神さまばっかの世紀末な世界に、俺が望むこと   作:赤サク冷奴

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過去との邂逅
今明かされる衝撃の真実……!的なやつ


 

 

 

 

 

 

 

 ──誰か

 

 

 

 

 

 

 ──誰か、教えて

 

 

 

 ──わからない

 

 

 

 ──私はどうすればいいの?

 

 

 

 ──私たちに、生きる意味はあるの?

 

 

 

 ──ねぇ、誰か……教えて

 

 

 

「私に、教えて……あい……ソーマ……」

 

 

 

 

 ……ひとりぼっちの少女(シアン)は、記憶の底で啜り泣く。

 

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

sideロミオ

 

 

『ロミオか……どうかしたのか?』

「遅くにごめんな。ちょっと……お前と、話したくてさ」

『……そうか』

 

 もう、太陽も沈んだ頃……俺は、昔からの友達に電話を掛けた。

 

 無性に、誰かの声が聞きたくて。

 

 一人でいると、この暗い気持ちがどんどん沈み込むような気がしたから。

 

「そっちは仕事の方、大丈夫か? あんまり無茶してっと、局長さんにどやされるから気を付けろよ?」

『……ふふ、大丈夫だ。ここの所は幸い、特務が少ない。それよりも、極東のことを聞いた。神機兵との合同演習の件……大変だっただろう』

 

 ……何せ、俺は一度死んでるくらいだしな。

 

 今朝、サカキ博士から言われたことだった。

 

 でも、生き返ったって言っても、俺は喜べない。喜べる筈もない。

 

 

 

 だって、それが……シアンの命を引き換えにしたものだったから。

 

 

 

『現在……シアン君は死亡している。コアを貫かれ、正真正銘、アラガミとしての死を迎えているんだ。このまま自然に彼女が回復することは、無いと言っていい』

 

 そう言った博士は、昨日……シアンの身に何が起きたのかを説明してくれた。

 

 俺が死んだ時……シアンは、俺を失った時、深い後悔と負の感情に囚われて、偏食場のパラメータ? とか、なんかよく分かんないけど、それがマイナスに振り切れていたらしい。〝負の意志の力〟みたいなものだって言ってた。

 

 

 絶望でも、それが強い感情なら……意志の力になってしまう。

 分かりやすい例は、ナナが血の力を暴走させて、沢山のアラガミが引き寄せられたとき。

 

 あれは、ナナが昔の記憶を取り戻して、自分がお母さんを殺したんだって、泣いていたから……それが、血の力を暴走させた。

 

 

 通信が開かれてたから、ヒバリさんがシアンが死ぬ直前の会話を耳にしていて、録音もされてた。

 

 曰く、自分が死ねば、何もかも解決する。

 

 曰く、自分がいたって、誰も救えないし、何にもならない。

 

 普段のシアンからは想像もつかない口調で……でも、これがシアンの本当の姿だって、俺には分かった気がした。

 

 あんまりだった。

 

 自分だけが何もできなくて……二番目にブラッドに入ったのに、みんなに追い抜かれてった俺を励まして、しかも、命まで助けてくれたのに、誰も救えないなんてのは……

 

 もう届かないのに、八つ当たりみたいに水槽の中のシアンにがなり立てて、俺は怒ったんだ。

 俺は、シアンに救われたんだって。それを勝手に、自分で決めつけて逃げるのは卑怯だって。

 

 恩人を……好きな人を否定されたのは、我慢できなかった。

 それがたとえ本人でも、俺の中のシアンは、ただ一人のかっこいいヒーローだったから。

 

 それを、他でもないシアンに貶されたから。

 

 それからの話は、あんまりよく覚えていないけど……博士は、シアンを生き返らせようとしているらしい。

 

 そう、ヒロが落ち着いた俺に説明してくれた。

 

 シアンはアラガミとして厳密には死んでるけど、意識としてのシアンはまだ生きていて、まだシアンの中に残っている。

 

 そのシアンの意識を留めているのが、あの心臓から突き刺さった神機だとかで、無闇に外せば、シアンはオラクルになって本当に死んでしまい、どうこうする術もなくなってしまう。

 

 シアンが生き返らないのは、本人に生きようとする意志がないから。

 負の意志の力が、アラガミにとって重要な偏食場とかに作用して、アラガミとしての形を保てなくしているから……だから、どうにかアラガミの形にさせている神機を外すと、本当に死んでしまう。

 

 だから、どうにかしてシアンが心から生きたいと思えるようになれば、供給されたオラクルですぐにコアを再生して、戻ってこられるんだと。

 

 少しだけ、希望が見えた。でも問題は、どうやってシアンに俺たちの言葉を伝えるかだった。

 

 意識の奥底で眠っているシアンには、どんな偏食場を与えても、その深くまで届かない。だから、水槽越しから話す言葉だって、シアンには聞こえていない。

 

『……ミオ、ロミオ。聞こえているか? 返事が無いぞ』

「──っへ!? あ、あー悪ぃ! ボーッとしてた……」

『……やはり、あの作戦で何かあったのか? 随分、深刻そうだが……』

「……うん、色々、あってさ」

 

 そうか……と、一言言って、何も聞いてこなかった。

 

 でも、それがこいつの思いやりなのを、俺は知ってる。

 

 俺は結構何でもかんでもズカズカ踏み入るけど、それを一歩後ろから見てくる。

 

 だから、俺が踏み入られたくない時とか、踏み入って欲しい時とか、そういうのを察してくれるんだ。

 

 正直、俺はまだ心の整理もついてないから、あれこれ訊かれても、何て反応すればいいのか、分かんないんだ。

 

 本当に、優しい友人だと思う。俺が誇っていいくらいだ。

 

「……あ、でも聞いてくれよ! 俺、やっと血の力に目覚めたんだぜ!」

『……それは喜ばしい報告だな。正直に言うと、最近のおまえはどこか危なっかしい印象があった。急いては事を仕損じる……杞憂に終わって良かった』

 

 い、いや……実は、目覚めるまでに一悶着あったんだけどな。

 

 ギルに当たっちまったし、みんなを心配させたから……

 

『どんな能力に目覚めたのか、良かったら私に聞かせて欲しい』

「おう! サカキ博士の話だと、ええっと……『広い範囲に存在するオラクル細胞に対して意志の疎通を行い、不活性化を促す』……とか、そんな感じ。アラガミに使うと、視覚とか聴覚とかが鈍くなったり、あと追い返したりできるんだぜ。目覚めてから、検査でしか使ってないからアレだけど、多分スゲー便利だと思う!」

『それは確かに有用だな。乱戦を回避し、アラガミの各個撃破が容易になる。……ナナの〝誘引〟とは逆ベクトルで味方を守る能力と言えるだろうか』

「あ、それナナにも言われた」

 

 ブラッドじゃないのに、俺が話したみんなの血の力覚えてるって、改めてスゲェなぁって思う。

 あ、でも……あの人の下ならそれくらい知ってて当然なのか?

 

『……ところで、おまえの力に名前はあるのか?』

「そうそう、それなんだよ! 今日相談したかったのは、俺の血の力の名前! 色々考えてみようと思ったんだけど、俺あんまし頭良くないからなー。サッパリ思い浮かばなかった。だから、なんか良いアイデアないかなって思ってさ」

 

 ナナとかに相談しても、〝アラガミバイバイ〟とか、熟語じゃないのばっかり提案されたし、ジュリウスも「お前が付ける名前の方が良い」って言って逃げたし、ヒロはネーミングセンス壊滅的なんだよなぁ。

 

 なんか良いの思い浮かんだー? って訊いてみると、少し沈黙してから、逆に訊かれた。

 

『そう言えば、おまえの血の力は『オラクル細胞への意志の疎通を行う』のだったな』

「へ? そうだけど」

『……なるほどな。なんとも、おまえらしい能力だ』

「あれ!? それ、褒められてる!?」

 

 俺らしいって……向こう見ずで、なんかちょっと馬鹿っぽいってこと?

 

 ……なんか、自分で考えといて思ったけど、俺、自分への認識が捻くれてるなぁ。

 

 自嘲していると、『ああ、褒めている』と、感慨深そうに言ってきた。

 

『……おまえは、施設で孤立していた私に、懲りずに何度も話し掛けてくれた。私にできることを、少しずつし始めていこうと、約束してくれた』

「……それって」

『懐かしいな……もう、あれから随分と経った』

 

 ああ……もう、七年くらい経ったかなあ。

 

 でも、初めて会った時の事は、今でも思い出せる。

 教室の隅の机で、一人になって外を見ている、そんな、独りぼっちな後ろ姿を。

 

 なんだかほっとけなくて、つい声を掛けて……口を利いてもくれなかったから、俺もヤケになって口を開かせてやろうと、あれこれ話し掛けたりしてた。

 

『ロミオ。おまえの血の力の本質は……誰かと時間を掛けて仲良くなれる、そんな〝対話〟の力だと思う』

「……〝対話〟の、力」

『ああ。おまえに救われた私が保証しよう。私は……〝対話〟という名前が良い』

 

 そう言われると、なんだか心にストンと収まったような気がした。

 時間を掛けてお互いのことを分かり合えた、そんな友達だからこその、信頼というか、納得というか……

 

 対話……〝対話〟かぁ。

 

 俺って、そんな風に思われてたんだなぁ……

 

「……へへっ、ありがとな。俺もその名前、気に入った。……うん、これから俺の力は、〝対話〟だ!」

『ふふっ……そうか。気に入ってもらえたか』

 

 俺がはしゃいでそう言うと、一緒になって喜んでくれた。

 

 やっぱ……優しいな。

 本当に。

 

「明日、博士にそう名前を付けて貰うように言っておくよ。今日は本当にありがとうな、リヴィ(・・・)!」

『礼には及ばない……おまえの力になれて良かった』

「おまえも大袈裟だなぁ……じゃあ、また暇な時に」

『そうだな。たまには、こちらから連絡するよう心掛けよう』

「おう。じゃあな!」

『またな、ロミオ』

 

 ピッ、という音ともに、電話が切れる。

 

 そのまま、ベッドに身を投げ出すと、大の字になって天井を見た。

 

「……リヴィ、元気そうだったな」

 

 俺がたくさん作ってきた友達の中でも、一際特別で、頻繁にメールや電話でやり取りしている子だった。

 

 いっつも俺がブラッドの事を話すから、直接会ってもないのにリヴィはこの極東にいる誰よりもブラッドに詳しくなってる。

 それこそ、ブラッドの一員としてリヴィが居ても、違和感無いんじゃね……?

 

「あー……一緒に戦ってくれたら、心強いんだけどなぁ」

 

 一応、リヴィもP66偏食因子を打たれた第三世代の神機使いなんだけど、何でも使われた偏食因子が初期型だから、血の力は目覚めないらしいし、そもそも別の力があるから、ブラッドには来てくれない。

 

「あ、でも……仮に入れてもジュリウスと居たら、ちょっと気まずいかな。ずっと無言になりそう」

 

 そもそも、リヴィはそんなに喋らないし。

 

 でも、シアンとなら意外と相性良さそうなんだよな。

 ああ見えて、リヴィは俺より面倒見が良い。怪我とか見つけたら過度に心配してくる。俺が木から落っこちる度に包帯でぐるぐる巻きにされてた日々が懐かしいよ……

 だから、全然怪我に頓着しないシアンには、いいパートナーになってくれる筈だ。

 

「……その前に、シアンを助け出してやらなくちゃ」

 

 問題はあるけど、光明は見えた……と思う。

 後は、俺たちが頑張るしかない。

 

 うっし、と気を引き締めると、明日からの任務に備えて、ベッドに入った。

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

sideソーマ

 

 

 ……やはり、感応波を用いた干渉は難しいか。

 

 PCに送られてきた実験結果に舌打ちして缶のコーヒーに口を付けるも、中は空だった。

 

 もう、あれから二週間経っていた。

 

 シアンを目覚めさせる実験は遅々として進まず、この短期間で完全に行き詰まっていた。

 

 アラガミの構造には、明確に脳というものが存在しない。細胞全体がデータのメモリやバッファ、つまり、細胞自体が記憶を保持するものとして機能しているからだ。

 

 だが、それらをまとめる大元が……コア。オラクル生物学上で言う、オラクルCNSと呼ばれる器官だ。そいつを人工的に改良したモンが、神機などに使われるアーティフィシャルCNSだ。

 

 CNSというのは、中枢神経系(Central Nervous System)を意味する用語で、中枢神経系っつうのは、脳と脊椎を含め、思考や本能といったものを司る生物にとって重要な役割を果たすもの。

 

 アラガミの場合、それがコアという形になって収められている。

 

 ここを破壊されたアラガミは、体内偏食場によるオラクル細胞群の統御を失い、アラガミとしての形を保てなくなってオラクル化し、離散。いずれはそのオラクルがコアを再形成し、新たなアラガミが生まれる。

 

 アラガミがこの世から抹消出来ないとされている理由がそれだ。またオラクル細胞は、生物の炭素ベースの細胞とは違って衰えることが無い。人為的な処置を施せば殺すこともできるが、そんな細胞一つ一つをチマチマ殺した所で、オラクル細胞は捕食によって生まれたエネルギーで増殖する。つまり、意味が無い。

 だから、この世界からアラガミが消えることは有り得ない。奴らと如何にして共存共栄できるか……それが、今の俺たち人類の命題だ。

 

 ……まあ、今の俺にとっちゃ、そんな人類の命題なんぞどうでもいい話だ。

 

 今は、シアンの復活を急ぎたい。いつまであんな不安定のまま存在していられるかも分からない状態だと、おちおち自分の研究もできねぇ。

 

 それに……アイツとも約束しちまったからな。

 

 瞼の裏に、昔と変わらないあの小さな少女を思い浮かべていると、インターホンの呼出の音が耳を掠めて、モニターを矯めて見る。

 

『あ、ソーマ君? シアンちゃんの事で、報告があるんだけど』

 

 無言で扉を開くと、タンクトップにオーバーオールの少女が入って来た。

 

「……リッカか。そっちからのアプローチはどうだ?」

「うん、それなんだけどね! 多分、ヒロとジュリウスさんの血の力があればいけると思うよ、シアンちゃんの〝感応領域〟のマッピング」

 

 ほぉ……そっちの技術はそんな所まで進んでんのか。

 

 俺と同じく感応波を用いた方法だが、俺の方がただの強力な偏食場で直接意識を揺さぶろうとしているのに対し、博士らのやっている方は、第三者を用いた深層心理への潜行……他者の偏食場を用いて、本人の意識を揺さぶる、とでも言えばいいのだろうか。

 

 そもそもユウやアリサの様な新型神機使いが引き起こす感応現象の正体は、脳神経と接続した新型P53偏食因子が発する偏食場が、接触などによって互いに干渉し合うことで脳波ともリンクし、記憶や感情が共有されるというものだ。

 

 その体内偏食場を数理モデルで仮想化し、無意識レベルまでの直接的な干渉を行い、かつ第三者にも観測が可能な状態にシミュレートにするものが、この〝感応領域〟への接続だ。

 

 しかし、前にブラッドの力を使えば可能だと言ったものの、最初からシアンで試すのは現実味を帯びていない。ゴッドイーターの深層心理は本人の偏食場から形成されているが、ヒト型アラガミであるシアンが、完全にヒトのそれに当てはまるかは謎だった。

 

「そいつはもう可能なのか?」

「うーんと……まだ不確定要素しかないし、血の力をそんな方法で使ってたら消耗も早いんだ。少なくとも、博士は安全性を考慮するなら時期尚早だって言ってた。それにマッピングできても、そこへ飛び込める人材がいない。現段階でシアンちゃんの〝感応領域〟への接続は、まだできそうにないかな」

「……出来るだけ早い方がいい。危険を承知でやれば、どれくらい縮まりそうだ?」

「まあ、理論は確立してるから、後は検証段階。諸々の機材を用意して、普通のゴッドイーターで実験するのに……最低、二ヶ月。それに、シアンちゃんの治療にはどんなに短く見積っても、数週間は掛かる」

「……チッ。無理もないか」

「でも、この〝高次感応現象理論〟は、元々エンゲージ中のシアンちゃんから得られたデータと、本人の所見から博士が発展させたものだから、確実性は高いよ」

 

 ……本人の所見か。

 

 元々シアンが〝感応領域〟の存在を認知していて、それをサカキ博士に研究させようとしたのか、〝エンゲージ〟の謎を解き明かしたかったのか……

 

 ともかく、そっちの研究の方が確実なら、俺のアプローチからはさっさと手を引いた方が早いだろう。

 

 椅子から降りて扉を開けると、そう言えばと思い、振り返りながらリッカに尋ねる。

 

「サカキのおっさんは今どこにいる」

「多分、地下実験棟だよ」

「そうか……わざわざここまで、済まないな」

「そんな、全然いいよ。それに、私だって……」

 

 そう、俯いたまま言い澱むリッカの姿を背に、俺は扉を閉めた。

 

 あいつもまた……心の整理がついてない奴の一人だ。

 

 自分の作った神機が結果的にはトドメを刺していると思えば、複雑な気持ちにならざるを得ない。

 

 だが、同時に神機がシアンの命を辛うじて引き留めてくれているのも確か。

 リッカには、感謝してもしきれねぇ。

 

 ……それに比べて、俺は何も、変わっちゃいなかった。

 

 呼吸をして、ふつふつと湧き上がった気持ちを落ち着かせる。こんなにもイラついたのは、ここ二年じゃ一つも無かった。すっかり荒んじまった。

 

 改めて扉を開けて、下の階に向かうことにすると、白い影が、視界の端に映りこんだ。

 

「……ソーマ、はたらきすぎてないか?」

 

 それに、懐かしい声が聞こえて、エレベーターの入口で足を止める。

 

 自販機の近くのベンチに、シオの奴が座っていた。

 

「今働かなくてどうする。それより、おまえ……力を使っていいのか」

「……ううん。でも、一つだけ、シオもしってることがあったから」

 

 それなら、聞かない訳にはいかない。

 

 適当に飲み物を買って、シオの隣に腰を掛けた。

 

「……ハカセが、〝感応領域〟って、いってるものはしってるか?」

「……ああ。まあな」

「あれ……ほんとうは、シオにはない。ヒトがつくる意志そのものだから、アラガミにはないんだぞ。これ、しってたかー?」

 

 シオの言葉に、俺は一瞬耳を疑う。

 

 〝感応領域〟は、シオが……アラガミが持ち得ないものならば、前提が何もかも覆ることになる。

 

 かつて、俺の叔父──ガーランド・シックザールが、新型神機使いの感応波、具体的にはユウの感応能力を利用して、自身が作り出した最強のアラガミ、フェンリルを操らせ、世界を支配する計画を立てていたことがある。

 

 アラガミが〝感応領域〟を持たないのならば、強い感応能力を持つ神機使いとアラガミとの間で感応現象が発生せず、一方的に操られるがままとなるのも納得がいく。

 

「いや、初耳だな。だとすりゃあ、どうしてシアンから〝感応領域〟の存在を確認できたんだ?」

「あれだなー。シアンは、トクベツなんだぞ。ヒトの意思、魂がある、フシギな妹なんだぞ。シオにもわからない。これ、ナゾだなー?」

 

 確かに、謎ではあるがな。

 

 だが、何にせよその解明は後回しになりそうだ。

 シアンの固有性は、今に始まった事じゃない。そこら辺もひっくるめて深く掘り下げても、シアンの復活にはあまり関わらないだろう。

 

 だが、アラガミの中でもシアンだけが〝感応領域〟を持つという事が分かったのは有難い。

 

「言いに来てくれて助かった。だから、後は俺たちに任せろ。……必ず、シアンは連れ戻す」

 

 シオの頭をぽんぽんと撫でてから、缶を一気飲みして、エレベーターに乗り込む。

 

「……あ、さいごに一つだけ! シアンの中にはいるなら、ソーマと、シアンと仲の良いキンパツがテキニンだぞ!」

 

 ボタンを押すと、扉が閉じ切る前に、手を振るシオの姿がふっと消えて、光の粒となって帰っていくのが見えた。

 

 

 ……俺とロミオが適任、か。

 

 

 その言葉を頭の片隅に留めておき、目的の地下実験棟までやって来ると、俺のカードキーを認証させる。

 

 扉の先では、おっさんが、シアンの前で佇んでいた。

 

「……ソーマかい」

「ああ」

 

 おっさんの隣まで歩いて、培養槽に浮かぶシアンを眺める。

 

 既に、痩せ細った手足の先端がボロボロと朽ち始めていて、俺たちに、最早猶予など微塵にも残されていないことを示していた。

 

「……やはり、あの時に放たれた〝挺身〟の力が、シアン君を蝕んでいるようだ」

「……『自らのオラクル細胞を他者に分け与え、感応現象を通じて細胞と同一化、完全に癒着する事で他者を治癒する』か。死にかけの所に、血の力が追い討ちをかけやがった。こんな皮肉なことはねぇな」

 

 文字通り、身を挺して他人を救う。

 シアンのオラクル細胞の万能性と高い感応能力、そしてアイツの根底にある精神……その全てが如実に現れていた。

 

 もとより、俺もシアンは自己犠牲の精神が強い奴だとは思っていた。シアンの担当する部隊は重傷者は皆無で、〝揺りかごの天使〟は、そんな献身的なシアンの姿から神機使いどもが勝手に付けたもんだ。

 

 そうやって、自分しか傷つかないように。

 

 もう、誰かを失わなくて済むようにな……

 

「シオ君が言った通り……私たちは、彼女に踏み入らなさ過ぎたんだ。特に、私は彼女の事情を深く理解していたというのに」

「……どういう事だ?」

「正直に言うとだね。私は、とある折からシアン君の身辺を探っていたんだ。より正確に言えば……監視していたのさ。これを使ってね」

 

 おっさんの足許から掌に飛び移った小さなそれは、蜘蛛の形をしているロボットの様なものだった。

 

「オラクルアクチュエータ技術の粋を凝らしたものだよ。彼はシアン君の傍でずっと彼女の行動を見ていた。その情報があれば、結論が出るのも早いさ」

「……隠れて、か」

「知りたければ、自分で掴み取れと言われたものでね」

 

 そう言い、徐に懐へ手を伸ばして出てきたタブレットを手渡される。

 

 それはどうやら映像のようで、シアンの部屋と、ベッドに寝るシアンの姿が見られる。

 

 再生し始めると、直後、呻き声が聞こえた。

 

『ぅ……あぁ……! いやだ…………! ……死ぬな……独りはいやだ……! あい……愛惟ぃ……!』

 呼吸しないはずのアラガミであるシアンが、肩を大きく上下させて息を吸い、その身体を震えさせていた。

 

 独りである事への嘆き……人が死に、自分だけが平然と生きる。

 ただ、それを悲嘆することしかできない。

 

 その姿は、昔の俺によく似ていた。

 

「シアン君はここ暫く、こういった悪夢を一週間のうちで三日は見ているよ。その映像の様に殊更夢見が酷いのは、数例しか見ていないけれど……そのどれもが、誰かを亡くしている夢だと推測される」

 

 それを聞いて、俺は納得した。

 

 

 ……何故なのか、とはずっと思っていたんだ。

 

 

 俺は感応現象で見た事を忘れた訳では無い。

 

 ケンヤというごくごく平凡な少年と、アイという少女の最期を。

 

 この世界が、あたかも作り物のように描かれたゲームのことも。

 

 だが、確信出来なかった。あまりに突拍子もなく、膨大な情報量が流れ込んだから。

 

 

『俺が生きていたって誰も救えないし、何にもなりやしない! それに気づいたんだよ! だから、もう、俺に構うなッッ!!』

 

 

 今なら分かる。

 

 シアン……お前が、犬夜(ケンヤ)だったのか。

 

 最愛の恋人を喪って、こんなクソッタレな世界へ放り出されて……

 

「……自分が朽ち果てようと、誰かを守りたい。それは、かつて彼女が、多くの人達を失ったからなんだろう」

「……それで自分が死んじまったら、元も子もねぇよ」

 

 それでも、誰かを助けたかった。

 

「だから……個人的な付き合いもあって、仲の良かったロミオ君を助けられなかった事への激しい後悔が、今回の事態を招いた」

 

 ああ……しかも肝心な時に助けてやれもしねぇ、使えない兄貴も一人分追加ときた。

 

 全く……本当に使えねぇ。

 

「やはり、私が考えるに、これは根本的な治療が必要だと思うね」

「……治療?」

「勿論、それは彼女のメンタル……心だよ。シアン君の〝生きたい〟という意志があれば、復活は叶うんだ。つまりは、彼女の意識の深層……〝感応領域〟に飛び込んで、彼女を説得しなくてはならない。これが私の提唱する、唯一の救命方法だ。しかし……」

 

 おっさんは、槽の中に浮かぶアイツを見上げた。

 

 繰り返すようだが、あの身体はもう長くは持たない。

 オラクル細胞が離散しているのではなく、端から壊死していっている。

 

 あの〝血の力〟が、シアンのオラクルに多大な負荷を掛けちまったのが原因だ。

 

「今のペースでオラクル消失が進めば、おおよそ、一ヶ月ほどで神機と身体が分離して、オラクルを保てなくなる。事態は既に焦眉の急となっているからね。彼女の命を救う為には、観察者による〝感応領域〟の潜行の安全性に関して、一切の考慮ができない」

「なら、〝感応領域〟には俺が行こう」

 

 間髪を容れずにそう提案すると、サカキのおっさんはさして驚く様子もなく振り向いて、苦笑を浮かべた。

 

「……ソーマなら、そう言うと思ったよ。だがその前に、データ収集のために、通常のゴッドイーターを用いた試行が必要なんだ。その実験を、明日にも行う予定でいる」

 

 ただし、とおっさんが指を一本立てた。

 

「今回の実験は、ソーマ、君が〝感応領域〟に潜行する訳じゃない。ソーマほどの感応能力があれば容易に観察者となれるだろうけど、この実験にあたって、最適なモデルがいるからね。私の方から、危険が無いと思われる確実性の高い組み合わせで、観察者と被観察者を決めさせてもらったよ。そのタブレットに、第一次接続の概要があるから、軽く流して読んでみて欲しい」

 

 おっさんに言われて、タブレットを操作する。

 PDF形式のファイルが裏で開かれているようで、ウィンドウを呼び出すと、『感応領域接続実験 第一次接続:アリサ』と題された文書が現れた。どうやら、コイツがおっさんの言っていたモンらしい。

 

 その内容をさらりと流し読みすると、今回実施されるという実験の内容が把握出来た。

 

 まあ、要するにだ。

 

「被観察者にアリサを、観察者にユウか……この組み合わせは妥当な判断だな」

「そうだろう?」

 

 サカキのおっさんが、眼鏡に光を妖しく反射させて、実にイイ笑みで念押ししてくる。

 

 最近のアイツらを思い浮かべりゃ、まあ、おっさんの人選に同意せざるを得ないがな……

 

 やたら自信に満ち溢れたおっさんに、俺は肩を竦めることしか出来なかった。

 

 

 

 




次回、パツキン褐色貧乳バスター使い襲来。
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