ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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遅くなりました。第二十七話です。

フロムの新作、ELDEN RINGが発売されました。
プレイしているので、次話も遅くなるかもしれないです。



第二十七話 処刑者システィ・ライセン

 ハジメ達から離れ二人だけの戦争を始めた両者は、己の獲物を構えたまま向かい合っていた。

 

「ッ、強い」

 

 ユキと対峙するシスティはそう呟いた。

 ハジメ達をミレディ()が相手をしている今、敵はユキ一人。対してこちらは騎士ゴーレムが十数体と浮遊ブロック、そして能力値(スペック)でも勝るとも劣らないシスティ自身。優勢は明らかなはずなのに、槍がユキに届いたのは最初の一回だけ。

 ユキの無限に等しい経験と鍛え上げられた技量が、数の優劣を跳ね返していた。

 

 しかしよく考えれば当然なのかとも思う。オルクス大迷宮を攻略したということは、自分も倒せなかったあのヴァルゼライド(ホムンクルス)も倒したということだ。それも神代魔法を一つも用いずに。しかも本物はさらに強いというのだから、その本物にすら勝っていたというユキは明らかに異常だろう。

 

(これが光狂い…)

 

 これが光を仰いだ化物の一人。

 だがそうでなければ、神に剣は届かない。このトータスの未来を覆すことはできない。

 素の実力は理解できた。ならば()だと、双槍を固く握りしめた。

 

 

 

(強い…)

 

 相対するユキもまた、システィを強者と認めていた。

 開戦直後に頬に一筋の傷は貰ったが、それ以降は掠り傷一つ負っていない。そのことから分かる通り、練度も経験もユキが圧倒的に上。それなのにユキの太刀はシスティを切り裂くことができていない。

 

 しかし、それも当然だと理解していた。

 

「さすがに卑怯じゃないかそのゴーレム(からだ)。全然刃が通らない」

「それでは素直に負けを認めますか?」

「まさか」

 

 速く、強く、頑丈なだけなら獣と変わらない、ならば斬るなど容易いこと――

 ――というのはアドラーの断刃(ムラサメ)の言葉ではあるが、あまりにも硬すぎれば物理的に斬れないのは当然だろう。

 

 しかし打つ手なしかといえばそういうわけでもない。何も攻撃手段は斬ることだけではないのだから。斬れないならば穿つ、穿てないなら叩き壊す、などなどと。

 

 ()()()()()()()()()()()

 永年(ながねん)の経験による直観がそう囁き、ユキは太刀を固く握りしめた。

 

 

 

 

 

 

「…見下すような言い方になりますが、お見事と言いましょう。この大迷宮でこれほど苦戦するとは思いませんでした」

「お褒めに預かり恐悦至極、とでも言おうか。まあ不利だからあっさり負けました、なんてあまりにも情けないだろ」

 

 互いに軽口を叩きながらも、警戒は一切緩めていない。数ブロック離れた先ではハジメ達が戦っている。

 質で勝るユキと数で勝るシスティの戦力差はほぼ同列。だが時間を掛ければユキはその経験で戦力差を埋められる。

 

「…ならば」

 

 切札を使うほかないと、システィは判断した。元々そのつもりでシスティはユキと対峙している。

 話に聴いていた怪物の力を、今ここで知るために。

 

 準備は整った。さあ、()()()()()()()()()()。 

 

「一切手は抜きません。――かかってこい、光狂い。貴方がガイアに選ばれた怪物ならば、その力を見せてみろ!」

 

 そう叫ぶと、システィは手に持つ双槍を構え――

 

「天■せよ、■が守■星───鋼の■■に■■を■せ」

 

――起動詠唱(ランゲージ)を紡ぎだした。

 

「我らは邪神の支配に抗いし解放者。()の邪神は数多の祈りを、数多の命を磨り潰した」

「神ならば命を弄ぶことが許されるのか、認められるのか」

「否。決して許されていいことじゃない、認めていいことじゃない」

 

 込められた思いは神への怒りと未来への希望。

 

 かつて解放者と呼ばれた彼女たちは、現在では反逆者という名で歴史に刻まれている。世界を滅ぼそうとした邪悪な眷属として。それはあながち間違いではない。

 

 トータスを支配する存在(エヒト)を討てば世界は混乱に陥る。人間族の九割以上が信仰している教会の唯一神がエヒトなのだからなおのこと。教会は唯一神を失うことで機能しなくなり、支配から解き放たれたことで世界から秩序が消えるだろう。

 

「私たちは生きる権利がある。生きる自由がある」

「手を取り合い、情を交わし、笑い合おう」

「それらは決して罪ではない。私たちは邪神(あいつ)玩具(おもちゃ)じゃない」

 

 それでも、これからも邪神(エヒト)に弄ばれるというのなら是非もない。必ず邪神(エヒト)を打ち倒そう、と。

 その先の未来で、国も種族も関係ない。皆が笑える世界になると信じて。

 

「されど私たちは敗北者、英雄に(あら)ず。ならば次代へ繋げよう。神をも堕とす怪物へ」

 

 しかし、その目論見は瓦解する。それもエヒトによって扇動された人々によって。守るべき人々に力を振るうことができない解放者たちは討たれていき、残ったメンバーは大陸の果てで迷宮を創り潜伏した。

 

 いつの日か、自分たちの力を受け継ぐ者が、そして怪物(えいゆう)が現れることを願って。

 

「願わくば――人が自由な意思の元に、生きられる世界になりますように」

 

 これがトータスで最初の星辰体感応奏者(エスペラント)、システィ・ライセンの星辰光(アステリズム)。かつて大峡谷の処刑者一族ライセン家の末妹として生まれ、姉であるミレディ・ライセンと共に立ち上がった反逆者(解放者)

 

 怪物を試すべく、怪物を()()すべく、ここに彼女の星辰光(アステリズム)が顕現した。

 

「〝超新星(Metalnova)〟――〝絶滅闘争、魔殺の底で次代へ繋ぐ解放者(R a i s e n  C a n y o n - E x e c u t i o n e r)〟!」

 

 

 

 

 

 

 基準値から発動値への変化に伴い双槍の振るわれる速度も上昇し、ユキもまた星辰光(アステリズム)を輝照する。

 

 ユキにとってシスティが星辰光(アステリズム)を保有していること自体はそこまで驚くことではない。()()()()()を持つガイアが関わっているのだからむしろ予想通りですらある。重要なのはシスティが宿す星辰光(アステリズム)の能力。

 

 一見するだけでは判断ができない。炎が噴き出るわけでもなければ、光が溢れるわけでもない。ならば自己強化という線もあるが、当たれば決着する系統の能力である可能性も捨てきれない以上、むやみに防御をするわけにもいかない。故に回避に重点を置くのだが、それはそれで容易ではない。

 

 重力魔法によって飛来する浮遊ブロックに加え、速度の上がったシスティの槍撃。ただでさえギリギリの戦いをしていたのだから、天秤はシスティに傾き始める。無論ユキも防戦一方のままでいるはずもないが、ユキの動きが徐々に()()()()()

 

 それが顕著に出たのはシスティの攻撃を回避しきれずに防御した時だった。槍を受け流すために接触した瞬間、()()()()()()()()()()()()のだ。攻撃を受け止める膂力、踏ん張る力、飛び退く脚力、すべてが接触した瞬間に減少した。

 

 出力の減少かとも思ったが、ユキの星辰光(アステリズム)は揺らいでいない。むしろその大元、ステータスそのものに影響が出ていた。加えてシスティの動きも加速、というより出力が上昇していた。ユキの力の減少、相対的にシスティの出力が上昇したという事実。すなわち――

 

「――ッ! 能力値簒奪能力(ステータスドレイン)か!」

「ここまで奪え(とれ)ば、さすがに分かりますか!」

 

 ――限定的能力値簒奪能力(ステータスドレイン)。それがシスティ・ライセンが得た星辰光(アステリズム)だった。生物の能力値(ステータス)が数値化されるトータスだからこそ発現した能力であり、トータスで新しく誕生した現状唯一の星辰光(アステリズム)。拡散性の低さから効果範囲は数メートル、だが直接触れた者からはさらに多くステータスを奪い取る能力で、トータスで生きるものにとって絶望的なまでに相性最悪の能力だ。

 

 しかし、だからと言って諦めるという選択はユキに無い。

 魔力分解作用と維持性によって、ユキの星辰光(アステリズム)は持って数秒。さらに時間が経過すればするほど互いの能力値は広がっていく。

 迫りくる処刑槍、浮遊ブロック。弱体化するユキと強化されるシスティ。もはや覆しようのない絶望的状況。故に、

 

「まだだッ!!」

 

 また一つ、限界という壁を粉砕する。すでにレベルという制限の枠組みを超えているユキは能力値(ステータス)をさらに上昇させる。

 

 常識を無視した覚醒はユキの骨身を軋ませユキを敗北へと誘う。しかし、それすらも次の覚醒の起爆剤へと変化させる。まだだ、まだだ、まだだ、と。ユキをさらに怪物へと変貌させていく。

 

「ええそうです! まだでしょう! 怪物(あなた)の力はこの程度ではないはずだ! もっと、もっと、もっとその力を私に見せてみろ!」

「ォォォオオオッ!!」

 

 連続して強化されていく出力ほか能力値(ステータス)は減少度を上回る。魔力分解作用すら無視して迷宮最深部に展開されるユキの破局災害(アポカリプス)は、しかしユキとシスティにのみ影響を与えながら縦横無尽に駆け回る。もはやハジメ達にはユキ達の残影すら目に映らない。それほどまでにユキは強化され決着に近づいていくのは必然と言えた。

 

 そう、そのような覚醒(不条理)を続ければ―――

 

「――――ッ」

 

 ()()()()()()()()()のもまた必然とも言えた。度重なる覚醒に身体が耐えきれず、発動体を振るっていた右腕がはじけ飛ぶ。

 そもそも、ユキ・ロスリックは生身だ。システィ達のようにゴーレムであったり、骨格がアダマンタイトや神星鉄(オリハルコン)であったならばまだ耐えきれたかもしれないが、生身である以上これは当然の結果であり、気合や根性という精神論では覆せない人間兵器(エスペラント)としての限界値だった。

 

「――――ッ、――」

 

 右腕がはじけ飛び、発動体が離れてしまったため星辰光(アステリズム)が解除されたが、左腕で発動体を掴み再び感応させ――()()()()()()。どれだけ感応しようとしても感応できず星辰光(アステリズム)を発動することが出来ない。その隙を逃すはずもなくシスティの豪槍が放たれる。宙に浮遊し、片腕を失い星光(ほし)すらも解除されたユキに逃れるすべなどあるはずがなく、身体を捻らせて回避しようとするものの左足を斬り飛ばされた挙句、そのままブロックの一つに叩きつけられる。

 

 ブロックの上に仰向けに倒れるユキの姿は、常人なら目を背けてしまうであろう悲惨な姿だった。右腕左足を失い、ブロックに叩きつけられた衝撃で残った身体もボロボロになった。まだ息があるのはまさしく奇跡だろう。

 

 なぜ星辰光(アステリズム)が使えなかったのか、それは単純に感応する魔力がないからだった。

 

 

=========================

ユキ・ロスリック ??歳 男 レベル:???

天職:神子

筋力:1

体力:1

耐性:1

敏捷:1

魔力:1

魔耐:1

技能:星辰光・■■■■・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・魔力変換[+身体強化][+部分強化][+治癒力変換][+衝撃変換]・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・生成魔法・言語理解

=========================

 

 

 トータスにおける星辰光(アステリズム)は、()()()()()と大気中の魔力を感応させることで発動できる魔法になる。つまり、どちらか一方が欠ければ機能することはない。

 

 システィの星辰光(アステリズム)は文字通り、()()()()()()()()。奪われた能力値は全てシスティの能力値へと変換され、両者の力の差は開いていく。あくまで一時的な奪取なので、システィが星辰光(アステリズム)を解除すれば奪われた能力値(ステータス)は元の持ち主に戻る。

 

 同時にユキの星辰光(アステリズム)が一瞬だけでも解けたことで発動値へになったことによる能力値(ステータス)の上昇値がリセットされてしまった。そこに追撃するシスティの星辰光(アステリズム)による能力値簒奪(ステータスドレイン)。それらが噛み合った結果が、現在のユキの無惨な姿だった。

 トータスにおける一般人のレベル1の平均ステータスは10だと言われている。つまり、ユキは正真正銘トータス最強の人間から最弱の存在へと転落していた。

 

「……なにか言い残すことはありますか?」

 

 システィがユキに向けて最期も言葉を掛ける。そこに憐れみなどの感情はない。

 聞いていた通りの、いやそれ以上の強さだった。ライセン大峡谷という環境、単純な能力の相性という、経験だけでは覆せないはずの隔絶した状況下でここまで戦ったのだ。まさしく怪物の異名にふさわしいだろう。

 

「……システィ・ライセン…君は、君達は、英雄か?」

 

 告げられたのは、英雄かどうかという質問。

 もうじき死する状況で聞くべきではない、予想外の理解できない言葉にシスティは疑問を抱きながらもはっきりと答えた。

 

「違います。私は処刑人。私達は神に負けた敗北者で反逆者。決して英雄などではありません」

 

 そう、システィ達は()()()である。かつては人々に希望を齎したのかもしれないが、少なくともこの現代では真逆の存在なのだ。

 その返答に満足したのか、ユキは死まで秒読みでありながらも不敵に笑い、

 

「なら何も問題ない。()()()()()()

「ッ!」

 

 悪寒を感じたシスティは重力球を作りユキにとどめを刺す。もはや動くことすらできないユキに回避する術などあるわけがなく、受け身すら取れずに重力球をその身で受ける。

 

 重力球はユキを飲み込み、重力球が消えた頃にはユキの姿は微塵も残ってなく、この瞬間()()()()()()()()はトータスから完全に消滅した。

 




絶滅闘争、魔殺の底で次代へ繋ぐ解放者(R a i s e n C a n y o n - E x e c u t i o n e r)

基準値:C
発動値:B

集束性:E
操縦性:C
維持性:A
拡散性:D
付属性:E
干渉性:AA

 限定的能力値簒奪能力

 筋力・体力・耐性・敏捷・魔力・魔耐といった、トータス基準の能力値を一時的に奪い取る能力。
 人としての能力値を数値化できる世界だからこそ生まれた非常に特殊な星辰光であり、トータスで新しく誕生した初めての星辰光。
 相手を弱体化させ自身を強化するという、攻防一体の能力。

 本来は作中ほどの速さで効果が発揮することはない。
 相手がユキだからこそ異常な速さで効果は発揮していた。それは単に、ユキ・ロスリックとシスティ・ライセンの関係が■■だったからである。
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