ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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第三十三話 冒険者らしい仕事

 

 ブルックの町から中立商業都市フューレンまでは、およそ馬車で六日の道のり。

 そして現在は出発から三日、日程の半分を消化している。既に日は落ち、商隊や護衛の冒険者たちは各々に野営の準備を進めていた。

 その夕食時、冒険者達は護衛依頼とは思えないほどに賑わっていた。

 

「カッーー、うめぇ! ホント、美味いわぁ~、流石シアちゃん! もう、亜人とか関係ないから俺の嫁にならない?」

 

「ガツッガツッ、ゴクンッ、ぷはっ、てめぇ、何抜け駆けしてやがる! シアちゃんは俺の嫁!」

 

「はっ、お前みたいな小汚いブ男が何言ってんだ? 身の程を弁えろ。ところでシアちゃん、町についたら一緒に食事でもどう? もちろん、俺のおごりで」

 

「な、なら、俺はユエちゃんだ! ユエちゃん、俺と食事に!」

 

「ユエちゃんのスプーン……ハァハァ」

 

「な、生ユウキちゃん……グハッ!」

 

「や、やべぇ! 生ユウキちゃんを見てまた倒れたぞ!」

 

「あいつ何度も倒れてんな」

 

 事の発端はシアと悠姫が他冒険者達に、夕食をお裾分けするようになったことにある。

 

 このトータスでの商隊護衛などの依頼での夕食風景は、非常に静かでとても質素なのが一般的なのだ。冒険者達は食事時でも警戒しなければならないし、凝った食事を用意しようとすれば荷物が増える。結果として干し肉など長持ちする簡易的な食事しか出来なくなるのだが、悠姫達は例外だった。冷房石を用いたトータス版冷蔵庫と宝物庫のおかげで、食材も料理器具も一切の問題なく運ぶことができる。

 

 故に、この護衛依頼でも質素な食事をとる冒険者達の隣で、しっかりと調理した食事をとっていた。当然のように冒険者達は涎を垂らしながら血走った目で見るため、その様子に居心地が悪くなったシアがお裾分けを提案した、ということだった。

 

 悠姫は当初から、夕食を分ける代わりに冒険者としての話しを聞いていた。最も多かったのは、俺はベテラン冒険者として云々という武勇伝だったのは言うまでもない。

 

 最初はどこか遠慮しながら食べていた冒険者達だったが、だんだん慣れてきたのか調子に乗ってシアやユエを口説き始め、ハジメに締められるまでがもはやワンセットになっていた。

 

「ユ、ユウキちゃん……町に着いたr…」

 

「ごめんなさい」

 

 訂正。悠姫も口説かれていた、()冒険者に。どうやらガ○恋状態にまで墜としていたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに二日進んで五日目。その日、それは起こった。

「敵襲ですッ、数は百以上! 森の中から来ます!」

 

 最初に気が付いたのはシアだ。街道沿いの森の方へウサミミを向けピコピコと動かすと、緩んでいた表情を一気に引き締めて警告を発した。

 

 その警告に冒険者達に動揺が走る。いくら何でも数が多すぎる。

 そもそもこの街道はそこまで危険な道ではない。大陸一の商業都市へ繋がっている道なのだからそれは当然であり、魔物に襲われたとしても、二十や三十が限度だったはずだ。

 

「くそっ、百以上だと? 最近、襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか? ったく、街道の異変くらい調査しとけよ!」

 

 護衛隊リーダー、ガリティマは悪態を吐きながらも状況を分析している。

 護衛の数は十七人。百以上の魔物を相手しながら商隊を守るのは不可能だ。ならば護衛の大半で足止めして、商隊を急がせた方がいいか、と考え始めると…

 

「迷ってんなら、俺らがやろうか?」

 

「まあ、それが最善だろうな」

 

「…え?」

 

 ハジメと悠姫の提案にガリティマは思わず聞き返した。

 

「迷っているようなら、俺たちで全部相手するっていってんだよ」

 

「い、いや、それは確かに、このままでは商隊を無傷で守るのは難しいのだが……で、出来るのか? このあたりに出現する魔物はそれほど強いわけではないが、数が…」

 

「百やそこらなんて問題じゃない。ユエがすぐ終わらせる。頼めるか?」

 

「ん…」

 

 と、ハジメが隣に立っていたユエの肩に手を乗せると、彼女も問題ないとばかりに頷く。

 

「…わかった。初撃はユエちゃんに任せよう。仮に殲滅できなくても数を相当数減らしてくれるなら問題ない。我々の魔法で更に減らし、最後は直接叩けばいい。みな、わかったな!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 これが冒険者かと、悠姫は感心していた。

 ユエやシアを口説いたり、ハジメに締められて土下座したりと、あのふざけていた様子は微塵も無く、全員が緊張感のある引き締まった顔つきをしている。ベテラン冒険者という自称に偽りはないのだと思えた。決してデレデレしながら悠姫(自分)を口説こうとしていた様子に呆れていたわけではない。

 

 そして魔物の群れとの接触まで一分、悠姫達は商隊の馬車の上に待機していた。

 

「ユエ、念のため詠唱だけはしておけよ」

 

「…詠唱…詠唱?」

 

「それっぽい感じでいいんだ。面倒ごとが増えるよりはいい」

 

「…ん」

 

「接敵、十秒前です」

 

 ユエは森の方へ右手を掲げ――

 

「彼方より現れし希望(ヒカリ)、常闇を照らす導きとならん、古の牢獄を打ち砕き、障碍の尽くを退けん、最強の一片を担いしこの力、希望(ヒカリ)と共にありて、天すら墜とす(つるぎ)となれ、〝雷龍〟」

 

 ――詠唱の途中から立ち込めていた暗雲から、雷の龍が現れた。

 まるで咆哮のように響いた雷鳴と共に、雷龍が魔物の群れを飲み込んだ。

 雷龍が消えたとき、そこに魔物は塵一つ残っていなかった。

 

「……ん、少しやりすぎた」

 

「おいおい、あんな魔法、俺も知らないんだが……」

 

「ユエさんのオリジナルらしいですよ? ハジメさんから聞いた龍の話と例の魔法を組み合わせたものらしいです」

 

「俺がギルドにこもっている間にそんなこと……悠姫は出来るか、あれ?」

 

「同等威力の雷撃放射は可能かもしれないが……効果範囲は俺の方が劣るし、あの形は無理だな」 

 

「因みに詠唱は私達三人の出会いと未来を謳ってみた」

 

 ブイ、とピースしながらドヤ顔をするユエ。

 

 そんな話しをしていると、始めて見る、あまりにも強力な魔法を見て壊れていた冒険者達が一斉に騒ぎ立てていた。

 その中で正気に戻っていたガリティマが、盛大に溜息を吐きながら近づいてきた。

 

「はぁ、まずは礼を言う。ユエちゃんのおかげで被害ゼロで切り抜けることが出来た」

 

「今は仕事仲間だろう。礼なんて不要だ。な?」

 

「……ん、仕事しただけ」

 

「はは、そうか……で、だ。さっきのは何だ?」

 

 ガリティマが困惑を隠しきれずに尋ねる。

 

「……オリジナル」

 

「オ、オリジナル? 自分で創った魔法ってことか? 上級魔法、いや、もしかしたら最上級を?」

 

「……創ってない。複合魔法」

 

「複合魔法? だが、一体何と何を組み合わせればあんな……」

 

「……それは秘密」

 

「ッ……それは、まぁそうだろうな。切り札のタネを簡単に明かす冒険者などいないからな……」

 

 再び深い溜息と共に、追及を諦めたガリティマ。(自称)ベテラン冒険者なだけに暗黙のルールには敏感らしい。肩を竦めると、まだ壊れている仲間を正気に戻しにかかり、一行はフューレンへの歩みを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからというもの、特に何事もなく一行は、中立商業都市フューレンへ到着した。現在は都市内に入るための検問待ちの列に並んでいるところである。

 

 列が進むまで暇を持て余した四人は、馬車の上で各々に寛いでいた。ハジメはシアを侍らせながら、ユエに膝枕をしてもらい、悠姫は発動体(太刀)の手入れをしている。すると、なにやら話があるのか、モットーが四人の元にやってきた。

 

「まったく豪胆ですな。周囲の目が気になりませんかな?」

 

 周囲には、ハジメが美少女二人を侍らせているようにしか見えない。

 実際、フューレンの玄関口であるこの場所は人の眼も非常に多く、好奇と嫉妬、そしてユエとシアへの値踏みの視線に後が絶えない。

 

「まあ、煩わしいことは確かだが、仕方がねえ」

 

「フューレンに入れば更に増えると思いますが?」

 

「もう一度言うが、仕方がねえ。俺達にも目的がある」

 

「ふむ……やはり彼女を売r」

 

「――そこまでにしてほしいな、ユンケル商人」

 

 まるで蛇に睨まれたかのようにモットーが竦み上がる。

 声の方を見ると、モットーに視線も向けずに手入れを続ける悠姫がいる。

 

「商売根性逞しいのは良いことだが、相手は選んだ方がいい。

 奴隷が認められている世界だ。貴方が言っているのは割と一般的な発言かもしれないが、それでも奴隷という仕組みが嫌いな人間とて存在しているのだから」

 

「彼女は俺達の仲間だ。誰が何と言おうがそれが事実、仲間を金で売る塵屑に墜ちたつもりは欠片もない」

 

「……失礼しました…では、もう一つ…貴方のもつアーティファクト。やはり譲ってはもらえませんか? 商会に来ていただければ、公証人立会の下、一生遊んで暮らせるだけの金額をお支払いしますよ。貴方のアーティファクト、特に宝物庫は、商人にとっては喉から手が出るほど手に入れたいものですからな」

 

 喉から手が出るほどほしい、というその言葉は決して誇張でもなんでもない本心なのだろう。事実、シアを見ていた時よりも一層、鋭い目つきをしている。とはいえ、当然ながら渡すつもりなど微塵も無い。

 

「それも同様だ。一つたりとも譲る気はない」

 

「…はっきりと言わせていただくならば、一個人が持つには有用すぎます。いらぬ危険を呼び寄せるかもしれませんぞ?」

 

「それに、たとえ貴方達が持ったところで、身の丈に合わない力は破滅に繋がるだけだ。断れない商談吹っ掛けられて、担保として大切な()を奪われて、ついでに商会の利権(パイ)もむしゃむしゃと…」

 

「…なるほど…日夜襲撃や商敵に怯える日々が始まる、と…確かにそうかもしれませんが…」

 

 手を伸ばせば届きそうな位置に黄金が転がっているのだ。モットーとしても諦めきれないのも当然と言えるだろう。

 悠姫はその様子に目を伏せ、大きな溜息を吐いて言った。

 

「一度目は見逃した。最初の一歩だからな、間違いもあるだろう。二度目も見逃そう。お互いの距離感を測るためにも譲歩は必要だ。()()()()()()。俺達の害敵として認識しよう。で、貴方はどうする?」

 

「ッ…」

 

 暗に、悠姫は次はないと告げている。

 仮に手を出してきた他商人等がいた場合も同様、二度目までは見逃すということだ。だが、違法に手を出しているならば一度目で処断されることは言うまでもない。

 今回、道中で数回交渉を持ちかけているモットーが、まだ無事でいるのは、あくまで護衛依頼中であり、トータス基準で()()()商人だからに過ぎない。

 

「…確かに割に合わない取引でしたな。私も耄碌したものだ。欲に目がくらんで竜の尻を蹴り飛ばすとは…グランセニック商会の坊ちゃまなら、このような愚は犯さないでしょうな」

 

 竜の尻を蹴り飛ばす。それはトータスの諺の一つで、竜、正確には竜人族は全身を頑強な鱗に覆われており、一度眠ってしまえばよほどの事が無い限り起きない。ただし、唯一尻の辺りだけは鱗が無く、そこを攻撃すると烈火の如く怒り出すと言われている。それにちなみ、手を出さなければ無害な相手に下手に手を出して痛い目に遭う、と言う意味がある。

 

 それより悠姫は最後の、非常に深い性癖(カルマ)を抱えた男がいそうな名前の方が気になっていた。

 

「…グランセニック? その坊ちゃまって特殊性癖もってないか? ド○とか○リコンとか」

 

「…詳しいことは分かりませんが…まあ、一般的に好まれる女性が好みではない様ですが…お知り合いで?」

 

「いや、昔の知人かと思ってね…」

 

 ハジメが眉を顰めて悠姫を見ている。悠姫が知っている坊ちゃまを軽く説明すると、信じられないものを見るような眼でドン引きしていた。

 

「そう言えば、ユエ殿のあの魔法も竜を模したものでしたな。詫びと言ってはなんですが、あれが竜であるとは、あまり知られぬがいいでしょう。竜人族は、教会からはよく思われていませんからな。まぁ、竜というより蛇という方が近いので大丈夫でしょうが」

 

「そうなのか?」

 

「ええ、人にも魔物にも成れる半端者。なのに恐ろしく強い。そして、どの神も信仰していなかった不信心者。これだけあれば、教会の権威主義者には面白くない存在というのも頷けるでしょう」

 

「なるほどな。というより、随分な言い様だけど、不信心者と思われないか?」

 

「私が信仰しているのは神であって、権威をかさに着る()ではありません。人は()ですな」

 

「……いいね、根っからの商人だ。やっぱり貴方は、信用できる。どうか俺達の敵にならないでほしいな」

 

「肝に銘じておきます。

 …それでは、なにか入用なら、我がユンケル商会をご利用ください。ご期待に沿えるよう尽力いたします」

 

 そして、モットーは元の列へと戻っていった。

 最初より好奇と嫉妬、そして値踏みの視線は遥かに増えていた。十中八九、面倒ごとに巻き込まれる。そう確信して、悠姫とハジメは深い溜息を吐いた。

 

 

 




グランセニック云々は深く考えてないです。
多分出てこないです。
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