ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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幕間 帝国と王女と勇者達 前編

 ユキたちが最後の試練を乗り越えた頃、勇者一行は、迷宮攻略を一時中断しハイリヒ王国に戻っていた。

 道順がわかっている今までの階層と異なり、完全な探索攻略になるため、攻略速度が一気に落ちたこと、また、魔物の強さも一筋縄では行かなくなって来た為、メンバーの疲労が激しいことから攻略を一時中断して休養を取るべきという結論に至った。

 

 もっとも、休養だけなら宿場町ホルアドでもよかったが、ヘルシャー帝国から勇者一行に会うために使者が来るのだという。

 

 元々、エヒト神による〝神託〟がなされてから光輝たちが召喚されるまでほとんど間がなく、同盟国である帝国に知らせが届く前に勇者召喚が行われ、召喚直後の顔合わせができなかったのだ。

 

 もっとも、帝国側は勇者の存在を認めてはいなかった。帝国は三百年前にとある名を馳せた傭兵が建国した国であり、冒険者や傭兵の聖地とも言うべき完全実力主義の国である。そのため、突然現れ、力も示せていない相手を認めることをせず、興味すら持たなかったのである。

 

 しかし、今回のオルクス大迷宮攻略で、記録上の最高記録である六十五層が突破されたという事実をもって帝国側も光輝たちに興味を持ったため、是非会ってみたいと知らせが来たのだ。

 

 

 

 

 

 一行が乗った馬車が王宮で、全員が降車すると王宮の方から一人の少年が駆けてきた。十歳位の金髪碧眼の美少年、ハイリヒ王国王子ランデル・S・B・ハイリヒだ。

 

「香織! よく帰った! 待ちわびたぞ!」

 

 ランデル殿下は大声で叫びながら一目散に香織の元へ駆け寄っていった。

 実は、召喚された翌日か、香織はランデル殿下から猛烈なアプローチを受けていた。と言っても、香織から見れば小さい子に懐かれている程度にしか思っていない。もとより、香織は想いを寄せる相手(ユキ)がすでに居るため、ランデル殿下の想いが実ることはないのだが...

 

「ランデル殿下。お久しぶりです」

 

 そんな事実すら露知らず、香織の笑みにランデル殿下は一瞬で顔を真っ赤にしながら、それでも精一杯男らしい表情を作ってアプローチを掛ける。

 

「ああ、本当に久しぶりだな。お前が迷宮に行ってる間は生きた心地がしなかったぞ。怪我はしてないか? 余がもっと強ければお前にこんなことさせないのに...」

「お気づかい下さりありがとうございます。ですが、私なら大丈夫ですよ? 自分で望んでやっていることですから」

「いや、香織に戦いは似合わない。そ、その、ほら、もっとこう安全な仕事もあるだろう?」

「安全な仕事ですか?」

「う、うむ。例えば、侍女とかどうだ? その、今なら余の専属にしてやってもいいぞ」

「侍女ですか? いえ、すみません。私は治癒師ですから...」

「な、なら医療院に入ればいい。迷宮なんて危険な場所や前線なんて行く必要ないだろう?」

 

 医療院とは、国営の病院のことであり、王宮の直ぐ傍にある。つまり、ランデル殿下は香織と離れるのが嫌なのだ。

 しかし、香織はいつかユキと再会した時のために強くなろうとしているのであって、ランデル殿下の提案は余計なものであった。

 どうしようか悩む香織だが、そこに助け船が出された。

 

「ランデル。いい加減にしなさい。香織が困っているでしょう? 」

「あ、姉上!? ...し、しかし」

「しかしではありません。皆さんお疲れなのに、こんな場所に引き止めて...相手のことを考えていないのは誰ですか?」

「うっ...で、ですが...」

「ランデル?」

「よ、用事を思い出しました! 失礼します!」

 

 逃げるように背を向けて去っていくランデル殿下。その背を見送りながら、第二王女リリアーナはため息をついた。

 

「はぁ...まったく。数日後には姉上も帰国するというのに...

 香織、弟が失礼しました。代わってお詫び致しますわ」

 

 リリアーナの謝罪でこの騒ぎ? は収まった。

 彼女の話によると、帝国の使者が到着するまであと数日かかるらしく、使者団と共に第一王女シェリアも帰国するらしい。

 

 このあとに天ノ河光輝(勇者)のキザなセリフによる褒め言葉、ベヒモス討伐による歓声、愛子先生が〝豊穣の女神〟と呼ばれている話題による身悶えなどいろいろあったが、光輝たちはゆっくり迷宮攻略で疲弊した体を癒した。

 そんな中でも、香織と雫はアヤメによる指導を続けていた。ユキたちに追い付けるように...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このハイリヒ王国にはシェリア・S・B・ハイリヒという第一王女がいる。

 

 リリィやランデル殿下と同じ金髪碧眼の女性で、年齢は二十代。

 通称、ハイリヒ王国最大戦力と言われ、金ランクの冒険者として活動していたこともある。王女としての立場に甘えることはなく、完全実力主義の帝国でもトップクラスの実力を誇る女性らしい。

 

 なぜこんなことを言っているのか、それは今、(八重樫雫)がシェリア王女と手合わせをしているからだ。

 

 

 

 事は王宮に戻った日から三日後、遂に帝国の使者が訪れた。

 

 私たち、迷宮攻略に赴いたメンバー、王国の重鎮たち、イシュタル率いる司祭数人が謁見の間に勢ぞろいし、レッドカーペットの中央に帝国の使者が五人ほど、そしてシェリア王女が立ったままエリヒド陛下と向かい合っていた。

 

「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう。そして、シェリア。良く戻った」

「は、父上」

「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」

「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

「はい」

 

 そこから、光輝の紹介が行われ、いつの間にか使者の護衛の一人と光輝が模擬戦をすることになっていた。

 光輝の相手は、なんとも平凡そうな男だった。高すぎず低すぎない身長、特徴という特徴がなく、人ごみに紛れたらすぐ見失ってしまいそうな平凡な顔。一見すると全く強そうに見えない。でも、私はどこかその姿に違和感を感じていた。

 そう思っていると、隣に立つアヤメさんが私と香織に問いかけてきた。

 

「あの男、あなたたちはどう見えますか?」

 

 男は刃引きした大型の剣をだらんと無造作にぶら下げており、構えらしい構えもとっていなかった。

 傍から見れば不真面目な、手を抜いているように見えるだろう。

 

「...一見すると強そうには見えません。でも、」

「光輝くんよりも、いえ、私たちよりも強いです...」

 

 私と香織は、少なくとも光輝よりも強いという自負がある。ステータスで負けていても、覚悟や経験でずっと勝っていると思っている。でも、あの男の人には勝てない様に思ってしまう。

 

「...そうですね。経験が違います。一対一ならあなた達でも勝てないでしょう」

 

 そう話していると、模擬戦が始まっていた。結果は私たちの予想通り、光輝が一撃で吹き飛ばされた。その後も何度も挑んだものの、光輝の剣が当たることは一度もなかった。

 

「...話にならねえな」

 

 そう言い、男の人は右の耳にしていたイヤリングを取った。すると、霧がかかったように男の人の周囲がボヤけ、それが晴れる頃には、全くの別人が現れた。

 四十代位の野性味溢れる男だ。短く切り上げた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながらその体は極限まで引き絞られたかのように筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでもわかる。

 その姿を見た瞬間、周囲が一斉に喧騒に包まれた。

 

「ガ、ガハルド殿!?」

「皇帝陛下!?」

 

 そう、何を隠そうこの男の人が、ヘルシャー帝国現皇帝ガハルド・D・ヘルシャーその人だった。

 

「どういうおつもりですかな、ガハルド殿」

「これは、これはエリヒド殿。ろくな挨拶もせず済まなかった。ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。今後の戦争に関わる重要なことだ。無礼は許して頂きたい」

 

 謝罪すると言いながら、全く反省の色がないガハルド皇帝。それに溜息を吐きながら「もう良い」とかぶりを振るエリヒド陛下。

 

「それより、ベヒモスを倒したのはお前じゃないだろ。誰だ?」

「そ、それは...」

 

 ガハルド皇帝の言葉に光輝は言葉を詰まらせて、チラッとこっちに目線を向ける。

 

「...ハァ。私たちですよ」

 

 アヤメさんに目を向けて頷いたことを確認して、私と香織は一歩前に出た。

 

「お前たちか...。二人だけか?」

「ええ、そうですよ」

 

 鋭い視線を私たちに向ける。

 

「...嘘じゃなさそうだな。なら、俺と手合わs」

「お待ちください、ガハルド皇帝。その手合わせ、私にやらせてもらえませんか」

 

 ガハルド皇帝の言葉を遮り、シェリア王女が割り込んできた。無礼になるはずなのに、シェリア王女は遠慮せずに話を続ける。

 

「勇者さまと手合わせをしたではありませんか。ここは譲っていただけませんか?」

「...仕方ねえ。ここは譲ってやる」

 

 ガハルド皇帝が折れ、私がシェリア王女と手合わせをすることになった。

 

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