第一話 異世界トータス
光が治まると、私たちは知らない場所にいた。
最初に目に入ってきたのは巨大な壁画。後光を背負った金髪の中性的な人物が描かれていた。
周りを見渡してみると、白い大理石のようなものでできた建築物にいるみたいだった。
隣には、一緒に教室にいた雫ちゃんやハジメ君たちもいた。
すると、一人の老人が近づいてきた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。ご歓迎いたします」
勇者? 歓迎? 何のことなの?
私たちがそう混乱していると、私たちがいる場所がまた光りだした
「ご安心してください。エヒト様がもうお一人召喚なさるのです」
その言葉と共に光が溢れ光が収まった時、そこには一人の男の人が立っていた。
その人は私たちが何年も夢で見てきた、ユキ・ロスリックさんだった。
誰かに呼ばれた気がして、目を開けた。
そこは見たことない空間だった。
ここは何処だ? 俺は
そもそも、俺はあの時、確実に死んだはずだ。
「ようこそ、トータスへ。使徒様。ご歓迎いたします。」
すると一人の法衣を来た老人が俺に話しかけてきた。
よく見ると、17~18くらいの少年少女たちが周りにいた。
「.....何者だ? 貴様が俺やこの子たちをこの世界に呼び出したのか?」
ここが地球ではなく誰かが俺たちを召喚したことだけは、なんとなくだが気が付いた。
ずっと昔、
「いえ、あなた方を召喚したのはエヒト様です。
私はイシュタル・ランゴバルドと申します。あなた方達には我ら人間族を救っていただきたいのです」
落ち着いて話を聞くためにはテーブルがいくつも並んだ大広間に案内された。
全員が着席すると、カートを押しながらメイドが入ってきて飲み物を給仕してきた。
どうやら少年たちはメイドを見るのが初めてだったらしく、メイドたちを凝視している。
そんな少年たちを少女たちは冷ややかな目で見ていた。
俺は見慣れていることもあるが、それよりも二人の少女とメイドの一人がこっちを見ていることが気になって仕方がない。
というより、あのメイドに見覚えがある気がする。
全員に飲み物が行き渡ると、イシュタルが話を始める。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますので、まずは私の話を最後までお聞きくだされ」
そう言い、イシュタルは説明を始めた。
この世界はトータスと呼ばれ、人間族、魔人族、亜人族の三つの種族が存在し、人間族が北一帯、魔人族が南一帯を支配、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きている。
この内、人間族と魔人族は何百年も戦争を続けており、人間族が数、魔人族が個々の実力に優れ、勢力差は均衡していた。
だが、魔人族が魔物を使役するようになってから均衡が崩れ始め、このまま戦争が続けば人間族は滅びの危機を迎える。
魔物とは野生動物が魔力を取り入れ変質した存在らしく、強力な魔法も使える凶悪な害獣らしい。
この危機を回避するために、人間族が崇める聖教協会の唯一神にして、トータスの創世神エヒトが勇者を召喚たとのことだ。
「あなた方には是非ともその力を発揮し、邪悪なる魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
イシュタルは信託を聞いた時のことをを思い出しているのか、恍惚とした表情を浮かべている。
そのことに猛然と抗議するために、一人の女性が立ち上がった。
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争をさせようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く返して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
確か、畑山愛子先生だったか。理不尽な召喚理由に怒り立ち上がったのだが、イシュタルの言葉に生徒達も凍りついた。
「お気持ちはお察しします。しかし.....あなた方の期間は現状では不可能です。
先ほども言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えません。あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様のご意思次第ということですな」
この言葉に、生徒達はパニックになる。
(当然だろう、突然家に帰れなくなったんだから)
ユキは生徒達を横目に見ながら、状況の整理を始める。
(この子供たちは見たところ、武器など持ったことのないのだろう。せいぜいナイフや包丁程度。命の危機など感じたこともないのだろう。つまり、現状まともに戦えるのは俺一人だけか.....
それにあのイシュタルの表情、あれは
そう考えていると、バンッとテーブルをたたきつける音がした。
ユキがその方向を見ると、天ノ河光輝が立ち上がっていた。
「みんな、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味はない。......俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間族を救うために召喚されたなら、救済さえ終われば返してもらえるかもしれない。‥…イシュタルさん、どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主様の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね?ここに来てから妙に力が張っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救って見せる!!」
(.....何を言っているんだ彼は? 世界を救う? みんなを救う?
戦うということが、誰かを傷つけるということを理解していないのに、何を言っている?)
生徒達が次々と光輝の意見に賛同していく。
(この子たちもそうだ。戦うことをわかっていない。現実逃避したくなるのは理解できるが、人殺しをしろと言われていることをわかってない。正しく理解しているのは数人だけか)
そう思いながらユキは理解できているだろう数人に目を向ける。
「あなたも、それでいいですか? えっと、」
「ん? ああ、ユキ・ロスリックだ。そうだな...」
突然話しかけられ、注目を浴びるユキはイシュタルに話しかける
「なあ、ランゴバルド殿。つまり、俺に”悪”を滅ぼしてほしい。そういうことでいいんだな?」
「はい、その通りでございます」
「.....わかった。いまいち納得できないが、悪を滅ぼせというなら受け入れよう」
(まあ、なにが”悪”かどうかの判断は俺にさせてもらうがな)
結局、全員が戦争に参加することになってしまった。
ユキは正しく理解している一人、南雲ハジメに興味を持ち、それとは逆に天ノ河光輝、イシュタル・ランゴバルドの二名を要注意人物として認識するのだった。