ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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 感想、誤字報告ありがとうございます。

 まさか恵理と恵里を間違えるとは……


第九十二話 迫りくる絶望

 

 強欲竜団(ファブニル)―――その名を聞いた瞬間、広場の空気が凍り付いた。その轟く悪名はハイリヒ王国王女であるリリアーナも耳にしたことがあり、光輝達も一度だけ遭遇したことがあった。

 

 その時は副頭領を名乗る彼女はおらず、頭領を名乗った男も声だけしかない。実際に戦闘になることもなく、男が口にした通り、ただの顔合わせ程度で終わったが―――

 

「つまらねぇ奴だと思っていたが、俺の眼も節穴かねぇ。随分とそそられるようになったじゃねぇか。さぁ、立ち上がれよ勇者(イアソン)。数多の困難を乗り越えた船旅のように、お前の英雄譚を魅せてみろ」

 

 ―――今回が同じように顔合わせで終わることがないのは、滾らせている狂乱の圧力が表している。

 

「なっ、は、ふざけるなっ光輝君は、私が―――っ」

 

「口を閉じなさい、エリ。いい? 欲に堕ち、仲間を裏切り、そして仕掛けた策略を壊された、哀れで惨めな敗北者。それが今の魔女(メディア)の真実よ。だから貴方の価値何て―――」

 

「―――そこまでにしてほしい」

 

 ヘルヴァルドの容赦のない口撃に恵里は息を飲み言葉を失う。しかし、拘束される恵里をヘルヴァルドの視界から遮るように光輝が割り込み、ヘルヴァルドの言葉を止める。

 

「恵里は罪を犯した。それは変えようのない事実だ。だが、裁くのはお前達じゃない」

 

「……ふぅん、勇ましいのね」

 

 嘆息するヘルヴァルドは恵里への興味を失い、そして僅かに光輝へと好奇の視線を向ける。聞いていた話だと、無駄に正義感が強い自分勝手な子供、という印象を持っていたのだが、どうも今の勇者からはそのような雰囲気は感じられない。

 

 加え、先程から一回も警戒を解かず、強欲竜団(ファブニル)の出現と同時に聖剣を構えた所も好ましく思える。視線に揺れは無く、真っすぐヘルヴァルドとダインスレイフを見据えていた。そこから感じるのは、光に魅入られた狂人特有の雰囲気だった。

 

「香織、雫。時間が経てば南雲達はこっちに来るだろう。だからそれまで保たせる」

 

「うんッ」

 

「……ええッ」

 

 拘束された恵里、檜山、操られた兵士達を騎士団に引き渡し、雫と香織、そして光輝の三人が前へ出た。

 

 戦力差は絶望的と言ってよい。三対二、その人数の優勢を少なくとも一人の戦闘力で遥かに凌駕している。しかし、三人の中に引くと言う選択肢は無かった。

 

 少なくとも、雫達の中には、悠姫やハジメ達が駆けつけてくれるだろうという信頼がある。ならば、そこまであの二人から生き延びらなければならない。

 

「私達も混ぜて貰えないだろうか」

 

 緊張感が張り詰める広場に、静かな声が割り込んだ。視線が向いた先、黒い外套を翻しながら先頭を歩く偉丈夫と、その後ろを歩く男女三人が姿を表す。

 

 新たな四人の乱入者。しかし、雫の視線はその先頭を歩く偉丈夫へと向けられていた。

 

「ギルベルト・ハーヴェス……っ」

 

 低く漏れた声に、一層の警戒と緊張が滲む。その強さは【オルクス大迷宮】で身をもって経験しており、極めて厄介な相手が現れたと歯噛みした。

 

 だが――。

 

「シェリア姉さま!」

 

 リリアーナが三人の内の一人に気が付くと驚きと喜びの声を上げる。

 

 シェリア・S・B・ハイリヒ。ハイリヒ王国第一王女であり、リリアーナ第二王女の実姉。同時、金ランク冒険者“光姫”シェリア・ハムとしても活動している、悠姫を隊長と慕う部下の一人だった。

 

 よく見れば、他二人もアヤメ・キリガクレとディルグ・ロートレクと、雫と香織が知る二人であり、金ランク冒険者パーティ“ケイオス”であり悠姫の部下達でもある三人に、雫と香織が困惑の表情を返す。

 

 ギルベルトと“ケイオス”の三人、共通点は新西暦のアドラーに所属した軍人ということ。しかし、ギルベルトはトータスでは魔人族側に協力している筈。

 

 そんな雫達の考えを読んだギルベルトが口を開く。

 

「私は最初から、彼の味方だ。魔人族に着いた覚えも、ましてや人間族に着いた覚えもない」

 

 彼、と言うのが誰のことを指すのかは容易に想像でき、それを聞いた雫の胸の中で何かがストンと落ちた。

 

 【オルクス大迷宮】で語った通り、ギルベルトは上か下かの判断を絶対にしている。ギルベルトの上に立つ“彼”と、真に敵対するわけが無かったのだ。ならば審判者(ラダマンテュス)は信用できる。

 

 雫は刀を握り直し、改めて強欲竜団(ファブニル)の二人へと向き直る。四人の援軍の登場により、戦場の構図は組み変わっていく。

 

 敵は二人、こちらは七人。数では大きく上回り、こちらにはあの審判者(ラダマンテュス)がいる。時間稼ぎ程度は十分可能だろう。

 

「では、彼女は“ケイオス”の三人に任せ、私達は邪竜討伐と行こうじゃないか」

 

 その言葉に、雫は一瞬だけ光輝を見て、隣に立ったギルベルトへと再び視線を向け、念の為の確認を取った。

 

「……本当に信用して良いのよね」

 

「無論だとも」

 

「話は終わったか? んじゃぁ―――」

 

 竜が獲物へと襲い掛かるように、ダインスレイフが籠手剣(ジャマダハル)を引き絞るように構える。空気が震え、殺気と戦闘欲が場を満たす。

 

 完全にその他大勢の観客となった優花達が固唾を飲んで緊張する中、遠くから大きな爆発音が響き渡る。

 

「行くぜぇぇぇえええッ!!!」

 

 それを合図に、九人は一斉に大地を蹴って駆け出した。そして、ダインスレイフの咆哮が開戦の号砲として轟いた。

 

 


 

 

「はぁぁああッ」

 

「シャアアアアアッ!」

 

 最初に衝突したのは、光輝とダインスレイフだった。光を纏った聖剣と籠手剣(ジャマダハル)が火花を散らし、耳を刺すような甲高い金属音と衝撃波が広場を揺らす。

 

 重い、と光輝は一合目で理解する。一瞬で腕が痺れ、足元の地面が砕ける。純粋な膂力も技量、全てにおいて光輝よりダインスレイフが格上なのだと伝えてくる。

 

「その程度かよォッ!」

 

 嘲りと同時、ダインスレイフの蹴りが光輝の腹部を襲う。だが、そこへ横合いから幅広の大剣が割り込み受け止める。

 

 直後、ダインスレイフの足場が爆破し、ダインスレイフの重心が僅かに傾く。その瞬間を逃さず、雫が踏み込んだ。

 

 電磁加速された抜刀が閃くが、崩れた体勢のまま跳躍し雫の一閃はあえなく宙を斬る。

 

「いいぞいいぞ、これならどうだッ!」

 

 流れるよう連携を見て気が乗ったダインスレイフは、踵に星光を籠め地面へと叩き込む。すると、大地がうねり、巨大な竜爪の形を取って光輝達へと襲い掛かる。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ―――〝天翔閃〟ッ!」

 

 聖剣から放たれる光の斬撃が迫る竜爪を両断する。しかし、砕けた塊は崩れ落ちず、欲竜の命を受けて形を変えて、再び襲い掛かる。

 

 放たれる剣麟を防ぐため香織が防壁を張るが、光輝とギルベルトは剣麟を切り払いながら前へ前へと疾走する。

 

 地面が形を失い、槍衾となっても二人は止まらず、光輝はギルベルトの援護を受けながらダインスレイフへと斬りかかる。衝突の衝撃で舞い上がる砂埃の中、ダインスレイフは哄笑しながら光輝へと語り掛ける。

 

「いいぞ、勇者(イアソン)。お前を過小評価したことを謝罪するぜ。さあ、英雄への(きざはし)を駆け上り、竜退治をを成すがいいッ! 奴等のようになぁッ!」

 

「だまれ、薄汚い欲竜がッ! 貴様に何と評価されようが、知ったことじゃないッ」

 

 言葉と同時に聖剣を振るう。その剣閃に、ファヴニル・ダインスレイフという()()を斬殺しようとしている現実に、光輝の迷いは見られない。

 

 雫はその変化を感じ取り、胸中に不安が過る。

 

 今の光輝に、【オルクス大迷宮】で別れた時までの雰囲気は感じられない。先程の恵里に対して言った時もそう。

 

 以前までの光輝なら恵里の裏切りを信じず、誤解がある、操られている、など都合よく解釈していたのだろうが、光輝は既に知っていたかのように、あっさりと恵里の裏切りを信じていた。

 

 そして今もそうだ。ダインスレイフを討つべき敵として見据えている。

 

 勇者としてはこれが正しいのだろう。雫でもきっと同じことをする。

 

 しかし、天之河光輝という幼馴染として考えると、なにか間違った方向へ進もうとしているように見えて仕方がない。理由の分からない違和感を拭えない。

 

 だが―――

 

「放っておかれて拗ねてんのか、戦乙女(ワルキューレ)。ならこれをくれてやるよッ!」

 

 戦闘中にその葛藤は油断にしかならない。

 

「くっ、きゃぁッ」

 

「香織!ぁあッ!」

 

 地面が弾け、香織の足元が失われる。突き上げる剣麟の雑木林が、香織の身体を飲み込んだ。何とか致命傷は避けたもの、手足を貫かれるなど負った傷は決して小さくない。

 

 さらに、香織に気を取られた雫に竜爪が迫り来る。雫は咄嗟に竜爪を受け流すが、死角から伸びたダインスレイフの竜牙が雫の脇腹を抉る。

 

 吹き出した鮮血が雫を紅く染める。経験したことがない程の激痛に、足が揺らぎ膝から崩れる。その隙をダインスレイフは逃さず、雫を香織の方へと蹴り飛ばした。

 

「うぉぉォォオオオッ!」

 

 光輝が怒りを宿し咆哮を上げながら踏み込む。聖剣が上段から振り下ろされ、地面ごと叩き割る。しかし、ダインスレイフの星光は舞い上がった破片にさえ支配する。空中で形を変え、剣麟となって牙を剥く。

 

「では、これでどうかな」

 

 ギルベルトが指を鳴らすと、剣麟がそのまま宙で弾け飛んだ。ギルベルトの未来予知にも等しい炯眼は、光輝の選択と、それに対するダインスレイフの対処を読み切っており、その布石を各所に散りばめている。

 

 そして、振り上げられた光輝の聖剣が、ダインスレイフの片腕を斬り飛ばす。遂に刻まれた明確なダメージ、それは、勇者の力が邪竜討伐に手が届きつつあるということであり――――

 

「ヒャハハハハッ! いいぞいいぞ、もっとお前の本気を見せてみろォォォッ!」

 

 ―――男がより上の領域に到達するということでもある。

 

 失った左腕から紫紺の鱗を有する竜腕が生え、聖剣を振り抜いた体勢の光輝へと強靭な爪を振り下ろす。

 

 光輝は聖剣を盾にして竜爪を防ぐが、直ぐに攻めへと移らず後ろに跳び退いた。突如生えてきた竜腕に警戒しているのだろう。

 

 物理的に紫紺の邪竜へと変貌しつつある男を真っすぐ見据え、光輝は更に聖剣に力を込める。

 

 

 

 一方―――

 

「いいわいいわ、これが星辰奏者(本物)の連携なのね、期待通りだわ」

 

 ヘルヴァルドはケイオスの連携に軽口を叩きながら対等に戦闘を続けていた。

 

 ディルグの槍が唸りを上げながら突き出される。その穂先を、ヘルヴァルドは右手に持つ片手剣で受け止め、夜目にも鈍く光る刃が弧を描き、流れるように槍を逸らす。

 

 同時に、反対の手を無造作に振る。五指に嵌められた金属爪が迫る光熱を弾き消す。

 

 ディルグは即座に逸らされた槍を引き戻し、間髪入れずに更に一歩踏み込む。穂先が届く直前に質量を増加させ、再び受け流そうと差し込まれた片手剣を無理矢理押し込んだ。

 

「あら?」

 

 想定以上の重さに驚きの声を漏らすが、ヘルヴァルドはそのまま身を捻るように回り、金属爪で槍の起動を受け流す。

 

「急に重くなったわ。面白いわね」

 

 そんなことを口にしながらも剣が閃き、ディルグの肩口を掠める。血が滲むが、ディルグはその場に踏みとどまる。そこへ横から光が走った。

 

 シェリアの二振りの曲剣が同時に斬り込む。光熱を纏った刃を片手剣と金属爪が受け止め、火花が散る。

 

 ヘルヴァルドは笑みを崩さないまま跳ねるように退き、無詠唱で三つの炎弾を生成し三人に放つ。散開する三人の間を縫うように爆ぜ、生じた煙が双方から姿を隠す。

 

 ゆらりと、ヘルヴァルドの視界に写る煙の一角が揺らいだ。ヘルヴァルドはその方向に視線を向けるが、次の瞬間には自身の背後へと振り返る。

 

 背後から迫っていたのは、アヤメの旋根(トンファー)。ヘルヴァルドは半身を捻って受け流し、逆に金属爪で反撃するが、視界からアヤメの姿は消失し金属爪は残像を引き裂いた。

 

「へぇ、可愛い手品ね」

 

 アヤメの姿は一瞬も視界から外していないにも関わらず、ヘルヴァルドの眼にアヤメの姿は無い。しかし、持ち前の勘を活かし、軽口と共に宙に剣を走らせる。

 

 だが、再びディルグが割り込み、槍を横に払って軌道を逸らす。続けざまに、槍の柄の部分で足元を薙ぎ払った。ヘルヴァルドは跳んで払いを避けるが、宙に浮いた隙をシェリアは逃さない。

 

 光熱を曲剣に集束させ、そして時間差をつけて光波として斬撃を飛ばす。ヘルヴァルドは一つは片手剣で弾くが、もう一方の対処は間に合わず、爆ぜた閃光がヘルヴァルドを飲み込んだ。

 

 シェリアは油断せずに爆炎を見据え、そして飛び出して突き出された金属爪を受け止めた。直後、ヘルヴァルドの横腹へとアヤメの一撃が撃ち込まれた。しかし。

 

「ちッ、浅い」

 

 咄嗟に跳んで受けるダメージをコントロールしたのだろう、アヤメのかんじた 手応えはとても軽いものだった。実際、ヘルヴァルドは勢いのまま地面を転がり、そのまま無傷のようにスッと立ち上がる。

 

「びっくりしちゃったわ。本当にいい連携ね、退屈しないわ」

 

 言葉とは裏腹に、ヘルヴァルドの足取りは軽い。まるで散歩をするかのように、一歩、二歩と優雅に歩くと、今度は好戦的な笑みを浮かべて膝を落とす。

 

「じゃあ、今度は私の方から行きましょう、かッ!」

 

 踏み込みの音もなくヘルヴァルドの姿が消え、次の瞬間、片手剣がディルグの喉元へと迫っていた。咄嗟に槍で受け止めるが、衝撃が重い。先程までとは明らかに、速度も威力も違う。

 

 間を置かず、金属爪が横から薙ぐ。ディルグが半歩引いた刹那に、その背後に滑り込む影にヘルヴァルドは嗤う。

 

「そうそう、止まっては駄目よ」

 

 振り向きざまに放たれた一閃を、シェリアが交差する曲剣で受け止める。光熱が弾け、ヘルヴァルドの肌を焼くが、彼女は止まらずそのまま押し込んでくる。

 

 そこに、アヤメが割り込んでくる。ヘルヴァルドの視界が歪み、アヤメの位置をずらす。しかし次の瞬間、ヘルヴァルドはシェリアの腹を蹴った反動で後退し、そのまま金属爪で何もない空を引き裂いた。

 

「……ッ」

 

 宙から呻き声が漏れる。飛び退く気配に、ヘルヴァルドは金属爪に付いた血を舐め取りながら妖艶に嗤う。

 

「なるほどね、私が見えているものを変える星光、重さを変える星光、光熱を操る星光、と言った所かしら」

 

 理解した、という声色だった。三人はそれに合とも否とも口にはしない。

 

 ディルグは槍を構えなおし間合いを詰める。だが、今度は重さが変えられる前提で軌道を読み、穂先を弾くことなく回避する。代わりに肩口を片手剣で斬りつける。

 

 シェリアが光熱を纏い、二振りを交差させて斬り込む。だが、ヘルヴァルドの方が一歩早く、懐に入り込んで、光熱に焼かれながらも金属爪で突き上げ脇腹を抉る。

 

 アヤメが視界を歪ませ、体勢を低くして死角から旋根(トンファー)を振るう。しかし、僅かな布の擦れ音を聞き取り、アヤメを下から蹴り上げる。

 

「ふふ……いいわ、本当にいい」

 

 弾んだ声と共に、踏み込みが一段と早くなる。

 

 片手剣がディルグの槍を弾き、金属爪がアヤメの残像ごと薙ぎ払い、シェリアが光刃で割り込んでも受け止めたまま力尽くで押し込んでくる。

 

 重く、速く、強く、三人は徐々に押されていく。そして遂に、ヘルヴァルドの金属爪がシェリアの喉元を捉える、その刹那―――

 

「―――加勢します!」

 

 突如、広場に若い男の声が響く。

 

 同時に、上空から重い風圧が降り注いだ。黒き巨体が旋回し、広場へと舞い降りる。黒竜化したティオが翼を広げたまま着地し、その背から清水幸利が跳び降りて着地と同時に駆け出した。そして、杖を手に口を開く。

 

「創生せよ、天に描いた星辰を―――我らは煌めく流れ星」

 

 紡がれる起動詠唱(ランゲージ)に込められた想いは贖罪。犯した罪を償い、そして向けられた信頼に必ず応えるという誓いに他ならない。

 

「あの光に背を向けたことを、悔いている。信じてくれたその心に、応えられなかったことを」

 

 脳裏に過るのは、ウルの町での大事件。“闇術師”清水幸利は、自分が勇者である、この世界の主人公であると妄信し、魔人族と出会い、そして大量の魔物を洗脳してウルの町を襲撃した。

 

 結果としては悠姫達によって失敗に終わったが、それが人間族への、そして愛子達全員への裏切りであることに違いはない。

 

「差し伸べられた手を、疑い、拒み、それでもなお与えられた信頼に救われた」

 

「忘れはしない。赦しの光が、闇を穿ったあの瞬間(とき)を」

 

 そんな裏切りを、先生は許してくれた。一人じゃないと寄り添ってくれた。力を貸してほしいと言ってくれた。こんな俺を、必要だと言ってくれた。

 

「ゆえに、この身はすべて貴女のために。この力も、歩みも、命の最後、一片までも」

 

「荒れ地に撒かれた種であろうとも、貴女が灯火(ぬくもり)を与えるならば、それは確かに希望(ヒカリ)へ続く道程(みち)なのだから」

 

 ならばこそ、もう清水幸利が妄信に囚われることは無い。心から尊敬すべき先生を、一生を支えて見せる。否、必ず支えるのだ。

 

 いまこそ、宣誓しよう。俺が必ず、貴方を守り抜くと。

 

「師よ、この祈りを捧げます」

 

超新星(Metalnova)――〝黄金の稲穂に滅びは無く。(B l e s s i n g )讃えよ、豊穣の女神を(T h e s m o p h o r i a)〟ッ」

 

 天津悠姫の使徒、畑山愛子(豊穣の女神)を守る勇者、清水幸利の星辰光(アステリズム)が祝福の如く降り注いだ。

 

 

 

「あら?」

 

 瞬間、空気が変わる。確実に捉えたと認識した攻撃が弾かれたことに驚いて、呆気に取られた声を漏らし、三人はその隙にヘルヴァルドの近くから跳び退いた。

 

「長くは持ちません! 今のうちに、早くッ!」

 

 幸利の忠告を聞き、三人は瞬時に付属(エンチャント)された星辰光の正体を看破して一斉攻勢に移る。一段と深く踏み込み、光熱が眩い程に濃く光り、輪郭がより曖昧に揺らいだ。

 

 質量を乗せた槍が、これまでよりも速く、重く、ヘルヴァルドへ迫る。空気を引き裂くその音は、とても槍から出る音とは思えないほど。

 

 そこへ、シェリアが斬り込んだ。光刃を飛ばしながら、シェリアとヘルヴァルドの間で光が爆ぜる。ヘルヴァルドは爆光に視界を焼かれながら、光刃が身体を斬り刻む。

 

 その隙を突き、アヤメが死角へ滑り込み旋根(トンファー)をかち上げる。アッパーは容赦なくヘルヴァルドの胴へとめり込み、ヘルヴァルドは胃液を吐き出す。

 

 出力が上がった三人からの同時攻勢に、ヘルヴァルドは手も足も出ない。そして遂に、天秤がケイオスへと傾いた。

 

光姫(アポロン)が宣告します」

 

 曲剣の柄同士を合わせ、シェリアは弓のように引き絞る。過去最大の威力を誇る光熱が集束される。

 

「これで、終わりよッ!」

 

 そして、解き放たれた光矢が一直線に迸る。回避は間に合わず、防御も間に合わない。閃光がヘルヴァルドの胸を貫き風穴を空ける。

 

「――が、ごふっ」

 

 身体が僅かに仰け反り、胸に穿たれた大穴から赤黒い血が噴き出す。後ろの景色が覗き見えるそれは、誰が見ても致命傷だった。

 

「―――ああ」

 

 掠れた声が漏れる。膝が折れかけ、鮮血が地を染める。そのまま崩れ落ちる、だがしかし―――

 

「―――あああ」

 

 嗤っている。血に濡れた唇がゆっくりと吊り上がる。

 

「―――ああああ、最っ高よッ!」

 

 胸に風穴を空けながら、ヘルヴァルドは歓喜の咆哮を上げながら震えていた。

 

 ()()()致命傷程度で彼女が斃れることは無いのだから。

 

 頬を紅潮させる彼女は、目を見開き、血反吐を吐きながらも愉しそうに嗤っていた。胸の穴から除く深紅の()()が妖しく光り、蠢く肉がその穴を埋めていく。

 

 髪を赤黒く染めながらも妖艶に嗤う彼女は、ある種の絵画のような美しさを感じさせる。しかし、それは決して彼女の真実ではない。

 

「もっと、もっと、もっとッ、もっとッ! 貴方達の力を私に見せてちょうだいッ!」

 

「創生せよ、天に描いた星辰を―――我らは煌めく流れ星ィッ!」

 

 遂に紡がれる起動詠唱(ランゲージ)、具現する破滅剣(ティルフィング)。殺戮を望む盾の乙女(ヘルヴァルド)の星光が、冒険者達を蹂躙する。

 





黄金の稲穂に滅びは無く。(B l e s s i n g )讃えよ、豊穣の女神を(T h e s m o p h o r i a)

星辰体(魔力)活性化能力

基準値:C
発動値:B

集束性:D
操縦性:C
維持性:C
拡散性:D
付属性:A
干渉性:C


 清水幸利の星辰光。
 指定した対象の星辰体(魔力)を活性化させ強化する能力。

 強化された場合、魔力を用いた能力の出力が向上する反面、魔力消費量が増えるというデメリットもある。例えるならば、魔力()を放出する蛇口を大きくする魔法(星辰光)と言える。

 トータスにおいては何処にでも存在する魔力に対する能力であるがゆえに、一時的にアーティファクトの出力を向上させたり、あえて相手を対象にすることで魔力枯渇を狙うなど、直接的攻撃力は無いが汎用性が極めて高い。

 元々オタクであった清水にとって手数が多いこの星辰光(アステリズム)は相性が良く、単独でもパーティでも恐るべき切り札へと昇華させる。

 他に類を見ない能力ではありあらぬ疑いを掛けられることもあるが、清水幸利は躊躇なくこの星光(ほし)を輝照するだろう。自分の裏切り(ヤミ)を知っても信じてくれた、敬愛する豊穣の女神(ヒカリ)に報いるため。



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