「――ァァぁあああ!」
「ハ、ハジメ!」
ユエの静止すら無視してハジメは鬼神の如く暴れまわる。無理もない。無能と馬鹿にされた自分を支え、隣で歩み続けてくれたユキの存在は、ハジメにとって希望であり英雄だったのだから。そのユキが殺された、助けられたはずなのに。自分はその時何をしていた? ミレディに妨害されて助けられなかったなどただの言い訳に過ぎないだろう。
「俺は、俺は、俺は!」
「隙だらけだよ!」
「ッ! ハジメ、ダメ!」
怒りによって視野が狭くなっていたためか、迫りくる浮遊ブロックと騎士ゴーレムに気づかなかった。迎撃しようとドンナーを向けるが弾が出ない。弾切れにも気付かなかったらしい。
「させ、ない!」
「ですぅ!」
ユエとシアによって迎撃されたが、
「これはどうか、な!」
「もらいました」
間髪入れずライセン姉妹による追撃が来た。システィの横薙ぎは弾けたがミレディのヒートナックルまでは避けられない。ハジメは二人を抱えて身を盾にし〝金剛〟で直撃に耐え抜いた。
「ガッ!」
「「ハジメ(さん)!」」
ユエの〝来翔〟によって墜落は避けられたが、さすがのハジメでも無傷で耐えることはできなかったようで、体の至る所から血を流して荒い息を吐いていた。とはいえ、さすがに冷静さを取り戻し確かな眼で二人を睨みつけた。
「お仲間一人やられて頭に血が上っちゃったのかなー? 冷静さを忘れるなんて、まだまだだね」
「姉様。さすがに不謹慎です」
「分かってるよシーちゃん。でも
ミレディはエヒトに犠牲無しで勝つのは不可能だと暗に仄めかす。事実、まだ静観している
ハジメはその覚悟ができていなかった。なまじ異常なステータスを持ち、既に世界最強と名乗っても不思議ではないほどに強いために、そのハジメが
「…そうだよな。
「ハジメ?」
「ハジメさん?」
ハジメはぼそりと何かを呟く。
覚悟ができていなかった? その通りだ。仲間を失う覚悟ができていなかったのだろう。だが、それが
「済まねえな、ユエ、シア。情けねえ姿を見せちまった。ああそうだ、諦めるわけにはいかねぇよな」
不滅の光をその眼に宿し、決意と共に立ち上がり叫んだ。
「いくぜ!
瞬間――
「どうだったかな、僕の人生は」
「どうだった、俺の人生は」
少年と男の声が、謎の空間に響き渡る。
一方では輝く星が昇り、暗き星が沈む。一方では赫き星が別の星々を呑みこみ、蒼き星は別の星々と銀河を巡る。そのような、世のすべてを混ざり合わせたかのようなこの空間を一言で表すならば、渾沌と言えるだろう。
そして、この空間を漂いながら声を受け取っているのはシスティ・ライセンに殺されたはずの男、ユキ・ロスリック。
「…最悪だろ。あんなもの見せるなんて趣味が悪い」
「はは、必要なことだったんだから許してよ」
「それに、俺たちの趣味ってことはお前の趣味でもあるんだぞ」
三人の会話は奇妙で、まるで同じ人間同士が会話をしているようだ。というのも当然、この三人は厳密には違うものの、同じ人間同士なのだから。
西暦2575年に現れたのは、正真正銘本物の天津悠姫。
新西暦1005年に現れたのは、
トータスに召喚されたのは、同じく
「冷静に考えれば不可解なことはいくつかある。なぜクリスなのか、なぜ死に戻りなんてしていたのか、そもそもなぜ未来に飛ばされたのか、とかな。一つくらいは偶然なんだろうが、明らかに意図的すぎる。まあ多分、」
「「「
その通り。クリストファー・ヴァルゼライドと繋がれていた因果関係、死に戻りによる無数の繰り返し、その他
ではユキはガイアを恨んでいるのか、憎んでいるのかといえば、別にそうではない。永く苦しみだらけの人生だったが無駄ではなかった。トータスへの召喚、旧友との再会、今まで戦い続けたその意味が、ここまで導いたのだから。その恩人に対し感謝こそして、憎むなどあるはずがない。
「さあ、
「
それに何より――
「…勝利とは■■こと。だが、今はただ
「ガイアは?」
「助ける」
「彼女が原因だとしても?」
「それならなおさらだろう。色々と聞き出さなきゃならないこともあるが、なにより俺は彼女と一緒にいたい。永いこと待たせてしまっているらしいしな。それに、」
『私たちのせいで辛い目にあわせてしまって、ごめんなさい』
―――セントラル地下でガイアに会った時、彼女は泣いていた。
彼女から見れば、天津悠姫という少年は偶然巻き込まれてしまった被害者に過ぎない。それなのに人類の為になどと実験台にされ、加えただの死より屈辱ともいえる人生の終わりを経験した。その一端を担ってしまった自分が憎い。そして何より、彼をそうさせてしまった世界が■■ない。だからせめて、彼を■■■■■■■■■と願った。
あの涙が偽りとは到底思えない。それがこの状況を作り出してしまったことへの罪悪からの涙なら、笑い飛ばしながら拭うのもユキの役目だろう。
「これは、
共に生き、共に死に、共に繰り返してきた二人。ならばこそ、ユキ・ロスリックの旅路はガイアの旅路と言っても過言ではない。永い旅路で見つけた
「「ならば――」」
これは歓喜の絶叫か、渾沌が産声を上げるかのように震える。事実、これは産声だった。
さあ、
「「
――■■■■■■■■■
「創生せよ、天に描いた極晃を―――我らは神代の流れ星」
「神祇降臨・顕星開始」
――突如、虚空に
システィは黒天を落としたその場所に目を向けた。そこにはただの黒い穴が浮かんでいるだけで…
「
瞬間、その黒い穴を覆いつくすように黒い結晶体が生えてきた。とてつもないエネルギーを放つそれは、まるで神代魔法そのものが結晶になったとでも云うような。
「
「
「
この場で唯一、この状況を正しく認識できるのはシスティのみ。■■■の眷属であるからこそ感じ取れた、
怪物は死んだ? 違う、これが真の怪物なのだと。
「
そして―――
「〝
―――原初の
結晶体―
ユキ・ロスリックとしてトータスに召喚されたときよりもさらに若返り、それこそハジメたちと同年代の容姿になっている。しかしその容姿とは裏腹に、その身体から滲み出ている気配は先ほどとは桁違いに膨れ上がっている。
太刀を片手に構えるその姿、顔を上げた悠姫のその眼に言い知れぬ虚無を感じ――
「――ッ、ァァァアアアッ!」
咄嗟のミレディの静止すら振り切り、全力でシスティは悠姫に槍を突き出しながら突撃する。一種の恐怖による火事場の馬鹿力の影響か、ゴーレムという身体でありながらこの突撃は過去最高速度だった。悠姫まで残り一メートル、対処するにはもう遅く直撃は免れないはずで、
「なッ――ッが!」
地面から突然現れた
砕かれた
二転三転と切り替わる目の前の出来事に動けないハジメたちに、
「ハジメ」
「あ、ああ」
「――ただいま」
「ッ、おせえぞ!」
悠姫は己の帰還を告げた。
容姿は変わってもその信用は変わっていない。むしろハジメは先ほどの無様さを恥じているくらいだ。奈落に落ちたときも、ユキはハジメの生存を疑っていなかったのに。今回の場合はユキが消滅する瞬間を見ていたのだから無理はないが。
むしろ驚いているのはミレディたちの方だ。死んだはずの人間が生き返った、いやそもそも生き返りなのか? ミレディの眼光であろう部分が点滅しているあたり、かなり動揺しているのだろう。
「――驚きました。どうやって、ありえないなどとは言いません。さすがは怪物、私たちの予想を覆してきますね」
そこに、突き飛ばされたシスティが戻ってきた。
一撃を貰ったからか又は時間がたったからかシスティは冷静になって状況を見据えている。システィとて死から蘇るのは想定外、だが想定外を起こすからこそ怪物だと。
「"怪物を打ち倒すのは、いつだって英雄でなければならない"、ですか。なるほど、英雄ではないと宣言している私たちに、
「それじゃあ、おとなしく負けを認めるか?」
「それこそありえないでしょう」
システィは再び槍を構え、悠姫も太刀を構える。
「ハジメ、ユエ、シア。
「姉様。
「ふッ」
「せぁ!」
状況は最初とそれほど変わっていはいなかった。太刀と双槍、当然手数はシスティが優勢ではあるものの、それを覆せるほどの実力が悠姫にはある。では悠姫が優勢なのかと言えば、特段そういうわけでもない。双槍と同時にシスティが重力魔法にて操作するブロックや複数のゴーレムが、時には死角から襲い掛かり、時には壁として表れて行く手を遮ったりと、決定的な攻撃には繋がらなかった。
とはいえこの状況が続くわけでもない。新しい身体の使い方も覚え、新生した悠姫の真価が発揮されはじめる。
「さて、見てわかると思うが俺は生まれたばかりでね。悪いが慣らしに付き合ってもらうぞ。
"
大気成分を化学反応にて燃焼起爆させ、周囲のゴーレムへ放たれた。小規模、しかし高出力の爆撃は、それなりの防御性能を持つはずのゴーレムを瞬時に鉄屑へ変えた。
「まだ残ってますよ、それにゴーレム程度、すぐ元に戻る!」
新たに投入されたゴーレムの一体に太刀を突き刺した悠姫に、復活した三体のゴーレムが迫る。その場で太刀を手放しゴーレムの攻撃を回避するが、そこに双槍を構えたシスティも迫る。太刀、つまり発動体を手放したということは、
「
"
それは通常の
悠姫は下がるシスティを追わず
「〝
――〝
そのまま
「なッ!ッぁあ!」
斬撃を飛ばしてくるとはさすがに予想外ではあった。ただ、この状況下で無意味な行動はしないだろうと悠姫の一挙一動を警戒していたことで、最初の三閃を槍で弾き、続く二閃を一拍の間に騎士ゴーレムを挟ませることで防いだ。
しかし、騎士ゴーレムの陰になってシスティから悠姫の姿が見えなくなったその一瞬、悠姫はシスティの懐に潜り込み、
「〝
――〝
「ガッ」
筋力強化された拳による重い一撃は初撃の一突きのようにシスティを殴り飛ばした。だが今度は同時に振りぬいた悠姫の左腕を斬り飛ばすことに成功していた。
即座に立ち上がり体勢を整えたシスティが見たのは、先の自爆技によりぼろぼろになり左腕を欠損した悠姫の姿。誰が見ても重症だと言うであろうほどの傷を負っている。
だが次の瞬間、悠姫の全身を
「ッ……なるほど…自動回復、いえ自動修復ですか。そのうえこの大峡谷でも尽きない魔力、さきほどの黒い穴。常に
「おおむね正解だ。その黒い穴は、この三次元と高位次元を繋ぐ可視化された門のようなもの。高位次元に漂う無垢のエネルギーに不純物を加えて三次元上に放出する役割がある。そうやって放出されるのが――」
「――魔力」
あるいは
例えるなら水が近いだろう。不純物の存在しない純水というのは味がなく、電気を通さない。そこにミネラルであったりビタミンなどが混ざることで、飲料水などに代わる。
これが
それが魔力が多い≒
「そして、これが俺の
星辰体結晶化能力・変性型。
「…ああ、過去の自分を殴り飛ばしたい気分です。先ほどの評価を全て撤回します。予想以上の強さだった? 言い残す? 何を馬鹿なことを」
なぜ上から目線で語ることができるのか。私は知っていたはずだ。光を信じる者の異常性を。
まさか死から蘇るなど想像のしようもないが、実際に目の当たりにして確信した。この男はどんな不条理も覆す、それを認めさせる力も、それを可能にする力もある。今がまさしくそうなのだ。
事実、システィは自身の
正確には、ユキ・ロスリックが死亡したときに一度解いているが、天津悠姫が現れたときに再び輝照し、それから一度も解いていない。悠姫がシスティの双槍を捌いているときも、システィが悠姫の腕を切り落としたときも、
なのにシスティのステータスが強化することはなく、また悠姫が弱体化している様子も感じられない。いや、遅々とだがシスティの
そこにどのような要因があるのか、システィと悠姫は理解していない。だが少なくとも、
さらに高位次元から供給される無尽蔵の魔力で大峡谷の性質を攻略している。
最早現在の悠姫は、不利という言葉とは完全に対極に位置している。
「…力業で状況を覆すなんて」
不利からの覚醒、敗死からの復活、そして不条理を無理やり押し返すその在り方はまさしく
「…とても野蛮、でも――」
―――
この男なら、私たちの悲願を成し遂げてくれるのではないか。いや、必ず成し遂げてくれるはずだ。なぜなら彼は、私たちの■■なのだから。
「ひとつ質問を。あなたは、英雄ですか?」
それは先とは立場の逆転した同じ質問。システィは、はっきりと違うと答えた。己は処刑者であり反逆者であると。対する悠姫の答えは、
「知らないさ。英雄かどうかを決めるのは周りだ。誰かにとっての英雄は、別の誰かにとっては怪物になる。それが現実だ。
だが、神の遊戯が希望を閉ざすのなら、俺は
『彼は全てを■■。だから彼は、みんなの■■になる。覚えておいて、システィ。誰かにとっての英雄は、別の誰かにとっては怪物になる。その逆もまたしかり。
だから、
(ああ、本当に、あなたは)
ガイアは、この状況を読んでいたのだろうか? ユキ・ロスリックの敗北と、天津悠姫の誕生を。
そして、私のこの想いを。
「さて、あっちは終わったみたいだ。こっちもそろそろ決着を付けよう、システィ・ライセン」
悠姫の視線の先には胸に杭を穿たれて倒れている
「…ええ、決着を付けましょう、天津悠姫」
彼に名前を呼ばれるだけで、なぜだか気分が高揚してくる。彼の名前を口にするだけで、なぜだか笑みが止まらない。憧れのヒーローに会えた男の子のような、白馬の王子様に恋をする乙女のような。
「
既に、システィは己の敗北を悟っていた。先ほどまでの強化値はユキ・ロスリックが消滅したときに同時に戻っている。ただ限界まで強化されたという事実は変わっておらず、その反動でシスティの
システィの
だが
そして―――
「〝
爆炎を連続噴射して急加速を繰り返すことで騎士ゴーレムの攻撃を掻い潜り、
「〝
振動操作によって超高周波ブレードと化した太刀が双槍ごとシスティの両腕を断ち切り、
「〝
雄々しく輝く殲滅光がシスティを消滅させた。
基準値:A
発動値:AAA
集束性:A
操縦性:AA
維持性:EX
拡散性:C
付属性:A
干渉性:AAA
星辰体結晶化能力・変性型
体内に精製した
欠点として、性質変化によって使えるのは新西暦の
なお、その欠点の穴を埋めるのがガイアの"星産み"であり、"殲嵐の齎す地平に、光は無く"は、それによって創られた
主人公覚醒復活回です。
神祖スペック + 光属性。
やべぇ化物キャラになってしまった…でもこれで敵側強化の言い訳は十分だよね!
と、半ば驚きながら開き直ってます。
もちろん天才眼鏡や邪竜おじさんにも張り切ってもらいます。
でも光属性キャラがありふれるのはさすがになぁ…