「全てを切り裂く至上の一閃――〝絶断〟!」
先手は雫。魔法によって切れ味を増したアーティファクトの剣がベヒモスの顔に鋭い一閃を入れる。
「グゥルガァアア!?」
悲鳴を上げその巨体を揺らし、顔に刻まれた傷には赤黒い血が流れ落ちる。
ベヒモスは自分に傷をつけた相手を睨みつけ、踏み込みで地面を粉砕しながら突進を始める。
「グルゥアアア!!」
「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!」
香織が前に出て、絶対の防御を発動させ、ベヒモスの突進を受け止める。
凄まじい衝撃音と衝撃波が辺りに撒き散らされ、周囲の石畳を蜘蛛の巣状に粉砕するが、障壁にはヒビの一つも入らない。
殺気に満ちたベヒモスの眼光が香織を捉えるが、香織は一歩も引くことはない。
ユキとヴァルゼライドの戦いを見てきた香織や雫にとって、その程度の殺気では堅い意志を揺らすことはできない。
そこからは文字通り一方的だった。
攻撃はすべて香織に受け止められ、高速で動く雫をベヒモスは捉えることはできない。
全身に傷が増えていき、とうとう、ベヒモスはその巨体を地に沈める。
だが、まだ死んでいるわけではない。その巨体を支えきれなくなっただけである。
そこに、香織がとどめを刺すべく、炎系上級攻撃魔法をベヒモスに放った。
「〝炎天〟」
香織一人で発動させているにもかかわらず、膨大な魔力が込められた超高温の炎が球体となり、さながら太陽のように周囲一帯を焼き尽くす。ベヒモスの直上に創られた〝炎天〟は一瞬で直径八メートルに膨らみ、直後、ベヒモスへと落下した。
絶大な熱量がベヒモスを襲う。地に伏せてしまっているベヒモスは逃げることもできず、〝炎天〟はその堅固な外殻を融解していった。
「グゥルァガァアアアア!!!!」
ベヒモスの断末魔が広間に響き渡る。いつか聞いたあの絶叫だ。鼓膜が破れそうなほどのその叫びは少しずつ細くなり、やがて、その叫びすら燃やし尽くされたかのように消えていった。
そして、後には黒ずんだ広間の壁と、ベヒモスの物と思しき僅かな残骸だけが残った。
「す、すごいじゃないか、二人とも! だけど、あまり無ty」
「どうでしたか、アヤメさん」
光輝の心配を無視して、香織と雫は誰よりも先にアヤメに声を掛ける。
実は今回は一種の試験でもあり、これまで訓練を行ってきて、どこまで強くなったかの確認でもあった。
「よくやりましたね。この短期間でここまで強くなれば十分です」
「「はい!」」
そのやり取りに光輝は苦い顔をするが、そこでクラス一の元気っ子が飛び込んできた。
「カッオリ~ン! シッズシズ~!」
そんな奇怪な呼び声とともに鈴が香織にヒシッと抱きつく。
「ふわっ!?」
「すごいよ~! 二人だけで倒しちゃうなんて~」
「も、もう、鈴ちゃんったら。ってどこ触ってるの!」
「げへへ、ここがええのんか? ここがええんやっへぶぅ!?」
鈴の言葉に照れていると、鈴が調子に乗り変態オヤジの如く香織の体をまさぐる。それに雫が手刀で対応。些か激しいツッコミが鈴の脳天に炸裂した。
「いい加減にしなさい。誰が鈴のものなのよ...香織は
「雫ちゃん!?」
「ふっ、そうはさせないよ~、カオリンとピーでピーなことするのは鈴なんだよ!......
「鈴ちゃん!? 一体何する気なの!?」
「おうおう、凄いじゃないか。まさか二人だけでアレを倒しちまうとはな。感心したぜ」
突如、聞いたことがない声が六十五階層に響く。メルド団長と騎士団員が警戒し、慌てて光輝たちも警戒する。
すると広間の奥の方に無数の魔法陣が現れ、そこから騎士団員も見たことがない魔物たちが出現した。
「...やはり来ましたか、
見たことがない魔物に全員がうろたえる中、アヤメが確信したように言うと、また虚空から男の声が響く。
「今回は殺りあうつもりはねえ。ただ勇者ってのを見に来ただけなんだが、なかなか面白いもんを見させてもらったぜ。
勇者ってのより、よほどいいじゃねえか」
「な、なんだと! 何者だ、姿を見せろ!」
激昂する光輝に対してなのか、それともその面白いものを見せた香織と雫に対してなのか、男は名乗った。
「ファヴニル・ダインスレイフ。
ダインスレイフと名乗ったその男は、くつくつと笑いながら話をつづけた。
「
「もうじき
魔物たちの足元にまた魔法陣が現れ、魔物たちをどこかに転移させていく。
「さあ、勇者。
「な、まて!」
光輝の叫びに意味はなく、ダインスレイフはそう言い残し、広間には静寂だけが残った。
ダインスレイフが残した言葉はその大半を理解できるものではなく、多くの謎を残していった。
それは香織と雫も同じで、
疑問は多かったが、再会できればなにかわかるだろうと、さらに強く決意するのであった。
それがファヴニル・ダインスレイフの目的なのだとしても...