らされてしまった。

 

 カリギュラは顎を開いて、黒炎が蠢く口内を向けてきたので、直ぐに視界から消えるように頭を蹴って離脱する。

 

 奴がブレードに黒炎を纏って、よりにもよって宙を翔ける俺に振りかざしてきた。

 クソっ、これは回避出来ない!

 

 左の神機の装甲を開いたが、カリギュラのブレードが斬りつけた部分は抉られ、周りも溶けてしまった。

 

 装甲は後で直すにしても、当たるとやはり洒落にならない威力。

 今のオラクル残量はお世辞にも多いとは言えないし、このまま攻撃を受けたら、本当に死んでしまうかもしれない。

 

 着地すると同時に黒炎がカリギュラの背中から吹きすさび、ユウがカリギュラの背から飛び降りて、こちらに退避してきた。

 ブースターは……欠けていたりヒビがあるものの、破壊には至っていないようだ。となれば、バレットでの破壊が一番だろうか?

 

 そう考える暇さえ、カリギュラは与えてくれない。見れば、両手のブレードを伸ばしきり、荒々しい黒炎を迸らせた。

 

 見間違えるはずも無い。俺の腕を焼き切ってくれた、往復の神速斬りの構えだ。

 前回の交戦時には、一回目の攻撃を受けた後、折り返しの二撃目を食らってしまったことで、隙を晒してしまった。

 

 くっ、こうなったらユウを吹き飛ばしてでも……

 

「──シアン! エンゲージだ!」

「……!?」

 

 その直後、雷を思わせる程に加速したカリギュラが、もう目の前に迫っていて……

 

(……でも、まだ間に合う!!)

 

 誰も……殺させはしない!

 

 

 

 

 

ジュリウス、シエル、ロミオ、アリサ、ソーマ

ジュリウス、シエル、ロミオ、アリサ、ソーマ

「凄い……これがエンゲージなんだ」

 

 身体を包み込む全能感。今なら、カリギュラにも一矢報いてやることも不可能じゃない。

 

 響く二つのジャストガードの音。衝撃で少し跳ね除けられるが、直ぐに後ろに向き、ジャストガード。

 

 俺のエンゲージ、『恋風の想い』の確定ジャストガードは問題無く機能している。それに加えて、この『天下無双』がある限り……戦う前に思っていた言葉を訂正したいな。

 今なら、全く負ける気がしない。

 

「ユウ!」

 

 左の神機を銃に持ち替え、リンクバーストさせる。そうすれば、自分のバーストレベルも受け渡した分だけ上昇する。

 エンゲージの性質の一つ、バースト状態の共有だ。実質的に受け渡しバースト化と同様の効果と言っていい。

 

 もう、何も怖くない。

 

「──っ!? 身体が軽いね!」

 

 そう。それこそ、ユウのエンゲージ──『天下無双』の能力。

 

 ──あらゆる速度を20%上昇させる

 

 神速攻撃の直後でぐったりとした様子のカリギュラに、先程までのカリギュラの速さを思わせる動きで肉薄して、ブースターを切り刻んでいく。あの中に混ざるのは少し厳しい。

 なので、両手をスナイパーに。

 

「……狙い撃つ」

 

 全ての速度なので、それは勿論スナイパーの弾丸の速度であったり、次弾が装填される速度も早くなる。

 

 途切れること無く立て続けに放たれる、氷の狙撃弾。それらは、動き回るユウを捉えようと躍起になっていた奴のブースターを正確に狙っていく。

 スコープを覗いていないのにも関わらずこの命中率は、このアラガミの身体が持つ天性の才能なんだろうか。

 

「なっ!? シアン!」

 

 ユウの速度に慣れてしまったか、カリギュラのブレードが、間一髪で装甲を展開できたユウを弾き飛ばして、ユウは空に投げ出されてしまった。

 奴の視線の先には俺。ユウの事は構わず、俺から仕留めようとしている。

 

 素早いダッシュで、一直線に俺を狙ってくる。

 これに真っ向から立ち向かおうとするのは愚策というもの。

 

 すると奴は、黒炎のブレス球を三発、連続して放ってきた。

 かなり速度のある誘導弾だが、躱せないこともない。一発目はステップで避け、二発目は装甲のジャストガード。三発目は、左の神機で真っ二つに斬り裂いた。

 

(よし、ここだ……!)

 

 斬り裂かれたブレス球は、展開していた装甲を用いて軌道を左右にバラけさせてある。俺は、その片方のブレス球の背後に隠れながら移動しているのだ。

 すぐ目の前には、ポイントBのアラガミ用獣道の高台がある。それに瞬時に乗り移ると、スナイパーを構える。

 

 態勢を立て直したユウがカリギュラの注意を引き付けてくれている。

 その間に、確実にブースターを破壊しなければ。

 

 動き回るカリギュラに、定位置からブースターに当てるのは難しい。

 

 でも、出来ないこともない。

 そう、隙さえあれば。

 

 エンゲージはもう長くはもたない。敵のヴェノムも直に切れる。

 

 縦横無尽に駆け回るカリギュラ。それを躱しながら、着実にダメージを与えていくユウ。

 この構図も、崩れてしまう。カリギュラの神速が戻れば、勝ち目はない。

 

 だから、その前に。

 

(やってくれるよな、ユウ)

 

『……うん、任せて』

 

 ユウの神機が、徐々にそれを形作り始めた。カリギュラも身の危険を察知したのか、ブースターで加速して薙ぎ払おうとするも、ユウの、流麗かつ紙一重な身のこなしで躱してしまう。

 

 チャージ捕食? 別に立ち止まってやる必要は無い。

 

 ゲームバランス? 現実に何を言ってんだ。

 

 似たような事を前も思ったが、つまり……

 

 ──プレデタースタイル『臨界解放式・天ノ咢』

 

 魔狼が、カリギュラの頭目掛けて顎門を開いた。

 

 振り払おうと空中に浮かんでブレードを翳そうとするが、遅い。

 

「……お前の蝋の翼は、もう無い」

 

 二発の狙撃弾は、ユウが頭に齧り付いたその時から、放たれていたんだから。

 

 ブースターで空を飛ぼうとしたカリギュラの背中が爆発を起こし、地に落ちる。その姿に、今までの威厳はない。

 

『頭部とブースター、結合崩壊! 敵のオラクル、徐々に不安定になってきました!』

 

 ブースターは、もう結合崩壊なんて生易しいものじゃない様な気もするが……

 

 自在な動きを体現していたイカロスの羽は落ちた。

 ブースターの無いカリギュラなんて、単なるハンニバルだ。

 

 高台を降りると、身体を包んでいた全能感の一部が消え去り、身体がどっと重くなったように感じる。エンゲージが切れてしまった。

 

 でも、今はもう必要無い。

 隣には、最強の神機使いもいる。

 

 互いに目を見合わせると、後はやる事は一つだけ。

 

「──はぁっ!!」

 

 カリギュラの足元に飛び込んだユウが後ろ足を正確に斬り、体勢を切り崩すと、俺はブレードの攻撃を見切り、バーストアーツで執拗に頭を攻撃する。

 足元と顔面で、ダウンを狙いつつダメージを稼ぐのだ。

 

 次には黒炎の槍を何本も投擲してきたが、ユウは軽々と躱し、俺は自分のオラクル細胞で作った使い捨ての盾でガードして、懐に入り捕食してやった。

 

 そして顔面にいる以上、爆発するブレス球は避けられない。あの三連ブレス球はダメージ覚悟のガードで、常に接近して敵の余裕を無くさせると同時に、ユウへの攻撃の隙としても転用してやった。

 

 そうやって、一つ一つ丁寧に、連携して攻撃を封じつつ体力を削る。

 

 時には、スナイパーから放たれる脳天直撃弾が敵を怯ませて隙を作り、ユウの埒外の攻撃力で弱点の頭を叩いたり、キュイインッ! と音を立てて、二×二連撃のブレードが襲いかかってきたのを、全てジャストガードで防いで、ユウが咄嗟に反撃したり……

 

 不思議と一体感があった。何にでも勝てるかのような高揚感と共に、この神速のカリギュラを追い詰めていけたのだ。

 

 ただ、一つ難点があるとすれば……

 

『作戦開始より、15分が経ちました!』

 

「……硬い」

「ちょっと、これはタフ過ぎるなぁ……」

 

 何度顔に傷を入れようと、何度脚を斬り刻もうと、奴は立ち上がり、なんて事無いように攻撃してくる。

 余裕は全くもって無くなっていなかった。

 

「……どうしよう」

「これは、無茶が過ぎるよね……」

 

 ユウにも、そろそろ疲労の色が見え始めてきた。俺は疲れないが、体力とオラクルの損耗が激しい。

 正しくジリ貧という奴だった。

 

「……回復錠は?」

「……うっ、もう少ないや」

 

 ユウとて、全くダメージを負っていない訳では無い。

 何回か派手に吹き飛ばされてるし。

 

 そうこう言っているうちに、カリギュラのダッシュ斬りが迫って……っ!?

 

「ぐあっ!!」

「……ユウ!?」

 

 ユウに、左の太ももから右脇腹にかけて、一直線の深い傷……重症だ。

 クソ、疲労を突きやがったか!

 

 直ぐに神機を吸収して、ユウとユウの神機を回収するが、真後ろにはブレードを構えるカリギュラがいる。

 

「……シアン、僕はまだ、いける」

「……人のこと言えないけど、無茶はダメ」

 

 カリギュラの黒炎槍をどうにか避けながら、ポケットの回復錠改を飲み込ませた。

 

 一先ずは、これで安心か……

 

「シアン、後ろだ!」

「……!?」

 

 ユウが焦りも混じった警告を上げたら、真っ先に俺の身体は動いた。 

 抱え込みながら、前方に身を投げる。

 

「……っぐ」

 

 回避には成功した……片足を一本持っていかれたが。

 

 倒れ込んでしまう前に、傷が癒え始めたユウと神機を放り投げて、両手に神機を生成。

 

 片手の神機の銃口をカリギュラに向けるも、呆気なく斬り裂かれた。

 

 ……はぁ、ここにきて形勢を逆転されるとは。

 

 本当に予想できなかった。そろそろ、倒れてくれないかなぁ。

 

 半ば諦観して、俺はただカリギュラの拳が心臓を貫く瞬間を────

 

 

 

 

「…………テメェ、ウチの妹に何してやがる」

 

 

 

 

 降り立った一つの影と、天使のような純白の神機が、カリギュラを派手に吹き飛ばしていた。

 

 ……俺の事を妹扱いしてくるのは、後にも先にも、きっと一人だけ。

 

「……相変わらず無茶が過ぎる奴だ。少しは兄貴の心臓に優しいように戦え、バカ」

「……残念。もう脚は生えきった」

「いや、そういう問題じゃねぇ……」

 

 ある程度無茶が許されている身体だから、無茶をしているだけであって、そこに他人が関与する余地は無い。

 

 いやまあ、ソーマを他人と言うには、些か以上に関係が深すぎるけど……

 

 しかし、ソーマには感謝だ。今のタイミングで来てくれなければ、足が再生する前にコアを破壊されて意識が絶たれていた可能性もあったので、本当に感謝しかない。

 後で初恋ジュースを奢ってやろう。

 

『おーいシアーン! 聞こえるかー! 俺参上! ってな!』

『ちょっ、コウタさん! そんな口上要りませんから、早くシアンちゃんを助けますよ!』

 

 二人の男女の声……アリサとコウタが軽口を叩き合いつつも、バシュバシュンッ!! とアサルトの弾丸が雨あられとカリギュラに降り注がせ、奴は瞬く間に土煙に覆われてしまった。

 

 上空を見遣れば、ヘリコプターから落下するように二つの影が降りてくる。

 着地すると、怪我を直したユウが思わず駆け寄った。

 

「アリサ、コウタ! 来てくれたんだね!」

「ゆ、ユウ! 大丈夫ですか、怪我は!?」

「いや、先にシアンを心配してやれよ……」

 

 ユウの身体を、やたらぺたぺたと触って触診しているが、なんか手つきがやらしいような。

 しめしめ、役得役得……とか思ってそう。

 

「イチャイチャはそんくらいにしとけ〜。……俺のアサルトがリア充を爆発しにかかる前にな」

「い、いいじゃないですかこのぐらい!」

 

 イチャイチャしてる事は認めるのね。

 

 それに気付いたからか、そのまま、アリサがプイッと顔を背けてしまった。とても耳が赤くなっている。

 

「あ、アリサ?」

「……今しか、無いんですから」

「……それって」

 

 何かユウが言いかけた瞬間、カリギュラが土煙を突っ切って、速いスピードのまま地面に手を一瞬付けた。

 

 すると、俺やアリサの立っている地面に円形の黒炎が現れた。

 これって確か、ハンニバルの……

 

「……!? 避けて!」

 

 俺がそう叫んで、全員その場から飛び退けば、サークルからブワッと黒炎の竜巻が噴き上がった。

 

「マジかよ……今の奴って、ハンニバルの攻撃じゃねぇか!」

「はい、油断しないで下さい……あのカリギュラは、〝動異種〟かもしれないですから」

 

 すると、アリサが剣形態に変えて、指で素早く指示を出した。

 

「分かった!」

「りょーかい!」

「ん……」

 

 指示の通り、各々が動き始める。

 

 アリサの出した命令は、ダウン優先。

 相手が素早いので、確実に捕食できるタイミングを作りたいのだろう。

 

 その意図が分かれば、役割分担は簡単。矢面に立つメンバーと、後ろ足を叩いてダウンを狙うメンバーが居ればいい。

 

 今はソーマが一人で張ってくれているので、そこに加勢しようかな。

 

「──セェアッ!」

 

 ソーマの横薙ぎに、僅かにカリギュラがよろめいた。

 そこに付け入り、ステップからの『弐式』……つまり普通のコンボ捕食で素早く喰らった。バーストが切れたままでは戦いにくいので、丁度いい隙だった。

 

 更に置き土産に封神トラップとヴェノムトラップを直接顔面に食らわせてやった。

 

 左ブレードが顔に向かって振り抜かれたが、コウタが氷属性のバレットで牽制してくれている為か、攻撃の軌道が外れた。

 少し額を掠って、髪が数本空に舞っただけだったので、俺は即座に離脱。敵もバックステップして、雄叫びを上げた。

 

 ふぅぅ……本当に速い。

 

 息付く暇ぐらいはあったが、既に奴は次の構えに入った。黒の槍だ。

 

 俺とソーマが目を合わせて互いに一つ頷いた。多分、同じことを思ったのだろうと勝手に信頼してしまったが、どうやら当たりのようで、隣に並んだまま一直線にカリギュラに駆ける。

 

 黒の槍は恐るべき速さで、二人纏めて殺せる位置に投げられた。俺とソーマが二手に分かれるように避けると、俺はアサルトの弾丸を牽制としてばら撒き始める。ソーマはいち早くカリギュラに辿り着き、頭にバスターの縦斬りを見舞う。俺もその時には接近して、イ◯ルジョーを彷彿とさせる半円状の黒いブレスを吐くカリギュラの懐に入っていた。

 

 そして、黄金色をしたオラクルの燐光が何度も何度もカリギュラの頭を斬り付ける。

 

 ──バイティングエッジ・□攻撃BA『ダンシングダガー』

 

 ブレスの後には直ぐに振り払われたが、ソーマの本家『パニッシャー』が頭を抉った。

 実に様になってる……なんて場違いな事を考えていると、

 

「せやっ!」

「はぁぁ!」

 

 声を上げたのはユウとアリサ。息を合わせて、後ろ足へ同時に神機を突き刺し、深く斬り裂いた。

 

『アラガミ、ダウン! 敵のオラクル反応はかなり不安定です!』

 

 ヒバリの通信を聞きながら、チャンス、とばかりに四人でチャージ捕食。

 四つの捕食形態がガブリと喰らう様は壮観だ。

 

「リンクバースト、いくよ!」

 

 ユウが俺に、アリサがソーマにバースト弾を放ち、バーストレベルを3に引き上げた。

 

 後は、二人で畳み掛けるだけ。

 

 ソーマがチャージクラッシュを、俺は後ろに下がって、『ランページコメット』を準備する。

 

「コイツは……ウチの妹と遊んでくれた礼だ。冥土の土産に貰っておけ、クソ野郎」

 

 赤黒いオラクルを纏い、ソーマのチャージクラッシュがカリギュラの頭を砕いた。

 

 今回の戦いが、呆気ない、とは言えない。

 でも、一人より二人。二人より五人。協力すればするほど、戦いは楽になっていった。

 

 性弱説という言葉がある。

 それは、人は生まれながらにして弱い生き物だという考え方で、ジュリウスも似たような事を初の実地訓練で主人公達に言っていた。

 

 あの時俺が敗北した原因は、実力不足もあるが、今ならわかる。

 誰も頼らなかったからだ。一人で突っ走って、勝手に怪我をして。

 

 『エンゲージ』を勧めたシオは、ラケルを救えという他にも、他人を頼る大事さを教えようとしたのだろうか。

 

 ……何にしても、シオとレンには感謝しないとなぁ。

 

 そう思った時には、もう、神機が赤いエネルギーをパチパチと光らせているだけで、俺はカリギュラの頭の上に立っていた。

 

 綺麗に大きな風穴が空いて、もうピクリとも動かなくなっている。

 

「……終わった、のかな」

「たぶん、そうでしょうね……ユウ達がかなり削っていたみたいです」

「えー? あんなのとずっと戦ってたってこと? 俺、目が回るかと思った……」

 

 コウタが割とぐったりしながら座り込んだ。

 ガンナーからしたら、神速種は単なる拷問なのは仕方ない。速すぎると、エイムなんて全く当てにならないだろうし。

 

「久しぶりに疲れた……」

「そ、それなら、ユウ! 今日は私の部屋に来てください! えと、色々積もる話もありますし……」

「あはは……うん、分かった。お邪魔させてもらうよ」

 

 アリサが、チャンスをものに出来る子になってる……!

 

 俺と最初に話した頃は、あんなにもウジウジあわあわしていたというのに。

 親が子の成長を喜ばしく思うような感覚だ。そのまま恋人になってしまえ。

 

『皆さん! 残念ですが、喜ぶにはまだ早いみたいです!』

 

「「「「??」」」」

 

 ヒバリの通信に、四人で首を傾げた。

 まだ何かあるのか。もう連戦で心が疲れたよパトラッシュ……

 

『大型の感応種が、作戦エリアに侵入しました! 偏食場パルスのパターンから……個体名、マルドゥークと推測されます!』

 

 ……突如、空から落ちてくる白い影。

 

 暴君を足蹴にして、目の前にそれは降り立った。

 

「──ウォォォォォン!!」

 

「っ!? 神機が……」

 

 アリサが神機をダラりと地面に落とした。似たように、ユウも神機を思わず地面に突き刺してしまう。

 

 ……今の所、俺は問題無いように見えるが、安心は出来ない。

 

「これが、感応種……なのか!?」

「くそっ、何でこんな所に来やがったんだ!」

 

 どうにかコウタが神機を構えるが、弾さえ出ないのは分かっているはず。

 

 いや、それよりも、この状況は何なんだ。

 どうして、俺とマルドゥークは平然と対面しているのか。

 

 試しに神機を向けてみると、マルドゥークはそれをチラリと見て、興味無さげに視線を下に落とす。

 そして……徐にカリギュラの首の根元を喰らい、何かを引きちぎった。

 

「……テメェ、巫山戯るのも大概にしやがれ!」

 

 ソーマがどうにか横に薙ぎ払ったバスターを、マルドゥークは身を捩って、後ろに翻るようにジャンプして躱した。

 

 そのマルドゥークの口には、丸く、黄色をした結晶体が咥えられている。

 アレは、間違いなくカリギュラのコアだ。

 

「……チッ、あの野郎、人のモンを」

 

 ソーマの悪態はごもっともなのだが、マルドゥークはそれを意にも介さずコアを飲み込むと、図書館の上に飛び移って姿を消していった。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

「……そんな訳だ。回収出来たサンプルは少ねぇ」

「いや、感応種相手に、ブラッドアーツを習得せず戦うのは得策ではない。先ずは無事に帰還できたことを喜ぶべきだね……ふむふむ」

 

 マルドゥークに美味しいところを持っていかれた後、俺達は普通に極東へ帰った。

 

 それで、サカキ博士の研究室に訪れている訳だが……

 

「うーん……しかし、やはり妙だ」

「……おい、さっきから何を唸ってんだ。気色悪ぃからさっさと要件を話せ」

「……そうだね。これは君達には、先に話しておこう」

 

 パソコンのモニターから俺とソーマに目を向けると、すぅ、と息を吸って、真剣な表情で言った。

 

「……回収してきてくれたアーテル・カリギュラのオラクル細胞なんだけど、これが不思議なことに、単一の偏食因子しか持ち合わせていない事が判明した」

「単一……だと? んな馬鹿な」

「いいや、違わなかったとも。神機の攻撃が通りづらかったのも、その特異性故だったんだ」

 

 ソーマが、ここ最近で一番の驚きを見せた。

 

 というのも、通常のアラガミのオラクル細胞には、複数の偏食因子が含まれている。

 複数、というのは、それこそ数十単位でだ。

 

 単一の偏食因子のアラガミとは、つまり、これまで何も捕食してこなかったオラクル細胞で構成されたアラガミなのだ。

 

「例の、リンドウくんが追ってくれている件……〝キュウビ〟の持つ、仮称〝レトロオラクル細胞〟の話は覚えているよね?」

「ああ……」

「キュウビは独自の偏食傾向を持つことで、混じりっけのないオラクル細胞を保ち続けた。しかし、このアラガミは混じりっけどころか、自身を構成する遺伝子が一つだけ。そう、これはまるで、オラクル細胞ごと発生したてホヤホヤ……みたいには考えられないかい?」

 

 オラクル細胞は増殖する。

 生物学的に言えば、無性生殖みたいに分裂して、その数を増やす。

 

 だが、そうやって分裂したオラクル細胞は、元の分裂前と同じ偏食因子を持っているので、この世界で混じりっけのないオラクル細胞というのはとても希少なのだ。

 

 だが、オラクル細胞の起源まで遡ると、完全に混じりっけが無いなんてものは不可能だ。

 

「……つまり、何が言いたい」

「……そうだね。これは実証も難しいけれど……地球の意識体とも言うべき存在が、意志を持ってオラクル細胞を生み出し、新たなアラガミを作り上げたのさ。三十年前と同じくね」

 

 赤い雨と黒蛛病は、地球のシステムが終末捕食の為に作り上げた、とサカキ博士はゲームの中で言っている。

 

 ラケル博士は、終末捕食を起こせという内側のアラガミの意識に従って動いていた。

 そのアラガミの意識というものは、明らかに地球の願望なのではないか。

 

「そもそも、私とヨハン、アイーシャ(私達)がアラガミを形成する固有の細胞に、〝オラクル〟と名前を付けたのは、科学では絶対に説明不可能なものだったからさ。かつて人類は、説明の出来ない現象を神の仕業と説明していたように、私達もこう結論付けた。これは、地球を破壊し尽くさんとする人類に対する地球の怒り、すなわち神託(オラクル)であると」

 

 ──つまり、アラガミは地球の意志の代弁者なんだよ。

 

 その言葉は、科学者であるソーマをも大いに驚かせた。

 

 地球を滅ぼす存在が、地球の代弁者。つまり、この世界は滅びを望んでいるという事なのだ。

 

 寧ろ、地球外から侵攻してきたエイリアンと言われた方が納得する。

 

「何ともオカルティズムな話だけれど、ソーマなら知っている筈だよ、地球の意志の存在を……それも、シオ君を通してね」

「……ああ。あいつは終末捕食を起こそうとするアラガミの本能に抗っていた。となれば、アラガミさえも滅ぼす終末捕食の意義を考えれば、誰もが人類よりも上位の存在を疑うだろうな」

「ただ、元を辿れば原子や分子の集合体である地球に意志がある理由は、さっぱり分からないけどね」

 

 地球再生のアポトーシス、終末捕食。地球が何らかの危機的状況に陥った時、これをリセットしようとする働きであると、サカキ博士は十年以上も前に実証している。

 この仕組みが成立するには、そうプログラムする何者かの存在が無くてはならない。

 

 それが、地球にある意識体なのだろう。

 

「じゃあ地球は、どうしてアーテル・カリギュラを生み出したんだろうか、という話になる訳だけど……いやあ、流石に、ここからはまだ研究を続けないと分からなさそうだよ。さっきまで唸っていたのは、このカリギュラの目的がサッパリだったからでね」

「言われてみればな……」

「そういう訳だから、後は私に任せたまえ。必ず突き止めてみせるよ」

 

 そう締め括ると、もう要件は無いようで、俺とソーマはラボラトリを出ていた。

 

 あまりに突拍子もない話だからか、暫く無言のまま、俺もソーマも、ラボラトリの前で立ち尽くしていると、ポツリとソーマが呟いた。

 

「……地球の意志、か」

「……? どうかした……?」

「いや……なんでもないさ」

 

 そして唐突に撫でられる頭。

 

 ふぁぁ……この多幸感が、マジで癖になりそう……

 

「ん? お、ソーマ、話は終わったのか?」

「……わざわざ待っていたのか」

「ほれ、ジュース」

 

 うぇへへへ……このままで初恋ジュース飲んだら何かぶっ倒れそう……

 

「……お前も兄力が上がったよなぁ。もう一端のお兄ちゃんだよ、ソーマは」

「……フッ、俺にも妹がいるからな」

「お、それなら妹大好き連合でも組もうぜ! 妹サイコーッ! って感じのやつ!」

「……そうやってあまり妹に構って、逆に嫌われても知らねぇぞ」

「アレ!? まさか、ノゾミのお兄ちゃんポジションがソーマに取られてるのって、もう嫌われてるから……!? ノ、ノゾミィィィ! お兄ちゃんを嫌わないでくれぇぇぇ!!」

 

 くふふ……大丈夫だよ〜、俺はずっとソーマを嫌わないし……

 

「っていうか! そもそもさっきからシアンの頭撫ですぎじゃね!? 見た事ないくらい笑顔になっててなんか癒される……」

「……は?」

 

 ……あれ? もう終わり? え、マジか……えぇ……? もちっと長くても良いんだけどなぁ……

 

「今度は逆に怖いくらいストンと表情が抜け落ちた!?」

「……これが普通じゃねぇか?」

「いやいや、さっきとの対比がスゲェから……もう一回撫でてみろよ」

「……あ、ああ」

 

 それで、さっきから何をソーマは見つめて──あ、これいい……

 

「……ここまで表情崩すもんなのか」

「やっぱ、ソーマの兄力がレベルアップしまくった結果だろうなぁ……はぁ、ノゾミの頭を撫でてやりたい……」

 

 ふへ、ふへへ……妹になるのも、案外悪くないかも……

 

 


おまけ

 

 

「……よし、遂に出来た!」

 

 やりきった! という表情でオイル塗れの頬を拭ったリッカは、目の前の白い神機を手にした(・・・・)

 

「……世界で最初の第四世代。人型のアラガミをベースとした、対アラガミ兵器の最高峰、だろうね……そもそも、使う本人のコアで制御してるんだし」

 

 もう一本、隣に白い神機が並んでいる。それもつい先日完成したばかり第四世代神機だ。

 

 シアンの要望は、神機を二本用意しろというもの。

 

 しかし、先ずは根本的な問題として、シアンの相性上使われているアラガミから見直さなくてはならなくなり、その為にシアンのオラクル細胞を培養した肉体を作って、コアもシアンのアーティフィシャルCNSを使った物に変えたものの、従来型の作成方法では神機パーツと神機の相性が悪いのか変形機構が破綻し、捕食形態にも移れないと行き詰まって、そんな矢先にギルバートと日霊トウカが手伝いを申し出て、試験的に新機軸を搭載して、それからエトセトラエトセトラ……

 

 と、艱難辛苦を乗り越えた先に完成したのが、目の前の白い神機だ。

 

 アメジストの刃と半透明な白銀(シロガネ)の刀身。天使の羽根のような装甲など、原型であった装備の所々にシアンの作る神機の意匠が残されている。

 言うまでもなく神機のコア……アーティフィシャルCNSは紫色であり、アラガミ部分()もソーマの神機のように真っ白なので、この神機が特異であると誰もが一目で分かるだろう。

 

「……それにしても、自分で使える神機モドキがあるのに、どうして神機を欲しがったんだろ」

 

 それは、未来永劫彼女には分かるまい。

 まさか、ただシアンが『神機使いたいなぁ』という欲望の為だけにリッカに頼んでいたことを。

 

「まあいっか。まずはギル君やトウカ達に連絡して…………と。さーて、最終メンテ頑張ろっと」

 

 そして、彼女は知らない。

 

 この神機の製作がもう少しでも遅れていたら、シアンの身に絶望が降り掛かっていたことを。

 

 




次回、『ウィジャボード』

自分に力がさえ有れば、もう何も怖くない……俺は、ずっとそう思いたかった。

ロミオPの処遇について

  • いつも通り、逝くなぁぁぁ!される。
  • シアンちゃんに救出される。

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