ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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 前話で死んだ主人公の過去説明回です。
 ほとんど独自解釈で賛否両論が多いと思いますが、ご容赦ください。



第二十八話 天津悠姫

 西暦2578年――その年、世界は崩壊した。

 

 星辰体(アストラル)技術の争奪に端を発した第五次世界大戦は、全世界規模の空間震災と、地球環境の改変を引き起こした大破壊(カタストロフ)により幕を下ろす。

 

 有史以来最大となる空前絶後の災禍を前に、既存文明は一新された。

 

 だがその転換期の裏側である一人の少年の、永く不可思議な物語が始まっていた。

 

 

 

 

 

 西暦2005年――その年、一人の少年が忽然と姿を消した。

 

 飛行機という密閉空間で忽然と姿を消した少年。後に現代最大の怪奇事件として語られる謎の飛行機事故。少年―天津悠姫は一体どこへ消えてしまったのか。

 

 その原因こそが西暦2578年に発生した大破壊(カタストロフ)。時空間を引き裂いた大災害は、遥か数百年前の地球に僅かながら影響を及ぼし、()()その座標にいた天津悠姫を高位次元へ飲み込んでしまった。

 

 

 

 

 

 西暦2575年――その年、世界は震撼した。

 

 世界中が抱えるエネルギー不足。その問題を、極東の島国、日本が高位次元からのエネルギー抽出に成功。星辰体(アストラル)と名付けられた無尽蔵のエネルギーにより、世界中のエネルギー不足は解消されるかと思われたそのとき、日本は星辰体(アストラル)技術の独占を宣言。後の第五次世界大戦の引き金となった。

 

 その時代の裏側で、ある一人の少年が世界に現れた。その少年こそ天津悠姫。()()()()()()()()()()()()()()()、この時代において未知の結晶と言える少年だった。

 

 

 

 

 高度に文明が発展したこの時代、国民として国が認知していない人間は限りなく少ない。それは落第者(ドロップアウト)した人間や浮浪者も含んでおり、出生記録から一国民として認識されている。そして人命がより尊重されるようになったことで、先の落伍者や浮浪者でも、むやみに行方不明や処分を行うことができなくなっていた。

 

 増えていく人口とエネルギー不足。

 日本が高位次元から星辰体(アストラル)の抽出に成功することでエネルギー問題は解決したものの第五次世界大戦へと繋がり、加えて使えない人的資源(リソース)の活用に頭を悩ませるのは国家の宿命とも言えた。

 

 様々な対策が行われる中、星辰体(アストラル)と高位次元を利用した方法で、地球そのものを書き換えようと試みる計画があった。

 

 プロジェクト・テオゴニア。

 環境改竄装置《テオゴニア》を用いて地球を包み込むあらゆる穢れを浄化して、地球を新天地へ作り替えようという計画。

 

 選ばれた神々(支配者)によって統治された新世界。

 ()()の衣食住、思想、職業、そして寿命さえも()()に管理された、管理世界(オリュンポス)を生み出そう。

 

 とはいえそう簡単に実行できるものではない。事実、この計画には克服しなければならない幾つかの問題あった。

 一つはエネルギー。新たに発見されたエネルギー、星辰体(アストラル)を用いることを前提としたこの計画に必要なジェネレータは、最低でも次元間相転移式核融合炉に相当する。

 もう一つが高位次元と星辰体(アストラル)に関する情報が足りていないということ。いくら独占しているとはいえ、星辰体(アストラル)と高位次元は日本にとっても未知の領域。故に、星辰体(アストラル)が人体に与える影響、感応量による力の推移、それらが不明。

 だがそのための臨床実験を行おうと知れば、人権問題が壁となって立ちはだかる。

 

 そのため一向して進まず、計画凍結の危機すら迫ったその時に、一筋の光が差し込まれた。

 

 高位次元を生身で漂った為、星辰体(アストラル)と半ば同化している一人の少年。過去から渡ってきた故に戸籍などがあるはずもなく、法としては()()()()()()()ことになる男の子。

 それが天津悠姫。未来の事象によって過去から現れた少年だった。

 

 その身柄はすぐに取り抑えられた。

 それはまるで肉塊に群がる飢えた猛獣のようで、鎖で繋がれ幽閉され闇の深奥へ封じ込められた。

 

 彼が実験体(モルモット)なって行われた実験は数知れず、人命を無視した苛烈な実験がほとんど。何故なら悠姫が得てしまった()()()()が、悠姫を死から遠ざけていたから。

 

 心臓の鼓動が停止する。脳に送られる酸素が途絶え、この世界で唯一無二である悠姫はその生に幕を降ろす――――ことは無く、心臓は動き出し、脳は再び活性化し、悠姫は死の淵から掬い上げられた。

 

 手足が切断される。まるで達磨となった悠姫は、芋虫のように地べたを這い回り――――数分後には切断された手足は元に戻り、悠姫はその二本の足で立っていた。

 

 壁と壁に圧縮され血肉が潰される。目玉が飛び出て、内臓が口から逆流する。壁に染みる血肉(ミンチ)の華となり――――数分後には染みは消え、傷一つない悠姫がそこにいた。

 

 死んでは生き返る。傷つけばすぐに治る。

 ではどのように? 生き返る法則は? 斬殺撲殺刺殺銃殺轢殺、結果の違いは? 薬物の効力は? などなどと…

 

 悠姫は幼く、そして無力。故に一切の抵抗もできず実験体(モルモット)にされ続けた彼の心が、次第に砕けていくのは必然だった。そのためなのか、それとも別の理由あるからなのか。ある一時を越えたあたりで肉体の再生能力が機能しなくなった。

 

 そこで悠姫の扱いは主に三つに分離した。

 一つはこのまま殺してしまおう。未知の塊である悠姫の存在は、様々な面で爆弾となりえるのだと。

 もう一つはこのまま標本にしよう。悠姫の存在はまさしく神の奇跡。その御加護が失せたとしても、唯一無二であることに違いはないと。

 

 そして三つ目であり、結果として選ばれた天津悠姫(リソース)()()()()

 生体ユニット(エネルギー)として、環境改竄管制機(テオゴニア)に繋いでしまおう。

 仮にも高位次元と繋がっているのだから、エネルギー源(ジェネレータ)としてこれ以上の()()は存在しないと。

 

 そして肉は削がれ骨が断たれ、シリンダーに浮かぶ脳髄のみとなった、人だった()()

 これが、天津悠姫の成れの果て。新たな星の生み出すための生贄として捧げられた少年の末路だった。

 

 

 星辰体(アストラル)や高位次元への知見を得て、天津悠姫(ジェネレータ)も確保した。いざ高位次元と接続して新世界を――――となることはなく、プロジェクト・テオゴニアには残り一つの課題が残っていた。

 

 それはテオゴニアの制御機構。いくらエネルギーを確保しようとも、制御できなければ意味がない。当初はIAによる制御を行おうとしていたが、エネルギー源が生体ユニットになったことで感情による不安定が問題視されていた。それは奇しくも後の新時代に誕生する■■■と似たようで、即ち天津悠姫(ジェネレータ)との星辰的同調率が高い生体ユニットが必要だということでもあった。

 

 だが、まだ星辰体(アストラル)が発見されたばかり時代。天津悠姫だけでも奇跡の産物であり、易々と見つかるはずもないと思われていたが、またもや奇跡は訪れた。

 それはプロジェクトに参加していた研究員の女性。プロジェクトの研究員で唯一、天津悠姫を人として接していたからこそなのか、天津悠姫(ジェネレータ)との同調率がまるで親類ではと思うほどに高かった。そして、彼女も悠姫と同じように、制御用生体ユニットとしてテオゴニアに繋がれた。

 

 二つの生体ユニット、個体名称:カオス、ガイアの()()が揃ったことで、西暦2578年――プロジェクト・テオゴニアの要石、環境改竄装置《テオゴニア》が完成した。

 

 

 

 そして同年、世界の崩壊が始まった。別の星辰体(アストラル)研究チームが管理する次元間相転移式核融合炉の暴走によって引き起こされた大破壊(カタストロフ)。その大破壊(カタストロフ)による空間震災は容赦なくテオゴニアが存在する研究所を飲み込み、起動前のテオゴニアは後の第二太陽(アマテラス)として同化する、()()()()()

 

 ここである複数の要因が重なることで、このテオゴニアのみが別の動きをした。

 

 まず一つとして、天津悠姫という少年は西暦2005年から西暦2575年に、()()で高位次元を渡ってきていること。そのため、如何なるものよりも高位次元への親和性が高く、第二太陽(アマテラス)とは別の特異点として独立したこと。

 

 そしてもう一つ、天津悠姫の存在自体が、どの時間でも()()()()であるということ。

「未来(西暦2578年)の事象により過去(西暦2005年)から現在(西暦2575年)に飛ばされた」

 というのが天津悠姫の経歴。それはつまり現在過去未来すべての時間軸の影響を受け、なおかつこの大破壊(カタストロフ)に飲み込まれているときは過去と現在、二人の天津悠姫がいるということになる。そしてこの過去の悠姫は再び大破壊(カタストロフ)によって更に過去の天津悠姫と……という、即ちブートストラップパラドックスに嵌ってしまった。

 卵が先か鶏が先か、という方が的確だろうか、これらがバグとして蓄積された結果、全ての時間軸で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に変質した。

 

 その結果、天津悠姫(カオス)と実質的な融合していたガイアの二人は第二太陽(アマテラス)ではない、存在しながら存在していない始まりにして異端の特異点、原初神話(テオゴニア)として生まれ、誰にも観測されないまま高位次元に浮かび続けることになった。

 

 

 そして時は流れ新西暦1005年。軍事帝国アドラー、帝都の貧民窟(スラム)に一人の子供が流れ落ちた。

 その名前は天津悠姫。西暦2005年からここに飛ばされたという()()()()()少年だった。

 

 

 

 

 

 少年はとても特殊な存在だった。なぜなら少年が死亡した瞬間に、この時代に少年が現れた時まで()()()()()()()()()()ようになっているからだ。そしてまた同じ物語を歩むことになる。

 それはまるでゲームのようで、Aの道を進めば死亡(ゲームオーバー)。最初から始めて、再びAに進めば死亡(ゲームオーバー)、Bを進めば次の選択へ、といったよう。もちろんB、またはBより先で死亡すればまた初めから。

 

 死亡して道を覚え、死亡して道を覚え、それを繰り返していくうちに悠姫の心は同時に死んでいった。この地獄の終わりは分からない、だというのに自分は死を繰り返す、死んで戻る。

 そして死に戻り(リセット)が百を超えたあたりで少年の心は完全に力尽きた。初期地点に座り込んだまま動かない。更にはこれも選択の一つとして機能しており、やがて悠姫は大人数人に身包みを剥かれることになる。抵抗することもなく身包みを剥がされ、鬱憤晴らしなのか複数人からナニや暴行を受け、再び死に戻り(リセット)をするかというとき――

 

「そこまでだ、悪党ども」

 

 ――光明が差す、とはこのことなのだろうか。歳は悠姫とは離れていないだろう、金髪の少年がそこに立っていた。その姿に、既に死んでしまったはずの悠姫の心にある感情が満ちた。

 

(すごい、かっこいい…僕も、()()、あんなふうに)

 

 希望か、憧れか、少なくともこの天津悠姫の人生にとって最大の分岐点(ターニングポイント)になったことは間違いない。結局のところ、この悠姫の身体は既に限界であり、すぐに死に戻ることになる。だが、その瞳には強い信念が宿っていた。

 

 この時の少年こそ、クリストファー・ヴァルゼライド。正史において軍事帝国アドラー第三十七代総統閣下の地位に着き、旧暦の遺物と聖戦を約し逆襲撃に敗れる男でだった。

 

 そう、()()において。つまりこの世界は()()()()()()狂ってしまっていた。

 

 

 

 時は戻り、前を進むことを決めた悠姫。そこから数回の死に戻りでクリストファー・ヴァルゼライドの名前と、帝国軍へ入隊するという目的を知りその手助けをすることを決めた。というのも、決して彼の道に無関係ではないという言い知れぬ何かを感じたからでもある。

 

 そこからの悠姫の行動は合理的ではあるが、人としては常軌を逸していた。

 無限に人生を繰り返すというこの状況は、()()()()()()という点においては有効だと考え、人生一回分約数十年を一つの知識を集めることのみに当てることにしていた。十年ないし二十年を数回繰り返して医学を、歴史をなどなど。身なりを整えれば悠姫はかなりの容姿であるため、男娼になったこともあれば貴族に取り入ったこともあった。

 

 合計ですでに約千年分は体験しているであろう悠姫だが不思議と衰えはなく、やがてユキ・ロスリックと名前を変え、ヴァルゼライドともう一人の新しい親友、アルバート・ロデオンと出会う。三人はそれぞれユキ、クリス、アルと呼ぶほど仲が良くなり、そして三人は帝国軍に入隊した。

 

 入隊後、軍学校でも三人の関係は変わらず、知識という点においては明らかに群を抜くユキ、あらゆる不条理を乗り越え続けるヴァルゼライド、その異常な二人についていけるアルバートは様々な意味で目立った。軍学校卒業後に配備された東部戦線での新しい仲間、天才のギルベルト・ハーヴェスが加わったことで勢いはさらに増した。

 傭兵団「神凪の虹」の制圧、東部に深く根付いていた巨大麻薬組織「ニルヴァーナ」の壊滅、それに伴う前線の押し上げなど、少なくとも当時の権力層に目を付けられる程度にはすさまじかった。

 

 やがて東部戦線から帝都へ移され、所謂飼い殺し状態になったとき、ユキとヴァルゼライドはそれぞれ己の人生を変える者と出会うことになった。

 旧暦日本の遺物、ガイアとカグツチ。

 このガイアとの出会いが、ユキ・ロスリックを未来を決定づけた。

 

 ガイアによって語られたのはユキ・ロスリックとクリストファー・ヴァルゼライドを結んでいる因果律。

 

 『正史に存在しないユキ・ロスリックという異物が紛れていることで、クリストファー・ヴァルゼライドは道半ばで倒れることになる』

 

 ありえない、と思いながらも納得してしまった。知識を付けるために奮闘していた約千年間、ニュースなどにおいて()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。東部戦線の押し上げなど、何回聞いたことがある? 隣で駆け抜けたからこそ分かる異常性。ブレーキが壊れた暴走列車のように前へ進み続ける彼が、ユキ(自分)がいないだけでアドラーの玉座に座れないことなどあるだろうか? むしろそちらの方がありえない。

 

 ただし、不条理を覆すヴァルゼライドの覚醒(進軍)を因果という何かによって防がれているのならば最低限の納得は出来る。

 ではなぜユキとヴァルゼライドの因果律などが構築されているのか。それはガイアのみが知ることであり、それが語られることはなかった。しかし重要なのは過程ではなく、この現状。自分の存在が英雄の進軍を妨げるというならば是非もなし。この歪みを正して世界をあるべき形に戻してみせよう。

 

 そして計画されたのが星辰戦争(ギガントマキア)。二人を繋ぐ因果律を断ち切るために、クリストファー・ヴァルゼライドという英雄(ゼウス)がユキ・ロスリックという怪物(テュポエウス)を打ち倒す英雄譚。

 

 それも、ただユキが敗れるだけでは何の意味もない。文字通り、因果律を断ち切る何かが必要だった。そうして、幾度と星辰戦争(ギガントマキア)は繰り返された。数百数千と繰り返し、遂に完全な形で星辰戦争(ギガントマキア)は終わりを告げた。思えばこの時すでに、ヴァルゼライドは■■としての片鱗を見せていたのかもしれない。

 

 この無限に近しい死に戻りを二人の少女が見守っていたことも知らず、ユキ・ロスリック、天津悠姫は新西暦にて息を引き取った。

 




星辰戦争(ギガントマキア)
 ユキとガイアが計画した戦いであり、新西暦におけるユキの最終目的。
 「ヴァルゼライドを倒して、世界の歪みを正す」のではなく目的はその逆。
 「ヴァルゼライドに()()()()、世界の歪みを正す」ことが本来の目的。

 その目論見通りに、ユキが死亡した後の新西暦では逆襲撃による英雄の崩御、古都での超人大戦、聖教皇国での神殺しが起きている。
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