「グァァァゥ……」
「オウガテイル一丁上がり──っと」
その場を歩いていたオウガテイルの身体に腕を突き刺して、正確にコアだけを引きちぎり、目の前で貪った。
この世界に、アラガミとして生を受けて一週間。
その間に何をしていたかを纏めてみると、こんな感じになる。
・武器作成
・戦闘技術向上
・回収素材捕食
・小型アラガミ討伐
まず武器作成についてだが、これはまだ出来ていない。シオやリンドウの様な禍々しい神機を求めていたのだが、作れそうな感触はあっても作成にまで至っていない。
なので、当面の間この案件は放置。
次の戦闘技術向上。これに関しては上々と言える。
生前、カッコいいからという理由で様々な武術の動画を見ていたのだが、それが非常に役に立っていた。アラガミの頭脳はポテンシャルが高いらしく、やろうと思ったら人外級の動きですら再現を可能としている。加えて念入りな戦闘訓練も行ったので、問題は無い……はず。
回収素材捕食。これはとにかく落ちているそれっぽいアイテムを片っ端から食っているので、どれがどのアイテムだったのか見当はつかないし、どういう味がするのかメモも付けず、確かめずにいる。が、皮膚を多少硬くすることが出来るようになったり、身体から繊維を作り出せたので、それを布にして体に巻き付けたり、有用なので積極的に行っている。
こっそり黒曜鉄とか強化ポリカーボネートとか食べてないかなぁ〜と、期待してたりする。
小型アラガミ討伐。これは読んで字のごとく、小型アラガミを倒して回っている。
まともな実戦経験も無く、自分の力量を把握せずに中型アラガミと戦うのは準備不足と言っていい。
どうやって訓練しようかと考えた時、力のコントロールや限界を試すには、やはり生きたアラガミが良いと考えた俺は、早速実行に移し、見事初戦で敗走。命からがら自宅への生還を果たした。
そんな具合に、最初の頃はオウガテイルに上田されまくっていたが、その内飛び掛かり攻撃に対してアッパーカットを食らわせられるようになったし、コクーンメイデンは、奴から発射される弾丸を小さなステップで躱し、飛び出す針に瞬時に反応してカウンターをお見舞いできるようにもなった。
一応、やったことを全て話したのだが、それ以外、一つ別の方向での進歩があった。最近の出来事で最も驚愕した案件と言っていい。
なんと……背が伸びたのである。
子供なら普通だろとは思うだろうが、この身体はアラガミ。一生をロリっ子のまま過ごすと思い覚悟していたのに、背が伸びた。小学校一年生から、二年生になるくらいの大幅な成長……
理由を幾つか考えてみたが、やはりアラガミや回収素材の捕食がキーだろう。今後も原因を深く確かめていく予定だ。
と、経過と今後の予定は置いておいて現在、オウガテイルといった小型アラガミの掃討を終えて俺の根城である廃校へと帰ってきたばかり。
教室の床にゴローンと寝転がろうと身体を後ろに倒す。最近は狩りや探索に行って、戦闘訓練をしたら学校でダラダラする生活をしているだけなので、午後はやることが無く暇だったりする。
偶に技術を磨くための練習はしているが、相手がいないのであまり効率的じゃない。
じゃあ実戦をするかと言われれば、それは嫌だ。この時間帯は中型や大型が活発に動いている。鉢合わせればどんな目に遭うか……
そんな暇な時の楽しみであったドロップスや乾パンは既に尽きているし、そもそも非常食は全て俺の胃の中に入ってしまった。
「ひ〜ま〜だ〜〜〜!」
ゴロゴロと教室を転がり回るが、そんなもので時間は潰れない。だからといって、外に出るのは危険なのでもっと嫌だ。
うわぁ〜〜と教室中を転がっている最中、俺はスっと動きを止めた。
耳障りな音が、俺の耳を刺激してくる。しかし、これは普通の音ではない。
俺は便宜上、これを偏食場と呼んでいる。作中によれば、アラガミが発する固有の波長で、この波長をデータと照合する事で、アラガミの正体を割り出しているという。これは、普通の人間やゴッドイーターには聞き取れない。
作中でも、レーダーなどで探知するもので、例外的にシエルが血の力で感じ取れるだけで、
っと、逸れたから一旦話を戻そう。
いつも聞こえる、単なる小型アラガミの偏食場なら俺はこのままゴロゴロとしていただろう。しかし、これは小型アラガミのそれとは異なっている。
「……中型アラガミの偏食場かぁ」
先の通り、アラガミによって波長は異なる。何のアラガミかを判別するのはま無理だが、強ければ強い程に、耳障りな音になる。聞こえてきている音は、それにあたる。
それは、ジリジリとこの廃校へと進んできている。仕方ないなと思いつつ、窓からスチャッと飛び降りると、目の前にそいつが居て、こちらを睨みつけている。
大きな口と、ギザギザした鋭利な歯を前面に、セイウチと魚を混ぜたような胴体には大砲のような砲身が二つ。額には大きな砲身がある。
グボロ・グボロ。
そいつが、目の前に現れた中型アラガミの名前だった。
「グルルル……」
唸り声をあげると、頭のトサカが立ち上がる。
これは確か、遠距離攻撃の予備動作だったはず。
取り敢えず全力で横っ飛びして回避すると、三発の水弾が俺のいた場所に殺到し、地面を僅か抉り取っていた。
「っぶな!?」
どうにか、ゲームの知識が通用したか。
一瞬、逃げるという選択肢が脳裏に浮かんだが……折角の機会だ。
これで、中型アラガミ相手でも戦えるようにしなくては。
すると、グボロ・グボロの砲身が真上に向いた。
この動作は確か……
「──竜巻!」
咄嗟にグボロ・グボロの方へと駆けてゆけば、さっきまで居た場所に水の旋風が巻き起こった。
基本的に、アラガミには予備動作がある。それさえ見計らえば避けられなくもない。ただ、ゲーム感覚になるとダメだ。思ったより予備動作が早く、一瞬でも反応が遅れればダメージは必至。
ゲームのように、簡単にはいかない。
グボロ・グボロの真正面に行くと、奴は大きく口を開いた。そのまま俺を喰らってしまおうという魂胆なのだろうが、そんな大きな隙を見せたのは愚策だ。
脚にグッと力を入れて背をかがめると、グボロ・グボロの真上を跳び抜ける。奴はさっきまで俺がいた場所を喰らうが、俺は既に背後へと回っていた。
手を手刀の形にしてグボロ・グボロの背びれの部分に叩きつける。
俺の手にあるオラクル細胞が、奴の柔い背びれを切り裂いた。
「グアァァ──!!」
切断属性モドキを持たせた手刀だが、所詮は手刀。小型アラガミは両断できても、相応の結合力のある中型アラガミでは分不相応な攻撃手段であり、結果として少し切り裂く程度の傷に留まっていた。
グボロ・グボロがグルンッと身体を振り回して暴れ始めたので、後ろに跳んで離脱する。
……これは中々時間が掛かりそうだ。
目の前のグボロ・グボロが水の球を発射しようと砲塔を伸ばしているのを見て、俺はげっそりと表情を歪ませてそう思った。
そして、それから大体12分後。
目の前のグボロ・グボロはあらゆる部位が結合崩壊しているが、対する俺は殆ど無傷だった。
反応が遅れてグボロ・グボロのタックルをモロに受けてしまったが、少し骨が折れた程度で済んでおり、その傷も既に治りかけている。
飯ダッシュを追いかけていたりはしていたものの、まさかここまで時間が掛かるとは思ってなかったので、もう決着をつけたい。
俺がグボロ・グボロへ何度目か分からない突貫を始める。奴も口を開けて地面を恐るべきスピードで滑り出した。
チャンスだった。三回連続で俺に突進するが、それをステップで全て躱し、隙だらけな奴の背びれの傷に、両手を差し込んで広げていく。
「グアア──!!」
「うわわっ」
身体を回転させるが、俺の身体が背びれに乗ったので問題無い。そのまま肉を押し広げ、裂いていく。
やがて、覚えのある丸い形状の感触が手に触れたので、慣れた手つきでそれを無理矢理引き剥がす。
「バァァァァ!!」
しかしまあ、その状態で更に暴れ回れば……まあ、コアが肉体から剥離する訳で。
グボロ・グボロは体をドスンと横たわらせた。
血液塗れの右腕には、小型アラガミより一回り大きくて、透き通ったコアが掌に。
あっさり、という程では無いが、少なくとも今の俺でも、中型アラガミが倒せる事が分かった。
これも、日々の鍛錬と捕食が功を奏したんだろう。
アラガミの血液がパラパラと空気に消えていくのを見ながら、目の前の戦利品に合掌した。
「頂きます」
ガブリと一口。これはなんだろう……よくスーパーとかに売ってるマグロの赤身を、醤油も付けず食べた味だ。美味いかと言われれば微妙だが、生の牛肉味よりマシというものだ。
うんうんと頷きながら、コアを食すと、あっという間に食べ終わってしまった。
ふぅ……久々に人間らしいものの味がしたから、つい夢中になって食べてしまった。
「よし、ごちそうさまでした」
合掌して、食物への感謝を捧げると、次なる獲物を求めて散策を始めた。
……まずった。ヤバい、これは死んだかもしれん……!
くそっ、今世紀最大の過ちだ!
「なかなかいい動きをするな、新入り……」
目の前で繰り広げられているのは、小型アラガミが、三人の人間によって蹂躙されていく様。
事の発端は、興味本位の行動だった。散策がてらぶらついていたら、遂にゲームで見たことのある黎明の亡都のマップを見つけたのだ。
現実なので、無論ゲームより描写が細かい。アラガミもいなさそうだったので、植物園を見て回り、大きな図書館で本を漁り終えて満足した所で、居たのだ。
……〝ゴッドイーター〟が。
アラガミの天敵にして、最大の脅威。
それは俺も例外ではなく、彼らの持つ〝神機〟で攻撃を浴びせられれば、負傷は免れない。
図書館の出口から、三人をこっそりと覗き見る。
「いい機会だ。お前達が目覚めるべき血の力をここで見せておこう」
そう言っている彼の名前は、ジュリウス・ヴィスコンティ。ゴッドイーター2の主要キャラの一人であり、その特殊部隊ブラッドを束ねるリーダー。
そんな、現時点最強クラスの人間がゼロスタンスの構えを取ると、三人の体が淡い光に包まれた。
「力が……みなぎる……!」
「神機が、バースト状態に……?」
その後ろにいるのは、同じくブラッドに所属している香月ナナと……ゴッドイーター2の主人公、確か、漫画版での名前は神威ヒロだったか。
「今からブラッドアーツを目標に対して放つ。少し離れていろ」
「ブラッドアーツ?」
ブラッドアーツ。これのお蔭で、GE2は前作よりも難易度が易しくなっている。威力も強くて、連発してゴリ押ししたら大体の敵には勝てるんじゃないか。
「戦況を覆す大いなる力……戦いの中どこまでも進化する、刻まれた血の為せる技……」
セェアアッ!! と声が響くと、ジュリウスのブラッドアーツが炸裂。横一文字に切り裂かれた三体のオウガテイルが、無数の切り傷をつけて倒された。
「これがブラッドアーツだ」
……こ、こえぇ。
アレを食らったらひとたまりも無い。それなりに力はあるが、GEの主人公と2の主人公には絶対負けるし、目の前のジュリウスなんかと対峙すれば目も当てられない。
それはもう確信の域だ。
だが、今回は運が良いらしい。ジュリウス達は、図書館の出口から少し顔を覗かせている俺に全く気づかない。
それにどうやら、もう帰るみたいだ。
俺はジュリウス達が俺の方向に背を向けた瞬間、出口から足音を立てずにこっそりと抜け出す。
「よし、今から帰投する」
……ふっ、俺の隠形は主人公達からも察知されない──
『──っ!? ジュリウス隊長! 作戦区域に強大なアラガミ反応を検知! 大型アラガミが後ろにっ』
「何だと!?」
三人が後ろに振り向いた。
俺がビクッと固まり、三人と視線が合った。
一人、キョトンと俺を見ている少女……香月ナナが、戦場に合わない間の抜けた声を出した。
「……えっとぉ、ジュリウス隊長、私の目の前に人がいますよ?」
「ナナ、人の様な形をとったアラガミというのは幾らでもいる。だが、俺でもこうも人間を模倣しているアラガミは見たことがないな……恐らく、新種だろう」
「ええと……どうしますか、隊長」
神威ヒロ……いや、名前は分からないものの、恐らくゲームのプレイアブルと思われる主人公が、神機を構えてジュリウスに指示を仰ぐ。
「例え人の形を取っていたとしても、アラガミが人類の脅威である事に変わりは無い。だが大型アラガミ級となると荷が重いだろう。俺が時間を稼ぐ。お前達だけで先に帰投しろ」
「!? 隊長、それは……!」
主人公がジュリウスを止めにかかるが、ジュリウスがゆっくりと俺に近づいてくる。
えぇ……戦うの? 俺絶対やだよ?
「俺は追って帰投する。……来い、アラガミめ」
……どーっすかなぁ。ラケル先生に捕まりたくないし、殺されたらやだし。
思いっきり上に跳躍して逃げよう。そうしよう。
「ふうっ……はあぁぁぁぁ!!」
ブラッドアーツが発動するが、その攻撃がくる前に脚に力を溜めて、図書館の屋根に着地する。
「なっ、逃走する気か!?」
じゃあ、あばよ〜ピクニック隊長〜!
追ってくる前にとっととスタコラサッサしましたとさ。
しかし、物事というのは大体上手くいかないものであり、それは正に、こんな状況のことを指す。
「ウォォン……」
逃げた先でバッタリ遭遇してしまったそれは、くぐもった唸り声を上げて、俺をじっと見詰めてきていた。
小学生低学年程度の身長しかない俺の、およそ五倍ほどの背丈。腕を組みつつ、翼の先端にあるデカい拳をチョイチョイとやって挑発する仕草が特徴の鈍い色のアイツ。
いや、アイツでは失礼か……ゲームに倣い、ぜひとも師匠と呼ばせてもらおう。
(硬い、素早い、トリッキーの3点セット。オウガテイルごときと戦ってた俺じゃキツイよ……シユウ師匠)
うへぇ、なんて面倒くさそうな顔をしてたからか、シユウが痺れを切らして滑空攻撃を最初に行ってきた。
だが勿論、そんな攻撃に当たるほど柔な訓練はしていない。直ぐさまシユウへ駆け出し、その勢いで下にスライディング。シユウが俺の真上スレスレを通って着地した。
間近で見ると迫力満点……これはビビる。
スライディングから素早く立ち上がると、向かい合う。
互いに無手である為格闘戦になるだろうが、パワーが強いシユウに格闘技で戦うのは無理があるし、何より奴には元気玉というか、波動拳というか何だかの攻撃をしてくるのが厄介だ。
「ウォォォン……」
すると、距離が空いているのに、シユウは体をかがめて拳を握り締め始めた。
この予備動作をする際、距離感によって攻撃が変化する。
近いと衝撃波を周囲に発生させるのだが、これが遠いとどうなるか。
既知の技ではあるが、上に投げるものであってほしい──
「ウォオオオォン!!」
俺の願いは届かず、しかも最悪の例だ。多数の元気玉の後、巨大な波動拳を繰り出してきた。
何個もの元気玉波動拳が放たれるが、俺はこの攻撃に明確な対抗策が無い。ステップでギリギリ躱せない。
(……でも、これならいけるんじゃないか?)
なんと馬鹿らしい。馬鹿らしいけども、俺の身体は、既にお膳立てをしてくれている……そんな風に訴えているような気がした。
つまり、何が言いたいのか。その答えは、シユウの無数の光弾によって出来た土煙が晴れて、俺の視界の尽くを覆い隠していた。
薄い膜のようなものが折り重なって出来たような、神秘的な太刀。紫水晶の色の筋が脈動しており、持ち手の部分から、白鳥の翼のような盾が展開されている。
この身長にはあまりにも不相応な大きさだが、確かに俺は神機を握っていた。
意思で展開してあった盾を閉じさせると、その太刀を、剣道で言う脇構えで持つ。これこそ、ゴッドイーターでのロングブレードの持ち方であり、俺が前世で傘をぶん回して、よく再現していたものだ。
ふぅぅ、精神統一、心頭滅却……
「グオオオン!!」
……うるせぇ! こちとら集中してんだよ!
俺の心の叫びはシユウ師匠に伝わらなかったらしい。
滑空攻撃をしてきたので、それに突っ込む。
何がしたいか分かるだろうか。……いや、絶対にこれは分からないだろう。
シユウが滑空する目の前に到達すると……
「グオォンッ!?」
ゼロスタンスを更に傾け片手を離した状態で盾を展開し、シユウの突進を受け……
「──セイヤッ!」
その勢いのまま両手で持ち直し、シユウの顔面を斜め上からの斬り払いでカウンターをしてやった。
ゴッドイーター2から追加されたアクション、名前をパリングアッパーという。
さっきやった通り、盾でガードしてから剣で斬りつけるカウンターを放つ技だが、ゲームでは、バスターブレードという大剣でのみ使用可能なアクションであり、間違ってもこんな太刀──武器種、ロングブレードに酷似したこの太刀なんかでは使えない。
では何故出来たのか……その答えはとても簡単で、単にゲームじゃないから。
現実で行動を制限される謂れは無いもんな。たとえ銃の種類がブラストでも、ショットガンのラッシュファイアみたいな突進移動を再現して使っていい訳だし、GE3追加の新アクション、ダイブで空をぴょんぴょんしても問題ないのだ。
ただし、例に挙げた以上二つは現実のスタミナを使うだろうし、きっと費用対効果は微妙だ。
「グォォォ……!」
頭が顔面崩壊……ではなく結合崩壊したらしいシユウが、怒り状態……もとい活性化した。
向こう側から走って来て、動きを止めた瞬間のシユウの翼に斬撃を当てまくると、また屈める動作に入った。
とすれば、衝撃波攻撃に他ならない。ここで盾を展開するのも一つの手だが、現実がそう上手くいくだろうか。
衝撃で体のバランスを崩すかもしれないというのも考慮して、俺は空を跳んだ。
予想通り地面に手を叩きつけたので、そのまま重力に乗って落ちると、シユウの頭へ、この鋭利な太刀を突き刺してやった。
「グォォオオオォォォ!!」
深くまで差し込むと、中身をグリグリと抉って追い討ちをかける。
これが俺の十八番だ。
だが、シユウ師匠はまだ反撃を続けたいらしく……脚に黄色い闘気のようなものを纏わせ始めていた。
ん? いや待てよ、それ……確かリザレクションからの追加アクションじゃ……!?
その疑問が浮かんだ瞬間、俺の身体が空を舞っていた。と、同時に、喉の奥からせりあがってくる鉄の味をゴバッと吐き出す。
腹が陥没した上、脇腹も少々、抉られたらしい。まさか、奴もHPが少なくなって火事場の効果が発動したのか……これ、もしかしてモン◯ンじゃ──
「痛ぇっ!?」
後頭部を強く打撃して、俺の阿呆な思考が正常な思考に戻っていた。
危ない、モ◯ハン脳になって世界観を間違える所だった……
即席でオラクル細胞から作り出した布を脇腹に当てつつ、未だ健在なシユウを見据える。奴の拳をチョイチョイして挑発する仕草が、まるで「おいおい、そんな程度かよ、もっとかかってこいや!」と言っているようで何だかウザい。
「……良いぜ、やってやんよ、コラァッ!!」
怒りを露わに片手で太刀を持って特攻する。
シユウは挑発を止めて、姿勢を屈めた。なので、俺は盾を展開しつつシユウへと突撃していき……大きく横一文字に斬った。
……いや、斬ろうとしていた、と言った方が良いだろうか。
「グオォォン……」
吸血鬼とか究極生命体とか背後霊のいる世界風に言うなら、『あ、ありのまま、今起こったことを話すぜ!』から始まり、
『俺が盾を閉じて、斬ろうとしたら、師匠がいつの間にか倒れていた……何を言っているのかわからねーと思うが、俺が一体何をしたのか、わからなかった……』
という感じに終わるだろう。
……単純に、多分俺が突き刺した時の攻撃がようやく効いて、絶命したんだと思うけども。
何はともあれ、シユウとの勝負は実に呆気なく終わってしまったとさ。
……シユウのコアの味は、ジューシーな鶏の手羽先だった、マル。
それからというものの、俺はひたすら自分が生き残る術を磨いていった。
コンゴウに挑み、ラーヴァナに挑み、ヴァジュラに挑み、ボルグ・カムランに挑み、サリエルに挑み、プリティヴィ・マータに挑み、ハンニバルに挑んだ。
三週間、ずっと敵を探し回っての戦闘だったが、ここまで濃い日々は無かった。アラガミとしての戦闘センスを存分に発揮し、強くなることを念頭に入れながら生活をしていた今なら、神機使いが襲ってこない限り多分負けない。
しかしこの三週間で、俺はとある最も重要な発見をした。
それは、大型種のアラガミで、空にフワフワ浮かぶ魔女のようなアラガミであるサリエルを食らった時……突如体が急激に痛み出した事。
強烈な痛みだったが、それに耐えて立ち上がったらなんと目線がまるで違っていた。
鏡を見れば一目瞭然。大体、小学校高学年くらいな身体つきに成長していた。
この時は歓喜のあまり、はしゃぎ過ぎて横からアラガミに襲われたくらい周りが見えていなかった。
その後、聖母の像の顔をした四足歩行の虎のアラガミ、プリティヴィ・マータを食べて、少し背が伸びて中学生くらいに成長した。
推察するに、女性を模したアラガミを食べると身体が成長するという事だ。以前成長した時は、恐らくコクーンメイデンやザイゴートを喰った時のものなのだろう……これらの情報から今後から、積極的にそういうアラガミを食べていこうと考えていた矢先、そいつは来た。
「あぁぁー……ニュクス達の相手キツかったぁー……」
目の前には、感応種のニュクス・アルヴァと何体も折り重なってサリエル、サリエル堕天の骸が放置されている。
右手に持った神機を構えると、
正確には、これは神機のようなもので、神機とは違って完全に自分のオラクル細胞だけで構成された、単なる武器と言っていい。
まあ、肉体よりも攻撃力はピカイチな上、ロングブレードの形をしていてリーチが長く、使い勝手が良い。前世の頃も、ゲームではロングブレードを多用していたので、これはとても有難かった。
そして調子に乗って二刀流を始めたのだが……これが殊のほか型にハマってしまい、対策をしないとコアが無限に再生するハンニバルを延々と痛めつけ、コアを喰らい、その都度再生させて喰らい続けたのだ。
身体能力が向上した他、コアの再生能力を会得。実質、神機使い以外なら、捕食さえされなければ死ぬことは無くなった。
……え? なんでそんな事が分かったかって? いやだなぁ、別に調子に乗ってスサノオに挑んで殺された訳じゃないとも。ハハハ……
「じゃあ頂きまーす」
捕食形態を解放し、ニュクス達のコアを纏めて頂きます。
っておお、ニュクスは生クリームの味だ。ウマウマ……
食べ終わり、けぷっとゲップをしたら、自分の身体がミシミシと言い始めた。痛みに耐えつつ、少しずつ高くなる身長にワクワクする。
……あ、待って胸は成長しなくていいから、ね?
あ、いやちょっと……!? あの、おい!? 待ってよぉ!?
「だから待てっつってんだろぉぉぉ────っ!!」
五分後。
俺は遂に打ちのめされた。まだロリロリしてた中学生ボディが高校入学したてくらいのボディにはなった。それは良いのだ、それは。しかし、胸が下乳さんことアリサさんくらいまでありそう……解せぬ。
「はぁ……」
色んな所の成長が激しいこの身体に、やるせなさのあまり溜息を出す。
だが、これで偏食場は聞こえてこなくなった。ここら一帯のアラガミは粗方食い尽くしたのだろう。長いこと暮らしていたこの場所を離れるのは気は向かないが、食料の為には移動するしか無い。
真夜中に北極星を見つけると、そちらとは逆の方を向いて、俺はピョンピョン跳ねながら高速で移動していった。
世界から殆ど電気の光が消えたからか、かつては神奈川あたりだっただろうこの場所でも星は綺麗に見える。
こうして見ていると、知っている星座をいくつか見つけた。
前世の日本の時と、星はなんら変わりやしない。
そう思うと、前世を思い出してくる。まだ、色々と心残りがあったが、全て置いてきてしまった。あっちには、唯一の肉親の、高校生の妹を残してきている。
両親が居なくて、ずっと親戚の伯父さんと伯母さんに育てられてきたから、妹にとっても俺が唯一の肉親だった。俺みたく、絶望して引き篭ったりしないといいが……
ホームシックに陥りながら、進んでいく。
そうして月がまだ南中しているうちに、俺はその場所に着いた。
ゲームでのフィールドの名前は〝鎮魂の廃寺〟。緑化した月が綺麗に見えて、GEやGEBをプレイした人ならとても思い出深い場所でもあるだろう。
ここを見つけたのは偶然だが、
「…………」
寺の堂の屋根に登り、ボーッと月を眺める。
あそこ、月には俺と同じ人型アラガミであるシオがいる。フェンリルという、ゴッドイーターを束ねる組織の、元日本にある極東支部の精鋭である第一部隊と世界の為に、自分を捧げた人間の心を持つアラガミ。
俺は元々人間だからそういう意味では人間の心を持つシオと同じだが、最初からそうであった訳では無く、周囲の人々から心を学んだのだ。
成り立ちは、全然違う。
「……凄いよなぁ」
アラガミには本来、考えて喰らうという意思しかない。 その為行動は全て喰らうという意思に基づいていて、それ以外思考する能力は無い。
シオは人間とほぼ同じ人体構造とはいえ、あそこまでの知性と心を獲得しているというのは、奇跡と言っても良いのだろう。
そして、それはこの世界では現実なのだ。
この世界であの出来事に立ち会った訳じゃ無いのに、緑色になったその月を見ると、なんだか不思議と感慨深い思いになってくる。
この世界は、ゲームじゃない。その認識は、確固たるものになった。
「……シオ……」
緑の月が見えなくなるまで、俺はずっと屋根に座っていたのだった。
誤字等ありましたら、ご気軽に「この作者ミスってんじゃんヴァカめ」と罵りながらご報告下さい。
恋愛要素未定だけど、あった方がいいかなぁ
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恋愛要素アリ(=精神的BLとなる)
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(恋愛要素は)ないです
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その他(√ラケル……なんつって)