ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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第二章
第十六話 大峡谷と残念ウサギ


 魔法陣の輝きに包まれ、光が収まって視界に映ったものは...

 

 洞窟だった

 

「なんでやねん」

 

 ハジメが思わず半目になって突っ込みを入れていた。

 

「仮にも反逆者の住処直通の道だからな。隠されてるのは当然だろ」

「そ、そうか。確かにそうだな」

 

 相当浮かれていたらしい。まあ当然だ。ハジメや俺にとっては数ヶ月、ユエにとっては実に三百年ぶりの地上なのだから、期待してしまうだろう。

 とりあえず先に進むことにする。緑光石の輝きもなく真っ暗な洞窟であるため、夜目がきかない俺はハジメとユエの後ろについて行く。

 

 途中、幾つか封印された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して解除されていく。そして、遂に外の光を見つけた。

 ハジメとユエは、それを見つけた瞬間、思わず立ち止まりお互いに顔を見合わせた。それから互いにニッと笑みを浮かべ、同時に求めた光に向かって駆け出した。俺は苦笑しながら歩いてそのあとを追った。

 

 

 

 

 

【ライセン大峡谷】

 地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場だ。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断する。

 

 俺たちは、そのライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口にいた。地の底とはいえ頭上の太陽は燦々と暖かな光を降り注ぎ、大地の匂いが混じった風が鼻腔をくすぐる。たとえどんな場所だろうと、確かにそこは地上だった。呆然と頭上の太陽を仰ぎ見ていたハジメとユエの表情が次第に笑みを作る。

 

「...戻って来たんだな...」

「......んっ」

「......ああ、俺たちは間違いなく戻ってきたんだ」

 

 ようやく実感が湧いたのか、太陽から視線を逸らすとハジメとユエはお互い見つめ合い、

 

「よっしゃぁああ──!! 戻ってきたぞ、この野郎ぉおおおー!!」

「んっ──!!」

 

 そして思いっきり抱きしめ合ってくるくる廻る。しばらくの間、そこには二人の笑い声が響き渡っていた。ケラケラ、クスクス笑い合う二人を見つめる俺は、近づいてくる気配を感じて発動体を抜きながら声を掛ける。

 

「嬉しいのは分かるが、敵だ。準備しろ」

 

 周囲を見渡すと魔物に囲まれていた。

 

「まったく無粋なヤツらだ。まぁいい、新武器の試し打ちさせてもらうぜ」

 

 ハジメは新生ドンナー・シュラークを抜き、その流れのまま魔物を打ち抜いた。その一発を皮切りにユキも魔物の群れに飛び込む。

 異常というレベルをはるかに超えたステータスを持つ二人を相手にしている以上、もはや殲滅というよりただの蹂躙だった。ハジメの銃撃は魔物の頭部を容易く吹き飛ばし、ユキの一閃は首や胴体を斬り落としていく。三分もかからないうちに辺り一面は魔物の骸で埋め尽くされていた。

 

 ドンナー・シュラークを太もものホルスターにしまったハジメは、首を僅かに傾げながら周囲の死体の山を見やる。

 

「...なんか弱すぎねえか? ここの魔物」

「奈落の魔物や俺たちが強すぎるだけだ。奈落クラスの強さの魔物に魔法も使えないなんて、流石にバランスがおかしすぎる」

 

 オルクス大迷宮を踏破した際に、オスカーは「試練を越えて」と言っていた。つまり各迷宮は試練なのだ。そして、試練であるというならば、おそらく目的とも言えるコンセプトが存在する筈だ。推察でしかないが、オルクス大迷宮が〝強い魔物との戦闘を経験する〟がコンセプトなら、ライセン大峡谷は〝魔法が使えない状況での戦闘〟だろう。

 正確には、魔法が使えないというより魔力が分解され散らされてしまうのである。もちろん、ユエの魔法も例外ではない。力ずくで発動させれば使えないこともないらしいが、およそ十倍ほどの魔力が必要になり射程も相当短くなるらしい。

 

「とりあえず、西の砂漠側より東の樹海側を探索しよう。そっちの方が街に近いだろう」

「おう」

「ん」

 

 俺の提案に特に反対が上がらない。この絶壁を上ることもできなくはないだろうが、どのみち大峡谷の探索は必要なのだから反対する理由もないのだろう。

 俺とハジメは〝宝物庫〟から魔力駆動二輪を取り出す。俺は一人で、ハジメの後ろはユエが横乗りする。

 

 ライセン大峡谷は基本的に東西に真っ直ぐ伸びた断崖だ。そのため脇道などはほとんどなく道なりに進めば迷うことなく樹海に到着する。そのため迷う心配が無く、迷宮への入口らしき場所がないか注意しつつ、軽快に魔力駆動二輪を走らせていく。車体底部の錬成機構が谷底の悪路を整地しながら進むので実に快適だ。

 

 しばらく走らせていくと、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。魔力駆動二輪を走らせ突き出した崖を回り込むと、双頭のティラノサウルスモドキとその足元を半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女がいた。

 

「...何だあれ?」

「...兎人族?」

 

 どうやら兎人族の少女らしい。だが、兎人族が此処にいるのはおかしい。王宮で調べていた時に得た情報だと、亜人族は基本的にハルツィナ樹海に住んでいるはずだ。

 

「なんでこんなとこに? 兎人族って谷底が住処なのか?」

「犯罪者として落とされたとか? 処刑の方法としてあったよな?」

「ああ、なるほど。それならば納得だ」

「...悪ウサギ?」

 

 大昔にはライセン大峡谷に罪人を突き落とすという処刑方法があったらしいが、ハジメはさほど興味がないらしい。どう見ても見捨てる気満々だった。

 

()()()()()()()()()()!だずけでくだざ~い!」

 

 ()()()()()()()。まるで俺たちがここに来ることを知っていたような言い方だ。

 

「うわ、こっち来たよ...」

「...迷惑」

 

 それでもハジメに助ける気はないらしくユエもまた同じ。魔力駆動二輪を反転させて去ろうとする。

 

「...はぁ、仕方ないか」

 

 だが、仮にも俺は元軍人。敵でない以上見捨てるという選択肢はさすがにない。それに試したいこともある。

 〝身体強化〝を使って接近し、ティラノサウルスモドキの双頭を斬り落とす。どうやら魔力を外に放出しなければ問題ないらしい。

 兎人族の少女の掴みハジメの方へ投げ飛ばす。

 

「ふぇ?」

「ちょ、おま!」

 

 ハジメが慌てながらも少女を受け止めたのを確認し、ティラノサウルスモドキの後方へ向かう。まだ後ろの方に追いかけている魔物がいるらしく、試すには丁度いいかと星辰光(アステリズム)を輝照させる。

 

 トータスにおいて、星辰光(アステリズム)は一種の魔法に分類されるらしい。より正確には、複合魔法になる。星辰(ほし)の特性、異能に当たる魔法と身体強化の魔法の二つが合わさることで、トータスでの星辰光(アステリズム)は成り立つ。

 

 そして、このライセン大峡谷では魔力が分解、身体の外に放出された魔力が分解される性質がある。これが星辰光(アステリズム)に当てはめるとどうなるのか、試したいこととはその事だ。

 

 結果から言うならば、想定どおりではあった。身体能力は上がったが、肝心の能力の燃費が悪い。維持性の低さもあり、おそらく数分、場合によっては一分で星辰光(アステリズム)が解けるだろう。

 むやみやたらと星辰を使うわけにもいかない。その事が分かっただけで十分だろう。

 

 魔物を掃討しハジメたちの元へ戻ると、先ほどの少女がハジメに縋り付いているところだった。

 

「先程は助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです! 取り敢えず私の仲間も助けてください!」

 

 さっきまで死にかけていたというのに、なかなかに図太い神経の持ち主のようだ。

 

 これが、新しい仲間になるシア・ハウリアとの出会いであった。




さらっとトータスでの星辰光事情を入れてますが、詳細はもう少しあとで出します。
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