神さまばっかの世紀末な世界に、俺が望むこと   作:赤サク冷奴

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「聞いてくれ……俺は美しい女性を見ると、つい愛でたくなるだけなんだ。決して、やましいことは何もない」
「ハルさん……天国のケイトさんが泣いてますよ」
「いや、アイツは寧ろ俺と一緒に女の尻を追っかける側だから問題ない」
「は?」

タイトルは適当です()

女好きの嫁は女好きであってほしい……ほしくない?(異論は認める)


やはり俺の査問会行きはまちがっている。byハルオミ

 

 

「ユノを引っ張り出して欲しい、か……」

 

 そう呟くと、俺は憂鬱な気分になった。

 

 そんな事をやらなければならなくなった発端は、ついさっきの話。

 

 博士の研究室から帰る寸前で引き留められ、そこで切り出されたのだ。

 

『ここ数日……もっと詳細に言うと合同軍事演習後から、ユノ君が自分の部屋に引きこもっていると、サツキ君から連絡があってね。確か、君はユノ君の隣の部屋だろう? 接続実験の直後で申し訳ないんだけれど、ユノ君が部屋から出てくるよう、君の方から説得してくれないかい?』

 

 正直、自分にできるかは分からなかったが、ユノがそうなったのは、十中八九シアンが原因だ。俺から何か話せれば良いんだけど……

 

「あっ、ヒロ! おーい! ヒロー!」

「……? って、コウタ?」

 

 少し息を切らした様子のコウタが駆け寄ってくるので足を止めると、俺の両肩を掴んで、勢いのままに尋ねてきた。

 

「接続実験って、どうなった!? シアンは!」

「え? あーっと……接続自体はできてるから、次回から本格的に調査できそうかな」

「そっか……なら、まだ望みはあるんだ……本当に良かった」

 

 ふぅーーー、と安堵してか盛大に息を吐いて、俺の肩から手を離してくれた。

 

 今回の接続の結果が、余程気になっていたんだろうか。コウタが照れくさそうに笑い、両手を顔の前で合わせた。

 

「いやー、いきなりごめん。サツキさんから、実験終わったって教えて貰って、俺、居てもたってもいられなくてさ。皆も、シアンが居なくなってからソワソワしてるから、なおさら聞いておかないとって……」

「……本当に慕われてるんだね、シアン」

「まあね。お蔭様で、ウチの連中はここいらずっとお通夜ムードだよ。あいつ、兄貴以上に無口で無表情なのに、すんげー優しいし。さしずめ、甘口なソーマってとこ。それで慕われてなきゃおかしいってもんだよ」

 

 そんなコウタの話を聞いて、キュッと胸が締め付けられる。

 

 今更ながら、アラガミだからと初対面で毛嫌いしていたあの頃の俺を殴りたい。

 

 しかも、人だった時の記憶もあるという。容赦ない言葉で傷付けてしまったのに、それでも仲良くしてくれたのだから、今後はシアンに足を向けて眠れないなぁ……

 

「一応、博士のところでも話聞いてくるよ。今日の実験お疲れ様、ヒロ!」

「……うん、ありがとう」

 

 コウタと別れて、エレベーターからブラッドの部屋まで上がっていく。

 

 で、こうしてユノの部屋の前まで来たんだけど。

 

 前に一度だけ入ったことがあるけど、やっぱり女の子の部屋を訪ねるのは、勇気がいる。

 

 震える手でインターホンを押すと、少しして、声が聞こえた。

 

『……あれ、ヒロ?』

「あっ、ユノ。大丈夫? 籠ってるって聞いて、様子、見に来たんだけど……」

『…………』

 

 シュインっと、扉が開いて、真ん前にユノがいた。

 

 ……ずいぶん、顔がこけてしまっている。血色も悪そうだ。

 

 ユノがどれほどの思いをしていたのか、分かりそうなくらいやつれていた。

 

「……えっと、その」

「来て」

「え、あ……」

 

 なんて言葉をかけようかと詰まっているうちに、ユノは俺の手を引っ張って、部屋の中に引き入れた。

 

 俺を椅子に座らせると、ユノはベッドの上で三角座りになって、顔を俯けた。

 

「……私、ね。今、あんまり歌が歌えないんだ」

「……歌えない?」

「うん。歌おうとしても、喉がつっかえちゃって……」

 

 サツキに迷惑かけちゃってるな……と、辛そうに言った。

 

 多分、原因を聞かないと、俺には分からない気がする。

 

 でも、サカキ博士がヒントを残してくれたから、すんなり尋ねられた。

 

「歌えなくなったのって、この前の合同演習と、何か関係があったり……?」

「あはは……バレちゃうよね。うん、そう」

 

 ユノがベッドから降りると、テーブルに置いてあった小さな写真立てを見せてきた。

 

 そこに、笑顔で白髪の少女に抱き着いて、頬をスリスリさせているユノが写っていた。

 ちょっと満更でも無さげに微笑むこの少女……見覚えしかない。

 

「シアン・シックザール……って、ヒロなら知ってるよね。この前、一緒にいるの見たよ」

「あー……」

 

 俺は全てを悟った。

 ユノも、ロミオ先輩やコウタさん達と同じ思いをしていたんだ。

 

 シアンも極東支部所属だし、どこかで顔を合わせているのも不思議じゃないもんなぁ……

 

「シアンが、あの時に重傷になったって、意識もまだ戻ってないって……面会も、できなくて」

 

 写真立てをそっと胸に抱いて、ついに黙ってしまった。

 

 ……ここまで来ると疑問なのが、そんなにシアンとユノは仲が良かったのか、ということ。

 

 ユノとはそこそこの頻度で会ってるけど、その時近くにシアンは居なかったし、逆にシアンと居ればユノと会わなかった。

 

 二人セットで居るところを、少なくとも俺は見たことがなかったから、仲が良いって印象は無かったけど。

 

「……仲、良かったんですか?」

「今は、シアンも友達だって思ってくれてるの。……最初は、私の方から絡みに行ってばかりだったけどね。同年代の女の子って、居なかったから」

 

 同年代、というには中身の年齢が進んでるような。

 

 でも、気兼ねなく話せる相手がいなかったユノには、それが助けになったんだろうな。

 

「初めてシアンと会った時も、たまたま私がシアンを見つけて、コンサートに誘って、って感じだったし」

「コンサート?」

「うん。その時、慰問コンサートで、サテライトを回ってたんだ。真ん中の広場の、物資が入っていた空箱の上で、白い髪の女の子が座っててね。囲むように子供たちが集まって、何かをしてたの。とっても楽しそうな雰囲気だった────」

 

 こうして始まった語りは、シアンの意外な素顔を曝け出した。

 

 ユノがシアンから貰ったというオウガテイルの折り紙を見せてもらったけど、かなり細かい造りで、折り紙の経験のある俺でもさっぱりな構造だった。

 

 ああ、と同時に察してしまった。

 もっと平和な世界にいたはずのシアンが、この世界に引っ張ってこられてしまったんだ。

 

 話を聞いていくにつれて、それを強く意識してしまう。

 

「でね。その時、シアンと約束したんだ。一緒に歌おうって。折角だから、ブラッドの皆の前で、私と歌おうって……」

「……ブラッドのピクニックで?」

「あはは……サプライズのつもりだったんだけどね」

 

 無期延期になってしまった、ユノとブラッドが合同でやる予定だったピクニック。

 ロミオを救ってくれたシアンが瀕死なのに、ピクニックなんてやってる余裕も、する気もなかった。

 

 ユノがどれほど楽しみにしていたのか……それが意識不明という形で帰ってきて、命すら危ないと聞かされたら……

 

「……私、まだまだ弱いんだなあって思っちゃった」

「それは弱さじゃないって思うよ、俺は」

 

 伏し目になって自嘲するユノの姿が見るに堪えなくて、勢い付いてそう口を挟んだ。

 

「大事な人が傷付いて辛いのは当たり前だし、整理をつける時間だって必要だよ。誰だって、同じことだと思う」

 

 待ち望んでいた時を、目の前で喪う事だけは。

 

『父さん母さん! これ、道でプラチナ見つけたん────え? 待って、なんで、だ、誰か……! 返事をしてくれ!』

 

 それに勝る絶望は無い。

 痛いほど、よく分かっているつもりだった。

 

「……少し前に、サテライト拠点まで護衛してもらった時の事、覚えてる?」

「あ、それって、遭難しちゃった時の」

「うん、それそれ」

 

 あれは、赤いカリギュラを倒した後に、サツキさんに頼まれて引き受けた任務だった。

 

 その帰りで砂嵐が酷くなって、近くにいたコクーンメイデンをレーダーで察知できずに奇襲されて、トレーラーが転倒。俺と隊長、ユノが弾き出されて、崖に落っこちてしまったのだ。

 

 あの時はどうなるかと思ったけど、すぐに見つけ出してくれて、なんとか事なきを得たっけ……

 

「その時、話したの覚えてるかな。自分は何もできないって考えるより、やりたい事を、やれるだけやる方が良いと思ったから、私は色んな所で歌を届けてるんだって」

「あ。確かにそんな話してたな……」

 

 その話から、ユノもジュリウス隊長も、家族を亡くしてしまったと聞いたものだから、今でも印象深い。

 

 それで、自分にやれる事って何だろうって考えてみたりもして思うと、ちょっと気が重かった。

 

 そんな頃、偶然エレベーターに居合わせたシアンと話をした。

 そんなタイミングだったから、つい斬り捨てるとか酷いことを言っちゃったのが……

 

 それに比べれば、ユノの方がよくやっていると思った。

 俺は、ただアラガミを殺すことしかできないし、無神経な事もしてしまうから。

 

「最近は、凄く頑張ってたよね」

「だって、ブラッドのみんなと居て、私、凄く楽しかったもの。ヒロも、よく話し相手になってくれたし、元気なんて有り余ってたくらい。……有り余って、たんだけど」

 

 ギュッと目蓋を閉じて、徐ろにベッドに倒れ込んだ。

 

 今は、気力なんてどこにも見つかりそうにない。

 

「シアンは思い詰めてて、それで自殺しようとしたって、最近ソーマさんから聞いたの」

「……!」

 

 頭を抱えたくなった。

 よりにもよってソーマさんの口からだ。

 

 あの人は誰よりも深く責任を感じてるというのに、そんな口調で話されたら、共感性の高いユノには悪影響になる。

 

「ずっと悩んでいたのに、隣りにいて気付いてあげられなかった。たった数ヶ月で、おこがましいって思うかもしれないけど……友達一人救えてないのに、誰かを救おうって、やっぱりおかしかったのかな」

「それは違うよ、絶対に」

 

 そう言えど、ユノの顔は晴れなかった。

 

「沢山の人を救けてるし、皆を元気付けてくれてる。ユノのやってきた事に、間違いなんてあるはずがない」

「でも、シアンは助けられなかった……!!」

 

 どうして、そんな風に考えてしまうんだ。

 

 そう叫びたかった。

 

 実際、ユノは何も悪くないのだから、何もここまで気に病む必要はなかった。

 ユノは、あまりに気にし過ぎている。

 

 大事な友達だからと、無理に背負い込み過ぎだ。

 

「ああもう……私、さっきから意地悪な事しか言ってない……」

「全然いいって。それより今は、心を整理させて、落ち着いてほしい。俺……ロミオ先輩やソーマさんがシアンを助けて、必ずユノの所に連れて行くから」

 

 ユノの手を握り、誓いを立てる。

 

 これまで数え切れない程、シアンに助けられてきた。

 今度は、こっちが助ける番だ。

 

「……あ、あの、ヒロ……顔……」

「顔?」

 

 意識がちゃんと現実に向けられると、顔を真っ赤にしたユノと、それを真正面で見つめる自分。しかもお互いの両手が固く結ばれている。

 

 これは、完全にアウトだ。

 

「ご、ごめん!!」

「あ、う……ちょっと、ドキドキが……あんなに近くで見られたの、初めてで……」

「本当に、無遠慮が過ぎて申し訳ないです……ハイ」

 

 ぎこちない空気感になったのを肌で感じる。

 

 床に正座してペコペコ平身低頭していると、ユノはクスッと小さく笑った。

 許された……のかな。

 

「本当に、申し訳ございません」

「い、いいよ、何度も謝らなくても! ……それに、全然悪い気はしなかったし」

 

 ……それってどういう意味です?

 

 めちゃくちゃ気になったけど、心の中のロミオ先輩がガルルと牙を剥き始めたので、聞かなかったことにした。

 

「ん〜……ちょっと元気出てきた! 慰めてくれてありがとね、ヒロ」

 

 笑顔を取り戻したユノに見送られて、部屋を出る。

 すぐ傍で待ち構えていたサツキさんに事情を説明すると、改めて感謝を貰った。

 

 その上、凄まじい爆弾を落としていった。

 

「ヒロ君になら、私の大事なユノを任せてもいいですよ。ここまでしてもらって、あの子が何も感じない訳がないし……あ、でも手を出したらダメですからね〜。世界的な歌姫が襲われたとあったら……そんなの一大スクープですよねぇ?」

 

 無言で頷きまくった。ジャーナリストを敵に回したら危ないとは、先達であるハルオミさんの言葉である。

 

 まあ、でもあんな事を言われたら嬉しくない訳がない。

 エレベーターに乗り込みながら、小さくガッツポーズした。

 

 何はともあれ、任務完了だ。

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、ラウンジでは。

 

「……!?」

「あれれ、どうしたのシエルちゃん。まだかき混ぜ終わってないよ?」

「いえ……何故だか、私の地位が脅かされている気がして」

「ちい? う〜ん…………気のせいじゃない?」

「だと良いんですが……」

 

 最近お疲れ気味のヒロ達に振る舞うお菓子を作りながら、シエルはまだ見ぬ敵への密かな殺意を滲ませるのだった。

 

 

 


 

 

 そこは物々しい雰囲気に包まれていた。

 

 仄かな常夜灯の光の中、円卓を囲む白衣の者達は、一人の男に呆れの目を向ける。

 

「博士、これはどういう事かね」

「月の少女の代用とは、大きく出たものだが……これで信じろという訳にはいくまい」

「それに第二の特異点は、フェンリル上層部の最重要機密であろう。そう易々と手が出せるものか」

 

 研究者達の間には、諦めの色が現れていた。

 

 過日行われたとある実験において、実験が大失敗に終わった事が原因だ。貴重な被験体を一人失ったばかりでなく、計画そのものに大きなミスが存在していたと分かったのだ。

 

 この集まりもこれで最後かと、各々が諦観していた矢先に、無茶な話が飛び出せば、ああも言いたくなるというもの。

 

 だが、博士と言われた男は、円卓をバンッ、と強く叩いて、やたら鋭利な目付きで研究者達を睨んだ。

 

「最後まで話を聞け、愚物どもめ。既に、彼の者の偏食因子……《P41偏食因子》の回収、そして培養は既に完了した。よって、かの道化も動き始めている」

「なんと……!!」

「誠か、それは!」

 

 口々に歓喜を漏らすと、プロジェクターに、ありとあらゆる画像が映し出される。

 

 被験体と思わしき、16〜18歳ほどの少年少女達に偏食因子を投与していく様子や、中には著者に『ペイラー・榊』と記されたレポートも存在していた。

 

「これで我らが悲願を……マーナガルムをも超えた、人類の進歩が始まる!」

「ようやく我々の時代が来たか。これで、ヨハネスなどという過去の英傑に振り回される日も来ぬまい」

「ハハハッ、素晴らしいじゃあないか! やはり君が居なくては始まらないなぁ、博士」

 

 あからさまな掌返し。

 研究を生業とするこの界隈では当たり前にあることだ。

 

 だが、彼らの軽薄さ……フェンリルを打倒し、その座を取って代わろうとするという野望にまみれた心根は、博士にとって気に食わないものであった。

 

 そんな彼らに囲まれながらも、決して口には出さないのは、ひとえに利害の一致であり、彼ら無しにその計画を進めるのは不可能だったからだ。

 

「……フェンリルは私が潰す。この命にかけても、絶対にだ」

 

 全ては、亡き妻と子の為。

 地位も名声も、人道も。何もかもを犠牲にする道を、彼は歩み始めた。

 

 




とっととオリジナル展開なんて進めて本編へ……本編へ行くのだ(使命感)
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