ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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お待たせしました、二十五話です。

一応、不定期更新になってますけど、なるべく早く投稿できるように頑張ります。


第二十五話 ライセン大迷宮 後編

 迷宮に挑戦して約一週間が経過した。

 入口に戻されること7回、致死性のトラップ48回、意味の無い嫌がらせのみのトラップ168回。最初はミレディへの怒りで満たされていた三人だったが、四日ほど経過してから吹っ切れたのか、半ば投げやりな心境になっていた。これまでの7回が無駄だったという訳でもなく、迷宮の構造変化にはある程度パターンが決まっていることが分かり8回目の挑戦中だ。

 

 現在は珍しくトラップが一つもない安全な部屋で休息をとっていた。

 

「信頼されてるなハジメ。一応、大迷宮内部なんだがな」

「まったくだ。俺みたいな奴のどこがいいんだ…」

 

 ハジメの両サイドには、ハジメの腕に抱きつく形でぐっすり眠っているユエとシアがいる。完全に安心しきっているようで、とても緩んだだらしない表情をしている。

 ハジメは優しい顔をしながら抱きしめられている腕を抜いて、ユエの髪をなでている。

 

「そもそもシアを助けたのはユキだろうが。なんで俺なんだ」

「何だ彼んだで最初に泣きついた相手がハジメだからな。それに、弱音を吐いても諦めない所は気に入ってるんだろ?」

「…まあ、な」

 

 そう言い、ハジメはユエと同じようにシアの髪を撫でたりウサミミをモフモフする。ユエにしたときと同じように自然と手付きも優しくなり、非常に優し気な表情を浮かべている。

 

「むにゃ……ハジメしゃん、大胆ですぅ~、お外でなんてぇ~」

「「……」」

 

 シアの寝言に一瞬でハジメの瞳の奥から光が消えた。スッとユキが無言で離れると同時に、ハジメが優しい手付きのまま、そっとシアの鼻と口を塞いだ。穏やかな寝顔が段々と苦しそうな表情に変わっていくがハジメは止めず塞ぎ続ける。

 

「んんーー?! んーー!! ぷはっ! はぁ、はぁ、な、何するんですか! 寝込みを襲うにしても意味が違いますでしょう!」

「……んぅ…うるさい…変態ウサギ…」

「ユエさん?!」

 

 ぜはぜはと荒い呼吸をしながら飛び起きたシアはハジメに抗議を入れる。そしてシアが騒いだことでユエも目を覚ましシアを罵倒する。

 

「……ッ、ハハッ」

 

 コント染みたやり取りにユキは思わず吹き出して笑ってしまった。それぞれが信頼し合っているからこそのやり取りを、ユキは羨ましそうに眺めている。

 

 クリスとアル、貧民窟(スラム)で出会った二人と、今のハジメ達のように笑い合うような日々を送った時があったのだろうか。()()()()()()()()進んでいたあの時の自分に余裕がなかったのか、それとも自分が覚えていないだけなのだろうか。

 

 だからハジメ達の今が羨ましいと感じてしまう。そして血で染まりきっている自分は、あの輪に入ってはいけないと思ってしまう。

 

 ふと、三人のやり取りを眺めるユキの眼には別の光景が映った。

 ガラス越しにこちら(ユキ)を見つめる女性の姿。慈愛に満ちた眼をしながらも、泣きそうなその表情をしたその女性はガイアに似て…

 

(ッ、まただ)

 

 俺にこのような記憶はない。知らないはずだ。

 このような特徴的な光景を忘れるはずがない。でも知らない。

 

「…大丈夫か?」

「…ああ、大丈夫だ」

 

 急に笑ったかと思えば今度は顰めた顔をしているユキに、ハジメが心配そうに声を掛けた。ユエとシアも心配そうな表情でユキを見ていた。

 

「十分な休息はできただろう。そろそろ行こう」

「…ユキ」

 

 心配は掛けないと、ユキはハルツィナ樹海の時のように半ば強引に行こうとする。が、ハジメがユキを呼び止めた。ここで止めなければ、ここではっきりさせなければ何かが手遅れになると、ハジメはそう感じていた。

 

「ユキのことは八重樫や白崎から聴いてはいた。だけど俺はその夢を見ていたわけじゃないから詳しくは知らねぇよ」

「それでも、俺はユキを信用してるし信頼してる。それはユエも、シアも、八重樫や白崎だって同じだろうさ」

「俺にとって、ユキ・ロスリックは英雄だ。無能だの馬鹿にされてた俺に道を示してくれた、唯一無二の希望(ヒカリ)なんだよ」

「だけどそれ以上に、今は大切な仲間だ。進む道を間違えたならぶん殴ってでも止めるし、絶対引き戻してやる」

「それに奈落に落ちる前、ホルアドでも言ってたじゃねえか。〝俺達は一人じゃない。ピンチになったら、素直に助けてくれって言えばいい〟って。

 俺達は何度もユキに助けられた。だから今度は俺達がユキを助けてえ」

「だから、その、なんだ」

 

「前から何に悩んでるのか知らねえけどな、少しくらい俺達のことを信じてくれてもいいじゃねえか?」

「…ん」

「です!」

 

 ハジメの言葉にユエとシアも同意する。二人にとって、ハジメが想いを寄せる相手で、助けてくれた恩人でも、ユキもまた助けてくれた恩人なのだから。恋に盲目とは言えど、恩を忘れるほど恥知らずではない。

 

「……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…存在しない記憶、か……大丈夫か、(ここ)?」

「……やっぱり言わなければよかったか…」

「冗談だ」

 

 迷宮攻略を再開したが、これと言った進捗があるという訳ではなかった。

 ただ見慣れたトラップばかりになっているため、最初より楽にはなった。そこでユキが抱えていた悩みについての話をしていた。

 とはいえこちらも何かが解決するという訳でもない。当の本人が知らないのだから他人が知る訳がない。

 

「って言っても、ユキ自身全部を覚えてるわけでもないんだろ」

「それは当然だ。最初の頃は殆ど忘れてるし、()西()()()()()()()()()なんて一切覚えてないしな」

「まあそうだよな…」

 

 唯一判明した、というより既に明らかだったのは、神山に眠るガイアが深く関わっているということ。

 そもそも、ガイアに関してはユキも知らない謎が多い。

 

 なぜユキの死に戻りを共に体験していたのか。

 なぜユキに星辰戦争(ギガントマキア)を持ちかけたのか。

 なぜユキが西暦から来たという秘密を知っていたのか、などなど。

 

 挙げだせばキリがない。

 とはいえ悩んだところで解決するわけでもない。再会してから聞き出せばいいと割り切るしかないだろう。

 

「そういえば、あのガイアって日本で造られたんだよな? なんでギリシャ(ガイア)なんだ? 日本なら記紀神話(イザナミ)とかじゃないのか?」

「知らないさ。当時の技術者に聞いてくれ。

 まあ、対のイザナギがいないとか、敵対派閥(タカ派)が製造したのがカグツチだからイザナミは相性悪いとか、地球環境改竄に黄泉の神は合わないとか、そんなところじゃないか?」

 

 そんな話をしていると、最初に迷宮攻略をリスタートさせられた原因の部屋。つまり騎士ゴーレムの部屋に着いた。あの一回以降、一度もこの部屋に遭遇することがなかったことを考えるなら、やはり迷宮攻略は進展しているのだろう。その証拠と言うべきか前回とは違って、封印されていた扉は既に開いて、部屋ではなく道が続いているのが見える。

 

「誘われてると思うか?」

「十中八九、誘われてるだろうな。だが他に道もない。生憎ゴーレム自体はそこまで問題じゃない、このまま扉まで突っ切るぞ」

「んッ!」

「はいです!」

 

 ユキ達が走り出し部屋の中程まで到達したところで、前回同様騎士ゴーレムが一斉に動き出した。だが既に騎士ゴーレムの強さは知っているし、扉を開けるために時間稼ぎをする必要もない。

 よって、前方の騎士ゴーレムを蹴散らしてしまえば、進行を塞ぐ騎士ゴーレムはいなくなり、ユキ達は特に問題なく扉を通過した。

 

 そう、()()()()特に問題なく通過できたが、残った騎士ゴーレムも扉を通過し()()()()()()()()()()ユキ達を追いかけてきた。

 

「天井を、走ってる!?」

「冗談にもほどがあるだろ!?」

「…びっくり」

「重力さん仕事してくださぁ~い!」

 

 咄嗟にハジメが解析をするがこれといった鉱石が使われているわけでもない。

 その時、天井を走る騎士ゴーレムの一体が()()()()()()()()()()した。するとユキ達から見て()()するように突撃してきた。

 

「ちッ! 回避ッ!」

 

 ハジメがドンナーで迎撃するも、半壊した騎士ゴーレムはその残骸ごとユキ達に突撃してくる。

 屈んだり跳躍して回避すると、その残骸は壁や天井、床に激突しながら転がっていった。

 

「おいおい、やっぱりまるで…」

「ん…〝落ちた〟みたい」

「重力さんが適当な仕事してるんですね、わかります」

「いや、おそらく魔法だろうな。さしずめ〝重力魔法〟と言ったところか」

 

 騎士ゴーレムにのみ反応しているということ、鉱石による効果ではないということを考えるならば、消去法的に魔法になるだろう。それもユエの反応からして現代で知られていない魔法、つまり神代魔法の一つなのだろう。

 

 これまでの騎士ゴーレムの対処には余裕があったが、一気に手強い相手へと変わった。天井は遠距離攻撃手段のあるハジメとユエにしか基本対処できず、突っ込んできた騎士ゴーレムをユキやシアが対処しても騎士ゴーレムは再構築によって復活する。そして復活するというならば当然。

 

「そりゃあ前を塞ぐよな」

「面倒だな」

「むぅ…ハジメ、どうする?」

「は、挟まれちゃいましたね」

 

 数の暴力というのは恐ろしく、騎士ゴーレムが壁となって道を塞ぐ様子はある意味、壮観ですらある。

 とはいえ立ち止まるわけにもいかない。このままではジリ貧だというならば前回のゴーレム部屋同様、

 

「ハジメ、すまないが頼む」

「おうよ」

 

 強行突破しかない。

 ハジメが新たに〝宝物庫〟から取り出したのは〝十二連式回転弾倉型ミサイル&ロケットランチャー:オルカン〟。

 

「全員、耳塞げ! ぶっぱなすぞ!」

 

 そして発射されたミサイル群は騎士ゴーレムの壁に直撃、轟音と共に大爆発し、原形をとどめないほど粉々に砕け散った。側壁や天井の騎士ゴーレムもまとめて吹き飛んでおり、再構築にもそれなりの時間がかかるはずだ。

 その隙に一気に騎士ゴーレム達の残骸を飛び越えて行く。

 

「ウサミミがぁ~、私のウサミミがぁ~!!」

 

 と、並走しながらウサミミをぺたんと倒して涙目になっているシアがそこにいた。兎慌てていたたためハジメの指示に反応できず、着弾の爆音が直撃したようだ。人族は、亜人族の中で一番聴覚に優れた種族、この爆音のダメージはユキ達とは比較にならないはずだ。少なくとも数分は何も聞こえないだろう。

 

 そして通路を走ること約五分。この通路の終わりらしき場所が見えた。どうやら巨大な空間が広がっているようだ。通路は空間の入り口で途切れ、十メートル先に正方形の足場が見える。

 

「抜けたら飛ぶぞ!」

 

 そして勢いをつけたまま、入口のギリギリから足場に向けて跳び、特に危なげなく全員が跳び移ることに成功した。

 

 ユキ達が入ったこの空間は巨大な球状になっているようで、直径五キロメートルはありそうだ。この空間には様々な形状、大きさの鉱石ブロックが重力を無視して不規則に移動している。

 だがこの空間の異常性はさほど問題ではない。重力を操作する魔法であると仮定すればある程度の説明はできる。

 

 よって問題なのは、ユキ達を追いかけてきた騎士ゴーレム達の動きが激しくなってきたということ。

 先ほどの砲弾のように落下するような単調な動きではなく、縦横無尽に飛び回っている。並の生物では方向転換でかかるGで死亡するだろうと思えるほどに激しい。

 

「ここが最奥ってことでいいんだろうな…」

 

 騎士ゴーレム達はユキ達がいるブロックの周りを旋回しているだけで、なぜか攻撃してこない。

 不審ではあるが、これ幸いと周りを見渡して観察する。

 その次の瞬間、

 

「ッ! 逃げてぇ!」

 

 突然シアが絶叫する。

 シアに問いただす暇もなく、瞬時に今のブロックから別のブロックに飛び退いた。

 

 その直後、まるで隕石かと勘違いしてしまうような巨大な何かが、先までいたブロックに落下して破壊した。

 シアの警告がなければ、あの何かの直撃を受けていたかもしれないと考えると、ユキ達は冷や汗を流した。

 

「シア、助かったぜ。ありがとよ」

「・・・ん、お手柄」

「ああ、さすがに今のはやばかった」

「えへへ、〝未来視〟が発動して良かったです。代わりに魔力をごっそり持って行かれましたけど…」

 

 シアの固有魔法〝未来視〟。任意で発動することもできるが、シアの命の危険が伴う場合には自動発動する。今回はその自動発動によって助かったということだ。

 

 すると、先ほど落下してきた何かが、下から猛烈な勢いで上昇してきた。

 その何かの正体は、

 

「おいおい、マジかよ」

「でかいな」

「…すごい…大きい」

「お、親玉って感じですね」

 

 それは宙に浮く巨大な騎士ゴーレム。全長およそ二十メートル弱。全身甲冑の姿はそのままだが、右腕はヒートナックルとでもいうべきなのか赤熱化しており、左腕には鎖が巻き付いて、フレイル型のモーニングスターを持っている。

 

 そしてその巨大な騎士ゴーレムの肩には、これまた別の騎士ゴーレムが立っていた。大きさはこれまでの騎士ゴーレムと同じ二メートル弱。だが手にはそれぞれ槍を一本ずつ持っている。

 

 周囲を旋回していた騎士ゴーレム達が一斉に止まり、囲むように整列して胸の前で大剣を立て構えた。

 それはまるで王への敬礼のようで、つまり今現れた二体の騎士ゴーレムがこの迷宮の最奥の主ということを暗に示していた。

 

 一気に緊張感が高まり、まさに一触即発のこの状況。誰かが動いた瞬間に戦いが始まると、そう思わせる張り詰めた空気を破ったのは――

 

「やほ~、はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~」

「台無しです姉さま。システィ・ライセンです。お見知りおきを」

「「「…は?」」」

「はぁ…やっぱりか…」

 

 ――巨大な騎士ゴーレムのふざけた挨拶だった。

 

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