神さまばっかの世紀末な世界に、俺が望むこと   作:赤サク冷奴

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滑り込みセーフ……


ウィジャボード 中

 

sideソーマ

 

 

 それは、一週間も前の話だ。

 

 クレイドルの定例会議が行われる日……俺はラウンジでシアンを待っていた。

 定例会議まではかなり時間の余裕がある為に、ちょっとした研究の手伝いをして貰えないかと思っていたのだが、珍しく8時を回っても一向にやって来ない。

 

 流石に変だと確信して、ベテラン区画のシアンの部屋を訪れた訳だが……

 

「ぐずっ……ぇぇ……!」

 

 ……泣いているのは、扉を開けなくても分かった。

 

「──シアンッ!」

 

 番号が入力されて開いた扉に滑り込むように入り、見た。

 

 ……シアンが、枕に頭を押し付け、声を押し殺し泣いているのを。

 

「全部……全部……私が……っ! おとうさん、おかあさん……!」

「おいっ、どうした!?」

「……ぇぐっ……どうして……!」

 

 ベッドの上でうずくまるシアンに駆け寄って揺するも、こちらには見向きもしない。自分の激情に、周りも見えなくなっている。

 

「私、なんて……いらないのにっ!!」

「シアン、シアン!」

 

 仕方なく、シアンを枕から引き剥がして、顔をこちらに向かせてやる。

 

 目に涙を溜まって、それがほろりと落ちていく……そんな泣き顔を晒すシアンは、普段の無口無表情さからは考えられないのも相まって、酷く扇情的だった。

 こんな感覚は初めてだった。一度思考を変えて、シアンから顔を逸らす。

 

 シアンがどういう理由で泣いてやがるのか、なぜ自分を責め立てているのか、『おとうさん』と『おかあさん』とは誰のことか……そういう疑問が湧いてくるが、一先ず泣き喚いてるこいつをどうにかするのが先決と考えて、俯いて泣いたままのシアンに呼びかける。

 

「シアン、こっちを見てくれ」

 

 頬に手を添えてやって、目線を合わせる。何かに縋りつくように俺を見てきて、少しグラッと来るが、気合いで耐える。

 

「…………ソーマ…………?」

「……ああ、俺だ」

 

 そうして合った瞳には、僅かな戸惑いの色が現れていた。

 

 それも一瞬の事で、ふにゃりと柔らかな笑みを浮かべ、どこか安堵した雰囲気を纏わせる。

 

「……ソーマ」

「……ああ」

 

 コイツ、いつからこんな表情豊かになりやがった……

 

 理性の箍が外れそうになりながら、前のめりになって寄りかかってきたシアンを受け止める。

 

 こんなにも華奢な体のくせに、普段は圧倒的な膂力で敵を捩じ伏せているのだから、つくづく不思議だが……

 

「……ひくっ……うぇぇ……!」

 

 ……コイツも、所詮は一人の人間ということか。

 

 抱き締め返して、そっと頭を撫でてやる。

 こういう時、一体どうすれば良いのかも分からない俺が取れた、最善の行動だった。

 

 手が触れると、ビクリと跳ねるも、すぐに身を委ねてくる。

 

『……あたたかい』

 

 ポツリと、シアンがそう呟く。

 

 そりゃあ、そうだろうな……そう言おうと出かかった声が、喉元で堰き止めらた。

 

 耳ではなく、頭に直接入ってくる様な声。だが、それは間違いなくシアンのものだ。

 

 ──感応現象

 

 俺の頭に、真っ先にその言葉が思い浮かんだ。

 それに、前にもシアンとの間で発生したと記憶している。

 

 しかし今回は、あの時とは様子が違っていた。

 

『……あたたかくて……私は、こんなにも惨めで冷たい』

 

『誰も守れない……誰も救えない……』

 

『……ソーマの優しさだって、受け取る権利は無い……』

 

『なのに、のうのうと生きてる……』

 

『……このまま、消えて居なくなればいいのに……』

 

 濁流のように、シアンの感情、思考が流れてくる。

 

 その全てが、自分を貶める……凄まじい負の感情で満たされていた。

 

 つまり、シアンは〝自分なんて死んでしまえばいい〟という想いを、恐らくはここに来る前から抱き続けたまま……

 

 シアンを抱く腕に力が篭る。時折、コアが再生出来るからと自分の身を顧みない行動を取るのも、あの時黒き暴君にシアンが一人で無茶をしたのも、自分をどうでも良いと思っているからだった。

 

『……ごめんなさい……! ごめんなさい……!』

 

 だから、シアンは、シアンだけは。

 

「……俺が、絶対に守ってやる」

 

 二度と、シオみたいな目には遭わせてたまるか。

 

 俺はもう、大事なものを取り零したくないんだ────

 

 

 

 

 その後、俺はどうやら寝ていたようで、シアンとベッドの上で目を覚ました。少し驚いたが、面白いものも見れたので良しとしておこう。

 

「問題は山積みだがな……」

 

 前回の感応現象の記憶の謎も分からずじまいで、今回発覚した、シアンの抱える闇の事もある。

 

 クレイドルの定例会議以降、俺も神機兵関連の対応に追われ、シアンの謎は疑問に満ちたままだが、疑問のままで終わらせる気はサラサラ無い。

 

「おおっ、ソーマ、ここに居たのかい」

 

 突然、イラッとする声が聞こえてきて、モニターから顔を上げる。

 

 インバネスコートに着物という、百年以上前の和洋折衷な服装に身を包む科学者、ペイラー・榊が、ずいっと顔をこちらに向けて覗き込んでいた。

 

「……おっさんか。入るならノックの一つくらいしてくれ」

「いやぁ、自分のラボだからついね?」

 

 で、要件は?と目で訴えると、タブレットの資料を手渡される。

 

 内容を流して読むと、そこには全く未知の概念が展開されていて、理解に非常に手間取ったが、どうにか短時間で読み込んでみる。

 

 サカキのおっさんに、溜息を一つ吐いて文句を垂れた。

 

「……〝エンゲージ〟に、神機使いの精神構造上にある、仮称〝感応領域〟の存在か。感応現象の根本の推測に近づいた訳だな?」

「私でさえ、俄には信じ難いとは思うよ。でも、シアン君とP41偏食因子、そしてブラッドのヒロ君がその存在を明らかにしているんだ。しかも〝エンゲージ〟の解析で、感応現象にはまだ到達し得る先──言わば、〝高次感応現象〟なるものがあるのではないか、という推論も立っているね」

 

 一体、どれだけの発見をすれば気が済むのか。

 

 そろそろいい歳したジジイになると言うのに、研究に対する熱意も変わらず、今のところ進展のない感応現象学の基礎理論を打ち立てやがった。訳が分からねぇ……

 

「……なぁ、おっさん。この感応波増幅装置とその制御装置があれば、〝感応領域〟への接続を可能とするって書いてあるが」

「ん? ああ、それは将来的な話だよ。感応波レベルの偏食場の制御技術はまだ確立してないからね」

 

 いや、コイツは機械や技術がどうこうという問題じゃねぇ。

 

 そうだな。これは恐らく……

 

「ブラッドの血の力──特に〝喚起〟と〝統制〟で代用出来ないのか?」

「な……にっ!?」

 

 おっさんが眼鏡を落としかけた。

 

 血の力は、全て感応波──強力な偏食場を用いて偏食場に干渉する能力だ。

 

 〝喚起〟は他人もしくは自分の偏食場を何倍にも増幅してその効果を高め、

 〝統制〟は偏食場を制御する事で擬似的に活性状態にさせることもでき、

 〝直覚〟は極東のあらゆる機器にも勝る精度で偏食場を探知する広域レーダーに、

 〝誘引〟は自身の強大な偏食場でアラガミを引き付け、擬似フェロモン化し、

 〝鼓吹〟は神機の捕食本能に作用する偏食場を発する事で、攻撃力を増加させる。

 

 ……まさか考えもしなかったとは言わないよな。

 

 ちらりと見ると、申し訳なさそうに頬を掻いていた。

 どうやらマジらしい。

 

「……すっかり意識から抜けていたよ。いやはや、これは私が蒙昧だったとしか言いようがない。すぐそこに答えはあったのに、どうも、視野が狭くなっていたようだ」

「フッ……もうボケてもらったら困るな、おっさん」

「まだまだ辞めるつもりは無いとも。いざとなれば、誰かに支部長代理をやらせてでもね?」

 

 じゃあ失礼するよ、と急ぎ足でラボを出て行ったおっさんの後ろ姿を見送る。

 

 ……全く、調子の良い奴だ。

 

 ふぅ、と息を吐いて背もたれに寄り掛かり、僅かに残っていた缶コーヒーを飲み干した。

 

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

sideシアン

 

 

 適合試験から四日後。

 

 神機ケースを両手に抱えながら、ヘリに乗り込んである場所に向かっていた。

 

 今回ばかりは任務ではない。任務の前打ち合わせ……みたいなものらしい。

 

「准尉、そろそろ到着です」

「……ん」

 

 ヘリから下を覗くと、外側を円形の対アラガミ装甲に覆われたサテライト拠点が見えてきた。

 

 『ゴッドイーター』においてサテライト拠点と呼ばれるものには、主な特徴がある。

 

 一つ目は、対アラガミ装甲に覆われていること。

 二つ目は、アラガミの通らない立地にあること。

 三つ目は、自給自足可能なアーコロジー*1であること。

 

 アラガミの通らない立地とは、サカキ博士が提唱した、アラガミ生活リズム説から生まれた、アラガミの行動の規則性によって通ることのない場所のこと。

 

 アラガミの攻撃にはある規則性や一定の動きがあるのは以前からよく知られている──メタな事を言えばゲームの行動なのだが──が、それが移動、捕食といった面にも規則性が有ると博士は見出した。

 

 加えて、この極東のアナグラのように、ほぼ完全なアーコロジーを実現した実績もある。

 

 これらを生かすことで、人類の居住地、サテライトを確保し、人類が生存可能な領域を広げる事が、俺の所属するクレイドルが主導して行っている、クレイドル計画の一端なのだ。

 

 しかし、これはあくまでもその一端。

 クレイドルは他にも様々な活動を精力的に行っている。

 

 ユウがアーテル・カリギュラを追っていたのも、この為だ。

 

 とまあ、俺もクレイドルのいち隊員な訳で、今回みたくサテライトを訪れる機会もかなり多い。

 

 ヘリが地面に着く前にさっさと飛び降り、中央のシェルターに向かう。

 恐らく、ここら辺に居るはずなんだけどなぁ。

 

 ……と思いながらあちこちを見回していると、後ろから急速に迫る偏食場が。

 

「シアンちゃん!」

「……アリサ」

 

 小走りでやって来たアリサの名前を振り向きざまに呼ぶと、彼女はニコッと笑みを零し……たと思えば、一転してその表情が驚きに変わった。

 

「あっ……それって新しい神機と腕輪ですか!?」

「……これで私も、本当の神機使い」

「腕輪も神機も二つなんて、驚きです……」

 

 ジーッと、興味深そうに眺められていると、アリサがあっと声を漏らして我に返ってくれた。

 

 で、俺は何をすれば良いんですかね……? 

 

「そうでした! 今回の調査任務の説明をしに行きますよ!」

 

 あ、ハイ……

 

 

 

 

 アリサにテントの中に招かれると、そこにはブラッド隊全員がズラリと並んで座っていた。

 無論、その中には女主人公こと、日霊トウカがいた。

 

 それといつもの事ながら、ギルの眼光が怖いなー。

 

「おっ、シアン──って、なんか腕輪が二つある!? 何それカッコよくね!?」

「あ、シアンちゃんだー! 久しぶり〜!」

 

 そこから目を少し逸らすと真っ先に元気よく反応した癒し枠こと、ロミオとナナ。こちらも、小さく手を振り返す。

 

 二人は相変わらず元気そうで何よりです。

 

「ブラッドのみなさん、遅れてすみません!」

「いえ、事情は把握しています」

 

 ジュリウスが立ち上がると、アリサに向き直って握手を交わした。

 

「改めまして、独立支援部隊クレイドルのアリサ・イリーニチナ・アミエーラです。よろしくお願いします」

「こちらこそ、ご協力に感謝します」

「いえいえ! 以前救援に駆け付けて下さいましたし、今回は案内役として、みなさんの調査をサポート出来たらと思っています」

 

 アリサの言っていた救援というのは、ブラッドが極東に向かう途中で、オープンチャンネルに救援要請を入ったので助けに行くイベントでの出来事だ。

 

 相手が〝感応種〟のイェン・ツィーで、感応種は第一世代と第二世代の神機の機能を停止させるので、遭遇すればまず勝てない。

 

 アリサも例外でなく、オープンチャンネルに救援を求めたところ、偶然そこに居合わせたフライアに通信が入り、感応種を倒したというのが一連の流れのはずだ。

 

 ストーリーの内容を朧げに思い出しながら、取り敢えず邪魔にならないテントの隅に背を凭れた。

 ついでにそれっぽく手を組んでみれば、ソーマのポーズの出来上がりと……

 

「みなさんも既にお聞きの通り、このサテライトは、三日後に迫った神機兵との合同訓練で拠点となりますが、近頃〝感応種〟と思われるアラガミの襲撃を度々受けているんです」

 

 アリサがブラッド達の前に立ってポチポチとリモコンのボタンを押すと、プロジェクターが起動し、ホワイトボードにとあるアラガミを捉えた写真が表示された。

 

「それがこちらのアラガミ……〝感応種〟マルドゥーク」

 

 その写真には、マルドゥークが断崖で大きく雄叫びを上げた様子が撮られている。

 

 写真のマルドゥークは片目が結合崩壊しているので、間違いなくヒロが取り逃したマルドゥークであると同時に、俺達が討伐したアーテル・カリギュラのコアをハイエナの如く掻っ攫った奴に間違いないだろう。

 

 コノ恨ミ、晴ラサデオクベキカッ。

 

「……へぇ、コイツが例のか」

「はい。行動や骨格、偏食場の波形から、ガルムの感応種と推測されていますね」

「おお〜、まるで狼みたいですね。ちょっとフワフワしてそうです」

 

 新規のメンバーは三者三様の反応。三人ともヒロが血の力に覚醒した後になってからのメンバーなので、どんな相手なのか実感も湧かないだろう。

 

 しかし、この場には三人、実際に立ち向かったメンバーがいる。

 

「ブラッドの皆さんは交戦経験がおありだと聞きました」

「ええ……と言っても、我々も有益な情報は持っていませんが……」

 

 マルドゥークと対峙していた際、その場に居なかったジュリウスが、チラッと隣のヒロを見遣った。

 

「なあヒロ、あいつに一撃お見舞いしてやったお前から何か無いのかよ。どこが弱点とか」

 

 更にロミオの言葉で数秒考え込んだヒロは、何かの情景を思い出したらしく神妙な顔つきで……

 

「尻尾も……なかなか威力がありました……?」

「──プフッ」

 

 こら、シエルさん。

 人が真面目に話しているのに笑わないで。

 

「ヒロな……すみません続けて下さい」

「あ、アハハ……それでは、皆さんこちらに来て下さい」

 

 今回の調査の概要については、この後トレーラーに乗り込んで、移動しながら説明された。

 

 マルドゥークはサテライト近くの要害、岩山地帯を根城にして群れを統率し、度々アラガミをサテライトへけしかけているらしい。

 

 しかし、小型アラガミが多く険しい地形のため索敵が難航し、マルドゥークの正確な位置も掴めていないんだそう。

 

 調査に向かう要員はブラッドから三人選出し、俺とアリサが案内役兼戦闘要員を務める。

 

 今はその岩山地帯をトレーラーで駆け抜けているのだが、地形が地形なので、激しい揺れが常時襲ってくる。

 

 俺は船酔いとかはないが、ロミオが既にかなりヤバそうな表情をしている。

 エチケット袋でも持ってくれば良かったか。あ、口抑えた。

 

 それと、激しい揺れによる弊害がもう一つ……激しく揺れるのだ。

 主に俺やアリサが。それ以外は男と……

 

「……貧乳で悪かったですね」

「…………えと」

 

 と言うのは、今回初めて任務を共にする(くだん)の新人、日霊トウカ。

 

 ノルンのデータベースによれば、現在入隊一ヶ月にも関わらず、討伐スコアは入隊一年以上の神機使いに勝るとも劣らず、ブラッドの中で見ても、ジュリウスやヒロに迫る勢いだとか。

 

 まあ、この前神機の変態発言をしてくれやがったので、真正面から叩きのめしてやったのだが……あれ以降も、実は何回も神機を触らせて欲しいと強請られ、結局俺が根負けした。

 目の前での鑑賞で、完全ノータッチだが、それでも十分だったらしい。

 

 なんだかんだで、今ではちょっとは話す仲になってしまった。

 

「……はぁ。この身の唯一の不幸です。神機にも適合したのに、渡る世間は胸ばかり……絶対おかしいですよ。そもそも、貧乳の神機使いって極東だと私とジーナさんしかいないって何なんですか、当てつけなんですか? 神機使いに貧乳は要らねぇよ、ペッ!って事なんですか!? そこんとこどうなってるんですか! 貧乳の神機使いへの福利厚生はないんですか!」

「……ぅん」

 

 激しく捲し立ててくるが、色々ツッコミどころしか無くてなんて返せばいいのか分からない。

 

 ってか、サラッとジーナさん引き合いに出したけど、後でスナイパーでブルズアイされても俺は知らないからね?

 

「しかも、アリサさんなんて惜しげも無く晒して……なんで閉めないんですか?」

「えっと、これは、その、チャックが閉まらなくて……」

「服くらい替えて貰えばいいと思いますが……そんなものを着て恥ずかしくないんですか?」

「──ふぐっ」

 

 巨乳だからか、辛辣な口調でそう言われて、アリサは精神に大ダメージを負った。

 二年前から下乳なので、その分も響いたらしい。

 

 だが、言われっぱなしで済まさないのがアリサなのだ。トウカをピシッと指差して……

 

「そ、そんなこと言ったら、トウカさんはブラッドのピチッとした制服じゃないですか」

「い、いいじゃないですか! 外出用はこれしか服持ってないんです!」

「えっ……服、無いんですか?」

「な、なにおう! 持ってなくて悪いですか! 私はですね、そもそも一級整備士にして神機を操り神を喰らう者……そんなオシャレとか、全く分からないんですよ! リッカに聞いても、自分も作業着と学校の制服しかないって言われましたし!」

「……そ、それじゃあ、その……一緒に買いに行きましょうよ、〝しま◯ら〟で」

「し、〝し◯むら〟……?」

 

 女性陣がファッションセンター談義で忙しそうなので、今度は正面を向いてみる。我らがブラッドの男性陣だ。

 

 見ればジュリウスは気まずそうに顔を逸らし、ヒロはこちらをガン見し、ロミオは顔を青くして今にも吐きそうになっている。ロミオはこういう地形だと乗り物酔いするらしい……

 

 しかし、まるで隠す気のないヒロは何なのだろうか。

 ハルさんの影響か……しかも、アリサばかり見てる。

 

 下乳がプルンプルン動く様を見ずにはいられないのは、まあ、俺も見たくはあるけども、俺には見向きもしていないというのは何だかムカつく。

 人外っ娘の胸は受け付けませんってか。そんなに銀髪ロシアっ娘がいいのか。

 

 俺の侮蔑の視線に気付いてか、ヒロが盛大に顔を逸らした。

 ガタンゴトン揺れ始めた瞬間、目を閉じ横を向いた紳士なジュリウスとは大違いだ。

 

 そのまま十数分ほど経つと、トレーラーの運転手をしていたギルが振り向きざまに異常を知らせてくる。

 

「おい、南西の方角にオラクル反応だ!」

「分かった。行くぞ、皆」

「「「「はい!」」」」

「……ん」

 

 ジュリウスの号令で四人が立ち上がり、各々が外に出て持っていたケースから神機を取り出す。

 

 俺も皆に倣ってケースを開き、神機を手に取る。

 

 まるでソーマの神機のように真っ白な二振りは、まだ数日しか使っていないのにすっかり俺の手に馴染んでいた。

 

 俺のコアや素材を使用しているからか、またはその見た目故か……

 

「あっ、シアンちゃん上!!」

「……?」

 

 顔を青ざめさせてアリサがそう叫んだ。

 同時に空に現れたのは一匹のオウガテイル。

 

 どこからともなく現れたそいつは、俺を眼下に見下げながら、食らわんと大きく顎門を開いて、高台から飛びかかろうとしている。

 

 距離はわずか数メートル。常人か普通のゴッドイーターなら首をガブリといかれて即死だが、俺には偏食場を正確に捉えられる耳がある。

 その場所に居るのは予測済みなんだよなぁ。

 

「……ほいっと」

 

 予測した通りのタイミングに襲撃してきたオウガテイルを縦にスパッとやる。

 もともと肉質が柔らかいので、なんの抵抗も無く刃が通り、オウガテイルは瞬く間に二枚におろされた。

 

 なんか、上から襲ってくる敵を左右に斬り分けると名うての剣士感ある。……あるよね?

 

「え、ええぇ……? シアンちゃん、あんな感じだっけ……?」

「……アリサさん。これが現実です。神機持ったシアンは最早チートなんですよ」

 

 後ろの方でヒロが好き勝手言っているが、このくらいなら前も出来た。

 

 ふっふっふ……後でこの神機の真の力を見せてやろうじゃないか。

 

 そう息を巻いて索敵するも、岩山地帯なだけあって、中々見つからない。

 確認できる偏食場も、ポツポツと点在しているコクーンメイデンくらいなものだ。まあ、それらもまとめて掃討していくが。

 

『ッ……対象を捕捉した! ヤクシャ・ラージャだ!』

『ジュリウスさんが交戦を開始。速やかに救援をお願いします』

 

 ……むむっ。

 

 先に見つけたのはジュリウスらしい。

 マップを確認すると、ここから一キロ先にジュリウスの反応がある。

 

 距離が遠い、なんて時こそ……

 

「……神速のイン◯ルスッ」

 

 直後、俺の身体が前に吹っ飛んだ。

 

 神機を後ろに持ちながらインパルスエッジをするという、俺開発の高等テクである。オラクルをかなり消耗するが、異次元の加速を可能にする。本物の神機かつリッカ独自の調整が施されたインパルスエッジは正に神速。

 因みにどこぞのアメフト漫画とは全く関係無い。

 

 岩山という地形を利用し、立体機動でジュリウスの下へ向かうと、驚くほど直ぐに、ヤクシャ・ラージャの姿が確認できた。

 

 そしたら、もう一回インパルスしてからの……捕食!

 

「グァッ!?」

「なっ……!?」

 

 反動のトップスピードのまま肩に捕食口を食らいつかせると、肩を腕ごと食いちぎり、右の剛爪が地面にズドンと落っこちた。

 

 突然の攻撃に、ジュリウスも唖然している。

 更にそこへ増援が一人。

 

「俺もいるぜ!」

 

 うおおおお!とブラストを撃ちながらロミオが接近するが、活性化状態となったヤクシャ・ラージャはその弾を片腕の剛爪でうまく守りながら近くのジュリウス目掛けてオラクルを射出した。

 

 ジュリウスはもう行動に出ており、オラクルを回避するまでもなく、剣を水平に構えていた。

 ゼロスタンスの構え……つまり。

 

「セアアッ!!」

 

 ──ロングブレード・ゼロスタンスBA(ブラッドアーツ)『神風の太刀・鉄』

 

 ブラッドアーツの発動と共に、ジュリウスの血の力『統制』によってこの場の全員のバーストレベルが上昇し、横一閃と斬撃の嵐がラージャの脚を斬り付ける。

 

 しかし傷は浅い。ラージャはまだ余力を残しており、その場から退却しようと踵を返した。これから捕食に向かうのだろう。

 

 ここで追撃しておかないと、後々面倒な事になる。

 

 さあ……刮目せよ。我らがリッカちゃんとトウカが、俺に言われずとも組み込んだ、この神機の新システムを。

 

 神機の末端、エンドグリップ同士を向かい合わせると、丸い部分が開いて、接続用のコネクタが現れた。

 

 これに互いのコネクタを差し込めば、その瞬間、両端のロングブレード、銃身が縮小し、柄が火花を散らしながら伸びていく。

 

『ほら、前々から打診があったアレだよ。二本を一本に纏めるって機能。でも、まだ試作段階だから強度が心配だから、戦闘中は多用しないでね』

 

 というリッカちゃんの注意喚起を貰いつつ、実現したこの形態。

 

 前に踏み込み、大きくステップすると、この長いポールを後ろに引き、溜めてから大きく引き放つ。すると衝撃波じみた残光と共に高速でラージャの足元に迫り、奴の左足に穴を穿った。

 

『簡潔に言えば、範囲と一撃の威力に重きを置いてる形態……ロングブレードが二本だと、いざって時に大きくて取り回しが良くないって思って』

 

 

 名付けて────薙刃(ていじん)形態。

 

 

 ──バイティングエッジ・薙刃(・・)形態ステップ△攻撃BA(バーストアーツ)『スラスティングロード』

 

 脚をくじかれたラージャがその場にくずおれた。

 

「……今っ!」

「はい!」「分かった!」

 

 俺の合図で、岩山の裏に潜んでいたヒロとアリサが飛び出し、ロングブレードで頭部に襲いかかった。

 

 刃が突き刺さり、暴れようと身体を動かしたが、それも一瞬の事で、二人が刃を引き抜けば徐ろに倒れ伏した。

 

『ヤクシャ・ラージャのオラクル反応、消失しました』

 

「……ふぅ、討伐完了っと」

「ああ、小型アラガミも全て殲滅されたようだ」

「ええっ!? こんな短時間でかよ!?」

「散開しつつアラガミを撃破していましたもんね。この一帯のアラガミは当分居なくなると思います」

 

 みんながそう言ってホッと息をつくが、それにはまだ早い。

 

『現在、トウカさんが感応種を誘導中。十秒後に作戦エリアに侵入します』

「あれ? まだ終わってなかったの!?」

「……寧ろ、こっちが本命」

 

 神機を構えると、岩山からトウカが飛び出してきて、後を追う青い鳥の感応種……イェン・ツィーが姿を現した。

 

「誘導完了、ようやく戦えますね……っと!」

「ギュアッ!?」

 

 トウカが振り向きざまにヴァリアントサイズを振り下ろし、咬刃によって拡張された一撃がイェン・ツィーを叩き落とす。

 

「シィィ──ッ!!」

 

 続けて、ジュリウスの『神風の太刀・鉄』がイェン・ツィーを切り刻む。

 

 そこへ、ヒロ、アリサ、ロミオが駆け出し、一斉に捕食。トウカも上から『パニッシャー』で翼に齧り付く。

 

 そしてすぐさま、リンクバースト弾がこちらに渡され、フルバースト状態になった。

 

 起き上がったばかりのイェン・ツィーに一瞬で肉薄すると、上に飛び上がり、青い閃光を散らしながら斜め下に一閃、ぐるりと薙刃を回転させて逆方向に一閃。大きく背中に十字の傷を付ける。

 

 ──バイティングエッジ・薙刃形態エアリアルボルトBA『コズミックボルト』

 

 その直後、イェン・ツィーが起き上がると共に両腕羽を振るうのを盾で受け止めると、ヒロがステップで懐に入り、『ドライブツイスター』で円を描きながら斬り上げる。

 

 だが、イェン・ツィーは分かっていたかのように横っ飛びに回避すると、氷の矢を飛ばし、ヒロはそれを斬り払って防ぎ切った。

 

「援護します!」

「おうよ! こっち来い!」

 

 ダッと駆け出す俺とトウカに合わせるようにして、アリサとロミオがバレットを放つ。

 

 イェン・ツィーはそれを腕で庇いながら(・・・・・)前進して、移動しながら腕に形成していた氷の玉を放った。

 

「まさか……〝動異種〟……?」

 

 ホーミングする氷の玉を躱しながら、アリサがそう零した。

 

 〝行動変異種〟……通称〝動異種〟と呼ばれるアラガミは、データベースにもあるように、通常では有り得ない行動を取るが故に意表を突かれたり、隙が無いのだ。

 

 特に、それが人を模したアラガミ──シユウ神属なら、尚のことタチが悪い。

 

 実際、シユウ神属の動異種との戦闘はベテランでも無事では済まない事が多く、今のように走りながら攻撃を溜めるなどザラにある。

 

『すみません、確認が遅れました! このイェン・ツィーは〝動異種〟です! 本来の行動パターンを当てにしないように!』

『了解した。各員、防御に専念しつつ、一斉攻撃出来る隙を作り出せ!』

『『了解!』』

 

 指示を受け、イェン・ツィーと最も近かったトウカが駆け出した。

 

 それに、イェン・ツィーは氷の矢を飛ばして牽制。トウカがそれを払うのに手間取る。

 

 しかし、ここで飛び出したのはヒロ。俺もそれに合わせるように、走るイェン・ツィーの背後、ヒロと反対方向から迫っていく。

 

 薙刃形態を解除し、左の神機を銃形態に変形して、ブラストから俺の自作バレット──『RYU☆SEI』もとい、メテオをぶっ放す。

 

 頭上から降りかかる火球を、イェン・ツィーがひらりと回避するが、LLの爆風の範囲内に居たため、三発をモロに食らい、よろめく。

 

 そこへ、ヒロがすかさず神機の一撃を見舞う。

 

「キュイイッ!?」

 

 いきなり顔面を斬りつけられたイェン・ツィーが後ろに数歩引き下がってから踏ん張ったが、そこはもう俺のキルゾーンだ。

 

 そう思い突貫して……寸前になって悪寒が走る。それは的中していたが、盾の展開は間に合わず、よろめいていたのが嘘かのように横にステップ、からの右腕の平手打ちを全身で食らって、大きく吹き飛ばされた。おまけに全身の骨にヒビが入る始末だ。痛い……

 

 硬い岩肌からどうにか体を起こし、回復錠改を胃に放り込む。早いとこ戦線に復帰しないと、誰かが重傷を負いかねない。

 

『アラガミ、活性化! 偏食場パルスの影響で、アリサさんが狙われています! 気をつけてください!』

「了解! 防御に専念します!」

 

 通信を聞いて、アリサなら一先ず安心かとホッと息を吐く。イェン・ツィーが偏食場パルスを発したと同時に発生した新たなチョウワンどもは、ジュリウスとヒロが対応に当たってくれていた。 

 

「お、おい。もう立ち上がって大丈夫なのか、シアン?」

「……ロミオ」

 

 平手打ちで派手に吹き飛ばされた俺を心配して来てくれたらしい。

 

「……特に問題はない。再生は早いから。それより、ロミオはチャージクラッシュの精度に自信、ある?」

「え? まあな。シアンにも訓練で扱かれたから、かなり狙った所でぶちかませるぜ!」

「……それなら重畳。ロミオは、あの岩場で待機してて」

 

 俺が指を指した方向を見て、「なんか、よく分かんないけど、分かった!」と走り出したのを確認すると、身体を起こし、交戦地点に戻る。

 

 そこでは、ジュリウス、ヒロ、トウカがイェン・ツィー相手に交互に攻撃していた。

 

「ヒロ、今だ!」

「はい!」

 

 ヒロの血の力が高まり、刀身が青白く染まると、横に大振りの三連撃を見舞う。

 

 ──ロングブレード・△攻撃BA『波濤斬り』

 

「キュアアンッ!!」

 

 だが、イェン・ツィーはそれを敢えて翼で受けると、脚に冷気を纏わせた。

 

 あの構えは、リザレクションのシユウの動き……危ない!

 

「──ヒロッ! こっちへ!」

「ああ!」

 

 ヒロがこちらを認識した瞬間、俺はヒロに感応波をチューニング、完全に同期させた。

 

 

 

 

 

ジュリウス、シエル、ロミオ、アリサ、ソーマ

ジュリウス、シエル、ロミオ、アリサ、ソーマ

 ヒロが同時にバックラーを展開、音速を超える速度の脚撃をジャストガードし、防御し切った。

 

『シアンさんとヒロさんのエンゲージ、成立!』

 

「ほ〜、これが噂に聞くエンゲージとやらですか……興味深いです」

 

 トウカがプレデタースタイル『ゼクスホルン』で後退して喰らいつつ、エンゲージの光を見て目をギラッギラさせていた。

 そう言えば、彼女と任務を共にしたのは初めてだった。いつかは彼女ともエンゲージをしてみたいな。

 

 頭の片隅でそんなことを考えながら、薙刃形態となった神機で舞うようにポールを回転、その度振るわれる刃がイェン・ツィーの翼を切り裂く。

 

「キュアアアッ!!」

 

 その直後、イェン・ツィーが上空に飛び上がった。あれは滑空ではなく、高高度からの降下強襲。

 

 今の対象は……アリサか!

 

 肩越しに振り向き、後ろでチョウワンの対応に追われていたアリサの下へ向かおうとして、一つの人影が俺より早く飛び出した。ヒロだ。

 

「こっちは任せろっ」

「……了解!」

 

 急降下し、アリサに飛びかかる寸前でヒロが割り込んだ。常時ジャストガードの効果で、衝撃をある程度受け流しつつイェン・ツィーを盾へ引き付けた。

 

 ステップから『スラスティングロード』で急加速、エンゲージで二割増しの威力になった薙刃をイェン・ツィーの背中に突き刺し、上に飛び乗る。

 

「行くぞ──はぁっ!」

 

 ジュリウスが斜めに斬り上げてコンボ捕食。イェン・ツィーの片膝が屈する。

 

「トウカ!」

「任せて下さいっ!」

 

 咄嗟に後退したジュリウスの号令でトウカが片脚を屈め、もう片脚を大股に広げる超低姿勢のまま、片手の膂力だけで咬刃展開中の鎌を振るうと、脚を斬られて、払われたイェン・ツィーが転ぶ。

 

「うっ……あああッ!!」

 

 最後の仕上げとばかりに俺が薙刃のポールを両手で掴んで、転んだ勢いそのままにイェン・ツィーを空中に舞い上げた。

 

「……ロミオッ!」

「おう!」

 

 すぐそこの岩場から、チャージクラッシュを纏わせたロミオが跳んで、下段から溜めに溜めて……

 

「ぶちかますぜ! うぉりゃ──」

 

 疲弊状態の筈のイェン・ツィーが、チャージクラッシュをしようとしていたロミオの神機に容赦なく横から蹴りを入れた。ロミオが音もなく吹っ飛んでいく。

 

 ……もっと空気読んであげてやってもいいのになあ。

 

 ロミオにひっそりと両手を合わせつつ、幸い未だ身体は空中にあるイェン・ツィーまで跳び上がる。と同時に、深い紫を刃に宿らせ、一回転して振り下ろすと、オラクルの刃が無数に吹き荒れ、切り刻まれた。

 

 ──バイティングエッジ・薙刃形態空中△攻撃BA『ファントムペイン』

 

「キィアアアアッ──!」

 

 イェン・ツィーは地面に叩きつけられて、耳障りな断末魔を上げた。

 

『イェン・ツィーのオラクル反応、消失しました。これにて任務完了です』

 

 ヒバリちゃんの宣言で、ようやく終わったかと身体の力を抜いた。

 

「周囲に新しいオラクル反応は?」

『今のところありません』

「了解。帰投する」

 

 ジュリウスの一言で、そばに居たアリサ達がぐったりと倒れこんだ。

 

「つ、疲れましたね……」

「はい、本当に厄介でした……」

「〝動異種〟も研究が進めば良いのですが……それよりシアン! 後で薙刃形態に関してのレポートの提出、お願いしますね! まだまだ改善の余地がありそうなので!」

 

 トウカさん、あんた本当に神機にしか目が行かないな……

 

 分かっていたことながら呆れて、吹き飛ばされていったロミオの方を見に行く。

 怪我はパッと見なさそうだが……

 

「ロミオ」

「……大丈夫?」

「っ〜〜〜、頭打ったぁ〜〜〜……」

 

 俺とジュリウスがロミオの顔を覗き込むと、すごく痛そうな顔をしていた。口が〝へ〟の字にひん曲がって涙目になっている。

 

「……え? あれ!? もう終わり!?」

「ああ、帰るぞ」

 

 ジュリウスがロミオに微笑みかけると、ロミオの視線がある一点に集中した。

 

 俺……というより、地面に突き立てている神機だ。

 

 勢いよく立ち上がり、ガバッと俺の両肩を掴んだ。凄い目をキラキラさせながら顔を近付けてくる。

 

 うおお、なんだなんだ、近いぞ。

 

「お、俺これ知ってるぞ! 極東の武器、〝ナギナタ〟だろ! すげぇ〜! 神機にもあるなら、俺も使いたかったなぁ〜!」

「……それは無理。試験段階のものだから」

「てことは、将来的には使えるってこと!?」

「……どう、だろう」

「へへっ、そんな器用じゃないけど、やっぱちょっと興味はあるんだよな〜」

 

 世紀末が加速しているGE3の時代で普通に使われているのなら、それよりも前には実用化されていた筈。

 今回の一件でバイジという武器の登場が早くなれば、ロミオにも機会があるかもしれないが……

 

「皆、車が着いた。コアや素材を回収し次第、帰投準備に入れ」

「あ、今行く!」

 

 ……まあ、それは未来になってから考えればいいか。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

「ブラッドはこのまま現場待機。三日後の合同作戦に合流するまでマルドゥークの捜索を続ける」

「「「了解!」」」

 

 特に何事もなくサテライト拠点に帰還すると、これからはサテライトに泊まり込みになるとアリサから伝えられた。

 

 神機の整備など、各種設備はシェルターの方に整っているらしい。便利なもんだなぁ……

 

「あっロミオだ!」

「ヒロも帰ってきてる!」

「マジで!?」

 

 目を眇めると、道に集まっていた子供達が大騒ぎして、わらわらとブラッドの二人に集まってきている。

 今日一日で、ここの子供達と仲良くなったみたいだ。

 

「ロミオー! ヒロー! オオカミみたいのやっつけたー!?」

「出てこなかった! 見つけたら俺がズバっとやってやったのにな!」

「オオカミのアラガミ、きっとロミオにビビってんだぜ!」

「ロミオすっげー!」

「ロミオかっけー!」

「あれ、俺は……!?」

「こ、これがコミュ力お化けの力ですか……やばいですね」

 

 ……どうやら、人気はロミオに吸い込まれているらしいが。

 

 ロミオを知る者はよく、彼の事を〝人の輪を広げる天才〟と言う。

 

 データベースでも、コミュニケーションの点で評価されているのが分かるし、コウタとは極東に来て速攻で仲良くなっている。

 俺もコミュ強だったら良かったのに……

 

「……シアン、久しぶりだね」

 

 溜息を吐いて項垂れていると、親しそうな口調で話し掛けてくる声が聞こえた。

 孤高なボッチを貫き続ける無口無表情に、こんな風に話してくれる人物を俺は一人しか知らない。

 

 顔を上げてみれば、かなり明度の高く、白みがかった茶色の髪を背中まで伸ばした少女が、優しい微笑みを湛えて俺の前に立っている。

 

「……ん。久しぶり、ユノ」

「うん、元気そうで良かった……」

 

 葦原ユノ。

 

 歌という娯楽さえ廃れつつあるこの世界で、世界で唯一無二の歌姫として有名となっている美少女だ。

 

 歌姫となった経緯とか、極東支部との関わりを説明すると長くなるが、現在はクレイドルの支援を受けて世界を飛び回ったり、サテライトへコンサートをしに訪れたりと、忙しい日々を送っている。

 

 そんなユノと俺が出会ったのは、こことは別のサテライトでの事。

 

 俺もフェンリルに入ったばかりで、アリサに付き添われてサテライトを巡っている最中に偶然会って、ライブを聴きに行ったのがキッカケ。数日一緒にいたり、アラガミの襲撃から守ったり……あとは見た目の年齢が近いのもあって、いつの間にか友達になっていた。

 何気にこの世界で初めての友達で、かなり交流は深い。

 

 ……で、ユノさんや。

 どうして俺は今、貴女の腕の中に居るんですかね。

 

 数秒視線を交錯していたら、ユノが突然腕を俺の後ろに回して、いきなり抱き締めてきたのだ。何故?

 

 構図としては、俺の身長が160無いくらいで、ユノが160後半なので、すっぽり腕の中に収まってしまっている。

 

 で、何故に?

 

 ユノの幸せな感触を一身に受けながら、俺の頭は完全な困惑状態にあった。

 

 え? え?と、見るからにはてなマークを浮かべまくっていたからだろうか、輝かんばかりのにっこにこ笑顔を浮かべるユノは、今にも跳ね上がりそうな声で言い切った。

 

「シアンが、いま私の前で初めて笑った!」

「……そうなの?」

「ちょっとだけど……それが嬉しくてつい、ね?」

 

 ……と、言うことは。

 

 俺は無表情がデフォルトに出来なくなってきていると、そういう事なのか。

 

「……困った」

「えー? 私は笑顔のシアン、好きだけどな〜」

 

 いや、だから、ぎゅ〜ってしなくていいから。ほっぺスリスリもしなくていいから。

 

 でも、悪い気はしない。……前世にも、こんな事をやる変わった女の子とよく関わっていた。

 

 あいつは分かってやっていたが、もしかしてユノ……友達との付き合い方を知らないとか?

 女の子同士でも、普通こんなスキンシップはするもんじゃないよ?

 

「あら、これは中々……」

 

 パシャリ、パシャリ。

 

 そんな音が聞こえてきてギョッと横に振り向くと、カメラを片手に持ったメガネの女性が、したり顔で歩いてくる。

 

 その女性の前に、俺から離れたユノが、「私、怒ってます!」とばかりに頬をプクッと膨らませて立ち塞がった。

 

「ちょ、ちょっとサツキ! 勝手に写真撮らないでよ、もう!」

「いいじゃないこれくらい。見出しは〝歌姫と天使の深き友情〟ってとこかしらね?」

「だーめ! ……あっ、でも写真は個人的に欲しいかも」

 

 ユノいる所に彼女あり。フリーのジャーナリスト兼ユノのマネージャーを務める女性、高峰サツキ。

 あの写真で記事にできるのというのだから、つくづく記者という生き物は強かだ。

 

「それじゃ、シアンちゃんはどうですかね?」

 

 今度はユノの後ろに立っている俺を覗き込みながら、そう聞いてくる。

 ユノが反対しているのもあるが、記事に載っけられるというのが、個人的にあんまりなぁ。

 

 ほら、新聞とかに自分の写真とかあったら気まずいし。

 

「……ユノの意見を尊重する」

「ありゃりゃ、これは手強いですねぇ……」

 

 やれやれ、と肩を竦めると、サツキさんはサテライトを一瞥してから、しっかしねぇ、と俺に視線を戻した。

 

「数ヶ月前まで、ここには何にも無かったのに、あっという間にこんなのが出来ちゃって……〝揺りかごの天使〟が提供してくれる『白材』のお蔭ですかね?」

 

 ……そのわざとらしい質問の仕方、ちょっとイラってくるのは俺だけではないはず。

 

 『白材』とは、俺のオラクル細胞で形成された建築材料のこと。人間に対して偏食傾向の無い俺のオラクルは、人間にとって優しく、かつ頑健な素材として機能する。……いざとなればアラガミへの武器にもなるが。

 

 まあ、普通の木材とかも複製してるから、ここの建設物は大抵俺のオラクル細胞から形作られた建築材料が用いられてると思う。

 

 が、揺りかごの天使という異名は『白材』とはなんら関係ない。これは単に、俺が率いた部隊の生還率が現時点で100%なことに由来する異名が、サテライトで広まっただけである。物資の輸送搬入を請け負うから、この容姿もあって特に人気が出やすかったのだ。

 

 だから、サツキさんがより奇妙に見える。どこからその情報を得たのだろう。

 俺が生成、複製しているという決定的な証拠と共に。

 

「……そこまで知っていて、どうして」

「……単純に気になるって言うのが、ジャーナリストの性としてまず先に立ちますけどね。ユノも気を許してるくらいですし、あのソーマさんの妹なら大丈夫かな〜と」

 

 へ、へぇー……

 

 まさか、ソーマがサツキさんの信頼を勝ち取ってるとは思いもしなかった。ソーマと言ったら無愛想、で語れるレベルで他人に頓着しないし。

 

 割と面食らっていると、ススッと俺の傍までやって来て、手を口許に当ててこそりと囁いた。

 

「貴女がアラガミだって事は、後々の特ダネにとっておきますから……あっ、そう言えば、ソーマさんにも好評だったっていう歌、近いうちに聞かせてくださいよ〜!」

「!?」

 

 ……脅されている、だと!?

 

 しかも、それって……もしかして、初対面の時にエイジスで歌ってたの聞こえてたのか。

 うわ、恥ずかしいって。隠れて聞かれてたとか、洒落にならんよ……!

 

「えっ!? シアンって歌上手いんだ! 私も聞きたいなあ!」

「ほら〜、ユノもこう言ってることですし、ね?」

 

 ね? じゃねえ! サラッとユノを味方に付けるな!

 

 ぐ、ぐぬぬ……卑劣なっ。

 

「………………そこまで言うなら、やってあげなくも──」

「やってくれるの? やったぁ!」

 

 俺の言葉を遮って、大はしゃぎするユノ。傍に居たサツキのメガネがキランと光った。

 

 あ、アカンこれ……いつの間にか外堀が埋められてる……っ!

 

 完全に(サツキ)の術中に嵌ってしまった俺は、大きく肩を落として、素直に降参することにした。

 

 


おまけ

 

 

 ソーマはこの日、珍しく内部居住区の売店に来ていた。

 

(……シアンにプレゼントか。家族へのプレゼントとなると、一体何を渡せば良いのか想像もつかんな)

 

 ソーマとて、一般常識程度のプレゼントへの知識は持っている。主に本を読み込むことで獲得してきたそれらだが、今回に限っては全く役に立たなかった。

 

(……こういう時、普通はアクセサリー系が好まれると言うが、家族の、しかも俗世に居なかったシアンにそれは当て嵌るのか……)

 

 そもそも、家族との接し方さえ分からないソーマである。シアンとの接し方も、家族というより恋人のそれだ。シアンの方は純粋に楽しんだりしてるので、双方気付いておらず尚のことタチが悪い。

 

 そんなソーマが決める判断は、勿論普通ではない。

 

「……選ぶとすれば、ネックレスか、イヤリングか、リングか……だろうな」

 

 別に、わざわざアクセサリーでなくとも良いのだが、そこは長年愛されなかった事による弊害だ。まるで恋人にでもあげるかのようなラインナップだった。

 

 故に、そこが陥穽となり得る。

 

「お? ソーマじゃんか。どうしたんだよ、こんな所で」

「……ああ、コウタか。丁度いい、少し付き合え」

 

 え? とたまたま通りかかったコウタの腕を掴み、店の方まで引っ張っていく。

 

「……アクセサリーショップ? なんか、すんげぇソーマに無縁そうな場所だな」

「そりゃあそうだろう。で、質問だが……お前は妹にあげるとしたら、ネックレスかイヤリングかリングだったらどれにする?」

「え? 指輪だけど」

 

 コウタが即答した。地下に流れる筈もない風が、ぴゅうっとソーマとコウタの間に流れる。

 

 そう。コウタはシスコンである。妹の為なら何でも出来ちゃうレベルにシスコンだ。前にソーマが藤木家に訪れた際、妹の「絶対帰ってきてね」の言葉をソーマに取られて、思わず車の荷台で洗濯物のように項垂れる程なのだ。今も、「お兄ちゃん結婚しよ! って言われたら尊死しそう……」と軽くトリップしている。相談する相手を決定的に間違えていた。

 

 真顔でコウタがそう言うものだから、ソーマもつい神妙な顔つきになった。

 

 そしてもう一度言うと、ソーマは家族に渡すプレゼントというものがどんなものかを知らない。

 

(……指輪は着ける指によって意味合いが異なるとも聞くしな。それに中指が薬指あたりなら邪魔にもなりにくいだろう)

 

 そして、何とはなしに見つけた、アメジストの指輪……7万fc。

 

(意外と高ぇな……)

 

 1fcが円換算で十円と言えば、その価値も分かるだろう。

 

 まあ、ソーマは音楽を聴いたりする程度しか金を使わないので、研究用途以外では金が有り余っている。

 

 なので、サクッと購入。ついでにコウタも妹への指輪(10万fc)お買い上げしていた。

 

 そして、神機整備室へ駆け込む。

 

「リッカ、居るか?」

「ん〜? あれ、ソーマ君? どうしたの?」

 

 溶接マスクを上げてソーマの顔を視認すると、リッカはキョトンと首を傾げた。それに、ソーマがプレゼントの袋を掲げて返答する。

 

「シアンへのプレゼントを買ってきてな。一応、リッカに確認しに来た」

「別にわざわざ確認しに来なくてもいいのに! でも気になるなあ。何買ったの?」

 

 ゴソゴソと袋の中から小箱を取り出し、パカッと開いて指輪を差し出した。リッカの笑顔が凍る。

 

「……え、えと、これはシアンちゃんへのプレゼントだよね」

「……そうだが、何かまずかったか?」

 

 いやマズイよ! と、リッカは声を大にして言いたかった。

 なんでよりにもよって、チョイスが指輪なのかと。

 

 しかも、リッカの目で見ても明らかに高価だと分かる代物である。

 

(義理とはいえ、い、妹に指輪かぁ……ネックレスとかなら分かるけど……でも、高そうだし、シアンちゃんも、男の人から指輪貰う事の意味は分かんないよね! 多分!)

 

「ぜ、全然問題ないと思うよ! うん、シアンちゃんも喜ぶよ!」

 

 投げやりだった。リッカちゃんもキャパオーバーらしい。

 

 だが、コクコクと頷くリッカに、ソーマは我が意を得たり!と内心ガッツポーズを決めつつ指輪を仕舞った。

 

「世話になったな」

「あ、うん、またね……」

 

 小さく手を振ってソーマを送ると、リッカは溜息を吐いた。

 

 兄妹仲に亀裂が生まれませんように、と祈りつつ。

 

 

 

 

*1
高い人口密度で住人が居住している建造物のこと。狭義としては生産・消費活動が自己完結している建造物のことであり、広義としては都市に匹敵する人口を内蔵する建造物のことを言う。(Wikipediaより抜粋)

この場での意味合いは狭義にあたる。

ソーマ君がシアンに渡すプレゼント

  • ネックレス
  • イヤリング
  • 指輪(え
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