神さまばっかの世紀末な世界に、俺が望むこと   作:赤サク冷奴

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……だから俺は、精一杯、男になろうとした。



好きになったのが、彼女だっただけ 『記憶≫シアン #1』

 

 

「あらラケル。その写真は?」

 

 フライアの研究室で、ラケルの背後から顔を覗き込む赤髪の女性──レアは、画面に映っていたゴッドイーターが気になっていた。

 

 両手の双神機に、紫の腕輪。まるで、彼女の為に誂えられたようにしか思えないカラーリングをしている事から、特殊なのはレアの目から見ても確かであった。

 

「お姉様……彼女は、シアン・シックザール准尉です」

「シックザール……まさか、あの?」

「はい。私を救って下さった、極東支部前支部長、ヨハネス・フォン・シックザールさんのご子息、ソーマさんの妹にあたる方です」

 

 そう聞いて、思わず苦い顔をする。

 

 レアとしては、シックザール家に苦手意識は無く、寧ろ感謝しているのだが、その名前を聞くと、どうしてもあの事を思い出して……

 

「ですが、この方はアラガミなのですよ、お姉様」

「……え? でも、ヒト型アラガミは、遺骸として現存している例が一つあるだけじゃ……」

「それはあくまでも、学会における通説……彼女はそのヒト型アラガミの、現在唯一の生存例です。フェンリルの上層部も、事後報告に来ていたサカキ博士を詰問していたそうです」

「……それは、上層部しか知らない情報なの?」

「はい。極東支部外では、御老公方と私たちのみが感知していますが、どうあっても外部に告知される事は無いでしょうね」 

 

 その外部の一員であるラケルが知っているということそのものが、常軌を逸しているというのは、分かりきった事だった。

 

 溜息を吐きたくなるのを我慢しつつ、レアは先程から思っていた疑問を呈する。

 

「でも、その事を知ってどうするの? 私たちにはまるで関係無いと思うけれど」

「……いいえ、それは違いますわ。彼女は必ず、私たちの計画に大きく貢献してくれる存在となります」

「そうだと、良いのだけれどね」

 

 レアは表面上の笑顔を作りながら、ラケルの昏い微笑みを見て見ぬふりをする。

 

 ……自分の罪と向き合うのは、まだ躊躇われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……神ならぬ神が歯車を狂わせ、王の覚醒は成らず……与えられし試練は、贖いの章へ移行する……」

 

 

「ふふっ、貴女の目覚めを待っていますよ…………シアン」

 

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 ──サカキ博士の研究室

 

 

 一堂に会するは、サカキ博士と、ブラッドのメンバー3人と、そしてソーマ。

 

「では、今回行うシアンの感応領域接続について、軽く説明しようと思うよ。全員、私が配布した資料は読み込んでくれたかな?」

「俺は、なんとか一通り読みました……」

「そもそも何書いてあるのか分からなかったけど!?」

 

 肩を落とし、既に気力の欠けている風なヒロとロミオが、大きく溜息を吐いた。

 

「私も、知識の及ばない箇所が幾つか見受けられました。己が身の浅学さに恥じるばかりです」

「ジュリウスにも分かんないんじゃ、絶対俺にも分かりません!」

 

 無理! と顔に貼り付けたロミオの隣で、躊躇いがちにヒロが頷いた。実際、かなり専門的な内容であるが、ヒロやアリサが理解出来ていたので、サカキ博士は自然とハードルを上げてしまっていたらしい。

 

「ううむ、これでも解り易くしたんだけどね……」

「回りくどく説明してるからだろう。口頭で言った方が、大抵は早いもんだ」

 

 ソーマは、どこからかホワイトボードを引っ張り出してきて、名称だけをつらつらと箇条書きしていく。

 

「まあ、〝感応領域〟ってのは、俺達ゴッドイーターの頭ん中だ。そこに、ヒロとジュリウスの血の力を駆使して潜る。感応領域の中では、結節っつう人型だったりアラガミだったりするものが現れるから、それらを除去して感応同期率を上げる。感応同期率が上がれば、エンゲージが使えるようになるらしいが……ここは今はいいか」

 

 ともかく、と話を一旦区切る。

 

「俺と、そしてロミオ。俺達がやる事は単純だ。結節を取り除き、感応同期率を上げる。そして更に深部に潜り込み、同じ事を繰り返して、最深部で眠っていると思われるシアンを説得する。概要は掴めたか?」

「な、なんとなく……ですけど」

 

 今回、ソーマと共に感応領域に飛び込むのは、ある意味シアンが心を閉ざした最大の要因であるロミオだ。

 

「幸い、おっさんのナビゲートもある。そう気負う必要は無い。それにこっちが固くなってたら、シアンの奴に、逆に気を遣わせちまうからな……」

 

 人間関係も非常に狭いシアンだが、意外と人の機微には敏かった。出会ったばかりの頃でも、人というものに慣れているとしか思えない自然さがあった。

 

(……シオの助言通り、ロミオを連れて行く事にしたは良いが、まともに話した覚えがねぇのがな)

 

 シアンを説得するのに、こっちがぎこちなくなれば本末転倒。しかし、ソーマは元来、話すのは得意ではない。

 

「あの、ソーマさん! ……よろしくお願いします!」

「……ああ。こちらこそ、よろしく頼む」

 

 とは言え、この手の人間はユウで慣れている。最低限の会話であろうと、あちらから話し掛けてくれるのならば、スムーズに進むというもの。

 

「それじゃあ、四人とも。第三訓練場で準備をして待っていてくれ。私も直ぐに向かうよ」

 

 その言葉で、研究室を追い出されざるを得なかった四人は、廊下で顔を見合せた。

 

「……えっと、取り敢えず、行きましょうか?」

 

 ヒロの言葉で、全員がエレベーターに乗り込む。そのまま、無言で到着を待つ……なんてことは無く、一人だけ、変わらない様子で話し続ける人物が。

 

「じゃあ、そのシオって子の時も、お世話を任されてたってことですか?」

 

 ロミオが興味津々そうにするものだから、ソーマもその度に受け答えして、いつの間にか、話題はシアンの事から、シオの話へ移っていた。

 

 シアンが来る以前から、ブラッドには〝アーク計画〟やシオの事について知らせていたから、ソーマも多少は話していいかと思っていたが、ここまで盛り上がるとは思いもせず、いつの間にかシオとの生活にまで話が発展していた。

 

「いや、あれはおっさんに押し付けられてな……支部長が帰って来るって事で、俺の部屋が丁度良かっただけだ。そもそも、シアンとは部屋が別になっている」

「……でも、シアンはいつもソーマさんの部屋訪れてる気が……」

 

 ヒロがボソッと零すと、ソーマが目を逸らした。

 

「……まあ、いろいろだ」

「ちょっ、色々って、そこが一番気になる!」

「気になると言われてもな……大した事はない。この前だって、俺が持ってるCDを聴きに来て、ついでに歌っていっただけだ」

 

 本人の言によれば、とある事情で無理やり歌わさせられる羽目になったが、ユノのいる前で酷い歌なんか歌えないから、練習したいとの事だった。

 

 そういえば、とヒロが思い出したかのように言う。

 

「シアンって、わりと歌好きですもんね。俺も、たまにですけど歌ってる所を見ますし」

「えっ待って、そんな事俺一ミリも知らなかった! マジか、聴きたかったなぁ〜……」

 

 更に、結構上手いんですよねとか言い始めたので、ソーマが凄く胡乱な目付きになり始めた。

 

 先程のソーマの部屋発言といい、屋上発言といい、もしやストーカーなのでは、という疑惑がソーマの中に垂れこめる。その視線でヒロも察したのか、ぎょっとして手を振り、全力で否定する。

 

「ち、違いますよ!? なんというか……なんというんでしょうね。ばったり会ったり、ちょっと前までは任務が一緒だったり、シアンと顔を合わせる頻度が結構あって。なんでかは、よく分かりませんけど……なんでだろう」

 

 首を捻って考え出したヒロを見て、その姿にユウの面影を見た気がした。

 ヒロのそれとは違うが、ユウも奇妙な事に巻き込まれる体質だ。主にアリサに対してだが、この前はシアンの身にも起きて、久々にプッツンしそうになったのを覚えていた。ユウと似た雰囲気のするヒロが同じ類いというのも、十分に有り得る話だった。

 

 エレベーターがポン、と階の到着を知らせた。降りながら、冗談っぽく言う。

 

「……お前には、そういう不思議な力があるんだろうな」

「あ、それ、ジュリウス隊長にも言われました」

 

 名指しされたからだろう。ソーマは目が合った。

 

 こちらも特に強い関わりは無いものの、互いに個性の強い愉快な仲間に囲まれつつも、話は苦手そうなイメージがあったので、実は密かながらシンパシー的な何かを感じていたのだ。

 

 まともに目も合わせたことは無かったが、二人は認識し合うと、ふっ、と静かに笑い合った。

 

「アレ? ソーマさんとジュリウスって仲良いの?」

 

 言外に息がピッタリであると言われたのが、やはり似たもの同士であるという証明になってしまったからか……互いに肩を竦めて、目線を外したが、「あ、やっぱり!!」と言うロミオに、二人は特に否定もしなかったのだった。

 

 

 

 

 そうして第三訓練場にやって来た四人は、サカキ博士のもとで調整と準備が行われた。

 

 シアンの浮かぶ水槽が間近にあるということもあり、ロミオは時折、悲痛な目をして見ていたが、なんとか覚悟を決め、台座に寝転がった。

 

 同じようにソーマも台座に、ジュリウスとヒロは所定の位置に座った。

 接続の準備は、完了した。

 

「じゃあ、シアン君の感応領域接続を開始するよ。皆、用意はいいかな?」

 

 四人が首肯したのを確認し、サカキ博士が忙しなく手を動かす。

 

「ヒロ君、ジュリウス君、血の力を発動してほしい」

「「了解!」」

 莫大な意志の力の奔流が装置に流れ込み、二人の頭に付けられたヘッドギアが励起する。そして…………────

 

 

 

 

 

 

 ──やっと、来てくれた

 

 

 

 

 

 

 

 ザクッ、と、砂利を踏みつけるような感触を足で感じると、ソーマは、この狭い灰の孤島を一望した。

 

「……アリサの時のデータとは違うな。その者の心の裡を反映している、と言った所か」

 

 孤島、という表現は間違いではないが、そこには〝割れた〟という修飾が着く。奥まで続くそれらを全て掻き集めれば、一つの島になるであろうが、これでは最早、ただの孤島群だ。

 

 ソーマは、その割断された欠片の島の一つに立っており、割れた場所から下を見下ろせば、そこには底なしの奈落ばかりが映る。

 

「……ここへの落下は、できる限りしたくねぇな」

 

 視界を孤島に戻し、欠片の島を一つ一つ(つぶさ)に見ていく。

 

 一緒に来たはずのロミオの姿を探すも、どこの欠片にもその姿は認められなかった。島の一番奥には何かがあるようだが、霞んでいて、よくは見えなかった。

 そうと来れば、次に取る手段は限られる。

 

「おい、おっさん。聞こえるか? おい! ……クソッ、繋がらねぇか」

 

 ソーマとて、多少のイレギュラーは覚悟の上だったとは言え、ここまで酷い状況になったことに思わず舌打ちしてしまう。

 

 だが、ここに居ても仕方がないのも道理であった。

 

 一番近場の島に目を向けると、幸いゴッドイーターの跳躍で届く距離にある。ソーマは神機を提げたまま軽々と跳び上がった。

 

 この島には特に何も無いようなので、ソーマはとくに気にも留めず、また隣の島に行こうとした。

 

 しかし、それは急に、ソーマの前に現れた。

 

「……あ?」

 

 ぼんやりと、霧が固まったような人型の何かがいる。顔は判然としないが、その背丈は、おおよそ150cm程度。背のわりに男性の姿らしく、学校の制服のような格好をしていた。

 

「こいつは……」

 

 ソーマは、これが例の記憶の結節であると確信した。何らかの像、特に人やアラガミの形をしているという。

 

 ユウらの報告通りに、近寄って手で触れてみる。すると、声が響いてきた。

 

 

『見て、あいつ。〝死神〟のケンヤ』

『えっ!? やだ、逃げよ!』

『ちょ、バカ、聞こえるだろっ』

『だって怖いもん! あたし死にたくない!』

 

 

 少女の叫びと共に、人型は霧散した。

 

 人型に触れていた時のまま、伸ばしていた手を落とした。

 

 古い、微かな記憶が刺激される。

 

 ──死神

 

 ──あいつと組むのだけはごめんだ

 

 今では全く呼ばれなくなったが、ソーマにもかつて、そう呼ばれていた時期があった。

 

 ゴッドイーターと言うのは本来、殉職率が高い。一日に何人も命を落とす事は、そう珍しいことでは無かったし、それは殆どのゴッドイーターが承知していた。

 

 だが、ソーマはどんな任務であれ生き残った。P73偏食因子という人外の力で、乗り切ってきてしまった。作戦を共にする仲間が過酷な任務で死のうと、自分だけは必ず生き延びる。

 

 いつしか人々は、そんなソーマを〝死神〟と言って、忌避したのだ。

 

「…………いつの世も、こういう事はあるもんだな」

 

 不意に、首に手をやった。そこにはもう、他人からの視線を覆い隠すもの(フード)は無い。無意識のうちに行われた動作に、チッ、と舌が鳴る。

 

 役目を失った左手は、意味も無く首を撫でると、脚に力を溜めて、次の島へ移った。

 

 

 

 

『あれでしょ? ケンヤの近くにいたら、皆死んじゃうってやつ』

『だって、本当に死んだんだ……二年生のとき、あいつの乗ってたバスが事故って、フータとか、レオとか、おれの友達も死んじゃった。でも、あいつだけ全然ケガしなかったんだよ。おかしいだろ』

『わたしのお母さんから聞いたんだけど……ケンヤのお父さんとお母さんも、ケンヤのせいで死んじゃったんだって』

『うわ、なよなよしたオンナオトコのくせに鬼畜じゃん。ほんと、あいつが死ねばいいのに』

 

 

 無邪気な子供だからこそ、明け透けに飛び出す心無い言葉。

 

 それが結節として現れてくるとなれば……当時の彼は、これを聞いていたのだろう。

 

 彼もまた子供だった。他人から非難され続けるというその心理的ショックが計り知れないものであることは、ソーマに分からない筈は無かった。

 

 

『……お父さんとお母さんを殺したのは、僕なの?』

 

『本当に、僕が……?』

 

『嘘だ……みんな、嘘ばっかりだ』

 

『僕を、騙そうとしてるんだ……』

 

『やっぱり、僕には愛惟しかいない……』

 

『愛惟しか、信じられない……』

 

 

 ソーマが触れた影が消えゆく。

 

 今ので、ここにあった影は全て無くなった。

 

 最初から、最後まで、その記憶は苦しみに満ち満ちたまま。

 

「……クソが」

 

 それはソーマに、世界は決して善人だけで溢れている訳では無い事を否応無しに思い出させた。

 

 言葉という鋭利な刃を突き立てられ、心を擦り切らしていったソーマ。少年の声を聞く度、自分の幼少期と重なって、激情が沸き上がる。

 

 アラガミという化け物に無縁な世界までも、ここまで醜いものだとは。

 

「……人類の選別、か」

 

 支部長に飾られた、あの絵画が思い浮かべられた。

 

 今なら、自分の父──ヨハネスが人類全てを救うより、選ばれた人間を新世界に送ろうとしたのも、理解できた。

 

 救う価値の無い人間など居ない。それはソーマにも分かっているが、大事な人々を確実に救う方が優先になるのは、よっぽど壊れた人間でなければ、現実的で常識的な選択と言えた。

 

 そうこう考えているうち、欠片となった島々が、音もなく水平に動き出した。

 

 やがて、ソーマの立つ場所から、等間隔に欠片島が列を成して、一直線の道を作り出した。この方へ進めと言っているのだろう。

 

 今までと同じく、跳んで進んでいく。終端に近付くにつれ、ソーマの敏感な耳が、その音を捉え始める。

 

 

 

 ──めぐる恋風

 

 

 ──花びらまき散らし

 

 

 ──人ごみの中

 

 

 ──すり抜けてく

 

 

 

 いつも隣で聞いていた、雪のように冷たくて、温かみと懐っこさも同居する、もう一度聞きたいと待ち侘びていた声。

 

 自然と足が急ぐ。遠くに見える、蹲った白き少女の所へ行くために。

 

 

 

 ──震えてるの

 

 

 ──心も体も

 

 

 ──全て壊れてしまう前に

 

 

 ──愛がほしいの

 

 

 

 島の最終端。

 膝を抱えた少女が、揺れる紫水晶の瞳で見上げた。

 

「…………でも、ソーマが来るのは、ここじゃない」

 

 ソーマのコートの裾を掴みながら、涙ながらに懇願する。

 

「お願い……犬夜を救って。二人にしか、できないから」

 

 その直後、ソーマの意識は闇に包まれていた。

 

 

 

 

 ◯ ✖️ △ ◆

 

 

 

 

 

 

 目が、覚める。

 

 

 

 

 

 

 そう感じた時、俺は暗闇の中で、ぽつんと立っていた。

 

 

「は……?」

 

 

 俺は、死んだんじゃなかったか?

 

 何かおかしいと思って、首から下を眺めると、直ぐにその異変に気が付いた。

 

 暗闇の中なのに、自分の姿がはっきりしているのが不思議だったが、そこには、いつかの中学の学ランがあった。

 胸を撫ぜると、当たり前のようにストンと落ちて、ブレザーの袖から覗く手に腕輪は嵌められていなかった。 

 

 

 ……まさか、(犬夜)

 

 

 あれだけ思い出せなかったのに、今はすんなりと出てくる自分の名前。

 これは、やっぱり何かがおかしい。

 

 ブレザーのポケットに手を突っ込んで取り出したスマホのカメラを開いて、内カメにする。

 

 映るのは、中性的な顔立ちの、ちょっと髪が長めな陰キャメガネ。

 メガネを外して髪を横に流すと、完全に女の子にしかみえない。

 

 それは紛うことなき、蘭犬夜という人物の特徴だった。

 

「……マジか」

 

 こんな見た目だから、男子にも女子にも話し掛けられず、遠巻きにヒソヒソされる中学校の三年間を送ってきた。もう一生見ることはないと思っていたし、見たくもなかったが、こんな所でまた目にする事になるとは……嬉しくねぇ。

 

 眼鏡を掛けつつ、がっくりと項垂れた。

 できるなら、一生見たくなかった顔である。これが高校や大学になると、そこそこ男っぽくなるというのに、よりにもよってこの見た目だ。

 

 鬱屈な気持ちが募って、その場で三角座りになると、膝に顔を埋めた。

 

 ……結局、俺は、大事な人を救えないままだった。

 

 アラガミになって得た力を使っても、あっけなくやられて、ロミオに庇われて。俺が守りたいのに、守られてしまう。

 

 こんなしょうもない人間を、命を張って救ってくれる。

 

 でも、それはあんまりだ。

 なんで俺の為に、皆が死ななくちゃいけないんだ。

 

 俺のせいで皆が巻き込まれるのなら、そんな自分は要らない。

 

「生きるのは…………疲れたな」

 

 だからさ。

 

 もう約束は守れないよ────愛惟(アイ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

記憶結果〔シアン〕
僕は優しいお父さんとお母さんのもとに生まれた、普通の男の子だった。

 

でも、今は分からない。僕とは何なんだろう。数年間、僕の体を乗っ取っていた何かは、すごく大人しい性格で、何をされてもやり返さなかったらしい。僕も、やり返したりはしなかったから、いじめは続いた。

 

そうしていたら、カッコイイものが好きなのかカワイイものが好きなのかも分からなくなってしまった。自分のことが何にも分からなくなった。

 

この頃から、僕の中で、何かが壊れてしまったんだと思う。

実験関係者のみ閲覧権限を付与

 

記憶結果〔シアン〕≫2
お父さんとお母さんは、銀行強盗に殺された。ニュースの記事にはそう書いてあったけど、僕は、この体を乗っ取った何かがやったんだと、ずっとそう考えてた。

 

でも、本当は僕が殺してしまった。きっとそうなんだ。だって、遠足のバスの事故でクラスメイトの殆どが死んで、生き残った子も手や足が動かなくなったりしたのに、僕だけ重い打撲くらいで済んだんだから。

 

何かに乗っ取られていた時は、事故なんて一つも無かったし、誰も巻き込んでない。でも、僕の時になってこうなった。僕こそが、人の命を簡単にうばう死神だったんだ。

 

おばさん達が、僕の両親が死んだ事をはぐらかそうとするのも、僕が殺してしまったなんて言えないから。全てが繋がった気がした。

 

そうしたら、僕はいつか、おばさんやおじさん、姉さんや血の繋がった妹も殺してしまうのかな。それは嫌だと思った。

 

でも、幼なじみのアイは、家から出なくなった僕をはげましてくれる。支えてくれる。いじめから守ってくれたのも、いっつもアイだった。

人殺しや死神なんかじゃないってハッキリ言ってくれるのも、アイだけ。

 

アイがそう言ってくれることが、僕は何よりうれしかった。

実験関係者のみ閲覧権限を付与

 

 

 

 




なんか出来たので投稿
次は来年が確定
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