ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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dhimiriaさん、一言評価ありがとうございます!
良作と言っていただけるとは…
完結まで頑張ります!

では、二十三話です。


第二十三話 ライセン大迷宮 前編

 四人はトラップに注意しつつ、〝マーキング〟しながら奥へ進む。

 

 このマーキングはハジメの〝追跡〟の固有魔法とのこと。可視化することで他三人にも見え、魔力を直接付与しているので分解作用の影響外らしい。

 

 今のところ魔物は出てきていない。トラップの誤作動を防ぐためか、この環境は魔物も影響を受けるからか。ユキとハジメが奈落に落ちるきっかけの一つになったモンスターハウス系のトラップもあるかもしれない。警戒はするが出ないに越したことはないだろう。

 

「うぅ~、何だか嫌な予感がしますぅ。私のウサミミにビンビン来るんですよぉ」

 

 と、階段を進んでいるとシアがそのようなことを言い出した。確かにシアがウサミミを立たせ左右へせわしなく動いている。

 フラグとしか言えない台詞だが、元々警戒心の強いハウリアが言うのだ。四人は立ち止まって周囲を見回しながら警戒をめた。

 

 すると、ガコンという音と共に階段の段差が消えてスロープになった。加えてタールのようなよく滑る液体が流れだしてきた。

 

「まじか!?」

「ちっ、くそ!」

「!? ……フラグウサギッ!」

「わ、私のせいじゃ――はわわわッ?!」 

 

 ハジメは義手と靴底の鉱石をスパイクに錬成して踏ん張り、ユエはハジメに飛びついて落下を防ぐ。ユキも〝宝物庫〟から取り出した短刀をスロープ突き立てるが、シアはバランスを崩したまま落下していく。

 

「!? シア!」

 

 ユキがシアの腕を何とかつかむが、落下エネルギーとシア+ドリュッケンに短刀が耐えられず、スロープから外れてしまった。もう一度突き刺そうとするが、落ちる勢いが付きすぎて突き刺せない。

 

「ユキ!?」

 

 落ちていく二人に驚いてハジメもユエを連れたままスパイクを外して、二人の後を追う。シアが落ちる先を見ると、途中で途切れていることに気が付いた。

 

「ユキさん! 道が!」

「ッ、ユエ!」

「んッ!」

 

 勢いのまま中空へ飛び出される。

 

「〝来翔〟!」

 

 その一瞬にユエが初級魔法〝来翔〟を使い、数秒のみその場で静止する。ハジメが義手からアンカーを射出して天上からぶら下がる。しかしそれで助かるのはハジメとユエのみ。

 

「ハジメ! 撃て!」

「ユキさん!?」

「おう!」

「ハジメさん!?!?」

 

 ユキの掛け声とともに、ハジメが()()()()()()ドンナーを撃つ。位置としてはハジメ達より僅かながらユキの方が上にいる。ユキの腰に腰にしがみついているシアが叫ぶ声を無視して、ユキは〝宝物庫〟から大剣を取り出し、

 

「ッ!」

 

 そのまま大剣の腹で受け止める。弱体化しているとはいえ素で高威力のドンナー。当然受け止めた大剣は罅が入り砕ける寸前だが、衝撃により勢いを付けることはできた。その勢いのまま大剣と交換した直剣を壁に突き刺した。

 

 ひとまず落下を阻止してホッと一息ついた。そして下を見ると大量の何かが蠢いている。

 

カサカサカサ、ワシャワシャワシャ、キィキィ、カサカサカサ

 

「うわ…」

「ひえぇ」

 

 思わず引き攣った声が口から漏れた。

 体長十cmくらいのサソリだった。それも大量なんてレベルではなく、一切の隙間も見えない様子はさながらサソリの海のようでもあった。さらには目を逸らすために上を見ると、

 

 

〝彼等に致死性の毒はありません〟

 

〝でも麻痺はします〟

 

〝存分に可愛いこの子達との添い寝を堪能して下さい、プギャー!!〟

 

 

〝ごめんなさい。毒では死ぬことはないはずなので…すみません〟

 

 

 ここに落ちた人はサソリに全身を這い回られながら麻痺に苦しみ、藁にも縋る想いで天上の方へ向けばこの挑発文を見ることになるのだ。

 迷宮入り口の文から察するに、最後の文はおそらくシスティ・ライセンなのだろう。ミレディのうざさとシスティの苦労人気質が感じ取れた。

 

「…性質(たち)が悪すぎるぞ、ミレディ・ライセン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一の関門を突破した一行は意気揚々と進み破竹の勢いで迷宮を攻略していった…とは当然なるはずがなく、むしろトラップと精神を逆撫でする煽りの挑発文によってストレスと疲れが溜まる一方だった。突如落ちてくる天井、全方位から飛来する毒矢、硫酸入り落とし穴、アリジゴク+ワーム型魔物などなど。最後に小さく書いてあるシスティの謝罪文に、もはやユキ以外は気付いていない。

 

 現在、螺旋状になっているだろう一本道のスロープを下っているが、ただの通路でないのはこれまでから十分わかる。むしろ、ここまでくるとどのようなトラップなのかは大体察せるようになっていた。

 

 突然ガコンという音がしたかと思うと、上の方からゴロゴロと重い音が響いてくる。四人が後ろを見ると、まあ定番と言うか予想通りと言うか幅一杯の岩の大玉が転がってきた。轢かれれば即死なのはすぐにわかる。急いでユエとシアが逃げようと踵を返すが、ユキとハジメはそのまま立ち止まって動かない。

 

「……ハジメ? ユキ?」

「何やってるんですか?! 早くしないと潰されますよ?!」

 

 ユキは太刀に手を添え抜刀の構えをするが、二人の声に答えずハジメはユキの前に出て左腕を引き絞った。義手からは機械音が響いている。

 

「いつもいつも、やられっぱなしじゃあ! 性に合わねぇ!」

 

 ハジメは限界まで引き絞った左腕を思い切り岩玉に叩きつけた。激突による凄まじい轟音が通路に響き渡り、岩玉に亀裂が走り粉々に砕け散る。

 義手への負担が大きく本来ならば切り札の一つなのだが、溜まっていたストレスが爆発したのだろう。その証拠にハジメはスッキリしたと言わんばかりに、満面の笑みを浮かべている。

 

「ハジメさ~ん!流石ですぅ!カッコイイですぅ!すっごくスッキリしましたぁ!」

「……ん、すっきり」

「まあな、これでここら辺は……」

 

 ドスン、ゴロゴロゴロと、上の方から妙にたった今体験したような重い音が鳴り響いた。

 ハジメたち三人が固まり、顔を引き攣らせながら岩玉が転がってきた方を向くと、黒光りする鋼鉄製の大玉がカーブの先から姿を現した。

 

「うそん」

「あ、あの。気のせいでなければ、何か変な液体撒き散らしながら転がって……」

「……床が溶けてる」

「二段構え…しかも危険度も格段に上がってる。本当に悪質だなこの迷宮は…」

 

 そう言い、今度はユキが大玉の前に立ちはだかった。手には太刀ではなく、鉄塊と言われそうな巨大な大剣。

 踵を返して走り出した三人は、鉄塊剣を構えたユキに驚いて少し進んだ先で足を止めた。

 

「おい、ユキ?!」

「解放者たちは怪物に期待しているらしいからな」

 

 まあガイアの影響なのだろうが、オスカーの住処にユキ用の大量の武器が保管されていたことが、期待しているということを如実に表している。

 そう、怪物(ユキ)が期待されているのならば、

 

「真正面から叩き伏せる!」

 

 怪物らしく振舞ってやろうじゃないかと、鉄塊剣を鉄球に叩きつける。これでも英雄(ヴァルゼライド)と比肩すると自負しているのだ。トラップの一つや二つ、真正面から打ち破らないと怪物の名が廃るというもの。

 魔力変換の〝衝撃変換〟を併用して叩きつけた一撃は、金属同士の甲高い衝撃音を響かせた。溶解液に触れた鉄塊剣から異臭と溶ける音がするが、無視してそのまま振り抜く。拮抗は一瞬のみ、僅かな傷を与えて一メートルほど弾き飛ばすが、すぐに転がって迫ってくる。

 

「まだまだッ!」

 

 一度でダメなら二度。二度でダメなら三度、四度、五度……と、何度も連続で鉄塊剣を叩きつける。鉄球が罅割れていく様子を、ハジメたちは茫然と見ていた。

 そして、叩き付ける度に徐々に溶けていく鉄塊剣よりも先に鉄球の方が限界を迎え、轟音と共に砕け散った。

 

「や、やっぱりすげえな…」

「…でも星辰光(アステリズム)使ってないから、逆にこの程度しか出来ないとも言える」

「私、ユキさんのこと怒らせないようにします…」

 

 

 

 

 

 通路を抜けると広い部屋に出た。左右には無数の窪みと騎士甲冑が並んでいる。そして突き当りには荘厳な扉と黄色い水晶が設置された祭壇があった。

 

「いかにも、といった場所だな。ここが最奥の住処ってことか?」

「いや、どちらかと言えばその一、二歩手前といったところだろ」

「ってことはまあ、この甲冑はお決まりか」

「……大丈夫、お約束は守られる」

「それって襲われるってことですよね? 全然大丈夫じゃないですよね?」

 

 やはりお決まりはお決まりだったようで、部屋の中央付近まで進むと、おなじみとなりつつあるガコンという音が鳴り、騎士甲冑が動き出した。およそ五十体ほど。

 

「ははっ、ホントにお約束だな。動く前に壊しておけばよかったか?」

「今さらだ。まあ、やるしかなさそうだな」

「んっ」

「か、数が多すぎませんか? いや、やるしかないんですけども…」

 

 ユキ、ハジメ、ユエは意気揚々と、シアは消極的に構える。この中で実戦経験が一番少ないのはシアなのだから無理もない。

 

「シア」

「は、はいぃ! な、何でしょう、ハジメさん」

 

 緊張に声が裏返っているシアに、ハジメは声をかける。緊張をほぐすためか、どことなく声質が柔らかい。

 

「お前は強い。俺たちが保証してやる。こんなゴーレム如きに負けはしないさ。だから、下手なこと考えず好きに暴れな。ヤバイ時は必ず助けてやる」

「……ん、弟子の面倒は見る」

「可能な限りフォローする。ミスは出来るときに経験しておくものだぞ」

 

 三人の言葉にシアは息を呑む。三人と出会った時から、主に二人からの扱いが雑だったため、旅に付いてきたこと自体迷惑だったんじゃないかと不安だった。実際、最初は迷惑だと感じていただろうが、今は仲間だと認めている。

 そして小さく笑みを浮かべながら気合を入れなおすようにドリュッケンを構える。

 

「はい、やってやりますよ!」

 

 それと同時に、ゴーレム騎士たちが四人に向かって襲い掛かった。

 

 

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