第三十二話 ブルックの町、再び
「おや、今日は四人一緒かい?」
ライセン大迷宮攻略から約一週間、ブルックで準備を整えた四人はギルドにいた。ギルドに四人が共に顔を出すことはかなり少ない。悠姫、ハジメが一人で来るか、ユエ、シアが二人で来るのが大体だ。
「ああ、明日にでも町を出るつもりでね。貴方には色々と世話になったから挨拶をしに来た。ついでに、目的地関連で依頼があったら受けておくかとも思ってる」
「そうかい。最近賑やかになってきた分、寂しいね」
キャサリンの疑問に答えたのは悠姫だ。
世話になったというのは、ハジメが重力魔法と生成魔法を組み合わせたアーティファクトを創るために、ギルドの一室を無償で借りていたことだ。なお、悠姫、ユエ、シアの三人は町の郊外で
「勘弁してくれ。宿屋の娘は変態、服飾店も変態、ユエとシアに踏まれたい、悠姫に甘えたいとか言って町中で突然土下座してくる変態共、〝お姉さま〟とか〝お兄さま〟連呼しながら三人をストーキングする変態共、決闘を申し込んでくる阿呆共……碌なヤツいねぇじゃねぇか。出会った七割が変態で二割が阿呆とか……どうなってんだこの町」
「ハジメが鞭ばっかり与えるから、俺にその皺寄せが来てるんだよ」
「なら悠姫も鞭を打てばいいだろ」
「鞭に鞭は拷問ですらないからな」
現在、ブルックの町には四大派閥が出来ており、「ユエちゃんに踏まれ隊」「シアちゃんの奴隷になり隊」「お姉さまと姉妹になり隊」の三派閥が日々しのぎを削っているらしい。町中で「踏んで下さい!」「奴隷にしてください!」と絶叫しながら土下座してくるのはもはや恐怖である。そして二人と姉妹になるために、ハジメを排除しようとナイフ片手に突っ込むという過激行動に出る少女まで現れるのである。当然、ハジメに軽くあしらわれ町中に「次は〇します」の張り紙と共に晒される。
そして「お兄さまに優しくされ隊」。三派閥に加え、二人を手に入れようとハジメに決闘を申し込み、ユエに股〇を潰されたり(通称、股〇スマッシャー)ハジメに襤褸雑巾のようにされた者達(通称、決闘スマッシャー)が、アフターケアのように悠姫に優しくされて生まれた派閥である。ユエとハジメ(スマッシュ・ラヴァーズ、通称スマ・ラヴ)の被害者が増えれば増えるほど、派閥の人数が増えるという性質があるため、三派閥に危険視されている。
なお余談ではあるが、
「ま、まぁ、活気づいたのは事実さね」
「嫌な活気だな」
「それで、何処に行くんだい?」
「フューレンだ」
フューレンは中規模商業都市だ。次に向かう七大迷宮「グリューエン大火山」があるグリューエン大砂漠の途中に位置し、大火山に挑む前に寄っておこう、と考えていた。なお、大火山を攻略したら、そのまま大砂漠を抜けた先の海にある大迷宮、「メルジーネ海底遺跡」に挑む予定だった。
「ちょっと待ってね…お、ちょうどいいのがあったよ。商隊の護衛依頼があるよ。ちょうど二人分の空きがあるけど、受けるかい?」
キャサリンから依頼書を受け取って確認する。特に変な部分はない、普通の商隊護衛の依頼のようだ。中規模の商隊で、護衛も十五人程度を求めている。ユエとシア冒険者として登録していないので、悠姫とハジメの二人で丁度になる。
「連れの同伴は可能なのか?」
「問題ないよ。普通の冒険者でも荷物持ちを雇ってることもあるからね。あまり大勢だと苦情が出るかもしれないけど、ユエちゃんもシアちゃんも結構な実力者だしね。二人分の依頼料で四人の実力者を雇えるなら、基本は断らないさ」
「なるほど…俺はこれで良いと思うが、三人はどうだ?」
悠姫が三人に振り返りながら聞いた。悠姫としては、一般的な冒険者というのを知っておいて不都合はないと思っている。
「……急ぐ旅じゃない」
「そうですねぇ、たまには他の冒険者方と一緒というのもいいかもしれません。ベテラン冒険者のノウハウというのもあるかもしれませんよ?」
「それが俺達に役立つかは分からねえけどな。まあ急いでも仕方がないし、いいと思うぜ」
悠姫は三人の意見を聞いて、キャサリンに依頼を受けることを伝える。
「あいよ。先方には伝えとくから、明日の朝一で正面門に行っとくれ」
「どうも」
悠姫が依頼書を受け取ると、キャサリンはユエ、シア、ハジメへと目を向ける。
「あんた達も体に気をつけて元気でおやりよ? その子に泣かされたら何時でも家においで。あたしがぶん殴ってやるからね」
「……ん、お世話になった。ありがとう」
「はい、キャサリンさん。良くしてくれて有難うございました!」
「あんたも、こんないい子達泣かせんじゃないよ?」
「言われなくても承知してるよ……ありがとうな」
そして最後にキャサリンは悠姫に一枚の封筒を差し出した。
「これは?」
「あんた達、色々厄介なもの抱えてそうだからね。町の連中が迷惑かけた詫びのようなものだよ。他の町でギルドと揉めた時は、その手紙をお偉いさんに見せな。少しは役に立つかもしれないからね」
それは彼女が封筒一枚で、他ギルドのお偉いさん方に影響を及ぼせる程の人物である事を示唆している。
「おや、詮索はなしだよ? いい女に秘密はつきものさね」
「……わかったよ。有り難く貰っておく」
と、悠姫は封筒を懐に仕舞った。
「素直でよろしい! 色々あるだろうけど、死なないようにね」
それでギルドを出ようとすると、キャサリンは悠姫だけを呼び止めた。ハジメたち三人を先に行かせて、悠姫はキャサリンから話を聞いた。
「…あんた、「ケイオス」って知ってるかい?」
「ケイオス?……いや、知らないが」
ケイオス、別名、カオス。つまり、知る者からすれば悠姫のことではと思うが、キャサリンがそのことを知っているとは思えない。つまり悠姫とは無関係なことだということになるが…
「金ランク冒険者三人で構成されたパーティの名前なんだけどね。その三人が、ある人に仕えてるって言ってるんだよ。そのある人の特徴が、あんたによく似ててね」
…十中八九、アヤメ、シェリア、ディルグの三人だろう。三人が金ランク冒険者というのは知っていたが、、まさかこんなところで三人の事を聞くとは思っていなかった。とはいえ、それが自分だ、などいえるわけもない。
「他人の空似だろ。その金ランク冒険者が誰なのかは知らないけど、少なくともこんな若造に仕えるわけがないさ」
「…まぁ、そういうことにしておくさね」
何となくだがキャサリンも分かっているようで、二人で笑っている。
それを最後に、悠姫もギルドを後にしてハジメ達を合流した。
「お、おい…残りの四人って、「スマ・ラブ」と「ユウキちゃん」の事かよ!」
「マジか! 嬉しさと恐怖が一緒くたに襲ってくるんですけど!」
「な、生ユウキちゃん…生お兄さま…?……カフッ…」
「おいやべぇ! 生ユウキちゃんを見ただけで一人死んだぞ!」
「後光が眩しくて、目を開けられねぇ!!」
翌朝、依頼の集合場所に向かっただけでこれである。
なおユウキちゃんとは、ファッションショーで悠姫が女装した姿を見てファンになった者達からのファンネームである。それを初めて聞いた時に、悠姫の目が死んだのは言うまでもない。
「君達が最期の護衛かね?」
「…ああ。これが依頼書だ」
悠姫が懐から依頼書を取り出して商人に渡す。
「ふむ、確かに。私の名はモットー・ユンケル。この商隊のリーダーをしている。君達のランクは未だ青だそうだが、キャサリンさんからは大変優秀な冒険者と聞いている。道中の護衛は期待させてもらうよ」
「……もっと、ユンケル…? 大変なんだな…」
商人の名前を聞いたハジメは、ハジメの時代にある日本の栄養ドリンクを思い浮かべて、ハジメの眼に同情を帯びる。なぜ、そんな眼を向けられるのか分からないモットーは首を傾げながら、「まぁ、大変だが慣れたものだよ」と苦笑い気味に返した。同様に意味が分かっていない悠姫も、ハジメに聞いて納得していた。
「…まあ、期待は裏切らないと約束しよう。俺は悠姫、こっちはハジメ、ユエ、シアだ」
「それは頼もしい。…ところで…その兎人族。彼女を売る気はないかな? いい値段をつけさせてもらうが」
モットーがシアを値踏みするように見る。シアはその視線に呻きながらハジメの背に隠れた。予想通りの提案ではあるが、当然受けるわけがない。
「ほう、とても懐かれているようですな。中々、大事にされているようだ。ならば、私の方もそれなりに勉強させてもらいますが、いかがです?」
「ま、あんたはそれなりに優秀な商人のようだが……それなら答えはわかるだろ? 例え、どこぞの神が欲しても手放す気はない。力ずくで奪おうとするなら、力ずくで叩き潰す。理解してもらえたか?」
「……ええ。そこまで言われれば、引き下がるしかありません。ですが、その気になったときは是非、我がユンケル商会をご贔屓に願いますよ。それと、もう間も無く出発です。護衛の詳細は、そちらのリーダーとお願いします」
「俺が行こう。ハジメ達は準備していてくれ」
ハジメの宣言に護衛の冒険者達や商隊の女性陣がざわつくのを尻目に、悠姫は護衛隊リーダーと話をする。
そして、商隊はフューレンを目指して出発した。
一、二週で一話投稿できるように頑張ります。
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