ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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第十三話 最奥の英雄

 二人から、ユエを加えた三人になってからの迷宮攻略は、予想以上にスムーズに進んだ。

 いくら異常なステータスを持つ二人だとしても、発動体一本で近接戦主体のユキと片腕を失くし銃弾に限りのあるハジメでは流石に限界があるため、最上級の魔法を無詠唱で使えるユエの参入は二人にとってありがたいことだった。

 

 そして現在、三人はユキとハジメが再会した場所から百層目になるところにいた。

 

 一般に認識されている迷宮が百層までだと言われているため、おそらくこの百層目こそが最奥なのだろう。そのため、三人は一つ上の階層である九十九層でつくった拠点で装備の確認、補充をしていた。

 当たり前のことではあるが、これまでで一番難関になるであろう階層であるため、できる限りの準備をする。

 

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ユキ・ロスリック ??歳 男 レベル:100

天職:神子

筋力:3000

体力:3000

耐性:3000

敏捷:3000

魔力:15000

魔耐:12000

技能:星辰光・■■■■・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・魔力変換[+身体強化][+部分強化][+治癒力変換][+衝撃変換]・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・言語理解

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:76

天職:錬成師

筋力:1980

体力:2090

耐性:2070

敏捷:2450

魔力:1780

魔耐:1780

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

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 二人のステータスは現在こうなっていた。

 魔物を喰うことでハジメのステータスは上昇し続けたが、固有魔法に関してはそれほど増えなくなっていた。ステータスが上がって肉体の変質が進むごとに習得し難くなっているのかもしれない。

 ユキに至っては、技能派生は増えてはいないがレベルが100に到達し、メルド団長の説明曰く人間としての潜在能力の全てを発揮した極地にいるらしい。

 

 しばらくして、全ての準備を終えた三人は、百層目へと続く階段へと向かった。

 

 百層目は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。柱の一本一本が直径五メートルはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。天井までは三十メートルはありそうだ。地面も荒れたところはなく平らで綺麗なものである。どこか荘厳さを感じさせる空間だった。

 

 しばしその荘厳な光景に見惚れつつ足を踏み入れると、全ての柱が淡く輝き始めた。ハッと我を取り戻し警戒するハジメ達、柱はハジメ達を起点に奥の方へ順次輝いていく...

 

 ハジメ達はしばらく警戒していたが特に何も起こらないので先へ進むことにした。感知系の技能をフル活用しながら歩みを進める。二百メートルも進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。否、行き止まりではなく、全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

「...これはまた凄いな。もしかして...」

「...反逆者の住処?」

 

 いかにもラスボスの部屋といった感じだ。実際、感知系技能には反応がなくともハジメの本能が警鐘を鳴らしていた。この先はマズイと。それは、ユエも感じているのか、うっすらと額に汗をかいている。

 ユキも同じく危険だと感じてはいるものの、それ以上に奇妙な気配を感じている。異世界であるはずなのに、()()()()と。

 

「ハッ、だったら最高じゃねぇか。ようやくゴールにたどり着いたってことだろ?」

 

 ハジメは本能を無視して不敵な笑みを浮かべる。たとえ何が待ち受けていようとやるしかないのだ。

 

「...んっ!」

 

 ユエも覚悟を決めた表情で扉を睨みつける。

 

 そして、三人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越え...ようとした直前に、ユキの足元に魔法陣が現れた。

 ハジメはその魔法陣に見覚えがある。トータスに転移する際に教室に現れた、転移の魔法陣だ。

 

「なッ!」

 

 突然の事態に焦りハジメはユエを抱き寄せ、ユキにも手を伸ばそうとするが間に合わない。

 

 そのユキ自身は先ほどの懐かしさを魔法陣の先に感じ取り、

 

(ああ、なるほど。そういうことか...)

 

 その正体に気付いた直後、魔法陣がユキを別の空間へ転移させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神話の戦い。この光景を見たものはそう感じるだろう。

 だが、その感想は決して間違ってはいない。

 

 竜巻が吹き荒れ、稲妻を鳴り、大気が揺らぐ。荒れ狂う嵐は空間すらも引き裂かんとしている。

 そして、その嵐すら切り裂く黄金の極光。

 

 これを神話と言わずしてなんと表すのだろうか。

 なにより有り得ないのが、

 

「「ォォォォォォオオオオオオオオッ!!」」

 

 たった()()()()がこの神話の創り出しているということだろう。

 

 その一人、ユキ・ロスリックが放つ一振りは新たな竜巻を生み、触れる者全てを薙ぎ払う。

 だが、その常識を覆すのが〝英雄〟というもの。

 その英雄、金髪の偉丈夫が放つ光の剣閃は、文字通り竜巻を斬り飛ばした。

 

「...さすがだな、()()()()()()()()()()()()()()()。紛い物とはいえ、この程度じゃ殺れないか」

 

 そう、この金髪の偉丈夫が、英雄、クリストファー・ヴァルゼライド。

 ユキ・ロスリックの親友にして、アドラー最強の星辰奏者。

 

 ユキが転移した先で待ち構えていたのが、この男だった。無論、この男はクリストファー・ヴァルゼライド本人ではない。

 反逆者の一人が、()()()()()()()()()()()()配置した、ホムンクルスだ。

 

 ヴァルゼライドは竜巻を斬り飛ばした後、ユキに斬りかかる。

 直撃どころか掠り傷ですら致死に繋がる死の極光、合計七本の太刀を巧みに操り、一閃、二閃、三閃...手数で勝るヴァルゼライドの攻撃を、ユキもまた巧みに捌き攻守が逆転する。

 

 一刀対七刀、手数で劣るのならば他で補えばよい。ユキの斬撃と同時に放たれる多段の鎌鼬。常人ならば数瞬で肉片に変わるであろう怒涛の刃だが、当然()()()()で倒せるはずもなく、極光の一振りで鎌鼬を掻き消す。

 

 そこから幾度と攻守の逆転を繰り返し鍔迫り合いが発生する。

 

「...ふざけているのか」

「何?」

 

 突如ヴァルゼライドが口を開く。

 

「俺は()()。この時の為に生みだされた存在だ。当然、()()には到底及ばないだろう」

 

「お前は幾度と本物のヴァルゼライド(おれ)を斃してきたはずだ。だというのになぜ偽物のヴァルゼライド(おれ)程度に梃子摺っている」

「ッ! それは―――」

 

 ユキは対ヴァルゼライドにおいて圧倒的な経験値がある。なのに攻めきれず、この鍔迫り合いでさえ僅かに押され気味になっている。それは、

 

「いつまで()()に縛られているつもりだ」

 

 最後の星辰戦争において、ヴァルゼライドに敗れたという事実。結果、英雄(ヴァルゼライド)怪物(ユキ)に負けるわけがないという考えがユキの根底に根付いたことで、それが無意識にユキの剣筋を鈍らせていた。

 

「その醜態で悪を討つ? (エヒト)を倒す? 嘗めるなよ」

 

 鍔迫り合いに押し負け後方に飛び退こうとするも、透かさずヴァルゼライドが追撃することで態勢を整える隙を与えない。

 軸を崩され完全に後手に回ってしまった今、先ほどのような拮抗になるはずもなく、

 

「その程度の覚悟しか抱けぬのなら―――」

「ッ、しま」

「―――試練(ここ)で死ね」

 

 断罪の極光が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァルゼライドの視線の先には、壁に寄りかかっているユキが居た。床には血溜まりが広がっている。

 殲滅光(ケラウノス)に身を焼かれ、死の淵を彷徨っているユキの意識はすでに消える寸前だった。

 

(...俺の、負け、か)

 

 放射能分裂光(ガンマレイ)が肉体を蝕み続けユキを敗死に導く。怪物は再び英雄に敗北し、奈落の底で永い眠りにつき―――

 

()()()

 

 ―――否、まだ死んでいない。武器を握り、星辰光(アステリズム)はまだ輝き続けている。

 まだ死ぬわけにはいかない。

 

(日本に帰ると、約束したから)

 

 一度敗北したからなんだというのだ。過去は過去、現在(いま)現在(いま)だ。負けたのならば、また勝てば良いのだから。

 

「父さんと母さんが、まだ俺を待ってるらしくてな」

 

 故に死ねない、死ぬわけにはいかない。

 ユキは太刀を杖のようにして立ち上がり、視線はヴァルゼライドを捉える。

 

 ユキが立ち上がることを待っていたようにヴァルゼライドは立っていた。実際、待っていたのだろう。これは()()なのだから。

 故にここからが()()()()()である。

 

「この手に“勝利”を掴むため。皆と明日へ往くために。俺は過去(ヴァルゼライド)を越える!」

 

 それに呼応するようにユキが自らの星辰光(アステリズム)の能力を解放する。

 

 「〝純粋水爆星辰光(ハイドロリアクター)解放(バースト)〟」

 

 ()()()()()()()()。化合・分解と言った化学反応、核分裂・核融合といった核反応を操る能力。

 

 ある種、究極の汎用性を持つ星辰光。それが、ユキ・ロスリックの星辰光の正体だった。

 

 そして、自らが致命傷を負うことも関係なく放たれた自爆技。その爆発は部屋を完全に飲み込み...

 

 

 

 

 

 一方、ハジメとユエの二人は、ユキが転移した直後に出現した迷宮のボス、ヒュドラと戦っていた。

 そして、激戦の果てに二人はヒュドラに勝利した。しかし、その代償は大きく、ハジメは片目を失う結果となっていた。

 

「流石に...もう...限界だ」

「わ、私も...魔力...ない」

 

 二人は疲労の果てに座り込む。ハジメに至っては片目を失い魔力も尽きたために気を失う寸前だった。

 

 意識を手放そうとしたその瞬間、壁の一部が吹き飛んだ。

 

「ッ! なんだ!」

 

 突然のことに意識は覚醒するが、疲労からか神水を取り出そうにも腕すら動かない。

 マズイ、とユエを傍に引き寄せ壁の方を睨み警戒するが、そこから吹き飛んできた人物に驚いた。

 

「ぐ、ぅッ!」

「ユ、ユキ!?」

 

 吹き飛んできたのは、ユキであった。ボロボロになり、苦悶の声を上げている。最大出力で放った影響で、星辰光はすでに解けてしまっている。

 ユキはハジメの方へ一瞥した後に、壁の方へ視線を向ける。そこから現れたのは、ユキと同じくボロボロになりながらも悠々と歩いてくるヴァルゼライドの姿だった。

 

「...致命傷を負いながらも自爆技か。それでも潰えぬその雄姿、見事だ」

「...当たり前だ。この程度で勝てるほどお前は弱くないさ。

 それでも、俺は勝つ。そして、ハジメたちと生きて帰る!」

 

「...いいだろう。その覚悟、試練を越えるものと認めよう。

 ならばこそ、(かこ)を打ち倒し、その力を示して見せろ」

「言われなくとも!」

 

「「創生せよ、天に描いた星辰を──我らは煌めく流れ星」」

 

 そして二人は再び、同時に詠唱(ランゲージ)を紡ぎだす。

 両者が謳い上げるのは似て非なるもの。片や全能の証明。片や最強の証明。両者は再び神話を再現する。

 

「〝天霆の轟く地平に、闇は無く(G a m m a - r a y K e r a u n o s)〟」

「〝殲嵐の齎す終焉に、光は無く(A p o c a l y p s e T y p h o e u s)〟」

 

 初手はユキの一閃、同時に放たれる高密度の風弾。

 以前、檜山が放った魔法と同様の攻撃だが、威力に圧倒的な違いがあった。魔法がプロボクサーのパンチ程度なら、こちらは砲弾クラスの威力がある。

 

 ヴァルゼライドはその風弾を、空間ごと圧倒的な剣威で斬り飛ばしユキの一閃を避けると同時に放つ極光斬。

 直撃すれば間違いなく敗死する極光斬を紙一重で躱す。返し放たれるユキの斬撃、音を置き去りにして大気を引き裂く。

 

 次いで放つ鎌鼬、水弾、爆炎。黄金の極光はまたもや消し飛ばす。

 幾度繰り返しても変わらない光景。

 

 都合数分にも亘って繰り返される神速の剣戟。

 

 より速く、より鋭く、より強く。

 斬、斬、突、斬、強、弱、突、弱、斬―――と、ユキによって放たれる怒涛の連撃。現状、ユキがヴァルゼライドに唯一勝るのは技量のみであり―――

 

 ―――両者の決着は唐突に訪れた。

 

 そもそも、このヴァルゼライドは試練のために生みだされたホムンクルスであり、最終的にユキに負けることを前提にしている。

 そして、そのことを本人も自覚しており、その運命を受け入れている。

 敗北を受け入れるヴァルゼライドと、勝利を求めるユキ。実力が拮抗している以上、結果は決まっており、

 

「ォォォオオオッ!!」

 

 渾身の袈裟斬り。幾度と繰り返した戦いでヴァルゼライドを斃してきた一撃はその身体を切り裂き―――

 

「ッ、ハァァ――ッ!」

 

 ―――同時に放たれたヴァルゼライドの一撃はユキの太刀を砕き、胴体を切り裂いた。

 

 切り裂かれた胴体から放射能分裂光(ガンマレイ)が肉体を蝕みユキを滅びへ誘う。

 加えてユキは発動体を砕かれた。発動体を失った星辰奏者は星辰光を使えない。

 星の力をなくした星辰奏者など身体能力の高いだけであり、なおも星を纏うヴァルゼライドの勝利が揺るぐはずがなく、

 

()()()

 

 この瞬間を待っていた、と言うように太刀を振り下ろすこともできない懐に潜り込む。

 幾度と斃しているといっても、一度破られているのだ。()()()()()()()()斃せるわけがない。

 虚を突かれたヴァルゼライドは一瞬止まってしまい、その一瞬が勝敗を分けた。

 袈裟斬りによってできた斬傷に右手を差し込み―――

 

「俺の、勝ちだ!」

 

 ―――(しんぞう)を抉り出す。

 この瞬間、英雄譚を覆し、怪物の勝利は決まった。

 

 試練を乗り越え、ヴァルゼライド(かこ)を打ち倒したのだ。

 

「......見事だ。貴様なら、あの神の支配を、越えられるだろう。

 さあ、進むがいい。この世界の真実が、そこにある」

 

 そう言い残し、ヴァルゼライドは息絶える。

 

 ユキはヴァルゼライド(かこ)を乗り越えた。

 そして、扉の先で世界の真実を知る。新たな再会と共に...

 

 




殲嵐の齎す終焉に、光は無く(A p o c a l y p s e T y p h o e u s)

基準値:C
発動値:AA

集束性:C
操縦性:B
維持性:D
拡散性:C
付属性:B
干渉性:AAA


 竜巻の創造、気圧の変動、積乱雲の形成など、裁剣女神(アストレア)にも似た星光を操る。

 しかし、水流を操作していたり、爆発現象を引き起こす様子も見られたこともあり、本来の能力偽装しているのではと言われているが、真相を知る者が極一部となっている。

 全体的に平均的の能力値を保っており、ユキ自身の技量や経験が組み合わさることにより、最上位の星辰奏者(エスペラント)と言える。

 その正体は核化反応制御能力。化合・分解と言った化学反応に加え、核分裂・核融合といった核反応という二種の反応現象に干渉、操作する星辰光(アステリズム)

 エネルギー現象そのものを操作できる能力とも言い換えることができる究極の汎用性を持つが、反面扱うには極めて高度な知識と精密な制御技術が必要。その為、並みの星辰奏者(エスペラント)では器用貧乏にすらなれないほどの制御難度を誇る。

 しかしユキは常人の数万倍以上の年月を過ごしてきたこともあり、この能力を完全に使いこなしている。
 局所的に発生させた爆熱は強烈な上昇気流を生み、瞬時に積乱雲を形成する。状況次第では周囲の気温や気圧にも変化を与え、雷鳴、突風、雹を伴う暴風雨すらも誘発する。それによって気象操作能力と考えられていた。

 だが実際は、反応現象の制御によって生まれる副次的な現象に過ぎない。分解反応によって局所的に真空状態を作り出したり、瞬間的な融合反応によって空気を爆発的に膨張させ、地形を変形させるほどの衝撃波を放つことも可能。
 使い方次第では、他者の星辰光(アステリズム)を疑似的に再現することもできる。

 ただし、制御には許容限界(キャパシティ)があり、自分の許容量を超える制御は行えない。

 作中で使用した〝純粋水爆星辰光〟が最大火力だが、制御しきれずに暴発する危険がある。
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