ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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重要な話はすぐに仕上がるのに···


第十九話 ハルツィナ樹海

 ユキが最後の帝国兵を容赦なく踏み潰し、その場には一時の静寂が漂っていた。

 

「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは……」

 

 シアが絞り出すように問いかける。ユキが振り返ると兎人族が恐怖の眼で見ていた。

 

「…さっき言ったとおりだ。今、俺たちの情報が帝国に知られるのはまずいんだ。

 三十人の帝国兵が二人の男に全滅させられた、なんて笑いものだ。帝国(やつら)は完全実力主義、嘗められたら終わりなんだよ。

 だから次は部隊ではなく軍になってハルツィナ樹海に押し寄せてくる。それでもかまわないのか?」

「うっ」

 

 もしもハルツィナ樹海に帝国軍が押し寄せてた場合、それは兎人族だけでなく亜人族全体の問題になる。そのことを想像し、シアたちは一斉に顔を伏せる。

 

「……そもそも、守られているだけのあなた達がそんな目をハジメたちに向けるのはお門違い」

 

 そこにユエが怒りを宿しながら兎人族たちを睨みつける。助けを求め、実際に助けられておきながら恐怖の感情を抱くのはお門違いというものだろう。

 

「申し訳ない。別に、あなた方に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのです」

「構わないさ、それだけのことをしている自覚はある」

 

 

 


 

 

 

 一行は帝国兵が残した馬車を魔道四輪で牽引してハルツィナ樹海へ向かっていた。道中シアが奈落での話を聞いて号泣したり、ついていく宣言したりしたが、ユキは終始無言だった。別にユキを恐れているであろうシアに気を遣って黙っている訳じゃない。単純に、今のユキには()()()()()()()

 

 

 トータスに召喚されてから度々、ユキは昔の夢を視る。加えて、オルクス大迷宮を攻略したときから頻度が増している。最近は夢どころか、こうした平時でも脳裏によぎることがある。

 

 思えばトータスに召喚されてから自分の体に妙なことが起きている。記憶に対して肉体的年齢が若返っていること、魔物の肉を食しても異常が出ないこと、レベルの最大値を超越してステータスが強化されていくことなどなど…

 ユキは確かに星辰奏者(エスペラント)ではあるが、それ以外は()()でしかない。

 

 死に戻りによって繰り返してきた新西暦での日々、まだユキ(おれ)悠姫(ぼく)だった頃。幾度と死に、幾度と戻り、また幾度と死ぬ。ヴァルゼライドにという光に焦がされたあの時、悠姫(ぼく)は死にユキ(おれ)になって···。

 

 ―――()()()?―――

 

 新西暦の情報と学を得るために男娼になった(記憶)を視て、実験と称して自身の血肉が削られる(記憶)を視て、実験の果てに■■■■に浮かぶ■■だけになった(記憶)を視て、■■に溶け■ちる(記憶)を視て······いや待て、なんだこの(記憶)は?

 

 ユキ(おれ)はこんな記憶は知らない…悠姫(ぼく)の記憶? それもあり得ないはずだ。悠姫(ぼく)ユキ(おれ)になったと言ってもただの比喩に過ぎない。悠姫(ぼく)ユキ(おれ)は同一の存在で・・・

 

 ―――()()()?―――

 

 ユキ(おれ)は今ここにいて、オレはヴァルゼライドに殺されて、ならおれはいったいだれだ…

 わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない

 

 ぼくはだれ?―――

 

「――い、おい! ユキ!」

「―――ハジメ?」

 

 気が付けば既にハルツィナ樹海に到達しており、どうやらユキの様子がおかしいと感じたハジメが呼び掛けていたらしい。周囲を見渡してみればユエとシア、窓の外からは他のハウリア一族も心配そうな表情を浮かべている。

 

「···心配をかけたな、すまない。もう大丈夫だ、行こう」

「······ユキ」

 

 窓に張り付いていたハウリアを退けながら外に出る。これ以上心配をかけまいと気丈に振るって見せて先へ進む。その背中にハジメは呼び止めようとしたが言葉が出ず、ユキはそのまま進んで行きハウリアの数人もその後に続いた。

 

 

 


 

 

 

 一行は徒歩で樹海の中を進んでいく。当然樹海にも魔物がいるものの、ユキ、ハジメ、ユエの三人に手も足も出るわけがなく、出てきた瞬間には物言わぬ骸と化す。それから数時間、警備隊の虎人族に見つかり一触即発の状態になるが力の差を見せつけることで解決。亜人族の長老の一人と会うことになった。アルフレリック・ハイピストと名乗った森人族の長老は、ユキの名前を聞いたとき

 

「おぬしが、あの。本当に…」

 

 と、驚いていた。どうやら亜人国フェアベルゲンの長老には代々継がれる伝承があり、その中には解放者のほかにもユキの名前もあるらしい。とは言っても、ユキたちにはそれほど驚きはない。オスカーはユキのことを知っていたのだから、解放者たち全員がユキのことを知っていてもおかしくはない。ユキ・ロスリックという名前が残されているくらいなのだから、解放者たちは相当怪物(ユキ)に期待しているのだろう。

 その後、真の迷宮であろう大樹ウーア・アルトの元に行くには一定周期を待たなくてはならないらしく、次の周期である10日後になるまでフェアベルゲン近郊に留まることになった。

 

 

 

 それから10日間何をしているのかというと、ハウリアが今後生きていけるようにハジメがハウリア改造計画(くんれん)を、ユエがシアに特訓をすることになった。

 では、ユキは何をしているのかというと、基本的にハジメたちから離れ周囲の樹海の探索をしていた。帝国兵との一件が尾を引いているらしく、ハウリアの大半がユキを見る目には恐れの感情が混じっていたため、それでは訓練にはならないと判断した。

 

 そうして遠くからハウリアの訓練を見ているユキに近づいている影があった。そのことに驚く様子もなく、ユキは気楽に声をかけた。

 

「…みんなに会わなくていいのか? 家族だろ、ハウリアは」

「…まだ会うべきじゃない。俺は一族を捨てたのだから」

 

 返答したのは兎人族の男。数年前に一族を飛び出したという、

 

「久しぶりだな、()()()()。また会えて嬉しいよ」

 

 ディルグ・ロートレク、いやデル・ハウリア。トータスに転生したユキの部下の一人であり、シアの実兄になる。筋肉隆々の体にウサミミが生えているという一見シュールな見た目をしているが、それでも金ランク冒険者でもある一流の実力者の一角になる。

 

「隊長も変わらないな。…いや若返ってるか」

「気にするな」

 

 元隊長と元部下という上下関係であるものの、その距離感は気楽なものだった。

 同じ男同士ということもあり、アヤメやシェリアとは話せないようなことも話せるので当然ではある。

 近況報告もかねて談笑する二人の話題は、ハウリアの訓練へと移っていた。

 

「ハウリアの様子を見てすぐに分かった、お前がハウリアを出て行った理由」

「…ああ、優し過ぎるというか、温厚すぎるというか」

 

 フェアベルゲンに到達する前の段階でハウリアは温厚すぎる一族だとは思っていたが、訓練を始めてからは想定以上に温厚すぎる一族ということが顕著に表れた。

 小さな魔物一匹倒すたびに行われるドラマ、お花さんや虫さんをつぶしてしまわないように気を付ける等々。ふざけているのかと問いただしたくなる光景だが、彼らは至極真剣にやっていた。その結果ハジメがぶちぎれて、今では超スパルタ訓練に変貌している。

 

「…シアはいいのか? 会いたがってたが」

()()()()()()()()()

「…いつか会うつもりならいいさ」

 

「「――師匠(せんせい)~」」

「時間だな…」

 

 遠くからユキを呼ぶ声が聞こえてくる。同時にディルグは立ち上がり、この場を離れようとする。たとえシアではなくともハウリアに会う気はないらしい。去り際に、

 

「ではまた、妹を頼む」

「ああ、またな」

 

 お互いに一言交わした後、ディルグはこの場を去った。代わりに現れたのは二人のハウリアの子供だった。少女はメイ・ハウリア、少年はロン・ハウリア。いまだユキを怖がるハウリアが多い中で、数少ないユキに平然と接する、ハジメよりユキに訓練を付けてもらうことを望んだ二人だ。ハウリアに漏れ無く温厚な性格だったが、他種族や魔物から家族を守りたいという一心で殻を破った前途有望な二人。おそらく道を違えることもないだろう。

 

「あれ、誰かいたんですか?」

「…いや? それより、休憩は終わったのか?」

「「はい!」」

 

 太刀を片手に立ち上がり、ユキは二人のもとへ歩いていく。そしてハジメとは違う方面による特訓が再開された。基本戦闘力が低いため、二人での連携を前提として特訓を付けていく。こうして、周期が訪れるまでの10日間が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 




只人···ただびと?
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