卒業、就職、忙しくて時間がとれませんでした。
ゆっくりですが完結までがんばります。
ヴァルゼライドを倒したユキはボロボロの体を引きずりながらハジメとユエの元に向かっていく。
「二人とも、大丈夫か?」
「ああ、右目をやられたがなんとかな」
「そういう、ユキは?」
「なんとかな」
三人で労い合っていると、広間の奥の扉が独りでに開いていく。
ハジメとユエは新手かと構えるが、ユキはそれを無視するように扉に向かって歩いていく。
「行くぞ、二人とも」
「お、おい。新手かもしれないだろ」
「クリスが先に進めって言ってたから大丈夫だ。」
そう言いながら歩いていくユキに、ハジメとユエは追いかけ三人で扉をくぐる。
その先には、地下深くとは思えない空間が広がっていた。
まず目に入ったのは太陽だ。もちろんここは地下迷宮であり本物ではない。頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのである。僅かに温かみを感じる上、蛍光灯のような無機質さを感じないため、思わず〝太陽〟と称したのである。
「すごいな、これは...」
「ここって迷宮だよな...じゃああれって人工太陽か?」
「これが、反逆者の住処」
次に、注目するのは耳に心地良い水の音。扉の奥のこの部屋はちょっとした球場くらいの大きさがあるのだが、その部屋の奥の壁は一面が滝になっていた。天井近くの壁から大量の水が流れ落ち、川に合流して奥の洞窟へと流れ込んでいく。滝の傍特有のマイナスイオン溢れる清涼な風が心地いい。よく見れば魚も泳いでいるようだ。もしかすると地上の川から魚も一緒に流れ込んでいるのかもしれない。
川から少し離れたところには大きな畑もあるようである。今は何も植えられていないようだが...その周囲に広がっているのは、もしかしなくても家畜小屋である。動物の気配はしないのだが、水、魚、肉、野菜と素があれば、ここだけでなんでも自炊できそうだ。緑も豊かで、あちこちに様々な種類の樹が生えている。
「あとは、あの家だな」
三人は視線の先にある石造りの家に向かっていった。全体的に清潔感があり、エントランスには、温かみのある光球が天井から突き出す台座の先端に灯っていた。薄暗いところに長くいたユキたちには少し眩しいくらいだ。どうやら三階建てらしく、上まで吹き抜けになっている。
取り敢えず一階から見て回る。暖炉や柔らかな絨毯、ソファのあるリビングらしき場所、台所、トイレを発見した。どれも長年放置されていたような気配はない。人の気配は感じないのだが...言ってみれば旅行から帰った時の家の様と言えばわかるだろうか。しばらく人が使っていなかったんだなとわかる、あの空気だ。まるで、人は住んでいないが管理維持だけはしているみたいな...
更に奥へ行くと再び外に出た。そこには大きな円状の穴があり、その淵にはライオンぽい動物の彫刻が口を開いた状態で鎮座している。彫刻の隣には魔法陣が刻まれている。試しに魔力を注いでみると、ライオンモドキの口から勢いよく温水が飛び出した。
「まんま風呂だな。こりゃいいや。何ヶ月ぶりの風呂だか」
「確かに、久しぶりに風呂に入りたいな」
思わず頬を緩めるハジメとユキ。最初の頃は余裕もなく体の汚れなど気にしていなかったハジメだが、余裕ができると全身のカユミが気になり、大層な魔法陣を書いて水を出し体を拭くくらいのことはしていた。
しかし、ハジメも日本人だ。例に漏れず風呂は大好き人間である。安全確認が終わったら堪能しようと頬を緩めてしまうのは仕方ないことだろう。
そして、ユキも例外ではなく、出身は日本であるため風呂好きであった。やはり血は争えないということだろう。
そんな二人を見てユエは、
「...ハジメ、一緒に入る...?」
「...のんびりさせて?」
「むぅ......」
そんな二人のやり取りをユキは苦笑して見ていた。
それから、二階で書斎や工房らしき部屋を発見した。どちらも扉に封印が施されているらしく開けることはできなかった。
そして、三階には一部屋しかなかった。扉を開けると、そこには直径七、八メートルの精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。
そして、その魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人影、骸だった。既に白骨化しており黒に金の刺繍が施されたローブを羽織っている。
おそらく、この骸が反逆者なのだろう。魔法陣しかないこの部屋で座ったまま朽ち果てたその姿は、まるで誰かを待っているようにも見える。
「...怪しい...どうする?」
「...あと調べられるのはこの部屋だけだからな...俺とユキの二人が調べるから、ユエは待っててくれ」
ハジメとユキの二人は魔法陣へ向けて踏み出した。瞬間、カッっと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。
二人はまぶしさに目を閉じる。直後、何かが頭の中に侵入し何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯のように奈落に落ちてからのことが駆け巡った。
やがて光が収まり、目を開けた二人の目の前には、黒衣の青年が立っていた。
「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」
彼が反逆者、オスカー・オルクス。このオルクス大迷宮を創った張本人らしい。
「ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか...メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。...我々は反逆者であって反逆者ではないということを」
そうして始まったオスカーの話は聖教教会で教わった歴史やユエに聞かされた反逆者の話とは大きく異なり、ユキにとって予想通りの内容だった。
この世界で起こっている種族間の戦争は、神の遊戯として仕組まれたものであること。
その真実を知り、何百年も続く戦争を終結させるために〝解放者〟として立ち上がったこと。
神が人々を巧みに操り、〝解放者〟たちを〝反逆者〟として追い詰められたこと。
残った〝解放者〟たちは各地に迷宮を創り、その攻略者に自分たちの力、〝神代魔法〟授けることにしたこと。
いつか神の遊戯を終わらせるものが現れることを願って...
長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。
「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。...君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」
そう締めくくり、オスカーの記録映像はスッと消えた...と思われたが、もう一度オスカーの記録映像が浮かび上がる。先ほどの映像と違う表情をしているため、別の映像なのだろう。どこか、安心したというような表情だ。
「この映像は、特定の試練がクリアされた場合にのみ流れる仕様になっている。つまり、彼女が配置したホムンクルスを倒されたということだ。
「「ッ!」」
オスカーの言った名前にハジメとユエが驚いて身構えた。
ありえない。オスカー・オルクスは神代の人間、ユキのことを知ることはできないはずなのだから。
しかし当のユキは、それすらも予想通りだと言わんばかりに落ち着いて、まるで続きを促すかのにオスカーをじっと見つめている。
「彼女から記録映像を預かっている。...どうか、彼女を頼む。」
そう言い残し、オスカーの映像は消え、代わりに一人の女性が映る映像が浮かび上がった。
母。そう思わせるだけの母性を、ハジメとユエは女性から感じた。
黒い長髪を揺らしながら女性は告げる。
「...私はガイア。西暦の時代、大和が造りだした