ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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幕間 悪夢再び

 光輝達勇者一行は、再び【オルクス大迷宮】にやって来ていた。但し、訪れているのは光輝達勇者パーティーと、小悪党組、それに永山重吾という大柄な柔道部の男子生徒が率いる男女五人のパーティー、そしてメイドのアヤメ、香織、雫の三人のパーティーだけだった。

 

 理由は簡単だ。話題には出さなくとも、ユキとハジメの死が、多くの生徒達の心に深く重い影を落としてしまったのである。〝戦いの果ての死〟というものを強く意識させられてしまい、まともに戦闘などできなくなったのだ。一種のトラウマというやつである。

 

 当然、聖教教会関係者はいい顔をしなかった。実戦を繰り返し、時が経てばまた戦えるだろうと、毎日のようにやんわり復帰を促してくる。

 

 しかし、それに猛然と抗議した者がいた。愛子先生だ。

 

 彼女は当時遠征には参加していなかった。作農師という天職のため、実戦訓練よりも、農地開拓を行っていたのだ。

 だが、帰ってきて届いたのはユキとハジメ二人の死亡。そのショックに彼女は寝込んでしまった。

 しかし、だからこそ彼女は戦えなくなった生徒をこれ以上戦場に送り出すことなど断じて許せなかった。愛子は作農師という天職の重要性を十二分に発揮して教会側に抗議をし、愛子との関係の悪化を避けたい教会側はその抗議を受け入れた。

 

 結果、自ら戦闘訓練を望んだ者たちのみが訓練を継続することになったのだ。

 

 そして、なぜアヤメがパーティーとして香織、雫と行動しているのかというと、二人がアヤメに師事しているからだ。

 メルド団長は、アヤメが金ランク冒険者として活動していたことを知っているため、特に反論せず三人のパーティーを許可した。

 だが、それを受け入れない男がいた。光輝だ。

 

「俺たちのパーティーにいた方が安全だ」

 

 香織と雫は一切聞き入れずアヤメに師事を乞い、当然のように光輝は抗議した。勇者である自分たちと訓練した方がいい、むしろアヤメも自分たちのパーティーで戦おう、と

 

 そのため、アヤメは光輝に一つの条件を出した。

 

 その日の訓練の前に一回だけ、自分と模擬戦を行う。たとえどんな理由があっても、相手に膝をつかせた方が勝利。

 勝った方が香織と雫の訓練を行う、と。

 

 光輝はその条件を受け入れ、今日まで毎日模擬戦をしてきた。

 結果は当然のように、アヤメの全勝。

 香織と雫の訓練はアヤメが行い、今回のパーティーも三人で組まれた。

 

 

 

 そして、迷宮攻略六日目。

 

 現在の階層は六十層。確認されている最高到達階数まで後五層である。

 

 しかし、光輝達は現在、立ち往生していた。正確には先へ行けないのではなく、何時かの悪夢を思い出して思わず立ち止まってしまったのだ。

 

 そう、彼等の目の前には何時かのものとは異なるが同じような断崖絶壁が広がっていたのである。次の階層へ行くには崖にかかった吊り橋を進まなければならない。それ自体は問題ないが、やはり思い出してしまうのだろう。

 

 正直、香織と雫は、ユキとハジメの生存を信じて疑っていなかった。だが、傍から見ればあの悪夢を思いだし、足が竦んで動かないように見えるのだろう。

 それは当然、光輝の眼にもそう映っていたようで、

 

「...香織、雫、俺は大丈夫さ。俺は絶対に死んだりしない。俺が皆を守ってみせるさ」

 

 光輝のカッコいい台詞を吐く中、香織と雫は、アヤメが奈落を見つめながら驚いた顔をしていることに気が付いた

 

「...アヤメさん? どうかしたんですか?」

「...朗報ですよ、二人とも。あの方の星を感じました。」

「「ッ! 本当ですか!」」

 

 そう、ちょうどユキが星辰光を発動させたとき、その星をアヤメは感じ取っていた。

 そしてそれは、ユキの生存を証明することに他ならなかった。

 

「ええ。ハジメくんの方は分かりませんが、ご主人様がいるなら大丈夫でしょう」

 

 根拠はないが、確信に満ちた言葉は不思議と二人は心から安心した。

 

「香織ちゃん、雫ちゃん、私、応援しているから、出来ることがあったら言ってね」

「そうだよ~、鈴は何時でもカオリンとシズシズの味方だからね!」

 

 アヤメの言葉を理解できていないが、何かに安心したことを感じ取って話しかけてきたのは中村恵里と谷口鈴だ。

 

 二人共、高校に入ってからではあるが香織達の親友と言っていい程仲の良い関係で、光輝率いる勇者パーティーにも加わっている実力者だ。

 

 中村恵里はメガネを掛け、ナチュラルボブにした黒髪の美人である。性格は温和で大人しく基本的に一歩引いて全体を見ているポジションだ。本が好きで、まさに典型的な図書委員といった感じの女の子である。実際、図書委員である。

 

 谷口鈴は、身長百四十二センチのちみっ子である。もっとも、その小さな体には、何処に隠しているのかと思うほど無尽蔵の元気が詰まっており、常に楽しげでチョロリンと垂れたおさげと共にぴょんぴょんと跳ねている。その姿は微笑ましく、クラスのマスコット的な存在だ。

 

「うん、恵里ちゃん、鈴ちゃん、ありがとう」

「ありがとう、私たちは大丈夫よ」

 

 

 そして、一行は特に問題もなく、遂に歴代最高到達階層である六十五層にたどり着いた。

 

「気を引き締めろ! ここのマップは不完全だ。何が起こるかわからんからな!」

 

 付き添いのメルド団長の声が響く。光輝達は表情を引き締め未知の領域に足を踏み入れた。

 しばらく進んでいると、大きな広間に出た。何となく嫌な予感がする一同。

 その予感は的中した。広間に侵入すると同時に、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がったのだ。赤黒い脈動する直径十メートル程の魔法陣。それは、とても見覚えのある魔法陣だった。

 

「ま、まさか……アイツなのか!?」

 

 光輝が額に冷や汗を浮かべながら叫ぶ。他のメンバーの表情にも緊張の色がはっきりと浮かんでいた。

 

「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!」

 

 龍太郎も驚愕をあらわにして叫ぶ。それに応えたのは、険しい表情をしながらも冷静な声音のメルド団長だ。

 

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ! 退路の確保を忘れるな!」

 

 いざと言う時、確実に逃げられるように、まず退路の確保を優先する指示を出すメルド団長。それに部下が即座に従う。だが、光輝がそれに不満そうに言葉を返した。

 

「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ! もう負けはしない! 必ず勝ってみせます!」

「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここらでリベンジマッチだ!」

 

 龍太郎も不敵な笑みを浮かべて呼応する。メルド団長はやれやれと肩を竦め、確かに今の光輝達の実力なら大丈夫だろうと、同じく不敵な笑みを浮かべた。

 

「...アヤメさん。私たち二人でやらせてもらってもいいですか」

「......いいでしょう。危険だと判断したら援護します。いいですね」

「「はい」」

 

 香織と雫は、アヤメに確認を取り、誰よりも先に飛び出す。

 慌ててメルド団長が止めようとするが、アヤメがそれを制止する。

 

「おまちください、メルド団長」

「しかし、危険だぞ!」

「あの程度にやられるほど、私は柔な鍛え方をしていません」

(それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは、この場をのぞき見しているであろう、ある男たちに向けられた言葉だった。

 光を尊ぶあの男たち(光の亡者)にとって、勇者という存在は格好の獲物であるはずだから。

 

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