「怯えろ! 竦め!」
「ヒャッハー! 悲鳴が心地いいぜぇー!」
「狙った獲物は逃がさねぇ、「必滅」の名に懸けてな!」
「いや、こうはならないだろ」
「あの優しかった、お花大好きパルくんが…」
「シア姉、みんなが怖い…」
ディルグとの再会後、ユキたち三人はハジメの訓練が超スパルタ訓練に変わったとこまでは見届け、それから残りの日数を三人での訓練に費やした。そしてハジメたちと合流したときに言葉、ちなみにユキ、ロン、メイの順である。
ユキたちの目に最初に入ったのは、文字通り精神的改造がなされた兎人族であった。ユキが知っている兎人族は少なくとも、あのような世紀末に生きているようなオーラは持っていなかった。ユキから訓練を受けたメイとロンは「覚悟を決める」という精神的成長をしているが、あれは違う。明らかに別のなにかに変化している。それも悪い方に。
「ボス、お題の魔物を狩ってきやしたぜ」
「あ、あの…え、とうさ、え、誰?」
どうやらシアも困惑しているようだ。たった今ハジメをボスと呼んだのはシアの父、カムである。筋肉隆々の身体、強者のオーラ。ディルグの父というのは本当らしい。話を聞いてみると、
・魔物一体だけの予定だったが、大量に現れたためすべて狩ってきた
・いい声で鳴いた、晒してやればよかった
・バラバラにしてやったから良しとしよう
などなど。
「…ハジメ、何をした?
「いや、な…」
ハジメ流ハ〇トマン式訓練の結果である。アドラーでも罵詈雑言を浴びせる訓練方式自体はある。ただし、入隊希望者が英雄信者であったり、誇りをもって軍服に袖を通すもの、あるいは生活のためがほとんどなので性格が歪むことも少なく、あそこまで行けばむしろ軍に討伐される側になる。
とはいっても戦闘力自体は高いようで、最低限本来の目的は達しているようではある。その証拠に、五十人近い熊人族の一団を襲撃すると言っている。
「メイ、ロン。お前たちが最後の砦だ。…頼む、ああならないでくれ」
「「はい!」」
いい返事である。それはもういい返事である。
ハウリアに残された平和的最終防衛線、メイ・ハウリア(十歳)、ロン・ハウリア(十歳)。ハウリアの(良い意味での)未来は君たちの肩にかかっている!
次回、「暴虐のハウリア。みんな、もうやめて、(胃が)限界だから!」
来週もこの時間に、メタルノヴァ!
などという謎の怪電波を受信したが即座に忘れ、目の前の現実に意識を戻す。どうやら先の宣言通り熊人族の襲撃に行ったようで、シアが盛大に泣き崩れているのがわかる。
とりあえず残った全員でハウリアを追いかけるが、まあ想定通りの地獄が広がっていた。
「…ハジメ」
「…はい。やりすぎました」
「いや、攻めるつもりはないさ。たかだか怖がられてるだけでハジメに任せたのは俺だからな。失敗は次に生かせばいい。…次がない方が本当はいいんだけどな」
とりあえず事態を収束させるためにハジメが熊人族を、ユキがハウリアの
熊人族の方はハジメに任せても良いだろう。当面はフェアベルゲンに関わらない以上、ユキでもハジメでも貸し一つの言伝で終わるだろう。変わるのは脅すか脅さないかの違いがあるだけ。
問題はハウリアの方だ。訓練前はユキに怯えていたハウリアであったが、訓練で自信がついたのかむしろ獰猛な笑みを浮かべている。
「調子よさそうじゃないか」
「おお、兄貴。どうです? 一緒に遊びませんか、こいつらで」
「ああ、そうだな。遊ぼうかな、
「? なにを―」
「気づいてないのか。お前たちを襲ってた帝国兵と同じような顔してるぞ、お前たち。殺しに快楽を、他種族を見下すことに優越感を感じてる顔だ」
「―なッ!」
全員が一斉に血まみれの手を頬に当てる。伝わってくるのは口元の吊り上がり具合、嗤っている顔だった。そのことに気づいたときにはハウリア全員が膝から崩れ落ちていた。周りではハジメ、ユエ、シアに加えロン、メイ、熊人族も黙って聞いている。
「怖がられていることに甘えてハジメに任せていた手前、あまり強く言うことはできないけどな。もう少し自分を見つめ直せ。何が大切なのか、何のために力を身に着けたのかを思い出せ」
「「「「………」」」」
「…昔、俺も奴隷になったことがある。帝国兵のような人攫いにつかまって、二束三文で売られ、碌な飯も与えられずに強制労働。地獄だった。そんな地獄を味合わせないために、守るために力を付けたんだろ」
「…そうだ、そうだ! 我々は、家族を守るために強くなったんだ!」
カムの口から出た叫びに、そうだそうだと周りのハウリアも次々と同意の叫びを上げている。
「わかったならそのために力を使え。
「…我々が、間違っていました」
「いいさ、誰しも一度は間違えるものだ。次に墜ちそうになったら殴ってでも止めるいいな?」
「「「「はい、兄貴!」」」」
呼び名は兄貴で定着したらしい。まあ怖がられるよりかはましかと納得し、多数の尊敬の眼差しを振り払い後ろ向くと、似たような目線を多数送られていた。シア、メイ、ロンの三人からはより一層強い眼差しが向けられている。
「「「あ、あに――」」」
「やめろ」
この熊人族襲撃は結果で言うならばハウリアの戦意喪失、フェアベルゲンに対する貸し一つと共に熊人族は撤退になった。
異様に濃い十日間の末、ようやく本来の目的である大樹の元へたどり着く。が、そこにはすでに枯れ果てた大樹と、開かない大迷宮の入り口と思われる扉があった。扉にあった印に、オスカー・オルクスの指輪を嵌めたら次のメッセージが浮かび上がる。
“四つの証”
“再生の力”
“紡がれた絆の道標”
“全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう”
四つの証は大迷宮の攻略の証、オスカー・オルクスの指輪のようなものが合計で四つ必要という意味、紡がれた絆は、おそらく唯一ここまでたどり着ける亜人族と友好関係を結べるか、ということだろう。再生の力というのは、生成魔法のような所謂、神代魔法を取得している必要がある、ということか。
とにかく、現状ではこの迷宮の攻略は不可能である、ということが分かった。無駄足になったかもしれないが、神代魔法の情報が手に入っただけでも収穫ではある。そのため近くにあるブルックの町に寄って、物資補給やまともな食事といった諸々をしてからライセン大峡谷、そこにあると思われる迷宮へ向かうことになった。
そしてまたもやトラブル発生。とはいえ、単純にハウリアが旅に着いていきたいと言い出しただけで、もちろん却下。鍛えたのはハウリアだけで生きていくためであり、旅に着いていくためではない。多少の問答の末、次にハウリアの元を訪れたときに使えるようであればハジメの部下にする、ということで決まった。ちなみにロンとメイの二人は、自分たちから他のストッパーとして残ると言っている。まさにハウリアに残った良心である。冗談抜きでハウリアの良い意味での未来は二人の肩にかかっているかもしれない。
なお、シアが着いてくることは既に決まっているらしい。ユエというハジメに対する強力な後ろ盾を携えて、ハジメに対する告白と同時に着いていくと宣言、見事に勝利をもぎ取ったとのことだ。ユキとしてはディルグから任されたこともあり、自衛ができる程度の実力があるなら問題ないと判断し、旅の人数が四人になり一行はブルックの町へ向かった。