ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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第九話 奈落の底

「い、いやだ! 死にたくない! 死にたくな――」

 

 ――死んだ

 

「そ、そんな! なんで、いや――」

 

 ――死んだ

 

「ああ、また駄目だっt――」

 

 ――死んだ

 

 何度も死に続ける少年(ゆめ)を観た。暴漢に殴られる少年(ゆめ)を観た。人攫い(マンハント)に捕まって奴隷になる少年(ゆめ)を観た。

 

 死んで、殺され、死んで殺され死んで殺され死んで殺され...

 まだ地獄は終わらない。

 

 英雄(ヒカリ)に出会う前、怪物が人間だった頃の出来事。

 

「たす、けて―――」

 

「―――()()()()()()

 

 


 

 

 ザァーと水の流れる音がする。

 

 頬に当たる硬い感触と下半身の刺すような冷たい感触にユキは目を覚ました。

 

「ぐッ!」

 

 目を覚ました時にまず、全身の痛みを感じた。骨が数ヶ所折れているらしいが、動くなら問題ないと思い、状況を確認した。

 

「確か、檜山に落とされたんだったか......ッ! ハジメは!」

 

 周りを見渡すが、ハジメの姿はない。滝から飛ばされた時に、手からハジメの感触がなくなったことは認識していたが、近くに流れ着いてはいないようだった。

 

「チッ! ここがさっきよりも下の階層なら、魔物の強さもさらに上がってる...ハジメ一人ならすぐにやられる。急いで探さないと」

 

 軋む身体にムチを打ちながら立ち上がり、探索を開始する。

 

 

 

 そして、探索を開始してから約10日が経過した。

 

 探索の中で分かったことがいくつかあった

 

 まず、ここは未到達の迷宮であること。整備された道はなく、洞窟という表現が正しいのかもしれない。

 

 そして、予想していたことではあったが、魔物の強さが更に上がっていること。

 放電する二尾の狼、岩も砕く蹴りを放つ兎、それらの魔物が本能的に逃げだすほどの熊。

 大きいだけで単調な攻撃しかしなかったベヒモスよりも余程強く見える。

 

 ハジメを抱えたときに、とっさに発動体の武器を納めていたので素手ではなかったが、最低限の安全を確保できるまでは戦うべきではないと判断し、岩陰に隠れながら探索していた。

 

 そして、ようやくハジメの物と思われる痕跡を発見した。

 

 そこには、砕かれた壁と金属の筒状の物だった。

 

(これは...銃弾か?)

 

 現在のトータスの技術力では銃の製造はできていない。

 つまり、奈落の底である此処に落ちているのはハジメの生存を示唆するものだった。

 

ドパンッ!

ガァアア!!

 

 迷宮内に銃声と、魔物の悲鳴が響き渡った。

 

「ッ! ハジメ!」

 

 ユキは銃声と悲鳴のした方へ駆け出した。

 

 

 

 

 

「俺の糧になれ」

 

 その言葉と共に白髪の男が引き金を引く。銃弾は爪熊の頭部を打ち砕き、白髪の男と爪熊の勝敗に決着をつけた。

 

「ハジメ!」

 

 ユキは白髪の男に言葉を投げかける。自分の知っている南雲ハジメとは姿が変わっていたが、ユキは不思議とハジメであると確信していた。

 

「ッ! ユキ...さん...」

 

 ハジメは突然の再会に動きを止めるが、再び警戒を始める。

 

「いや、ちげぇ...今更そんな騙しに引っかかるかよ!」

「ッ!」

 

 ハジメは銃口をユキへと向け、躊躇なくトリガーを引く。ユキは銃口を向けられた瞬間に、射線から体を逸らす。

 

「チッ! 避けやがったか! あの爪熊より強えな、ぜってえ食らってやる!」

 

 攻撃を避けられたことに舌を打ち、再度攻撃を再開する。

 銃口を向けられた瞬間に、ユキは射線から反れて銃弾を避け続ける。

 何度も避けられることにイラつきながらハジメは叫ぶ。

 

「ふざけんな! ユキさんを真似すんじゃねえ!」

「......」

「ユキさんだけが俺の味方だったんだ! ユキさんだけが俺を助けようとしてくれたんだ! 俺の支えを真似てんじゃねえ!」

「...ああ、そうか」

 

 無能と呼ばれた自分に可能性を与え、誰よりも真摯に接してくれた人こそユキだった。

 そんな自分のヒーローであるユキの真似をする魔物が許せなかった。

 

 ハジメの叫びに、ユキは新西暦に飛ばされたころの自分と重ねていた。

 知らない世界、知らない土地、友人(ヴァルゼライド)に出会うまで孤独だったこと。

 だからこそ、ハジメの思いを理解できた。

 

「弾切れか! チッ!」

 

 ハジメは銃――ドンナーの弾が切れると、纏雷を使いながら格闘戦に移行する。

 ハジメの拳を受け流す。纏雷が身を焦がすが、ハジメに声をかける。

 

「...どんな理由があっても、俺がお前の手を離してしまったのは事実だ」

 

 ハジメの蹴りを受け流す。再び纏雷が身を焦がすが、ハジメに声をかける。

 

「その髪、左腕、とても苦しい思いをしてきたんだろう。

 守ると言っておきながら守れなかった。誹謗中傷、罵詈雑言すべて等しく受け止めよう」

 

 ユキが言葉を掛けるたびに、ハジメは無意識に攻撃を止め―――

 

「...遅くなってすまない。助けに来た、ハジメ」

「...ユキさん...俺は...」

 

―――敵意を完全になくした。

 トータスに召喚されて一ヶ月程度の付き合いしかないのに、この人は本物のユキ・ロスリックであり自分を助けに来てくれたのだと。

 

 こうして、奈落の底で二人は奇跡の再会を果たした。

 

 


 

 

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ユキ・ロスリック ??歳 男 レベル:23

天職:神子

筋力:900

体力:900

耐性:900

敏捷:900

魔力:15000

魔耐:12000

技能:星辰光・■■■■・魔力操作・魔力変換・気配感知・魔力感知・言語理解

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:17

天職:錬成師

筋力:300

体力:400

耐性:300

敏捷:450

魔力:400

魔耐:400

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・言語理解

=========================

 

「...すごいな、このステータス...」

 

 ユキはハジメのステータスプレートを見ながらそうつぶやく。

 

 ユキとハジメの二人は、ハジメが拠点にしている横穴で情報交換を行っていた。

 ...爪熊の肉を頬張りながら。

 

 魔物の肉は、魔石から流れる魔力によって猛毒になっているため、人間が食べると死亡するのが常識だった。

 実際、ハジメも食べたときは激痛が走り死亡するはずだったが、神水を飲むことで死亡を回避した。

 

 神水とは、神結晶と呼ばれる魔力が千年かけて結晶化した石のことで、そこから流れる液体を飲んだ者はどんな怪我も病も治ると言われている。

 

 結果、ハジメは魔物の肉による肉体の破壊と神水による再生を繰り返し、強靭な肉体と能力を手に入れた。

 

 

 ハジメと同じように、ユキも魔物の肉を食べるが激痛が走ることはなかった。が、ステータスに変化が出ることもなかった。

 

 ユキ曰く、星辰奏者(エスペラント)として強化されていることに加え、再強化手術も施しているためだと言ったが、正直なところ理由は分かっていない。

 ただ、他の人間と違うのは星辰奏者(エスペラント)であるかどうかであるため、それが理由ではないかとは思っていた。

 

「これからどうするかなんだが、上階に続く道が見当たらなかった。だが、」

「階下への道は見つけた、と...それなら下に降りてった方がいいな...」

 

 そう、ハジメを探すために約10日間迷宮内を回った結果、ユキは探索をほとんど終わらせていた。しかし、階下への道しか見つけられなかった。

 

「そうなると、魔物もさらに強くなっていくと思うが」

「上等だ、なんだろうと殺して、絶対に脱出してやるさ!」

「...そうだな。俺たちなら絶対できるさ」

 

 

 

 

 

 ユキとハジメが再会してしばらくたち、二人は五十層にいた。

 

 二人のステータスは現在こうなっていた。

 

=========================

ユキ・ロスリック ??歳 男 レベル:71

天職:神子

筋力:1600

体力:1600

耐性:1600

敏捷:1600

魔力:15000

魔耐:12000

技能:星辰光・■■■■・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・魔力変換[+身体強化][+部分強化][+治癒力変換][+衝撃変換]・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・言語理解

=========================

 

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:49

天職:錬成師

筋力:880

体力:970

耐性:860

敏捷:1040

魔力:760

魔耐:760

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解

=========================

 

 ここまでに遭遇してきたいろいろな魔物と戦い、食べてきた影響で二人のステータスは上昇し続けていた。

 ハジメは技能も増え、ユキも技能に派生技能が付いている。

 

 そんな二人は五十層の探索をほとんど終え、まだ探索していない異様な扉の前に立っている。

 高さ三メートルの装飾が施された両開きの扉。扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻がある。

 

「扉を開けたり触ったりしたら多分動くよな...」

「ああ、こういうのは定番だからな。先にぶっ壊すか」

 

 あきらかに動き出しそうな二つの彫刻を破壊すると、案の定中から魔石が現れた。

 どうやらこの魔石が扉の鍵になっているらしく、魔石を扉にはめ込むと扉に刻まれた魔法陣に魔力が注がれ扉の鍵が開いた。

 ...心做しか一つ目巨人が涙目になっているように見えるのは...気のせいだろう

 

 ユキが周囲を警戒し、ハジメがそっと扉を開けた。

 

 扉の奥は光一つなく真っ暗闇で、大きな空間が広がっているようだ。

 ユキは手前の部屋の明りで少ししか見えないが、ハジメは〝夜目〟で中を確認する。

 

 部屋の中は幾本もの太い柱が規則正しく並んでおり、まるで教会のような造りをしていた。

 そして、部屋の中央には立方体の石が置かれており、立方体の前面の中央辺りから何かが生えているのに気がついた。

 

 ユキもようやく目が慣れてきたところでその〝何か〟に気が付き、部屋に差し込んだ光がその姿をさらす。

 

「人......なのか?」

 

〝生えていた何か〟は()だった。

 

 

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