ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

15 / 80
第十二話 語らい

「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」

「......マナー違反」

「さすがにそれは失礼だぞ......」

 

 ユエが非難を込めたジト目でハジメを見る。女性に年齢の話はどの世界でもタブーらしい。

 

 

 三人は現在、拠点で消耗品を補充しながらお互いのことを話し合っていた。

 

 ハジメの記憶では、三百年前の大規模な戦争のおり吸血鬼族は滅んだとされていたはずだとのこと。実際、ユエも長年、物音一つしない暗闇に居たため時間の感覚はほとんどないらしいが、それくらい経っていてもおかしくないと思える程には長い間封印されていたという。二十歳の時、封印されたというから三百歳ちょいということだろう。

 

「吸血鬼って、皆そんなに長生きするのか?」

「...私が特別。〝再生〟で歳もとらない...」

 

 聞けば十二歳の時、魔力の直接操作や〝自動再生〟の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも二百年くらいが限度なのだそうだ。

 

「...そういやユキの年齢もおかしなことになってたが、あれどうなってんだ?」

「...私、それ知らない。どうゆうこと?」

「ああ、そうだな。いろいろと複雑なんだが、ハジメは、香織と雫から夢について相談されてたんだったな?」

 

 ハジメはユキのステータスプレートの年齢の部分を思いだし問うと、突然香織と雫に夢について相談されていたことを聞いてきた。

 

「あ? そういやそうだったが」

「その夢は、()()()()()()()()()()()なのさ」

「は、は? どういうことだ?」

 

 香織たちが見ていた夢は、ユキが実際に経験していることを説明する。当然のように理解されていないため、さらに説明する。

 

「死に戻り、とでも言っておこうか。俺は()西()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のさ。

 だから彼女たちが夢で見たように、何度もヴァルゼライドと戦ったし、その約三十年間を何度も生きたから年齢がおかしいことになっているのさ」

 

 二人は絶句していた。正確にはユエはよくわかっていないが、凄まじいことを言っていることは分かった。

 

「そ、それって何回くらいだ? 十回とか二十回じゃないだろ」

「回数なんて数えてないさ。数百、数千、それ以上かもしれないな」

 

 それはつまり約三十年を数百、数千回繰り返していたわけで...

 

「...私なんかよりおじいちゃん?」

「ぐっ!...事実だから何も言えん」

 

 ユエの何気ない一言でユキの鋼の心に傷をつける。そのやり取りにハジメが苦笑してしまうが、本来聞きたかったことをユエに尋ねる。

 

「ユエはここがどの辺りか分かるか? 他に地上への脱出の道とか」

「...わからない。でも...この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

「反逆者?」

 

 聞き慣れない上に、なんとも不穏な響きに思わず錬成作業を中断するハジメ。ハジメの作業をジッと見ていたユエも合わせて視線を上げると、コクリと頷き続きを話し出した。

 

「反逆者...神代に神に挑んだ神の眷属のこと。...世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」

 

 ユエ曰く、神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した者たちがいたそうだ。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。

 その果てというのが、現在の七大迷宮といわれているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。

 

「...そこなら、地上への道があるかも...」

「なるほど。奈落の底から迷宮を上がってくるとは思えない。神代の魔法使いなら転移系の魔法で地上とのルートを作っていてもおかしくないってことか」

 

(それに、本当に反逆者は世界を滅ぼそうとしていたのか? 聖教協会が世界を支配しているなら歴史なんてどうにでもできる。都合のいいように真実を隠すのは権力者の特権だ)

(そもそもエヒト神は元の世界に帰す気があるのか? 俺たちを召喚できる以上、何らかの方法で現世に干渉できるはず)

(それなのに、わざわざ別の世界から勇者となる存在を召喚する必要があるのか? 人間族に加護や技術を与えればいいだけじゃないのか)

 

 ユキは一人でユエの説明を元に思考を巡らせるが、

 

(......いや、仮説にもならない憶測を立てたところで仕方がないか...まずはこの大迷宮から脱出することが先だな)

 

 目先の目的が変わってきている、と考えを元に戻した。すると、

 

「ユキはどうするんだ?」

「...ん? ああ、悪い。聞いてなかった、何のことだ」

「ユエを俺たちの世界に連れていくってことだ。で、ユキはどうするんだ。死んじまったら召喚されたんだろ」

 

 どうやら、迷宮から脱出したらどうするのかという話だったようだ。確かに、ユキは星辰戦争に敗北して死亡した直後に召喚されている。帰る場所などないに等しい。

 

「...ハジメたちについていくさ。元々はそっちが故郷なんだしな」

 

 数百、数千、それ以上の年月を新西暦で過ごしたユキだが、もともとハジメたちが生きる西暦が故郷だ。そのため、本当の意味で帰る場所は西暦なのだ。

 

 

 

 話を続ける中で、ハジメは作業を完了させ新しい武器、シュラ―ゲンを完成。一段落したところで食事をすることした。

 

「ユキ、ユエ、メシだぞ...って、ユエが食うのはマズイよな? あんな痛み味わせる訳にはいかんし...いや、吸血鬼なら大丈夫なのか?」

 

 ハジメとユキは魔物の肉を食うのが日常になっていたので、軽くユエを食事に誘ったのだが、果たして喰わせて大丈夫なのかと思い直し、ユエに視線を送る。

 

 ユエは、ハジメの発明品をイジっていた手を止めて向き直ると「食事はいらない」と首を振った。

 

「まぁ、三百年も封印されて生きてるんだから食わなくても大丈夫だろうが...飢餓感とか感じたりしないのか?」

「感じる。...でも、もう大丈夫」

「大丈夫? 何か食ったのか?」

 

 腹は空くがもう満たされているというユエに怪訝そうな眼差しを向けるハジメ。ユエは真っ直ぐにハジメを指差した。

 

「ハジメの血」

「ああ、俺の血。ってことは、吸血鬼は血が飲めれば特に食事は不要ってことか?」

「...食事でも栄養はとれる。...でも血の方が効率的」

 

 吸血鬼は血さえあれば平気らしい。先ほどハジメから吸血したので、今は満たされているようだ。なるほど、と納得しているハジメを見つめながら、何故かユエがペロリと舌舐りした。

 

「...何故、舌舐りする」

「...ハジメ...美味...」

「び、美味ってお前な、俺の体なんて魔物の血肉を取り込みすぎて不味そうな印象だが...」

「...熟成の味......」

「「......」」

 

 ユエ曰く、何種類もの野菜や肉をじっくりコトコト煮込んだスープのような濃厚で深い味わいらしい。

 

 そういえば、最初に吸血されたとき、やけに恍惚としていたようだったが気のせいではなかったようだ。飢餓感に苦しんでいる時に極上の料理を食べたようなものなのだろうから無理もない。

 

「...美味」

「...勘弁してくれ」

 

 いろんな意味で、この相棒はヤバイかもしれないと、若干冷や汗を流すハジメであった。

 




次回、迷宮ボス戦

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。