ありふれない怪物は、やがて英雄へ   作:シロマダラ

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第三十四話 中立商業都市フューレンにて

 

 中立商業都市フューレン

 

 大陸一の規模を誇る商業都市。様々な業種が、日々しのぎを削っており、成功を収め巨額の富を得た者、逆に無一文になってフューレンを後にする者も少なくない。観光に訪れる者も含めれば、人の出入りの激しさも大陸一と言えるだろう。

 

 フューレンはおよそ、都市の行政や手続関連の施設が集まっている中央区、娯楽施設が集まった観光区、武器防具はもちろん家具類などを生産、直販している職人区、あらゆる業種の店が並ぶ商業区の四つの区画に分かれている。

 

 商隊と分かれてフューレンに入った悠姫達は、中央区にある冒険者ギルドに依頼完了の報告をし、ギルドに併設されているカフェテリアで軽食を取りながら、そんな話を案内人であるリシーという女性から聞いていた。

 

「――ですので、一先ず宿を取るのでしたら観光区をお勧めしますわ。中央区にも宿はありますが、働いている方向けの最低限の宿になっていますので、サービスは観光区とは比べ物になりません」

 

「なるほど、なら素直に観光区の宿にしとくか。どこがオススメなんだ?」

 

「お客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから」

 

「それもそうか。なら、飯が美味くて、あと風呂があれば文句はない。立地とかは考慮しなくていい。あと、そうだな…」

 

「それなら、責任の所在が明確な場所がいい。なにか揉め事に巻き込まれたときに、完全な被害者なのに責任を吹っ掛けられても困るからな」

 

 ハジメが言った最初の二つは良くある要望なので、リシーは条件に合う宿をリストアップしていくが、悠姫の言った責任の所在というところで「?」と首を傾げた。

 

「そうそう揉め事なんて起きないと思いますが…」

 

「普通ならそうかもしれないが、俺達は何かと目立つからな。観光区となればハメを外す奴は多いだろうし、商売根性逞しい奴とか、金に物を言わせて、ダメなら力や権力で、なんて奴も少なくないだろうからな」

 

「な、なるほど…それでしたら、警備が厳重な宿はいかがですか? そういうことに気を遣う方も多いですし、いい宿をご紹介できますが…」

 

「それでもいいけど、結局は警備員も人間だ、理性が敗けることだってある。それならこっちから物理的に沈めた方が早い」

 

「ぶ、物理的…な、なるほど…それで責任の所在を…」

 

 ようやく意図を理解したリシー、そこにユエとシアが、混浴貸切やら大きいベッドやら要望を重ねていく。二人の追加要望の意図も理解して顔を赤くするが、さすが案内人をしているだけはあり、すぐさま条件に合う宿を頭に次々とリストアップしていった。

 

 周囲の男達から嫉妬の視線や注目を受ける四人(悠姫は半ば濡れ衣)だが、その中により一層強い視線を感じた。特にユエとシアに対しては、ねっとりとした粘着質な視線だった。アイコンタクトをとった悠姫とハジメがその方向へ目を向けると、そこにいたのは護衛らしき男を連れた肥え太った男だった。

 

 無駄な贅肉によって軽く三桁はいくであろう体格に、脂ぎった顔、豚鼻とベットリとした金髪。遠目でもわかるいい服から、それなりに高い身分なのだろうと推察できる。そのブタ男が、ユエとシアを濁った眼で見ていた。早速、面倒ごとが舞い込んだ。

 

 悠姫とハジメが別の方を見ていることに気が付いたリシーが同じ方を見て、「げッ!」と営業スマイルも忘れている。

 

 ブタ男は重たい体をゆっさりゆっさりと揺らしながら真っ直ぐ悠姫達に向かってくる。そして悠姫達のテーブルのすぐ傍までやって来ると、ニヤついた目でユエとシアをジロジロと見やり、シアの首輪を見て不快そうに目を細めた。そして、今まで一度も目を向けなかった悠姫とハジメに、さも今気がついたような素振りを見せると、これまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をしてくる。

 

「お、おい、ガキ共。ひゃ、百万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの金髪はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

 

 そう言ってブタ男がユエに手を伸ばしてくるが、その瞬間、ハジメから尋常ではない殺気が周囲に向かって放たれる。周囲のテーブルにいた者達は顔を青ざめさせて椅子からひっくり返り、後退りしながら必死にハジメから距離をとり始めた。

 

 ブタ男に至っては「ひぃ!?」と情けない悲鳴を上げると尻餅をつき、後退ることも出来ずにその場で股間を濡らし始めた。

 

「行くぞ。場所を変えよう。ほら、あんたもだ」

「…え、え?」

 

 ハジメが三人とリシーに声をかけて場所変える為に席を立つ。警告を含めて周囲へと放たれたハジメの〝威圧〟の対象から、ピンポイントにリシーだけを外していた。ハジメが〝威圧〟を解いて()()がギルドを出ようとしたところで、ブタ男がキィキィ騒ぎ出した。

 

「そ、そうだ、レガニド! そのクソガキを殺せ! わ、私を殺そうとしたのだ! 嬲り殺せぇ!」

 

「お、おい、レガニドって“黒”のレガニドか?」

 

「“暴風”のレガニド!? 何で、あんなヤツの護衛なんて……」

 

「金払じゃないか?“金好き”のレガニドだろ?」

 

 そのレガニドと呼ばれた男だが、雇い主や周囲の声に一切反応せず、冷や汗を流しながら腰の長剣に手をかけていた。その視線の先には、席から立ちあがっただけでまだ一歩も動いていない悠姫がいた。悠姫もまた、視界の中心にレガニドを捉えていた。 

 

(な、なんだこのガキ…あの眼帯のガキも大概だが、こいつの方がやべえ感じがする…)

 

「…抜かないのか?」

 

「ッアア!」

 

 まるで感情が籠っていない悠姫の問い掛け(挑発)に、緊張感に耐えられなかったレガニドが咆哮しながら長剣を上段に構えた。離れたところから見ていたリシーや周囲から悲鳴が上がる。

 

 すると、ユエが放った風刃が長剣を弾き飛ばし、一気に懐に潜り込んだシアの回し蹴りがレガニドに直撃し、周りのテーブルやイスを巻き込みながら吹き飛んだ。

 

「助けてくれてありがとう」

 

「…よく言う」

 

「私とユエさんがこうすること知ってたんですか?」

 

「いや? ただユエなら、守られるだけじゃないと周知させる、とか言いそうかなって」

 

「…むう…嵌められた」

 

「ま、まあ。これで手を出そうとする人が減ったと思えばいいじゃないですか」

 

 三人がハッハッハと笑っていると、周りがざわめき始めた。ハジメがツカツカと歩き出したのだ。ギルド内にいる全員の視線がハジメに集まる。ハジメの行き先は……ブタ男のもとだった。

 

「ひぃ! く、来るなぁ! わ、私を誰だと思っている! プーム・ミンだぞ! ミン男爵家に逆らう気かぁ!」

 

「……地球の全ゆるキャラファンに謝れ、ブタが」

 

 ハジメは、ブタ男の名前に地球の代表的なゆるキャラを思い浮かべ、盛大に顔をしかめると、尻餅を付いたままのブタ男の顔面を勢いよく踏みつけ――ようとしたところで、なにか考えて静かに足を降ろし、さっきの数段強い〝威圧〟をぶつけた。

 

「……ぴぎゅ」

 

 ブタ男は可愛げの欠片もない悲鳴を出しながら、白目を向いて意識を失っていた。

 

 再びギルドに静寂がやってきた。悠姫は一人怯えた表情をするリシーを見て、これ以上案内を頼もうとするのは酷だろうと思い、さてどうしようかと考えていた。

 そこに、ギルド職員が駆けつけて話しかけてきた。

 

「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」

 

 なお、この時点で事が是非がどうなっているのかは火を見るより明らかではあった。権力を盾に女性二人を奪おうとした男爵。更には、ただ立っているだけの青ランク冒険者に対して、長剣を振り下ろそうとしていた黒ランク冒険者。それらは多くの人の眼に映っており、()()()()によって意識は刈り取られているとはいえ、もはや弁明の余地は無かった。

 

 この職員もそれは把握しているのだが、ギルド内で起きた問題は、当事者双方の言い分を聞いて公正に判断する、というのが規則であり、悠姫とハジメも冒険者故に従ってもらわないと困るというのがギルド側の言い分。それを咄嗟で思い出したからこそ、ハジメは踏み付けから〝威圧〟に変えていた。

 

 これ以上に揉めても仕方がないかと、素直に事情聴取に従おうとしたところで、鋭い声が響いた。

 

「何をしているのです? これは一体、何事ですか?」

 

 そちらを見てみれば、メガネを掛けた理知的な雰囲気を漂わせる細身の男性が厳しい目で悠姫達を見ていた。

 

「ドット秘書長! いいところに! これはですね……」

 

 職員達がこれ幸いとドット秘書長と呼ばれた男のもとへ群がる。ドットは、職員達から話を聞き終わると、悠姫達に鋭い視線を向けた。

 

 どうやら遅かったようで、余計に面倒な事が起こりそうだった。

 

 

 

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