神さまばっかの世紀末な世界に、俺が望むこと   作:赤サク冷奴

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彼女は、いつも俺の英雄だった。
俺の全てを救い続けてくれた。

だが、それが終わりのない戦いと同じだと気付いたのは、彼女を失くしてから。

……愛惟の人生そのものを貪り尽くしたのは、俺だった。


アイ・戦士なんて、死んでも言える訳がない『記憶≫シアン#2』

 

 

 第三次接続実験。

 本実験における目的は、協力者の助けを借りながら、更に深い領域に潜行することだ。

 

 記憶の結節を消滅させていけば、自然と深層に到達できるという話だが、今回でどこまでいけるもんだかな……

 

 サカキのおっさんが言うには、心配無用らしいが。

 今いち信じきれないのは、あのニヤついた笑みが目につくからか。

 

 重い溜息を吐き出すと、地に足が着く感覚がした。感応領域に到達する時のこの浮遊感には、まだ慣れそうにない。

 

 だが前回と違い、隣にロミオの気配を感じる。無事に同一空間への潜行を果たしたようだ。

 

 目を開くと、孤島の中央で、一人の少女が目一杯に広げた手を振っている。

 その姿は見覚えしかない。過去の記憶で、幾度となく見た後ろ姿が、俺を知覚してそこに存在していた。

 

「やっほーロミオくーん! ……とモノホンのソーマ君だぁ〜! うひゃ〜っ、すごっ……背高っ! 何センチ差あるんだろ?」

 

 パーソナルスペースは存在しないのか、または恥じらいがないのか……既にゼロ距離で背比べをされている。初対面の相手というのに、この扱いは一体何なのだろうか。

 

 早速帰りたくなった。

 こういう輩が、俺は生来めっぽう苦手である。エリック然り神薙ユウ然り、霊代アキ然りだ。

 

 特に後者二人は、事情なんか知ったことかと踏み込んできて、いつのまにか居場所に入ってくる。

 まるで目の前の少女と同じだ。

 

 ……こういう奴等ほど、死に急ぎやがる。

 

 ユウやアキはその天賦の才ゆえに生き残っているが、ああいう性格の奴は、周りの事を考えているようで考えていない。

 

 特に、こんないつ死ぬかも分からねえクソッタレな仕事をしているのだから尚更だ。

 自分が死んだ時の事ぐらい、少しは考えろというものだ。

 

「よぉアイ、昨日ぶりだな! ちゃんとソーマさんも来れてるっぽいし、これもアイのおかげなんだよな?」

「ふふん、勿論私のおかげですも! も!」

「……も?」

「もっさんイェーイ!」

「い、イェーイ……?」

 

 ……あまりに意味不明なテンションに、コミュニケーション能力に長けているはずのロミオが押されに押されている。

 

 こういうのは関わり合いになろうとせず、ひたすら傍観するに限るな。

 第一部隊で学んだ事の一つだ。まぁ、役に立つ機会なんぞ、そうそう無いが。

 

「ほらソーマ君も! 私、藍川アイでっす! イェーイ!」

「…………そうか」

「あの……ちょっと〜? なんでそんな三年前みたいに無愛想なの? もっと元気に行こうよぉ」

 

 霊代アキ、という天災がいる。アイツはこのアイと同じく、異常なまでに明るい少女だ。

 ムードメーカー……と言えば聞こえはいいが、俺の実感としちゃあ場を引っ掻き回す天災だ。よって、コウタというストッパーがおり、暴れ過ぎないよう制御している。

 

 だがこっちにはストッパーがいない。アイのストッパーは言うまでもなくシアン……つまりケンヤだ。彼を連れ戻すのが今回の目的であるので、コイツを止められる奴はいない。

 

 想像より劣悪極まりない状況に眉間に指を当てていると、ふと、その彼女の後ろに隠れている、アメジスト色の瞳と目が合った。

 

 脳裏に過ぎる光景。

 歌を口ずさみ、座り込むシアンそっくりの少女。

 

 ……接続が解除される間際に会った、あの奇妙な奴か。

 

「っ……!」

「あ、こら、シェンヌちゃん。そこまでして隠れなくてもいいでしょ〜? 大人しく出てきなさい」

「……う」

 

 アイに脇を抱えられて出てきた、そのシェンヌとやらは、見違えようが無いほどシアンそのもので、クレイドルの隊服を着込んでいるせいで、本人にしか見えない。

 

 ……名前も、まさかchienneとはな。

 

 シアンの姿をしている事といい、繋がりを感じずにはいられない。

 

「昨日ぶりだな」

「……うん」

 

 仕草も雰囲気も、本人同然だ。それが、シェンヌの存在の異質さを際立たせている。

 となると、コイツの正体とは何なのか。隣のアイと同じ、記憶が元になって誕生したもの……というのは有り得ないだろう。シアンはアラガミとしてのケンヤの姿だ。

 

 だが、こうしてケンヤとは異なる意識が存在している……他に推論をあげるならば、俺の中に巣食うあの存在と同質かということだ。

 だが、それは否定できる。人とアラガミのハーフのような俺と違い、シアンはヒト型のアラガミだ。

 

 ケンヤという人間の記憶を持ったアラガミの意識、それがこの感応領域におけるケンヤだろう。

 

 それに実験を行う前にシオが言っていた、人の魂が込められた特別な存在、という言葉も引っ掛かるな。

 人の記憶を獲得したヒト型アラガミ、という意味であれば納得できるが、魂の定義が曖昧だな。後で問い詰める必要がある。

 

「あ、あれ? 何でシアンの中にシアンが……って、それでいいんだっけ? ……あれ、じゃあ目的達成? もう説得すればいいだけ?」

「いや、コイツはシアンとは別物だろう」

 

 もう一度問い掛ける。

 シェンヌとは一体何者なのか?

 

 そもそも、この感応領域がケンヤとしての自意識の上に成り立つものであるから、感応領域を形成するケンヤ本体は、アラガミの意識だが、同時に人としての記憶がある以上、自分が人間存在であると強く感じているはず。

 彼自身の姿で現れなくては、それは自我の崩壊を意味する。

 

 つまり、このシェンヌはシアンの形を取っただけの、全くの別人という事に…………いや待て。この説明なら、精神にもう一つの思考が存在している事が証明できる。

 

「やっべ、頭がこんがらがってきた……」

「この子を初見で理解できたら普通に天才だよ。……それで? ソーマ博士のご回答は?」

 

 にこり、とおっさんばりの胡散臭い笑みで、彼女は首をこてんと傾けた。

 

 俺が既に正体に気付いているという確信があったような話の振り方だ。

 別物、とは言ったがな。洞察力か、勘か……恐ろしさすら感じる。

 

 こういう手合には、気にするだけ無駄か。

 

「……シェンヌはケンヤの別人格、と言った所か」

「お、当たり〜。その症状でお医者さんに掛かってないから診断されてないけど、十中八九、解離性同一性障害だよ」

 

 俺はすんなりと納得した。

 彼の境遇であれば、そうなっていても不思議ではない。

 

 解離性同一性障害。

 このアラガミに満ちた地獄のような世界じゃ、珍しくもない病気だ。親を目の前でアラガミに食われる、なんてこともザラにある。

 

 そういう辛い現実から精神を護る為に、防衛機制を働かせた結果として起こる、ごく自然な人間の機能と言える。

 

 ケンヤの場合は、幼少期に多くの事があった。

 感応領域から出力した記録によれば、両親が殺された時の記憶は無いという。その時に人格が分裂し、しばらくシェンヌが身体を掌握していたと考えれば、辻褄も合う。

 

 しかし、ケンヤ本人も意識の深層に封じられているにも関わらず、シェンヌとこうして対話を交わす事ができるとなると、まるで精神に人が二人住んでいるようだ。

 

 ……博士なんつう柄ではないが、この感応領域についての研究には興味が尽きない。この概念が公にされれば、やがては世界を揺るがすだろうな。

 

 記憶のデータ化が可能になる事で、実戦経験が物を言うゴッドイーターの育成に役立てたり、あるいは精神病の治療……この多重人格を例にするなら、制御のきかない人格、あるいは心裡で会話することのできない交代人格とコミュニケーションを図り、心身の調和を成すなどだ。

 シアンを助けた後にでも、感応領域で可能になる事を調べてみる価値は十分ある……

 

「ソー、マ……?」

 

 思わず探るような目で見ていたのが悪かったようだ。怯えを露わに、アイの背後に身を隠した。

 

「もー、ソーマ君は二回も会ってるんだから、シェンヌちゃんにそんな怖い目しないでよ」

「この目に文句があるなら、そう生んだ両親に……待て、二回だと?」

 

 アイが目をパチリと瞬かせた。肘杖を作って考え込むと、はて? と逆に首を傾げる。

 

 俺は記憶しているのは、先日の実験で強制送還される直前に出会った時のみ。

 何か、忘れている事があるのか……

 

「最初は、確か犬夜がキャパオーバーで引っ込んだんだよね?」

「……ん。ソーマ、シャンパンくれた。美味しかった」

 

 シェンヌがやけに目を輝かせているのと、それにシャンパンつったら、思い当たる日は一つしかない。

 

『……シアン、お前は飲まないのか?』

『…………私は……いい』

 

『飲んでみろ』

『……私は』

『遠慮するこたねぇよ。……まあ、酔えるかは知らんが、雰囲気には酔えるだろ』

 

 あん時はやけに腰が引けていたとは思ったが、まさか入れ替わっていたとは。

 あまりに自然だった。ツバキの奴に鋭い目で見られ、気でも滅入っていたのかと勘違いするぐらいには。

 

「……気が付かなかったな」

「ひぅっ……ごめん、なさい……」

 

 あの中にあった酒は、さっさと一夜の夢になっちまってとっくに無い。

 

 とはいえ渋っていたコイツに飲ませたのは俺な訳だ。

 コイツからしちゃ、責められる謂れなんざ毛頭無いだろう。

 

「まあ、今更だ。そう気に病むことはない」

「ほほぉー! 流石ソーマさん、太っ腹ですなあ〜! って、ちょ、え……? 私の扱い雑過ぎ……?」

 

 肩をバシバシと叩いてくる鬱陶しい天災の手を振り払い、シェンヌの下にしゃがみ込んだ。

 

「…………い、いい、の?」

「このご時世で本物が手に入るかは分からんが、もう一度飲める機会もあるだろう。その時は、シアンの奴にも飲ませてやれ」

「……ソーマ、優しい」

 

 ……さっきまでの様子が嘘みたいに変わった。

 

 子犬さながらの、やけに眩しい純粋な目をしている。

 チョロ過ぎにも程があるってもんだ……コイツ、本当に大丈夫か?

 

 目線でアイに訴えかけると、苦笑混じりで首を振られた。

 

「い、いやあ……昔、色々あってね。シェンヌちゃん、ずっと悪意ばっかりに晒されたから、優しさとかに弱くって」

「む…………私、ちょろくない」

「それは自覚してほしいなあシェンヌちゃん……」

 

 俺の腰にしがみつきながらじゃ、説得力なんてねぇよ。

 チョロさの度合いはシアンとどっこいどっこいだ。

 

『…………あー、三人共? そろそろ、私が話をしてもいいかい?』

 

 ……そういや、今回は不具合も無かったか。

 

 回線が繋がってるなら、まず一番最初に声を掛けろってんだ。

 

「なんだおっさん。問題か?」

『問題、というかは私にも測りかねている所だけど、そのエリアは記憶の結節らしき反応が多数確認されている。それも、攻撃性の激しいものだ』

「攻撃性の激しい、だと?」

 

 神機を握る手に力が篭もる。

 

 アリサの感応領域では、ディアウス・ピター型の結節が現れたという報告もある。

 倒せない相手ではないとは言え、油断せずにはいられない。

 

「記憶の結節って、人だったりアラガミだったり、色んな形で現れるんだっけ?」

『そうだよ。そのアラガミ型の結節が現れた時のために、君達の神機を機器に接続して、感応領域にまで持ってこさせている訳だ。それと、この感応領域では身体ダメージが精神にフィードバックされるんだけど、あまりに影響が深刻だと、現実の身体に異常をきたすから、くれぐれもダメージには注意してほしい』

「ま、マジで……? それはキツいですって…… 」

 

 回復錠は……ある。最低限の持ち物は全て入っているようだ。

 精神世界だってのに、どうしてこんなものも持ち越されてるんだか。

 

「お、皆でSSS+狙っちゃう? でもそれなら一人で戦ってパフェ狙いたいんだけどなぁ〜」

 

 ……そういやコイツは、ゲームの中でアラガミと戦っていたような奴だったな。

 

 戦えるんだか知らんが、その心構えはあまりに危うい。

 俺やロミオは死にかければ強制的に帰されるだけだが、記憶のみで存在しているアイは、記憶の結節による攻撃が直に来るだろう。

 

 ダメージによっちゃ存在そのものが消し飛ぶ、というのも有り得る話だ。

 それによりケンヤ自身にも影響が出た、となっては遅すぎる。

 

「ゲームなんてもんと一緒にするな。……油断すれば、簡単に死ねるぞ」

「あっ……ご、ごめん。無神経だったね」

 

 無神経だ、という言葉が聞きたかった訳じゃないんだがな。

 

 ゲーム感覚でアラガミを狩る奴は見たことねぇが、綺麗な花を咲かせてぇだのと言っている狂人(ジーナ・ディキンソン)は幾らでもいる。

 神機を握る理由はそれぞれだ。それを否定しようとは思わない。

 

 だが、これだけは言っておきたかった。

 

「そういう事じゃねぇ。自分が生き残る事を最優先に考えろ。自分の命も守れないまま、結局他人も守れず自分も守れず、なんつう血も涙もない共倒れにはなりたくは無いだろ」

 

 どこまでも他人本位、そんな甘ったれた考えが簡単に通じる世界じゃねえ。何としても生き残るっつう覚悟が無いなら、さっさと辞めた方がマシだ。

 

「…………ソーマ」

「っ……!」

 

 見上げてくるシェンヌの視線は、何かを言いたげで、

 

 それを代弁するように、ロミオが俺とアイの間に割って入った。

 

「ソーマさん……もう、それくらいにしておいて下さい。アイだって、少し戸惑ってます」

 

 二人に諫められて、頭が冷や水をぶっ掛けられたように冷静になっていった。

 

 ……感情的になったのは、未だに昔の事を引き摺っている証拠だ。

 

 人の事を言える立場じゃないってこった。

 説こうとした側がこれとは、笑っちまうな。

 

「悪い、熱くなった」

「ううん、全っ然気にしないでいいよ〜。私も、オリジナルにはなれないんだなって気付かされたからね。悪化する前に自覚できて良かったよ」

 

 難儀な奴だ。

 本物であろうとするが故に、浮かび上がる不完全への認識を自己肯定に繋げる。

 

 記憶の元となった人物との区別を付けようとする辺りは、オレーシャという少女に関する報告とも一致していると言えるが、コイツは変に拗らせているような気がした。

 

「オリジナルって……アイカワ・アイって、そんなに凄い奴なの? なんか、面白くて人の事もすぐ分かってあげられるスーパーマンみたいに聞こえてくるんだ」

「間違いじゃないと思うよ? 愛惟は犬夜にとっての英雄。辛い時、誰よりもずっと傍に居てくれた親友だからね。こんな人、漫画とかじゃなきゃ実在しないっての」

 

 そう語ったアイからは、笑顔が消えていた。

 

 何度も、何度も見たことのある顔だ。

 特に……リンドウの奴がKIA判定を受けたあの頃を思い出す。

 

 サクヤも、ツバキも、時にはユウやアキでさえも、あの暢気な声がもう二度と戻ってこないと苦しむ様子を、隣で見てきたから分かる。

 

 なぜ、どうして。

 

 溢れる呟きが、脳を幾度と突き刺して反芻する。

 

 だから一瞬だけ、脳を跳ね返るこの声が、他人の囁きには聞こえやしなかった。

 

 

『どうして……愛惟が死ななくちゃならないんだ』

 

『愛惟が死ぬくらいなら、俺が死んだほうがマシだったのに』

 

「な、なんだ? この声、どこから聞こえてるんだ……?」

『ソーマ、ロミオ君! その領域の安定指数が、急激にマイナスに振り切れたのを観測した! 結節の出現に注意してくれ!』

 

 無言で神機を構え、気配のする方に目を凝らす。

 

「……現れた」

 

 俺と、とっくに腰から離れていたシェンヌが動き出した時のタイムラグは、ほぼ無いに等しかった。

 

 蜘蛛型のアラガミを出現と同時に叩き斬った。

 未知の姿と骨格をしているが、攻撃させなければただの的だ。

 

「シッ────!!」

 

 ──ロングブレード・ステップ□攻撃BA(バーストアーツ)『刹那ノ斬光』

 

 次の相手は……と地面を踏みしめようとした須臾の間に、傍らでシェンヌは四体の蜘蛛型を一掃していやがった。

 

 透き通った結晶状の神機を振り抜いた様は、とてもじゃないがあの気弱な少女とは思えない。

 

 戦える事は素直に褒めるべきだろうが、どうにもウチの支部所属のブラスト使いの顔がチラつく。

 アレと同種でなけりゃいいんだがな……

 

『今のが第一陣のようだね。未だ安定の兆候は無いから、かなりの群れが予想される。気を抜かないように頼むよ?』

「……次、来る」

「おっけーい、任せてちょ☆」

 

 今度は意気揚々とアイが飛び出すと、その手に握られた、四角い板形の黒い神機を軽々と振り回した。

 

「ヒャッハー!! 墓石最強ー!!」

「とりゃあっ────って何だそれ!?」

 

 ロミオが面食らうのも納得の迫力がそこにはあった。

 

 ロングブレードの扱い方でありながら、バスターブレードで蜘蛛型を吹き飛ばすのと同じか、それ以上の威力で孤島から呆気なく吹き飛んでいくなんてのは、俺でさえ見たことがない。

 

「ん……あれは、〝墓石ノ剣・御影〟。切断じゃなくて、破砕属性に全振りした長刀」

「……未来の武器か」

「……三年前に極東で製作されてる」

「んなもんウチの技術部で開発させてたか……?」

 

 かなり似通っているとはいえ、あのゲームの世界とこっちが完全に同じと決まった訳じゃない。

 本当にあるのなら、軽量であっても破砕属性が付与できる技術について知りたいものだが。

 

「……次々湧いてきやがるな」

「……なら、最高速で狩りつくす」

 

 

 

 

 

 

 

ジュリウス、シエル、ロミオ、アリサ、ソーマ

ジュリウス、シエル、ロミオ、アリサ、ソーマ

 

 

 この感応現象じみたのは、〝エンゲージ〟か。

 シアンと発動した事が何回かあるが、まさかお前も使えるとはな。

 

「ん……ちょっと、不完全だけど」

「無いよりはマシだ。……行くぞ」

「……らじゃ」

 

 脚を踏み出し、近くの蜘蛛型を捕食すると、捕食が終わり切る前に刀身を伸ばし、トドメを刺した。

 

 俺のエンゲージにおける能力は、溜めに掛かる時間を少なくし、捕食後の隙を完全に無くすというもの……らしい。

 

 捕食特化とは、なんともまあ俺にお似合いの能力だ。

 とはいえ、コイツが中々に便利なんだが。

 

 そのまま敵陣に突っ込むと、機雷のように撒き散らされたオラクルをシェンヌのエンゲージ(ジャストガード)で突破する。

 

 だが、不完全と言っていたように、思ったよりもエンゲージの効果時間が短い。〝太刀牙〟で一掃してやったが、他にもチラホラと数が見えやがる。

 

「はいはーいソーマくーん! そっち〝のうばく〟行くよ〜!」

「……あん?」

 

 アイが謎の単語を言い放つと、そのブラストから複数発の弾丸が空目掛けて飛んでいく。

 何をする気だ、と身構えていれば、次には空から降る弾丸によって敵が狙い撃たれ、爆殺されていった。

 

 変わった使い方がされているが、天井のない開けた場所なら、かなり有効な追尾弾だ。こればかりは発想の勝利という奴だろう。

 

「抗重力弾あったらなあ……っと、ロミオ君あっちお願い!」

「おう、りょーかい!」

 

 ロミオの神機が光を纏うと、紅い刃が地面を奔り、直線上の蜘蛛型が面白いように霧散していく。

 

「もういっちょ! せぇ……のっ!!」

 

 ──バスターブレード・チャージクラッシュBA(ブラッドアーツ)『CC・アービター』

 

 ……あの二人も規格外だが、ブラッドアーツが使えるロミオも大概、といった所か。

 

 俺も半分アラガミのような身体だが、所詮は第一世代の型落ちだ。

 特殊な技やらが使える訳でもなく、ただ回復が早くて身体能力に優れているに過ぎない。

 

 昔は任務で死人が出るなんつう事がままあったからこそ重宝されたが、昔よりレーダーは優秀になり、アラガミの行動も予測できるようになって、殉職率が格段に低くなった今じゃあ注目されるような能力でもない。

 

 この調子なら、研究職に専念しても文句は言われないか。

 レトロオラクル細胞の件もあるが、やはり感応領域は捨て置けない概念だ。

 

 相変わらずクソッタレな職場だが、マシな時代になったもんだ。

 

「ロミオ〜! ソーマく〜ん! 全部倒したよ〜!」

「こっちも終わったぜ!」

「……ビクトリー」

 

 ……その前に、まずはシアンを救ってやらねぇとな。

 

 

 ○ ✕ △ □

 

 

『おはよう、犬夜くん。ご飯できてるからね』

『……はい』

 

 僕と、その頃まだ赤子だった妹を引き取ったのは、お父さんの姉夫婦、つまりは伯父と伯母だった。

 

『お、犬夜君か。今日も一番乗りだな』

『ですね……さっき妹は起こしてきました。優果さんは……その』

『優果を起こすのは命懸けだからな……郁華(ふみか)、頼んだ』

『はいはい、フライパンね』

 

 お玉とフライパンを装備した伯母さんが上に駆け上がると、入れ替わりで妹が下りてくる。

 

『……あにき、おはよ』

『おはよう……(りん)

 

 知らない間に、妹は喋るようになって、僕を兄貴と呼んでいた。

 

 たった3年。僕の身体が誰かに操られていた間に、周りでよく知っている人は愛惟だけになってしまった。

 だから、何ヶ月か、愛惟にしか心を開けなかった。

 

『フミおばさんもトモおじさんも、あとユウカさんも優しいけどな〜。あと、リンちゃんをあいつ呼ばわりしちゃダメだって。たった一人の妹なんだよ? みんな、大事にしてあげなくちゃね』

 

 愛惟が、いつもそうやって僕に言い聞かせていたくらいだ。

 ずいぶん、悪い事をしてしまった。

 

 でも最近になって、やっとここに馴染めてきた。

 知らないことのほうが少なくなってきたからかな。

 

 最初は冷めきった態度に戸惑っていた伯母さん達も、僕から少しずつ遠慮が無くなっていくにつれて、距離感を縮めていった。

 

『け、けけ犬夜くん助けて……お母さん……お母さんから守ってぇ……』

『優果姉さん、またテストで悪い点数取ったの?』

『ひいい……国英社理はできても数学だけは無理なのぉ……! あんなもん滅びろよぉくそう……』

『優果姉さん』

『ヒッなんでもないですごめんなさい』

 

 ……仲良くなれたのは、三人が良くも悪くも尖っていたからかもしれないけど。

 

『あにきあにき』

『あっ鈴ちゃん……今日も可愛いね。抱っこさせて?』

『あねき、どいて』

『あっハイ……』

 

 まあ、妹は義理の姉には懐かなかったんだけど。

 情けないいとこより、よっぽど姉らしい幼馴染が居るからかもしれない。僕もそう思う。

 

『あたしね、あにきのこと自慢したら、しーちゃんに〝ぶらこん〟だって言われたー』

『え、あ、うん』

『〝ぶらこん〟は〝あにき大好き〟ってしょーごーなんだよ。へへー、ほめてくれてもいいんだよー?』

 

 ……が、幼馴染の英才教育が過ぎるせいか、口調まで似てきたのは、ちょっとアレだ。

 

 いつか愛惟にガツンと言わないと、妹の将来に関わる。

 

『……シスコンにはなってくれないの? お姉ちゃんなんでもするよ?』

『あねき、キモい』

『うぼぁっ!? り、鈴ちゃんどこでそんな言葉を……』

 

 子供の成長は早い。

 愛惟や自分も早い方だと思うが、鈴も3才にしてこの語学力なのだから、きっと現代化の影響なんだろう。

 

 学校での冷遇ぶりをよそに、僕は家族との温かい交流を楽しんだ。

 

 

 ○ ✕ △ □

 

 

「……帰っちゃったね」

「……また、戻ってくる」

「それもそっか」

 

 アイは頷くと、先程感じた記憶に想いを馳せる。

 

 藍川愛惟は完璧超人の天才だ。

 両親を殺したという罪悪の記憶を持つシェンヌに、その人格が表に出なくなるまでメンタルケアを行い、犬夜と家族との不和を無くし、鈴に兄を気味悪がらないよう教育した。

 

 他にも、小中高と犬夜と同一のクラスであるのを鑑みるに、愛惟は、本人のあずかり知らぬ所で、犬夜の伯父伯母夫妻に教師側と掛け合ってもらうよう手引きしていた、と考える方が自然だ。

 

 これが、当時3〜6才にだった少女にできる芸当だろうか。

 

 いや無理だ。

 誰がどう見たってそう思える。犬夜の持つ彼女の記憶から生み出された存在なのに、まるで犬夜攻略RTAでも見てる気分になった。

 

 アイは、愛惟という人物は転生してきたんじゃないかと本気で考えている。

 

 何せ、犬夜がこうしてヒト型アラガミとなったのだから、荒唐無稽でも信憑性はあった。

 

(転生って、何なんだろうね)

 

 神のような超常的存在が引き起こしているのなら、この転生に果たして意味はあったのかと問いたい。

 

 愛惟が居なくなった後、犬夜がどんな思いで暮らしていたと思っているのか。

 気まぐれだとしたら、アイはその神とやらに殺意を抱いていた事だろう。

 

 あのまま終わった方が、犬夜の為になった。

 こんな辛い思いをさせるのなら、絶対にその方が良かった。

 

 でも、今では仲間がいる。家族(ソーマ)がいる。

 愛惟が居ないこの世界で、犬夜は生きがいを持って生きていた。

 

「犬夜は、この世界で幸せに生きられるのかな」

「…………幸せにならなきゃ、ダメ」

 

 それを言ったのが誰か、一瞬アイは分からなかった。

 この場には自分を除いてシェンヌ一人しかいないのに、それがシェンヌの言葉だとは思えなかった。

 

 驚きのあまり、口が半開きになりながら隣に振り向いた。

 

「犬夜は理不尽なまでに世界に苦しめられた……両親を、友達を、愛惟を喪った。これ以上、誰かが居なくなるなんて、許せない」

 

 彼女から、ここまで強い言葉を聞くことになるとは。

 

 誰に言われるでもなく自己主張をしたのは、これが初めてだ。

 

 どこまでも犬夜の為、という所は何も変わってはいないが、自分では何もできないと卑下してばかりの頃よりも、より肯定的になっていた。

 

「シェンヌちゃんサイコ────!! バンザ────イ!!」

「うぎ……ぐるしぃ…………」

 

 嬉しかった。

 愛惟の記憶を持つアイだから、殊更に。

 

 愛惟が見たら、どう思うのだろうか。

 今の自分自身のように、全身で喜びを表現するのだろうか。

 

 分からないが、アイにとっては、これが最適解だった。

 

「死ぬ……死ぬぅ……!」

「君が泣くまでっ、抱き締めるのをやめないっ」

「な、泣いてる、からぁ……!」

 

 シェンヌがこうも変わったのは、考えるまでもなく明確だった。

 

 自分や愛惟が幾ら時間をかけても成せなかった事を、たった数ヶ月でやり遂げてみせた。さすが、稀代のヒト型アラガミキラーは格が違うと内心からかった。

 

 それと、感謝の言葉もついでに。

 

 ──ありがとう、ソーマくん

 

 


 

 

記憶結果〔シアン〕≫3
伯父と伯母は、とてもよくできた人だった。僕の不安を考えて、幼馴染の愛惟がいるこの地域にわざわざ引っ越してから僕と妹を引き取ってくれた。

 

伯父は出版社勤めで、日本のサブカルに精通している人だった。僕がオタクへの一歩を踏み出したのは、伯父が見せてくれた『ふたりはプ○キュア』と『創○のアク○リオン』とかいうアニメのせいだった。そういう意味では、僕の原点とも言える人かもしれない。

 

伯母は特にこれといって何かをしている訳じゃないけど、夏と冬のとある期間、重装備で外に出掛けていく。なんでもちょっとした本が描けるらしく、さる業界では超有名人なんだとか。今年はスザルル本だとか電話で話しているのを聞いて、何の事か分からず伯父に聞いたら、乙女の花園を明かすのはやめようと言って全力で止めてきた。

後で真実を知った時、妹に火の粉が降りかからないよう情報統制したのは言うまでもない。

実験関係者のみ閲覧権限を付与

 

記憶結果〔シアン〕≫4
優果姉さんは、そんな伯父伯母のサラブレッドで、ありとあらゆる二次元に通じる典型的なオタクだ。陰の者を自称して、母のような同人作家になると言ってきかなかった。ロリとショタが好物で、毎度僕や妹に抱っこさせてとせがんでくるが、僕達は一度も認めたことはない。イエスロリショタ、ノータッチ。

 

唯一僕と血の繋がった家族の鈴は、自他共に認めるブラコンで、通ってる学校でも有名になっている。オタクが過ぎる家族へのささやかな反発なのか、中高と上がるつれギャルっぽくなるが、それでも兄貴ライクな部分は変わらなかった。後々、愛惟が兄貴崇拝の為の思想教育を施していたと知って愕然したが、それも分かっててブラコンでいたらしい。

そして、鈴の部屋の中には、大体兄妹の近親相姦の漫画や同人が置いてある。血の運命(さだめ)なのか、もう手遅れだった。

 

お父さんやお母さんも、オタクだったのだろうか。

そう考えると、覚えのない鉄の匂いが鼻についた。

実験関係者のみ閲覧権限を付与

 

 

 




また酷いサブタイ付けやがって(他人事)

アイ、とつくタイトルで良いフレーズって言ったら既に絞られてしまう
次話の予想が付くのも時間の問題だぁ……(めぐりあい宇宙)
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