愛子が散々吠えた後、他の客の目があるからということで、悠姫達はVIP席の方へ案内された。そこで、愛子や園部優花達生徒から怒涛の質問を投げかけられるが、神殿騎士達もいる手前、解放者や神の遊戯云々など言えるはずもない。そもそも、愛子達にそれを教える必要も今はない。その結果、
Q、橋から落ちた後、どうしたのか?
A、二人して生き残ることができたので、脱出する手段を探した結果、ハジメが左目と左腕を失いながらも、脱出することができた。
Q、なぜ白髪なのか
A、魔物の肉を食べたことによる、激痛とストレスの結果?
Q、ユキは何故若返っているのか
A、色々あった。だが、
(肉体を再構成するにあたって、地球召喚組との邂逅によって生じていた
Q、なぜ、直ぐに戻らなかったのか
A、オルクス大迷宮からの脱出した際に、他にやるべきことができた
Q、やるべきこととは?
A、言えない
Q、戻ってこないのか
A、戻るつもりはない
「おいお前! 愛子が聞いているのだ、真面目に答えんか!」
「大真面目だとも。そもそも、戻ってこないのか? 逆になんで戻ってくると思ってる?」
望む答えが返ってこなかったことで愛子が気を落とす様子をみて、デビッドが怒声を上げる。だが、悠姫達としては十分大真面目に答えたつもりだったし、戻ってこないのか、という質問に対し、悠姫はそのことを逆に愛子に聞き返す。
「なんでって…南雲君たちは仲間で…」
「俺達はその仲間に裏切られて、殺されかけて、今こうしてる。まさか、自分達を殺そうとした
「そんなこと思ってません!」
「そう言ってるのと同じだよ。…あの後に何があったか、当ててやろうか? 天之河は檜山を赦した。仲間だからとか、混乱してたとか、そういう言い訳を立てて、
「それは…合って、ます」
悠姫の言っている理屈は至極単純。
裏切り者は信用できない。その裏切りをよく分からない理屈で正当化しようとする者も信用できない。そして、そいつ等に付いていく者達も信用できない。そもそもだ、子供でも罪だと分かる
「呆れて何も言えん。罪を犯したならば裁かねばならん。それは何時の時代、どの国、どの世界だろうと変わらぬ真実だろうが。“勇者”の仲間だから? 混乱してた? だから何だよ。それに、そういう間違いを正すのが
悠姫の声に徐々に怒りが含まれていき、ハジメはその通りだと首を大きく縦に振っている。その様子に愛子達は委縮してしまう。それどころか、愛子は言外に教師失格だと言われてるようにも感じていた。そこでふと頭によぎり、悠姫はもしかしてと、愛子達にあることを聞いた。
「…まさかと思って聞くが、天之河達はまだオルクス大迷宮にいるのか?」
「え? は、はい。そう聞いてます。八重樫さんと白崎さんは、キリガクレさん達と冒険者として依頼を受けてたりしますけど…」
それを聞いた悠姫とハジメは絶句して、更に深い溜息を吐いた。
「…はぁ、呆れた。“勇者”なのに、まだ
「貴様! 無礼だろうが!」
「ちょっと、デビッドさん! ロスリックさん? 天津君? えっと、そんなことっていうのは…」
「天津でいい。まだオルクス大迷宮で
悠姫の言葉に、愛子達は頭に「?」と疑問を浮かべた。訓練するのは当然ではないのかと、全員が考えるが、
「皆の為に、誰かの為に、仲間の為に、世界の為に。ああ素晴らしいとも、まさしく勇者の言葉だ。で? 言うだけ言って、今は何やってる? 訓練?」
「訓練すると誰かの為になるのかよ? オルクス大迷宮を攻略すれば、世界は救われるのかよ? トータスの人間の十数倍のステータスを持っていて、最強の
そこでようやく、悠姫が何を言いたいのかが分かったようで、愛子達はハッとした表情で驚いていた。
「敵は魔人族で、悪なんだろ? その敵に立ち向かわず、訓練で迷宮に籠ってる奴の、何処が“勇ましい者”なんだよ。いい加減に気づけよ、矛盾してるだろ」
つまるところ、一体いつまで
さらに言えば、一方的に蹂躙できる魔物を相手に訓練したところで、大した経験にもなりはしないだろう。つまり、訓練という側面で見ても現状は非効率的としか言いようがない。もっとも、知っている範囲で強い魔物が、オルクス大迷宮にしかいないということもあるのだろうが。
改めて悠姫は深い溜息を吐いた。さっきから溜息しか吐いていない気がする、と思いながら、話は終わりだと食事を再開した。そして四人ともニルシッシルを食べ終えると席を立った。
「一応言っておくが、俺はあんたらのことはどうでもいいと思ってる。だからあの日のことも、これまでの事も、もう興味はないし恨んでもいない。ここには仕事に来ただけで、終わればまた旅に出る」
「…やっぱり、戻るつもりは」
「ない。それに俺は、俺達は、
つまり、このパーティの核となっている悠姫を説得できればどうにかできると思い、期待を込めた目で愛子達は悠姫を見る。
「……まあ、トータスに召喚されたのも何かの縁だ」
「?! それなら!」
「でも、俺の考えはさっき言った通りだ。それに、やるべきことができたとも言っている。俺達は俺達で行動する」
そしてそのまま四人は階段を上って、各自の部屋に戻っていった。地球召喚組の心には皆一様に悲しみと失意が沈み、それが晴れることはなく、その日はそのまま解散となった。
その日の深夜。皆が寝静まった頃、愛子は眠れずにいた。無論、夕食時の事だ。亡くなった筈の南雲ハジメと
そのままぼんやりと暖炉の火を見つめながら、いろいろと考えているのか百面相を浮かべていると、ふいに扉がコンコンと静かにノックされる。
「はッ、はい?!」
「先生、起きてるか?」
その音にハッとした愛子が声を上げると、ハジメの声が聞こえてくる。
「な、南雲君? こんな夜更けに一体…」
「ああ、悠姫も一緒だ。さすがに騎士達がいる手前、話せないことがあってな。とりあえず、開けてくれないか? 最悪、このままでも構わないが」
「は、はい。ちょっと、待ってください」
一瞬、夜分に女性の部屋を男が訪れるという意味を考え、顔を真っ赤にするが、すぐにその考えを消してドアに向かい、鍵を開けてドアを開ける。そこにはハジメと悠姫が立っていた。
「悪いな」
「夜分遅くに失礼」
「ど、どうぞ。…一体どうしたんですか? それに、こんな時間に女性の部屋を訪れるのは感心しませんよ?」
顔が赤くなっているままだったので、完全に虚勢を張っているのは明らかだったが、二人は何も言わずに中に入ってドアを閉めた。
「まあ、それはそうなんだがな。やるべきことについて話しておこうと思ってな」
「え、でも、二人は私達のことは…」
事情を話してくれるということに、もしかしたら戻ってきてくれるのでは、と期待を寄せるが、
「悪いけど、戻るつもりがないのは本当だ。でも、もう無関係だからはいさようなら、と言って切り捨てるほど、不義理を働くつもりもない。貴方に話すのは、あくまで一番冷静に受け止めてくれる相手だと判断したからだ。この話を聞いてどうするのかは、貴方に任せる」
そして、近くの席に座ると、ハジメと悠姫は話し始めた。
狂った神とその神の遊戯のこと。天津悠姫という人間のこと。かつて解放者と呼ばれた者達のこと。その解放者の中に悠姫のパートナーがいて、今も神山に眠っていること。
荒唐無稽としか言いようのないその話を聞き、愛子は再び呆然としてしまう。
「ふ、二人は、もしかして、その狂った神をどうにかしようと……旅を?」
「俺達はさっき言った通り、悠姫に着いていく。その先で狂った神が立ちはだかるなら、その狂った神もぶっ倒す」
「俺はガイアを迎えに行って神を、エヒトを倒す。それが託されたものとしての役目だし、地球に帰るための最善の近道だ」
つまり、戦うつもりなのだ、この二人は。“神”などという、人知の及ばぬ存在に。そして“勝つ”つもりなのだ。そう理解して、ようやく愛子は細々と絞り出した。
「…わ、私に、なにか、できることは、ないですか?」
畑山愛子は大人であり、教師である。そして愛子は“生徒の味方でいる”ことが最も教師として重要だと考えている。たとえハジメの姿と性格が変わってしまっても、愛子にとっては味方でなければならない生徒なのだ。そして悠姫も同じ。ハジメ達と同い年であり、ならば大人として擁護すべき子供なのだ。
しかし、今の自分では力不足であるということは俄然明確、でも指を咥えて待っているのは違うだろうと。
「……今はない。だけどいつか、貴方の力が必要になる。それまで待っててほしい」
「…わかり、ました」
そして、話すことは話したと二人は立ち上がり、部屋を出ようとドアへと向かった。
「――八重樫さんと白崎さんはッ!」
愛子が出した二人の名前に、悠姫は振り返らずに足を止めた。
「二人は、天津君と南雲君が生きていると信じて、強くなろうと努力してます。だから――」
「時期が来たら迎えに行く」
そして、悠姫は肩越しに顔だけ振り返った。慈愛、そして感謝、愛子はその目に、そんな想いを感じた。
「
「だからいつか改めて迎えに行く。その時に、この想いを告げるさ」
それだけ言って、今度こそ悠姫とハジメは部屋を出ていった。
部屋に残った愛子は暫く二人が出ていったドアを見ていたが、
「……よしッ!」
やるべきことは多い。まずは失踪した清水幸利の捜索、次いで農地改革。
そして、たった今知った世界の真実と、それに立ち向かう二人。今できることはなくても、いつか自分の力が必要になると言った。ならばその