ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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幕間 帝国と王女と勇者達 後編

「よろしくね、八重樫雫さん」

「...お手柔らかにお願いします」

 

 私は今、シェリア王女と刃を潰した武器を構えて向かい合っている。私は直剣を両手で構え、シェリア王女は曲剣を一本構え、もう一本腰に差している。本来は二刀流なのだろうか。

 気さくな挨拶とは逆に、その構えから漂う気配はまさしく強者だ。

 

「先手は譲るわ。どこからでもかかってきなさい」

「...それでは、お言葉に甘えてッ」

 

 この人は自分よりもはるかに強い。いや、ここにいる全員の中でも一番強いかもしれない。ガハルド皇帝の言葉を遮ったことからも明らかだ。

 様子見などしたところで効果は薄いだろう。ゆえに、ただ愚直に正面から仕掛ける。技能を使わず自分の出せる最高速で斬りかかる。

 

 だが、それをシェリア王女は半歩ずらすことで回避する。間髪入れず続けた二撃三撃もまた同様。

 

「綺麗な太刀筋ね。努力の跡が見えるわ」

 

「シッ!」

 

 それならば、と〝縮地〟とフェイントを使いながら斬りかかるが効果はない。〝縮地〟による移動は全て見切られて、フェイントにも一切かからない。

 どうにかして鍔迫り合いにまで持ち込むと、私にしか聞こえない声量で話しかけてきた。

 

「大抵の相手なら対応できない速さ、ベヒモスも切り裂ける攻撃。さすがアヤメが鍛えただけあるわ」

「...知っているんですね。アヤメさんに鍛えてもらっていること」

「他にもいろいろ知ってるわよ? あなた達とベヒモスの戦いとか、あなた達が強欲竜団と遭遇したこと、()()()()()()()()()()()()

「ッ! 知っていたならなんで!」

「あの人が()()()()()()()()()()()じゃない。あなた達もそう思っているんじゃない?」

「それは...」

「私たちは隊長を信じているわ。...だからお願い、あなた達も信じて」

 

 シェリア王女から掛けられる言葉には一切の迷いがない。文字通り、心から信じていることがわかる。

 

「とりあえず、そろそろ終わらせましょうか」

「ッ!」

 

 ――マズイッ――

 

 そう思って後ろに下がろうとしたときには遅かった。足を踏まれて後ろに下がれず、胸に強い衝撃が走り少し遅れて痛みが走った。

 

「――かはっ」

 

 肺から一気に酸素を吐き出す。たたらを踏むことで何とか耐えるが、

 

「――ッ」

 

 一瞬で平衡感覚が奪われた。何かを打ち抜いたような左手の影が見えたため、おそらく脳を揺さぶられたのだろう。

 先ほどの掌底は耐えることができたが二度目は耐えられず、私は膝から崩れ落ちた。

 

「――――ッ」

「私の勝ちね」

 

 首元に曲剣が添えられる。

 決着は一瞬だった。私を含めてほとんどの人が呆然としている。王国最高戦力の呼び名は伊達はないということだろう。

 私が立ち上がるのを待ってからシェリア王女は

 

「正面からの攻撃からフェイントや〝縮地〟での攻撃に切り替える思い切りはよかったわ。

 でも、あの程度で動揺しちゃいけないわよ」

「...はい、ありがとうございました」

 

 悔しくないといえば嘘になる。でもシェリア王女の言っていることは事実だ。この程度で動揺しているようじゃ...

 

「あ、これからは私もあなたたちと同じパーティーに入るわ。よろしくね」

「はい...はい?」

 

 そのままなし崩しで模擬戦は終わり、その後に予定されていた晩餐で帝国からも勇者を認めるとの言質をとることができ、一応、今回の訪問の目的は達成されたようだ。

 さっきのシェリア王女の言葉は文字通りだったようで、本当に私たちと同じパーティーに入るようだった。曰く、

 

「同じパーティーの方が指導しやすいじゃない。女四人で丁度いいし。

 ああそれと、気軽にシェリアでいいわよ」

 

 らしい。もちろん光輝がなにか言っていたがシェリアさんは一蹴していた。

 

 

 

 

 

 その日の晩、私と香織はシェリアさんの部屋を訪れていた。

 

「そういえば、お二人はどうやってユキさんと出会ったんですか?」

 

 ふと香織が二人にユキさんと会った時のことを聞いた。確かに気になる。アヤメさんにもそう言ったことを聞いたことはなかった。

 

「...そうですね。シェリアからどうぞ。ご主人様に会ったのはあなたが先でしょう」

「そうね...」

 

 

 私の場合、当時からしたらそんなに珍しくないわよ?

 私が隊長に出会ったのは、隊長が東部戦線に配属されていた頃。当時の私、スラム出身なのよ。ええ、場所はちがうけど、隊長や総統閣下と同じね。人攫い(マンハント)に捕まってどこかに売り飛ばされそうになってたところを、まだ兵卒だった隊長と総統閣下に救出されたの。その時の姿はがとてもかっこよくて帝国軍に志願したのよ。つまり、憧れね。もう一度あの人に会いたいっていう、よくあることよ。それで、隊長の元に配属されたのよ。

 

 

 私は、そうですね。

 シェリアとは逆に、当時の私は貴族だったんです。私の家、淡家は傲慢な性格が多い一族でして、私の姉はそれが特に顕著でした。まあ、あの時代では特に珍しくない選民思想だったんですが、私はそれが嫌で帝国軍に入隊しました。一種の家出ですね。それからしばらくして、淡家は改革の標的として粛清され、私はキリガクレに性を変えました。ご主人様に出会ったのは、淡家が粛清される少し前です。粛清の対象から外すために私を部下にしたらしいですね。

 

 

 話を聞き終えた私と香織は一言も話すことができなかった。それもそうだろう。ユキさんの人生を見てはいたが、それもあくまでユキさんだけだった。二人とも予想以上に壮絶な過去を背負っていたんだとはじめて知った。

 

「...ごめんなさい。そんな昔があるなんて」

 

 ようやく言えた言葉は謝罪しかなかった。気軽に聞いていいことじゃなかったはずなのに、

 

「謝ることなんて何もないわよ。その過去があったから隊長に出会うことができたのよ」

「ええ、シェリアの言う通りです。後悔したことなんて一度もありません。

 もし、それでも悪いと思っているなら強くなりなさい。あの人に認められるように、私たちもそうであったように」

 

「「......はい!」」

 

 

 

 次の日の朝、私たちは皇帝陛下一行を見送ることになった。用事はもう済んだ以上留まる理由もないということだ。本当にフットワークの軽い皇帝だ。

 ちなみに、早朝訓練中どこを気に入ったのか、ガハルド皇帝が私を愛人に誘ったり、香織とシェリアさんが〝私たちの物〟発言をしたりとハプニングもあったが、私自身も丁重にお断りしておいた。

 




次回の人物詳細、ついでに設定補足を入れて第一章終了です。
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