ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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 結構無理があるかもしれませんが、寛大な目で見てください。

 では、第八十九話です。


第八十九話 ヴィクトル・ドラングレイグ

 

 ヴィクトル・ドラングレイグ。彼は、魔国ガーランドの上流家庭に誕生した。

 

 幼い頃から、ヴィクトルは「正しい貴族」として育てられた。私情よりも公を、感情よりも理を重んじ、弱き者を見捨てず、無辜の民草を護ること――それは理想ではなく、果たすべき務めとして叩き込まれてきた。

 

 彼はその教えを疑わなかった。力ある者が責を負い、秩序が民を守る。その在り方こそが、世界の正しさなのだと、疑いなく信じていたのである。

 

 やがてヴィクトルは、自らに足りぬものを自覚し、その力を補う手段として、ドラングレイグ家に伝わる禁書を読み解いた。代々封じられてきたそれは、星辰光に酷似した理論を内包する魔法体系だった。

 

 後に殲滅姫(ティルフィング)と呼ばれる女性と出会い、二人はその理論を基に、疑似的な星辰光を形にした。後に二人の星辰奏者(エスペラント)との出会いによって、その魔法は完成する。

 

 そして、ヴィクトルという男の転機は【氷雪洞窟】の攻略後に訪れる。

 

 真の神の存在。トータスという世界の支配構造。人間族と魔人族の戦争が内包する、あまりにも歪んだ真実。

 

 だが、決定的だったのは知識そのものではない。同じく氷雪洞窟を攻略した、フリード・バグアーの変貌だった。

 

 無辜の民草のために剣を振るっていた男は、魔王のために、アルブ神のために戦う存在へと変わっていた。志は塗り潰され、かつての在り方は失われていた。

 

 その光景を前にして、ヴィクトルは理解する。正しさは容易く利用される。理想は神によって歪められる。守るべき誇りが踏みにじられる。

 

 だからこそ、彼は決意した。魔王という邪悪を討つ。アルブ神、エヒト神という邪神を滅ぼす。それがたとえ、理解されぬ道であろうとも構わない。

 

 全ては、守るべき同胞と、その未来のために。それが、ヴィクトル・ドラングレイグという男が選んだ道だった。

 

 そうして、ヴィクトル・ドラングレイグという怪物が誕生した。愛する同胞を守るために、輝く繁栄を齎す為に―――邪悪を滅ぼす悪の敵になろうと。

 

 

 

 


 

 

 

 

「ふっ、はぁ!」

 

「このッ!」

 

 紅いスパークを迸らせる鋼鉄の兵器が、連続して咆哮を上げる。ドンナーとシュラークから放たれた閃光が重なり、夜気を引き裂いた。

 

 迫る閃光に対し、ヴィクトルは大剣を振るう。振り下ろし、受け、払い――閃光は刃に弾かれ、あるいは逸らされながら散っていく。

 

 そして、正面から振り下ろされた一撃に、ハジメはバックステップで回避する。ヴィクトルは振り下ろした勢いのまま、大剣を横薙ぎに振る。

 

 ヴィクトルが持つ大剣のリーチでは、後方に跳び距離を取ったハジメには絶対に当たらない。牽制か?とハジメが疑念を抱いた次の瞬間だった。

 

 ぞわっと背筋に悪寒が走る。反射的に〝金剛〟で身を固めると、視認できない何かが横薙ぎで叩きつけられ、身体が大きく弾かれた。

 

「ッ!?」

 

 足が地面を削り、体勢が崩れる。咄嗟に踏み止まり、再び後方に跳んで距離を取る。

 

 そしてドンナー・シュラークを構えなおし、考えるより先に引き金を引く。紅い閃光が連なり、ヴィクトルへと向かう。

 

 だがヴィクトルは、歩みを止めずハジメの方へと跳躍する。大剣の腹で閃光を受け、弾き、受け流しながら、一直線に迫ってくる。

 

 ヴィクトルは瞬間移動さながらの速度でハジメの正面に踏み込み左手を引き絞る。ハジメは即座にクロスビットを前面に配置し〝金剛〟を重ね、次の瞬間、鉄拳が叩き込まれた。

 

 瞬間、凄まじい衝撃波が空中に轟いた。金属が砕ける音が響き、クロスビットが無惨に爆砕する。その衝撃はクロスビットの真後ろにいたハジメを襲い、後方へ吹き飛ばされて地面を転がった。

 

「ち、くそッ!」

 

 起き上がるより早く、〝空力〟で宙へ跳び距離を取る。見た所、ヴィクトルは他の魔人族のように飛行用の魔物を連れていない。これならば、と思ったところでハジメは眼を見開いて驚愕する。

 

 ヴィクトルが空中に足を掛け、空中へと翔け上る。跳躍ではない、飛行でもない、確かに〝空力〟のように宙を足場に走っているのだ。

 

 ハジメは体勢を整え、シュラーゲンを取り出し両手で構える。瞬間に照準を合わせ、凄絶な破壊力を宿す超速の弾丸が一直線に放たれた。

 

 ティオのブレスでさえ正面から貫ける貫通特化の砲撃、人体に直撃すれば文字通り爆散することは間違いない。

 

 対し、ヴィクトルの選択は実にシンプルだった。衝撃が脳天を捉える。しかし、首を仰け反らせ紅い痣を着けただけで、ヴィクトルは実質無傷のままハジメに接近する。

 

「はぁ?!」

 

 流石にシュラーゲンの直撃があれで済むなど想像もしていなかったハジメは、驚愕の余りに一瞬硬直したことで、ヴィクトルの接近を赦してしまった。上段から大剣が振り下ろされる。

 

 ハジメは〝金剛〟を展開し、衝撃を受け止めるが、叩き落とされ、衝突した地面が軋んだ。

 

 転がりながら距離を取り、ドンナーとシュラークを構え直す。

 

「……どういうからくりだ?」

 

 僅かに訪れた静寂に、ハジメがヴィクトルに問いかける。

 

星辰光(アステリズム)っつうのがどういうものなのかは悠姫に色々と聞いてはいる。だが、流石にレパートリーが多すぎねぇか? どうせ、まだ色々と出来んだろ?」

 

「さて、どうだろうな。意味なく手札を明かすつもりはない、知りたいなら答えに辿り着いてみるがいい」

 

「それが同盟希望者の台詞かよ」

 

「それとこれとは別だ」

 

「ああ、そうかよッ!」

 

 吐き捨てるように叫ぶのと同時に、ハジメは〝宝物庫〟から〝閃光手榴弾〟を取り出し、正面に投擲する。瞬間、炸裂したそれから純白の閃光が解き放たれる。グッと目を閉じたハジメに対し、閃光が直撃したヴィクトルの視界は白一色に染め上げる。

 

 しかし、それでも―――

 

「――シッ!」

 

 ヴィクトルの動きを止めるには足りていない。瞬時に気配と持ち前の勘からハジメの位置を認識し、見えていないにも関わらずツッコミながら大剣を振り下ろす。

 

 まじかと内心で悪態を吐きながら避けるハジメに対し、更にヴィクトルの追撃が入る。ヴィクトルが〝宝物庫〟から直剣を取り出し、横薙ぎに振るう。

 

 振るわれた直剣からは不可視の刃が伸びてハジメの脇腹を直撃、ハジメはそのまま吹き飛ばされ離れた建物に磔のように叩きつけられる。

 

「グハッ!?」

 

 背中から叩きつけられた外壁が、耐えきれずに崩れ落ちる。石材が砕け、瓦礫が滝のように降り注いでくる。ハジメは瓦礫に呑み込まれる前に〝縮地〟を使って瓦礫の中から脱出する。

 

 そして、崩落した建物の残骸が、遅れて地面へと落下した。

 

「……っ!」

 

 しかし、息を整える暇はない。ドンナーとシュラークを構え、反射的に引き金を引く。紅い閃光が連なり、〝気配感知〟で感知したヴィクトルの位置を貫く。しかし、そこに姿はない。

 

 次の瞬間、背後の建物が――斬り裂かれた。

 

 大剣の一振り。ただそれだけで、石造りの壁面が縦に割れ、建物全体が軋みを上げる。

 

 ハジメは即座に横へ跳ぶ。その直後、建物が崩落し、粉塵と瓦礫が視界を覆い尽くした。

 

「クソッ、冗談じゃねぇぞ!」

 

 攻撃範囲の拡張、異常な程の攻撃性能と防御性能、空中走行と、訳が分からなすぎると悪態を吐く。

 

 だが、それを隙だと言わんばかりに、粉塵の中をヴィクトルが突き抜けてくる。

 

 大剣を振り抜きながら踏み込み、崩れかけた地面を蹴って距離を詰める。一歩毎に地面が陥没し、さらに瓦礫を生む。

 

「くっ……!」

 

 ハジメはクロスビットを展開する。五機が散開し、ヴィクトルを足止めしようと炸裂スラッグ弾を斉射する。しかし、ヴィクトルを止めることは出来ず、一機が真っ二つに両断され、断面から火花を散らしながら爆発する。

 

 更には、その爆発を噴射装置(ブースター)にしながら大剣を突き出しながら突撃する。

 

 ドンナー・シュラークを交差して受け止めるも勢いまでは止められず、ハジメは再び建物数棟を貫きながら吹き飛ばされた。

 

「んの野郎がッ!」

 

 しかしハジメとて防戦一方では居られない。義手のギミックである〝炸裂ショットガン〟の反動で体勢を整え、〝天歩〟と〝空力〟で宙へと跳び上がり、オルカンを〝宝物庫〟から取り出して全弾発射した。

 

 火花の尾を引いて殺到する暴力に対し、ヴィクトルは一切怯むことなくロケット弾の群れへと突き進む。そして、ロケット弾を()()()宙へと躍り出てハジメへと斬りかかる。

 

「ッラァァ!」

 

 ハジメが選択したのは迎撃。〝空力〟を使った空中での震脚によって、踏み込みの力を余すことなく左腕に集束し、ギミックの〝振動粉砕〟と〝炸裂ショットガン〟、そして〝豪腕〟と膨大な魔力を注ぎ込んだ〝衝撃変換〟による絶大な威力の拳撃を放った。

 

 ヴィクトルの大剣とハジメの左腕が激突する。競り勝ったのはハジメの方で、金属同士が衝突する凄まじい音を響かせながら、ヴィクトルは猛烈な勢いで吹き飛ばされ、衝突ど同時に起きた建物の崩落に消えていった。

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

 〝空力〟で空中に留まりながら、ハジメは荒い息を整える。ただし、視線はヴィクトルが飛んで行った方向から外さない。()()()()()()()()()()()()()という確信があったからだ。

 

 するとそこへ―――

 

「ハジメ、大丈夫!」

 

「ハジメさん! 大丈夫ですか!」

 

「おう、なんとかな」

 

 それぞれの戦闘を終えてきたユエとシアが合流した。そして、そのハジメの満身創痍な姿に思わず絶句した。

 

「…気を付けろ。悠姫程じゃねぇが、奴の能力も大概だ」

 

 ガラガラと、瓦礫の中から出てきたヴィクトルを見ながらハジメは二人に言う。建物の崩落に巻き込まれたことで多少はダメージを負ったようだが、それでもハジメとは雲泥の差だった。

 

「…ん、ハジメを傷付けた。許さない。あいつに逃げられた鬱憤も合わせてぶつける」

 

「はい、ボコしてやりますよ!」

 

 気合(殺意)十分の二人を見て少し引き気味のハジメだが、気を取り直して右手にドンナーを、左手にシュラーゲンを持って構える。

 

 そんな三人を見てヴィクトルは静かに、

 

「…来い。いや、行くぞ」

 

 その言葉を合図に、双方は再び激突した。

 

 

 

 

 

 ハジメ、ユエ、シアvsヴィクトルの戦闘は熾烈を極めた。

 

 紅いスパークを迸らせながら閃光が飛び、極寒の竜巻が吹き荒れ、赤い流星が不規則に夜空を駆け巡る。どれもが必殺級の威力を持ちながら、たった一人に対して容赦なく放たれている。

 

 対しヴィクトルは、音速の銃弾を斬り落し、極寒の竜巻に飲まれながら耐え、流星と繋がる鎖を縫い留めて停止させる。竦むどころか自ら死地に飛び込みながら、ヴィクトルは猛然と歩みを続けている。

 

 戦況は拮抗していると言って良い。ユエとシアが合流したことで純粋に戦力が増強したことが大きいだろう。意識を割かなければならない相手が増えたためにヴィクトル側の攻勢も陰りを見せている。

 

 そして、ハジメ一人ではなく三人になった為に見えていなかった面が垣間見え、ようやくヴィクトルの星辰光(アステリズム)がどういうものなのかが分かってきた。というより、一体何故気付けなかったのだろうか。

 

「―――自分自身に限定した、現象の改竄ってところか? チートじゃねぇか」

 

 ヴィクトル・ドラングレイグに宿った煌めく星光(ほし)の正体は、自身や自身の行動に限定した現象改竄能力。ゆえに、自身が振るった剣閃を延長し、堅牢な盾であろうと一撃粉砕し、絶大な破壊力でさえ一身で受け止め、空中に足場を作り駆け抜ける。

 

 本来であればもう少し控えめな性能をしている筈が、ヴィクトル自身の尋常ならざる意志力()積み上げた鍛錬()【氷雪洞窟】の変成魔法による自己改造()の三拍子により、星光は凄まじい恩恵をヴィクトルに齎している。

 

 更には、魔人族ゆえの魔法への高適正と行使可能な魔法の数々、まぎれもなくヴィクトル・ドラングレイグは魔人族最強だった。

 

「でりゃぁぁああ!」

 

 シアがドリュッケンを振りかぶり、地面ごと叩き割る勢いで振り下ろす。凄まじい衝撃波が走り、落ちている瓦礫が跳ね上がるほどだ。紙一重で避けたヴィクトルにもその衝撃は伝わっており、僅かに体勢が崩れる。

 

 その隙を逃さず、ユエの魔法が叩き込まれる。炎の槍(緋槍)風の刃(風刃)氷の雨(凍雨)etcと、複数種類の魔法がヴィクトルへと襲い掛かる。

 

 だが、シュラーゲンの直撃すら痣程度で済ませられた以上、大したダメージを与えることは出来ない、そう思っていたハジメ達だったが、

 

「――ッ、チッ!」

 

 魔法群から抜け出してきたヴィクトルの身体には無数の傷が刻まれていた。その傷の数々を見て、ハジメは一つの予想を立てる。

 

「ユエ、シア! そのまま攻め続けてくれ!」

 

「ん」

 

「はいですぅ!」

 

 二人の返答を聞き、ハジメは〝宝物庫〟から新たな武器を手元に取り出した。そして、トランプを飛ばすように高速でそれを投擲する。

 

 音もなく、そこに有るはずなのに意識しないと直ぐに見失ってしまいそうなそれを、しかし、ヴィクトルはユエとシアの攻撃を避けながら弾き飛ばした。

 

 硬質な音を立てて弾かれて空中を回るそれは、直径約十五センチ程の中心に穴が開いた円盤、俗に言う円月輪、あるいはチャクラムと呼ばれる投擲武器だった。

 

 何のつもりだとハジメの動きを警戒しようと視線を向けた瞬間、ハジメがじぶんの 左右に向かってドンナー・シュラークを連射した。その直後、その紅き閃光はヴィクトルの左右から出現し、その身を貫かんと強襲した。

 

 一瞬の判断で片方の弾丸を大剣で防ぎ、もう一発はそのまま直撃を許す。当然、これまでと同じように傷一つ付かなかったのだが、ハジメの狙いはその一瞬にあった。

 

 ヴィクトルの正面に四機のクロスビットが狙いを定め、炸裂スラッグ弾が一斉に掃射された。

 

「ぐ、うッーーまだっ」

 

 その衝撃に吹き飛ばされ地面を転がる。咄嗟に直剣を盾にしていたのか無惨に砕け、先程とは打って変わってヴィクトルは満身創痍の姿を晒す。それを見て、ハジメの予想は確信に変わった。

 

「奴の星光(ほし)で処理できる防御には限界がある、攻め立てろ!」

 

 その叫びを合図に、三人の攻勢が一段階、激しさを増す。

 

 ユエは魔法の手数は落とさず、精確性を上げている。攻撃と牽制を織り交ぜ、ヴィクトルの認識が一点に集中しないよう、淡々と、しかし確実に圧を重ねていく。

 

 シアは更に一歩前に出た。ドリュッケンの重量を不規則(ランダム)に変え、振り下ろし、振り抜き、その全てに絶妙な間を作ることで、ヴィクトルに「防ぐべき攻撃」を選ばせ続ける。

 

 ハジメは距離を保ちつつ、射線と間合いを操作する。ドンナー・シュラークの閃光が、ヴィクトルの死角を縫うように飛び、クロスビットが低空を滑って位置を変える。

 

 防ぐ、と判断した攻撃の次に本命が待ち受け、防がなくてよいと判断した攻撃がダメージを蓄積させていく。

 

 それでも、ヴィクトルの動きはなおも鋭い。だが、その対応に僅かな遅れが混じり始めていた。

 

 シアの一撃を仰け反りながら回避する。しかし、完全に回避しきることは出来ず、衝撃が肩口を微かに揺らした。直後にユエの魔法群が襲来する。ヴィクトルの防御は間に合う。だが、その瞬間に生まれる硬直は無視できない。

 

「――ッ」

 

 ヴィクトルが小さく息を呑む。その瞬間をシアは逃さない。

 

「うりゃぁぁああ!」

 

 気合の咆哮と同時に、ドリュッケンが唸りを上げる。大地を砕くかの勢いで振り上げられた軌道が、下からヴィクトルを捉える。瞬間、ヴィクトルの意思とは別に身体が宙に浮かされる。

 

 空中で体勢を立て直そうとするが、その一瞬をユエが捉える。

 

「〝雷龍〟」

 

 雷が迸る。龍の形を成したそれが、貴様を逃がさないとヴィクトルへと絡みき、空中でヴィクトルを拘束する。

 

「――ぐっ!」

 

 〝雷龍〟によるダメージは星光よって護られている。しかし、そこに意識と出力が集中してしまう。

 

 ハジメは、〝宝物庫〟から全長二メートル半のアームが付いた大筒を取り出す。パイルバンカーである。独特の音を響かせてスパークを迸らせながら紅い雷をチャージする。

 

「ちぃッ!」

 

 苦さを含んだ声を漏らしながら、ヴィクトルは雷龍に意識の大部分を割かせながらも体験を盾のように構える。が、その程度でこのパイルバンカーの一撃に耐えられるはずもない。四本のアームに新たに付与された空間固定機能が、パイルバンカーを固定される。

 

「死んでも文句は言うんじゃねぇぞッ!」

 

 直後、パイルバンカーの射出口から空間魔法〝震天〟の簡略版である空間振動が迸る。そして、重力魔法によって二十トンにまで重さを増加させた漆黒の杭が、落雷の如き轟音と共に解き放たれた。

 

 紅いスパークを放つ漆黒の杭は、刹那の拮抗も許さずヴィクトルの大剣を貫き、ヴィクトル本人を〝雷龍〟の拘束をぶち抜いて弾丸のように吹き飛ばす。民家の壁を一棟、二棟、三棟――石造りの家々を次々と貫通し、そして勢いがようやく殺された。

 

 遅れて、建物が崩落する。瓦礫と粉塵が重なり、夜の街に広がっていき、静寂が包み込む。

 

 三人はようやく、勝利を確信したのだった。

 

 

 

 

 

「やりました、よね?」

 

「――ああ、俺達の勝ちだ」

 

 シアの問いかける声に不安は混じっていない。ハジメもその問いかけには素直に答えた。普段ならそれは()()()だのなんだのと言うところだが、今回はさすがのハジメも手ごたえがあった。あのパイルバンカーを喰らって耐えられるはずがないと心の底から断言できる。

 

 ユエはじっと瓦礫の奥の方を静かに見据え、そして反応がないと分かるとペタリと座り込んだ。

 

 激闘の末、ハジメ達三人は“英雄”から勝利を手にした―――

 

 

 

「いいや、まだだ」

 

 

 

 ―――と、少なくとも常識的に考えればそうだったのだ。相手が“鋼の英雄”でなければの話だが。

 

「―――嘘だろ、おい」

 

 絶句したハジメ達が目にしたのは、刀身が砕け散って柄だけになった大剣を手にしながら、パイルバンカーの直接的傷を負っていない男の姿だった。

 

 ありえない、どうしてと脳内を支配するハジメの疑問に答えるように、いち早く答えに辿り着いたユエがポツリと呟いた。

 

「……空間魔法、ゲートで杭の先を別の位置に移動させた?」

 

「―――ああ、どうやら賭けには勝ったようだ」

 

 どうやら、大剣を砕いたパイルバンカーの杭先はヴィクトルの身体を直接貫くことは無く、刹那に開いた空間魔法のゲートを通り無効化していたらしい。しかし、衝撃までは無効化できず、何棟も建物を貫く構図になったらしい。

 

 そのダメージは確かに喰らっているようで、ヴィクトルは僅かにふらついている。それを認識したハジメはドンナーを手に持つが、遮るようにヴィクトルの静かな声が響いた。

 

「時間切れだ」

 

「……あ? 逃がすと思ってんのか?」

 

「お前たちには優先すべきことがあるのだろう。ほら、あれのように」

 

 ハジメ達の後方遠くを指さしたヴィクトルに合わせて、ハジメ達は無意識にその先を目で追った。すると、

 

「……うそん」

 

 【神山】全体を激震させるような爆発音が轟いた。物理的距離は遥かに離れているにも関わらず、轟音を立てながら崩壊していく大聖堂の様子が目に見えた。そして、その大聖堂から一筋の流星が飛び出し、王宮の方へと落ちていった。

 

「…なるほど、あれが女神の目覚め、極点の誕生か」

 

 呆けるハジメ達から意識が逸れた隙に、ヴィクトルは〝界穿〟を用いて撤退した。ハジメ達はそれに気が付いたが追撃や捜索はせず、三人で顔を見合わせて頷いて流星が落ちていった王宮の方へと向かっていった。





無冠無銘、勝利を捧げよ。(C r o w n l e s s )魔の地平に闇は無い(D a w n b r i n g e r)

限定的現象改竄能力

基準値:A
発動値:AAA

集束性:A
操縦性:B
維持性:B
拡散性:E
付属性:C
干渉性:AAA


 自分自身や自身の行動による直接的現象のみに限定して干渉し操作できるという、ヴィクトル・ドラングレイグが宿す特殊な星辰光(アステリズム)
 一撃必殺級の攻撃を受けても耐えられるし、物理的に届かない攻撃でも相手に命中する。場合によっては衝撃を残留させることもできるし、指向性を持たせることも可能。

 ある意味、自身が「こうする」という願望を形にするという恩恵。

 本来はもう少し抑え目な素養や性能をしているが、神代魔法である変成魔法を用いることで疑似的な再強化施術や人造惑星(プラネテス)化施術を施し、規格外な性能を会得している。


 次回は悠姫vsノイントの第一幕です。
 感想、アドバイスなどいただけると嬉しいです。
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