あの有名な、訓練場兼適合試験会場にやって来ると、ベッドの上に横になった。
『じゃあ始めるよー?』
「……ん」
それから、レントゲンらしきものを撮られたり、頭に脳波を測れそうなヘッドギアをつけたり、電極を貼っつけられたり、血液取られたり、色々された。
博士曰く「停止中の偏食場レーダーの再設定を行わないといけなくてね。ホワイトリスト化する為に、偏食場の測定等を済ませておきたいんだ」との事だったが、明らかに違う目的だろ、これ……
だが、悪いことばかりではない。なんと神機を貸してくれたのだ。
前世ではせいぜい、傘ぶん回してロングブレードごっこしか出来なかったのに、本物をぶん回したり、ダミーにバレットを撃ちまくったり、高速で変形させたり、シールドをガシャンガシャンしたり……とても楽しかった。
しかし、そこからのサカキ博士の慌てようが凄かった。「実に興味深いがこれはまずい!」とか言って、神機を取っかえ引っ変え。結果として、第一世代も第二世代もどっちも触れることが出来た。
『ふぅ……これで、一応の検査は終了だね。今日はもう自由だけど、明日以降ある別の検査に付き合ってくれるかい?』
「……ん。分かった」
楽しい時間はこれで終わりか……長いようで短かった。
『ところで、一つ質問をいいかな?』
「……?」
『シアン君……君は、
上の窓から見てくる博士に、不敵に微笑んだ。
「……その為に、私はここに来た」
ローブを身に纏い直すと、訓練場を後にした。
ラボラトリに戻ろうとしている道中、フェンリルの制服?のフードで顔を隠しつつ進んでいると、見知った顔が目の前から歩いて来ていた。
「へへっ、お宝があんな店から見つかるなんてなあ……」
「タイチお前なぁ……素材回収は認められているが、そういう神機とかに関係ない物をあんまり持ち帰らないでくれ」
「良いだろ~? あ、なんならソウゴも見る?」
「そんなもん見るか、全く……あと一つ言っておくが、それ絶対にハルには見せんなよ? アイツにまで便乗されるとこっちの身が持たない……」
確か……岡倉ソウゴ、だったか。俺が少し前に助けた、第八部隊の隊長。
茶髪黒目のわりと若そうなイケメンで、あまり着る人を見ないフェンリルの制服を着こなしている。
最大の特徴は、こんな世紀末に珍しく腕時計をしていることだろう。果たしてちゃんと動いているのか少しだけ気になるけども……
うーむ……話し掛けるのもあれだしな……どうしたものか。
声を掛けようか掛けまいか悩みながら歩いていると……ふと目線が合った。
「──でなんだけど、やっぱりコイツの見どころはあのシーン一つに集約され……って、ソウゴ聞いてる?」
思わず咄嗟にフードを深く被って、顔を覆い隠してしまった。
や、やっぱり、こんな所で会うのは気まずい……
「ソウゴー、ソウゴやーい。ソウゴ隊長さんやーい……あれぇ?」
フードを目深に被ったままするりと横を通り過ぎると、手を掴まれた。そのまま振り返らないでいると、リーダー……ソウゴが俺の目の前に立ち塞がった。
「君。すまないが、そのフードを取ってくれないか。俺の見間違いじゃなければ……いや、間違いない。君は俺を助けてくれたあの子だろう。違うかな?」
どうやら、あの一瞬だけで顔が見えたらしい。しかも顔も覚えられていたようだ。
でもまあ、それなら好都合っちゃあ好都合ではある。
「やっぱりな……」
フードを取ってみると、確信めいた様子のソウゴの顔がよく見え、その隣に、やたら驚いてこちらを見る青年がいた。
「やばっ、スゲー色白美少女キタコレ。つーか……ん? 待て、ソウゴ……その助けたって……まさか」
「ああ。俺たちの命の恩人……記憶が合ってれば、三、四週間ぶりか?」
それにコクリと頷くと、突如二人が90度くらい腰を曲げて、綺麗な最敬礼をされた。
突然のことでビクッと背中が硬直した。
い、いきなり敬礼されるとは。思わず仰け反ってしまったじゃないか。
とか意味の無い弁明を心の中でしつつ、顔を上げたソウゴに声を掛けた。
「……ん。ちょっとぶり。……元気にしてた?」
「お蔭様でな。あの日の事は、本当にありがとうと言わせてくれ」
「……あれはたまたま、通りがかりだっただけ。……気にしないで」
実際は観戦してたらいつの間にかピンチになってたから、割って入っただけなのだが。
観戦して暇潰しをしていたことなんてつゆ知らずにお礼を言ってくるのだから、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです……
「あのっ、俺からもお礼を言わせて下さい。ソウゴを守ってくれたから、俺とか、この場にはいないけどヒューガが助かったんです。ありがとうございます……!」
「……むぅ」
む、むず痒いなぁ。
でもよく考えれば、ただでさえ数の少ない神機使いを3人も助けたし、仲も良さそうだったからここまでの感謝をされるのも仕方ないかもしれない。
……そうなると、俺は何回も神機使いを助けてるから、そこの所の功績とかってどうなるんだろ。
「……元気そうなら、いい。用はそれだけ?」
「突然引き留めて悪かった。ただ、ここに君がいると分かってホッとしたんだ。今日まで、君はあの廃寺に住んでいるんじゃないかと心配していたんでな」
「……私はそんなに柔じゃない」
……そもそも、俺が人間じゃないことくらい気付いてるだろ。
ジトっとした視線を向ければ軽く笑い返してきて、「背丈もあれから随分成長したもんな」とか言ってきたから、これはもう確信犯と言っていい。
これ以上特に話すこともないので立ち去ろうとすると、「あ、あのっ!」という声が聞こえて振り向いた。
「あ、あの……その。もしどっかで時間があれば、一緒にラウンジでお茶でも────ぶっへぼあっ!?」
と思ったらソウゴがゲンコツを一発、その青年に落として撃沈させた。
「いや、済まない……ウチの馬鹿が失礼した。さっきの言葉は真に受けなくていい」
ギャグ漫画のように地面に倒れ伏したその青年の首根っこを掴み、片手で頭をポリポリとかいて申し訳なさそうに謝る。
さっきのはナンパ……だったのかも知れないけど、その青年が可哀想なことこの上ない。
世の中の男子は美少女を求めているのは当たり前。中身は男子大学生だが、見た目は美少女なんだし問題ないだろ。
「……私とまた会えたら、その時に」
「ほ、本当ですか!?」
「はぁ、君も人が良すぎるな……」
ソウゴがやれやれと肩を竦めているのを後目にして、シアンはクールに去るぜ……
(……ん?
気付いてしまったことがあるので、一旦クールに去るのをやめて、振り返ってから一言。
「……シアン」
その一言を言うと、二人ともキョトンとしてこちらを見る。これだけでは説明不足らしい。
「……別に、覚えなくていいけど」
「? ……って、そうか、君の名前か」
「し、シアンさんって言うのか……!」
なんか一人感動してらっしゃるが、今度こそクールに去るので気に留めない。
「じゃあな、シアン」
「あ、シアンさん! さっきの約束覚えておいて下さいよ!」
「ん……また、どっかで」
二人に手を振られて見送られながら、俺はフードを被り直した。
ラボラトリへと帰ってきてのんびりしていると、遅れてやってきたソーマから、ジッパーに入った白い服のセットを投げ付けられた。
「俺の所属している部隊、クレイドルの隊服だ。ウチにある女性服は、そんなくらいしか無いんでな」
開けて広げて、マジマジと見てみると、アリサの服によく似ているデザインをしている、ノースリーブで金色の意匠のある白い隊服……の筈なんだが、それは俺が知りえない形状の服だった。
胸部の上から閉めるファスナーはいつも通りなのだが、服の短さは初代のアリサの上半身程しかないのにも関わらず、試しに上から着てみたらアリサくらい有りそうな俺の胸でも閉まりきり、完全に中へ収納される。
その下、腹にかけての部分は胸と独立していてボタンで閉まるようになっている。つまり、ヘソ見せにはならないということ。……いや、そもそも独立してるってどういう仕組みだってばよ。
加えて、腰より少し上からの部分は男用のようなコートの長さのマント?の様なものがくっ付いていて、地面との距離にあまり余裕がない。しかも幅が広くて前方にクルっと巻かれていて、まるで研究者の白衣の様でもある。
またスカートもあるが、こちらはアリサとは違ってクレイドルのイメージカラーに則しており、白い。制服とかで見かける折り目がついているタイプで、ゲームみたいにパンツタイプじゃない事に驚きを禁じ得ない。
スカートを穿くのは多少忌避感があるものの、これはれっきとしたクレイドルの制服。
そう思うだけで内心のニヤつきが止まらない。
早く着たいので、オラクル細胞の布を体内に吸収し、服を上からバサリと被る。
まあ、目の前にソーマが居るが大した問題じゃない。
「お、おいっ!? ここで着替えるな!」
「……? 見たくないなら反対向けばいいのに」
「そう言う問題じゃねえよ……」
……ってそうだ。
アリサじゃあるまいし、何でブラジャーが無いんだよ。それに、ゴッドイーター全作で大事なパンツすら無いじゃないか。
先ず、そこからおかしい。
「……下着、どこ?」
「は、はぁ!? んなもん知るか!!」
流石に、ソーマに聞いても意味が無いのは分かってたが……
……よろず屋さんって、もしやランジェリーショップも兼ねてたりするのか? あのちんちくりん眼鏡おっさんが?
分からん。分からんな……だが、こう言う時は、やはり人に頼るのが一番だ。
そうとなると、頼れる人物はただ一人に絞られる。
「……ソーマ、アリサ今いる?」
「……任務に出かけたが、もうそろそろ戻って来る筈だ。サカキのおっさんの事だから、既にターミナルにメールを行き渡らせているだろう。じきに来る」
成る程な。でも、俺的にはとっとと帰ってきてほしいんだよ。
体感的に少し寒い。
「あと一秒で戻って来ないかな──」
「博士! 要件って一体何です……か?」
おおっ、本当に一秒で戻ってきた。
しかし残念。博士は別室でデータを纏めるために引き籠ってます。
「……えっと、え? あの、この子……これどういう状況ですか? 事案?」
「何を言ってやがる。……詳しい事情はソイツから聞け」
ずっと律儀に反対を向いているソーマがそうぶっきらぼうに言うと、その銀髪碧眼美少女、アリサが俺をじっと見つめる。
透き通った海の様に真っ青な瞳が俺の眼を射抜いてくるものだから、つい目を逸らしてしまう。しかしまたずいっと視線をこちらに向けてくる。
「うぅ……」
「え、ええっと……貴女の名前は?」
「ぅ…………し、シアン」
「シアンちゃんですね」
どうにか声を絞り出すと、ニコッと笑みを返してくる。
や、ヤバい。アリサさんの美貌がヤバい。二次元を三次元化すると、ふつくし過ぎる。
しかもその笑顔の光が、陰の者である俺には辛いよ……!
それに、三次元で下乳とへそ丸出しのロシア美少女っていう、エロいというか……なんというか……
うん、エロいわ。そしてマブい。
俺が不純な事を考えているとは露ほども思ってないだろうアリサが、床に散らかしたローブを掛け直してくれると、またもやまじまじと観察してくる。
ううう、無自覚か……無自覚なのか!
「……それにしてもこの子、なんだか肌が白すぎるような……」
「当たり前だ。コイツが例のヒト型アラガミだからな」
「え?」
突然、アリサがスカートのポケットから一枚の写真を取り出していた。
それと俺を交互に確かめるように見ると、次第に口が開いて、わなわなと動き出して……
「私も名前、付けたかった……!」
と言って四つん這いになってしまった。
いや、俺はなんて声を掛ければいいんだ? 名前付けたかったって言われてもなぁ……
俺はどうすればいいのか全然分からないので、ソーマをチョンチョンと突く。
「……アリサ、あんなになってるけど」
「最初に見つけた奴が名付け親になる、とかサカキのおっさんが言いやがったのが原因だな。少なくとも、コウタに見つからなかっただけマシだろう……」
「……確かに、それはちょっと」
もしコウタが俺に名前付けようとしても、ネーミングセンスが悪いなら俺自身が却下して、それがずっと続くなら「チェンジで」と言うので問題は無いと思う。
ソーマが深い溜息を吐いてアリサへと駆け寄り、「コウタが名前を付けなかっただけマシだと思え」と慰めていた。
俺としても、折角ソーマから貰ったセンスの良さそうな名前を捨てたくないので、アリサにはどうか潔く諦めてほしい。
ソーマの献身的な慰めもあって、惜しそうにしつつも立ち直ったアリサに、今度こそ質問する。
「……という訳で、下着って何処にある?」
単刀直入に聞くと、少しキョトンとした後に、何かを思い出したかのように手を叩いた。
「……ああー! 確かに、持ってるはずありませんよね。じゃあ、売り場まで案内しますね」
「……あ、ありがと」
く、くそ……この笑顔への対抗策が思いつかねぇ!
されるがままに手を引っ張られると、研究室を出ていった。
◯ ✖️ △ ◆
結果から言えば、ランジェリーショップは他の階層にあった。
というか、無人で自動販売機みたいので売られている。自販機でパンツが売られてるって想像するとめっちゃ笑えるが、これが当たり前らしい。
恐るべきゴッドイーターの世界を垣間見た気がした。
「しかし、神薙ユウ……いつ帰ってくる……?」
「って、ユウの事も知ってるんですか?」
モチのロン。あのスーパー鈍感晴れやかイケメンを落とすには、割と露骨な態度じゃなければいけないとシオの記憶から導き出した。
「……私はシオの記憶を持ってるから。にしても、アリサって、ヘタレ?」
「なっ!? なななんの事か分かりませんけど!?」
「……ユウは鈍感。もっとアプローチをかける。というか、思い切って告る。そうすれば、きっと二人は結ばれる……」
「ば、バレてる……!!」
バレてるも何も、当たり前だろう。初代主人公のヒロインはアリサ。2代目主人公はシエル。3代目主人公は……寧ろ主人公がヒロインで、ユウゴが主人公みたいなものだから例外か。
それとシオの記憶から判明した新たな事実である、女主人公こと副隊長の霊代アキというのがいるのだが、そっちもそっちでコウタにそれとなくアプローチを掛けていたらしい……件のコウタ君は全く気付いてないようだが。
ソーマは
……もしかして、第一部隊は恋愛難な人々が多過ぎなんじゃなかろうか。
「グッドラック、アリサ」
「う、うん……頑張ってみます、シアンちゃん」
取り敢えず、一番見込みのあるアリサの背中を押してやろう。
ユウ×アリはいいぞ!
恋愛相談しながらラボラトリの研究室に戻ると、目の前のモニターばっかの席でキーボードを打ちつつサカキ博士が待っていた。
「おっ、戻ってきたね。アリサ君にも事情を説明したいんだけど、コウタ君の帰りが少し遅れそうなんだ。そっちから見て、左側……シオ君とは逆の部屋を使っていいから、着替えさせてくれるかい?」
「分かりました。シアンちゃん、その服を持ってこっちに来てくれる?」
「……ん」
アリサに連れられて奥の部屋に入ると、真っ白でコンテナがちょっとあるだけの、少し手狭な空間だった。
「えっと、シアンちゃんって、普通の服を着られますか?」
「……特に問題は無い。寧ろ肌触りはいい」
「そうなんだ……あ、いや、シオちゃんは暴れちゃうくらい嫌だって言ってたから拍子抜けしちゃったんですよ」
「ん……私がちょっと特殊なだけ」
たぶん、現代日本でも数万は下らないと思うよ、これ。
繊維がなんか……こう、凄いのである。
布を自分の中に収納すると、自分で何となくチョイスしたピンク色のブラを着ける……
着ける……着け……られない。
「もう。それくらい着けてあげますよ。ほら、ジッとしててください」
……うわぁ、女性って大変だ。
他人事のように思いながら、男の頃の着替えの楽さを思い出す。なんたって、上からストンと着て適当に穿くだけでオーケーなのだから。
これが、男女格差か……!
無事着け終わると、パンツを穿き、肌着とシャツ、スカート、ベルト、クレイドルの隊服、長ブーツを装着しようと思って……
「……あとあれ、ニーソックスが足りない」
「あ、一応持ってきましたよ」
「……ん、ありがと」
ニーソを装着し、完璧……いや、まだだ。
「……あ、腕に着けるのない」
「そ、それも必要なんですか?」
「……私はオシャレには力を入れるタイプ……無いなら、作るまで」
俺はアラガミだ。なのでやろうと思えば、オラクル細胞で簡単な物くらい作れる。
アリサみたいに、ノースリーブ着てる女性キャラが着けているような、肘近くまである指抜きグローブ……では無く、白を基調としたクレイドルっぽいもの。手の甲の部分に、四角形の角みたいのがあるカッチョいい奴を望んでいるのだ。
頭の中で想像し、掌からそれを生成すると、左手から通して、片方だけに装着。
ついでに、金属質のオラクル細胞でヘアピンを作って前髪あたりを留めれば……
「わぁ……! 博士が気まぐれで作った服なのに、とても良く似合ってますよ!」
「……そう? なら良かった」
試しに鏡で見てみると、ふと思った。
……やべぇ、これ、かっけぇ──!!
腰のマントみたいのが特にイイ。闇に葬られた
これが噂に聞くかっこかわいいとかいう奴なのか……!?
すげぇすげぇ──、なんて燥いで一人ファッションショーをしている最中……
──コンコン
唐突に、ノックの音が部屋に響き渡った。一旦ファッションショーを中止して扉の方へと向かう。
アリサが代わりに扉を開けると、手に何かを持ったソーマが立っていた。
「なんでしょうか?」
「……入っても構わないか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「助かる」
部屋に入ってきたソーマは、手に持ってきた赤いソレを、俺に差し出してくる。
見覚えのある見た目であり、コレについて説明を求める、そう目で訴えてみると、ソーマが首肯しつつ、サラッととんでもないことを言ってきた。
「シアン、お前は対外的に極東のゴッドイーターとして活動してもらうことになった。その都合で、気に食わんだろうがコイツを常に着けてくれ」
それは、世にいる全てのゴッドイーターが着けている、一生外せない装備品……腕輪。
正式名称、P53アームドインプラント。
確かに、博士の返答にはそう返したけど、手回しの早さが異常だ。
どんだけ俺をゴッドイーターにしたかったんだ……いや、腕輪くれるのは嬉しいし、貰うけど。
「これはゴッドイーターにとってシンボルみたいなもんでな。着けてるか否かでゴッドイーターなのかが判別できる。本来の用途は他にもあるが、それは別の時に説明しよう」
他にも、この腕輪は所謂ダミーであり、オラクル細胞すら詰まっていない鉄の塊ということや、腕と一体化出来ないので、自らのオラクル細胞で固定化出来ないかという話を聞いた。
「……固定化は、多分できる」
「自力でいけそうなら、ここでやってみてくれ」
その言葉に一つ頷いて、ソーマから腕輪を受け取る。
中身も入っておらずに、二つにパッカーンと割れている腕輪。手に持った感じなんかはまるで玩具。
見た目は完全な実物だが、中身が無いのが惜しいところだ。
ガチャリ、と腕に挟んで取り付け、所定の位置を確認する。
その部分にある、さっき作ったばかりの腕のタイツみたいなののオラクル細胞を取り込んで、腕輪の大きさだけ裁断。そして、腕と腕輪を、自分のオラクル細胞で吸着させる。
まあ、自分の腕の細胞を溶かしてくっ付けるみたいに一体化させるので、溶着の方が正しそうな表現だろうが。
中にまでオラクル細胞を行き渡らせて完全に取れないように固定する。
それから、腕を水平に持っていってから力を抜くと、重心が変わっているからから、ぷらーんと腕が直ぐに垂れ下がる。
「……おぉ」
力はあるので、腕自体は簡単に持ち上がるので特に問題は無いが……これが神機使いから見た腕輪なのかぁ。
「その腕輪はまだ情報を記録させていない。まだターミナルは使えないが、近いうちに専用のが作られる筈だ。期待して待っておけ」
つまり、素材の出し入れとかもできるようになると。
確かに、それはとても楽しみだ。
「…………それと、その服似合ってるな」
ソーマが、そう小っ恥ずかしそうに言うと部屋から出て行った。
……えっと。これが俗に言うツンデレ……なのか?
俺も思わず沈黙していたので部屋にしばしの静寂が訪れ、呆気に取られていたらしいアリサが俺へと振り向く。
「……やっぱり、アラガミにしかソーマさんはデレないんですね……新しいことを知りました」
なんて、俺の頭をポンポンしながら聞いてきた。
「出ましょうか」
「ん……」
なんで俺って、よく頭を撫でられるんだろうなぁ……身長は高校生くらいなのに。
とか考えながら部屋を出れば、ぐったりと肩を落とした人とサカキが何やら話し込んでいた。
辺りを見渡すも、ソーマの姿は見えない。既にどこかへ行ったらしい。
「良いですよね〜、ブラッドアーツ。ブラッドの副隊長がスパッて切り裂いてくれましたが……いやぁ、まさか大型が2体も乱入してくるとは思いもしませんでしたね」
「その件は済まなかった……実はあの2体は、他の部隊と交戦していたのだが、逃げ出してしまったんだ。そして運悪く、キミ達の作戦区域に侵入してしまったのさ。……おっと、そちらは済んだようだね」
俺とアリサが視界に入っていたのか、パソコンを打ち込みながらサカキ博士が俺達が出てきたことに気付いた。
「ん? アリサじゃん……ってあれ? 隣の美少女、誰?」
凄く驚いた様子でこちらを見る、少しチャラそうな見た目の、赤毛で黄色のハチマキを巻いている青年。
……藤木コウタ。ゴッドイーター2では、極東支部の第一部隊隊長を務めている人物だ。
初代からいじられキャラで定着していて、成長した続編2でもその傾向が垣間見えるノリが取り柄の陽気なキャラで、特にアリサとのノリツッコミは必見。
早速好きなキャラに会えたが、コウタを揶揄うのにいいネタを思いついたので、ちょっと演技を交えてやってみようと思う。
「……初めまして。フェンリル極東支部、独立支援部隊クレイドル及び、第一部隊所属になりました、シアンと申します。よろしくお願いします」
「……えっ、ええっ!? マジで!?」
よくある軍人の敬礼を行うと、コウタが大声を上げてビックリしている。
「もうシアンちゃん、コウタがバカだからって揶揄っちゃ駄目ですよ? あの人は何でもかんでも話を鵜呑みにしますから」
また俺の頭をポンポンしながらそう言う。
現実でも相変わらず、アリサはコウタにはとことん辛口のようだ。
「ひ、ひでぇ……ってか、クレイドルの隊服着てるじゃんか。本当に違うんですか? 博士」
「うーむ。今は違うと言っておこう。何せ、彼女はアラガミだからね」
「へぇ〜アラガミ──ってはあぁぁ!? えっ、もう保護したんですかあの子!?」
俺を見てしきりに驚くコウタへ一応、手を出してみると、「よ、よろしく……」と恐る恐る握手してきた。
なんか握る力も弱弱しいが、俺はそんなで怒る人間じゃないので安心してほしい。
「そうなんだよ。ソーマ君がエイジスの任務中に遭遇して、本人の了承を得て保護、ここまで送ってくれたのさ」
「そ、ソーマの奴流石だな……人型のアラガミに愛されてるだろ、絶対」
「かもしれないね」
コウタが、落とした肩をさらに落として呟いた。
「はぁ、今度こそノラミって名前を付けてやりたかったのに」
「頼みますから、コウタさんは絶対に名前を付けないでください」
「……ネーミングセンス皆無」
「二人ともひどくないっ!?」
いや、本当にノラミは無いでしょう。
俺でさえゲームやってて、「いやコウタ、それはないだろ」って思わず突っ込んでしまったくらい絶望的なネーミングセンスなのだ。
「こほん……さて、本題に入りたいんだけど、良いかな?」
咳払いをしてからサカキ博士がそう言うと、三人で博士に向かい合う。
「今、早急にシアン君の出生などの記録を作成中でね。極東地域全ての偏食場レーダーのホワイトリストに、シアン君のパターンを入力したから、彼女がアラガミであるとバレる心配は無くなった。それと、彼女に着けてある腕輪の通り、正式にゴッドイーターとする手続きも行なっている最中なんだけど……一つ問題が生まれてしまってね」
「問題……ですか?」
「そう。シアン君はアラガミ故にかは分からないが、どの神機にも簡単に適合するんだけど、ここからが問題でね。どうもその適合率がオーバーフローして、既存の神機ではマイナスの値に行ってしまうのさ。つまり、逆に神機をシアン君自身が拒絶し、捕食してしまう訳だ」
……マジで? 俺あの時めっちゃぶん回したり、シールドをガシャガシャしてたんだけど。
「……私、神機使えないの?」
「そうは言ってないとも。彼女にも使える神機はある……どう言う意味だか分かるかい?」
「神機を捕食してしまう……なら、シアンちゃんの偏食傾向に合わない偏食因子をもった神機を作ればいいですよね」
「その通り。流石はアリサ君だね」
偏食……食の偏りという文字の意味のとおり、アラガミという生き物は、食べる物を考えて選り好みする性質を持っている。
そして、それは俺でも例外ではない。
「ここでヒト型アラガミについて、一つおさらいしようか。さて、ヒト型アラガミの偏食傾向は一体何だったか、覚えているかい?」
「はいはーい! 確か、人間は一切食べなくて、より高位なレベルのアラガミをよく食べる、でしたっけ」
「おお! 正解だよコウタ君! キミも、中々侮れないね」
「ぐぬぬ、コウタさんに負けるなんて悔しいです……」
「へへ〜ん、これくらいどうって事ないですよ!」
そう。原作知識を身に付けている俺は、この偏食傾向をよく知っていた。
だから、人間を食べようだなんて全く思わないし、そもそも人間だったのだからさらに忌避感が湧く。
「だが、またしても問題が出てくる。人間の血肉で神機は作れない。ましてや、そんな非人道的なことは出来ないだろう? だから……」
おっと博士、もう十分です。
ここまでヒントを与えられたら、誰だって答えられる。
「私の血肉で、新たに、私専用のオリジナル神機を作る」
「…………ほう、どうやらこの流れが分かってたみたいだね?」
サカキ博士は眼鏡をキランとしつつそう言う。
というか、そもそも俺は……
「……元々、極東に来た理由の一つに、自分専用の神機を二振り作って貰いたかったから……というのがある。自分の素材は大型アラガミくらいの価値はあるはず……使われることも織り込み済」
「そうだったのかい……とまあ、こういう訳なのさ。だから、アリサ君、コウタ君、そしてこの場には居ないけどソーマとで、新規に開発する神機に必要な素材を集めて貰いたい。それが、この場に呼んだ理由だ」
図らずも、俺専用神機の作製イベントが始まってしまった。やったぜ。
専用神機を二本用意するのは、単純に俺が現在二刀流であることと、後々の研究……薙刃形態の実現の為だ。
ゴッドイーター3に出てくる武器種、バイティングエッジの変形機構、薙刃形態。俺はバイジはあまり使わなかったが、薙刃形態の攻撃はなかなか好みだったから、是非とも早くから研究して欲しい。
ただ、ヘヴィムーンが強過ぎて、バイジは全然存在感が無かったけどね。
モ◯ハンの双剣とは大違いだよ。
「……やってくれるね?」
「「はい!」」
「それと、シアン君も一緒に手伝ってくれないかい?」
「……言われずとも」
「それは頼もしい。では、シアン君を頼んだよ、二人とも」
こうして、俺の神機の素材集めが始まった。
◯ ✖️ △ ◆
任務は明日からなので、その間休憩できる事となった。
与えられた部屋へ入ると、久しぶりに触れるふかふかのベッドに軽く感動を覚えていたのだが、特に眠くもないので、原作知識をサカキ博士から貰ったノートに書き留めていると、ある矛盾点を見つけてしまい、戦慄する。
「……なんで赤い雨が止んでいない?」
赤い雨とは、人間が触れると致死率100パーセントの病を発症するという災害のような雨であり、極東で恐れられている現象だ。
だがこの赤い雨の正体は地球が創り出した、月へと飛び去り、無くなってしまった特異点を選び出すことで、終末捕食を発生させようとするシステム。
そして、特異点は、超高密度の情報集積体にして、終末捕食を引き起こすコアだ。アラガミにはあまり知能がない為、世にいるアラガミとそのコアは特異点にならないが、超高密度の情報集積体とは、人間の脳と同じ様なもの。
そして、その二つを複合させた要素を持つ存在……それが、ヒト型アラガミだ。つまり、ヒト型アラガミは特異点になる存在なのだ。
そして、それはヒト型アラガミである俺だってその筈。だが、事実として赤い雨は、人々を蝕み続けている。
ゴッドイーター3にはヒト型アラガミのフィムがいるが、あの子は終末捕食が終結していない状況だから特異点になっていないだけだと考える。
「……だとすれば、運命の強制力?」
ストーリーを捻じ曲げさせない力。或いは、あのマッドサイエンティストで、アラガミの意思が混じったラケル先生の仕業か。
分からない。でも分かりたくもない。
「……運命なんて、捻じ曲げてやる」
ゲームでもない現実に、運命もクソもあるかってんだ。
……だから、先ずはロミオ……お前を絶対に助けてやらないとな。
おまけ(という名の予告)
コンピューターの機械音の鳴り響く部屋で、彼女は画面を見ては顔を歪に綻ばせていた。
「うふふ……何やら面白い存在が、私のシナリオに混ざり込んで来ましたね……」
喪服の様に黒い服を着た彼女は、愛おしそうに、画面に映る写真に触れる。
「ヒト型アラガミ……かつて極東で現れし、災禍と福音の現出……此度に現れるは、代わり身でない、真なる器……」
全てを見透かしたかのような青き瞳が、画像の紫水晶を掴んで離さない。
他の者が見れば、そのあまりに冷たく歪んだ笑みに恐怖を覚えるだろうとは思う。
「あぁ……狂おしいほど愛おしいわ……貴女には是非、私達の最後の晩餐の主賓となって貰いましょう……」
鮮明でない、荒い写真が拡大され、新雪の如き白い肌を撫ぜれば、彼女は車椅子を動かし、ゆっくりと研究室を後にした。
「……うふふ、私のかわいいシアン……貴女だけは……貴女だけは絶対に、オリジナルから奪い返してみせます……」
本作は軽く愉悦仕立てとなっております……
シアンちゃんのお婿さん決め
-
神威ヒロ(なお公式嫁との戦いが待つ)
-
ジュリウス(ラケルとのガチバトル)
-
ソーマ(月の人の口がへの字になる)
-
ロミオ(リヴィとの冷戦)
-
その他(ハルさんとか、ギル?)